解説

ビフィズス菌がもつ糖タンパク質糖鎖の分解代謝システムビフィズス菌を増やすプレバイオティック糖タンパク質

The Metabolic Pathways for the Sugar Chains of Glycoproteins in Bifidobacteria: Prebiotic Glycoproteins Are Growth Substrates for Bifidobacteria

Kiyotaka Fujita

藤田 清貴

鹿児島大学農学部

Published: 2017-03-20

ビフィズス菌は私たちの腸内環境を健全に保つうえで欠かすことができない腸内細菌であり,大腸に生息し私たちと共生関係を構築している.ビフィズス菌は,オリゴ糖だけではなく糖タンパク質や多糖を含めたさまざまな難消化性糖質を分解代謝することができる.近年,ビフィズス菌がもつユニークな糖質分解酵素群の発見により,糖タンパク質や多糖がプレバイオティクスとしてビフィズス菌を増やす仕組みが明らかになってきた.本稿では,ビフィズス菌がもつ糖タンパク質糖鎖の分解代謝システムを中心に,ビフィズス菌の糖質獲得戦略を解説する.

ビフィズス菌により異なる難消化糖質の分解代謝システム

ビフィズス菌は乳児と成人で生息する菌種が異なっており,乳児の腸管にはBifidobacterium breve, B. longum subsp. infantisB. infantis),B. bifidumなどが生息し,成人の腸管にはB. adolescentis, B. pseudocatenulatum, B. dentiumなどが生息する(1)1) 堀米綾子,小田巻俊孝:化学と生物,54, 260 (2016)..また,B. longum subsp. longumB. longum)は乳児から成人まで広く検出されるビフィズス菌であり,B. longumが検出されるヒトはビフィズス菌の総数や菌種が多い傾向がある(2)2) 密山恵梨,小田巻俊孝,加藤久美子,清水金忠,大澤 朗:腸内細菌学雑誌,30, 93 (2016)..ビフィズス菌が利用できる糖質とは,ヒトの消化酵素で分解されずに大腸まで届いた難消化性糖質である.ビフィズス菌はヒトが摂取する難消化性糖質の変化に伴い,菌種を変えることでヒトの腸内環境の変化に対応している.ゲノム解析の結果,ビフィズス菌は菌種により異なる難消化性糖質に対する分解代謝システムをもっていることが明らかになった.ビフィズス菌は,さまざまな菌種がもつさまざまな糖質分解代謝システムを駆使することにより,乳児期から成人までの腸内環境に適応しているのである.ビフィズス菌のゲノム解析の現状については堀米と小田巻による最近の総説を参照されたい(1)1) 堀米綾子,小田巻俊孝:化学と生物,54, 260 (2016).

ビフィズス菌によるオリゴ糖と多糖の分解代謝

プレバイオティクスとは,ビフィズス菌に代表されるヒトにとって有用な細菌(プロバイオティクス)を増やす難消化性の食品素材である.現在,9種類のオリゴ糖が特定保健用食品として「ビフィズス菌を増やす」と表記することが許可されている.そのオリゴ糖の代表的な構造を図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造に記載した.ビフィズス菌が増えるためには,取り込んで,分解して,代謝するシステムが必要になる.オリゴ糖の中でビフィズス菌による分解代謝システムが詳細に解析されているのがヒトミルクオリゴ糖(HMO)である.HMOはタイプI型のラクト-N-テトラオースとタイプII型のラクト-N-ネオテトラオースを基本骨格としている(図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造).北岡,片山,山本らの研究グループによるHMOの分解代謝経路の解明をとおして,タイプI型HMOを構成するラクト-N-ビオース(Gal-β1,3-GlcNAc; LNB)が,乳幼児のビフィズス菌を選択的に増やす増殖因子であることが明らかにされている(3, 4)3) T. Katayama: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 621 (2016).4) M. Kitaoka: Adv. Nutr., 3, 422S (2012)..最近ではフコシルラクトースの輸送にかかわるABC型糖輸送体の重要性も報告されている(5)5) T. Matsuki, K. Yahagi, H. Mori, H. Matsumoto, T. Hara, S. Tajima, E. Ogawa, H. Kodama, K. Yamamoto, T. Yamada et al.: Nat. Commun., 7, 11939 (2016)..一連の研究をとおして,乳児型ビフィズス菌がそれぞれ異なる戦略でHMOを利用している姿が明らかにされている.

