解説

化学療法のための化合物を開発する合成戦略天然物からハイブリッド戦略へ

Synthetic Strategies toward Bioactive Compounds for Chemotherapy: From Natural Products to Hybrid Strategy

及川 雅人

Masato Oikawa

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科

石川 裕一

Yuichi Ishikawa

横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科

Published: 2017-06-20

化学療法のための生物活性化合物を効率的に得る試みは,天然物の全合成とともに発展してきた.最近の報告でも,これまで臨床に用いられてきた抗生物質のうち実に65%が天然物由来とのことである(1)1) D. J. Newman & G. M. Cragg: J. Nat. Prod., 75, 311 (2012)..しかし,ここ20年の間にその取り組み方法も多様性を帯びてきた.本稿では,歴史のページをめくりつつ,現在ホットと思われる取り組みを取り上げ,さらに個人的に興味をもっているハイブリッド戦略について紹介したい.

コンビケム(図1)

図1■コンビケムによる化合物ライブラリー構築(1990年代)

1994年にChemistry & Biology誌が創刊され(現在はCell Press社により刊行),生物のしくみを生物活性化合物を用いて解明する化学者の試みがケミカルジェネティクスとして紹介された.ちょうど,mTORのヒト免疫系における役割がrapamycinやFK506を用いて分子レベルで明らかになったこともあり,医薬品のリード化合物としての生物活性化合物を得る効率的なシステムはどのようにしたら構築できるかが関心を集めていたため,多数の化合物を与える合成化学的技術とそのスクリーニング方法の開発が世界中の化学者によって研究された.1990年代はいわゆるコンビナトリアルケミストリー(コンビケム)による取り組みが盛んに研究された.たとえばSchreiberらは1998年,シキミ酸を出発原料とし,多数のビルディング・ブロック(BB)を6段階の反応により縮合させる戦略により218万個の二環性骨格化合物からなるライブラリー1の構築を報告している(2)2) D. S. Tan, M. A. Foley, M. D. Shair & S. L. Schreiber: J. Am. Chem. Soc., 120, 8565 (1998)..また,Nicolaouらは2000年,独自性の高いSeリンカーを用いる固相合成法によってベンゾピラン骨格を有する1万個を超える化合物のライブラリー2の構築を報告している(3)3) K. C. Nicolaou, J. A. Pfefferkorn, A. J. Roecker, G. Q. Cao, S. Barluenga & H. J. Mitchell: J. Am. Chem. Soc., 122, 9939 (2000)..1999年にはACSよりJournal of Combinatorial Chemistry(現在はACS Combinatorial Science)が創刊され,多数の類縁体化合物を含む化合物ライブラリーに対し大いなる期待が寄せられたが,研究が進むにつれ,ケミカルバイオロジー研究に有用な化合物の発見のためには,置換基の多様性だけでは不十分であるという課題点も明らかにされた.

一方,深瀬・楠本らは1998年,天然糖脂質の脂質部分に構造多様性をもたせた類縁体3を液相にて少数合成し,構造活性相関における重要な知見を得ている(4)4) K. Fukase, Y. Fukase, M. Oikawa, W.-C. Liu, Y. Suda & S. Kusumoto: Tetrahedron, 54, 4033 (1998)..天然糖脂質というprivileged structureをモチーフとした研究ではあったが,質の高い化合物ライブラリーを得るためには置換基の多様性よりむしろ主骨格が重要であることを示唆するものであり,こうした例は多く報告された.

DOS(多様性指向型合成)(図2~5)

図2■多様性指向型合成(DOS)の概念(2003年,Schreiberら)

図3■DOSの実践例(2003〜2004年,Schreiberら)

図4■80個を超える骨格を与えるDOS(2009年,Nelsonら)

図5■生合成類似の多様合成(2013年,大栗ら)

