バイオサイエンススコープ

廃棄される未熟ミカンに豊富に含まれるヘスぺリジンの可溶化不溶性成分を茶飲料として摂取可能に

Shizuka Tamaru

田丸 靜香

長崎県立大学看護栄養学部栄養健康学科

Kazunari Tanaka

田中 一成

長崎県立大学大学院人間健康科学研究科

Published: 2017-03-20

未熟な温州ミカンと三番茶葉を使用した「ミカン混合発酵茶葉」の製造

長崎県では温州ミカンの生産が盛んであるが,高品質果実収穫のため梅雨~初夏に直径1.5 cm程度の青い未熟果(摘果ミカン)を大量に間引きして樹木の足元に放置・廃棄する.先の研究で,温州ミカンは脂質代謝改善などの作用が報告されているフラバノン配糖体(ヘスペリジンやナリルチン)を豊富に含み,これらの含量は食用の成熟果より摘果ミカンのほうが高いことを確認している.一方,同県では緑茶葉の生産も盛んであるが,夏~初秋に収穫される三番茶葉は,カテキン含量(渋味)が多くアミノ酸含量(旨味)は少ないため香味に劣り,市場価値の低さから一部は刈り捨てられる.そこでわれわれは,これら未利用資源の有効活用のため,生果の摘果ミカンを丸ごと(外皮を含む)細分化し,三番茶葉と混合した後,酸化発酵させた茶(ミカン混合発酵茶葉)を製造した(図1図1■ミカン混合発酵茶葉の製造).

図1■ミカン混合発酵茶葉の製造

茶は,不発酵茶(緑茶)と発酵茶(紅茶など)に大別されるが,ミカン混合発酵茶葉の製法は紅茶葉のそれにおおむね準ずる.つまり,まず三番茶葉をしおれさせて(萎凋),そこに摘果ミカンを投与して強くもむ(揉捻).萎凋・揉捻により茶葉の細胞が破壊され,茶葉のもつポリフェノール酸化酵素の働きによりカテキン類が重合して紅茶ポリフェノール類が生成される(酸化発酵).この発酵は微生物発酵ではなく自然発酵である.通常の紅茶葉の製造ではほぼすべてのカテキン類が紅茶ポリフェノール類に変化するが,ミカン混合発酵茶葉の製造では紅茶葉より短時間で発酵を終えるため,カテキン類が残存する.

ヘスペリジンの可溶化

ミカン混合発酵茶葉の熱水抽出液は,紅茶に似た色で,ほのかな柑橘系の香りがある.高速液体クロマトグラフィーで成分分析を行うと,茶葉由来のカフェイン,没食子酸,カテキン類,紅茶ポリフェノール類など,摘果ミカン由来のシネフリン,ヘスペリジン,ナリルチンなどが検出される.しかし本来,フラバノン配糖体,特にヘスペリジンは水に極めて難溶(溶解度:2 mg/100 mL)で,柑橘系の果汁飲料ではヘスペリジンが析出・結晶化することがある.市場では,ヘスぺリジンを可溶化するため酵素処理により糖を配位した「糖転移ヘスペリジン」(溶解度:20 g/100 mL)が製造・利用されている.そこで,ミカン混合発酵茶葉に含まれるヘスペリジンが熱水抽出液中に検出される(水に溶ける)機構について,核磁気共鳴(1H-NMR)によりヘスペリジンの各部位(炭素)に結合する水素原子のケミカルシフト値の変化を調べることにより検証した(1)1) 中山久之,田中 隆,宮田裕次,齋藤義紀,松井利郎,荒牧貞幸,永田保夫,田丸靜香,田中一成:日本栄養・食糧学会誌,67, 95 (2014)..ヘスペリジンはアグリコンであるヘスペレチン(疎水性)に糖(水溶性)が結合しており,通常,水溶液中では疎水性部分が会合・結晶化しているが,ミカン混合発酵茶の抽出液中では,ヘスペレチン構造のC環2位および3位,B環2位,A環,つまり疎水性の強い部分のケミカルシフトが大きくマイナス方向へ傾いていた.このことから,ミカン混合発酵茶では,カテキン類や紅茶ポリフェノール類(水溶性)が共存することにより,これら化合物の疎水性部分がヘスペリジンの疎水会合を解き,複数種の化合物の疎水性部分が会合するため,ヘスペリジンは水に可溶となることが明らかとなった(1)1) 中山久之,田中 隆,宮田裕次,齋藤義紀,松井利郎,荒牧貞幸,永田保夫,田丸靜香,田中一成:日本栄養・食糧学会誌,67, 95 (2014).図2図2■ミカン混合発酵茶におけるへスぺリジンの可溶化の推定機構).

