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高砂香料工業株式会社研究開発本部アロマイングリディエンツ研究所所長 松田洋幸 氏

Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry

公益社団法人日本農芸化学会

Published: 2016-12-20

高砂香料工業株式会社は,わが国初の合成香料製造会社として誕生して以来,日本の香料会社としては最も早くかつ最大規模のグローバル展開を行い,世界トップ5に入る香料会社として香料業界を牽引している.世界初の不斉合成法によるメントールの工業化に代表されるように,触媒開発,バイオによるナチュラルイングリディエンツ開発など高い技術力を通じて製造される食品向けのフレーバー(食品香料),香水や化粧品向けのフレグランス(香粧品香料)はさまざまな製品に役立てられている.今回,これら香料の原料開発を行っているアロマイングリディエンツ研究所の所長としてご活躍の松田洋幸さんに,ご自身の研究への姿勢や若手研究者へのメッセージなどについて熱く語っていただきました.

大学時代の研究への目覚め

—— まずは学生時代のご経験をお聞かせいただけますか.

松田 私は静岡市出身で,1979年に岡山大学の工学部工業化学科に入学しました.今は仕事で英語を使う機会も多いですが,岡山大学工学部を選んだ理由は二次試験に英語がなかったからでした.そのぐらい英語が好きではない人間でした.学部時代も優をたくさん取ろうという意識は特になく,単位をそろえて卒業できたらいいかなとのんびりと過ごしておりました.

岡山大学は4年生になると研究室を選ぶのですが,当時は有機化学,無機化学,高分子化学,化学工学の4つがありました.そのなかで有機化学講座の,今はもう引退されていますが,鳥居滋教授の研究室が非常にほかの3つに比べて熱いというか,外部からの評価も高く非常にアクティブな研究室でした.3年間のんびり過ごしてきたので最後くらいは一生懸命やって,卒論を書いて卒業しようと思いその研究室を選びました.

有機電解合成化学といって,反応液に電極を入れて通電し,酸化還元試薬を使わずに電子レベルで有機反応を設計したり,機構を考察したりする実験に興味をもちました.それで有機合成反応は面白いなと思い実験は真面目にやる方だったと思います.先生方も含め皆夜遅くまでやっていましたね.そのときの鳥居先生の言葉が,今でも覚えていますが「自己酷使」という言葉を使っていました.

—— 自己酷使,恐ろしいですね.

松田 いい結果を出す,そのためにはやはりかなり自分を律して頑張る,実際先生自身がそんな感じでしたね.ですので,われわれもその雰囲気に乗せられ実験も勉強もよくやっていたと思います.

4年生になって実家に帰ったときに「ぼちぼち就職かね」と言う両親に,「いや,実は大学院に行きたいんだ」と1年前とは大きく意識が変わっていたことを覚えています.

大学院時代の留学経験

松田 当時,鳥居先生の研究室は海外の先生とも盛んに交流されていまして,今では当たり前ですが,35年前ですから結構珍しかったですね.それで学会などで先生方が来日された際,ちょっと岡山大学まで講演に寄っていただいて,一緒にディナーや休日の案内なども経験させていただきました.また,懇意だったスイスのローザンヌ大学シュロッサー教授との間で,交換留学生制度もスタートしており,自然と海外へ目が向くようになっていきました.

それからラッキーなことに私も3番手として,大学院1年の夏から2年の夏まで1年間留学の機会をいただき,ローザンヌ大学化学科で有機金属化学を学びました.かけがえのない経験で,そこで英語嫌いだった自分が英語や仏語で海外の人たちと接し,一緒にやっていく楽しさに気づかせてもらいました.ですから鳥居研に入って,人生の方向といいますか,守備範囲が大きく変わった実感があります.

—— その間,英語は大丈夫でしたか.

松田 もう行く前は,実験中でも3時になると毎日NHKのラジオ講座をやり,英会話教室にも行きました.結局行ってみたら役に立たなくて,ぶっつけ本番でとりあえず衣食住からやるみたいな形でした.研究室以外にも好きな電車旅行で場数を重ね,上手くはないですが,意思疎通まではいけるようになったかなと.