食物繊維は便の増量剤としての働きだけでなく,腸内細菌のエネルギー源となり,私たちの腸内環境を健全に維持するために必要不可欠な存在であることがわかっている.多糖は食物繊維の主たるものであり,植物・微生物・海藻・動物由来のさまざまな多糖が食物繊維素材として利用されている.なかでも,植物多糖はビフィズス菌の資化性に関する報告が多い食物繊維素材である.ガラクトマンナンで構成されるローカストビーンガムやグァーガムはB. dentiumで資化され,アミロース・アミロペクチンは,B. dentium, B. pseudocatenulatumB. adolescentisで資化される(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994)..デンプンを構成するアミロースやアミロペクチンは,ヒトの消化酵素で分解されうるものではあるが,食品中のデンプンに含まれる難消化性デンプンや食物繊維素材の市場を席巻している難消化性デキストリンは分解されることなく大腸に届いている.実際に,これらの素材にもビフィズス菌増殖効果が確認されている.特に,B. adolescentisは糖質分解代謝システムの解析が行われており,デンプンの分解産物であるイソマルトオリゴ糖に加えて,β1,4-ガラクタンを主鎖とするI型アラビノガラクタン,アラビノキシラン,スタキオースやラフィノースのようなα-ガラクトオリゴ糖の分解に必要な酵素群を有している(7)7) L. A. M. Van den Broek, S. W. A. Hinz, G. Beldman, C. H. L. Doeswijk-Voragen, J.-P. Vincken & A. G. J. Voragen: Lait, 85, 125 (2005)..さらに,B. adolescentisは,マンノオリゴ糖を資化し(8)8) 藤井繁佳,熊王俊男:“機能性糖質素材の開発と食品への応用”,井上國世編,シーエムシー出版,2005, p. 135.,イヌリンを用いたヒト試験でも最も増殖が確認されるビフィズス菌である(9)9) C. Ramirez-Farias, K. Slezak, Z. Fuller, A. Duncan, G. Holtrop & P. Louis: Br. J. Nutr., 101, 541 (2009)..このように,B. adolescentisは植物由来の多糖やオリゴ糖に対応する多くの糖質分解代謝システムを獲得したビフィズス菌と言える.

ビフィズス菌を増やすプレバイオティックオリゴ糖の種類が豊富である理由は,複数のビフィズス菌が異なる戦略で難消化性糖質を利用しているためである.基本的には,植物由来のオリゴ糖であれば成人型ビフィズス菌に利用されやすく,乳糖をベースにしたものではビフィズス菌全般に資化される傾向にある.

ビフィズス菌による糖タンパク質糖鎖の分解代謝

プレバイオティック糖タンパク質とは,プレバイオティクスとして利用可能な糖鎖を有するタンパク質のことを指し,その糖鎖の種類やサイズはさまざまである.プレバイオティック糖タンパク質という用語は,2012年に糖とタンパク質をメイラード反応によって調製した糖タンパク質に使われたのが最初である(10)10) S. Seo, S. Karboune, V. Yaylayan & L. L’Hocine: Process Biochem., 47, 297 (2012)..ただし,資化性試験によってムチンやアラビアガムのような天然の糖タンパク質にビフィズス菌を増やすプレバイオティクス効果があることは明らかにされていた(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994)..ムチンの糖タンパク質糖鎖はセリン(Ser)トレオニン(Thr)-結合型糖鎖であり,アラビアガムの糖鎖は植物や藻類に見られるハイドロキシプロリン(Hyp)-結合型糖鎖である(図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造).糖タンパク質糖鎖を代表するアスパラギン(Asn)-結合型糖鎖も含め,その多くは難消化性糖質として消化吸収されることなく大腸に届くと考えられる.近年,ビフィズス菌のゲノム解析,資化性試験,糖質分解酵素の機能解析を組み合わせることにより,ビフィズス菌がオリゴ糖だけでなく,糖タンパク質糖鎖の分解代謝システムを有していることが明らかになってきた.

