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アレスチン様輸送アダプターを介した酵母膜タンパク質の品質管理基質を識別しているのは何か?

Fumiyoshi Abe

阿部 文快

青山学院大学理工学部化学・生命科学科

Published: 2017-01-20

細胞膜は外界の情報を細胞内に伝達するインターフェイスで,その担い手は細胞膜タンパク質(以下,単に膜タンパク質とする)である.微生物の環境適応や高等生物の発生・分化など,細胞が運命の舵を大きく切るとき,膜タンパク質が分解されダイナミックにリモデリングされるのは合理的だ.しかし,細胞が内外の環境に合わせ膨大な膜タンパク質をどうやって分解制御しているのか,その選別のしくみがよくわかっていない.エンドサイトーシスによる内在化は膜タンパク質分解の開始点で,ユビキチン化が引き金となる.ユビキチン化された膜タンパク質は,初期エンドソーム,後期エンドソームを経てリソソーム(酵母の場合は液胞)で分解される.ほ乳類上皮細胞のNaチャネルENaCは,C末端側の細胞質ドメインにPYモチーフ(Pro-Pro-X-Tyr配列)をもつ.このPYモチーフがHECT型ユビキチンリガーゼNedd4のWWドメインと相互作用するため,Nedd4によるENaCの選別は一義的に決まる(1)1) P. M. Snyder: Sci. Signal., 2, pe41 (2009)..しかし,多くの膜タンパク質はPYモチーフをもっていない.ではいったい何が基質とユビキチンリガーゼを介在しているのだろうか? 注目されているβ-アレスチンについて見てみよう.

身の安全がおびやかされるほどのストレスを感じると,ヒトはアドレナリンを放出する.アドレナリンは7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つβ2アドレナリン受容体を刺激する.刺激を受けて活性化したβ2アドレナリン受容体はGタンパク質を活性化し,プロテインキナーゼAを介した細胞内代謝の増大を引き起こす.だが活性化状態が長く続くと有害なので,受容体は脱感作されなければならない.このとき重要なのがGPCRキナーゼとβ-アレスチンである(2)2) S. K. Shenoy, P. H. McDonald, T. A. Kohout & R. J. Lefkowitz: Science, 294, 1307 (2001)..GPCRキナーゼは活性型の受容体を認識し,そのC末端や細胞質側ループ領域のSer/Thr残基をリン酸化する.リン酸化された受容体はβ-アレスチンとの相互作用が強化され,その立体障害によりGタンパク質との結合が減弱する.こうして脱感作が成立する(図1図1■膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスにおけるβ-アレスチンおよびARTsの役割).注目すべきは,ユビキチン化におけるβ-アレスチンの役割だ.受容体に結合したβ-アレスチンは,次にユビキチンリガーゼMdm2とNedd4,およびエンドサイトーシスを担うクラスリンやAP2などのタンパク質のスキャッフォルド(足場)として働く.Mdm2がβ-アレスチンをユビキチン化すると受容体はエンドサイトーシスされる.つづいて初期エンドソーム上でNedd4がユビキチン化すると,受容体はリソソームに運ばれて分解される(図1図1■膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスにおけるβ-アレスチンおよびARTsの役割).なおNedd4による受容体のユビキチン化は,エンドサイトーシスには必須でないとされている(3)3) S. K. Shenoy, K. Xiao, V. Venkataramanan, P. M. Snyder, N. J. Freedman & A. M. Weissman: J. Biol. Chem., 283, 22166 (2008)..2011年,X線結晶構造解析によりGタンパク質と結合した活性型のβ2アドレナリン受容体の構造が明らかとなり(4)4) S. G. Rasmussen, B. T. DeVree, Y. Zou, A. C. Kruse, K. Y. Chung, T. S. Kobilka, F. S. Thian, P. S. Chae, E. Pardon, D. Calinski et al.: Nature, 477, 549 (2011).,2014年には電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって,β2アドレナリン受容体に結合したβ-アレスチンが映し出された(5)5) A. K. Shukla, G. H. Westfield, K. Xiao, R. I. Reis, L. Y. Huang, P. Tripathi-Shukla, J. Qian, S. Li, A. Blanc, A. N. Oleskie et al.: Nature, 512, 218 (2014)..GPCRはヒトゲノムの約3%を占め,少なくとも30%の薬剤のターゲットと考えられている.GPCRの構造と機能解明は医薬品開発にとって大きな恩恵となり,中心的役割を果たしたR. Lefkowitz博士とB. Kobilka博士に2012年ノーベル化学賞が授与されたことは記憶に新しい.そして,GPCRのみならずβ-アレスチンも創薬ターゲットとして位置づけられるようになった.なお紙面の都合上触れることはできないが,出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeではGPCRであるα因子受容体Ste2とa因子受容体Ste3においても類似の制御機構が働いている(6, 7)6) D. R. Ballon, P. L. Flanary, D. P. Gladue, J. B. Konopka, H. G. Dohlman & J. Thorner: Cell, 126, 1079 (2006).7) C. G. Alvaro, A. F. O’Donnell, D. C. Prosser, A. A. Augustine, A. Goldman, J. L. Brodsky, M. S. Cyert, B. Wendland & J. Thorner: Mol. Cell. Biol., 34, 2660 (2014).