ただ,気持ちの面では,行く前と帰ってきてからでは全然違いましたね.「海外だと自分がやりたいことはやりたいと言わないと,何もやらずに終わってしまうよ」と先輩から聞いていましたので,後半は割と図々しく言いたいことを言うことができましたね.それで帰国後も,積極的に動けるようになったという感じはありました.

高砂香料への入社

松田 修士修了しまして,高砂香料に入りました.当時,香料会社という匂いを作る専門会社が存在すること自体を知りませんでした.静岡出身でしたので,ただ東京近辺での就職を希望していました.先生に「関東で有機合成の研究できるところありませんか」と相談し,高砂香料の研究所へ面接に行きまして,不斉合成によるメントール製造の話を聞いて帰って,それで決まりでした.当時理系の学生は入社試験や就職活動などはほとんどなかったですね.有機合成には製薬や農薬などいろいろありますが,香料と聞いて何か多少は色気がありそうだなと思って入りましたが,特に将来何をやりたいとかは余り考えていませんでした.

—— 学生時代は香料がらみの合成は全くやっていなかったのですか.

松田 実は4年生のときに有機電解合成でローズオキサイドを作っていまして,今考えると香料と無縁でなかったなと.それと,高砂香料はグローバル香料業界の5番目ですが,1番と2番はジボダンとフィルメニッヒでともにスイスの会社です.ローザンヌ時代にお世話になったドクターコースの学生が実はフィルメニッヒに就職していたとか,運命じゃないですけど,少し感じるところはありますね.

高砂香料に入りまして31年目ですが,計約25年間アロマ素材の合成開発をやってきました.基本的にはニュー・モレキュール,新しいフレグランス香料素材の開発にほとんど従事してきました.

—— 部署はどのように決まっていったのですか.

松田 弊社は入社後に工場研修が数カ月から1年ほどあり,私の場合は磐田工場に4カ月行き,工場でのものづくりを体感しました.それから現在本社がある東京蒲田の研究所に正式配属し,アロマ素材の研究開発をスタートした次第です.

特許・イズ・マネー的な感覚が海外ではすでにありましたが,当時の日本ではそれほど強くありませんでした.そこで海外にも複数拠点がありますので,特に高砂アメリカの大物調香師と日本人の調香師,さらに日本人のケミストによる,ニュー・モレキュール開発のプロジェクトが立ちあがりました.入社早々にそのチームで研究開発をやりましたので,ものづくりを特許で押さえてビジネスにつなげる感覚を,プロジェクトチームの外国人に強く言われましたね.

—— 英語ですよね.留学時代がいい経験になっているということですね.

松田 もちろん英語です.ラッキーだったのは,その当時まだ外国人が来ると敬遠する人が多かったですね.たとえばディナー設定ではなかなか人が集まらず,そうすると若者のほうにも話が回ってくるわけです.たまたま大学時代にそういう経験がありましたので全然抵抗もなく楽しめたので,今考えると若いときに非常に多く経験させていただきありがたかったなと思っています.

ニュー・モレキュールなアロマ素材を合成化学者が開発したとしても,それの価値を評価するのは調香師です.どういう匂いが欲しいのか,自分が作ったモノが本当に彼らの欲しい範疇に収まっているのかと.アロマ素材開発がグローバルなプロジェクトになってからは,日本人の調香師だけでなく,海外の調香師の意見がないと話が前に進まないので,調香師とのコミュニケーションが不可欠だと積極的にやった覚えはあります.

国内留学と博士号

松田 3年間の研究所勤務後,東京大学農学部の森謙治先生の研究室に2年間勉強に行く機会に恵まれました.学生時代は,反応を中心にやっていましたが,森研究室で天然物の全合成を経験させていただきまして,有機合成的には反応も合成も身に付けられて良かったと思っています.

岡山大学は当時博士課程がなく修士まででしたので,森研究室にお世話になっている間に,優秀な学生さん,博士課程の学生さんらのなかで過ごさせていただき,何となく,このぐらいすごいのかとか,頑張れば手が届くかもなど,国内外の経験から手応えをまあまあ感じることができました.

—— 岡山の時代に博士課程があったら,当時行こうと思いましたか.