図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造

Gal: ガラクトース,GlcNAc: N-アセチルグルコサミン,GalNAc: N-アセチルガラクトサミン,Glc: グルコース,Fru: フルクトース,Man: マンノース,Araf: L-アラビノフラノース,Fuc: L-フコース,Neu5Ac: N-アセチルノイラミン酸,Xyl: キシロース,Lac: ラクトース,LNB: ラクト-N-ビオース,LacNAc: N-アセチルラクトサミン,GNB: ガラクト-N-ビオース

1. ビフィズス菌によるAsn-結合型糖タンパク質糖鎖の分解代謝

Asn-結合型糖鎖は,酵母,植物,動物などの真核生物全般に広く保存されている.その糖鎖構造は,3分子のManと2分子のGlcNAcからなるコア構造が共通して保存され,末端に修飾される糖鎖の違いにより高マンノース型,混成型,複合型に分けられている(図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造).ラクトフェリンは,ミルクに含まれるAsn-結合型糖鎖をもつ糖タンパク質である.特に初乳に多く含まれており,ペプシンで分解されることにより抗菌性の高いラクトフェリシンになるが,ビフィズス菌や乳酸菌には抗菌性をほとんど示さない(11)11) W. Bellamy, M. Takase, H. Wakabayashi, K. Kawase & M. Tomita: J. Appl. Bacteriol., 73, 472 (1992)..ヒト由来のラクトフェリンは2本の複合型糖鎖が付加され,ウシ由来では高マンノース型2本と複合型2本の4本の糖鎖が付加されている(12)12) 山内恒治:“世紀を超えるビフィズス菌の研究”,上野川修一,山本憲二監修,日本ビフィズス菌センター,2011, p. 79..ラクトフェリンは乳児型ビフィズス菌に資化されやすいという傾向があり(13)13) H. Saito, H. Miyakawa, N. Ishibashi, Y. Tamura, H. Hayasawa & S. Shimamura: Biosci. Microflora, 15, 1 (1996).,ウシ由来とヒト由来で資化性が異なるという報告もある(14)14) B. W. Petschow, R. D. Talbott & R. P. Batema: J. Med. Microbiol., 48, 541 (1999)..Millsらの研究グループは,エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼによって遊離されたAsn-結合型糖鎖を利用してB. infantisが増殖することを明らかにした(15)15) S. Karav, A. Le Parc, J. M. Leite Nobrega de Moura Bell, S. A. Frese, N. Kirmiz, D. E. Block, D. Barile & D. A. Mills: Appl. Environ. Microbiol., 82, 3622 (2016)..エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼは微生物から哺乳類まで広く保存されている酵素であり,Glycoside hydrolase(GH)ファミリー18と85に分類されている(16)16) 藤田清貴,山本憲二:化学と生物,41, 244 (2003)..糖質関連酵素(CAZy)データベースを見ると,B. breveはGH85と18の両方をコードし,B. infantisはGH18, B. longumはGH85をコードするという傾向がある.Asn-結合型糖鎖の複合型糖鎖はコア構造にタイプII型HMOを構成するN-アセチルラクトサミン(Gal-β1,4-GlcNAc; LacNAc)が付加された構造である(図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造).特にヒト由来のラクトフェリンでは,LacNAcの繰り返し構造を有している(17)17) A. Matsumoto, H. Yoshima, S. Takasaki & A. Kobata: J. Biochem., 91, 143 (1982).図2図2■B. infantisで推定されるヒトラクトフェリンの分解代謝経路).このため,B. infantisの場合,遊離された糖鎖はHMOと同じように丸ごと菌体内に取り込まれた後,分解代謝されると予想されている(15)15) S. Karav, A. Le Parc, J. M. Leite Nobrega de Moura Bell, S. A. Frese, N. Kirmiz, D. E. Block, D. Barile & D. A. Mills: Appl. Environ. Microbiol., 82, 3622 (2016).図2図2■B. infantisで推定されるヒトラクトフェリンの分解代謝経路).現在,乳児型ビフィズス菌は母乳中のリゾチーム耐性とHMOの資化性によって乳児腸管に適応していると考えられている(1)1) 堀米綾子,小田巻俊孝:化学と生物,54, 260 (2016)..ラクトフェリンは乳児型ビフィズス菌に共通したプレバイオティック糖タンパク質として,リゾチームとともに雑菌繁殖を抑制する一方,HMOとともに乳児型ビフィズス菌を選択的に増やすプレバイオティクスとして働くことで,乳児期のビフィズス菌の定着に寄与しているものと考えられる.

