Kagaku to Seibutsu 55(1): 27-34 (2017)
解説
メタン発酵プロセスにおける好熱性細菌の応用微生物を利用してゴミから効率良くエネルギーを取り出す
Application of Thermophilic Bacteria to Methane Fermentation Process: To Efficiently Extract Energy from Garbage Using Bacteria
Published: 2016-12-20
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると,人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の要因である可能性が極めて高いと発表した.人間活動に伴う二酸化炭素の排出量は自然が吸収できる量の2倍を超えており,Cool Earth 50での長期戦略には,現在の技術の延長線上では困難であるとするものの,2050年までに世界全体の二酸化炭素排出量を半減することを目標としている.その実現に向けて,「革新的技術の開発」とそれを中核とする「低炭素社会づくり」という長期のビジョンを示した.ここでは循環型社会構築のための技術の一つであるメタン発酵を紹介したい.
© 2017 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2017 公益社団法人日本農芸化学会
20世紀の日本は驚異的な経済成長を遂げ,大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会構造が形成された.21世紀に入り,循環型社会形成推進基本法(2000年)において環境を配慮した3R(Reduce・Reuse・Recycle)の考え方が導入され,循環型社会の基盤が市民や企業に定着し始めた.また,バイオマス・ニッポン総合戦略が閣議決定(2002年)されたこともあり,大量生産・大量消費から資源循環型社会の時代となってきた.エネルギー資源が乏しく,食料をはじめとした物資の大半を輸入に委ねている日本が資源循環立国を目指すことは地球環境保全の観点からも重要課題であることは明白である(1)1) 帆秋利洋,天石 文,小嶋令一,羽川富夫,大原孝彦:大成建設技術センター報,38, 1 (2005)..
日本のエネルギー動向を図1図1■国内エネルギーの供給源および電力化率の推移に示す.高度経済成長期である1970年代前半に石油の使用によるエネルギー消費量が一気に増加した.1973年および1979年の石油高騰(オイルショック)によりエネルギー安全保障の面から省エネ化が進んだ.1980年代に入るとバブル期を迎え,石油から石炭,液化天然ガス(LNG)および原子力を供給源としてエネルギー消費量が増大した.2011年の東日本大震災以降,原子力はほぼゼロになり,その代わりにLNGが使用されている.しかし,「持続可能な社会づくり」を考えるとエネルギー供給源を化石燃料の最低使用量まで低下させ,その代わりに再生可能なエネルギーへのシフトが重要である.広義での再生可能エネルギーは,太陽光,風力,水力,地熱,太陽熱,大気中の熱そのほかの自然界に存在する熱,バイオマスなどが挙げられる.
平成25年度の産業廃棄物の種類別排出量は384,696千tであり,大量の廃棄物が発生している.その上位を占めている廃棄物の種類は汚泥(164,169千t),動物の糞尿(82,626千t),瓦礫類(63,233千t)であり,この3品目で総排出量の約8割を占めている(2)2) 環境省ホームページ:産業廃棄物の排出および処理状況等,https://www.env.go.jp/recycle/.汚泥や家畜の糞尿は廃棄物系バイオマスと呼ばれている.廃棄物系バイオマスとは,生活や産業活動によって生じるいわゆる副産物や廃棄物(一般に産業廃棄物)のうちエネルギーやマテリアルとして利用可能な生物資源全体を指している.このような汚泥や家畜の糞尿などの生物由来廃棄物系バイオマスの利用は大気中の二酸化炭素を増加させない「カーボンニュートラル」と呼ばれる特性により,地球温暖化対策に有効で,化石燃料などの天然資源の使用削減につながっている(3)3) 環境省:平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書,2014..リサイクル社会(循環型社会),ひいては「持続可能な社会づくりの実現」が期待される.
持続可能な社会づくりのためには,近年,地域における環境保全や循環型社会の創造に加えて,地球規模で生じている温暖化への対策やエネルギー対策などが強く要望されるようになり,これに大きく貢献する手段として廃棄物系バイオマスによるメタン発酵が注目されている.メタン発酵は,下水汚泥,生ごみ,浄化槽汚泥,家畜排泄物,食品加工残渣など多様な有機性廃棄物原料に対応可能である.
