Kagaku to Seibutsu 54(12): 915-919 (2016)
セミナー室
遺伝子組換えカイコが開くシルク利用の最前線
Published: 2016-11-20
© 2016 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2016 公益社団法人日本農芸化学会
カイコは,カイコガという鱗翅目昆虫の一種でミツバチと同様にヒトが古くから利用してきた昆虫である.特にカイコは高級な繊維であるシルクを生産する昆虫として,長い時間をかけてヒトが利用しやすいように改良が続けられてきた.その結果,カイコが作るシルクはその野生種であるクワコのシルクとは比べ物にならないほど長く立派な繊維になった.また,改良の過程でカイコは歩き回って餌を探すことをせず,成虫も飛ぶことができない昆虫になった.ヒトが世話をしない限り生きていけない生物で,一般に家畜と言われるウシやブタ,ニワトリ以上に家畜化された生物と言える.
シルクは,カイコがサナギになる際に作る繭からとられる繊維で,ほとんどタンパク質だけでできた1,000~1,500 mほどの1本の長い糸である.通常,私たちはこの糸を10~20本束ねたものを生糸として使っている.カイコの幼虫は,卵から孵化してから3週間かけて成長して繭を作るが,それまでに体重を孵化時のおよそ10,000倍の3 g程度に増やす.そして体重の10%に達する300 mgほどのシルクを繭として作り出す.これをヒトに例えると,3,000 gで生まれた新生児が3週間後に体重が30 tになり,3 tの糸を吐き出すことに相当する.カイコがいかに効率よく成長し,短期間で大量のシルクを作り出すことができるかわかる.また,カイコは極めて扱いやすく,きちんと管理することで一度に数万頭規模で飼育が可能である.
ヒトはこの,カイコがもつ素晴らしい機能を「シルクの生産」という形で利用してきたが,2000年にカイコの遺伝子組換え技術が確立(1)1) T. Tamura, C. Thibert, C. Royer, T. Kanda, E. Abraham, M. Kamba, N. Komoto, J. L. Thomas, B. Mauchamp, G. Chavancy et al.: Nat. Biotechnol., 18, 81 (2000).されたことで,「機能性や力学物性を改変したシルクを生産」し,またカイコのタンパク質生産能力を「有用タンパク質の生産」に利用できるようになった.
カイコの遺伝子組換えには,piggyBacというトランスポゾンを利用して,目的とする遺伝子をカイコのゲノムDNAに導入する.実際の作業については,詳しく解説した記事がいくつかあるので(2~4)2) 小島 桂:蚕糸・昆虫バイオテック,76, 15 (2007).4) K. Kojima, Y. Kuwana, H. Sezutsu, I. Kobayashi, K. Uchino, T. Tamura & Y. Tamada: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2943 (2007).興味のある方は参照いただきたい.では,作り出された遺伝子組換えカイコは,どのようなことに利用できるのだろうか? いくつかの例で紹介したい.
まず,純粋に科学的な観点からカイコの遺伝子の機能解析に使われている.たとえば,カイコの成虫の複眼は黒色をしているが,その色素を作るための遺伝子がすべて知られているわけではない.そこで,候補となる遺伝子について遺伝子組換えを使ってその機能を抑えたり,逆に増強したりして対象とした遺伝子が本当に目的の機能をもつものか調べることができる.このようにして,w1(5)5) G.-X. Quan, I. Kobayashi, K. Kojima, K. Uchino, T. Kanda, H. Sezutsu, T. Shimada & T. Tamura: Insect Sci., 14, 85 (2007).,w3(6)6) G. X. Quan, T. Kanda & T. Tamura: Insect Mol. Biol., 11, 217 (2002).,re(7)7) M. Osanai-Futahashi, K. Tatematsu, K. Yamamoto, J. Narukawa, K. Uchino, T. Kayukawa, T. Shinoda, Y. Banno, T. Tamura & H. Sezutsu: J. Biol. Chem., 287, 17706 (2012).といった遺伝子が同定されている.また,カイコの生理機能を改変する試みがある.たとえば,養蚕業に重大な被害をもたらす核多角体病というウイルス病があるが,このウイルスが体内で増えにくくする遺伝子を導入して病気に抵抗性を示すカイコの作出が行われている(8)8) R. Isobe, K. Kojima, T. Matsuyama, G. X. Quan, T. Kanda, T. Tamura, K. Sahara, S. I. Asano & H. Bando: Arch. Virol., 149, 1931 (2004)..