21世紀に入り,コンビケムで見いだされた課題に取り組む動きが活発化した.Schreiberらは一つの骨格から一つの反応条件により多様な骨格を創出する戦略の検討を始めた.反応の方向性を制御するため,出発化合物に含まれる置換基に工夫を行い,これを多様性指向型合成(diversity-oriented synthesis; DOS)と名づけた(5)5) S. L. Schreiber: Science, 287, 1964 (2000)..2003年に発表された概念を図2図2■多様性指向型合成(DOS)の概念(2003年,Schreiberら)に示す(6)6) J. K. Sello, P. R. Andreana, D. Lee & S. L. Schreiber: Org. Lett., 5, 4125 (2003)..二つの骨格が一つの骨格から同一反応条件で発生するが,ここでは置換基はアクセサリーではなく,反応の方向性を制御するために活用されていることに注意してほしい.実践例には同時期の報告(図3図3■DOSの実践例(2003〜2004年,Schreiberら))を見るとよい(7, 8)7) M. D. Burke, E. M. Berger & S. L. Schreiber: Science, 302, 613 (2003).8) M. D. Burke, E. M. Berger & S. L. Schreiber: J. Am. Chem. Soc., 126, 14095 (2004)..反応の方向性を制御するσエレメントを増やすことによって,より多い6つの骨格が一つの反応条件下にて創出される.さらに2009年には80個を超える骨格を創出する技術がNelsonらによって報告された(9)9) D. Morton, S. Leach, C. Cordier, S. Warriner & A. Nelson: Angew. Chem. Int. Ed., 48, 104 (2009).図4図4■80個を超える骨格を与えるDOS(2009年,Nelsonら)).彼らはBBにpropagatingあるいはcappingと名づけた性質を求め,それぞれを一つずつ含む基質に対しメタセシス反応を行っている.この技術はその後Schreiberによってbuild-couple-pair(BCP)strategyとして紹介された(10)10) S. L. Schreiber: Nature, 457, 153 (2009).

一方で,天然物の生合成にヒントを得た骨格多様性獲得の試みも2013年に大栗らによって報告された(11)11) H. Mizoguchi, H. Oikawa & H. Oguri: Nat. Chem., 6, 57 (2014).図5図5■生合成類似の多様合成(2013年,大栗ら)).ポリエン化合物が起こす[4+2]付加環化反応の向きを置換基によって制御して,3種の天然物骨格に導くことに成功している.また,ヒドリド移動に次ぐ環化反応により2種の四環性骨格も得た.

DTS(多様性指向型の天然物合成)(図6)

図6■多様性指向型天然物合成(2004年,Danishefskyら)

生物活性天然物の化学合成でより優れた化合物を得る戦略は2004年,Danishefskyらによってdiverted total synthesis(DTS)と名づけられた(12)12) J. T. Njardarson, C. Gaul, D. Shan, X.-Y. Huang & S. J. Danishefsky: J. Am. Chem. Soc., 126, 1038 (2004)..特に天然物自体の誘導体化では決して得られることのない化合物ライブラリーを与える点で,DTSは優れていると彼らは主張している.実際,彼らはDTSにより,細胞転移阻害能を有するmigrastatinよりも高活性な簡略化類縁体を得ることに成功した.

BIOS(生物活性支援型の多様合成)(図7)

図7■生物活性支援型多様合成(2006年,Waldmannら)

天然物ライブラリーから新規の活性化合物をスクリーニングし,ヒット化合物の骨格を分解しつつ合成化学的展開を図ってより優れた化合物の開発につなげる戦略はWaldmannによってbiology-oriented synthesis(BIOS)と名づけられた(13)13) A. Nören-Müller, I. Reis-Corrêa Jr., H. Prinz, C. Rosenbaum, K. Saxena, H. J. Schwalbe, D. Vestweber, G. Cagna, S. Schunk, O. Schwarz et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 10606 (2006)..彼らはターゲットをホスファターゼに固定し,阻害アッセイでヒットしたヨヒンビン/レセルピンをもとに,structural classification of natural products(SCONP)と名づけた解析で構造活性相関(SAR)に関する情報を得て,より強力かつ選択性の高い阻害剤の開発に成功した.

