農芸化学@High School

マヌカハニーのマウス腸内フローラにおよぼす影響マヌカハニーは腸内フローラの悪玉菌をやっつけた

高野 美穂

山村学園山村国際高等学校生物部

Published: 2016-12-20

本研究は,日本農芸化学会2016年度大会(開催地:札幌コンベンションセンター)での「ジュニア農芸化学会」において発表され,金賞を授与された.マヌカハニーには抗菌活性成分の「メチルグリオキサール」が含まれることから,腸内フローラの改善も期待できるのではと考え,マウスを使って検証を行った.その結果,ヒトの体重60 kgあたり1日の摂取量に換算して10 gを,マウスに1日1回,2週間にわたり摂取させることで,「善玉菌(ラクトバチルス)」の割合が増加し,「日和見菌(バクテロイデス・プレボテラ(バクテロイデテス))」と「悪玉菌(クロストリジウム)」の割合が減少した.この研究は,マヌカハニーの腸内フローラの改善を通して健康増進の可能性を示したもので,たいへん興味深い研究として学会から高く評価された.

本研究の目的,方法,結果および考察

【目的】

山村学園山村国際高等学校生物部の研究は微生物(真正菌類)を対象としている.ここ数年は天然の抗菌力をもつ食材を対象に,化学物質に頼らない環境にやさしい抗菌効果を検証(1~3)1) 山村国際高等学校生物部:ペーパーディスク法を使用した天然防腐剤の抗菌効果の測定,第4回坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト作品集(東京理科大学理窓会),2013.2) 山村国際高等学校生物部:ソックスレー法を使用した天然防腐剤の抗菌成分量の比較,第5回坊っちゃん科学賞研究論文コンテスト作品集(東京理科大学理窓会),2014.3) 山村国際高等学校生物部:ペーパーディスクを使用した香辛料の抗菌効果の測定,第12回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞受賞作品集(神奈川大学),2014.してきた.2014年の研究(4)4) 山村国際高等学校生物部:天然食品の食中毒菌に対する抗菌効果の測定,第13回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞受賞作品集(神奈川大学),2015.では,ニュージーランドのマヌカハニー(抗菌生蜂蜜)の抗菌効果を,食中毒原因菌をマーカーとして検証し,高い抗菌力を発見している.そして,この抗菌力の源は,マヌカの花蜜に含まれる先駆物質である「ジヒドロキシアセトン」が,暖められたミツバチの巣房内で「メチルグリオキサール」と呼ばれる抗菌活性成分に変性して産生されると知った(4)4) 山村国際高等学校生物部:天然食品の食中毒菌に対する抗菌効果の測定,第13回神奈川大学全国高校生理科・科学論文大賞受賞作品集(神奈川大学),2015..そこで,このように高い抗菌力を備えているマヌカハニーならば,腸内フローラを構成する善玉菌(ラクトバチルス)と悪玉菌(クロストリジウム)のバランス改善(善玉菌の優勢)に役立つ機能性を示すのではと考え(仮説),マウスを使って検証を行った.