ほかにも,先に述べたようにカイコの高いシルク生産能力を利用して,有用なタンパク質をカイコの繭に作らせ,回収する試みが近年盛んに行われている.たとえば,サイトカインの一種であるbFGF(9)9) R. Hino, M. Tomita & K. Yoshizato: Biomaterials, 27, 5715 (2006).や,ヒトのコラーゲン(10)10) M. Tomita, H. Munetsuna, T. Sato, T. Adachi, R. Hino, M. Hayashi, K. Shimizu, N. Nakamura, T. Tamura & K. Yoshizato: Nat. Biotechnol., 21, 52 (2003).,抗体(11)11) M. Iizuka, S. Ogawa, A. Takeuchi, S. Nakakita, Y. Kubo, Y. Miyawaki, J. Hirabayashi & M. Tomita: FEBS J., 276, 5806 (2009).を繭中に発現する遺伝子組換えカイコが作出され,これらのタンパク質が繭から抽出され利用されている.繭から抽出されたこれらのタンパク質は,比較的容易に高純度に精製できることや,エンドトキシンの混入が少ないこと,また,狂牛病の発生で注目されるようになった動物由来の成分(血漿など)が含まれないことなどから美容や医療の分野から注目を集めている.
遺伝子組換えカイコの利用法として,もう一つ大きな分野がシルクそのものの改変である.私たちのグループでは,シルクに外来タンパク質を発現させてシルクそのものの機能性や強さを変化させて利用しようという試みを続けてきた.この取り組みのなかで生まれた成果が,蛍光シルクやクモ糸シルクなどである.次項では,これらの改変シルクについて紹介したい.
蛍光シルクやクモ糸シルクの作出は,新しいシルク素材を作り出したいという願いから始まった.シルクは古くから和服や肌着の素材として利用されていることからもわかるように高級繊維の代表である.しかしその一方で,洗濯がしにくい,毛羽立つ,黄ばむと言った欠点も少なからず存在する.遺伝子組換えカイコの技術を使ったシルクの改変研究は,こういったシルクの欠点を補い,また新しい機能性の付与を目的とした研究から始まった.残念ながらこれらの欠点を補う改変シルクはいまだ実現していないが,新しいシルクがいくつか開発されている.
シルクの本体はフィブロインという繊維で,フィブロインは3種類のタンパク質からできている.シルクを改変する試みでは,このうち最も大きなタンパク質であるフィブロインH鎖タンパク質を改変する技術開発から始まった.
フィブロインH鎖タンパク質の組換えタンパク質をどのように設計してカイコに作らせ,繭の中に発現したことがわかるようにするか? という問題の解決策として,緑色蛍光タンパク質(GFP)が利用された.カイコのフィブロインH鎖遺伝子の大きな繰返し領域の代わりにGFP遺伝子を組み込んで,さらに幼虫の後部絹糸腺(シルクのうちフィブロインを合成する組織)で発現するように組換え遺伝子を構築し,遺伝子組換えカイコを創出した(4)4) K. Kojima, Y. Kuwana, H. Sezutsu, I. Kobayashi, K. Uchino, T. Tamura & Y. Tamada: Biosci. Biotechnol. Biochem., 71, 2943 (2007)..できあがった遺伝子組換えカイコは,組換えフィブロインH鎖-GFP融合タンパク質を絹糸腺で発現し,緑色の繭を作った.この繭はさらに,ブラックライトや青色光を当てるときれいな緑色蛍光を発し,目的の遺伝子組換えカイコの創出に成功したことが一目瞭然であった.現在では,蛍光シルクはGFPとは別の蛍光タンパク質を利用することで緑色に加えて,赤やオレンジなど多数の色で実現され(12)12) T. Iizuka, H. Sezutsu, K.-i. Tatematsu, I. Kobayashi, N. Yonemura, K. Uchino, K. Nakajima, K. Kojima, C. Takabayashi, H. Machii et al.: Adv. Funct. Mater., 23, 5232 (2013).(図1a, b図1■蛍光シルクと,クモ糸シルク)ている.現代美術家のスプツニ子氏やブライダルファッションデザイナーの桂 由美氏らが蛍光シルクを利用した作品を発表しており,ほかにも蛍光シルクを用いた試作品がいくつも作出され,注目を集めている(13, 14)13) 瀬筒秀樹:闇に浮かぶ白い天使,光るシルクが紡ぐ未来のファッション.http://media.style.co.jp/2015/07/495/, 2015.14) 飯塚哲也:milsil, 49, 10 (2016)..
