今日の話題

ERファジーとヌクレオファジーオートファジーによる小胞体と核の分解

Keisuke Mochida

持田 啓佑

東京工業大学大学院生命理工学研究科

Hitoshi Nakatogawa

中戸川

東京工業大学大学院生命理工学研究科

東京工業大学生命理工学院

科学技術振興機構CREST

Published: 2017-01-20

オートファジーは,リソソーム(哺乳類など)あるいは液胞(植物や酵母など)を分解の場とする細胞内の主要な分解経路である.オートファゴソームと呼ばれる膜胞が分解対象を隔離した後,リソソーム/液胞と融合し,リソソーム/液胞内の分解酵素によってオートファゴソームで隔離された成分が分解される(1)1) H. Nakatogawa, K. Suzuki, Y. Kamada & Y. Ohsumi: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 10, 458 (2009)..栄養飢餓時にはオートファジーにより細胞質の一部が無作為に分解され,分解産物が飢餓適応に利用される.一方で,特定の細胞成分は,選択的にオートファゴソームに包み込まれ,分解される(2)2) A. Stolz, A. Ernst & I. Dikic: Nat. Cell Biol., 16, 495 (2014)..特に,神経疾患発症との関連などから,近年,オートファジーによる細胞小器官の選択的分解が注目を集めている.本稿では,今明らかにされつつあるオートファジーによる小胞体(ER)の分解(ERファジー)および核の分解(ヌクレオファジー)の分子機構と生理的重要性について概説する.

ERは,チューブあるいはシート状の領域がつながって細胞内に大きく広がった構造をとっており,タンパク質や脂質の合成・輸送などさまざまな役割を担う.核は,核膜に囲まれた球状のコンパートメントであり,染色体を格納し,遺伝情報の保存と発現を担う.ERや核の一部がオートファジーによって分解されるという報告はあったものの(3, 4)3) M. Hamasaki, T. Noda, M. Baba & Y. Ohsumi: Traffic, 6, 56 (2005).4) D. Mijaljica & R. Devenish: J. Cell Sci., 126, 4325 (2013).,これらが選択的なオートファジーによるものであるのか,また分解の意義など,不明な点が多く残されていた.ミトコンドリアなどを標的とする選択的オートファジーでは,“レセプター”と呼ばれるタンパク質が分解対象上に局在化し,形成途中のオートファゴソーム上のAtg8というタンパク質と結合することで,分解対象をオートファゴソームに取り込ませることがわかっていた(2)2) A. Stolz, A. Ernst & I. Dikic: Nat. Cell Biol., 16, 495 (2014)..そして一昨年,出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて,ERファジーおよびヌクレオファジーを誘導する2つのレセプタータンパク質,Atg39およびAtg40が同定され,ERおよび核をオートファジーで選択的に分解する機構の存在が明らかにされた(5)5) K. Mochida, Y. Oikawa, Y. Kimura, H. Kirisako, H. Hirano, Y. Ohsumi & H. Nakatogawa: Nature, 522, 359 (2015)..Atg39は核周囲のER(出芽酵母ではあまり発達していないため核膜とほぼ同義である)に,Atg40は主に細胞質のERおよび細胞膜直下のERに局在する膜タンパク質であった.ERファジーが誘導されると,これらレセプターが発現し,それぞれが局在するER領域の断片をオートファゴソームに積み込む(図1図1■ERファジーとヌクレオファジーの分子機構).すなわち,異なるER領域がそれぞれ別々のメカニズムでオートファジーで分解されるのである.電子顕微鏡解析により,核周囲ERは二重膜小胞としてオートファゴソームに取り込まれることが示された.この二重膜小胞の膜間領域は核周囲ER(=核膜)の内腔に由来し,小胞内部には核小体など核内の成分が存在した.すなわち,Atg39が誘導するオートファジーは,核の一部を分解するヌクレオファジーとも呼ぶべき現象であることが判明した(図1図1■ERファジーとヌクレオファジーの分子機構).ERファジーおよびヌクレオファジーの過程では,ERの断片化や核からの二重膜小胞の出芽が起こると考えられるが,その機構は明らかになっていない.また,ERファジーやヌクレオファジーによりERや核の特定の要素が分解されるのか,このような分解の意義と密接に関連する問題も今後の重要な課題の一つである.

