農芸化学@High School

ラベンダー香気抽出物の保存中における成分変化の検討

新井 悠太

大宮北高等学校

牛島 康貴

大宮北高等学校

渡辺 竜世

大宮北高等学校

関根 和暉

大宮北高等学校

天野 遥子

大宮北高等学校

伊藤 大透

大宮北高等学校

神田 快翔

大宮北高等学校

木村 真優

大宮北高等学校

Published: 2017-02-20

本研究は,日本農芸化学会2016年度大会(開催地:札幌コンベンションセンター)の「ジュニア農芸化学会」で発表されたものである.発表者らは,日常の消費生活において,香水や食品の保存に冷暗所が推奨されることが多いことから,光と熱の品質への関与に着目した.さらにその一因としてにおい成分の劣化があるのではないかと考え,長期間にわたって検討を行っている.

本研究の目的・方法および結果

【目的】

市販の香水や食品のラベルにはしばしば保存方法として「冷暗所に保存」という記載がされている.このことから,成分中の香気成分が熱と光により分解し,その結果製品の品質に影響を与えているのではないかと考えた.そこで試料として乾燥ラベンダー花弁から抽出した精油を用い,紫外線および熱処理後,精油成分にどのような変化が起こるのか,またその影響はどちらが大きいのか探索することを目的として実験を行った.

【方法】

1. 試料

富良野産乾燥ラベンダー花弁5 gに40 mLのヘキサンを加え,超音波を30分当てて香気成分を抽出した.この操作を繰り返し,大量の抽出物を調製した.

2. 紫外線処理

ガラス製透明バイアルに15 mL分の抽出物を入れパラフィルムで密封し,図1図1■紫外線処理に用いた木製の暗箱とブラックライトに示すような木製の暗箱の内部に静置し,上部からブラックライトによる紫外線(波長;254 nm)照射を室温下で2時間および4時間行った.

図1■紫外線処理に用いた木製の暗箱とブラックライト

3. 熱処理

上記と同様のバイアルに15 mL分の抽出物を入れ,パラフィルムで密封し,図2図2■熱処理に用いた定温器に示すような40℃の定温器内に2時間および4時間静置した.

図2■熱処理に用いた定温器

4. 機器分析・成分測定

紫外線および熱処理した抽出物はロータリーエバポレータにかけて溶媒留去を行い,得られた精油100 mgあたり1 mLのジクロロメタンを加え,そこから1 µLを取りGC測定に供した.精油中の主要香気成分であるリナロールと酢酸リナリルについては別途,スタンダード化合物(試薬1級)を同条件でGC測定し,そのリテンションタイムから各抽出物のクロマトグラム上のピークの同定を行った.それらのリテンションタイムは近接しており,明確な分離が得られなかったため,リナロールと酢酸リナリルの2本のピークを合わせたピーク面積を測定し,クロマトグラム上の溶媒を除いた全体のピーク面積に対する割合を算出した.

【結果】

図3図3■紫外線処理および熱処理を行った乾燥ラベンダー花弁抽出物中のリナロールと酢酸リナリルの変化に紫外線および熱処理を行った精油中のリナロールと酢酸リナリルの量の変化を示した.紫外線処理では,照射2時間目以降から無処理のものと比べ香気成分が減っていることがわかった.熱処理では4時間処理を行っても香気量に大きな変化は見られなかった.このことからラベンダーの精油は,紫外線により香りが薄まってしまうことがわかった.

図3■紫外線処理および熱処理を行った乾燥ラベンダー花弁抽出物中のリナロールと酢酸リナリルの変化

【考察および今後の課題】

今回実験に用いたラベンダー花弁抽出物の形態では,香気の変化に及ぼす影響は熱より紫外線のほうが大きいことが示された.

上記の実験のほかに発表者らは,乾燥ラベンダー花弁の素材のままでのにおいの変化についても検討を行っている.しかし特に紫外線処理を行う際,容器に入れた試料全体を均一に照射することができず,再現性のあるデータを得にくかった.今後は熱,紫外線処理とも均一に行われるよう処理の手法を工夫することにより,正確な変化の傾向をつかむことが可能になると思われる.

また発表者らは今後,ラベンダーの産地,紫外線の波長,定温器の温度などの条件の違いによる香気成分の変化についても実験をしていきたいと述べている.

本研究の意義と展望

食品はもとより,香水・洗剤・シャンプーなどの香り製品は,われわれの生活を豊かなものにしてくれる.それらの品質に対し香気成分の果たす役割は大きい.発表者らはメーカーの示す保存条件がどのように品質にかかわるか,化学的な根拠を示すべく香気成分の研究を行っており,その発想は学術面だけではなく,産業界にとっても非常に意義深いものと言える.種々条件による香気化合物の変化,さらにその変化がどのように品質に影響するかを見極めることは困難な道のりであると思うが,さらにますますの発展を祈りたい.

(文責「化学と生物」編集委員)