松田 行ってないと思います.給料が安くてもいいから研究に従事したいぐらいの決意がないと,当時はなかなか博士課程へ行かない時代でした.そのつもりもなかったですし,企業に就職して研究者をやれればいいと思ったので迷わず修士で卒業しました.

今,高砂香料は,グローバルに欧米のトップ4の香料会社としのぎを削っていますが,そこにはPh.D.レベルの核になる研究者が何人かいて,彼らを軸に研究を回しています.もちろん給料も高いわけですが.われわれもPh.D.レベルのコアな研究者を中心に回すぐらいでないと,マスター中心で勝負しようとしてもなかなか難しいところはあるなと感じています.

先日機会があり日本の博士課程の学生さんに尋ねたところ,「相変わらず研究するために博士課程に行く人がほとんどです」と聞き,30年前と余り変わってないなと.博士課程に行く人のなかには将来大学に残るためだけでなく,企業に行ってばりばり第一線で世界と闘う人が増えてほしいなと期待しています.

研究グループ内の多様性

—— 海外風にPh.D.を中心にというのは,少し合わない,方向が違うような気もしますが.

松田 方向は別に違わないと思います.特に私がいる合成部門はマスターの日本人男性がほとんどで,色でいうと単色系でした.今は女性も入ってもらいましたし,欧米のPh.D.研究者も入ってもらいまして,できるだけ多様性の下,発想のバラエティーも含めて進めています.マスター・ドクター,男性・女性,日本人・外国人,若手・ベテランといろいろいたほうがいいと.

—— まだまだ女性の進出も狙えそうですね.

松田 合成は危ない面もあるだろうと今まであまり積極的に入れていませんでした.最近は興味があって意欲がある人は,男女問わず頑張ってもらう姿勢です.研究所全体ではフレグランスやフレーバーや分析などありますので,4割ぐらい女性がいます.全体的に見ると女性が比較的多い研究所だと思います.

アロマ素材開発という仕事

—— アロマ素材開発というお仕事について差し支えのない範囲でお聞かせいただけますか.

松田 アロマイングリディエンツ研究所では,おもにフレーバー調合用に,天然に存在する有用アロマ素材を微生物や酵素などで製造するバイオ技術の開発と,おもにフレグランス調合用に,天然に存在しない新しい匂い分子を合成化学的に開発する仕事を行っており,後者について少しお話させていただきます.

基本的には天然にある構造や市場で非常に評判の良い構造を参考にし,もう少し作りやすく,より安定性に優れ,より安全性が高いなど,課題を解決する改良を加えて自社のアロマ素材を開発し特許で押さえるという流れです.それを自社の調合香料に使うことで,香水や洗剤やシャンプーなど,他社との匂いの差別化に役立てるわけです.

—— 開発というのは何かの考えを基にさまざまな化合物を合成し,いいものができたら大量に合成する方法を考えるという流れですか.

松田 大きく2つありまして,より効率的に安く作るというコストダウンプロセス検討と,もう一つは新しい構造のモノですね.新しい構造で優れた匂いをもっているものを開発しても,結局工場で作れるプロセスを確立しないといけません.そして,匂いが優れていても,高価すぎて使えないとか,安全性や安定性が不十分の場合もありますし,製品になるのは1%もない感じですね.

—— 香りは1種類の化合物だけでなく,いろいろ混ざり合ってできていると思いますが,調香師さんの考えで,こういう感じの新しい匂い素材が加わるともっと新しい香りができるとか,そういう考えでよろしいですか.

松田 いいと思います.彼らは何か新しい匂いをかぐと,頭の中にイメージが浮かぶんですね.これがあると,今まで出せなかったニュアンスが出せるんじゃないかと,そういう発想をするようです.大概はすでにある匂いで興味がないと言われますが,ときにはピンとくるユニークな匂いが何百個に1個ぐらいは出ます.それを工業化できると,彼らが差別化できる調合香料を作って競争力を高めるというのが,アロマ素材開発の第一の目的です.

