Kagaku to Seibutsu 55(6): 426-433 (2017)
セミナー室
腸管上皮における栄養機能的化学物質(ポリフェノール)の輸送と認識そもそも,ポリフェノールって吸収されるの?
Published: 2017-05-20
© 2017 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2017 公益社団法人日本農芸化学会
当初,栄養素の輸送と認識(受容)に関してまとめてはどうだろうかという話をいただいて承諾したものの,主要な栄養素に関して優れた総説や解説が国内外にあり,小生の出番はないことを悟った.しかし,機能性食品として注目されているポリフェノールの輸送と認識に関する報告は,なかなかまとまっておらず,初心者から読めるものがほとんどないことに気づいた.そこで,本稿は,栄養素ではなく栄養機能的化学物質としてのポリフェノールを中心にして,上皮輸送の基礎的解説と最近の研究状況をまとめたいと考えた.
消化管の古典的3大機能は,1)消化,2)吸収・分泌,3)運動である.それに加えて,近年は,4)免疫も重要な機能であると解釈されるようになってきた.摂取された栄養素を含む化学物質が体内で利用されるには,何はともあれ消化管から吸収されなければならない.上皮輸送の理論に関しては素晴らしい専門書(1)1) S. G. Schultz, 鈴木泰三ほか訳:“生体膜輸送の基礎”,東京化学同人,1982があるが,まず,上皮輸送の基礎を平易に解説したい.
栄養素の吸収機能を有している主要部位は小腸である.大腸でも吸収されるが,その機能や形態は小腸と異なっている.たとえば,絨毛部の存在や陰窩部のパーネット細胞の有無,内分泌細胞の存在比などが挙げられる.ただし,小腸であれ,大腸であれ,円柱上皮細胞がびっしりと腸管表面を単層で覆っている点は同様である.物質輸送に関して理解しておきたいポイントは,1)疎水性,2)輸送経路,3)駆動力,4)輸送体分子である.
疎水性化合物(脂質やポリフェノール化合物のアグリコンなど)は水に溶解せず,疎水性(親油性)が高いので,二重リン脂質で構成される細胞膜を透過しやすい.したがって,細胞膜上に特定の輸送体分子などを必要とせず,単純拡散で細胞膜を透過する(ただし,その概念を超える輸送体分子が発見されており,新しい概念でまとめられる時代がくるかもしれない).一方,親水性化合物(糖,ペプチド,イオンなど)は水に溶解しており,二重リン脂質で構成されている細胞膜を透過しにくいため,細胞膜上にある「特定の穴」を通らなければならない.その特定の穴こそが輸送体分子である.
物質が輸送される経路は2つで,1)細胞間隙経路,2)細胞内経路である.
細胞間隙経路は上皮細胞と上皮細胞の間隙に存在する網目構造であるタイトジャンクションをくぐり抜けて輸送される経路で,ただ単純に電気化学的勾配に依存する単純拡散と言われている.腸管では濃度勾配だけではなく,電気的勾配(管腔側を0 mVとすると血液側は約+5 mV)も存在しており,溶解してイオン化している化合物は化学的濃度勾配だけではなく電気的勾配によって引かれるので,実験では標本の電気的勾配を理解しなければ,真の輸送量やフラックス(単一方向性の輸送流)を評価できない.さらに,注意しなければならないことは,浸透圧差によって溶媒(水分)が細胞間隙経路を移動する際には,溶媒牽引(solvent darg)という現象が発生する.これは,浸透圧差で水分が移動する際に,溶質も一緒に移動してしまう現象である.したがって,標的物質の単純拡散による輸送量を単純に濃度差だけから判断すると,現実の現象(実験値)とが一致しない場合があるので注意しなければならない.
