解説

植物ウイルスの病徴発現における宿主RNAサイレンシングのかかわり植物のウイルス病はどのように起こるのか?

Relationship between Host RNA Silencing and Viral Diseases in Plants

Hanako Shimura

志村 華子

北海道大学大学院農学研究院

Chikara Masuta

増田

北海道大学大学院農学研究院

Published: 2016-12-20

ウイルスが植物に感染すると,宿主細胞内でウイルスのゲノム(核酸)の増殖やタンパク質の合成が起こり,植物自身の正常な代謝が阻害される.病徴の発現パターンは,宿主植物と感染ウイルスの組み合わせに特異的であるが,温度や光などの環境要因によって異なる場合もある.植物は抵抗性遺伝子とRNAサイレンシングを作動してウイルス感染を抑制しようとするが,ウイルスはRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)によりこれらに対抗する.本稿では,病徴発現における宿主とウイルスの相互作用に注目し,宿主の遺伝子を偶然にターゲットにしたRNAサイレンシングが病徴発現のメカニズムであった最近の研究例について紹介する.

ウイルス感染防御機構としてのRNAサイレンシング

RNAサイレンシングは塩基配列特異的にRNA分解を行うメカニズムであり,二十数塩基の短いRNA(small RNA; sRNA)がガイドとなって特定の遺伝子の発現を抑制する(ジーンサイレンシング)(図1図1■RNAサイレンシング経路の概略図).RNAサイレンシング経路にかかわる遺伝子群は真核生物内で広く保存されており,菌,線虫,昆虫,植物,哺乳類などで見いだされている.それぞれの生物において異なっているものもあるが,二本鎖のsRNA生成とRNA-induced silencing complex(RISC)によって標的となるRNAの発現が抑制される過程はすべての生物間で共通している.植物のRNAサイレンシングでは,siRNA経路,miRNA経路,およびRNA-directed DNA methylation(RdDM)経路があり,sRNAの生成過程などが異なっている(1~3)1) D. Baulcombe: Nature, 431, 356 (2004).3) G. Meister & T. Tuschl: Nature, 431, 343 (2004)..siRNAとmiRNAは,二本鎖RNA(double-stranded RNA; dsRNA)が細胞内に生じた際に,dsRNA特異的分解酵素(DCL)によって21~24ヌクレオチド(nt)の長さに分解されて生成する.miRNAの由来となるdsRNAはゲノム上のmiRNA遺伝子座からmiRNA前駆体が転写され,DCL1によるプロセシングによって成熟miRNAが生成する.siRNAの由来となるdsRNAは,相補配列をもつRNA同士の対合やaberrant RNAが鋳型になり,RNA依存型RNA複製酵素(RDR)によって合成される.このdsRNAは続いて,DCL2やDCL4によってsiRNAに切断される.miRNAとsiRNAはどちらも似た長さの短いdsRNAであるが,miRNAは相補配列内にミスマッチを含み,siRNAはミスマッチを含まない.

図1■RNAサイレンシング経路の概略図

mRNAなどの内在性RNAやウイルスのような外来RNAからsmall RNA(sRNA)が生成し,そのsRNAはAGOを含むRNA-induced silencing complex(RISC)に取り込まれる.sRNAは片鎖と相補配列をもつターゲットRNAにさらに結合し,ターゲットRNAの分解などを通じて遺伝子発現抑制を行う.DCL: dsRNA特異的分解酵素,RDR: RNA依存型RNA複製酵素.

RNAサイレンシングは内在性遺伝子の発現調節機構として働き,ゲノムDNAからRNAへの転写抑制,あるいは転写されたRNAの翻訳抑制(RNAの分解)を行い,前者はtranscriptional gene silencing(TGS),後者はpost-transcriptional gene silencing(PTGS)と区別される.植物では,組織や器官の分化に必要な遺伝子の発現調節にさまざまなsRNAがかかわることがわかっており,最近では,雌雄配偶体の分化(性決定)にもsRNAが関与することも報告されている(4)4) T. Akagi, I. M. Henry, R. Tao & L. Comai: Science, 346, 646 (2014)..一方,RNAサイレンシングは,内生RNAの分解を行うだけでなく,ウイルスのような外来RNAの分解も行っている.植物は,脊椎動物がもつような細胞性の獲得免疫系をもたないため,このRNAサイレンシングが植物にとって免疫のような役割を担い,ウイルス感染を防いでいるのである.

