解説

Hsp70の酸性複合糖質結合活性の発見糖の意外な働き

Binding Activity of Hsp70 toward Acidic Glycoconjugates: An Unexpected Role of Sugars

Yoichiro Harada

原田 陽一郎

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科システム血栓制御学講座

Chihiro Sato

佐藤 ちひろ

名古屋大学大学院生命農学研究科生物機能開発利用研究センター

Ken Kitajima

北島

名古屋大学大学院生命農学研究科生物機能開発利用研究センター

Published: 2016-12-20

典型的なシグナル配列をもたないタンパク質が細胞外に輸送されることがしばしばある.細胞質分子シャペロンである70-kDa熱ショックタンパク質(Hsp70)もその一つである.筆者らは,ウニの受精に関する研究に端を発し,マウスHsp70が細胞外に局在するスルファチドやガングリオシド,グリコサミノグリカンといった酸性複合糖質と相互作用し,特徴的な高分子量複合体を形成することを発見した(1~3).本稿では,まずHsp70の酸性複合糖質結合活性の発見に至った経緯を紹介し,この結合活性がHsp70の細胞外における機能にどうかかわるのかを議論する.

ウニの受精における糖脂質の機能

ウニの受精において,先体反応後の精子細胞膜が卵の卵膜に接着する過程が存在する(図1図1■先体反応後のウニ精子と卵との相互作用のモデル).この過程において,卵膜に局在する精子結合タンパク質(SBP)と精子細胞膜脂質ラフトに濃縮して存在する主要ガングリオシド(Neu5Acα2,8Neu5Acα2,6GlcCerおよびNeu5Acα2,6GlcCer)とのシアル酸依存的な結合が,ウニの受精の成立において極めて重要な役割を果たすことを筆者らの研究グループが発見した(4)4) E. Maehashi, C. Sato, K. Ohta, Y. Harada, T. Matsuda, N. Hirohashi, W. J. Lennarz & K. Kitajima: J. Biol. Chem., 278, 42050 (2003)..SBPはそのN末端に存在する属非特異的精子結合ドメインを介して精子ガングリオシドと結合する.興味深いことに,SBPのガングリオシド結合ドメインは70-kDa熱ショックタンパク質(Hsp70)ファミリータンパク質のN末端領域と40~60%の相同性を示す(5)5) M. L. Just & W. J. Lennarz: Dev. Biol., 184, 25 (1997)..このことから,Hsp70ファミリータンパク質もまた,シアル酸依存的にガングリオシドと相互作用する能力をもつのではないかという仮説を立てるに至った.

図1■先体反応後のウニ精子と卵との相互作用のモデル

Hsp70の糖脂質結合活性の発見

Hsp70は細胞質に局在する分子シャペロンで,変性タンパク質の凝集を抑制する機能をもつ.Hsp70は大きく分けてN末端側のATPaseドメインとC末端側のペプチド結合ドメインから構成される(図2A図2■Hsp70のドメイン構造(A)と基質ペプチドとの相互作用(B)).この2つのドメインは機能的にリンクしており,ATPを加水分解することによってHsp70の立体構造が変化し,ペプチド結合ドメインを介して変性タンパク質と強固に結合する(図2B図2■Hsp70のドメイン構造(A)と基質ペプチドとの相互作用(B)).

図2■Hsp70のドメイン構造(A)と基質ペプチドとの相互作用(B)

哺乳類由来のHsp70のATPaseドメインはウニSBPのガングリオシド結合ドメインと高い相同性を示すことから(5)5) M. L. Just & W. J. Lennarz: Dev. Biol., 184, 25 (1997).,Hsp70もガングリオシドと結合することが予想された.そこで,マウスHsp70とガングリオシドGM3(NeuAcα2,3Galβ1,4Glc-Cer)およびGD3(NeuAcα2,8NeuAcα2,3Galβ1,4Glc-Cer)との相互作用をenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)で解析したところ,Hsp70はプレートに固相化されたGM3およびGD3とは結合しないことがわかった(1)1) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 353, 655 (2007)..一方,native-PAGEによってHsp70–ガングリオシド間の相互作用を解析したところ,いずれのガングリオシドの存在下においてもHsp70が高分子量側にシフトした.この結果は,Hsp70がガングリオシドと高分子量複合体を形成することを示している.しかし,Hsp70はシアル酸をもたないLacCer(Galβ1,4Glc-Cer)とは高分子量複合体を形成しなかったことから,Hsp70はガングリオシドとシアル酸依存的に相互作用し,高分子量複合体を形成することが明らかとなった.次に,Hsp70のガングリオシド結合ドメインを同定するため,部位欠失変異体を調製し,GM3およびGD3との相互作用を解析した.その結果,Hsp70はATPaseドメインおよびペプチド結合ドメインの両方でガングリオシドと相互作用し,高分子量複合体を形成することがわかった.

