解説

マヌカ蜂蜜に含まれるケミカルマーカーと認証評価成分を調べることで食の偽装を防ぐ

Authenticity of Manuka Honey by Measuring Unique Chemical Markers: A Chemical Way to Prevent Food Disguise

Yoji Kato

加藤 陽二

兵庫県立大学環境人間学部

Published: 2017-04-20

食の偽装は世界的にも大きな問題である.産地偽装は今も昔も頻繁に起きており,輸入物を国産品と偽るなど,枚挙に暇がない.違う食材を用いる例も多い.エビの場合,ブラックタイガーを車エビ,バナメイエビを芝エビ,ロブスターを伊勢エビと偽って表示するなど,毎日のように新聞各紙に取り上げられていたことは記憶に新しい.食の偽装を防ぐために,さまざまな取り組みがなされているが,本稿では例として蜂蜜,なかでもマヌカ蜂蜜を主として取り上げ,偽装を防ぐための認証評価法について紹介する.マヌカ蜂蜜に限らず蜂蜜は,加糖(希釈)や加熱,産地のすり替えなど,以前より偽装が疑われる例の多い食材と言える.

食の偽装とマヌカ蜂蜜

世界中で食の偽装は行われている.なぜ,偽装が行われるかと言えば,多くの場合は利益が出るから,と言えよう.すなわち,真の商品と偽装商品の価格差が大きいほど利益が見込める.高額な商品ほど,偽装を生みやすいと言える.マヌカ蜂蜜は,(1)ニュージーランドに自生するマヌカLeptospermum scopariumの花から得られ,(2)高い抗菌活性など機能性があり,(3)生産量も限られている,などの理由から高価な蜂蜜の一つである.たとえば平成26年のデータ(1)1) 農林水産省生産局畜産部:養蜂をめぐる情勢,http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/sonota/pdf/meguji_youhou_2015_10.pdf, 2015.では,最大の輸入先である中国から日本への蜂蜜輸入量は2万8千トンであり,ニュージーランド産蜂蜜の輸入量と比べて50倍以上多い.一方で,重量あたりの価格では中国産に比べてニュージーランド産が高価であり,その差は約9倍にも及ぶ.なお,ほかにもアルゼンチン,カナダ,ハンガリー,ミャンマーなど多くの国から日本は蜂蜜を輸入しているが,その中でもニュージーランド産蜂蜜の価格(3~10倍)は抜きんでている.この高価格はマヌカ蜂蜜に由来している.マヌカ蜂蜜は生産量よりも販売量が多いことが知られており,食の偽装が広く行われていることを示唆している(2)2) J. Leake (The Australian): Food fraud buzz over fake manuka honey, http://www.theaustralian.com.au/news/world/food-fraud-buzz-over-fake-manuka-honey/story-fnb64oi6-1226704038619, 2013..このような状況を打開すべく,ニュージーランド政府は新たに表示法(ラベル)の規制と,「マヌカ蜂蜜」であることを保証するための認証手段の調査を開始している(3)3) Ministry for Primary Industries: New Zealand: Mānuka honey, https://www.mpi.govt.nz/growing-and-producing/bees-and-other-insects/manuka-honey/, 2016

話がややこしくなるが,オーストラリアに自生するLeptospermum polygalifoliumもマヌカの類縁種であり,そこから得られる蜂蜜はジェリーブッシュ蜂蜜として知られる.業者によってはジェリーブッシュ蜂蜜をオーストラリア産「マヌカ蜂蜜」と称して販売している.マヌカはニュージーランドの先住民であるマオリ族の言葉に由来していることから,その用語の使用にあたって問題が生じている.

ミツバチにより集められた花蜜はミツバチの蜜胃に蓄えられて巣に持ち帰られる.巣では,ミツバチが蜜に羽を使って風を送るなどして比較的暖かな条件で水分が除去され,いわゆる蜂蜜になる.こうしてできあがった蜂蜜はモノフローラル蜂蜜(単一の花から得られた蜂蜜)と,マルチフローラル蜂蜜(複数の花から得られた蜂蜜)に分けることができる.マヌカ蜂蜜はマヌカの花からのみ得られたモノフローラル蜂蜜に分類される.しかしながら,野外において単一の花のみが咲いている場所は少なく,ほかの花蜜が混ざることが考えられ,ほとんどの場合,多かれ少なかれマルチフローラル蜂蜜とみなすこともできる.このためモノフローラル蜂蜜と表示するには「純度保証」が重要と考えられるが,後述するように簡単な話ではない.養蜂家,業者により採蜜された後,保管や瓶詰めされ販売されるが,その各ステップで偽装や過度な処理がなされる可能性がある(図1図1■蜂蜜ができるまで).