メタン発酵は,嫌気条件下で複数種の嫌気性細菌の代謝作用により有機性廃棄物などに含まれる有機物をメタンと二酸化炭素にまで分解する反応であり,自然界での炭素循環として重要な役割を果たしている.メタン発酵によるエネルギー生産は欧州で盛んに行われており,その規模として282の発電所で毎年およそ9.4 TWhを発電している.そのうちドイツ154カ所,スウェーデン54カ所,オランダ23カ所にメタン生産施設がある(4)4) REN21: “Renewables 2015 Global Status Report,” 2005, p. 42..ドイツでメタン発酵による発電が盛んな理由として,1991年に電力供給法,さらに2000年に再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz; EEG)を制定していることが挙げられる.このEEGにより「固定価格買取制度(Feed-in Tariff; FIT)」が導入され,再生可能エネルギーにより発電された電力を電力会社が高い価格で買い取ることが義務づけられたことによる(5)5) 渡邉斉志:外国の立法,225, 61 (2005)..日本においては,廃棄物の有効利用は1970年代にすでに重要視され,当時の通産省において1973年度から1982年度までの10年間にわたって,「資源再生利用技術システム」に関する総合研究開発プロジェクト“スターダスト ‘80”が実施された(6)6) 通商産業省工業技術院:スターダスト‘80資源再生利用技術システム導入の手引き,1982..同プロジェクトでは,都市ごみを混合収集し,前処理サブシステムで厨芥類,紙類,プラスチック類,残渣に分け,厨芥類を原料にメタン発酵を行うパイロットプラントを実施した(7)7) 伊藤勝康,広畑和幸,占部武生,秋山 薫,西沢千恵子:東京都清掃研究所研究報告,1979, p. 119..しかし,エネルギーの回収や排水処理にかかる経済性の問題から従来行われていた廃棄物の埋め立や焼却といった処理方法に競合できず,実用化には至らなかった.
これまでのように有機性廃棄物を焼却により処理すると外部からエネルギーを加え,二酸化炭素も排出される.メタン発酵は農家から排出される家畜の糞尿をためておくタンクから自然に発生するメタンガスを回収し,電力や熱エネルギーとして利用してきた.メタン発酵は家畜廃棄物よりエネルギーを回収するだけでなく,消化液を液肥として有効に活用できることも大きな利点である.その有機性廃棄物からメタンガス(CH4)を取り出し,そのCH4を電力や熱エネルギーに変換し,排出される二酸化炭素(CO2)は植物などの光合成により有機物に変換される.つまり,メタン発酵は有機性廃棄物に含まれる炭素を利用して新たなバイオマスを生じるカーボンニュートラルな技術である.
メタン発酵技術の概要は多くの報告(8~10)8) G. Lyberatos & I. Skiadas: GlobalNEST Int. J., 1, 63 (1999).9) 李 玉友:日本環境衛生施設工業会,73, 4 (2005).10) K. Ziemiński & M. Frąc: Afr. J. Biotechnol., 11, 4127 (2012).があるので,ここでは簡単に説明する.メタン発酵における有機物の分解工程を図2図2■メタン発酵プロセスの概略に示す.厨芥類や家畜性廃棄物中に含まれている固形物または高分子有機物などは第1段階で加水分解菌の働きにより低分子化され,単糖・アミノ酸・高級脂肪酸などまで分解される.高分子有機物であるセルロースやデンプンの分解にはそれぞれNeocallimastix frontalis(11)11) K. Srinivasan, M. Murakami, Y. Nakashimada & N. Nishio: J. Biosci. Bioeng., 91, 153 (2001).やPyrococcus furiosus(12)12) Y. Nakashimada, K. Nakae & N. Nishio: J. Biosci. Bioeng., 87, 155 (1999).が関与していることが報告されている.