Hsp70はガングリオシドのシアル酸残基を認識することから,ほかの酸性糖脂質とも相互作用する可能性が考えられた.この点に関して,病原性微生物や哺乳類の精子表面に発現するHsp70がTLCプレートに固相化されたスルファチド(3-O-sulfogalactosylceramide)と結合することが知られていた(6~8)6) E. Hartmann, C. A. Lingwood & J. Reidl: Infect. Immun., 69, 3438 (2001).8) J. Boulanger, D. Faulds, E. M. Eddy & C. A. Lingwood: J. Cell. Physiol., 165, 7 (1995)..またわれわれの研究グループは,ウニSBPもELISAプレートに固相化されたスルファチドに結合することを明らかにしていた(4)4) E. Maehashi, C. Sato, K. Ohta, Y. Harada, T. Matsuda, N. Hirohashi, W. J. Lennarz & K. Kitajima: J. Biol. Chem., 278, 42050 (2003)..さらに筆者らは,マウスHsp70とスルファチドとの相互作用をnative-PAGEで解析したところ,スルファチドの存在化においてHsp70高分子量複合体が形成されることが明らかとなった(1)1) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 353, 655 (2007)..興味深いことに,この複合体の分子量はガングリオシドの存在下で形成されるものよりはるかに巨大で,ATPaseドメインだけが複合体形成に関与することがわかった.以上の結果から,マウスHsp70はガングリオシドやスルファチドを認識し,その相互作用は特徴的なHsp70の高分子量複合体の形成を誘導することが明らかとなった.

Hsp70–スルファチド間の相互作用によるHsp70の機能調節

次に,Hsp70の酸性糖脂質結合活性がHsp70の機能にどうかかわるのかを明らかにするため,スルファチドによって誘導されるHsp70高分子量複合体の性質を詳細に調べた(3)3) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biomolecules, 5, 958 (2015)..スルファチドは細胞表面に局在するため,Hsp70との相互作用は細胞外で起こるはずである.そこで,イオン環境が細胞内外で異なることに着目し,スルファチド誘導性のHsp70高分子量複合体の形成におけるKおよびNaの効果を調べた.その結果,いずれのイオン環境下においてもスルファチドはHsp70高分子量複合体の形成を誘導した.しかし,細胞内に豊富に存在するヌクレオチド(ATPまたはADP)が共存すると,K存在下においてのみHsp70高分子量複合体の形成が完全に阻害された.これらの結果は,Hsp70–スルファチド間の相互作用による高分子量複合体の形成が細胞外で起こりうることを支持している.

Native-PAGEによる解析から,スルファチド誘導性のHsp70高分子量複合体の分子量が非常に大きいことが示唆された.そこで,Hsp70高分子量複合体の分子量をゲルろ過クロマトグラフィーで推定したところ,440~669 kDa以上の幅広い分布を示した.一方,水溶液中でミセルを形成するスルファチドは669 kDa以上の画分だけに検出された.このことから,Hsp70はスルファチドミセルと会合して見かけ上の分子量が大きくなるのに加え,スルファチドがHsp70自身のオリゴマー化を誘導する可能性が考えられた.そこで,Hsp70高分子量複合体を化学架橋後,SDS-PAGEを行ったところ,スルファチドの存在下においてHsp70のラダーが観察されたことから,スルファチドはHsp70のオリゴマー化を誘導することが明らかとなった.さらに,部位欠失変異体を用いて解析した結果,スルファチド誘導性のHsp70オリゴマー化はATPaseドメインを介して起こり,ペプチド結合ドメインは必要ないことがわかった.このことから,スルファチド誘導性のHsp70オリゴマーはペプチド結合活性を有していると考えられた.そこで,Hsp70と変性タンパク質との相互作用をゲルろ過クロマトグラフィーで解析したところ,スルファチドによって形成されたHsp70高分子量複合体は変性タンパク質と安定な複合体を形成する一方,Hsp70モノマーは複合体を形成しないことがわかった.この結果から,スルファチドがHsp70のオリゴマー化を誘導することによって機能的なペプチド結合ドメインがクラスター化され,Hsp70と変性タンパク質との親和性が高まることが示唆された.以上の結果から,スルファチドはHsp70のシャペロン機能を調節することが明らかとなった.