図1■膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスにおけるβ-アレスチンおよびARTsの役割

ヒトのGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つであるβ2アドレナリン受容体は,アドレナリンが結合するとGタンパク質を介して細胞内にシグナルを伝達する.脱感作の際,受容体がGPCRキナーゼ(GRKs)によりリン酸化されると,β-アレスチンがリクルートされる.β-アレスチンのリクルートにはMdm2によるユビキチン化が必須である.β-アレスチンにはAP-2やクラスリンが結合しており,受容体のエンドサイトーシスを引き起こす.つづいて,初期エンドソームで受容体はNedd4によりユビキチン化され,やがて分解される.出芽酵母のアミノ酸輸送体はプロトンとの共輸送により細胞外からアミノ酸を取り込む.過剰量の基質アミノ酸が投与されたり,細胞が何らかの環境ストレスに置かれたとき分解されるアミノ酸輸送体が知られている.その際,まずアレスチン様輸送アダプター(ARTs)とRsp5複合体が細胞膜上のアミノ酸輸送体にリクルートされる.ARTsとRsp5はPPxYモチーフとWWドメインの相互作用を介して結合しており,それら複合体のリクルートにはARTsのユビキチン化が不可欠と考えられている.Rsp5は輸送体をユビキチン化することでエンドサイトーシスを引き起こす.酵母には少なくとも11種類のARTsが知られている.図では単にARTと一括りにしているが,実際にはそれぞれのアミノ酸輸送体に応じて,あるいは同じアミノ酸輸送体でも細胞が置かれた状況に応じて使い分けられている点に注意しなければならない(本文参照).図は文献14を改変して用いた.

こうしてGPCRの脱感作とユビキチン化を中心に研究されてきたβ-アレスチンだが,そのほかにもTGF-β受容体やIGF1受容体,電位依存性Ca2+チャネルなど多様な膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスを制御することがわかってきた.さらに酵母では,アレスチン様輸送アダプター(arrestin-related trafficking adaptors,以下,ARTsと呼ぶ)として,アミノ酸輸送体のユビキチン化とエンドサイトーシスにかかわることが明らかになってきた.したがって,アレスチンは膜タンパク質のグローバルな制御因子として進化の過程で重要な役割を演じてきたに違いない.そこで次に酵母のARTsについて見てみよう.

