解説

疎水化したデンプン粒の穀物食品への影響小麦デンプン粒表面タンパク質の重要性

Effects of Hydrophobicity of Starch Granule Surface on Wheat Products: Importance of Wheat Starch Granule Surface Protein

Masaharu Seguchi

瀬口 正晴

神戸女子大学

Published: 2017-06-20

小麦粉を白くしようと始まった小麦粉クロリネーションを調べるうちに,コロイド的観察から小麦デンプン粒の疎水化が見つかり,さらに小麦粉の乾熱処理(120°C,2時間),長時間の室温放置でも同じ疎水化が見つかった.これまで不明だったカステラの小麦粉エージングによる高品質化の原因が小麦デンプン粒の疎水化であろうと推察され,小麦デンプン粒表面のタンパク質の関与が大きいことがわかった.小麦粉を乾熱処理,あるいは長時間の室温放置で生じた疎水性により,ホットケーキ組織弾力性向上,高品質カステラの製造,米粉パンの場合にはその疎水性による小麦グルテニンSS結合の還元による米粉パンの製パン性低下などに影響していることがわかった.

白い粉が欲しい

小麦は米に比べて外皮が堅く,胚乳部に強く密着していて容易に除きにくい.このため粒を砕いて堅い外皮を除いて小麦粉とする.ヒトは白い粉が欲しくて小麦の皮を除く製粉技術を進歩させ,かなり白い小麦粉が得られるようになった.しかしなかなかそれ以上白くならなかった.これは古代エジプト,ギリシャ,ローマ時代からの話である.白いパンや白いケーキが食べたい.古代より小麦粉をいかに白くするかは大きな問題であった.さらに行われたのが薬物による漂白効果であり,具体的には塩素ガスによる漂白(クロリネーション)効果である.小麦粉中のカロチノイド系色素ルテインの分解である.小麦粉のクロリネーションによる漂白は効果的であった.94年以上前から薄力小麦粉の塩素ガスによる改良効果が米国で行われてきた(1)1) C. H. Bailey & A. H. Johnson: J. Assoc. Off. Agric. Chem., 6, 63 (1923)..クロリネーションには漂白効果以外,ケーキ品質の改良効果も発見された.ケーキ容積がよくなり,きめが均質になり,色の白いケーキとなり,ケーキの形も均一になり,食感もよくなった(2~6)2) W. F. Sollars: Cereal Chem., 35, 100 (1968).3) L. T. Kissell: Cereal Chem., 36, 168 (1959).4) J. T. Wilson & D. H. Donelson: Cereal Chem., 42, 25 (1965).5) B. S. Miller, H. B. Trimbo & R. M. Sandstedt: Food Technol., 21, 377 (1967).6) B. C. S. Gaines & J. R. Donelson: Cereal Chem., 59, 378 (1982)..ケーキ中のフルーツホールデイング性なども生じた(7)7) S. J. Cornford: J. Sci. Food Agric., 12, 693 (1961)..クロリネーションの小麦粉への影響は多岐にわたり,小麦タンパク質(8)8) C. C. Tsen & K. Kulp: Cereal Chem., 48, 247 (1971).,デンプン(9)9) K. Kulp & C. C. Tsen: Cereal Chem., 49, 194 (1972).,脂質(10, 11)10) R. W. Youngquist, D. H. Hughes & J. P. Smith: Cereal Sci. Today, 14, 90 (1969).11) L. T. Kissell, J. R. Donelson & R. L. Clements: Cereal Chem., 56, 11 (1979).,ペントサン(12)12) K. Kulp: Baker’s Dig, 46, 26 (1972).,吸水性(13)13) G. Huang, J. F. W. Inn & E. Varriano-marston: Cereal Chem., 59, 500 (1982).,親油性(14)14) W. C. Shuey, O. H. Rask & P. E. Ramastad: Cereal Chem., 40, 71 (1963).で研究されてきた.小麦粉すべてへの影響がクロリネーションで現れた(15)15) E. Varriano-marston: Cereal Foods World, 30, 339 (1985).