がん細胞から放出されるHsp70は抗がん作用を示すことが知られている(9, 10)9) Y. Tamura, P. Peng, K. Liu, M. Daou & P. K. Srivastava: Science, 278, 117 (1997).10) H. Udono & P. K. Srivastava: J. Exp. Med., 178, 1391 (1993)..これは,Hsp70ががん抗原ペプチドと結合していて,それが抗原提示細胞に取り込まれることによって免疫システムを賦活化するためであると考えられている.この性質を利用して,Hsp70を抗原ペプチドのキャリアとして利用する試みが盛んに行われてきている.スルファチドを用いたHsp70のオリゴマー化は,Hsp70の抗原キャリアとしての機能を増幅させる手段になるかもしれない.

Hsp70と酸性複合糖質との相互作用

最後に,Hsp70が糖脂質以外の複合糖質と相互作用するのか,という疑問点をさまざまな人工糖鎖ポリマーを用いて検証した(2)2) Y. Harada, E. Garenaux, T. Nagatsuka, H. Uzawa, Y. Nishida, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 453, 229 (2014)..予想どおり,Hsp70はスルファチドの親水基(3-S-Galβ-)を有する糖鎖ポリマーの存在下において高分子量複合体を形成した.この複合体は,スルファチドによって誘導されるものより分子量が小さいことが示唆されたことから,アグリコン部分もHsp70高分子量複合体の形成に関与する可能性が考えられた.さらに,β-3-S-Gal配糖体ではHsp70複合体の形成は観察されなかったことから,β-3-S-Gal構造がポリマー上にクラスター化されることがHsp70複合体の形成に重要であることが示された.また,Hsp70はさまざまな硫酸化単糖(6-S-GalNAcβ-, 3-S-GlcNAcβ-および4-S-GlcNAcβ-)や分岐型ジシアリルGalNAc[NeuAcα2,3(NeuAcα2,6)GalNAcα-]をもつ糖鎖ポリマーと相互作用し,Hsp70複合体を形成した.一方,GlcNAcやモノシアリル化GalNAc糖鎖ポリマー,コロミン酸(α2,8結合したNeuAcのポリマー)の存在下ではHsp70複合体は形成されなかった.以上の結果から,Hsp70はクラスター化された特定の酸性糖鎖と相互作用することが明らかとなった.

グリコサミノグリカンは天然に見いだされる硫酸化糖鎖ポリマーである.これまでの研究から,Hsp70のATPaseドメインにはヘパリン結合配列が存在することが知られていたが,ヘパリンアフィニティークロマトグラフィーではHsp70–ヘパリン間の結合は観察されていなかった(11)11) L. K. Hansen, J. J. O’Leary, A. P. Skubitz, L. T. Furcht & J. B. McCarthy: Biochim. Biophys. Acta, 1252, 135 (1995)..しかしわれわれは,native-PAGEおよびゲルろ過クロマトグラフィー解析の結果からHsp70がヘパリンと相互作用し,複合体を形成することを明らかにした.さらに,種々のグリコサミノグリカンのうち,Hsp70はヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸と相互作用した.これらのグリコサミノグリカンは,2-O-硫酸化イズロン酸を共通して含む.このことから,2-O-硫酸化イズロン酸がHsp70との相互作用に重要であることが示唆された.ヘパリンやヘパラン硫酸は細胞表面や細胞外マトリクスに普遍的に存在する.したがって,細胞外に放出されたHsp70がこれらのグリコサミノグリカンを介して細胞表面に濃縮される可能性が考えられた.