図2■ミカン混合発酵茶におけるへスぺリジンの可溶化の推定機構

糖転移へスぺリジンの製造には酵素処理が必要であり,コスト面から製造ならびに原料となる柑橘類の生産を海外に依存していると思われる.また,へスぺリジンの抽出にエタノールが使用されている.一方,ミカン混合発酵茶は,国内の未利用資源のみを用いて低コストで天然へスぺリジンの水溶性を高めることができるため,ヘスペリジンを効率良く摂取できる茶飲料として付加価値が高いと考えられる.さらに,ヘスペリジン可溶化のメカニズムは,本発酵茶に含まれるもう一つのフラバノン配糖体であるナリルチン(ヘスペリジンよりは水に溶けやすい)においても同様に起こっていると推測され,今後,ヘスペリジンに限らず不溶性成分の可溶化技術としてそのほかの飲料に応用できる可能性を含んでいる.

なお,ミカン混合発酵茶葉の製造条件について,摘果ミカンと三番茶葉の混合割合を1 : 3もしくは1 : 1,揉捻時間は20もしくは40分,酸化時間は0, 1, 2,もしくは3時間として検討した結果,混合割合1 : 3,揉捻時間20分,酸化時間0時間とした場合に,茶葉から熱水抽出液へのヘスペリジン溶出率が最も高くなったため,これを製造条件に設定した(1)1) 中山久之,田中 隆,宮田裕次,齋藤義紀,松井利郎,荒牧貞幸,永田保夫,田丸靜香,田中一成:日本栄養・食糧学会誌,67, 95 (2014)..ここでいう酸化時間とは,茶葉と摘果ミカンのもみ込み(揉捻)中にすでに起こっている酸化発酵,つまりカテキン類が重合して紅茶ポリフェノールが生成されるという反応時間を,その後さらに放置して延長する時間を指しており,酸化時間0時間とは,酸化させないという意味ではなく,酸化反応は揉捻中のみで終える,ということである.

動物を用いた摂食実験による機能性評価

ミカン混合発酵茶の食品としての機能性ついて,いくつかの実験動物種を用いて検討した.

(1)茶葉の熱水抽出液の凍結乾燥粉末を食餌に添加し,正常ラット(Sprague–Dawley系ラット)に摂食させた結果,血清の脂質濃度には明確な影響は観察されなかったが,肝臓のコレステロールおよび中性脂肪の濃度は有意に低下していた(2)2) H. Nakayama, N. Yuito, Y. Miyata, K. Tamaya, T. Tanaka, Y. Saito, T. Matsui, S. Aramaki, S. Tamaru & K. Tanaka: Food Sci. Technol. Res., 21, 77 (2015)..次に,肝臓における脂質代謝に及ぼす影響をより詳細に検討するために,同ラットの肝臓より肝実質細胞を分離・培養した初代肝細胞培養系に,脂質合成の基質として[1,2-14C]酢酸を添加した.本発酵茶を摂取したラットの肝細胞では,細胞内の脂質画分への[1,2-14C]酢酸の取り込みが有意に低下していたことから,肝細胞における脂質合成が抑制されていることが確認された.また,肝細胞から培地中へ分泌される脂質画分への[1,2-14C]酢酸の取り込みも有意に低下していたことから,肝臓から血液中への脂質分泌も抑制されていることが観察された.以上のように,ミカン混合発酵茶の摂取は,肝臓における脂質合成の抑制を介して肝臓脂質濃度の低下を引き起こすようである.

前述のような脂質代謝改善作用が,病態モデル動物においても発揮されるか検討した.

(2)脂肪肝モデル:Sprague–Dawley系ラットに,過剰にフラクトース,ラード,コレステロールを含む食餌を摂食させて脂肪肝を誘発した.肝臓に蓄積した中性脂肪およびコレステロールは,ミカン混合発酵茶の摂取により低下したが,血清の脂質濃度への影響は明確でなかった.

(3)腎疾患モデル:Fischer系ラットに,過剰にフラクトースを含む食餌を長期間摂食させて腎疾患を誘発した.ミカン混合発酵茶の摂取により,肝臓の中性脂肪濃度は有意に増加し,コレステロール濃度に明確な差異は観察されなかった.血清の中性脂肪およびコレステロール濃度は低下する傾向を示した.