図1■蜂蜜ができるまで

マヌカ蜂蜜が高い抗菌活性を有している理由を簡単に紹介する.マヌカの花蜜にジヒドロキシアセトンと呼ばれる成分が特徴的に含まれており,ミツバチが花蜜を集める際にジヒドロキシアセトンも回収される.このジヒドロキシアセトンは,加熱などの処理によりメチルグリオキサールに変化する性質をもつ.上述したようにミツバチが巣に花蜜を持ち帰った後,加温(濃縮)されるためにその変換が促進される.加えて,養蜂家が採蜜後に容器に入れて倉庫に保管している間にも,徐々に(半年から1年くらいかけて)メチルグリオキサール量が増加していく(4)4) C. J. Adams, M. Manley-Harris & P. C. Molan: Carbohydr. Res., 344, 1050 (2009)..マヌカ蜂蜜の抗菌活性は,このメチルグリオキサールの存在でほぼ説明できる(5)5) J. Atrott & T. Henle: Czech Academy of Agricultural Sciences, 27, S163 (2009)..ちなみに,実はヒトの体内でもメチルグリオキサールは生じる.エネルギー産出を担う解糖系から,副産物としてジヒドロキシアセトンリン酸が生じてさらにメチルグリオキサールに転換されるが,酵素Glyoxalase系により分解される(6)6) M. Sousa Silva, R. A. Gomes, A. E. Ferreira, A. Ponces Freire & C. Cordeiro: Biochem. J., 453, 1 (2013).

マヌカ蜂蜜の抗菌活性成分とこれまでの認証評価法の問題点

食品を含有成分(量・質)で認証する場合,その成分にどのような性質が必要であろうか.その成分が保存中に別の物質に変化しない安定性と,偽装を防ぐためその成分が当該の食品に特異的に(あるいは特徴的なパターンで)含まれていること,であろう(図2図2■理想的なケミカルマーカー).これまで,マヌカ蜂蜜は商品の質を保証する(偽装を防ぐ)ために,抗菌活性の測定や抗菌活性成分メチルグリオキサールを化学的に定量し,それら数値を表示する認証(グレーディング)が実施されてきた.しかしながら抗菌活性そのものの測定はヘルスクレーム(健康機能表示)につながることから,現在は表示されない方向に進んでいる.一方,抗菌活性成分メチルグリオキサールは化学成分であり,その定量値は実際に多くのマヌカ蜂蜜に表示されている.しかしながら,その存在量の不安定性が問題となる.上述したように保管や加温により前駆体ジヒドロキシアセトンはメチルグリオキサールに変換され,メチルグリオキサール量は(一過的に)増加するが,やがて減少していく.加えてジヒドロキシアセトンおよびメチルグリオキサールともに化成品として安価に入手可能であり,添加することにより,人為的に抗菌活性を上げることができ,労せずして高額な商品に仕上げる(偽装する)ことができる.実際に,2016年には合成品のジヒドロキシアセトンあるいはメチルグリオキサールを人為的に添加した事例も報告されており,ニュージーランド第一産業省からのリコール(回収騒ぎ)が発生している(7)7) Ministry for Primary Industries: New Zealand: Evergreen brand mānuka honey products, http://www.mpi.govt.nz/food-safety/food-safety-for-consumers/food-recalls/evergreen-life-limited-manuka-honey-and-honey-products/, 2016..化成品も化学構造的には天然物と同一であるため,人為的に入れたかどうかの判別は難しい.このため,ケミカルマーカーとしての利用は(少なくともそれに頼り切ってしまう認証は)望ましくない.