DOS from natural products(天然物からの多様合成)(図8~10)

図8■天然物からの多様合成(2013年,Hergenrotherら)

図9■天然物からの多様合成(2016年,菊池ら)

図10■天然物からの多様合成(2014年,菊池ら)

天然物を出発化合物として多様な骨格に導こうとする試みも報告されている.2013年,Hergenrotherらはジベレリン酸を例にとって3~5段階の反応で複数の骨格多様化合物群へと導く戦略(ring-distortion strategy)を報告した(14)14) R. W. Huigens III, K. C. Morrison, R. W. Hicklin, T. A. Flood Jr., M. F. Richter & P. J. Hergenrother: Nat. Chem., 5, 195 (2013).図8図8■天然物からの多様合成(2013年,Hergenrotherら)).彼らによれば,入手が容易で,かつ骨格改変を可能にするオルソゴナルな官能基を有する天然物であればこの戦略への適用が可能であり,ほかにアドレノステロンやキニーネについても骨格多様性獲得を実現している.フムレンを出発化合物とする同様な試みは菊池らによっても最近報告された(15)15) H. Kikuchi, T. Nishimura, E. Kwon, J. Kawai & Y. Oshima: Chem. Eur. J., 22, 15819 (2016).図9図9■天然物からの多様合成(2016年,菊池ら)).彼らはフムレンエポキシドに対する渡環反応/メタセシス反応によって骨格多様な32化合物を導き,その中にcarnitine palmitoyltransferase 1(CPT-1)を発現促進する化合物を見いだしている.

天然物の粗抽出物に対し反応を行ってより多様性を高める手法も2014年に菊池らによって提案されている(16)16) H. Kikuchi, K. Sakurai & Y. Oshima: Org. Lett., 16, 1916 (2014).図10図10■天然物からの多様合成(2014年,菊池ら)).彼らはテルペン類を含む植物由来のメタノール抽出物に対し,エポキシ化と結合開裂反応を施し,7つのセスキテルペン様化合物を得ることに成功している.

ケミカルスペース

複数の化合物を含むライブラリーの構造多様性はケミカルスペースによって表現される(17)17) C. M. Dobson: Nature, 432, 824 (2004)..物理的特徴(たとえば疎水性C Log P)や構造的特徴(たとえばsp3炭素の割合Fsp3)といった化合物の性質がそのライブラリーにおいて広範囲にわたっているかを評価するもので,一般的には任意の主成分分析データを3軸にプロットして三次元空間における広がりを評価する.現在,ライブラリーが広いケミカルスペースを占めるためには骨格多様性の獲得が鍵を握っていると考えられているが,それは1990年代のコンビケム研究で明らかにされた成果であった.この考えのなかで天然物ライブラリーはケミカルスペースが広いと評価されていることから,上述したような,天然物(もしくはprivileged structure)をモチーフとした,あるいはそれを出発化合物とした,さらなる骨格多様性の獲得が試みられるのは自然な流れと言える.また,別のアプローチとして活性化合物のハイブリッド戦略も未踏ケミカルスペース探索のために研究されており,以下にそれを紹介したい.

生物活性化合物のハイブリッド戦略

ハイブリッド化合物は,キメラとかダブルドラッグなど複数の呼び名がある.ほとんどの場合,2つの活性化合物を含むが,それらの生物機能は同じ場合と異なる場合とがある.いずれの場合においてもハイブリッド戦略では親化合物とは全く異なる物理的性質が生み出され,ハイブリッド化合物ライブラリーでは未踏のケミカルスペースの探索が可能になる.また,ハイブリッド化することによって,薬剤耐性の菌/株/ウイルスに対応できることもメリットの一つとされている.本稿では抗結核薬,抗がん剤,抗HIVウイルス剤,抗マラリア剤について順に紹介する.

抗結核薬(図11)

図11■ハイブリッド抗結核薬

結核菌など抗酸菌に対する活性化合物探索において,2011年,Deganiらは化学療法で用いられているethambutolの部分構造と,古くから知られているケイ皮酸をアミド縮合させた化合物の構造活性相関を評価し,5.1 μMで活性を示す化合物4を見いだした(18)18) M. D. Kakwani, P. Suryavanshi, M. Ray, M. G. R. Rajan, S. Majee, A. Samad, P. Devarajan & M. S. Degani: Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 1997 (2011)..Ethambutol由来の部分をリンカーとみなし,さまざまなジアミン/トリアミンを評価した点が興味深い.DNAジャイレースを標的にした阻害剤のハイブリッド5は結核菌やスメグマ菌に対し良好な抗菌活性を示した(19)19) V. U. Jeankumar, J. Renuka, P. Santosh, V. Soni, J. P. Sridevi, P. Suryadevara, P. Yogeeswari & D. Sriram: Eur. J. Med. Chem., 70, 143 (2013).