(4)老化モデル:老化促進マウス(SAMP8)においては,肝臓の中性脂肪濃度に変化はなく,コレステロール濃度は有意に低下した.血清の中性脂肪およびコレステロール濃度は増加傾向にあった.以上の結果を表1表1■各病態モデル動物におけるミカン混合発酵茶摂取の肝臓および血清脂質濃度に及ぼす影響にまとめる.

表1■各病態モデル動物におけるミカン混合発酵茶摂取の肝臓および血清脂質濃度に及ぼす影響
モデル動物肝臓血清
中性脂肪濃度コレステロール濃度中性脂肪濃度コレステロール濃度
(1)正常モデル(ラット)有意に低下有意に低下変化なし変化なし
(2)脂肪肝モデル(ラット)低下傾向有意に低下変化なし変化なし
(3)腎疾患モデル(ラット)有意に増加変化なし低下傾向低下傾向
(4)老化促進モデル(マウス)変化なし有意に低下増加傾向増加傾向

ミカン混合発酵茶は,三番茶葉および摘果ミカン由来の多様な機能性成分を含み,かつヘスペリジン水溶性が向上したことで,生体内への吸収が促進し,さらにはその作用がより効果的に発揮されると期待される.しかしながら,ヘスペリジンなどのフラバノン配糖体は,不溶性であってもその摂取による効果は多数報告されている.また,糖転移ヘスペリジンのように顕著に水溶性を向上させた場合,生体への吸収率(血液中で検出される量)は増加する(3)3) M. Yamada, F. Tanabe, N. Arai, H. Mitsuzumi, Y. Miwa, M. Kubota, H. Chaen & M. Kibata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1386 (2006).ものの作用の強化との関連は明確ではない.本発酵茶におけるヘスペリジンの水溶性向上が直接生体への吸収率向上につながっているか,さらには作用がより効果的に現れるか,もしくは水溶性や吸収率に関係なく,腸管からの吸収前のイベントの変化により機能性が発揮されるのかなど,今後立証しなければならない.

実験動物における結果をヒトに適応できるとは限らず,別途臨床試験が必要であることや,食品は医薬品ではないことは言うまでもない.近年,特定保健用食品制度の見直しや機能性表示食品制度の開始など,食品の機能性が注目されている.今回用いたSprague–Dawley系ラットは,食品の機能性評価や栄養学的代謝メカニズムの解明などにおいて,病態モデルではない正常ラットとして広く用いられている.しかし,このラットは,ほかの正常ラット(Wistar系など)と比較して,摂食量が多く,体重増加が著しく,白色脂肪組織重量(いわゆる体脂肪)が蓄積しやすく,血液中や肝臓中の糖や脂質の濃度が若干高めである.すなわち,過食,肥満,高血糖,高脂血症などといった現代人に多く見られるメタボリック症候群に近い動物であると筆者は考えており,このような動物においてミカン混合発酵茶の摂取による脂質代謝改善作用が確認されたことは,食品による生活習慣病予防という観点において重要な意味をもつと考えられる.現在,作用のさらなる検討とメカニズム解明を行っている.

特許,商品化,研究体制など

長崎県では先に,緑茶葉をベースとする異種作物混合発酵法に関する技術特許を取得しており,今回のミカン混合発酵茶葉の製造はその製法,設備,機器を利用したものである.現在,本発酵茶におけるへスぺリジンの可溶化に関する特許を申請中である.

同県では,ミカン混合発酵茶葉に先立ち,同様に緑茶三番茶葉をベースとして長崎県特産品の副産物(未利用資源)を混合発酵させたビワ葉混合発酵茶葉(商品名:美軽茶)(4~10)4) 宮田裕次,野田政之,玉屋 圭,林田誠剛,徳島知則,西園祥子,松井利郎,田中 隆,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,56, 647 (2009).5) 宮田裕次,田中 隆,野田政之,玉屋 圭,西園祥子,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会雑誌,57, 171 (2010).6) 宮田裕次,田中 隆,玉屋 圭,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,58, 403 (2011).7) 宮田裕次,田中 隆,玉屋 圭,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,60, 110 (2013).8) K. Tanaka, S. Tamaru, S. Nishizono, Y. Miyata, K. Tamaya, T. Matsui, T. Tanaka, Y. Echizen & I. Ikeda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1606 (2010).9) Y. Miyata, T. Tanaka, K. Tamaya, T. Matsui, S. Tamaru & K. Tanaka: Food Sci. Technol. Res., 17, 585 (2011).10) Y. Miyata, S. Tamaru, T. Tanaka, K. Tamaya, T. Matsui, Y. Nagata & K. Tanaka: J. Agric. Food Chem., 61, 9366 (2013).およびツバキ葉混合発酵茶葉(商品名:五島つばき茶)(11, 12)11) S. Tamaru, K. Ohmachi, Y. Miyata, T. Tanaka, T. Kubayashi, Y. Nagata & K. Tanaka: J. Agric. Food Chem., 61, 5817 (2013).12) 宮田裕次,久林高市,田嶋幸一,田中 隆,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,62, 123 (2015).を製造している.前者は中性脂肪低減作用,後者は血糖上昇抑制作用に焦点を当て,製造条件の検討,作用の検討およびメカニズム解明,有効成分探索,臨床試験を経て,いずれもすでにティーパックの形態で商品化・販売に至っている.これらの実績を基に,今後ミカン混合発酵茶葉も商品化を目指す予定である.