ホットケーキの誕生

60年ほど前,ホットケーキの生まれた頃は,日本人の食生活はというと相変らず,ごはん,沢庵の漬け物,梅干し,魚の干物といった塩分の濃い,低カロリーの日本食だった.外国の映画を見て,オーブンで焼きたてのケーキを自分の子どもにも食べさせたいとお母さんが思うようになるのは当然である.しかし日本ではというとオーブンは台所にはない.あるものはフライパンである.当時このフライパンを使ってサッと焼き,熱いうちに食べるホットケーキが考えだされた.しかしこのホットケーキはケーキ適性が悪く,口腔内ですぐに団子状になり組織弾力性を失った.当時海外では小麦粉のクロリネーションを行っていた.この方法を導入すると日本のホットケーキ改良に非常に有効であった.クロリネーション小麦粉で焼くと,口腔内でホットケーキの組織弾力性が保持された(図1図1■小麦粉のクロリネーションによる変化;黒丸はホットケーキの容積,白丸は組織弾力性).こうしてクロリネーション小麦粉はホットケーキ用の小麦粉として用いられるようになった.しかし工場内での塩素ガス使用の危険性,ケーキからくる塩素ガスの人体への衛生面からの危険性など,日本ではまもなく中止された.米国ではなおこの改良方法が広く用いられている.クロリネーションを止めたがその代替え方法がなかった.小麦粉のクロリネーションでなぜホットケーキに強く組織弾力性が生じたのかは不明だったからである.小麦粉のクロリネーション処理が何らかの重要な化学的変化を引き起こし,ホットケーキの組織改良に関与していることは明らかであるがその原因は不明であった.しかし,小麦粉のクロリネーション処理の衛生面は決して良好なモノではなく,世界中でこの改良方法の回避が強く求められていた.小麦粉に塩素ガスを混合すると生じるこの効果とは何なのかがわからないとこの方法を回避して,もっと安全な方法を得ることができない.クロリネーション処理方法(16)16) Wallace & Tiernam: Instruction Book Number SK-1643 for instllation, operation and maintenance of Wallace & Tiernan apparatus. Wallace & Tiernan Inc., 25 Main Street, Belleville, N.J., 1954.は,室温で回転する箱の中に一定量の小麦粉(水分含量14%ほど)を入れ,塩素ガスをその中に直接吹き込むやり方である.一瞬のうちに小麦粉の色は白くなり,塩素の匂いは消える.小麦粉の一部を取り,水に懸濁後,pHを測定してその処理レベルを計るのである.ホットケーキの組織弾力性は極めて低い処理レベル(ほぼ塩素0.3 g/kg小麦粉)で改良された.

図1■小麦粉のクロリネーションによる変化;黒丸はホットケーキの容積,白丸は組織弾力性

クロリネーション小麦粉の改良効果について

本格的な小麦粉のクロリネーションの研究はSollars(17, 18)17) W. F. Sollars: Cereal Chem., 35, 85 (1968).18) W. F. Sollars & G. L. Rubenthaler: Cereal Chem., 48, 397 (1971).により行われた.はじめに小麦粉を水溶性(WS),グルテン(G),プライムスターチ(PS),テーリングス(T)区分に分け,さらに元の比率で混合して再構成粉を調製し,それによるケーキベーキングを行っている.この方法を使って小麦粉分画区分間のインターチェンジを行いながらクロリネーション小麦粉の研究を進めた.クロリネーションによるケーキ用小麦粉の変化はどの区分の変化したものかを調べている.そしてケーキに及ぼすクロリネーション小麦粉の効果がPS区分によるものであることを示した.その後,ほかの研究者ら(19~21)19) M. Seguchi & J. Matsuki: Cereal Chem., 54, 287 (1977).20) A. C. Johnson & R. C. Hoseney: Cereal Chem., 56, 443 (1979).21) C. S. Gaines: Cereal Chem., 59, 149 (1982).によって同様の結果が得られた.われわれ(19)19) M. Seguchi & J. Matsuki: Cereal Chem., 54, 287 (1977).は,クロリネーション未処理小麦粉,処理小麦粉からの各区分(WS, G, PS, T)の分画と各区分間で置き換え,再構成粉(たとえば,未処理小麦粉からのWS, G, T+処理小麦粉からのPS)によるホットケーキベーキング実験を進め,クロリネーション小麦粉のPS区分がホットケーキの組織弾力性の改良効果を示すことを明らかにした.ホットケーキ用小麦粉の分画(22)22) M. Seguchi & J. Matsuki: Cereal Chem., 54, 1056 (1977).は以下のように行われた(図2図2■小麦粉の酢酸分画法).小麦粉に水を加え,ワーリングブレンダーによる撹拌後,遠心分離して,小麦粉中の水溶性(WS)区分(水溶性多糖類,タンパク質,アミノ酸,ペプチド,糖質など)をまず分け,その沈殿物を酢酸溶液(pH 3.5)に懸濁し,これに溶けるものをグルテン(G)区分とした.さらに不溶のもののpHを5.0に戻し,撹拌して遠心分離すると沈殿物は2層に分かれる.上層の黄色いねっとりしたものがテーリングス(T)区分(水不溶性のタンパク質,多糖類,小麦デンプン小粒,脂質などのごみためという意味),底部の純白な区分がプライムスターチ(PS)区分(小麦デンプン大粒からなる)であった.小麦デンプン粒は大粒(平均20 µm)と小粒(平均2 µm)からなり生合成のメカニズムが違う.こうして小麦粉を4区分に分画しほぼ回収率は100%である(WS区分10%,G区分10%,T区分40%,PS区分40%の概比率).撹拌時間,液体/固体比率,オリジナルの小麦粉のpHに合わせてベーキングすると再現性よくホットケーキができた.クロリネーション小麦粉から取ったPS区分のみ入れ替えを行ったときに,ホットケーキに組織弾力性の生じることがわかった(19)19) M. Seguchi & J. Matsuki: Cereal Chem., 54, 287 (1977).表1表1■再構成粉ベーキング結果,PS区分のみクロリネーション小麦粉から).