【方法】

1. マヌカハニーと乳酸菌飲料

天然食品のマヌカハニーは,ニュージーランドでは多数流通しており,その抗菌活性値の表記もさまざまであるが,今回は最強の「メチルグリオキサール」含有量(1 kgあたり900 mg)を誇る900(TCN社)(5)5) ストロングマヌカハニー:http://www.tcn.co.jp/pps/manuka/(以下,マヌカハニーと記す)を使用した(図1図1■本実験に使用したマヌカハニー900(左)とLG21(右)左).これをヒトの体重60 kgあたり1日の摂取量5, 10, 15, 20, 30 gに換算して,各実験区の投与量とした(表1表1■各実験区におけるマヌカハニーとLG21のマウス強制投与量(ヒト60 kg換算値)).また比較のために,腸内フローラを改善する「善玉菌」の増加に影響するといわれる乳酸菌飲料(プロバイオティクス)として,今回は明治プロビオヨーグルトLG21(明治)(6)6) (株)明治:http://www.meiji.co.jp/dairies/yogurt/lg21/(以下,LG21と記す)(図1図1■本実験に使用したマヌカハニー900(左)とLG21(右)右)を,同じくヒトの体重60 kgあたり1日1本の摂取量に換算して実験区を設定した(表1表1■各実験区におけるマヌカハニーとLG21のマウス強制投与量(ヒト60 kg換算値)).したがって,実験区はマヌカハニーで5区,LG21で1区,計6区となり,また対照区は水のみで,最終的に合計7区の設定となった.マヌカハニーは表1表1■各実験区におけるマヌカハニーとLG21のマウス強制投与量(ヒト60 kg換算値)の換算量を0.1 mLの精製水に溶解したものをニードルとシリンジを用いて強制的に1日1回経口投与した.LG21はそのままニードルとシリンジを用いて強制的に1日1回経口投与した.投与は2週間行い,水(水道水)と餌(CE-2:日本クレア)は自由に摂取させた.

図1■本実験に使用したマヌカハニー900(左)とLG21(右)

表1■各実験区におけるマヌカハニーとLG21のマウス強制投与量(ヒト60 kg換算値)
実験区ヒト60 kg1日摂取相当量①マヌカハニー5 g相当②マヌカハニー10 g相当③マヌカハニー15 g相当④マヌカハニー20 g相当⑤マヌカハニー30 g相当⑥LG21112 mL(1本)
マウス投与量1.8 mg/0.1 mL3.5 mg/0.1 mL5.3 mg/0.1 mL7.0 mg/0.1 mL10.5 mg/0.1 mL0.04 mL

2. 試験マウスおよび飼育法

試験マウスは,東京実験動物から購入した5週令のC57BL/6Jマウス(♂)(図2図2■マウスによる実験の様子左)を21匹使用し,実験には3匹を1区とした(図2図2■マウスによる実験の様子中央).また腸内フローラの観察には,マウスの解剖ではなく,脱糞した糞便を使用した.しかも腸内フローラを構成する菌種は嫌気性菌であり,脱糞した糞便への酸素の暴露は多くの菌種を死滅させる.そこで予備実験として,当初ケージより糞便を採取したが,酸素の暴露と乾燥によるものなのか培養結果の成績が良くなかった.次に,ケージに網を敷いて糞便採取を試みたが,糞便と尿が混ざり,これも失敗であった.そこで,糞便分離チューブを有するマウス代謝ケージ(テクニプラスト・ジャパン)(図2図2■マウスによる実験の様子右)にて,マウスを飼育し,糞便の採取を行うことにした.また同ケージにて飲水量の計測も行った.ケージは生物室内に設置し,自然照明下,室温は25±2°Cで飼育した.

図2■マウスによる実験の様子

本実験に使用したC57BL/6J(♂)(左),代謝ケージ(中央),糞便分離チューブ(右)

3. マウス腸内フローラの解析

マウス腸内フローラの解析には,代謝ケージの糞便分離チューブから回収した糞便を使用した.この糞便をウマ脱線維素血液BL培地(以下,ウマ血液BL培地と記す)を使った培養によるコロニー性状の解析と,分子生物学的手法である16S rRNA T-RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)系統解析の二法により検証を行った.前者の培養による解析では,この採取した糞便を光岡(7)7) 光岡知足:感染症学雑誌,45, 406, 1971.の希釈液を用いてホモジナイザ—ですりつぶし,さらに段階希釈したものをシャーレ上のウマ血液と混釈し,これに50°CのBL培地を流し込んだ後,嫌気環境下(アネロパック使用)で,37°C・2~5日培養した.培養後,嫌気性菌のコロニー性状を,これも光岡(7)7) 光岡知足:感染症学雑誌,45, 406, 1971.の菌種判定表を参照し,「善玉菌(ラクトバチルス)」・「悪玉菌(クロストリジウム)」・「日和見菌(バクテロイデス・プレボテラ)」などを指標に,マウス腸内フローラのプロファイルの解析を行った.T-RFLP系統解析法では,16S rRNA遺伝子の可変領域をPCRプライマーで一括増幅し,遺伝子の塩基配列の差異から,データベース化された菌種を検出する断片多型性による解析(テクノスルガ・ラボ委託)(8)8) テクノスルガ・ラボ:http://www.tecsrg.co.jp/tecsrg/t-rflp-intestinal-flora.htmlを実施した.この手法によれば腸内フローラを構成する菌種や,その組成プロファイルの解析が可能になり,しかも多検体であっても特定菌種や菌群に絞り込んで探索することができる(9, 10)9) 大野博司,服部正平(編):常在細菌叢が操るヒトの健康と疾患,実験医学,32(5), 2014.10) 大田敏子:宇宙航空環境医学,49, 37, 2012.

