解説

細胞分裂時における細胞小器官(オルガネラ)の分配機構細胞周期,次の主役はオルガネラ

Mechanisms of Organelle Inheritance during Cell Division

Yui Jin

Life Sciences Institute, Department of Cell and Developmental Biology, University of Michigan

Lois S. Weisman

Life Sciences Institute, Department of Cell and Developmental Biology, University of Michigan

Published: 2017-03-20

真核生物の細胞内には,膜で覆われた細胞内小器官(オルガネラ)が幾種も存在し,それぞれのオルガネラは細胞生育において必須な役割を果たしている.出芽酵母を用いた近年の研究から,細胞分裂時において,核/染色体のみならず,オルガネラも積極的に娘細胞へと分配されており,かつ,オルガネラ分配は細胞生育において重要であることが示されている.さらに,多くの真核生物においては,細胞分裂時に核膜の崩壊と同様に,ゴルジ体の構造が劇的に変化することから,細胞分裂時におけるオルガネラ分配制御は種を超えて存在することが強く示唆される.本稿においては,近年急速に理解が進んできた酵母におけるオルガネラ分配の分子機構を中心に解説する.

はじめに

動物,植物をはじめすべての真核生物は,細胞分裂時に細胞の設計図とも言える染色体を娘細胞に分配する.さらに染色体の分配を監視するチェックポイント機構が存在する.しかしながら染色体のみでは,細胞は生育できないことは容易に推察できる.つまり真核生物のアイデンティティーの一部とも言えるオルガネラも,細胞分裂時には娘細胞へ分配されなければならないと考えられる.この際,細胞内にランダムに配置しているオルガネラを細胞分裂時に「偶発的に」娘細胞に分配するわけではなく,巧妙な分子制御のもと,オルガネラを細胞骨格に沿って移動させることにより,「計画的に」娘細胞に分配するということが明らかになってきた.

多くの研究者は長年出芽酵母をモデル生物に細胞分裂時におけるオルガネラ分配を研究してきた.出芽酵母をモデルとして用いる利点の一つとして,細胞分裂の様式が非対称であり,この非対称性により,多くのオルガネラが細胞分裂時に娘細胞へと能動的に輸送されることが挙げられる.

MyosinV依存的なオルガネラ輸送

細胞分裂に伴って細胞骨格が再構築され,それに沿ってモータータンパク質がオルガネラ輸送を行っている.細胞の大きさが20~30 µmの直径をもつ哺乳類細胞においては,たとえば核周辺から細胞辺縁部への長距離輸送には,微小管が使われ,細胞膜近傍の短距離輸送にはアクチン繊維が使用される.一方,細胞の大きさが2~3 µmである酵母においては,ほとんどのオルガネラ輸送にはアクチン繊維,そしてアクチン繊維上を移動するミオシンモーターが使用されるという特徴がある.出芽酵母では,5型ミオシンモーター(Myosin V)に分類されるMyo2およびMyo4がオルガネラの輸送を担っている.Myo2は液胞,ミトコンドリア,ペロキシソーム,ゴルジ体,分泌小胞の輸送を,さらには紡錘体極の極性を制御している.Myo4は小胞体,さらにはASH1をはじめさまざまなmRNAを娘細胞に輸送する(図1図1■オルガネラ分配(輸送と係留)の模式図).

図1■オルガネラ分配(輸送と係留)の模式図

出芽酵母において,ゴルジ体,分泌小胞,ミトコンドリア,液胞,ペロキシソームはMyo2モータータンパク質によりアクチン繊維を通り,細胞分裂毎に娘細胞に運ばれる.Myo2は紡錘体極の極性制御にも関与している.もう一つのMyosin VであるMyo4は細胞分裂時に,小胞体,mRNAを娘細胞に運ぶ. Myo2輸送アダプターとして,ゴルジ体輸送にはYpt11,分泌小胞輸送にはYpt31/32とSec4とSec15(Exocyst),ミトコンドリア輸送にはYpt11とMmr1,液胞輸送にはVac17とVac8,ペロキシソーム輸送にはInp2とPex19,そして紡錘体極の極性にはKar9とBim1が働いている.Myo4輸送アダプターとして,小胞体輸送にはShe3, ASH1 mRNA輸送にはShe2とShe3が働いている.Myosin Vと直接結合する輸送アダプターを四角,直接結合しないアダプターを三角で示す.ミトコンドリアとペロキシソームの一部を母細胞へとどめる制御の模式を図左側に示している.母細胞での係留アダプターとして,ミトコンドリア係留にはNum1, Mdm36, Mfb1が働き,ペロキシソーム係留にはInp1とPex3が働いている.

