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老化におけるオートファジーとサーカディアンリズムの協奏オートファジーはどのようにして老化に関与しているのか?

Hironori Suzuki

鈴木 博紀

イムラ・ジャパン株式会社

Published: 2017-06-20

記憶に新しい2016年ノーベル賞.東京工業大学の大隅良典名誉教授がオートファジーを発見したことにより受賞された.オートファジーは近年,生命の基本的なシステムとしてだけでなく,健康や老化,さまざまな疾患に関与する現象として注目されている.

細胞内では多くのタンパク質が作られるが,その役割を果たすと,アミノ酸に分解され,再利用される.その経路は大きく分けて2つあり,一つがタンパク質をユビキチンで標識し,プロテアソームで分解するユビキチン・プロテアソーム系,もう一つが細胞内を脂質膜で区画化し,複数のタンパク質を一度に分解するバルク分解経路オートファジーである.オートファジーは特に細胞内に蓄積した異常タンパク質や不要になったオルガネラ,侵入した病原性微生物などを分解する役割を担っている.その保存性は高く,酵母からヒトまで広く保存されており,ヒトにおけるオートファジーの異常はがん,アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患,筋ジストロフィーなどの筋疾患,クローン病などの消化器疾患,がんなどさまざまな疾患と関与することが報告されている.そのため,真核細胞の基本的,かつ重要な機構だと考えられている.

オートファジーの進行過程としては以下のような経路をたどる.細胞が栄養の飢餓,不要タンパク質やオルガネラの蓄積,病原性微生物の侵入などのストレスにさらされると,隔離膜と呼ばれる脂質二重膜が細胞質内の不要な物質を取り囲み,オートファゴソームと呼ばれる小胞を形成する.その後,リソソームと融合し,オートリソソームと呼ばれる状態となり,膜内の物質を分解する.

これまでの研究により,ヒトにおけるオートファジーはULK1複合体(Atg13, Atg101, ULK1, FIP200)とタンパク質キナーゼmTOR,隔離膜伸長に関与するLC3を中心とするAtg因子群により制御されていることが知られている.通常,mTORがAtg13とULK1をリン酸化し,オートファジーを抑制しているが,飢餓ストレス条件下ではmTORが不活性化され,ULK1複合体のリン酸化状態が変化する.そしてLC3-Iがリン脂質であるフォスファチジルエタノールアミンと結合し,LC3-IIとなり,Atg反応系により形成される隔離膜に輸送されることでオートファジーが進行する.

現在,日本を含む世界中の国々が急速に高齢化社会に向かいつつあり,いかに健康的に長生きをするかということが課題となっている.そのため,老化のメカニズムを解明し,なぜ老化が起こるのか,また老化を食い止めるためにはどうしたら良いのかという研究が重要となってきている.この状況において,細胞内の不要タンパク質リサイクリング機構であるオートファジーが老化と関連性があることが近年になり報告されてきている.特に注目されてきたのが,加齢によるミトコンドリアのオートファジーであるマイトファジー活性の低下,そして長寿遺伝子であるSirt1との関連性である.

ミトコンドリアは細胞内でATPを生み出す重要なオルガネラだが,その機能が低下すると,膜電位を保つことができなくなり,ATPを産生する反応で生み出される活性酸素がミトコンドリアから放出されるようになる.通常,このようなミトコンドリアはマイトファジーにより取り除かれ,細胞の恒常性が保たれているが,マイトファジー活性が低下すると,異常なミトコンドリアが蓄積し,老化の原因となる(1)1) G. Twig, A. Elorza, A. J. Molina, H. Mohamed, J. D. Wikstrom, G. Walzer, L. Stiles, S. E. Haigh, S. Katz, G. Las et al.: EMBO J., 27, 433 (2008).

Sirt1はヒストン脱アセチル化酵素であり,遺伝子発現の調節を行うことで細胞の分化やエネルギーの恒常性の維持,DNA損傷の修復,寿命の伸長,加齢に伴う疾患などに関与していると考えられている.オートファジーとの関連性としては,長寿関連因子であるFoxO1,免疫反応や炎症反応に関与するNF-κB,腫瘍形成抑制因子であるp53などの転写因子がSirt1により脱アセチル化され,オートファジーが活性化されると同時に,ATG5, ATG7, ATG8が脱アセチル化されることによりオートファジーを誘導することが報告されている(2)2) G. Qiu, X. Li, X. Che, C. Wei, S. He, J. Lu, Z. Jia, K. Pang & L. Fan: FEBS Lett., 589, 2034 (2015).

このように老化とオートファジーの関連性が報告されているなか,2016年にはKalfalahらが,オートファジーは体内時計であるサーカディアンリズムを司る遺伝子PERBMAL1の発現と関連があるという興味深い論文を発表した(3)3) F. Kalfalah, L. Janke, A. Schiavi, J. Tigges, A. Ix, N. Ventura, F. Boege & H. Reinke: Aging, 8, 1876 (2016)..サーカディアンリズムはPER, CRY, CLOCK, BMAL1などの遺伝子発現によるネガティブフィードバックループ機構が提唱されている.その機構としては,PERCRYCLOCKBMAL1の負の転写因子であるため,この2つの遺伝子の発現量が増加すると,CLOCKBMAL1の発現を抑制する.またCLOCKBMAL1PERCRYの正の転写因子であるため,CLOCKBMAL1の減少に伴い,PERCRYの発現量が低下する.すると今度はCLOCKBMAL1の発現量が増加し,PERCRYの遺伝子量が増加するという仕組みである.

彼らの論文では,ヒトの皮膚の線維芽細胞において加齢に伴いBMAL1の発現量の増加とPER, CRYの発現量の減少,さらにオートファジーを進行させるリン脂質修飾されたLC3(LC3-II)の量が減少していることを明らかにしている.その関連性のメカニズムを明らかにするため,マウスの皮膚線維芽細胞であるNIH3T3細胞のBMAL1,またはPER2をノックダウンする実験を行っている.その結果,BMAL1のノックダウンではLC3-IIの量に変化は見られなかったが,PER2をノックダウンでは,LC3-IIの量が有意に減少することから,PER2がLC3-IIの量,すなわちオートファジーの進行をコントロールしていることが明らかとされた.さらには線虫のPER2ホモログであるlin-42を過剰発現させた場合,線虫の寿命は有意に延び,ノックダウンすると線虫のLC3ホモログであるLGG-1の異常な蓄積,そして寿命が極端に短くなるというということから,オートファジーとサーカディアンリズム,そして寿命に関連性があることが示唆された.

ヒトにとって基本的な機構であるオートファジーが健康や寿命に関連していることは想像に難くないが,まだまだ不明な点も多く存在しており,多くの研究が世界中で進められている.オートファジーがかかわる経路の全容が明らかになることにより,より健康的で長寿な世界に貢献に結びつくと期待される.

Reference

1) G. Twig, A. Elorza, A. J. Molina, H. Mohamed, J. D. Wikstrom, G. Walzer, L. Stiles, S. E. Haigh, S. Katz, G. Las et al.: EMBO J., 27, 433 (2008).

2) G. Qiu, X. Li, X. Che, C. Wei, S. He, J. Lu, Z. Jia, K. Pang & L. Fan: FEBS Lett., 589, 2034 (2015).

3) F. Kalfalah, L. Janke, A. Schiavi, J. Tigges, A. Ix, N. Ventura, F. Boege & H. Reinke: Aging, 8, 1876 (2016).