【結果および考察】

試験期間中のマウスの体重(図3図3■試験期間中の対照区と実験区におけるマウスの体重(A)と飲料水の摂取量(B)上)については,対照区の水と実験区②のマヌカハニーおよび実験区⑥のLG21のいずれにおいても大きな変化は見られず,区間の大きな差は見られなかった.飲料水の摂取量(図3図3■試験期間中の対照区と実験区におけるマウスの体重(A)と飲料水の摂取量(B)下)については,対照区で多い傾向が見られた.この原因は,実験区のマヌカハニーは精製水に溶かして,またLG21は液体のままマウスに強制投与しているので,対照区のマウスより水分を強制的に摂取している状態となり,実験区のマウスでは飲水量が増加しないと考察している.マヌカハニー投与区とLG21投与区の間では差はほとんど見られなかった.

図3■試験期間中の対照区と実験区におけるマウスの体重(A)と飲料水の摂取量(B)

n=3)

また糞便をウマ血液BL培地にて嫌気環境下(アネロパックを使用)で培養した結果,コロニーが比較的に多く観察できたのは,実験区①・②のマヌカハニーと実験区⑥のLG21であった.実験区④・⑤のマヌカハニーには,この抗菌効果によるものなのか,コロニーがほとんど観察できなかった.さらに光岡(7)7) 光岡知足:感染症学雑誌,45, 406, 1971.の菌種判定表を参照して,コロニー性状から菌群の特定を試みたが,コロニーが小さく菌種の判定は困難であった.

図4図4■マウス腸内フローラのプロファイル(T-RFLPによる)は,各実験区から採取したマウスの糞便をT-RFLP法で解析した腸内フローラのプロファイルである.このT-RFLP法のプロファイルでは,ラクトバチルス(黄色),バクテロイデス(緑色),プレボテラ(鶯色),クロストリジウム(桃色・赤色・紫色)が主に検出された.一般的にラクトバチルスは「善玉菌」,バクテロイデス・プレボテラ(バクテロイデテス)は「日和見菌」とされている.クロストリジウムは多様な細菌種を含むが,有害菌も多いことから,ここでは「悪玉菌」と分類することにした.その結果,「善玉菌」のラクトバチルス(黄色)が多く,「日和見菌」のバクテロイデテス(緑色・鴬色)や「悪玉菌」のクロストリジウム(桃色・赤色・紫色)が一番少ないのは,実験区②のマヌカハニー10 g摂取群(ヒト60 kgあたり1日の摂取量に換算)であった.これを対照区(水)と比較すると,「善玉菌」は約4.5倍の増加,「悪玉菌」では約1/2以下に減少している.また,腸内フローラの改善に影響を与えるといわれる乳酸菌飲料として設定した実験区⑥のLG21との比較でも,「善玉菌」は約1.9倍の増加,「悪玉菌」では約1/2に減少していた.全細菌に対する善玉菌比率を見ても,やはり実験区②が54.3%と,ほかの実験区の腸内フローラの善玉菌比率より成績が良く,これらの数値は確実に腸内フローラのバランス改善を示している.