植物ウイルスの多くはRNAウイルスであり,高次構造をもつ一本鎖RNA(折り畳まれることでdsRNAとなる部分が生じる),または複製中間体として生じるdsRNAが植物細胞内に存在する.そのため,ウイルスが感染するとウイルス由来のsiRNAが細胞内に多量に生産され,ウイルスの塩基配列を標的としたRNAサイレンシングが誘導されてウイルス核酸は破壊される.ここで,clustered regularly interspaced short palindromic repeats(CRISPER)とCRISPER-associated(Cas)タンパク質を利用するCRISPER/Cas系に話を向けてみたい.これは,ここ数年で注目され始めた新しいゲノム編集技術であるが,実は真正細菌と古細菌がもつウイルス(ファージ)の感染抑制機構を利用したものである(5~7)5) P. Horvath & R. Barrangou: Science, 327, 167 (2010).6) L. A. Marraffini & E. J. Sontheimer: Nat. Rev. Genet., 11, 181 (2010).7) T. Gaj, C. A. Gersbach & C. F. Barbas 3rd: Trends Biotechnol., 31, 397 (2013)..CRISPER/Cas系も,外から侵入するDNAを標的として20塩基のガイドRNAが分解を誘導するというRNAサイレンシングとよく似たメカニズムに基づいている.原核生物と真核生物のどちらにおいても核酸の相補性結合を利用して特異的な核酸分解を行っているということは,このシステムの普遍的な重要性を示唆しており非常に興味深い.

RNAサイレンシングを阻害するRNAサイレンシングサプレッサー

上記のように,植物はRNAサイレンシングによってウイルス感染から自らを防御しているのだが,これに対抗するため,植物ウイルスの多くはRNAサイレンシングを抑制することができるRSSをもっている.報告されているRSSの多くは,RNAサイレンシング経路のdsRNA, siRNAやmiRNAに結合することができる(8~11)8) J. Burgyán & Z. Havelda: Trends Plant Sci., 16, 265 (2011).9) S. W. Ding & O. Voinnet: Cell, 130, 413 (2007).10) T. Hohn & F. Vazquez: Biochim. Biophys. Acta, 1809, 588 (2011).11) B. M. Roth, G. J. Pruss & V. B. Vance: Virus Res., 102, 97 (2004)..dsRNAやsRNAとRSSとの結合は,DCLによるsRNAの生成,sRNAのRISCへの取り込みを阻害する.ほかにも,いくつかのウイルスRSSが,DCLやAGO(ターゲットRNAを切断するエンドヌクレアーゼ活性(スライサー活性)をもつタンパク質で,RISCの主要な構成要素)などの主要タンパク質に結合することが報告されている.すなわち,さまざまなRSSによる多様なRNAサイレンシング阻害様式が存在する.たとえば,tombus virusのP19タンパク質はsiRNAと結合するRSSであるが,宿主植物の特定のmiRNA(miR168)の発現量を増加させることも報告されている(12)12) E. Várallyay, A. Válóczi, A. Agyi, J. Burgyán & Z. Havelda: EMBO J., 29, 3507 (2010)..このmiR168はAGO1(PTGSにおいて主要なAGO)のmRNAに相補配列をもち,AGO1を負に制御する.すなわち,tombus virusが感染した植物では,RNAサイレンシングの活性化によりAGO1の転写量が増加するものの,miR168によってAGO1タンパク質量は低下し,ウイルスに対するRNAサイレンシングが阻害されることになる.また,植物に感染するDNAウイルスのなかには,PTGSを抑制するRSSだけでなく,ウイルスゲノムDNAに対するTGSを抑制するRSSをもつものも存在する(13)13) R. Vanitharani, P. Chellappan & C. M. Fauquet: Trends Plant Sci., 10, 144 (2005)..また,植物ウイルスだけでなく,動物ウイルスや菌ウイルス(マイコウイルス)においても宿主のRNAサイレンシングを抑制する活性をもつ因子(多くの場合はタンパク質)がRSSとして報告されている.すなわち,RNAサイレンシングはウイルス抑制のために普遍的に利用されているメカニズムである一方,ウイルスもその対抗策としてRSSを進化させ続けてきたことを示唆している.