一方,細胞内経路に関しては,1)管腔側(粘膜側)から細胞内への流入ステップ,2)細胞内処理ステップ,3)細胞内から血液側へ排出ステップ,と3ステップを介して輸送される.たとえば,細胞内Ca2+濃度は数十nMと非常に低濃度に維持されているので,管腔側(数mM)から細胞内へ流入する際には,拡散で対応できるようなチャネルや輸送体分子があればよい.実際に,小生の研究でもLa3+で阻害される非選択性陽イオンチャネルをCa2+が透過していることを明らかにしている.一方で,細胞内(数十nM)から血液側(約1 mM)へ移動する際には,1万倍もの濃度勾配を逆らうため,必ず能動輸送が必要になる.現に,血液側の細胞膜にはCa2+ ATPaseが発現しており,Ca2+をポンピングしている(図1図1■腸管上皮における物質輸送の概略).
駆動力とは,物質が移動するのに必要なエネルギー様式のことであり,1)能動輸送と2)受動輸送の2種類がある.
能動輸送は,電気化学的勾配に逆らってエネルギーを消費して物質を輸送する輸送形式であり,ATPを利用したエネルギーが必要となるのでポンプ(ATPase)が駆動することになる.たとえば,Na+/K+ ATPaseはNa+ 3分子とK+ 2分子を逆向きにポンプする役割を有する起電性の膜タンパク質(発現量が多いうえに,細胞内から細胞外へ陽イオン1分子が多く輸送されるので細胞外側をプラスに帯電させる)であり,Ca2+ ATPaseはCa2+を細胞内から細胞外へポンプする膜タンパク質である.
一方,受動輸送は,電気化学的勾配に依存して物質が拡散する輸送形式である.上述したように,疎水性化合物であればリン脂質の細胞膜を透過しやすい.また,親水性化合物であれば,1)細胞間隙経路,または2)細胞経路の輸送体分子(輸送担体やチャネルなどの輸送体分子:細胞膜上の特定の穴)を透過する.一般的に,水溶性の低分子は両経路の輸送経路を透過しやすく,吸収されやすいが,高分子は吸収されにくいと考えられている.輸送担体の例として,Na+依存性グルコース輸送体(SGLT1)やH+依存性ペプチド輸送体(PEPT1)などは,Na+やH+のイオン濃度勾配に依存して基質を輸送する.ちなみに,輸送担体はポンプのように輸送方向を決めていない.もし,細胞内Na+濃度が管腔側より高くなったら,SGLT1はグルコースを細胞内から管腔側へ分泌することになる.一方,チャネルは何らかの生理的刺激,たとえば,リガンド結合型チャネルならばリガンドと結合した刺激を,または,細胞内シグナルによるリン酸化や細胞膜電位差の変化などの刺激を受容すれば,チャネルの開閉が制御される.また,リークチャネルといわれ,基質が常に透過できる開口状態になっているチャネルも存在する.輸送される向きは,電気化学的ポテンシャルの高い側から低い側への方向(受動輸送)である.
ポリフェノールは,フレンチパラドックスを解明したと注目されたCorderらの論文以降,機能性食品や健康志向の流れのなかで,大きく発展した研究分野である.ポリフェノールとは複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物の名称で,5大栄養素とは異なり,非栄養素である.しかし,ポリフェノールは生体機能性を有しており,医薬品や健康食品の研究対象として今もなお注目されている.
ポリフェノールの吸収率は,その種類によって異なるが,概して高くない.カテキン,イソフラボン,イソフラバノールのアグリコンの吸収率は約5~30%であるが,アントシアニジンやプロアントシアニジンのような縮合型タンニンの生体移行率は約0.1%と極めて低いとも報告されている(2)2) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Rémésy & L. Jiménez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004)..また,小腸における吸収率は2%程度であり,95%以上が大腸へ流下する(3)3) Y. Kim, J. B. Keogh & P. M. Clifton: Nutrients, 8, 17 (2016)..仮に吸収されても,ポリフェノール(ケルセチン)は抱合体となり,肝臓で胆汁中に放出され,腸管へ分泌される.大腸に到着したポリフェノールの多くは腸内細菌によって代謝され,新たな代謝物が産生される.たとえば,ダイゼインは大腸でエクオールとなり,吸収されることで生体内での利用性が高くなり,エストロゲン様生物活性を発揮する(図2図2■腸管上皮におけるポリフエノールの吸収機序).