この発酵工程を経て,第2段階で酸生成細菌の働きにより酢酸とプロピオン酸などの揮発性有機酸や水素まで発酵分解される.Clostridium thermoaceticumやAcetobacterium sp. はグルコースから酢酸を生産することが知られている(13, 1413) N. Koesnandar, K. Nishio, K. Kuroda & S. Nagai: J. Ferment. Bioeng., 70, 398 (1990).14) A. E. Bainotti & N. Nishio: J. Appl. Microbiol., 88, 191 (2000).).また,揮発性有機酸分解菌としてプロピオン酸から酢酸と水素に変換するPelotomaculum thermopropionicumが知られている(15)15) T. Kosaka, T. Uchiyama, S. Ishii, M. Enoki, H. Imachi, Y. Kamagata, A. Ohashi, H. Harada, H. Ikenaga & K. Watanabe: J. Bacteriol., 188, 202 (2006)..ホモ酢酸菌と呼ばれる細菌群は二酸化炭素と水素から酢酸を作り出す能力を有する(16)16) G. Diekert & G. Wohlfarth: Antonie van Leeuwenhoek, 66, 209 (1994)..メタン発酵プロセスにおける酢酸は最も重要な中間代謝物であり,生成されるメタンガスの約70~80%が酢酸由来とされ,6~35%がプロピオン酸由来であると報告されている(17)17) T. Shigematsu, Y. Q. Tang & K. Kida: Seibutsu-kogaku Kaishi, 87, 570 (2009)..第3段階のメタン生成工程に関して,酢酸からメタンガスに変換する経路として2種類が知られている(18)18) B. Schink: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 61, 262 (1997)..酢酸資化性メタン生成菌としてMethanosaeta属とMethanosarcina属が知られ,前者の古細菌は酢酸のみを資化できるが,後者は酢酸のみならずメタノールやメチルアミドなども資化することができる(19)19) K. Mori, T. Iino, K. Suzuki, K. Yamaguchi & Y. Kamagata: Appl. Environ. Microbiol., 78, 3416 (2012)..もう一つの経路では,酢酸が嫌気条件下でCO2へと酸化され,水素資化性メタン生成菌によりCH4へと変換される(18, 2018) B. Schink: Microbiol. Mol. Biol. Rev., 61, 262 (1997).20) S. Hattori, Y. Kamagata, S. Hanada & H. Shoun: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 50, 1601 (2000).).このようにメタン発酵はさまざまな微生物が関与し,そのプロセスが成立している.
メタン発酵は,厨芥類や家畜性廃棄物などの廃棄物系バイオマス中に含まれる多糖類,脂肪,タンパク質などの有機物の可溶化・加水分解過程を経て,酸生成過程,メタン生成過程の流れで進行する.メタン発酵の主役を担うメタン生成菌は水素・ギ酸,酢酸とメチル化合物(メチルアミン類,メタノール,メチルメルカプタンなど)と限られた物質を利用してメタンを生成する.そのため,廃棄物系バイオマスの可溶化・加水分解工程がメタン発酵の高効率化につながる.
従来のメタン発酵は生ゴミなどの処理には固形物濃度を8~10%に調整するため,大量の希釈水が必要となる.また,投入する原料の濃度を高くすれば発生ガスは増加するが,タンパク質やアミノ酸の分解によりアンモニア性窒素が発生し,アンモニア濃度が高くなることで有機酸の蓄積やメタン生成速度の低下などメタン発酵を阻害する原因となる.メタン発酵槽は原料の可溶化からメタン発酵まで一つの槽で実施されていたため,大規模な発酵槽,膨大なエネルギーの使用,大量の消化液の処理など金銭的・時間的な問題があった.
高分子有機物の可溶化には表1表1■可溶化方法の利点および欠点のようにさまざまな可溶化方法が提案されている(21)21) バイオマスからの気体燃料製造とそのエネルギー利用,NST Inc., 2007, p. 180..しかし,これらの方法は高圧粉砕や超音波などは高い可溶化が可能であるが,一方で設備の複雑さやエネルギー消費量の大きさなどの問題がある.