宿主因子との相互作用による病徴発現

ウイルスが植物に感染すると,わい化,奇形,モザイク,黄化,壊疽などのさまざまな病徴が現れる(図2図2■植物ウイルスが感染した際のさまざまな病徴).病徴発現や病原性にかかわるウイルス因子または宿主因子については古くから研究が行われてきたが,その分子メカニズムの詳細がわかっているものは多くない.ウイルスはゲノムとなる核酸と数個(多くて数十個)のタンパク質から構成されるが,病徴にかかわるウイルス側の因子として,特に,ウイルス由来のタンパク質が宿主植物のタンパク質と間接的あるいは直接的に相互作用することで病徴を引き起こす場合がある.rice dwarf virus(RDV)のP2タンパク質は,植物ホルモンであるジベレリンの合成にかかわるent-kaurene oxidasesと相互作用することが知られている(14)14) S. Zhu, F. Gao, X. Cao, M. Chen, G. Ye, C. Wei & Y. Li: Plant Physiol., 139, 1935 (2005)..ジベレリンは縦方向の伸長成長にかかわるため,その合成が阻害されることでRDVに感染したイネはわい化すると考えられている.Cucumber mosaic virus(CMV)の2bタンパク質は,CMVの長距離移行にかかわるタンパク質として最初に同定されたが,その後,siRNAやAGOとの結合能力があることからRSSとしても機能することがわかっている(15, 16)15) K. Goto, T. Kobori, Y. Kosaka, T. Natsuaki & C. Masuta: Plant Cell Physiol., 48, 1050 (2007).16) X. Zhang, Y. R. Yuan, Y. Pei, S. S. Lin, T. Tuschl, D. J. Patel & N. H. Chua: Genes Dev., 20, 3255 (2006)..この2bはさらに,宿主タンパク質のカタラーゼに結合するという性質ももつ.カタラーゼは細胞内の過酸化水素(H2O2)の除去に重要な酵素である.CMVが感染した組織では,カタラーゼの機能不全によってH2O2が過剰に蓄積し,H2O2が誘導する細胞死が進み壊死病徴となると考えられる(17)17) J. Inaba, B. M. Kim, H. Shimura & C. Masuta: Plant Physiol., 156, 2026 (2011).

図2■植物ウイルスが感染した際のさまざまな病徴

A: シロイヌナズナの全身壊疽病徴.B: ペチュニアの斑入り(color breaking)病徴.ウイルス感染によって花弁の赤色がまばらになっている.C: ニンニクの条班モザイク病徴.D: キュウリモザイクウイルスに感染したロベリア.健全個体は白色花弁だが,ウイルス感染によって花弁の一部が青色に着色した.これは花弁のアントシアニン合成がRNAサイレンシングによって発現抑制されていたが,CMVのRNAサイレンシングサプレッサーの影響によりRNAサイレンシングが抑制され,遺伝子発現が復帰した部分が生じたためと考えられる.

RNAサイレンシングと病徴発現とのかかわり

RNAサイレンシングが発見されその機能が次第に明らかになるにつれて,RNAサイレンシングを介した植物とウイルスの攻防の結果としてウイルス感染時の病徴が現れるのではないかと考えられるようになった.RNAサイレンシングによるウイルス量の不均一が病徴となって現れる例として,Tobacco mosaic virus(TMV)が感染したタバコに現れるモザイク病徴(葉で緑色の部分と退緑した部分が混在する状態)がある.モザイク病徴部分におけるTMVへのRNAサイレンシングの程度を調べると,緑色部分は退緑した部分に比べてRNAサイレンシングが強く働いていることが示されている(18, 19)18) C. J. Moore, P. W. Sutherland, R. L. Forster, R. C. Gardner & R. M. MacDiarmid: Mol. Plant Microbe Interact., 14, 939 (2001).19) K. Hirai, K. Kubota, T. Mochizuki, S. Tsuda & T. Meshi: J. Virol., 82, 3250 (2008).

また,RNAサイレンシングが内生遺伝子の調節とウイルスの感染防御のどちらも担っていることを考慮すると,ウイルスの感染によって内生遺伝子の調節にかかわるRNAサイレンシング,主にmiRNA経路が影響を受けることは容易に考えられる.miRNA経路は細胞の発達や器官形成を制御しているので,ウイルスの感染によって生じるウイルス由来の大量のsiRNAやRSSがRNAサイレンシング経路の正常な機能を阻害し,わい化や奇形といった形態異常を引き起こすと考えられる.