図2■小麦粉の酢酸分画法

表1■再構成粉ベーキング結果,PS区分のみクロリネーション小麦粉から

ではクロリネーション小麦粉中で小麦デンプン粒(PS区分)にどのような変化が起こり,このホットケーキの組織弾力性に関係しているのか.Whistlerら(23~25)23) R. L. Whistler, T. W. Mitag & T. R. Ingle: Cereal Chem., 43, 362 (1963).24) N. Uchino & R. L. Whistler: Cereal Chem., 39, 477 (1962).25) T. R. Ingle & R. L. Whistler: Cereal Chem., 41, 474 (1964).は,クロリネーションによる小麦デンプンへの影響を研究した.彼らは低水分下でのクロリネーションによるユニークなデンプン分子の酸化的解重合反応を報告している.小麦粉WS区分,G区分,PS区分,T区分からなる再構成粉でホットケーキベーキングしたとき,PS区分のみをクロリネーション小麦粉からの区分に置き換えると,ホットケーキに弾力性が生じたが,このときショ糖脂肪酸エステル(SFAE=Sucrose Fatty Acid Ester)をこのバッター(生地)中に入れてやると得られた組織弾力性の消える結果が得られた(19)19) M. Seguchi & J. Matsuki: Cereal Chem., 54, 287 (1977).表1表1■再構成粉ベーキング結果,PS区分のみクロリネーション小麦粉から).

そのころTomieら(26)26) H. Tomie & K. Okubo: J. Home Econ. (Japanese), 35, 760 (1984).は,卵ゲルの〔す〕形成について,気泡がナイロンフィラメントなどで捕捉される方法で調べた.その気泡捕捉挙動は,木綿=麻<アクリル=ポリ塩化ビニル<絹<羊毛<ナイロンと,ほぼ疎水性の強い順に高い気泡付着性が見られた.彼らはそれらの繊維の親水性,疎水性の違いに注目して気泡の付着性を研究していた.すなわち疎水性という性質が繊維表面に泡(本来泡はその表面が疎水性)を付着させ泡を安定化したのである.われわれは,この実験からヒントを得て以下の実験を進めた.微生物実験に使うホールスライドグラスを用いた.デンプン粒水懸濁液(その中にデンプン粒数十個見られるようにしたもの)をカバーグラスに1滴つけ,これをホールスライドグラスのくぼみの上に,裏返してセットした.水滴中のデンプン粒は重力によって僅か数秒のうちに沈んでいくが,それを顕微鏡で観察した.この方法を使って,水中でのクロリネーション小麦粉からのデンプン粒と未処理小麦粉からのデンプン粒の挙動を比較した.前者は水中で粒同士が接近すると,デンプン粒表面のある位置に磁力があるように強い吸着が観察された.この挙動は後者では全く見られなかった.クロリネーション小麦粉のデンプン粒は粒同士接近し,都合のいい位置にくると次々に吸着していくことが判明したのである.すなわち粒表面に,何らかの反応基が生じているようであった.このとき,ショ糖脂肪酸エステル水溶液をこの中に入れると,この凝集(クラスター)の性質は一瞬のうちに消失した.このことからこの凝集の性質はクロリネーションによるデンプン粒表面に疎水基生成のためではなかろうかと推察した(図3図3■水中でのクロリネーションデンプン粒のクラスター形成(A)と,SFAE添加後(B)).ショ糖脂肪酸エステルをケーキバッターに添加するとホットケーキの弾力性獲得が消えることと相応して,顕微鏡下でショ糖脂肪酸エステルによりデンプン粒の凝集の性質の消失したことと直接に関係するものと推察した.クロリネーション小麦粉中PS区分(デンプン粒)の示す疎水化がホットケーキの組織弾力性に関係のあることが推察された(27)27) M. Seguchi: Cereal Foods World, 38, 493 (1993)..ショ糖脂肪酸エステル(SFAE)とは,親水性物質(ショ糖)と疎水性物質(脂肪酸)がエステル結合したものである.クロリネーションによってデンプン粒表面は何らかの変化を起こして疎水的になりそのことがホットケーキの組織弾力性改良に関与したのではと推察された.

図3■水中でのクロリネーションデンプン粒のクラスター形成(A)と,SFAE添加後(B)

A:クロリネーションデンプン粒の疎水基(—)は隣の疎水基(—)同士で引き合い,クラスターを形成する.B:SFAE(ショ糖脂肪酸エステル)の脂肪酸部は疎水性(~)でクロリネーションデンプン粒の疎水基(—)と結合する.ショ糖部は親水基であり,水中でクラスターは壊れる.