蛍光シルクの開発は,当初純粋に技術開発から始まったものであったが,それが今や実用化まで進んでいる.機能改変シルクへの関心の高さを示すよい例である.
蛍光シルクができたことで興味深かったのは,繭が緑色で緑色蛍光をもったことであった.つまり,この方法でシルクに外来タンパク質を発現させた場合,そのタンパク質が本来の機能性を発揮できることが示されたのだ.そこで,次に挑戦したのがクモの糸をカイコに作らせることであった.ご存じのように,クモの糸は強くよく伸びることで有名である.実際にオニグモというクモの縦糸を取ってきてカイコのシルクと力学物性を比べてみると強度が3倍,伸びが1.5倍もあった.この強さと伸びをカイコのシルクに反映させることができれば,シルクの価値は格段に上がると期待された.そこで,このオニグモから縦糸のタンパク質遺伝子をクローニングしてGFP遺伝子の代わりに用い,遺伝子組換えカイコの作出を始めた.まず2007年にオニグモの縦糸タンパク質をシルクに作らせた最初の遺伝子組換えカイコを報告した(15)15) 小島 桂,桑名芳彦,瀬筒秀樹:高分子論文集,64, 817 (2007).が,実験系統のカイコ品種を使っていたため糸が取れなかった.そこできちんとした糸が取れる実用品種のカイコを用いて遺伝子組換えカイコを作り直すこととし,2014年にようやく「クモ糸シルク」について発表できた(16)16) Y. Kuwana, H. Sezutsu, K. Nakajima, Y. Tamada & K. Kojima: PLoS ONE, 9, e105325 (2014)..「クモ糸シルク」には,重量にして0.6%のクモ糸タンパク質が含まれていた.わずか0.6%であったが,糸の強さを測定したところ強度が1.1倍,伸びが1.4倍,強靭さが1.5倍に向上したシルクであった(表1表1■クモ糸シルク生糸の力学物性).そこで,クモ糸シルクの生糸や布,ニットなどを作製したところ,肌触りが柔らかくしなやかな製品ができあがった(3)3) 小島 桂:Milsil, 49, 13 (2016).(図1c, d図1■蛍光シルクと,クモ糸シルク).現在,クモ糸シルクは強靭さが増した切れにくいシルクとして,衣料用繊維のみならず工業用素材としての可能性を視野に応用展開が図られている.
破断強度(MPa) | 破断伸び(%) | ヤング率(MPa) | タフネス(MJ・m-3) | |
---|---|---|---|---|
コントロールシルク | 521.3(50.5) | 19.3(1.6) | 13645.0(1238.8) | 75.8(11.6) |
クモ糸シルク | 591.7(35.0) | 27.5(1.4) | 14298.7(1058.3) | 116.1(9.5) |
各40サンプルの平均値(S.D.).クモ糸シルクと,その親系統カイコの繭から生糸(27d)を調製し,引張試験した結果.クモ糸シルクは,コントロールに比べて破断強度で1.13倍,破断伸びで1.42倍となり,タフネスは1.53倍であった. |
蛍光シルク・クモ糸シルクは,シルクそのものを繊維として利用する試みのなかで得られた改変シルクであった.これとは別にシルクをタンパク質材料として考え,利用する試みがある.シルクの中に外来タンパク質を発現させることで新たな機能性をシルクに付与し,利用する方法である.その一つがアフィニティーシルクである.