可溶化方法 | 分解率(%) | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
高圧粉砕 | 85 | 高効率・省エネルギー | 設備が複雑 |
超音波 | 100 | 完全分解が可能 | エネルギー消費量大 |
熱分解 | 55 | 簡単な装置構成 | 装置腐食対策が必要 |
酸・アルカリ処理 | 30 | 簡単な装置構成 | 中和が必要 |
熱・酸・アルカリ処理 | 15~60 | 簡単な装置構成 | 中和が必要 |
オゾン処理 | 60 | 簡単な装置構成 | 高価な設備費 |
生物学的処理 | 5~50 | 簡単な作業・低コスト | 低い分解率 |
われわれは,低コストで高い可溶化を期待できる熱処理と生物学的処理を組み合わせた可溶化に注目した.
われわれの研究において,メタン発酵プロセスの前処理に80°Cの可溶化槽を設け,その超高温可溶化槽に耐熱性プロテアーゼを生産する好熱性細菌を投入する方法を実プラントで実施した(22, 2322) T. Nakamichi, T. Nakashima, N. Takamatsu, Y. Takahashi & Y. Ishibashi: Environ. Safety, 3, 13 (2012).23) T. Nakamichi, T. Nakashima, H. Fujisaki, N. Takamatsu, T. Muramatsu, Y. Takahashi & Y. Ishibashi: Environ. Eng. Sci., 27, 993 (2010).).
使用した好熱性細菌は別府温泉地より分離されたAnoxybacillus sp. MU3を使用した(図3図3■Anoxybacillus sp. MU3株の電子顕微鏡写真とスキムミルク資化性).本菌株の生育温度は40~90°Cで至適温度は45~80°C,生育pHは6~10で至適pHは9付近であった.3.0%のNaCl濃度まで耐性で,運動性,胞子形成能,そのほかの生化学的性質および16 S rRNA塩基配列による系統解析よりAnoxybacillus属と同定した.MU3株は菌体外に分子量約57,000のプロテアーゼを生産し,その活性はpH 6および60~70°Cで最も強い活性を示し,それ以上の温度でも活性を保持していた.カゼインを基質に70および90°Cで経時的に酵素反応を行った場合,分解活性は70および90°Cで一次的に低下するものの反応2時間をすぎる頃から酵素活性の低下は見られず,8時間以上安定であった(24)24) 村松 毅,高松伸枝,中島琢自,石橋康弘:特願2005-381160.このような性質を有するMU3株を用いて,可溶化試験を実施した.
溶解性化学酸素要求量(CODcr)の80~90%がバイオガスカへと転換(25)25) 李 玉友:日本環境衛生施設工業会:73, 4 (2005).し,そのうちのCODcr 1 gで 0.35 Lのメタンが生成する(26)26) 李 玉友,張 岩,野沢達也:ECO INDUSTRY, 9, 15 (2004)..家畜糞尿1 t(20%固形物濃度),53°Cで撹拌,発酵期間10日間という条件で,この式により従来法と本方法の物質収支を比較した(表2表2■従来法と超高温急速可溶化技術の比較).従来法でメタン発酵を行うと家畜糞尿1 tを5%の固形物濃度まで水で希釈する.10日分の処理のためには40 tの発酵槽が必要となる.バイオガスの発生量は標準的レベルである消化率60%の場合,200 L×0.6となり,1日あたり120 Lとなる.消化液は1日あたり3,800 L,残渣は80 Lとなる.一方,超高温急速可溶化技術でメタン発酵を行うと希釈する必要がなく,10日分の処理に10 tの発酵槽ですむ.廃棄物系バイオマスを高温処理するため,消化率は標準レベルよりも向上し,消化率80%の場合,バイオガスの発生量は200 L×0.8となり,1日あたり160 Lとなる.消化液は1日あたり800 L,残渣は40 Lとなる.このように発酵効率も向上し,発酵槽の縮小化も行うことが可能である.