クロリネーションによるデンプン粒疎水化について

クロリネーション小麦粉によるホットケーキの組織弾力化獲得は,小麦粉の再構成実験の結果,薄力小麦粉中に約40%含まれているPS区分の変化であろうと推察された.PS区分のデンプン粒表面の疎水化はクロリネーションで生じ,この疎水性を定量する必要があることから,その親油性を調べた.試験管の中にクロリネーション小麦粉からのデンプン粒,クロリネーションしない小麦粉からのデンプン粒をそれぞれ入れ,水中で油(液状なら何でもよい)とともに激しく撹拌する実験である.クロリネーションしたものは強い親油性を示した.水中で油は水より軽く,水層の上に浮かぶが,このデンプン粒が油に付着するとこのデンプン粒の自重で油は水中に沈んだ(図4図4■水中での油とクロリネーションデンプン粒(2.0 gクロールガス/kg小麦粉)(A)と未クロリネーションデンプン粒(B),O=油,S=デンプン粒).クロリネーションレベルを上げるとそれに伴って沈殿量が増えてその量から疎水化の定量ができた(28~30)28) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 241 (1984).29) M. Seguchi: Starch, 37, 116 (1985).30) M. Seguchi: Cereal Chem., 64, 281 (1987).図5図5■クロリネーションによる小麦デンプン粒親油化).顕微鏡下で,このクロリネーション小麦粉からのデンプン粒がオイルに吸着している様子が観察されたが(28)28) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 241 (1984).,団子状になった油滴の表面に,さらにその中に,デンプン粒のぎっしり詰まっている様子が観察された(図6図6■団子状になった油滴の表面に,その中にぎっしり結合したクロリネーション小麦デンプン粒).未処理のデンプン粒にはこのような性質は観察されない.クロリネーションによる親油化はクロリネーション小麦粉からだけではなく,小麦デンプン粒表面に直接クロリネーションしても生じることがわかり,さらにデンプン粒は小麦デンプン粒以外,ポテト,大麦,米,トウモロコシ,くずデンプン粒など,いずれのデンプン粒でも各粉体へのクロリネーション処理により親油化の生じることがわかった(31)31) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 244 (1984)..さらにデンプン粒を各種溶媒,酵素処理などを行いその親油化の消失試験を行ったところ,ペプシンなどのプロテアーゼ処理で消失することがわかり,デンプン粒表面のタンパク質上にクロリネーション反応が起こり,それが原因で疎水化に至ったことが推察された(28)28) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 241 (1984).表2表2■クロリネーションした小麦デンプン粒の各種処理後の親油性の変化).各種デンプン粒でも同様のことが観察された(31)31) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 244 (1984)..20種類のアミノ酸のパウダーに直接クロリネーションし,ペーパークロマトグラフィー観察したところ,チロシン,リジンなどのアミノ酸にRfの異なるスポットが得られた(図7図7■アミノ酸のペーパークロマトグラム).チロシン,リジンなどのアミノ酸に塩素原子が入り込みRf値から疎水化に至ったことが推察された.市販のモノヨードチロシン,ジヨードチロシンへのクロリネーションから塩素原子の入る位置なども推察された.BSA(牛血清アルブミン)のような水に極めてよく溶けるタンパク質を乾燥後,クロリネーションすると再び水を加えても水不溶化することも確認された(32)32) M. Seguchi: Cereal Chem., 62, 166 (1985).

図4■水中での油とクロリネーションデンプン粒(2.0 gクロールガス/kg小麦粉)(A)と未クロリネーションデンプン粒(B),O=油,S=デンプン粒

図5■クロリネーションによる小麦デンプン粒親油化

図6■団子状になった油滴の表面に,その中にぎっしり結合したクロリネーション小麦デンプン粒

表2■クロリネーションした小麦デンプン粒の各種処理後の親油性の変化

図7■アミノ酸のペーパークロマトグラム

A:チロシン(1),クロリネーションしたチロシン(2),市販モノヨードチロシン(3),クロリネーションした市販モノヨードチロシン(4),市販ジヨードチロシン(5),クロリネーションした市販ジヨードチロシン(6),B:リジン(1),クロリネーションしたリジン(2).矢印は新たに生じたスポット.