ポリフェノールは,植物中で糖が結合した配糖体として存在している.ポリフェノールが生体内で吸収される際には,配糖体が細胞膜上の乳糖–フロリジン加水分解酵素(LPH)によって分解され,アグリコンになることで,細胞膜を透過しやすくなると言われている.アグリコンは水には溶解されにくく,疎水性(親油性)化合物であるので,二重リン脂質の細胞膜を透過しやすい.ゆえに,アグリコンの吸収機序に,特異的な輸送体やチャンルは存在しなくても透過できると考えられている.ただし,いまだ見ぬ輸送分子が存在するかもしれない.たとえば,内因性の快楽物質と言われるカンナビノイド化合物ファミリーの脂質であり,初乳中に多く含まれる2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)は,細胞膜上のカンナビノイド受容体(CB受容体)やカプサイシン受容体(TRPV受容体)に結合するだけではなく,細胞膜上の脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)やFAAH様アナンダミド輸送体(FLAT)で細胞内へ輸送されることが報告されている(4)4) K. Leung, M. W. Elmes, S. T. Glaser, D. G. Deutsch & M. Kaczocha: PLoS ONE, 8, e79355 (2013)..
一方,ポリフェノールの配糖体は水溶性なので,細胞膜上を自由に透過できない.また,細胞内ポリフェノール濃度はそれほど高くないので,管腔側から細胞内へ流入ステップでは,受動輸送に対応する輸送分子の存在が示唆される.現に,Na+依存性グルコース輸送体(SGLT)(5)5) P. C. Hollman, K. H. Van Het Hof, L. B. Tijburg & M. B. Katan: Free Radic. Res., 34, 297 (2001).やH+依存性モノカルボン酸輸送体(MCT)(6)6) J. B. Vaidyanathan & T. Walle: J. Pharmacol. Exp. Ther., 307, 745 (2003).を介した輸送が報告されている.しかし,卵母細胞にSGLT1を過剰発現させた実験系ではポリフェノール依存性Na+流が観察できない(7)7) G. Kottra & H. Daniel: J. Pharmacol. Exp. Ther., 322, 829 (2007)..もし,ポリフェノール配糖体がSGLT1の基質として通過できるならば,一緒に輸送されるNa+流が計測できるはずである.一方で,アントシアニン含有抽出物がCaco-2細胞のSGLT1を阻害することが報告されており(8)8) F. Alzaid, H.-M. Cheung, V. R. Presdy & A. P. Sharp: PLoS ONE, 8, e78932 (2013).,筆者は落花生種皮由来のポリフェノール画分(主成分がプロアントシアニジンtype-A)が,短絡電流条件下におけるげっ歯類の小腸上皮組織のグルコース依存性Na+電流を抑制することを確認している(論文未発表,図3図3■マウス平滑筋剥離上皮組織における管腔側グルコース誘導性Na+流の抑制).加えて,ケルセチン配糖体の糖の結合位置の違いが阻害効果に影響すると報告されている(7)7) G. Kottra & H. Daniel: J. Pharmacol. Exp. Ther., 322, 829 (2007)..さらに,ケルセチンはグルコースを輸送できるGULT2を阻害するが,フルクトースを輸送するGLUT5を阻害しない(9)9) J. Song, O. Kwon, S. Chen, R. Daruwala, P. Eck, J. B. Park & M. Levine: J. Biol. Chem., 277, 15252 (2002)..これら阻害効果は立体構造と深い関係があり,結合スポットへの親和性などが影響する.いずれにせよ,水に溶解された配糖体が細胞内へ選択的に輸送されているならば,細胞膜上に輸送担体が存在するはずであり,結合糖の違い,細胞内濃度の変化,その輸送形式,さらに輸送体分子の正体を含め,もうしばらく研究成果の蓄積を待たなければならないだろう.
細胞内に取り込まれたアグリコンは,グルクロン酸転移酵素,硫酸転移酵素やカテコール-O-メチル転移酵素などによって,グルクロン酸修飾,硫酸基修飾およびメチル化修飾を受けて,抱合体を形成する.抱合体と処理することで水溶性を高め,細胞外への排出も高めていると考えられる.