図2■B. infantisで推定されるヒトラクトフェリンの分解代謝経路

ハサミは糖質分解酵素の切断位置を表す.

一方,大人の大腸におけるAsn-結合型糖鎖の分解代謝は,大人の大腸における優勢菌種として知られるバクテロイデス属細菌の一つBacteroides thetaiotaomicronにおいて酵母特有のマンナン多糖が付加された糖鎖(18)18) F. Cuskin, E. C. Lowe, M. J. Temple, Y. Zhu, E. A. Cameron, N. A. Pudlo, N. T. Porter, K. Urs, A. J. Thompson, A. Cartmell et al.: Nature, 517, 165 (2015).と複合型糖鎖(19)19) T. Nihira, E. Suzuki, M. Kitaoka, M. Nishimoto, K. Ohtsubo & H. Nakai: J. Biol. Chem., 288, 27366 (2013).の分解代謝システムの存在が明らかになっている.成人型ビフィズス菌の多くにはAsn-結合型糖鎖の分解代謝システムが保存されていない.このため,プレバイオティクスとしてのAsn-結合型糖鎖の効果は乳児期が中心であると考えられる.

2. ビフィズス菌によるSer/Thr-結合型糖鎖の分解代謝

ムチン型糖鎖とも呼ばれるSer/Thr-結合型糖鎖は,Ser/Thr残基にGalNAcが付加され,さらに多様な糖で修飾されている.代表的な糖鎖構造を図1図1■オリゴ糖と糖タンパク質糖鎖の構造に記載した.この糖鎖にもHMOとの共通構造であるLNBもしくはLacNAc構造が付加されている.胃から分泌されるムチンにはコア1型とコア2型が主に付加されており,ヒトの腸管にはコア3型が多い(20)20) 芦田 久:化学と生物,54, 901 (2016)..この糖鎖がタンパク質上にビッシリ並ぶことにより粘性をもつムチン糖タンパク質となり,これが消化管に絶えず分泌されることで上皮細胞を保護している.成人では一日あたり2~3gのムチンが消化管に流れ込み大腸に届くとされている(21)21) 牛田一成:“世紀を超えるビフィズス菌の研究”,上野川修一,山本憲二監修,日本ビフィズス菌センター,2011, p. 155..筆者らは,ムチンのコア1型糖鎖を切断する酵素であるGH101エンド-α-N-アセチルガラクトサミニダーゼをB. longumから発見した(22)22) K. Fujita, F. Oura, N. Nagamine, T. Katayama, J. Hiratake, K. Sakata, H. Kumagai & K. Yamamoto: J. Biol. Chem., 280, 37415 (2005)..この遊離糖であるガラクト-N-ビオース(Gal-β1,3-GalNAc; GNB)は,HMO由来のLNBとともにGNB/LNB経路によって分解代謝される(4)4) M. Kitaoka: Adv. Nutr., 3, 422S (2012)..しかし,B. longumがムチン糖タンパク質を資化することはできない.この酵素はコア1型の二糖に特異的であり,修飾されたムチンを分解するためにはこの酵素だけでは不十分なのである.ビフィズス菌の中でB. bifidumだけが高いムチン資化性をもつ(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994).B. bifidumだけが資化できる理由は,コア1型に加えてコア2型と3型に対応する分解酵素群を有しているためである(23)23) M. Kiyohara, T. Nakatomi, S. Kurihara, S. Fushinobu, H. Suzuki, T. Tanaka, S. Shoda, M. Kitaoka, T. Katayama, K. Yamamoto et al.: J. Biol. Chem., 287, 693 (2012)..ビフィズス菌がもつムチン型糖鎖の分解代謝システムの詳細については芦田による最近の総説を参照されたい(20)20) 芦田 久:化学と生物,54, 901 (2016).