酵母のARTsとして報告された最初の遺伝子はCVS7canavanine supersensitive 7)で,カナバニン(アルギニンのアナログ)感受性変異株のスクリーニングから分離された(8)8) C. H. Lin, J. A. MacGurn, T. Chu, C. J. Stefan & S. D. Emr: Cell, 135, 714 (2008).CVS7遺伝子の欠損株では,アルギニン輸送体Can1の分解が遅延して細胞膜に蓄積し,カナバニンを過剰に取り込むため感受性を示す.Cvs7のC末端側には2つのPPxYモチーフがあり,酵母のNedd4ホモログであるRsp5ユビキチンリガーゼと相互作用する.Cvs7ではK486残基がユビキチン化されるのだが,PPxYモチーフのアラニン置換体ではこれが起こらず,結果としてCan1は分解されなくなる.したがって,Rsp5によるCvs7のユビキチン化がCan1の分解に不可欠と言える.衝撃的だったのは,Cvs7がヒトのβ-アレスチンと相同だったことだ.Cvs7は2つのβ-サンドイッチドメインが,柔軟なリンカーで連結したいわゆるアレスチンフォールドをもっていたのである.Linらは論文内でCvs7をArt1と改名したので,以後,Cvs7をArt1と呼ぶことにする(8)8) C. H. Lin, J. A. MacGurn, T. Chu, C. J. Stefan & S. D. Emr: Cell, 135, 714 (2008)..Can1の分解にArt1のユビキチン化が必要である点は,β2アドレナリン受容体の分解にβ-アレスチンのユビキチン化が必要であることとよく似ている.彼らは酵母ゲノムに9個の遺伝子ART1~ART9を見いだした.しかし,私たちを驚かせたのはこの先の展開だ.ARTsは,細胞が置かれた環境に応じて使い分けられ,アミノ酸輸送体の分解を制御していたのである(図1図1■膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスにおけるβ-アレスチンおよびARTsの役割).たとえば,リジンの輸送体Lyp1は定常状態で細胞膜から液胞へと運ばれ分解される.一方,高濃度のリジンを培地に添加するとLyp1の分解は加速する.ART1を欠損しても定常状態でのLyp1分解は正常に行われるのに対し,高濃度リジンを添加したときの分解促進は見られないのである.一方,ホモログのART2を欠損してもリジン投与による分解に影響はないが,定常状態でのLyp1分解は起こらなくなる.このように同じ輸送体であっても状況に応じてARTsが使い分けられ,Rsp5によるユビキチン化が生じていたのである(8)8) C. H. Lin, J. A. MacGurn, T. Chu, C. J. Stefan & S. D. Emr: Cell, 135, 714 (2008)..Nikko & PelhamはさらにArt10を同定し,Rsp5結合タンパク質のBul1とBul2もARTsの一員であることを報告した(9)9) E. Nikko & H. R. Pelham: Traffic, 10, 1856 (2009)..彼らは,高親和性トリプトファン輸送体Tat2,ウラシル輸送体Fur4,グルコース輸送体Hxt6,およびイノシトール輸送体Itr1に関しても,さまざまなARTsがRsp5のアダプターとして働くことを示した(9)9) E. Nikko & H. R. Pelham: Traffic, 10, 1856 (2009)..基質投与による輸送体の分解促進についてはアスパラギン酸/グルタミン酸輸送体Dip5でも報告されており,この場合Art3がアダプターとして機能する(10)10) R. Hatakeyama, M. Kamiya, T. Takahara & T. Maeda: Mol. Cell. Biol., 30, 5598 (2010)..低親和性トリプトファン輸送体Tat1は半減期6時間の非常に安定な膜タンパク質だが,筆者らは以前,酵母を非致死的な25 MPa(約250気圧)の静水圧にさらすとTat1が速やかに分解されること,その分解がRsp5依存的であることを示した(11)11) F. Abe & H. Iida: Mol. Cell. Biol., 23, 7566 (2003)..そこでARTsの関与を調べたのだが,それらの単独破壊はTat1の分解に何ら影響せず,驚いたことに,Art1~8およびArt10を欠損する9-arrestin株(Art9は典型的なPPxYモチーフをもたないため除外している)でもTat1は分解されたのである.そしてBul1とBul2をも欠く9-arrestin bul1Δbul2Δ株(11遺伝子欠損株)でようやくTat1の分解が抑制された(12)12) A. Suzuki, T. Mochizuki, S. Uemura, T. Hiraki & F. Abe: Eukaryot. Cell, 12, 990 (2013)..したがって,細胞が高水圧環境にさらされたときのTat1分解には機能重複した11種類のARTsが関与しており,それらのうちどれか一つあれば十分と言える.生物が示す冗長性の極端な例かもしれない.