図1■ERファジーとヌクレオファジーの分子機構

ERファジーおよびヌクレオファジーは窒素源(アミノ酸など)の枯渇に応じて誘導されることから,これらは飢餓に対する応答機構の一つであると考えられる.実際に,Atg39を欠失した酵母細胞は,窒素源飢餓時に核の形態に異常を呈し,野生株よりも早く生存率が低下する.核周囲ERあるいは核の一部を分解する意義として,飢餓時に不足する分子を分解産物として供給することや,飢餓時にこれら細胞小器官に蓄積する有害物を取り除くことなどが考えられる.一方で,Atg40欠失細胞は窒素源飢餓においても生存率の顕著な低下は見られない.細胞質ERおよび細胞膜直下ERのオートファジーによる分解の重要性についてはさらなる解析が必要である.

上記の酵母での成果と同時に,哺乳動物細胞においても,FAM134BをレセプターとするERファジーが報告された(6)6) A. Khaminets, T. Heinrich, M. Mari, P. Grumati, A. K. Huebner, M. Akutsu, L. Liebmann, A. Stolz, S. Nietzsche, N. Koch et al.: Nature, 522, 354 (2015)..FAM134Bは遺伝性感覚・自律神経性ニューロパチーII型の原因遺伝子である.Fam134bノックアウトマウスは加齢に伴い感覚神経障害を発症する.また,Fam134b欠損細胞ではERが肥大化し,種々のストレスによりアポトーシスが誘導されやすくなる.オートファジーによるERのターンオーバーは,特に神経細胞の恒常性維持に重要であることが提唱された.FAM134BとAtg40のアミノ酸配列に有意な類似性は見られないが,いくつかの構造的特徴や機能を共有することから,これらは互いに機能的なホモログの関係にあると考えられる.ERファジーが進化的に保存された重要な現象であることが示唆される.

哺乳動物においても,核の一部や核内のタンパク質がオートファジーで分解されるという報告はあるが(4)4) D. Mijaljica & R. Devenish: J. Cell Sci., 126, 4325 (2013).,Atg39のホモログはS. cerevisiaeと近縁の酵母にしか見つからない.しかしながら,上述のERファジーのレセプターのように,酵母と哺乳類の間では,一次配列上の類似性を示さないタンパク質が機能的に等価なレセプターとして働いていることが多い.したがって,哺乳類にAtg39と同様の役割を果たすタンパク質が存在している可能性は十分にある.今後,哺乳類やほかの生物においても,ヌクレオファジーのレセプターが同定され,ヌクレオファジーが果たす役割が解明されることが期待される.

Reference

1) H. Nakatogawa, K. Suzuki, Y. Kamada & Y. Ohsumi: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 10, 458 (2009).

2) A. Stolz, A. Ernst & I. Dikic: Nat. Cell Biol., 16, 495 (2014).

3) M. Hamasaki, T. Noda, M. Baba & Y. Ohsumi: Traffic, 6, 56 (2005).

4) D. Mijaljica & R. Devenish: J. Cell Sci., 126, 4325 (2013).

5) K. Mochida, Y. Oikawa, Y. Kimura, H. Kirisako, H. Hirano, Y. Ohsumi & H. Nakatogawa: Nature, 522, 359 (2015).

6) A. Khaminets, T. Heinrich, M. Mari, P. Grumati, A. K. Huebner, M. Akutsu, L. Liebmann, A. Stolz, S. Nietzsche, N. Koch et al.: Nature, 522, 354 (2015).