これら一連の研究は,長崎県農林技術開発センターを中心に,同県工業技術センター,筆者らの所属する長崎県立大学,長崎大学,九州大学の共同研究によるものであり,製造条件の検討,研究資金獲得,成分分析,成分の挙動解明,機能性評価,成果報告などを分担して行っている.商品化や販売については長崎県と中小企業との連携による.個々の大学における研究だけでは,学術的成果を上げることはできても商品化に至ることは皆無であり,九州地方においてこのような産官学連携の事例は少なく,成功の理由は長崎県による建設的な研究体制の確立にほかならず,これまでに多くの特許,研究資金,賞を獲得している.本研究は貴学会の農芸化学研究企画賞の副賞をもって遂行した.ここに謝意を申し上げる.

おわりに

ミカン混合発酵茶は,原料として地域の農産物のうち未利用資源を有効活用しており,これまで使用していた茶葉製造にかかわる機器・設備を用いているため,低コストでの生産が可能である.また,異種作物を混合揉捻した新しいタイプの茶飲料であり,香味に優れる.さらに高機能成分を豊富に含み,不溶性成分の可溶化を実現した.これらの研究成果を基に,今後さらなる機能性解明,商品化,地域貢献へと発展させたい.

Reference

1) 中山久之,田中 隆,宮田裕次,齋藤義紀,松井利郎,荒牧貞幸,永田保夫,田丸靜香,田中一成:日本栄養・食糧学会誌,67, 95 (2014).

2) H. Nakayama, N. Yuito, Y. Miyata, K. Tamaya, T. Tanaka, Y. Saito, T. Matsui, S. Aramaki, S. Tamaru & K. Tanaka: Food Sci. Technol. Res., 21, 77 (2015).

3) M. Yamada, F. Tanabe, N. Arai, H. Mitsuzumi, Y. Miwa, M. Kubota, H. Chaen & M. Kibata: Biosci. Biotechnol. Biochem., 70, 1386 (2006).

4) 宮田裕次,野田政之,玉屋 圭,林田誠剛,徳島知則,西園祥子,松井利郎,田中 隆,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,56, 647 (2009).

5) 宮田裕次,田中 隆,野田政之,玉屋 圭,西園祥子,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会雑誌,57, 171 (2010).

6) 宮田裕次,田中 隆,玉屋 圭,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,58, 403 (2011).

7) 宮田裕次,田中 隆,玉屋 圭,松井利郎,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,60, 110 (2013).

8) K. Tanaka, S. Tamaru, S. Nishizono, Y. Miyata, K. Tamaya, T. Matsui, T. Tanaka, Y. Echizen & I. Ikeda: Biosci. Biotechnol. Biochem., 74, 1606 (2010).

9) Y. Miyata, T. Tanaka, K. Tamaya, T. Matsui, S. Tamaru & K. Tanaka: Food Sci. Technol. Res., 17, 585 (2011).

10) Y. Miyata, S. Tamaru, T. Tanaka, K. Tamaya, T. Matsui, Y. Nagata & K. Tanaka: J. Agric. Food Chem., 61, 9366 (2013).

11) S. Tamaru, K. Ohmachi, Y. Miyata, T. Tanaka, T. Kubayashi, Y. Nagata & K. Tanaka: J. Agric. Food Chem., 61, 5817 (2013).

12) 宮田裕次,久林高市,田嶋幸一,田中 隆,田丸靜香,田中一成:日本食品科学工学会誌,62, 123 (2015).