小麦デンプン粒表面にタンパク質があるかどうか議論の多いところである.タンパク質染料,Coomassie brilliant blue, eosin Y, amido black 10Bなどで小麦デンプン粒を染色した.各染料でうっすら染まったデンプン粒の表面は顕微鏡では染色が観察されない.蛍光染料Fluorescamine(33)33) M. Weigele, S. L. Debernardo, J. P. Tengi & W. Leimgruber: J. Am. Chem. Soc., 94, 5927 (1972).を小麦デンプン粒表面に反応させた.もしタンパク質があるならば,Fluorescamineと反応して蛍光を発する.その結果,すべてきれいに蛍光を発しグリーンに光った(図8図8■Fluorescamine処理小麦デンプン粒の蛍光顕微鏡写真).未染色のものは蛍光を発しなかった(34)34) M. Seguchi: Cereal Chem., 63, 518 (1986)..クロリネーション小麦粉からのPS区分のデンプン粒表面タンパク質を取り出し,未クロリネーション小麦粉からのものと比較し,タンパク質付着量の増加を観察した(35)35) M. Seguchi: Cereal Chem., 67, 258 (1990)..クロリネーション処理小麦粉中のPS区分をプロテアーゼ処理で親油性が消失したと同様に,以後示す乾熱処理小麦粉あるいは長時間の室温放置処理小麦粉中のPS区分も親油性は消失することから,乾熱処理,長時間の室温放置処理小麦粉中のPS区分もデンプン粒表面タンパク質の変化で疎水化を示したものと思われた(36)36) C. Kusunose, S. Noguchi, T. Yamagishi & M. Seguchi: Food Hydrocoll., 16, 73 (2002)..小麦デンプン粒表面のタンパク質の定量は色素結合法で行った.デンプン粒に含まれるタンパク質をamido black 10B染色(37)37) T. Nakao, M. Nakao & F. Nagai: Anal. Biochem., 55, 358 (1973).した後,弱アルカリ溶液で可溶化してそのamido black 10Bの量をOD630で測定して結合タンパク質量を測定した(38, 39)38) M. Seguchi & Y. Yoshino: Cereal Chem., 76, 410 (1999).39) Y. Yoshino, M. Hayashi & M. Seguchi: Cereal Chem., 82, 739 (2005)..さらに小麦デンプン粒をデンプン染料,Remazol brilliant blueで染色後,粒内部の高次構造をSEM(走査型電顕)観察した(40)40) M. Seguchi & K. Kanenaga: Cereal Chem., 74, 548 (1997)..小麦デンプン粒内部構造を糊化せずに観察できた(図9図9■Remazolbrilliant blue染色した小麦デンプン粒のSEM(走査型電子顕微鏡)観察).

図8■Fluorescamine処理小麦デンプン粒の蛍光顕微鏡写真

図9■Remazolbrilliant blue染色した小麦デンプン粒のSEM(走査型電子顕微鏡)観察

A:equatorial groove(赤道線状溝)ではずれる.B:中央部割れ,内部構造が見える.C:中央部割れる.D:中央部ずれる.

図10■カステラ容積と室温での小麦粉エージングの関係

その頃,イギリスの研究グループは小麦粒の堅さを研究していた.小麦の製粉上小麦粒の堅さは重要な問題であった.デンプン粒表面タンパク質と小麦粒堅さとの関係を調べていた(41~49)41) G. D. A. Lowy, J. G. Sargeant & J. D. Schofield: J. Sci. Food Agric., 32, 371 (1981).42) P. Greenwell, A. D. Evers, B. M. Gough & P. I. Russell: J. Cereal Sci., 3, 279 (1985).43) P. Greenwell & J. D. Schofield: Cereal Chem., 63, 379 (1986).44) J. H. Skerritt, A. J. Frend, L. G. Robson & P. Greenwell: J. Cereal Sci., 12, 123 (1990).45) B. D. Sulaiman & W. R. Morrison: J. Cereal Sci., 12, 53 (1990).46) J. H. Skerritt & A. S. Hill: Cereal Chem., 69, 110 (1992).47) R. B. Malouf, W. D. A. Lin & R. C. Hoseney: Cereal Chem., 69, 169 (1992).48) P. M. Baldwin, C. D. Melia & M. C. Davies: J. Cereal Sci., 26, 329 (1997).49) X. Z. Han & H. B. R. Amaker: Cereal Chem., 79, 892 (2002)..その結果,フリアビリンの発見につながった.小麦デンプン粒表面にタンパク質の存在することはそれほど疑問ではなくなった.