一方,配糖体の吸収率は高くないが,配糖体は細胞膜直下に局在する細胞質β-グルコシダーゼ(CBG)で分解され,一度アグリコンになった後に,抱合化されると考えられている.しかし,シアニジン配糖体を摂取させた場合,生体内からは配糖体しか検出されなかったことやクルクミンを経口摂取させた場合,血液中にはグルクロン酸抱合体が検出されたことを考えると,ポリフェノールは抱合体や配糖体の形で生体機能を発揮しているかもしれない(10)10) M. Shoji, K. Nakagawa, A. Watanabe, T. Tsuduki, T. Yamada, S. Kuwahara, F. Kimura & T. Miyazawa: Food Chem., 151, 126 (2014)..いずれにせよ,種々のポリフェノールの立体構造や糖鎖修飾の位置の違いが細胞内の抱合化の差異を生じさせているのだろう.
細胞内に取り込まれたポリフェノールのアグリコン,配糖体および抱合体を細胞外へ排出する分子として,ABC輸送体のスーパーファミリーである3つの分子,①多剤耐性タンパク質1: MDR1(ABCB1, Pgp, CD243)(11)11) H.-F. Su, Q. Lin, X.-Y. Wang, Y. Fu, T. Gong, X. Sun & Z.-R. Zhang: Acta Pharmacol. Sin., 37, 545 (2016).,②多剤耐性関連タンパク質2: MRP2(ABCC2, cMOAT)(12)12) C. Schexnayder & R. E. Stratford: Int. J. Environ. Res. Public Health, 13, 17 (2016).および③乳がん抵抗タンパク質:BCRP(ABCG2)(12)12) C. Schexnayder & R. E. Stratford: Int. J. Environ. Res. Public Health, 13, 17 (2016).が報告されている.これらのタンパク質は,ATPを利用して濃度勾配に逆らって標的物質を管腔側へ排出できるポンプである.ポリフェノールの細胞内濃度が低く維持され,体内吸収率も低い理由の一つは,これらABC輸送体が細胞内に取り込まれたポリフェノールを管腔側へ排出してしまうからと考えられている.ABC輸送体の局在は管腔側の細胞膜に存在する報告が多い.もし,これらのタンパク質や類似タンパク質が血液側に存在しているならば,血液側へ積極的に吸収する強力な証拠になるのだが,はっきりとした結果が得られていないのが現状である.いずれにせよ,血液側へ排出されるステップにおいて機能している輸送体分子は明確ではない.
細胞間隙経路を介して輸送される量は無視できない.特に,水に溶けやすい配糖体の場合,細胞間隙のタイトジャンクションを介して管腔側と血液側間の濃度差を駆動力とする単純拡散または浸透圧差で移動する水分に伴う溶媒牽引によって輸送される場合が考えられている.ただ,分子量が大きくなると,タイトジャンクションを透過しにくくなる.ポリフェノールの重合度が高いほど,吸収率が低下するとの報告もあり,細胞内経路の吸収率が低いことも考慮すると,単体や二量体のポリフェノール化合物においては,細胞間隙経路の輸送量は無視できないかもしれない.細胞内経路を想定した研究であれば,大腸がん細胞Caco-2のインサート培養法や細胞膜小胞を供試した実験でも充分に評価できるが,吸収ルートがよくわかっていない段階ではUssing-chamberを用いた短絡電流法が極めて強力な実験方法である.理由は,摘出生体膜を供試するうえに,電気化学的勾配を完全にキャンセルした短絡電流状態(細胞間隙経路での輸送なし)と開放電流条件(細胞間隙経路での輸送あり)での比較実験が可能であるからである.