Merhi & Andreは総アミノ酸輸送体Gap1の分解におけるBul1の関与について詳しく報じている(13)13) A. Merhi & B. Andre: Mol. Cell. Biol., 32, 4510 (2012)..Gap1は貧栄養のプロリン培地で酵母を培養すると高発現し,アンモニウムイオンなどのリッチな窒素源を投与すると,Rsp5に依存し速やかに分解される.このときARTsとして重要なのがBul1である.プロリン培地でBul1はNpr1キナーゼによってリン酸化され,リン酸化されたBul1には酵母の14-3-3タンパク質Bmh1とBmh2が結合している.アンモニウムイオンが培地に投与されると,Sit4フォスファターゼによりBul1は脱リン酸化される.つづいてBmh1とBmh2が解離し,Bul1はRsp5によりユビキチン化される.Rsp5によるGap1のユビキチン化には,Bul1のユビキチン化が不可欠である.Bul1のアレスチンモチーフに変異を導入するとGap1がユビキチン化されなくなることから,この領域がGap1の認識に関与しているのは確かなようだ(13)13) A. Merhi & B. Andre: Mol. Cell. Biol., 32, 4510 (2012).

ひとたびブレイクスルーがあると,関連因子もろとも根こそぎ同定し,最速で全容解明に接近できるのが,酵母分子遺伝学の圧倒的な魅力だ.アレスチン様輸送アダプターを介したアミノ酸輸送体のユビキチン化もその例にもれない.ではいったい無数のタンパク質の海の中で,輸送体とARTs, Rsp5はどうやって相手方を見つけ出し相互作用して,それぞれの役割を果たしているのだろうか? 今後は,生物物理学や構造生物学を融合したアプローチが存在感を増していくであろう.

Reference

1) P. M. Snyder: Sci. Signal., 2, pe41 (2009).

2) S. K. Shenoy, P. H. McDonald, T. A. Kohout & R. J. Lefkowitz: Science, 294, 1307 (2001).

3) S. K. Shenoy, K. Xiao, V. Venkataramanan, P. M. Snyder, N. J. Freedman & A. M. Weissman: J. Biol. Chem., 283, 22166 (2008).

4) S. G. Rasmussen, B. T. DeVree, Y. Zou, A. C. Kruse, K. Y. Chung, T. S. Kobilka, F. S. Thian, P. S. Chae, E. Pardon, D. Calinski et al.: Nature, 477, 549 (2011).

5) A. K. Shukla, G. H. Westfield, K. Xiao, R. I. Reis, L. Y. Huang, P. Tripathi-Shukla, J. Qian, S. Li, A. Blanc, A. N. Oleskie et al.: Nature, 512, 218 (2014).

6) D. R. Ballon, P. L. Flanary, D. P. Gladue, J. B. Konopka, H. G. Dohlman & J. Thorner: Cell, 126, 1079 (2006).

7) C. G. Alvaro, A. F. O’Donnell, D. C. Prosser, A. A. Augustine, A. Goldman, J. L. Brodsky, M. S. Cyert, B. Wendland & J. Thorner: Mol. Cell. Biol., 34, 2660 (2014).

8) C. H. Lin, J. A. MacGurn, T. Chu, C. J. Stefan & S. D. Emr: Cell, 135, 714 (2008).

9) E. Nikko & H. R. Pelham: Traffic, 10, 1856 (2009).

10) R. Hatakeyama, M. Kamiya, T. Takahara & T. Maeda: Mol. Cell. Biol., 30, 5598 (2010).

11) F. Abe & H. Iida: Mol. Cell. Biol., 23, 7566 (2003).

12) A. Suzuki, T. Mochizuki, S. Uemura, T. Hiraki & F. Abe: Eukaryot. Cell, 12, 990 (2013).

13) A. Merhi & B. Andre: Mol. Cell. Biol., 32, 4510 (2012).

14) S. Polo & P. P. Di Fiore: Cell, 135, 590 (2008).