化学療法で用いられているthioridazineとthiadiazoleとのハイブリッド6では,良好なレベルの抗菌活性を示したと報告されている(20)20) J. Ramprasad, N. Nayak & U. Dalimba: Eur. J. Med. Chem., 106, 75 (2015)..Thioridiazineの本来の抗菌活性に対し,thiadiazole上の芳香環が活性の強さを調整していることが示された.

既存の抗生物質に対して別のファーマコフォア(pharmacophore)をハイブリッドさせる戦略も報告された.抗菌活性が知られる三環性スピロ骨格Aに対し,さまざまな薬剤においてファーマコフォアとして見られるthiochromaneをスピロ縮環させた化合物群は良好な抗菌活性を示し,そのなかから上述のethambutolよりも強力な7が見いだされた(21)21) C. Bharkavi, S. V. Kumar, M. A. Ali, H. Osman, S. Muthusubramanian & S. Perumal: Bioorg. Med. Chem., 24, 5873 (2016)..リンカーによらないハイブリッド戦略として興味深い.

抗がん剤(図12, 13)

図12■ハイブリッド抗がん剤

図13■ハイブリッド抗がん剤

最初に複数の機能性モチーフを含む抗腫瘍性化合物ブレオマイシンについて紹介する.ブレオマイシンはDNA結合性のチアゾール部,細胞膜通過のための糖質部,鉄原子結合性のピリミジン部からなり,DNAを強力に切断する(22)22) B. Meunier: Acc. Chem. Res., 41, 69 (2008)..抗腫瘍性化合物の開発においては,このように複数の作用を示すハイブリッドが多く研究されている.

DNAのマイナーグルーブに可逆的に作用するdistamycinと,DNAアルキル化剤DC-81のハイブリッド8では,両者を超える抗腫瘍活性化合物が2007年に見いだされた(23)23) P. G. Baraldi, D. Preti, F. Fruttarolo, M. A. Tabrizi & R. Romagnoli: Bioorg. Med. Chem., 15, 17 (2007).

ミトコンドリアのcomplex Iを阻害するアセトゲニン天然物とtebufenpyradのハイブリッドでは,親化合物のソラニンよりも80倍強力な抗腫瘍活性化合物9が2008年に開発されている(24)24) N. Kojima, T. Fushimi, N. Maezaki, T. Tanaka & T. Yamori: Bioorg. Med. Chem. Lett., 18, 1637 (2008).

Patersonらは2010年,微小管を安定化する3つの天然物(タキソール,discodermolide, dictyostatin)のハイブリッドの評価を行い,dictyostatinのマクロ環がタキソールの縮環部と同様な相互作用を示すこと,しかしながらタキソールの側鎖のない10のほうが高活性であることなどを明らかにした(25)25) I. Paterson, G. J. Naylor, T. Fujita, E. Guzmán & A. E. Wright: Chem. Commun., 46, 261 (2010)..微小管重合を阻害するansamitocin P-3と葉酸のハイブリッド11は,強力な抗腫瘍活性を示す前者化合物の作用を,葉酸受容体が過剰発現しているがん細胞だけに限定することができる(26)26) F. Taft, K. Harmrolfs, I. Nickeleit, A. Heutling, M. Kiene, N. Malek, F. Sasse & A. Kirschning: Chem. Eur. J., 18, 880 (2012)..葉酸とのハイブリッド戦略はほかの類縁体でも報告があり,一般性がある(27)27) C. A. Ladino, R. V. J. Chari, L. A. Bourret, N. L. Kedersha & V. S. Goldmacher: Int. J. Cancer, 73, 859 (1997)..その一方で,ansamitocin/geldanamycinハイブリッド12は異なる分子標的に作用して抗腫瘍活性を示す可能性が示唆されている(28)28) G. Jurjens & A. Kirschning: Org. Lett., 16, 3000 (2014)..アクチンを脱重合させてがん細胞の増殖を抑制させる2つの天然物(aplyronine A/mycalolide B)のハイブリッド13では,親化合物をしのぐ脱重合活性化合物が木越らにより2012年に見いだされた(29)29) K. Kobayashi, Y. Fujii, Y. Hirayama, S. Kobayashi, I. Hayakawa & H. Kigoshi: Org. Lett., 14, 1290 (2012)..2013年,不破らは細胞増殖抑制性のaspergillide A/neopeltolideをハイブリッド化し,その三次元構造と活性の相関関係について考察している(ジアステレオマーライブラリー14(30)30) H. Fuwa, K. Noto, M. Kawakami & M. Sasaki: Chem. Lett., 42, 1020 (2013).