小麦粉の乾熱処理

クロリネーションによるケーキ適性獲得方法は衛生上,決して好ましい方法ではない.クロリネーションよりもっと安全な方法を探した.これまでクロリネーションに代わる小麦粉のケーキ改良方法として,乾熱処理方法が報告されていた(50~55)50) J. V. Russo & C. A. Doe: J. Food Technol., 5, 363 (1970).51) C. A. F. Doe & J. V. B. Russo: Flour treatment process. British Patent 1, 110, 711 (1978).52) M. M. Hanamoto & B. M. Mean: Cereal Foods World, 23, 459 (1978).53) J. V. B. Russo & C. A. F. Doe: Flour treatment process. U.S. Patent 3, 490, 917 (1979).54) R. L. Clements & J. R. Donelson: Cereal Chem., 59, 125 (1982).55) R. L. Clements & J. R. Donelson: Cereal Chem., 59, 121 (1982)..乾熱処理小麦粉にクロリネーション小麦粉と同様の改良効果があるならば,乾熱処理によるホットケーキの組織弾力性改良効果と,小麦粉中のPS区分の疎水化があるはずである.小麦粉の乾熱処理は解放系オーブンで,120°C,0, 1, 2, 3, 5時間,あるいは110~140°C,2時間行い,ホットケーキの組織弾力性を加圧後のケーキの膨らみ回復から調べた(表3表3■乾熱処理a小麦粉によるホットケーキ組織弾力性への影響).やはりホットケーキに改良効果が認められた(56)56) M. Seguchi: J. Food Sci., 55, 784 (1990)..さらに小麦粉の乾熱処理は,120°Cで最長8時間から,110°Cで最長8時間,100°Cで最長8時間,90°Cで最長144 時間(6日間),80°Cで最長144時間,70°Cで最長240時間(10日間),60°Cで最長540時間(22.5日間)まで細かく処理条件を変えて,乾熱処理小麦粉サンプルを調製した(トータルで54サンプル).ホットケーキの組織弾力性と疎水化を調べた.高温度にすれば短時間で,温度が下がれば長時間で同様の組織弾力性の得られることと疎水化を確認した(57)57) M. Ozawa & M. Seguchi: Food Sci. Technol. Res., 12, 167 (2006).

表3■乾熱処理a小麦粉によるホットケーキ組織弾力性への影響

小麦粉の酢酸分画法のなかで,撹拌方法をこれまでのワーリングブレンダーを用いた方法から自動乳鉢による撹拌方法に変えた.ワーリングブレンダーの激しい撹拌よりもっと弱い撹拌で小麦粉からのPS区分を得ることができた.乾熱処理,長時間の室温放置小麦粉の分画では,この方法で分画4区分(WS, G, PS, T区分)中のPS区分の疎水化によるT区分との非分離が認められそのためのPS区分回収率の低下とホットケーキの組織弾力性との間には大きな相関性のあることがわかった(58)58) M. Seguchi, M. Hayashi, K. Kanenaga, C. Ishihara & S. Noguchi: Cereal Chem., 75, 37 (1998).

乾熱処理小麦粉からPS区分を集め,親油性を観察した.その結果,クロリネーション小麦粉同様,乾熱処理小麦粉からとったPS区分のデンプン粒表面も強い親油性を示した(59~63)59) M. Seguchi: Cereal Chem., 61, 248 (1984).60) M. Seguchi: Cereal Chem., 63, 311 (1986).61) M. Seguchi & Y. Yamada: Cereal Chem., 65, 375 (1988).62) M. Seguchi: 澱粉科学(Denpun Kagaku38, 271 (1991).63) M. Seguchi: Starch, 53, 408 (2001)..微生物多糖カードラン粒を用いたクロリネーション,乾熱処理実験でも親油性が認められた(64)64) M. Seguchi & C. Kusunose: Food Hydrocoll., 15, 177 (2001).

乾熱処理小麦粉を酢酸分画し,それらを用いて合成粉を調製し,入れ替え実験によるホットケーキベーキング試験を行った.その結果,PS区分,T区分の乾熱処理による組織弾力性獲得が認められ,クロリネーション同様の効果が確認された(65)65) M. Ozawa & M. Seguchi: Cereal Chem., 85, 626 (2008)..このようにPS区分のデンプン粒表面は,小麦粉の処理時間と温度をコントロールすると疎水化し,性質を大きく変えることがわかった.乾熱処理小麦粉中7~8割を占めるPS区分,T区分の相互作用は,ホットケーキ組織中にあってしっかりした組織形成に貢献するため,少々の加圧でもつぶれなかった.その後,T区分にも親油性のあることが確認された(66)66) M. Ozawa, Y. Kato & M. Seguchi: Starch, 61, 398 (2009)..温度をさらに低下させ,時間を延ばしてみてはどうか.この考えは温度係数(反応時間が温度10°C下がると反応速度1/2~1/3倍になる)を利用したものである.120°C→110→100°C→→→室温まで低下させると,時間を延ばすことで室温でも疎水化するはずである.これまでの実験から長時間放置すると室温でも小麦粉PS区分の疎水化の得られることがわかった.室温放置小麦粉(15~20°C, 12カ月間)を次々に酢酸分画してWS区分,G区分,PS区分,T区分を集めていくと,放置時間を延ばしてホットケーキの弾力性が次第に強くなるに伴って,疎水性によるPS区分,T区分間の相互作用は強くなり,分離しにくくなった.このPS, T区分間相互作用の大きさとホットケーキの組織弾力性の間には大きな相関があった(67)67) C. Nakamura & M. Seguchi: Food Sci. Technol. Res., 13, 221 (2007)..一見して全く変化ないように見える小麦粉もその中では親水性から疎水性に変化している.小麦粉中のタンパク質がPS区分とT区分の相互作用に重要な役割をしていた(36)36) C. Kusunose, S. Noguchi, T. Yamagishi & M. Seguchi: Food Hydrocoll., 16, 73 (2002)..クロリネーション小麦粉デンプン粒表面の疎水化は,デンプン粒表面タンパク質の疎水化であり,チロシン,リジンなどアミノ酸中に塩素原子が入り込んで疎水性を示したが,乾熱処理でも全く同様の疎水化が示されたが,その疎水化には塩素が関与していない.乾熱処理により表面に露出していたタンパク質高分子の親水基が内部に埋没し,これまで埋没していた疎水基が表面に露出し,これがデンプン粒表面で起こり,PS区分は疎水化したのであろう(68~72)68) M. Seguchi, M. Takemoto, U. Mizutani, M. Ozawa, C. Nakamura & Y. Matsumura: Cereal Chem., 81, 633 (2004).69) H. Susi & D. M. Byler: Biochem. Biophys. Res. Commun., 115, 291 (1983).70) H. Susi & D. M. Byler: Methods Enzymol., 130, 290 (1986).71) S. S. Deshpande & S. Damodaran: Biochim. Biophys. Acta, 998, 179 (1989).72) N. Matsudomi, A. Kato & K. Kobayashi: Agric. Biol. Chem., 46, 1583 (1982).