Myo2, Myo4はそれぞれホモ二量体を形成し,アクチン上をマイナス端からプラス端に向かって移動するモータータンパク質である.Myosin VはN末端から,1)ATP加水分解をエネルギーとしてアクチン上を移動することができるモータードメイン,2)カルモジュリンやミオシン軽鎖が結合するIQモチーフ,3)二量体形成に重要と考えられているコイルド–コイル領域,4)そしてオルガネラ含む積荷に対する結合ドメインから構成される(図2図2■ミオシンモーターの構造).Myo2モーターは少なくとも6種類,Myo4モーターは2種類の積荷を輸送するが,個々の積荷の輸送は時空間的な差異が存在している.では,モータータンパク質はどのように複数の積荷を一つのドメインで認識し,積荷の輸送を時空間的に制御しているのだろうか? その答えはMyo2積荷結合ドメインの結晶構造解析と,それに続く個々のオルガネラ輸送に必要なアミノ酸の同定より明らかになってきた(図3図3■Myo2モータータンパク質の積荷結合ドメインの結晶構造と,各オルガネラ結合部位).またMyo2およびMyo4は積荷輸送の際に直接オルガネラ膜に結合するのではなく,膜に局在するアダプタータンパク質がオルガネラ膜とモータータンパク質をつなぐ役目を果たしている(図2図2■ミオシンモーターの構造).さらに積荷に応じて異なるアダプタータンパク質が存在する(表1表1■オルガネラ特異的輸送アダプター).これらアダプタータンパク質はオルガネラ膜とモータータンパク質の物理的なつなぎ止めとしての役割だけでなく,細胞周期に応じてさまざまな制御を受けることにより,オルガネラ輸送の時空間的な調節因子としての役割も務めている.ここからは個々のオルガネラ分配について詳細を解説したい.

図2■ミオシンモーターの構造

(A)ミオシンモーターはN末端側から,モータードメイン,IQモチーフ,コイルド-コイル,積荷結合ドメインの4つのドメインを有している.(B)ミオシンモーターMyo2による液胞輸送複合体の模式図を示す.ミオシンモーターは二量体を形成し,モータードメインにてアクチン繊維上を移動する.IQモチーフはミオシン軽鎖やカルモジュリンが結合する.コイルド–コイル領域は二量体形成に重要であると考えられている.積荷結合ドメインは,積荷特異的アダプタータンパク質を介してオルガネラを含む積荷に結合する.液胞輸送の場合,液胞アダプターであるVac17がMyo2積荷結合ドメインに直接結合し,さらに脂質修飾を介して液胞膜に局在しているVac8にも直接結合し,Myo2と液胞膜をつなげている.

図3■Myo2モータータンパク質の積荷結合ドメインの結晶構造と,各オルガネラ結合部位

Myo2のC末端側の積荷結合ドメインの結晶構造を示す.上図では,液胞輸送アダプターVac17の結合アミノ酸を青色,ミトコンドリア輸送アダプターMmr1の結合部位を赤色で示している.Vac17とMmr1が両方結合する部位を紫色で示している.分泌小胞輸送にかかわるSec15(Exocyst)の結合部位を緑色で示している. 下図は,上図を横軸に対して180度回転させた図であり,上図の裏側を表している.分泌小胞,ゴルジ体,ミトコンドリア輸送に関わるRab GTPase結合部位を黒線,紡錘対極の極性にかかわるKar9結合部位を紫線,ペソキシシーム輸送にかかわるInp2結合部位を緑線で囲っている.もう一つのペロキシソームアダプターPex19の結合に必要と同定されたアミノ酸は残基部位が表面にないため図では表していない.Rab GTPase結合領域,紡錘対極結合領域,ペロキシソーム結合領域は一部重複している.

表1■オルガネラ特異的輸送アダプター
Myosin V輸送アダプター積荷
Myo2Vac17 (Vac8)液胞
Mmr1, Ypt11ミトコンドリア
Inp2, Pex19ペロキシソーム
Ypt11 (Ret2)ゴルジ体
Ypt31/32, Sec4, Sec15分泌小胞
Kar9 (Bim1)紡錘体極
Myo4She3小胞体
She3 (She2)mRNA
ミオシンモーター,輸送アダプター,そして積荷を示す.括弧( )内に示したVac8, Ret2, Bim1, She2は直接ミオシンモーターには結合せず,それぞれVac17, Ypt11, Kar9, She3を介してミオシンモーターと複合体を形成する.

オルガネラ分配

1. 液胞分配

液胞は,ほかの生物種におけるリソソームに相当し,内腔の酸性度が高いオルガネラである.主にタンパク質などの高分子を加水分解し,アミノ酸の再利用および貯蓄の場として知られている.また細胞内のpHの調節にも大きく寄与している.成熟した,かつ機能的な液胞は細胞の生育に必須であり,細胞分裂時の液胞分配の重要性が示されている(1)1) Y. Jin & L. S. Weisman: eLife, 4, e08160 (2015)..液胞膜を観察すると,細胞分裂時には母細胞から娘細胞に向かってsegregation structureと呼ばれる長細い,かつ娘細胞へ分配途中の液胞の形態が観察される(図4図4■液胞輸送の経時的観察).液胞分配変異体においてはこのようなsegregation structureが見られず,液胞が分配されなかった娘細胞においては新規に液胞が生成される.液胞分配変異体スクリーニングにより液胞輸送に必要な遺伝子が単離,同定された(2)2) Y.-X. Wang, H. Zhao, T. Harding, D. Gomes De Mesquita, C. L. Woldringh, D. Klionsky, A. L. Munn & L. S. Weisman: Mol. Biol. Cell, 7, 1375 (1996)..前述したミオシンモーターであるMyo2,自身の脂質修飾を介して液胞膜にアンカーされているVac8,そしてMyo2とVac8を物理的につなげるアダプタータンパク質Vac17が同定され,少なくともこれら3つのタンパク質から構成される輸送複合体が液胞輸送に必要であることが明らかとなっている(3)3) L. S. Weisman: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 7, 243 (2006).図2図2■ミオシンモーターの構造).