3. ビフィズス菌によるHyp-結合型糖鎖の分解代謝

Hypとは翻訳後修飾によりプロリンがヒドロキシル化された植物特有のアミノ酸であり,その水酸基に糖鎖が付加されたHyp-結合型糖鎖をもつタンパク質は,Hyp-rich glycoprotein(HRGP)と呼ばれている.主要なHRGPとしては,植物細胞壁の構造タンパク質として存在するエクステンシンや情報伝達を担うアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)がある.エクステンシンには4糖程度のβ-アラビノオリゴ糖鎖が付加され,AGPにはII型アラビノガラクタン鎖(II型AG)と呼ばれる複雑で巨大な糖鎖が付加されている.

筆者らは,β-アラビノオリゴ糖鎖とII型AGの分解酵素群をB. longumから発見し,その分解代謝システムを解明した(図3図3■B. longumにおけるβ-アラビノオリゴ糖鎖とII型アラビノガラクタン鎖の分解代謝経路).β-アラビノオリゴ糖鎖では,GH43 α-L-アラビノフラノシダーゼによって,Araf-α1,3-Araf-β1,2-Araf-β1,2-Araf-β-Hyp(Ara4-Hyp)からα-結合のArafを除去されてAra3-Hypになった後,GH121 β-L-アラビノビオシダーゼによりAraf-β1,2-Ara(β-Ara2)が遊離される(24)24) K. Fujita, S. Sakamoto, Y. Ono, M. Wakao, Y. Suda, K. Kitahara & T. Suganuma: J. Biol. Chem., 286, 5143 (2011)..次に,ABC型糖輸送体により菌体内に取り込まれたβ-Ara2は,GH127 β-L-アラビノフラノシダーゼによりAraに分解され代謝される(25)25) K. Fujita, Y. Takashi, E. Obuchi, K. Kitahara & T. Suganuma: J. Biol. Chem., 289, 5240 (2014)..II型AGの場合は,主鎖のβ1,3-ガラクタン鎖を切断するGH43エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼと側鎖のβ1,6-ガラクタン鎖を二糖単位で切断するGH30 β-1,6-ガラクタナーゼの働きによりGal-β1,6-Gal(β-Gal2)が遊離する(26)26) K. Fujita, T. Sakaguchi, A. Sakamoto, M. Shimokawa & K. Kitahara: Appl. Environ. Microbiol., 80, 4577 (2014)..この際に,側鎖に修飾されたα-結合のArafをGH43 α-L-アラビノフラノシダーゼで切断することで分解効率を高めている.ABC型糖輸送体により菌体内に取り込まれたβ-Gal2は,菌体内のβ-ガラクトシダーゼによって分解され代謝される.これらの酵素群の発見の経緯や各酵素の詳細については筆者による最近の総説を参照されたい(27)27) 藤田清貴:応用糖質科学,6, 30 (2016).

図3■B. longumにおけるβ-アラビノオリゴ糖鎖とII型アラビノガラクタン鎖の分解代謝経路

ハサミは糖質分解酵素の切断位置を表す.四角の破線は遊離される二糖単位を表す.菌体外酵素の多くは細胞壁に局在しているため,遊離されたオリゴ糖を速やかに取り込むことができる.

AGPを構成成分とするアラビアガムやカラマツ由来のII型AGは,食品添加物の増粘多糖類として利用されている.これまでに,B. longumがカラマツ由来のII型AGを利用して生育できる一方,ほかのビフィズス菌は全く生育できないことが報告されていた(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994)..これは,B. longumだけにII型AG分解酵素群が保存されているという結果と一致していた(27)27) 藤田清貴:応用糖質科学,6, 30 (2016)..このため,カラマツ由来のII型AGはB. longumを選択的に増殖させるプレバイオティクスと言える.一方,アラビアガムは一部のB. longumB. adolescentisに資化されることがわかっており(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994).,ヒト試験でもビフィズス菌を増やす効果があることが確認されていた(28)28) W. Calame, A. R. Weseler, C. Viebke, C. Flynn & A. D. Siemensma: Br. J. Nutr., 100, 1269 (2008)..しかし,糖鎖構造の複雑さからII型AG分解酵素群だけでは分解することができない.アラビアガム資化性を示すB. longum JCM7052株は,アラビアガム資化性の鍵を握る遺伝子群をコードしていることが示唆されている(29)29) 山本 勇:J. Life Sci. Res., 12, 25 (2014)..一方,β-アラビノオリゴ糖鎖の分解酵素群はB. longumだけでなく,成人型ビフィズス菌であるB. pseudocatenulatumB. adolescentisの一部にも保存されている(27)27) 藤田清貴:応用糖質科学,6, 30 (2016)..このため,B. longumを中心として成人型ビフィズス菌全般に利用されているものと予想される.