図2■理想的なケミカルマーカー

特有成分レプトスペリンによるマヌカ蜂蜜の化学的認証

2012年にマヌカ蜂蜜から単離された配糖体レプトスペリン(8)8) Y. Kato, N. Umeda, A. Maeda, D. Matsumoto, N. Kitamoto & H. Kikuzaki: J. Agric. Food Chem., 60, 3418 (2012).は,「Leptospermum honey」であるマヌカ蜂蜜およびその類縁種ジェリーブッシュ蜂蜜のみから検出される(9)9) Y. Kato, R. Fujinaka, A. Ishisaka, Y. Nitta, N. Kitamoto & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 6400 (2014)..長期保存でもその含量に変化は認められず(9, 10)9) Y. Kato, R. Fujinaka, A. Ishisaka, Y. Nitta, N. Kitamoto & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 6400 (2014).10) J. Bong, G. Prijic, T. J. Braggins, R. C. Schlothauer, J. M. Stephens & K. M. Loomes: Food Chem., 214, 102 (2017).,限られたLeptospermum蜂蜜からしか検出されない特異性の高さから,ケミカルマーカーとして優れた性質を有する.レプトスペリンは化成品として安価に入手できず,合成法などは学術誌に発表されているが(11)11) H. R. M. Aitken, M. Johannes, K. M. Loomes & M. A. Brimble: Tetrahedron Lett., 54, 6916 (2013).,そのコストを考えると合成して人為的に添加するメリットは低い.

マヌカ蜂蜜にレプトスペリンは豊富に含まれているため,蜂蜜を少量とり水に溶かしたものを,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)–紫外吸収検出器(UV)により分析するだけでレプトスペリン検出定量が可能である(8)8) Y. Kato, N. Umeda, A. Maeda, D. Matsumoto, N. Kitamoto & H. Kikuzaki: J. Agric. Food Chem., 60, 3418 (2012)..いくつかの蜂蜜をHPLC–UVにより分析して比較すると,似通ったパターンもあるが,特異な成分もそれぞれ認められる(図3図3■蜂蜜のHPLCによる分析例).より測定時間を短くするため,また微量のレプトスペリンを検出するため,高速液体クロマトグラフィーとタンデム型質量分析器の組み合わせ(LC-MS/MS)も用いることができる(9)9) Y. Kato, R. Fujinaka, A. Ishisaka, Y. Nitta, N. Kitamoto & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 6400 (2014)..特に蜂蜜の二次産品,たとえばマヌカ蜂蜜入り飴やドリンクなどからの検出・定量に有効である.なお,マヌカ蜂蜜の場合はその機能性を期待して,飴など食品のみならず,石けんや歯磨き粉などにも添加されているが,ほとんどの場合,その添加割合(どの程度の蜂蜜を入れたのか)は記載されておらず,問題である.レプトスペリンを特異的に認識するモノクローナル抗体も開発し,レプトスペリンを定量するためのELISA法も構築されている(12)12) Y. Kato, Y. Araki, M. Juri, R. Fujinaka, A. Ishisaka, N. Kitamoto, Y. Nitta, T. Niwa & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 10672 (2014)..ELISA法であれば,一般的な96穴プレートを1枚用いれば,スタンダードを除いて20検体の同時処理が可能であり,認証機関(検査機関)での測定も容易となる.また,化学的な知識や高額な分析機器類が不要となり,プレートリーダーさえあれば測定できる.一方で,採蜜現場や小売店などがレプトスペリン量(真のマヌカ蜂蜜であるか,純度はどの程度か)をチェックしたい場合も考えられる.その場合にはイムノクロマトグラフィーが活用できる(13)13) Y. Kato, Y. Araki, M. Juri, A. Ishisaka, Y. Nitta, T. Niwa, N. Kitamoto & Y. Takimoto: Food Chem., 194, 362 (2016)..この場合,競合イムノクロマトグラフィー法により,20分程度で目視でもおおよそ確認可能であるし,携帯型スキャナーを用いることで,数値化(定量)も可能である.上述したELISA法やHPLC法などとの相関も高い.

