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ストリゴラクトン生合成研究の最前線ストリゴラクトン生合成

Yoshiya Seto

瀬戸 義哉

Salk Institute for Biological Studies

Published: 2017-03-20

ストリゴラクトン(Strigolactone; 以下SL)は今から約50年前に,深刻な農業被害をもたらす根寄生植物の種子発芽刺激物質として発見された.しかし,現在ではアーバスキュラー菌根菌との共生シグナル,かつ植物の枝分かれなどを制御する内生のホルモン分子としても広く知られている.SLはその化学構造から,テルペノイドラクトンに属する化合物であることが予想されていたが,その詳細な生合成経路は長い間ほとんど不明であった.しかし,2008年に本化合物がホルモンとして同定されたことを契機に(1, 2)1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).,生合成経路の解明が飛躍的に進展し,現在までにその全容が解明されつつある.本稿ではSL生合成研究の最新の知見について紹介したい.

2008年に,SLが植物ホルモンとして同定された成果において,それまで枝分かれ過剰変異体として認識されていた一群の変異体のうち一部は,SLの生合成変異体であることが示された(1, 2)1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008)..すなわち,SLの生合成に必要な酵素として,2種のカロテノイド酸化型開裂酵素(CCD7, CCD8)が関与することが明らかとなり,SLがカロテノイド由来の分子であることが証明された.さらに,シロイヌナズナの枝分かれ過剰変異体の一つであるmax1の原因遺伝子であるシトクロムP450(CYP711A)(3)3) S. Crawford, N. Shinohara, T. Sieberer, L. Williamson, G. George, J. Hepworth, D. Muller, M. A. Domagalska & O. Leyser: Development, 137, 2905 (2010).,さらに2009年にイネのd27変異体の原因遺伝子から見いだされた鉄キレート型のタンパク質(4)4) H. Lin, R. Wang, Q. Qian, M. Yan, X. Meng, Z. Fu, C. Yan, B. Jiang, Z. Su, J. Li et al.: Plant Cell, 21, 1512 (2009).もSLの生合成に関与することが明らかとなった.すなわち,この時点で少なくとも4種類の酵素がSLの生合成に関与することが示された.

2012年,ドイツの研究グループが,これらのうち,CCD7, CCD8, D27の機能解析を行い,カロテノイドを基質に3つの酵素が連続的に作用することにより,カーラクトン(carlactone; 以下CL)と名づけた化合物が生成することを報告した(5)5) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012).図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).CLは,SLの化学構造に特有のブテノライド環を有しており,SL同様の生理活性も有することが示され,SLの生合成中間体であることが示唆された.その後,CLが実際に植物の代謝物として存在することに加え,13C標識CLをイネのSL生合成変異体に投与することにより,植物体内でCLがSLに変換されることが証明された(6)6) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014)..これらの研究成果により,CLがSLの生合成中間体であることがはっきりと証明された.すなわち,先に示した4つの酵素のうち,3つについて,その生化学的な機能が明らかとなった.残りの一つである,CYP711Aの機能については,シロイヌナズナのmax1変異体において,CLが極めて過剰に蓄積していることが明らかとされ,その結果から,CLが本酵素の直接の基質であるという可能性が提唱された(6)6) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014).

図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路

D#,Os#はイネ,MAX#,AtD27,LBOはシロイヌナズナ,RMS#はエンドウ,DAD#はペチュニアの酵素を示す.

本仮説のもと,2つのグループがそれぞれ,イネとシロイヌナズナのCYP711Aサブファミリーについての生化学機能解析を行い,両グループがほぼ同時期に,それぞれの成果を報告した(7, 8)7) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).8) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014)..興味深いことに,イネの同サブファミリー酵素のうちの一つは(Os900),CLから一挙に4環性を有するSLの一種である4-deoxyorobanchol(4DO)までの変換を触媒することが示された(8)8) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014).図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).一方で,シロイヌナズナにおけるオルソログであるMAX1は,CLの19位炭素の3段階酸化を触媒し,生成物としてカーラクトン酸(carlactonoic acid; 以下CLA)を与えることが明らかとなった(7)7) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).かつ,イネにおけるオルソログのうち別の酵素は(Os1400),4DOの水酸化を触媒し,orobancholへの変換を触媒することが明らかとなった(8)8) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014).図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).すなわち,同サブファミリーの機能には多様性があることが示された.

さらに,シロイヌナズナにおける新たなSL様化合物として,上記CLAのメチルエステル体(methylcarlactonoate; 以下MeCLA)が報告された(7)7) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).たいへん興味深いことに,CL, CLA, MeCLAのうち,CLとCLAは試験管内で受容体タンパク質であるD14との相互作用が認められなかったことに対し,MeCLAはD14と相互作用可能な物質であることが示された(7)7) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014)..すなわち,従来知られていたような4環性をもたない化合物であるMeCLAがシロイヌナズナにおいて活性型ホルモンの一つとして機能する可能性が示された.