抵抗性遺伝子(R遺伝子)を介したウイルス抵抗性は,RNAサイレンシングと同様にウイルス感染からの防御応答を行う重要なメカニズムである.R遺伝子は共通してNucleotide-binding site–leucine-rich repeat(NBS-LRR)構造をもち,NBS-LRRを通じて病原体の侵入を感知して防御応答にかかわる遺伝子群を活性化する.R遺伝子はウイルスに限らずさまざまな病原体を攻撃するためにも機能している.近年の次世代シークエンス技術を利用したsRNAの網羅的解析によって,R遺伝子の発現制御を行うようなsRNAも発見されてきている.トマトでは,ウイルス感染と病原菌(糸状菌)感染のどちらも認識するR遺伝子を負に制御するmiRNAが見いだされており,このmiRNAの発現量が少ない品種は病原菌に対して抵抗性となることがわかっている(20)20) S. Ouyang, G. Park, H. S. Atamian, C. S. Han, J. E. Stajich, I. Kaloshian & K. A. Borkovich: PLoS Pathog., 10, e1004464 (2014)..一方,このようなmiRNAによるR遺伝子の負の発現制御は,ウイルスや細菌の感染によって阻害される場合もある(21, 22)21) F. Li, D. Pignatta, C. Bendix, J. O. Brunkard, M. M. Cohn, J. Tung, H. Sun, P. Kumar & B. Baker: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 1790 (2012).22) J. Zhai, D. H. Jeong, E. De Paoli, S. Park, B. D. Rosen, Y. Li, A. J. González, Z. Yan, S. L. Kitto, M. A. Grusak et al.: Genes Dev., 25, 2540 (2011)..miRNAによる制御が外れた状態でR遺伝子が発現することは過剰な抵抗反応を引き起こすことになり,予期せぬ細胞死を引き起こすこともある.また,ウイルスのRSSとR遺伝子とが相互作用する例もある.Potato virus Y(PVY)のHC-Proは非病原性タンパク質(Avr)として作用し,サリチル酸を介した防御反応を誘導するが,CMVのRSSである2bは宿主が発動したサリチル酸応答さえ阻害することができる(23, 24)23) L. H. Ji & S. W. Ding: Mol. Plant Microbe Interact., 14, 715 (2001).24) M. Shams-Bakhsh, T. Canto & P. Palukaitis: Virus Res., 130, 103 (2007)..これらのRSSによるサリチル酸応答への影響は,RSS活性(sRNAとの結合活性など)を欠失させた場合にも見られる.また,turnip crinkle virus(TCV)のRSSであるコートタンパク質(CP)は,宿主植物のR遺伝子によって認識され,過敏感反応死(HR)と呼ばれる強い抵抗性を誘導する(25)25) C. W. Choi, F. Qu, T. Ren, X. Ye & T. J. Morris: J. Gen. Virol., 85, 3415 (2004)..HRがうまく機能すると,ウイルスは感染点で死滅し,せいぜい局部病斑を作る程度の病徴を示すにとどまる.時々,ウイルスの系統と植物の品種の組合せによってはこのHRは暴走し,全身壊死症状に発展することもある.この例として,シロイヌナズナやナタネにturnip mosaic virus(TuMV)が感染したときに観察される全身壊死があり,この全身壊死はHR抵抗性が暴走した結果であることが報告されている(26, 27)26) C. E. Jenner, X. Wang, K. Tomimura, K. Ohshima, F. Ponz & J. A. Walsh: Mol. Plant Microbe Interact., 16, 777 (2003).27) Y. Kaneko, T. Inukai, N. Suehiro, T. Natsuaki & C. Masuta: Theor. Appl. Genet., 110, 33 (2004)..したがって,ウイルス感染による病徴発現は,RSSによるmiRNA経路の阻害の影響に加えて,R遺伝子がかかわる防御反応の乱れの影響も加味された結果として発現するとも考えられる.