図3■蜂蜜のHPLCによる分析例

最近,ニュージーランドの研究グループからレプトスペリンは特徴的な蛍光を有することが報告された(10, 14)10) J. Bong, G. Prijic, T. J. Braggins, R. C. Schlothauer, J. M. Stephens & K. M. Loomes: Food Chem., 214, 102 (2017).14) J. Bong, K. M. Loomes, R. C. Schlothauer & J. M. Stephens: Food Chem., 192, 1006 (2016)..この蛍光を測定することで,クロマトグラフィーのような分離ステップなしにレプトスペリン量の把握もできる.携帯型の蛍光吸光度計が開発されれば,屋外での測定も容易である.ただし,似た蛍光をもつ物質が混入していれば偽陽性になり,一次スクリーニング用と捉えたほうが良いかもしれない.加えて,核磁気共鳴法(NMR)による非分離のまま成分の分析を行う手法も発展してきている(15)15) M. Spiteri, K. M. Rogers, E. Jamin, F. Thomas, S. Guyader, M. Lees & D. N. Rutledge: Food Chem., 217, 766 (2017)..いずれの手法も長所短所があり,目的に応じて選択することが大切である.これまでに開発されているレプトスペリンの検出定量法について,それぞれの特性を比較して表1表1■レプトスペリン測定方法のまとめにまとめた.たとえば,類似した蛍光物質を人為的に混入させることで蛍光法による認証をすり抜けることもできる.一つの手法に固執しすぎないことが食の偽装を防ぐ有効な手段となる.

表1■レプトスペリン測定方法のまとめ
迅速性手軽さ測定数費用正確さ感度
LC-MS/MS+++++++
HPLC+++++++++
Immunochromatography++++++++
ELISA+++++++++++
Fluorescence+++++++++++
NMR++++
(+が多いほど,優れていることを示している)

実際にHPLC–UVで市販マヌカ蜂蜜を測定すると,マヌカ蜂蜜に特徴的に含まれる成分であるレプトスペリンがほとんど検出できない極めて怪しい商品も,ごく一部であるが存在する(9)9) Y. Kato, R. Fujinaka, A. Ishisaka, Y. Nitta, N. Kitamoto & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 6400 (2014).図4図4■偽装が疑われるマヌカ蜂蜜のHPLC分析例).同じラベルが貼られていても,販売されていた国によりレプトスペリンの含量が異なることから,ほとんどマヌカ蜂蜜が入っていない蜂蜜がマヌカ蜂蜜として市場に出回っていることがわかる.なお,例として挙げた含量の少ないマヌカ蜂蜜は,認証を受けていないものであった.

図4■偽装が疑われるマヌカ蜂蜜のHPLC分析例

そのほかの化合物によるプロファイリングと認証の難しさ

マヌカ蜂蜜の場合,レプトスペリン以外の特異的な成分を使ったケミカルプロファイリング(化学成分による認証)も可能である.たとえばレプトスペリンよりも含量は少ないもののピロール化合物やLepteridineがマヌカ蜂蜜から見いだされており,これらもケミカルマーカーとして使える可能性がある(16)16) B. J. Daniels, G. Prijic, S. Meidinger, K. M. Loomes, J. M. Stephens, R. C. Schlothauer, D. P. Furkert & M. A. Brimble: J. Agric. Food Chem., 64, 5079 (2016)..Lepteridineも蛍光を有する物質であり,蛍光法による簡便な認証への応用も可能である.加えて2′-methoxyacetophenoneも特徴的な成分であり,ほかにも他の蜂蜜と区別するためのプロファイリングに利用可能な成分も見つかっている.

蜂蜜の花の由来を調べる有効な手法の一つとして,花粉分析(顕微鏡観察)がある.マヌカ蜂蜜の場合は,マヌカの花が咲く時期に,カヌカ(学名Kunzea ericoides)の花が同じような場所に咲いており,花蜜の混入がしばしば認められる.マヌカとカヌカの花粉は形状も似ているため,顕微鏡での区別が難しい.一方,ケミカルマーカーによるプロファイリングではそれぞれの花蜜の成分が明瞭にわかる.逆に,カヌカ蜂蜜と考えていたものが,マヌカの花蜜が多く混入していた,などの例もある.しかしながら蜂蜜中の花蜜の由来が明確になると,新しい問題も発生してくる.たとえば,マヌカとカヌカの花蜜が50%ずつ入っている蜂蜜である場合,どのような名称をつければよいか.また,マヌカ蜂蜜と呼ぶには何パーセントまで純度が高ければよいのか.60%だろうか.80%であろうか.そもそも,「純度」は定義できるのだろうか.蜂蜜の完全な認証(プロファイリング)とは存在しうるのか.さまざまな問題が浮かび上がってくる.