フレグランスの場合には自然界に答えがない場合も少なくありません.たとえば青森産のふじりんごの匂いであれば,お手本がそこにあるので分析すれば答えに近づけるはずです.しかし,フレグランスの場合は,たとえば太陽の匂いなど,答えのないものの依頼が来る場合もあります.そうなると調香師のイマジネーションやクリエイティビティなどの多彩な感性と,説得できるコミュニケーション能力が問われます.鼻がいいだけでは,人をひきつける匂いは作れません.

—— 合成される方たちも,匂いのイメージをもっていますよね.

松田 日々が匂いの勉強で,自分がいいと思ったら調香師のところにもって行きコメントを間近に聞いてくる.何回も何回も繰り返しです.好きこそものの上手なれと言いますが,匂いに興味をもたないケミストはいい匂いを作れないと思います.調香師とのコミュニケーションを通じて,彼らはどんなものを欲しているのか,細かいニュアンスも全部興味深く,好奇心をもって聞けないと,まず続かないと思いますね.

—— これは一番やりがいのあった仕事,もしくは大失敗の話とかありますか.

松田 香料開発でよくある話の一つですが,いいと思って純度を上げていくと,匂いが弱くなることが時々あります.結局,そのメイン成分が匂いの一番大事なものではなく,微量な不純物が実は匂いの本質だったということは,香料会社の方では経験があると思います.私もコストダウン検討をやっていたときに,モノの純度をどんどん上げていったら,調香師の評判がどんどん低くなりまして.結局,非常に微量な異性体が匂いの本質だったと判明し,そちらを製品化したことがあります.コストダウン検討は見事に失敗しましたが,新素材として上市に至ったことはありました.

香料の世界

—— 香りの世界にも流行はあるのですか.

松田 今はフローラルミュゲの匂い開発,スズランとかユリの匂いがターゲットの一つになっています.流行もありますし,最近は安全安心の感覚が強くなってきています.以前はいい匂い素材は積極的に使われていましたが,最新の安全性試験結果次第で規制が掛かる場合があります.そうなると今まで自由に使えていたものが急に使えなくなり,そこに新しいビジネスチャンスができますので,規制動向をいち早く見ながら,次のターゲットを探すことも大きなアプローチです.

もちろん,もっといい香りを創るための調香師からの要望が第一ですが.香料の安全性を担保するために,皮膚感作性や変異原性や環境毒性など相当数の試験をしています.今は1品を上市するには何千万円も費用がかかるので,本当に良いものを厳しくセレクトする流れになってきています.より安全なものへの置き換えが以前よりもどんどん進んでいますので,そこに狙いどころがあるのも事実ですね.

—— 洗剤に入っていて衣服に匂いが残るとか,汗と反応してから匂いが出るとか最近多いですよね.

松田 今は特にそうですね,高残香性香料への開発要請は強いですね.逆に最近強い匂いが苦手な人もいるくらいで,とにかく香りが強く長くみたいな傾向がありますね.15年ほど前に無香料ブームもありまして,香料が悪者みたいな風潮があり本当に困りましたね.

—— 消臭というのはまた考え方が全然違いますか.

松田 消臭も大きなビジネスです.昔は強い匂いで打ち消す手法もありましたが,最近は吸着したり,におい分子を臭くない分子に変えたり,化学的な根拠の消臭法が出てきています.一方,最近は嗅覚レセプターの研究が急速に発展し,匂いや悪臭などを,レセプターレベルでいろいろ考察する時代になってきています.もちろんわれわれが担当しているニュー・モレキュールの開発においても,レセプター応答を使いながら開発するのが一般的になりつつありますね.

薬の場合は化合物とレセプターの関係が1対1の場合が多いですが,香料の場合は一つの化合物が複数のレセプターに反応しますので,一つのレセプターに応答が強い構造を開発しても,ほかのレセプターとの応答が変わると,最終的に脳で認識する香りが変わる可能性が高いので,非常に難しいですね.30年ほど前は,嗅覚レセプターは解明されてなかったので,化学構造を紙に書いたり,簡単な分子模型を組みながら開発していました.当時は,「そのうちレセプターが解明されれば,ニュー・モレキュール開発はもっと簡単で確実になるよね」と言っていましたが,今,実際に嗅覚レセプター研究がここまで進んでくると,結局,簡単じゃないねっていう話なんですが(笑).