ウイルスに寄生するサテライトRNAが誘導するRNAサイレンシング

ウイルスタンパク質ではなく,ウイルス由来の特異的な塩基配列が原因となり,RNAサイレンシングの直接関与によって病徴が引き起こされる特殊な例もある.植物ウイルスの粒子中には,サテライトRNA(satRNA)と呼ばれるサブウイルスが含まれていることがある.最小の感染性病原体とされるウイロイドもサブウイルスの一種である.CMVで見つかっているsatRNAは,330~400塩基の一本鎖RNAで,タンパク質をコードしないnoncoding RNAである.CMV satRNAは,CMVの複製酵素と移行システムを利用してCMVとともに増殖する.複製酵素の競合が起こるため,satRNAが感染するとCMVの増殖量が低下し,CMV単独感染時よりもCMVとsatRNAの同時感染では病徴が弱まることが多い.このため,satRNAはCMVに寄生するRNAとされ,CMVの弱毒化に利用される例もある.しかし,satRNAの種類によってはCMVの病徴が逆に強まることもあり,特に有名な例が,四国のタバコ畑で発見されたY satellite RNA(Y-sat)である.CMVはタバコやトウガラシに感染したときに緑色のモザイク病徴を誘導するが,CMVとY-satが感染すると鮮やかな黄化病徴に変わる(図3図3■CMV YサテライトRNA(Y-sat)による黄化病徴).この黄化病徴は,別の種類のsatRNAとCMVがタバコに感染した場合には起こらない.また,シロイヌナズナやトマトにCMVとY-satが感染した場合にも黄化は見られないことから,宿主側の因子とY-satの塩基配列の両方が黄化病徴にかかわると考えられてきた.Y-satによる特異的な黄化誘導は世界中の植物ウイルス学者に注目され,20年以上にわたりさまざまな研究が行われてきた.1989~1992年までに,黄化誘導に必要なY-sat内の配列の解析が進んだが(28~32)28) M. Devic, M. Jaegle & D. Baulcombe: J. Gen. Virol., 70, 2765 (1989).29) C. Masuta & Y. Takanami: Plant Cell, 1, 1165 (1989).30) M. Jaegle, M. Devic, M. Longstaff & D. Baulcombe: J. Gen. Virol., 71, 1905 (1990).31) S. Kuwata, C. Masuta & Y. Takanami: J. Gen. Virol., 72, 2385 (1991).32) D. E. Sleat & P. Palukaitis: Plant J., 2, 43 (1992).,宿主側の要因は不明のままであった.2004年,ウイルスのRSSを発現させた組換えタバコではY-sat感染時の黄化病徴が起こらないことが報告され(33)33) M. B. Wang, X. Y. Bian, L. M. Wu, L. X. Liu, N. A. Smith, D. Isenegger, R. M. Wu, C. Masuta, V. B. Vance, J. M. Watson et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 3275 (2004).,Y-satによる黄化誘導にはRNAサイレンシングがかかわることが示唆された.さらにその後の2011年,Y-satによる黄化誘導メカニズムがついに解明された.Y-satの塩基配列には,タバコのクロロフィル合成関連遺伝子Mg protoporphyrin chelatase subunit I(ChlI)のmRNAと相補的な22塩基の連続した配列があり,Y-satが感染したタバコで生じるY-sat由来のsiRNAがChlIのmRNAをRNAサイレンシングによって切断することがわかった(34~35)34) H. Shimura, V. Pantaleo, T. Ishihara, N. Myojo, J. Inaba, K. Sueda, J. Burgyán & C. Masuta: PLoS Pathog., 7, e1002021 (2011).35) N. A. Smith, A. L. Eamens & M. B. Wang: PLoS Pathog., 7, e1002022 (2011)..すなわち,CMVとY-satが感染したタバコではChlI発現量の低下が起き,その結果クロロフィル欠失が生じて黄化病徴となると考えられる.これは,ウイルスの病徴発現に宿主のRNAサイレンシングが直接的に関与することを実験的に示した世界で最初の例である.

図3■CMV YサテライトRNA(Y-sat)による黄化病徴

CMVがタバコやトウガラシに感染すると緑色のモザイク病徴が生じるが(写真左),CMVとY-satが同時に感染すると黄色のモザイク病徴になる(写真右).この黄化病徴は,トマトやシロイヌナズナでは起こらない.この黄化病徴が生じる原因は,Y-sat由来のsiRNAが植物のクロロフィル合成関連遺伝子(ChlI)にRNAサイレンシングを誘導し,その遺伝子発現を抑制するためであることがわかっている.黄化病徴が起こるタバコやトウガラシのChlIには,Y-satの配列と相補する22塩基の連続した配列がある.一方,黄化病徴が起こらないトマトやシロイヌナズナのChlIは,その配列部分に2または5カ所のミスマッチを含むため(赤字),Y-sat siRNAのターゲットとならない.