従来法 | 超高温急速可溶化技術 | |
---|---|---|
家畜糞尿 | 1 t | 1 t |
希釈水 | 3 t | 0 |
可溶化槽 | なし | 必要(1 tレベル) |
発酵槽の大きさ | 40 t | 10 t |
消化率 | 60% | 80% |
ガス発生量 | 120 L/日 | 160 L/日 |
消化液発生量 | 3,800 L | 800 L |
残渣発生量 | 80 L | 40 L |
使用した下水汚泥は長崎東部下水処理場の濃縮汚泥(含水率は約98%)で,下水処理過程において脱水前の汚泥を用いた.1 Lビーカーに500 mL汚泥を入れ,実プラントの可溶化槽と同じく80°Cに加温した.前培養したMU3株を加温した汚泥に10 mL(菌数として5×105 cfu/mL)添加した.MU3株添加汚泥および無添加汚泥を恒温槽で保温しながら撹拌(100 rpm)した.MU3株を投入後,経時的に5 mL回収し,CODcr法を用いて汚泥の可溶化率を算出した.図4図4■MU3株添加群(○)および無添加群(●)の可溶化率にMU3株添加群と無添加群の可溶化率を示した.MU3株を添加することで有意な可溶化率の向上が認められた.しかし,熱処理汚泥に添加後約20時間後にMU3株は死滅しており,実プラント検証実験では1回/2日の回分添加によりMU3株の効果を持続させることとした.
長崎市東部下水処理場に建設された検証用メタン発酵プラント(実規模の1/100スケール)を使用した.メタン発酵システムの全体像を図5図5■メタン発酵プラントに示す.下水汚泥貯蔵庫より1日あたり0.5 m3の汚泥を可溶化槽に投入した.可溶化槽は80°Cに加熱でき,3槽に分けられ,それぞれプロペラで撹拌が行えるようになっている.可溶化槽から発生するアンモニアは熱により蒸留され除去できる仕組みになっている.可溶化された汚泥はメタン発酵槽へ送り込まれ,バイオガス発酵が行われる.発生したバイオガスは脱硫後,可溶化槽の加熱エネルギーとして使用される.
MU3株の培養液(10 L)を2日に1回可溶化槽に添加した.定期的に可溶化槽(1~3槽)からサンプリングを行い,寒天培養によるコロニー数および可溶化率の計測を実施した(図6図6■メタン発酵プラント検証実験(左図:コロニー出現率,右図:可溶化率)).MU3株添加時にコロニー出現率は高まり,数時間で103 CFU/mLの一定状態になった.第1槽より第3槽で高い可溶化率を示し,有機物の可溶化が進んでいることがわかった.図7図7■可溶化槽内の有機酸濃度(左図)および固形成分(全有機炭素)(右図)の分析に可溶化槽内の有機酸濃度および固形成分(全有機炭素)の分析結果を示す.可溶化槽で全有機炭素(TOC)濃度が著しく上昇した.この理由として,サンプリング弁が可溶化槽の底部に設置されているため,TOCが濃縮されたと考えられる.一方,メタン発酵槽で有機酸およびTOCは著しく減少していることおよび粗タンパク質,全窒素,粗脂質および炭水化物の濃度は汚泥貯蔵槽,可溶化槽,メタン発酵槽と減少していることからメタン発酵は順調に進んでいた.長期運転によるバイオガス発生量は平均6,300 L/day(図8図8■長期運転によるバイオガス発生量)で,そのバイオガスに含まれるメタン濃度は63%であった(表3表3■発生ガスの種類と割合).本結果は,既存のメタン発酵施設の発酵期間と比較して,1/2~1/3短縮された発酵時間で同程度のメタンガス発生量を示したことからメタン発酵プロセスにおいて好熱菌の利用は有用であることがわかった.