アスピリン/酸化窒素のハイブリッド抗腫瘍活性化合物15では,親化合物のいずれでもなくリンカーが活性を示した,という特殊な例もあり(2007年)(31)31) N. Hulsman, J. P. Medema, C. Bos, A. Jongejan, R. Leurs, M. J. Smit, I. J. P. de Esch, D. Richel & M. Wijtmans: J. Med. Chem., 50, 2424 (2007).,リンカーの選択も重要である.

抗HIVウイルス剤(図12, 14)

図14■ハイブリッド抗HIVウイルス剤

2003年にGambariらによって示された例では,distamycinと,アルキル化によって不可逆的に作用するDC-81とのハイブリッド8が,いずれの親化合物とも異なるメカニズムでHIVの長い末端反復(LTR)による転写を阻害することが示された(32)32) M. Borgatti, C. Rutigliano, N. Bianchi, C. Mischiati, P. G. Baraldi, R. Romagnoli & R. Gambari: Drug Dev. Res., 60, 173 (2003).図12図12■ハイブリッド抗がん剤).また,Fossyらは2007年,逆転写酵素阻害剤とインテグラーゼ阻害剤をリンカーでハイブリッドして抗HIV活性化合物16として開発し,それが親化合物のいずれよりも高活性であることを示した(33)33) C. Fossey, N. T. Huynh, A. H. Vu, A. Vidu, I. Zarafu, D. Laduree, S. Schmidt, G. Laumond & A. M. Aubertin: J. Enzyme Inhib. Med. Chem., 22, 608 (2007).図14図14■ハイブリッド抗HIVウイルス剤).HIVプロテアーゼの光分解にフラーレンとグルコースのハイブリッド17が設計/使用された例もある(34)34) S. Tanimoto, S. Sakai, E. Kudo, S. Okada, S. Matsumura, D. Takahashi & K. Toshima: Chem. Asian J., 7, 911 (2012)..DiarylpyrimidineとJanssen社のetravirineのハイブリッド18では1.8 nMのEC50値をもつ抗HIV-1薬が見いだされている(2010年)(35)35) Z. S. Zeng, Q. Q. He, Y. H. Liang, X. Q. Feng, F. E. Chen, E. De Clercq, J. Balzarini & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 18, 5039 (2010)..この研究を行ったChenらはその後etravirine/elvitegravirハイブリッド19(EC50=0.28 μM)(36)36) T. Q. Mao, Q. Q. He, Z. Y. Wan, W. X. Chen, F. E. Chen, G. F. Tang, E. De Clercq, D. Daelemans & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 23, 3860 (2015).,およびetravirine/VRX-480773ハイブリッド20(EC50=0.24 μM)(37)37) Z. Y. Wan, Y. Tao, Y. F. Wang, T. Q. Mao, H. Yin, F. E. Chen, H. R. Piao, E. De Clercq, D. Daelemans & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 23, 4248 (2015).などの成果を上げており,etravirineはハイブリッド戦略のモチーフとして有用と考えているようである.その一方で,抗マラリア剤dihydroartemisininと抗HIV薬のazidothymidine(AZT)とのハイブリッド(38)38) M. N. Aminake, A. Mahajan, V. Kumar, R. Hans, L. Wiesner, D. Taylor, C. de Kock, A. Grobler, P. J. Smith, M. Kirschner et al.: Bioorg. Med. Chem., 20, 5277 (2012).,あるいはトリアジン系R106168とキナゾリン系の抗HIV薬ハイブリッドなど,選択性の変化やシナジー効果は認められなかったという失敗例もある(39)39) R. P. Modh, E. De Clercq, C. Pannecouque & K. H. Chikhalia: J. Enzyme Inhib. Med. Chem., 29, 100 (2014)..最近の成功例では,oleanolic acid/AZTハイブリッド21がAZTよりも優れた抗HIV活性を示した(EC50=0.010 μM)(40)40) A. T. T. Dang, C. T. Pham, T. A. Le, H. H. Truong, H. T. T. Vu, A. T. Soldatenkov & T. V. Nguyen: Mendeleev Commun., 25, 96 (2015).