satRNAなどのサブウイルスによるほかの黄化病徴の例として,スイカズラの葉脈透過病徴や,ウイルスの病徴について記した最古の記述とされる万葉集のヒヨドリバナの黄葉病徴も有名だが,これらの病徴誘導メカニズムはまだ明らかになっていない.また,ウイロイドもsatRNA同様に多量のsiRNAを生じることから,ウイロイドの病徴発現とRNAサイレンシングの関連を調べた研究も進んでいる.ウイロイド由来のsRNAには宿主植物のmRNAにRNAサイレンシングを誘導すると想定されるものが見いだされ,実際に,mRNAの分解が起きている例も報告されている(36~38)36) B. Navarro, A. Gisel, M. E. Rodio, S. Delgado, R. Flores & F. Di Serio: Plant J., 70, 991 (2012).37) A. L. Eamens, N. A. Smith, E. S. Dennis, M. Wassenegger & M. B. Wang: Virology, 450–451, 266 (2014).38) C. R. Adkar-Purushothama, C. Brosseau, T. Giguère, T. Sano, P. Moffett & J. P. Perreault: Plant Cell, 27, 2178 (2014).

宿主ゲノムとウイルス病との関連

近年のシークエンス技術およびバイオインフォマティクスの発展により,ウイルス由来のsiRNAの網羅的な解析が可能となっている.TMVを用いた解析では,TMVから生じたsiRNAの中に宿主遺伝子をターゲットするものがあることが示唆されている(39)39) S. Qi, F. S. Bao & Z. Xie: PLoS ONE, 4, e4971 (2009)..しかし,これらの遺伝子発現とTMVによる病徴誘導との関連は不明であり,ウイルスゲノム由来のsiRNAが植物mRNAにRNAサイレンシングを起こすという報告はまだない.したがって,植物のRNAサイレンシングが病徴誘導メカニズムとして直接的に関与することは,起源不明とされるサブウイルスのnoncoding RNAでのみ起こる限られた現象なのかもしれない.一方,動物では,ウイルス由来のmiRNAが宿主mRNAの発現制御を行う例も報告されている(40)40) E. Gottwein, N. Mukherjee, C. Sachse, C. Frenzel, W. H. Majoros, J. T. Chi, R. Braich, M. Manoharan, J. Soutschek, U. Ohler et al.: Nature, 450, 1096 (2007)..さまざまな生物のゲノム解析が進み,動物だけでなく植物においてもゲノム内にウイルス様配列があることがわかってきているが(41~43)41) R. Belshaw, A. Katzourakis, J. Paces, A. Burt & M. Tristem: Mol. Biol. Evol., 22, 814 (2005).42) M. Horie, T. Honda, Y. Suzuki, Y. Kobayashi, T. Daito, T. Oshida, K. Ikuta, P. Jern, T. Gojobori, J. M. Coffin et al.: Nature, 463, 84 (2010).43) S. Chiba, H. Kondo, A. Tani, D. Saisho, W. Sakamoto, S. Kanematsu & N. Suzuki: PLoS Pathog., 7, e1002146 (2011).,この内在ウイルス様配列の存在と病気や抵抗性の発現との間には関連があるのかもしれない.たとえば,エボラウイルスを保有するが病気を発症しないコウモリは,エボラウイルスの遺伝子と相同性をもつ配列をゲノム内にもっているのに対し,エボラウイルス感染により病気になるブタや霊長類はその配列をもっていない.同様な相関が非レトロウイルス型のウイルスとそれに似た内在性配列をもつ宿主の間にもあることが指摘されている(44)44) K. Tomonaga: Uirusu, 62, 47 (2012)..また,ゲノム内のウイルス様配列が実際にmRNAのように転写され,相同性をもつウイルス感染の抑制にかかわることも示唆されている(45)45) K. Fujino, M. Horie, T. Honda, D. K. Merriman & K. Tomonaga: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 13175 (2014)..ここで紹介したCMVのY-satも,CMVとの塩基配列の相同性はなく起源不明とされてきたが,最近では,タバコの野生種Nicotiana benthamianaのゲノム内にミスマッチのある24塩基程度の相同配列があるとされている(46)46) K. Zahid, J. H. Zhao, N. A. Smith, U. Schumann, Y. Y. Fang, E. S. Dennis, R. Zhang, H. S. Guo & M. B. Wang: PLoS Genet., 11, e1004906 (2015)..病気の発症と宿主ゲノム内の内在性ウイルス様配列との関連を明らかにすることは,そもそもウイルスとは何なのか? そしてどうして病気を起こすのか? などさまざまな謎の解明につながるかもしれない.

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