2016年には,SLの新たな生合成酵素として,2-oxoglutarate-dependent dioxygenase(2OGD)に属する酵素がシロイヌナズナから同定され,LATERAL BRANCHING OXIDOREDUCTASE(LBO)と名づけられた(9)9) P. B. Brewer, K. Yoneyama, F. Filardo, E. Meyers, A. Scaffidi, T. Frickey, K. Akiyama, Y. Seto, E. A. Dun, J. E. Cremer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 6301 (2016)..本酵素は上記のMeCLAを基質とし,m/zが16増加した化合物,すなわち,酸素が1原子添加されたと思われる化合物を生成物として与えることがLC-MS/MS分析により示された(図1図1■現在までに明らかになっているSLの生合成経路).一方で,生成物は化学的に不安定であり,その構造決定には至っていない.lbo変異体は,ほかのSL生合成変異体と比べると弱いものの,枝分かれ過剰な表現型を示し,かつ内生のMeCLAが野生型よりも過剰に蓄積していることが示されたことから,MeCLAは真の活性型ではなく,LBO代謝物が枝分かれ制御経路におけるさらなる活性型として機能している可能性が考えられる(9)9) P. B. Brewer, K. Yoneyama, F. Filardo, E. Meyers, A. Scaffidi, T. Frickey, K. Akiyama, Y. Seto, E. A. Dun, J. E. Cremer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 6301 (2016)..今後,本化合物の構造決定と,D14との相互作用解析を含めた詳細な機能解析により,植物ホルモンとしての活性型構造の解明に向けた重要な知見が得られるものと期待する.特に,CLの下流で,従来から知られていた4環性のSLを生合成する経路と,MeCLAを介して構造未知の化合物を生合成する経路と2つの経路に分岐することが示唆され,いずれの経路から生合成される化合物がSLの有するさまざまな生理作用における活性型として機能しているのかという点は,今後明らかにされるべき重要な課題である.

以上のように,イネにおいては,4DOやorobancholといった従来から知られていた4環構造を有するSLまでの生合成経路が明らかになった一方で,MeCLAの発見を契機に,SL関連化合物の研究も新たな局面を迎えようとしている.SL関連化合物の生合成経路の解明は,植物ホルモン,あるいはアレロケミカルとしての活性型化合物を明らかにする意味でも重要な研究課題である.また,その研究成果は,植物の生長調節剤,ひいては年間被害額が1,000億円以上と言われる根寄生植物に対する防除法の開発など,食糧問題解決へ向けた重要な知見をもたらす可能性を秘めている.今後,本分野のさらなる研究の進展が期待される.

Reference

1) V. Gomez-Roldan, S. Fermas, P. B. Brewer, V. Puech-Pages, E. A. Dun, J. P. Pillot, F. Letisse, R. Matusova, S. Danoun, J. C. Portais et al.: Nature, 455, 189 (2008).

2) M. Umehara, A. Hanada, S. Yoshida, K. Akiyama, T. Arite, N. Takeda-Kamiya, H. Magome, Y. Kamiya, K. Shirasu, K. Yoneyama et al.: Nature, 455, 195 (2008).

3) S. Crawford, N. Shinohara, T. Sieberer, L. Williamson, G. George, J. Hepworth, D. Muller, M. A. Domagalska & O. Leyser: Development, 137, 2905 (2010).

4) H. Lin, R. Wang, Q. Qian, M. Yan, X. Meng, Z. Fu, C. Yan, B. Jiang, Z. Su, J. Li et al.: Plant Cell, 21, 1512 (2009).

5) A. Alder, M. Jamil, M. Marzorati, M. Bruno, M. Vermathen, P. Bigler, S. Ghisla, H. Bouwmeester, P. Beyer & S. Al-Babili: Science, 335, 1348 (2012).

6) Y. Seto, A. Sado, K. Asami, A. Hanada, M. Umehara, K. Akiyama & S. Yamaguchi: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 1640 (2014).

7) S. Abe, A. Sado, K. Tanaka, T. Kisugi, K. Asami, S. Ota, H. I. Kim, K. Yoneyama, X. Xie, T. Ohnishi et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 18084 (2014).

8) Y. Zhang, A. D. van Dijk, A. Scaffidi, G. R. Flematti, M. Hofmann, T. Charnikhova, F. Verstappen, J. Hepworth, S. van der Krol, O. Leyser et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 1028 (2014).

9) P. B. Brewer, K. Yoneyama, F. Filardo, E. Meyers, A. Scaffidi, T. Frickey, K. Akiyama, Y. Seto, E. A. Dun, J. E. Cremer et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 113, 6301 (2016).