おわりに

われわれは,ウニの受精に関する研究に端を発し,マウスHsp70が酸性糖脂質やグリコサミノグリカンといったさまざまな酸性複合糖質と特徴的な複合体を形成することを見いだした.Hsp70複合体といっても,native-PAGEで検出されるサイズやパターンは相互作用する複合糖質によってさまざまで,スルファチドではHsp70のオリゴマー化を誘導することが複合体形成のメカニズムであった.スルファチドのほか,ガングリオシドGM3はHsp70のオリゴマー化を誘導したのに対し,GD3の存在下ではHsp70オリゴマーは検出できなかった(原田,佐藤および北島,未発表).このことから,Hsp70複合体の実態は相互作用する複合糖質の構造によって異なることが予想される.このHsp70複合体の違いがHsp70の機能調節にどのように関与するかを明らかにしていくことが今後の課題であるが,その一端として,スルファチドがHsp70のオリゴマー化を誘導することによって基質タンパク質との結合を安定化させることを明らかにした.このことは,Hsp70のアジュバント機能を考えるうえで興味深い.Hsp70と複合体を形成した抗原ペプチドは,ペプチド単独に比べてT細胞の活性化を強く誘導する(12)12) H. Bendz, S. C. Ruhland, M. J. Pandya, O. Hainzl, S. Riegelsberger, C. Brauchle, M. P. Mayer, J. Buchner, R. D. Issels & E. Noessner: J. Biol. Chem., 282, 31688 (2007)..したがって,Hsp70がオリゴマー化することによって抗原ペプチドとの親和性が上昇し,T細胞の活性化をより強力に誘導できるかもしれない.また,ミエリン鞘に多く存在するスルファチドは多発性硬化症の抗原として同定されており(13)13) J. L. Kanter, S. Narayana, P. P. Ho, I. Catz, K. G. Warren, R. A. Sobel, L. Steinman & W. H. Robinson: Nat. Med., 12, 138 (2006).,スルファチドが何らかの機構でHsp70と複合体を形成することによって免疫原性が亢進する可能性も考えられる.

本稿ではHsp70と酸性複合糖質との相互作用を中心に紹介してきたが,筆者らはHsp70がさまざまな酸性リン脂質とも複合体を形成することも報告している(1)1) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 353, 655 (2007)..これに関連して,Hsp70はホスファチジルセリン(PS)を含む脂質二重膜中でオリゴマー化し,チャネルを形成することが報告されている(14)14) N. Arispe, M. Doh, O. Simakova, B. Kurganov & A. De Maio: FASEB J., 18, 1636 (2004)..Hsp70とPSを含む脂質二重膜との相互作用は,細胞内に存在するHsp70が細胞膜表面に移行するメカニズムに関係する可能性がある.すなわち,細胞内Hsp70が細胞膜の内側に偏在するPSと結合し,チャネルを形成することによって細胞表面に反転する,という仮説である.今後,Hsp70の酸性複合糖質やリン脂質結合活性に着目することによって,シグナル配列をもたないタンパク質の細胞外輸送機構に関する新たな側面が見えてくるかもしれない.

Reference

1) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 353, 655 (2007).

2) Y. Harada, E. Garenaux, T. Nagatsuka, H. Uzawa, Y. Nishida, C. Sato & K. Kitajima: Biochem. Biophys. Res. Commun., 453, 229 (2014).

3) Y. Harada, C. Sato & K. Kitajima: Biomolecules, 5, 958 (2015).

4) E. Maehashi, C. Sato, K. Ohta, Y. Harada, T. Matsuda, N. Hirohashi, W. J. Lennarz & K. Kitajima: J. Biol. Chem., 278, 42050 (2003).

5) M. L. Just & W. J. Lennarz: Dev. Biol., 184, 25 (1997).

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7) M. Huesca, A. Goodwin, A. Bhagwansingh, P. Hoffman & C. A. Lingwood: Infect. Immun., 66, 4061 (1998).

8) J. Boulanger, D. Faulds, E. M. Eddy & C. A. Lingwood: J. Cell. Physiol., 165, 7 (1995).

9) Y. Tamura, P. Peng, K. Liu, M. Daou & P. K. Srivastava: Science, 278, 117 (1997).

10) H. Udono & P. K. Srivastava: J. Exp. Med., 178, 1391 (1993).

11) L. K. Hansen, J. J. O’Leary, A. P. Skubitz, L. T. Furcht & J. B. McCarthy: Biochim. Biophys. Acta, 1252, 135 (1995).

12) H. Bendz, S. C. Ruhland, M. J. Pandya, O. Hainzl, S. Riegelsberger, C. Brauchle, M. P. Mayer, J. Buchner, R. D. Issels & E. Noessner: J. Biol. Chem., 282, 31688 (2007).

13) J. L. Kanter, S. Narayana, P. P. Ho, I. Catz, K. G. Warren, R. A. Sobel, L. Steinman & W. H. Robinson: Nat. Med., 12, 138 (2006).

14) N. Arispe, M. Doh, O. Simakova, B. Kurganov & A. De Maio: FASEB J., 18, 1636 (2004).