ほとんどのポリフェノールは電荷を有しておらず,電気的に中立である.しかし,デルフィニジンやシアニジンなどのアントシアニジンは正の電荷(プラスのチャージ)を有しており,電気的勾配に依存して,マイナス側へ引き寄せられる(輸送される).腸管上皮組織の管腔側を0 mVと基準にすると,細胞内は約−60 mVに,血液側は約+5 mVに帯電していることを考えると,アントシアニジンは細胞内経路では細胞内へ流入しやすく,細胞間隙経路では管腔側へ分泌されやすいことになる.これらの正確な輸送量を評価するためには,上述したように,管腔側と血液側間の電気化学的勾配を消失させた状態(短絡条件下)での実験が必要であるが,この実験条件を上皮組織で構築するには,Ussing-chamberと経上皮電位と逆向きに電流を流せる短絡電流固定装置を用いた膜組織の電気生理学的手法を活用するしかない.
ただし,この方法を用いたとしても留意しなければならない点は,化合物の安定性である.なぜなら,アントシアニジンはチャージをもっているため,非常に不安定な状態で変化しやすい.pHが3.5以下で安定するようなので,胃内のようなpH 2.5程度であれば,非常に安定していると考えられるが,よく実験で用いられるようなpH 7.4の環境下では安定性に疑問が残ってしまう.一方,プロシアニジン二量体に関してはpHが2.0と低くなると,単量体へ分解されてしまうとする報告もある(13)13) R. Zhang, Z. Zhang, L. Zou, H. Xiao, G. Zhang, E. A. Decker & D. J. McClements: Food Funct., 7, 93 (2016)..吸収部位の生理的環境に類似した培養条件下において(胃,小腸,大腸での管腔側pHを再現した培養環境),放射性化合物を用いたトレーサー実験や質量分析計を用いた一括解析などができれば,この弱点を克服できるであろう.
次は,輸送とは異なり,ポリフェノールの認識機序に関してまとめてみたい.
ポリフェノールの受容体として報告されている分子として,1)エストロゲン受容体,2)PPARγ,3)アリール炭化水素受容体,などさまざまなタンパク質への結合が報告されている.これらの結合や認識は,ポリフェノールの立体化学構造,分子サイズ,親水・疎水性によって支配されているようであるが,特異性は高くないようである.
しかし,緑茶のカテキン類で,最も強力な生物活性因子であるエピガロカテキンガレート(EGCG)は,67 kDaラミニン受容体(67LR, RPSA)を過剰発現させたがん細胞に対して1 μMの低濃度で細胞増殖抑制効果を発揮する(14)14) 立花宏文:日薬理誌,132, 145 (2008)..1 μMはEGCGを摂取した際の生理的濃度とほぼ同様と報告されている.また,67LRはほぼ全身の臓器や器官に普遍的に発現している.さらに,EGCGの結合部位は161~170番目のアミノ酸残基で特異性が高いので,EGCGは67LRを介した生理活性を有していることと判断してほぼ間違いない.EGCG以外では,flavan 3-olsの胃への流入は,交感神経を刺激し,循環系やエネルギー代謝を亢進すると報告されている(15)15) N. Kamio, T. Suzuki, Y. Watanabe, Y. Suhara & N. Osakabe: Free Radic. Biol. Med., 91, 256 (2016)..今後,その受容メカニズムが解明されれば,新規の特異的受容体が発見されるかもしれない.