多成分分析

近年では蜂蜜に限らず,特異的なケミカルマーカー(複数指標によるケモメトリクス解析を含む)による食品(食材)の認証を目指した研究が盛んに行われている.蜂蜜(マヌカ蜂蜜含む)でもケモメトリクス解析,特に質量分析器を用いた研究が進んでいる(17)17) Z. Jandrić, R. D. Frew, L. N. Fernandez-Cedi & A. Cannavan: Food Contr. http://dx.doi.org/10.1016/j.foodcont.2015.10.010.網羅的な多成分分析法が厳密さからいっても認証として優れていることは明らかである.しかし網羅的・多成分であるがゆえに,情報量過多(ビッグデータ)となり,加えて一般消費者に認証結果をどのようにわかりやすく伝えるかの問題が生じる.なお,特徴的な成分の見いだされているマヌカ蜂蜜は別として,一般的な蜂蜜の場合,現時点では,採蜜した花,産地,などのファクターが複雑であり,多成分分析による地域・花の特定はまだ途上であろう.認証のための検査コストを考えると,特に安価な蜂蜜への利用は難しい.

蜂蜜偽装防止のためのそのほかの分析手段

蜂蜜に行われる加熱・加糖などの処理を見分ける手法にも簡単に触れたい.適度な加温処理は,粘度を上げて瓶詰めをたやすくするためにも行われる.マヌカ蜂蜜の場合は,前駆体ジヒドロキシアセトンからメチルグリオキサールへの変換を促すために過度に加熱している可能性もある.過度な加熱は,糖の加熱処理に伴い生じる化学成分ヒドロキシメチルフルフラールHMFを測定することで見破ることができる.ヨーロッパでは蜂蜜中のHMFの上限値が40 mg/kgと決められている(18)18) Food Standards Agency: The Honey Regulations 2003 (version 2.0 (2005)), http://www.food.gov.uk/sites/default/files/multimedia/pdfs/honeyguidance.pdf, 2007

加糖については,炭素の安定同位体を調べる方法やオリゴ糖の混入を見る手法がある.糖の添加では,植物由来の糖成分(シロップ)を人為的に加える.植物は光合成の違いにより,多くの陸生植物であるC3植物や乾燥した地域に植生するC4植物(サトウキビやトウモロコシ)などに分類される.この光合成経路の違いにより,植物体に含まれる炭素安定同位体比(12Cと13Cの比)に差が生まれる.この差は質量分析法により調べることができる.ミツバチの集める花蜜は,ほとんどがC3植物に由来する.一方,加糖に用いられる砂糖(サトウキビ由来)や異性化糖(多くがトウモロコシのデンプンから作られる)はC4植物由来であり,蜂蜜への砂糖水(シロップ)の添加やミツバチにシロップを与えるなどの偽装が行われた場合は,炭素安定同位体比に違いが生じる.この手法はマヌカ蜂蜜をはじめ,蜂蜜の偽装防止のために測定されているが(19, 20)19) H. Dong, D. Luo, Y. Xian, H. Luo, X. Guo, C. Li & M. Zhao: J. Agric. Food Chem., 64, 3258 (2016).20) K. M. Rogers, M. Sim, S. Stewart, A. Phillips, J. Cooper, C. Douance, R. Pyne & P. Rogers: J. Agric. Food Chem., 62, 2605 (2014).,その精度の問題やC3植物由来の砂糖を使えばすり抜けられる点が課題である.

産地(地域,国)については,その土地ごとに含まれるミネラルのプロファイル(含量比)が異なる点に着目し,含有ミネラルを分析することによる地域の特定も可能になりつつある(21)21) M. Grembecka & P. Szefer: Environ. Monit. Assess., 185, 4033 (2013)..すなわち,産地の偽装を防ぐ手段についても研究が進められている.

さいごに

マヌカ蜂蜜に含まれる成分レプトスペリンは,100社以上の養蜂業者が加入しているマヌカ蜂蜜協会(Unique Manuka Factor Honey Association)のケミカルマーカーの一つとして採用されている.本稿で例として取り上げたレプトスペリンはマヌカ蜂蜜などLeptospermum蜂蜜にしか含まれない成分であり,わかりやすい(説明しやすい)認証例となった.一般的な食品素材の場合には,遺伝子配列なども一つの認証手段となるが,たとえば植物性食品であれば,種を別の地域にもっていき育てれば産地の偽装は可能となろう.本稿で紹介した化学成分の網羅的な分析や微量元素の測定など,含まれている成分のプロファイリングは,さまざまな課題も残されているが幅広く食品の偽装防止にも利用できる.複数の手段で,かつ,いつでも・どこでも・簡便に・安価に見破れる手段を用意することで,偽装を未然に(予防的に)防ぎ,食の安全安心を実現できる.食の偽装防止・認証に関するさらなるサイエンスの深化を期待したい.