泡安定性への貢献

クロリネーション,乾熱処理,あるいは長時間の室温放置処理小麦粉中のPS区分が疎水化することが示されたが,その疎水化がどのようにケーキバッター中の気泡と関係してホットケーキ組織弾力性改良に結びついたのか不明であった.ケーキバッター中,重曹の分解,機械的撹拌で気泡ができてくるが,気泡膜はタンパク質の変性でできるものでその気泡膜は疎水的である.処理を受けた小麦粉中のPS区分が疎水化すると,そのデンプン粒は気泡の表面に吸着するようになるであろう.

鉱石の浮遊選鉱法が同様の使用例である.そこでも気泡は撹拌によって生じるが,安定化するものがないと気泡はすぐに消えてしまう.この気泡を作るものを起泡剤として,浮遊選鉱法ではアミルアルコールなどが用いられている.金属は疎水性であることが多い.方鉛鉱や黄銅鉱の粉末はその泡の表面に付着して泡の寿命は永くなることが知られている.これを利用して各鉱石粉末が選鉱される.小麦デンプン粒表面が疎水化されたとき,気泡を安定化するかどうか確認実験を行った.試験管の中に水,クロリネーション小麦粉のデンプン粒500 mg, 2%イソアミルアルコールを入れ,激しく縦型の震とう機で30分間撹拌した.起泡剤としてイソアミルアルコールを用いた.撹拌停止とともに泡は僅か数十秒で消失するがこれを数秒置きに写真撮影した.その写真から,クロリネーション小麦粉のデンプン粒は気泡を安定化する傾向を示すことがわかった(30)30) M. Seguchi: Cereal Chem., 64, 281 (1987)..乾熱処理小麦粉のデンプン粒(120°C, 1, 2, 5時間)500 mgを同様に試験した.全く乾熱処理しない小麦粉からのデンプン粒と,120°C, 1, 2, 5時間乾熱処理小麦粉のデンプン粒との泡安定性を比較した.乾熱処置した小麦粉のデンプン粒は泡を安定化した(73)73) M. Seguchi & Y. Yamada: Cereal Chem., 65, 375 (1988)..ホットケーキ組織中にあっても,ケーキバッター中の泡は,処理小麦粉のデンプン粒の疎水化により安定化し,ホットケーキの組織弾力性に寄与したものと思われた.

カステラ加工上の疎水化

カステラは,卵の泡を十分に立て,そこに小麦粉を加え220°Cのオーブン中で焙焼して製造するものである.卵の泡を十分に立てた後,そのまま220°Cオーブンに入れれば,加熱で泡はすぐに消えてゴム状になってしまう.加熱前に小麦粉を入れるとカステラ組織ができる.小麦粉は本来疎水的であり卵の泡を安定化するのである.昔からカステラ用小麦粉は製粉直後,室温でエージング(長時間の室温放置)を行ってきた.その原因は不明だったが,エージングしないと良好なカステラのできないことは知られていた.Nakamuraらはカステラ製造で長いこと不明だった小麦粉のエージングはPS区分の疎水化のためと報告した.室温(15~25°C, 2, 4, 6, 8, 10, 12カ月)放置後カステラベーキングを行い,カステラの比容積増加を観察した.同時にPS区分の疎水化によるT区分間相互作用増加との相関性を見ている.長時間の室温放置小麦粉のPS区分に疎水化が生じ,カステラバッターを安定化したのである(74)74) C. Nakamura, Y. Koshikawa & M. Seguchi: Food Sci. Technol. Res., 13, 351 (2007).図10図10■カステラ容積と室温での小麦粉エージングの関係).室温に長時間放置の代わり短時間の乾熱処理(120°C, 10, 20, 30, 60, 120分間)を行って,小麦粉PS区分に疎水化を与えるとカステラの比容積は同様に増加した.いずれも卵の気泡への各処理小麦粉PS区分の疎水性による安定化であった(75)75) C. Nakamura, Y. Koshikawa & M. Seguchi: Food Sci. Technol. Res., 14, 431 (2008).

