Kagaku to Seibutsu 55(2): 88-97 (2017)
解説
多彩な戦略で挑むシアノバクテリア由来の燃料生産持続可能な第三世代バイオ燃料生産の最前線
Sustainable Bioenergy Production Using Cyanobacteria With Multifarious Strategies
Published: 2017-01-20
化石燃料に代わるエネルギー源の確保が課題とされる昨今,光合成効率が高いシアノバクテリアや藻類を用いた燃料生産は,食糧生産と競合せず,カーボンニュートラルである点で注目を集めている.特にシアノバクテリアは,ゲノムや細胞の構造が単純で遺伝子操作が容易,増殖が速い,光合成能が高いなど,燃料生産ホストとして有利な性質を備えている.本稿では,多様性に富むシアノバクテリアのさまざまな性質を活かして,燃料生産技術の開発に取り組んだ最新の成果について解説する.
© 2017 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2017 公益社団法人日本農芸化学会
シアノバクテリア(藍藻)という光合成を行う細菌をご存じだろうか? 海,川,池,はたまた陸上にも,至る所にさまざまな姿かたちのシアノバクテリアが生息している(図1図1■さまざまなシアノバクテリア).一般によく知られているところでは,食用のスピルリナや水前寺海苔,水面に大量発生するアオコ,砂利道の端でも増殖するワカメのようなイシクラゲなどがある.現在,極域から赤道域まで,海洋から砂漠まで,地球上のほとんどすべての環境下で大いに繁栄しているシアノバクテリアであるが,その起源は古く,約30億年前に出現し生物史の要所要所で重要な働きをしてきた.この生物が,酸素を発生する光合成を始めたおかげで,大気中の酸素濃度が増加し,地球上に酸素呼吸を行う生物が繁栄する道が開けた.十数億年前にほかの生物に共生したことから,葉緑体をもつ植物細胞が誕生した.われわれ人類は古くからシアノバクテリアを食糧として利用してきたが,この生物はまたしても人類史上重要な働きをするかもしれない.その旺盛な増殖能と光合成能が,現在われわれが直面しているエネルギー問題の解決に一役買うかもしれないのだ.