抗マラリア剤(図15)

図15■ハイブリッド抗マラリア剤

ハイブリッド戦略が化学療法に大きなインパクトを与えた例としては2種の抗マラリア剤(アルテミシニンとクロロキン)を最初に挙げることができる(41)41) O. Dechy-Cabaret, F. Benoit-Vical, A. Robert & B. Meunier: ChemBioChem, 1, 281 (2000).(化合物22).これらは寄生虫のライフサイクルにおいて異なる時期に作用するだけでなくそのメカニズムも異なる特徴があり,構造最適化を経てPA1103-SAR116242(23)が開発された(42)42) F. Coslédan, L. Fraisse, A. Pellet, F. Guillou, B. Mordmüller, P. G. Kremsner, A. Moreno, D. Mazier, J.-P. Maffrand & B. Meunier: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17579 (2008)..アルテミシニンとキニーネをエステル縮合させた例もある.2007年,Walshらはこのハイブリッド化合物24がそれら単独あるいは混合物のいずれよりも高活性であることを報告した(43)43) J. J. Walsh, D. Coughlan, N. Heneghan, C. Gaynor & A. Bell: Bioorg. Med. Chem. Lett., 17, 3599 (2007)..クロロキンとトランスポーター阻害imipramineのハイブリッド25の成功例もある(44)44) S. J. Burgess, A. Selzer, J. X. Kelly, M. J. Smilkstein, M. K. Riscoe & D. H. Peyton: J. Med. Chem., 49, 5623 (2006).

おわりに

今回,このテーマの原稿を作るにあたってはいくつかの優れた成果に触れることができた.そのなかでも天然物生合成で共通中間体となるような化合物を起点とする人工化学合成や,リンカーによらないハイブリッド戦略は未踏のケミカルスペースを探索するのに有用であろう.私たちもそう考えてハイブリッド戦略を進めているが,今回は紙面の関係で割愛した.以上のような取り組みやDOSはさらなる発展が見込めるが,有機合成化学者の知恵だけではケミカルスペースを探索しきれないとも私たちは感じている.生物活性化合物を求める研究者のさまざまなリクエストや示唆などがこの取り組みの発展には欠かせないと思う.

Reference

1) D. J. Newman & G. M. Cragg: J. Nat. Prod., 75, 311 (2012).

2) D. S. Tan, M. A. Foley, M. D. Shair & S. L. Schreiber: J. Am. Chem. Soc., 120, 8565 (1998).

3) K. C. Nicolaou, J. A. Pfefferkorn, A. J. Roecker, G. Q. Cao, S. Barluenga & H. J. Mitchell: J. Am. Chem. Soc., 122, 9939 (2000).

4) K. Fukase, Y. Fukase, M. Oikawa, W.-C. Liu, Y. Suda & S. Kusumoto: Tetrahedron, 54, 4033 (1998).

5) S. L. Schreiber: Science, 287, 1964 (2000).

6) J. K. Sello, P. R. Andreana, D. Lee & S. L. Schreiber: Org. Lett., 5, 4125 (2003).

7) M. D. Burke, E. M. Berger & S. L. Schreiber: Science, 302, 613 (2003).

8) M. D. Burke, E. M. Berger & S. L. Schreiber: J. Am. Chem. Soc., 126, 14095 (2004).

9) D. Morton, S. Leach, C. Cordier, S. Warriner & A. Nelson: Angew. Chem. Int. Ed., 48, 104 (2009).