次世代のプレバイオティクスとは

糖タンパク質とビフィズス菌の関係を図4図4■糖タンパク質とビフィズス菌の資化性との関係にまとめた.ラクトフェリンは乳児型ビフィズス菌全般に利用され,ムチンはB. bifidumに選択的に利用される.一方,HRGPのうちAGPはB. longumと一部のB. adolescentisで利用され,エクステンシンは成人型ビフィズス菌に広く利用される.また,植物多糖もB. adolescentisを中心に成人型ビフィズス菌に利用される.このように,糖タンパク質糖鎖や多糖はビフィズス菌にとっての重要な糖質供給源の一つになっている.ビフィズス菌が植物由来の糖タンパク質や多糖に対する分解代謝システムを進化させた理由は,ヒトとビフィズス菌の共生の歴史にある.先人たちと同様に大量の食物繊維を摂取していれば,ビフィズス菌はその中からオリゴ糖を切り出して増えることができる.現代人の食生活の変化に伴う食物繊維摂取量の減少により,ビフィズス菌に十分な糖質を届けることができなくなったのである.それを補う手段がプロバイオティクスやプレバイオティクスの摂取ということになる.

図4■糖タンパク質とビフィズス菌の資化性との関係

ビフィズス菌を増やすプレバイオティクスとしての糖タンパク質や多糖には,製造コストが低く,高分子化合物のため浸透圧を上げにくいという利点がある.しかし,各個人の腸に住むビフィズス菌が分解代謝システムをもっているとは限らないので,糖タンパク質や多糖が利用されないリスクがある.一方,オリゴ糖であれば分解に必要な酵素が少なくて済むため資化される可能性は高い.この問題の一つの解決法として,フラクトオリゴ糖とアラビアガムを組み合わせたプレバイオティクス食品素材の開発が行われている(30)30) 倉重(岩崎)恵子:食品と開発,51, 11 (2016)..この組み合わせにより,分解されやすいオリゴ糖は大腸の前半部分で利用され,分解されにくいアラビアガムは中・後半部分で利用されることにより,大腸全体で機能を発揮するとされている.このように,これまで見つかってきたさまざまなプレバイオティクス食品素材を組み合わせることによって機能性を高めることも可能になる.さまざまなプレバイオティクスを組み合わせていけば,結果的に加工されていない穀物や野菜に行き着いてしまう.ビフィズス菌のためにも食物繊維の多いバランスの良い食生活が一番である.

おわりに

ゲノム情報の解明と糖質分解酵素の機能解明に伴い,多くの糖質分解代謝システムが明らかになってきた.今回,Crocianiらによる資化性試験の論文を多く引用した(6)6) F. Crociani, A. Alessandrini, M. M. Mucci & B. Biavati: Int. J. Food Microbiol., 24, 199 (1994)..彼らはビフィズス菌の菌種ごとに十数株の資化性試験を行うことにより,各菌種の資化性の傾向を明らかにした.今回取り上げたムチンやII型AGの糖質分解代謝システムの存在と資化性の有無はきれいな一致を示している.さらに,アラビアガムで見られるような同一菌種の中での資化性のばらつきは分解代謝システムのばらつきを反映している.ビフィズス菌の分解代謝酵素群は水平伝播により他者より獲得したものであるとされている.環境に応じて重要な形質は受け継がれることになるし,たいして重要でなければ遺伝子が欠落しても生育に影響を示さないため淘汰されてしまう.筆者はこれまでB. longum JCM1217株という基準株一つだけを調べてきたが,1菌株だけでは菌種全体の性質を判断することはできないという現実を痛感させられている.

現在,乳児型ビフィズス菌の解明が進む一方,成人型ビフィズス菌の糖質分解代謝システムはまだまだ未解明の部分が多い.ゲノム情報が開示されており,資化性を示す基質が存在するならば,鍵となる分解酵素を見つけさえすれば分解代謝システムを推定することも可能になる.地道な解析を繰り返していけば,ゲノム情報だけではわからないビフィズス菌の生存戦略の解明に近づくものと信じている.

Reference

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