近年,注目されている腸内細菌と宿主の相互作用においては,腸内細菌の二次発酵産物である短鎖脂肪酸(酢酸,プロピオン酸および酪酸)がその生体機能性の本体であることが古くから理解されている.特に,反芻動物の実験結果から示唆されていた短鎖脂肪酸の細胞膜Gタンパク質共役型受容体(short-chain fatty acid receptors; GPR41(別名FFAR3)およびGPR43(別名FFAR2))が分子生物学的に発見されたことから大きく発展した(16)16) A. J. Brown, S. M. Goldsworthy, A. A. Barnes, M. M. Eilert, L. Tcheang, D. Daniels, A. I. Muir, M. J. Wigglesworth, I. Kinghorn, N. J. Fraser et al.: J. Biol. Chem., 278, 11312 (2003)..これらは腸管上皮に存在して塩化物イオン分泌や消化管運動を制御するだけではなく,膵臓からのインスリン分泌能を制御していた.このように,腸管細菌により食物繊維から代謝産生された短鎖脂肪酸を内因性受容体で認識していた事実は,ポリフェノールから代謝産生されるフェノール酸などの低分子が内因性受容体で認識され,何らかの生理機能を制御しているかもしれない可能性を期待させる.もちろん,ポリフェノールがわれわれ哺乳動物にとって毒性物質であり,その処理のために腸管上皮細胞内において抱合化し,わざわざATPを消費して管腔側へ排出しているわけである.しかし,大腸における低分子の分解産物,たとえば,フェニル酢酸の平均糞中濃度は400 μMにも達する(17)17) B. Halliwell, J. Rafter & A. Jenner: Am. J. Clin. Nutr., 81(Suppl.), 268S (2005)..通常細胞に対して十分に生理活性を発揮できる濃度である.
さらに,腸管微生物とポリフェノールとの相互関係の理解は,非常に興味深い分野へ発展する期待をもたせる.特に,腸管微生物を認識する免疫機能の研究成果が最近10年間で飛躍的に得られたためである.消化管の免疫組織として,1)パイエル板やリンパ濾胞などの腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue; GALT)),2)上皮細胞間リンパ球(intraepithelial lymphocyte; IEL),3)粘膜固有層のIgA形成細胞などが存在する.古くから,結核菌,ヒツジ赤血球などのみならず,インク炭粒子やラテックスビーズなどの異物が腸管の特定部位で取り込まれることが,形態学的観察で知られていた.この現象は,小腸でのパイエル板や結腸でのcolonic patchと呼ばれるリンパろ胞に存在するM細胞が,腸管内の細菌を取り込んで,免疫細胞へ情報を送り込む免疫システムの一部であることがわかってきた.つまり,M細胞の管腔側表面に発現するglycoprotein2(GP2)などは細菌受容体として細菌と結合して細胞内に取り込んで,基底膜まで輸送する.M細胞の基底膜側はポケット状の構造になっており,管腔側と基底側の距離が短いので,速やかに血液側へ輸送することができる.このように,M細胞にエンドサイトーシスで取り込まれた物質が,さらに,反対の基底膜側(血液側)へエキソサイトーシスにより一方向的に輸送される様式をトランスサイトーシスという.輸送された細菌体はポケット部に入り込んでいるリンパろ胞の樹状細胞に受け渡されて分解される.分解断片をリンパ球T細胞へ提示し,T細胞はB細胞へIgA抗体作成の指示を送り,免疫システムを発動させる.
パイエル板からの総吸収量は多くないものの,高分子が吸収されることに留意しなければならない.たとえば,狂牛病は,パイエル板の数が多い幼少期に異常プリオンタンパク質を摂取したためにトランスサイトーシスにより取り込まれ,数年後に発症すると考えられている.前述したとおり,重合化している高分子ポリフェノールは吸収されにくいはずだが,M細胞を介したトランスサイトーシスにより,免疫機能へ直接影響する可能性がある.ブドウ,ココアやリンゴなどのポリフェノール画分およびケルセチンやナリンゲニンが抗炎症性など免疫機能に影響することがin vitroおよびin vivoで報告されているが(18)18) H.-K. Wang, C.-H. Yeh, T. Iwamoto, H. Satsu, M. Shimizu & M. Totsuka: J. Agric. Food Chem., 60, 2171 (2012).,ポリフェノール画分の経口摂取がM細胞や樹状細胞(腸管免疫の最前線)へ及ぼす影響はまだ不確定である.
いずれにせよ,微生物による膨大な代謝産物プロファイルの中から有効な低分子化合物を同定する研究,または,限られた微小環境下で吸収・認識されているポリフェノール高分子の機能を解明する研究は,ヒトがさまざまな植物を食することで生き抜いた生存戦略をひも解くことであり,非常に重労働になるであろう.しかし,得られた基礎的知見は,確実に栄養学,医学および食品工学などの各現場に確実に貢献することが期待される.
Reference
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