アフィニティーシルクは,「フィブロインL鎖」と「抗体の可変部からなる一本鎖抗体(scFv)」との融合タンパク質を発現させた改変シルクで,抗原特異的な結合活性をもつシルクである.scFvを別の抗体のものに変えることで,異なる抗原を結合するアフィニティーシルクを多数作り出すことができる.また,抗体とは異なり,カイコの飼育量を増やすことで容易に大量生産できる特徴がある.アフィニティーシルクは,シルク繊維そのものに抗原結合活性が期待できるほかに,シルクを溶解した水溶液や,水溶液から調製したシルクパウダーやフィルムにおいても抗原特異的結合活性が期待できる.実際に,WASP(Wiscott–Aldrich syndrome protein)というタンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体から作られたscFvをシルクにもつ遺伝子組換えカイコを作出し,そのシルクをパウダーやフィルムに加工したところ,WASP特異的な抗原結合活性が保持されていた.アフィニティーシルクが免疫沈降やELISA実験に親抗体と同等に使用できることが判明している(17~19)17) M. Sato, K. Kojima, C. Sakuma, M. Murakami, Y. Tamada & H. Kitani: Scientific Reports, 4, 4080 (2014).19) 小島 桂:バイオマテリアル―生体材料―, 31, 72 (2013)..
アフィニティーシルクは,今ある抗体を用いた製品に抗体の代替品としてそのまま利用できるほか,今後たとえばインフルエンザウイルスと結合するscFvをもつアフィニティーシルクが作り出されれば,インフルエンザウイルスをキャッチするマスクなどに応用できる技術として発展すると期待している.
これらのほかにも,遺伝子組換えカイコが作った改変シルクを医療用の材料として利用するための研究も進められている.シルクはこれまでも手術用の縫合糸としても利用されており,生体に優しい材料として認められている.遺伝子組換え技術によりもっと体になじむシルクができれば,さらに医療用途への利用が広がるであろう.その一つとして私たちが取り組んだのが,シルクを細胞が接着しやすいように改良することであった.
“RGDS”(アルギニン–グリシン–アスパラギン酸–セリン)という4つのアミノ酸が並んだペプチドには,細胞のインテグリンがこれを認識して結合する.そこで“RGDS”ペプチドを融合した組換えフィブロインL鎖タンパク質をシルクの中に発現する遺伝子組換えカイコを作出した.この遺伝子組換えカイコが作ったシルク(RGDSシルク)を溶解して調製したシルクスポンジやシルクフィルム上には培養細胞がよく接着することが見いだされている(19, 20)19) 小島 桂:バイオマテリアル―生体材料―, 31, 72 (2013).20) Y. Kambe, K. Yamamoto, K. Kojima, Y. Tamada & N. Tomita: Biomaterials, 31, 7503 (2010)..また,このRGDSシルクで作ったスポンジで軟骨の細胞を培養すると効率よく軟骨様組織ができることが見いだされている(21)21) 神戸祐介,山本浩司,小島 桂,玉田 靖,冨田直秀:臨床バイオメカニクス, 30, 71 (2009)..これらの性質は,改変シルクを再生医療用材料にしたり,手術用の縫合糸として利用したりした場合に大いに役立つと期待されている.また,同様にRGDSペプチドの代わりに前述のbFGFを融合したシルクでは,このシルク素材の上で培養した細胞がよく増殖するという結果も得られており(22, 23)22) K. Yusuke, K. Katsura, T. Naohide & T. Yasushi: 9th World Biomaterials Congress, Abstract, ID2285 (2012).23) Y. Kambe, K. Kojima, Y. Tamada, N. Tomita & T. Kameda: J. Biomed. Mater. Res. A, 104, 82 (2016).,サイトカイン融合シルクについても,再生医療用材料として期待している.
現在の遺伝子組換えカイコはpiggyBacというトランスポゾンを使った方法で作出されており,組換え体作出の成否は偶然に左右される.特に目的タンパク質のシルクへの発現量の制御はほぼ不可能で,できあがった組換えカイコの繭を調べるまではわからないのが現状である.そのため,より効率良く組換えタンパク質をシルクに発現させ,あるいはシルクタンパク質そのものを改変して全く新しいシルクを作り出すための技術が求められてきた.近年,ZincFinger Nuclease(ZFN)やTALEN, Crisper/Cas9といったゲノム編集技術が開発され,ゲノム上の特定の遺伝子を切断して機能を止めたり,切断部位に新しい遺伝子を挿入したりといったことに利用されつつある.カイコへの応用は現在研究が進められている最中で,カイコにもこれらの技術が利用可能であることがわかりつつある(24)24) Y. Takasu, S. Sajwan, T. Daimon, M. Osanai-Futahashi, K. Uchino, H. Sezutsu, T. Tamura & M. Zurovec: PLoS ONE, 8, e73458 (2013)..今後のシルクの改変においてもこれらの技術の適用と,利用価値がさらに高まったシルクの開発が期待される.