—— 香水などに香りが入っているのはわかるのですが,意外なところに入っている例はありますか.

松田 入っていないものを探すのがたいへんなくらい入っていると思いますよ.たとえばいろいろな加工食品や香粧品の原材料名欄の後の方に「香料」の二文字を見ることができます.無果汁製品にはもちろんですが,ねりワサビやノンアルコールビールにも入っています.

化学と生物,農芸化学の若者に望むこと

松田 たとえば,最近ではグリーンケミストリーやサステイナビリティーといったキーワードが重要視されるなか,遺伝子組換え技術を用いた微生物による物質生産が非常に勢いを増してきています.われわれ,高砂香料自体はもともと合成化学できていますが,最近のバイオテクノロジーを使ったアロマ素材の開発・工業化が現実味を増していますので,われわれも合成一辺倒でなく,どちらが得意な構造かをしっかり見極め使い分けていく必要があると思っています.微生物なので農学部系,農芸化学系ですかね.

—— そうですね.まさに農芸化学の分野ですが,それを学ぶ若者に望むことはありますか.

松田 アロマイングリディエンツ研究所は半分がバイオグループで,微生物によるものづくりに関しては非常に期待も需要も膨らんで力を入れている分野です.

私が感じているのは,微生物系で長くやってきた人は,化学構造や化学反応に無頓着な人が多いですよね.微生物を含むバイオテクノロジーによる物質生産も結局,有機反応だと思っています.生き物がやってくれるのでブラックボックスで構わない,中で何がどんな理由で,どんな反応が起こっているのかを気にしない人が多いと思います.ある程度,有機化学もわかったバイオロジストといいますか,両方わかる人がすごく大事になってくると思います.「俺は微生物が専門だから,化学式はよくわからん」,そういう時代じゃなくなってきていると思います.私はずっと有機合成できた人間なので,今のバイオテクノロジー,微生物による物質生産に関しては,もうビクビクするくらいすごいと正直思っていますので,有機化学をしっかり勉強されたほうがいいと思います.生物系の人の書く構造式は,文献中でも結構間違っていたりしますからね.

ボーダーレスなコミュニケーション能力

松田 英語,日本語とかの括りではなくて,専門知識でのコミュニケーションのなかで,本社の人に,あるいは文系の人に,良いたとえを使ってわかりやすく説明できる能力は本当に大事だと感じます.特にリーダー格になりますと,相手が何人(なにじん)だろうが,何語だろうが,文系だろうが,理系だろうが,自分たちの研究活動の意義や将来像などを話せることが必要になってくると思います.専門用語に頼らない総合的な話になる場合もありますので,会社の中で違った部署もいろいろ経験するのも非常に重要だと思っています.ずっと研究所にいることが本当に一番企業人として良いのかと,私自身も最近よく考えますね.

—— 社内でのコミュニケーションはよく取られているわけですね.

松田 よく連絡を取り合っています.平塚に複数の研究所が同居していて,開発推進部という部署がそこに横串を刺すような役割ですので,よく相談したり研究所間でもクロスミーティングをしています.

業界トップ4と闘っていくには,規模も小さいので総合力を発揮しないと勝ち目ないですから.自分らの数倍大きい相手と,多少なりとも闘える状態にしておく必要はあると思っています.

—— 最後に香料会社を目指す農芸化学の若者へメッセージをお願いします.

松田 ある程度の遊び心というと少し変ですけど,研究ですからなかなか簡単にできない状況も受け入れるぐらいの心構えがあったほうがいいと思います.人一倍の好奇心と,ある一定以上の学力があればいい研究ができると思っています.

香料はもともと動植物から見いだされたものなので,天然物や微生物や生化学などを通して,生命現象と何らかの関係があると思います.会社に入ってからは応用が主体で,基礎を学ぶ機会は多くないと思うので,生物や天然物に関してはしっかり学んでこられた方が,仕事に面白さを見いだす一つの切り口になるのではと思います.

—— せっかくそういう分野で学んでいるわけですからね.本日は有意義なお話を聞かせていただき,ありがとうございました.