図11■グルテニンが古くなった米タンパク質中のSH基で還元され,抗張力を失う

小麦デンプン粒表面の疎水性の定量

小麦デンプン粒の疎水性はこれまで油との結合性で定性,定量されたが,さらに正確に定量するためにSFAE(ショ糖脂肪酸エステル)を用いた.疎水化デンプン粒表面に水溶性(HLB=13程度のもの)のSFAEを結合させた後,水洗して余分なSFAEを除去し,その後ソックスレーを用いてエチルエーテルでSFAEをデンプン粒から外し,このSFAEのショ糖をフェノール硫酸法で定量した.これまでの親油性の結果と高い相関性でSFAEを用いて疎水性を定量することができた(76)76) A. Tabara, H. Oneda, R. Murayama, Y. Matsui, A. Hirano & M. Seguchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1572 (2014).表4表4■乾熱処理小麦デンプン粒へのSFAEの吸着と油の吸着の比較).

表4■乾熱処理小麦デンプン粒へのSFAEの吸着と油の吸着の比較

SFAEを用いた米粉パン改良

米粉(85%)と小麦グルテン(15%)を用いた米粉パンが製造されている.米粉が古くなると製パン性(パン高,比容積)の低下することが知られた.米粉を室温(15°C, 9カ月,35°C, 14日間),あるいは乾熱処理(120°C,2時間)し,これまでの方法で米粉の親油性の増加(77)77) A. Tabara, M. Nakagawa, Y. Ushijima, K. Matsumura & M. Seguchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 1629 (2015).と製パン性の低下の相関性を確認した.製パン性の低下は,米粉中のデンプン粒表面タンパク質の変化によるもので,弱アルカリ性水溶液でタンパク質を除去すると古い米粉は親油性を失い製パン性が回復した(78)78) M. Nakagawa, A. Tabara, Y. Ushijima, K. Matsunaga & M. Seguchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 983 (2016).図11図11■グルテニンが古くなった米タンパク質中のSH基で還元され,抗張力を失う).古い米粉のデンプン粒表面に生じた疎水性は,米デンプン粒表面タンパク質のSH基の表面露出によるものであることがMorton(79)79) W. M. Morton: Plant Physiol., 44, 168 (1969).の方法で明らかにされた.この露出した米タンパク質のSH基は,混合されている小麦グルテン,このうちグルテニンのSS結合を還元し,その抗張力を低下して米粉パンの製パン性を低下したものと推察された(78)78) M. Nakagawa, A. Tabara, Y. Ushijima, K. Matsunaga & M. Seguchi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 983 (2016)..古くなった米粉デンプン粒表面にSFAEを添加すると疎水基が消えて,製パン性は回復した(80)80) Y. Ushijima, M. Nakagawa, A. Tabara, K. Matsunaga & M. Seguchi: Food Sci. Technol. Res., 23, (2017), in press.

おわりに

小麦粉を白くしようと始まった小麦粉クロリネーションを調べるうちに,コロイド的観察から小麦デンプン粒の疎水化が見つかり,さらに小麦粉の乾熱処理(120°C,2時間),長時間の室温放置でも同じ効果が見つかった.これまで不明だったカステラの小麦粉エージングによる高品質化の原因が小麦デンプン粒の疎水化であろうと推察され,小麦デンプン粒表面のタンパク質の関与が大きいことがわかった.貴重な小麦粉を使い忘れ,長期間室温放置していて捨てようと思っていたもので,病気のわが子にビスケットを焼いたところ,すばらしいものができたなどという昔話がある.これも小麦粉の疎水化であろう.さらに米粉パンの研究から,古い米粉でもデンプン粒表面タンパク質に疎水化の生じていることがわかった.小麦粉を乾熱処理,あるいは室温長時間放置で生じた疎水性により,組織の安定性(ホットケーキ組織弾力性向上),泡の安定性(高品質カステラの製造),米の場合にはその疎水性による小麦グルテニンSS結合の還元による米粉パンの製パン性低下などに影響していることがわかった.本稿は,食品の加工上,穀物を室温長時間放置や,乾熱処理による疎水化への関心がもっと向けられるべきであろうという呼びかけの論文である.

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