これまでに少し触れたが,シルクの利用は繊維にとどまらない.特に遺伝子組換えカイコが作る改変シルクは,さまざまな形態に加工されてその機能性を発揮することも多い.最後に,シルクから作られる水溶液・パウダー・フィルム・スポンジなどの素材について紹介したい(25)25) D. N. Rockwood, R. C. Preda, T. Yucel, X. Wang, M. L. Lovett & D. L. Kaplan: Nat. Protoc., 6, 1612 (2011).(図2図2■シルクから作られるさまざまな素材).
シルクは不溶性のタンパク質であるが,塩化カルシウムの濃厚溶液(26)26) 味沢昭義:繊維学会誌,24, 61 (1968).や,臭化リチウム水溶液(27)27) 塚田益裕,後藤洋子,箕浦憲彦:日本蚕糸学雑誌,59, 325 (1990).などに溶解することが知られている.これらの水溶液に溶解したシルクは,透析して水溶液にできる(28)28) A. Ajisawa: 日本蚕糸学雑誌,67, 91 (1998)..シルク水溶液は,そのまま化粧品などの原料として利用されるほか,以下のさまざまなシルク素材の出発材料となる重要な素材である.
シルクフィルムは,シルク水溶液を平坦な基材に広げ乾燥することで調製できる.調製したフィルムはオブラートのように容易に水に溶けるが,水蒸気にあてたり,アルコール処理することで水に溶けないフィルムにすることができる(25)25) D. N. Rockwood, R. C. Preda, T. Yucel, X. Wang, M. L. Lovett & D. L. Kaplan: Nat. Protoc., 6, 1612 (2011)..シルクフィルムは,細胞培養の基材などに利用される.
シルクスポンジの調製法にはいくつか方法があり,それぞれ一長一短ある.シルク水溶液に塩の粒子を加えて作る方法(25)25) D. N. Rockwood, R. C. Preda, T. Yucel, X. Wang, M. L. Lovett & D. L. Kaplan: Nat. Protoc., 6, 1612 (2011).は,ポアサイズを一定にできるが成型が困難である.一方,私たちのグループでは,フィブロイン水溶液に有機溶媒を少量加えて冷凍することでフィブロインスポンジを調製する方法を確立している(29)29) Y. Tamada: Biomacromolecules, 6, 3100 (2005)..この方法では,シルク水溶液の濃度や溶媒の種類,凍結条件などを調整することでさまざまな構造や物性をもつシルクスポンジを調製できる(29, 30)29) Y. Tamada: Biomacromolecules, 6, 3100 (2005).30) 小島 桂:日本シルク学会誌,24, 37 (2016)..このシルクスポンジは,肌触りが滑らかなことから香粧分野での利用が進められている.また,冒頭で紹介したbFGF融合シルクやRGDSシルクから作ったシルクスポンジでは,これらを基材とした細胞培養で細胞の増殖や組織分化に特徴があるなど,再生医療用材料として有望な結果が示されており,シルクスポンジの再生医療分野への応用が期待されている.
シルクパウダーは上記のさまざまなシルク材料から作ることができる.シルクそのものや水溶液を凍結乾燥したもの,フィルムやスポンジを破砕することでシルクパウダーが調製でき,出発材料によってかさ高さなどが異なるシルクパウダーとなる.シルクパウダーは,食品や化粧品原料として用いられているほか,アフィニティーシルクでは研究用担体としての応用研究が進められている.
遺伝子組換え技術により,カイコが作り出すシルクは多様性を増し,応用範囲も広がりつつあることを紹介した.カイコはヒトが世話をしなければ生きていけない生物であることから,間違って外界に逃げた場合にも生存できないと考えられており,遺伝子組換え生物として優れた特性をもつ生物と考えられている.また,カイコは集団での飼育が可能なことから,今回紹介したさまざまなシルク素材や医療材料などを遺伝子組換えカイコを使った生産はこれからますます盛んになるだろう.カイコとシルクが遺伝子組換えという手法により新しい利用法を得たことで,今後「新蚕業」として花開くことを期待している.
Reference
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