Reference

1) 農林水産省生産局畜産部:養蜂をめぐる情勢,http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/sonota/pdf/meguji_youhou_2015_10.pdf, 2015.

2) J. Leake (The Australian): Food fraud buzz over fake manuka honey, http://www.theaustralian.com.au/news/world/food-fraud-buzz-over-fake-manuka-honey/story-fnb64oi6-1226704038619, 2013.

3) Ministry for Primary Industries: New Zealand: Mānuka honey, https://www.mpi.govt.nz/growing-and-producing/bees-and-other-insects/manuka-honey/, 2016

4) C. J. Adams, M. Manley-Harris & P. C. Molan: Carbohydr. Res., 344, 1050 (2009).

5) J. Atrott & T. Henle: Czech Academy of Agricultural Sciences, 27, S163 (2009).

6) M. Sousa Silva, R. A. Gomes, A. E. Ferreira, A. Ponces Freire & C. Cordeiro: Biochem. J., 453, 1 (2013).

7) Ministry for Primary Industries: New Zealand: Evergreen brand mānuka honey products, http://www.mpi.govt.nz/food-safety/food-safety-for-consumers/food-recalls/evergreen-life-limited-manuka-honey-and-honey-products/, 2016.

8) Y. Kato, N. Umeda, A. Maeda, D. Matsumoto, N. Kitamoto & H. Kikuzaki: J. Agric. Food Chem., 60, 3418 (2012).

9) Y. Kato, R. Fujinaka, A. Ishisaka, Y. Nitta, N. Kitamoto & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 6400 (2014).

10) J. Bong, G. Prijic, T. J. Braggins, R. C. Schlothauer, J. M. Stephens & K. M. Loomes: Food Chem., 214, 102 (2017).

11) H. R. M. Aitken, M. Johannes, K. M. Loomes & M. A. Brimble: Tetrahedron Lett., 54, 6916 (2013).

12) Y. Kato, Y. Araki, M. Juri, R. Fujinaka, A. Ishisaka, N. Kitamoto, Y. Nitta, T. Niwa & Y. Takimoto: J. Agric. Food Chem., 62, 10672 (2014).

13) Y. Kato, Y. Araki, M. Juri, A. Ishisaka, Y. Nitta, T. Niwa, N. Kitamoto & Y. Takimoto: Food Chem., 194, 362 (2016).

14) J. Bong, K. M. Loomes, R. C. Schlothauer & J. M. Stephens: Food Chem., 192, 1006 (2016).

15) M. Spiteri, K. M. Rogers, E. Jamin, F. Thomas, S. Guyader, M. Lees & D. N. Rutledge: Food Chem., 217, 766 (2017).

16) B. J. Daniels, G. Prijic, S. Meidinger, K. M. Loomes, J. M. Stephens, R. C. Schlothauer, D. P. Furkert & M. A. Brimble: J. Agric. Food Chem., 64, 5079 (2016).

17) Z. Jandrić, R. D. Frew, L. N. Fernandez-Cedi & A. Cannavan: Food Contr. http://dx.doi.org/10.1016/j.foodcont.2015.10.010

18) Food Standards Agency: The Honey Regulations 2003 (version 2.0 (2005)), http://www.food.gov.uk/sites/default/files/multimedia/pdfs/honeyguidance.pdf, 2007

19) H. Dong, D. Luo, Y. Xian, H. Luo, X. Guo, C. Li & M. Zhao: J. Agric. Food Chem., 64, 3258 (2016).

20) K. M. Rogers, M. Sim, S. Stewart, A. Phillips, J. Cooper, C. Douance, R. Pyne & P. Rogers: J. Agric. Food Chem., 62, 2605 (2014).

21) M. Grembecka & P. Szefer: Environ. Monit. Assess., 185, 4033 (2013).