発生ガス種類 | 発生ガスの割合(脱硫後) |
---|---|
メタン | 63% |
水素 | <0.1% |
二酸化炭素 | 33.5% |
硫化水素 | <1 ppm |
アンモニア | <1 ppm |
全硫黄 | <1 ppm |
Anoxybacillus sp. MU3株はメタン発酵プラントの超高熱可溶化槽に添加することで可溶化率の向上およびメタンガスの発生量を増大させた.しかし,MU3株は可溶化槽に投与後,数時間で死滅することがわかった.そこで,好熱菌の添加回数の減少およびより強力なプロテアーゼを生産する好熱菌を求めて温泉地より分離を行った.寒天栄養培地に有機物としてスキムミルクを添加し,温泉地より採取した試料を塗末後,70°Cで培養した.出現してきたコロニーの周りに透明帯(スキムミルク資化)が観察された株を釣菌した.16 S rRNA塩基配列の解析の結果,そのほとんどがGeobacillus属であった.Geobacillus属は自然界に広く分布している細菌で温泉などの極限環境下で生育することが知られ(27)27) T. N. Nazina, T. P. Tourova, A. B. Poltaraus, E. V. Novikova, A. A. Grigoryan, A. E. Ivanova, A. M. Lysenko, V. V. Petrunyaka, G. A. Osipov, S. S. Belyaev et al.: Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 51, 433 (2001).,耐熱性を示すα-アミラーゼの研究材料として利用されてきた(28)28) F. E. Feeherry, D. T. Munsey & D. B. Rowley: Appl. Environ. Microbiol., 53, 365 (1987)..しかし,菌体外プロテアーゼ産生能や培養時間によるスキムミルク資化性能は菌株に依存している.増殖初期段階から培養5日までプロテアーゼ産生が継続する阿蘇分離株Geobacillus sp. KK12-0012を選択し,ドックフードを用いた可溶化試験を実施した.その結果,MU3株は20時間あたりで可溶化率が定常状態になるのに対してKK12-0012株の可溶化率はさらに増加していた(図9図9■ドックフードを用いた可溶化試験).なお,雲仙から分離したThermoactinomyces sp. MU11はMU3株より僅かに高い可溶化を示した.
現代の社会では人間の産業活動が活発になるにつれて,限りある資源が無頓着に使用され,大切な自然が無制限に破壊されている.それが温暖化や異常気象を引き起こしている.多くの人たちがこのままでは取り返しがつかないと言うことに気づき始め,生まれたキーワードが「持続可能な発展」で,1987年の国際的なブルトンラント委員会で初めて提唱された.この「持続可能な発展」とは,「将来の世代も私たちの世代と同じように幸せな暮らしができるようにしよう」という意味であるが,「現状のままだと将来の世代は幸せに生きていけない」という意味にも取ることができる.「持続可能な発展」を目指した会議は1992年に開催された地球サミット(国際環境開発会議)を皮切りに2000年にミレニアム開発目標が策定され,それを受けて持続可能な開発のための2030アジェンダが国連総会で採択された(29)29) 環境省ホームページ:持続可能な開発のための2030アジェンダ/SDGs, http://www.env.go.jp/earth/sdgs/index.html.
「持続可能な発展」のためには「循環型社会の構築」が必要となってくる.メタン発酵技術はその一つの役割を担っている.これまで燃焼廃棄されてきたバイオマスからメタンガスを取り出し,エネルギーとして使用する.その際に発生する二酸化炭素は植物などの光合成により吸収され,有機物へと変換される(カーボンニュートラル).筆者らはメタン発酵の向上を目指し,メタン発酵プロセスの初期段階である有機物の熱分解と好熱菌を利用した生物学的処理に注目した.本方法はメタン発酵槽の小型化が可能であるため設備投資を抑えることができ,これまでのメタン発酵よりもメタン発生量を向上させることができる.これまで使用してきた好熱菌は良好なメタン発酵を行えることができた.しかし,多種多様な好熱菌を分離して,家畜糞尿や下水汚泥など個々の原料に最適な好熱菌を用いることで差別化が可能となる.今回の研究では耐熱性プロテアーゼに絞って行ってきたが,セルロースやリグニンなどの難分解性物質の分解菌探索も必要である.本研究をコンセプトにしたメタン発酵プラントが青森スマートメタン発電事業(株式会社あうら)として実働している.今後,多くのメタン発酵事業が活発になり,「循環型社会の構築」に少しでも近づくことが期待される.
Reference
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