10) S. L. Schreiber: Nature, 457, 153 (2009).

11) H. Mizoguchi, H. Oikawa & H. Oguri: Nat. Chem., 6, 57 (2014).

12) J. T. Njardarson, C. Gaul, D. Shan, X.-Y. Huang & S. J. Danishefsky: J. Am. Chem. Soc., 126, 1038 (2004).

13) A. Nören-Müller, I. Reis-Corrêa Jr., H. Prinz, C. Rosenbaum, K. Saxena, H. J. Schwalbe, D. Vestweber, G. Cagna, S. Schunk, O. Schwarz et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 10606 (2006).

14) R. W. Huigens III, K. C. Morrison, R. W. Hicklin, T. A. Flood Jr., M. F. Richter & P. J. Hergenrother: Nat. Chem., 5, 195 (2013).

15) H. Kikuchi, T. Nishimura, E. Kwon, J. Kawai & Y. Oshima: Chem. Eur. J., 22, 15819 (2016).

16) H. Kikuchi, K. Sakurai & Y. Oshima: Org. Lett., 16, 1916 (2014).

17) C. M. Dobson: Nature, 432, 824 (2004).

18) M. D. Kakwani, P. Suryavanshi, M. Ray, M. G. R. Rajan, S. Majee, A. Samad, P. Devarajan & M. S. Degani: Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 1997 (2011).

19) V. U. Jeankumar, J. Renuka, P. Santosh, V. Soni, J. P. Sridevi, P. Suryadevara, P. Yogeeswari & D. Sriram: Eur. J. Med. Chem., 70, 143 (2013).

20) J. Ramprasad, N. Nayak & U. Dalimba: Eur. J. Med. Chem., 106, 75 (2015).

21) C. Bharkavi, S. V. Kumar, M. A. Ali, H. Osman, S. Muthusubramanian & S. Perumal: Bioorg. Med. Chem., 24, 5873 (2016).

22) B. Meunier: Acc. Chem. Res., 41, 69 (2008).

23) P. G. Baraldi, D. Preti, F. Fruttarolo, M. A. Tabrizi & R. Romagnoli: Bioorg. Med. Chem., 15, 17 (2007).

24) N. Kojima, T. Fushimi, N. Maezaki, T. Tanaka & T. Yamori: Bioorg. Med. Chem. Lett., 18, 1637 (2008).

25) I. Paterson, G. J. Naylor, T. Fujita, E. Guzmán & A. E. Wright: Chem. Commun., 46, 261 (2010).

26) F. Taft, K. Harmrolfs, I. Nickeleit, A. Heutling, M. Kiene, N. Malek, F. Sasse & A. Kirschning: Chem. Eur. J., 18, 880 (2012).

27) C. A. Ladino, R. V. J. Chari, L. A. Bourret, N. L. Kedersha & V. S. Goldmacher: Int. J. Cancer, 73, 859 (1997).

28) G. Jurjens & A. Kirschning: Org. Lett., 16, 3000 (2014).

29) K. Kobayashi, Y. Fujii, Y. Hirayama, S. Kobayashi, I. Hayakawa & H. Kigoshi: Org. Lett., 14, 1290 (2012).

30) H. Fuwa, K. Noto, M. Kawakami & M. Sasaki: Chem. Lett., 42, 1020 (2013).

31) N. Hulsman, J. P. Medema, C. Bos, A. Jongejan, R. Leurs, M. J. Smit, I. J. P. de Esch, D. Richel & M. Wijtmans: J. Med. Chem., 50, 2424 (2007).

32) M. Borgatti, C. Rutigliano, N. Bianchi, C. Mischiati, P. G. Baraldi, R. Romagnoli & R. Gambari: Drug Dev. Res., 60, 173 (2003).

33) C. Fossey, N. T. Huynh, A. H. Vu, A. Vidu, I. Zarafu, D. Laduree, S. Schmidt, G. Laumond & A. M. Aubertin: J. Enzyme Inhib. Med. Chem., 22, 608 (2007).

34) S. Tanimoto, S. Sakai, E. Kudo, S. Okada, S. Matsumura, D. Takahashi & K. Toshima: Chem. Asian J., 7, 911 (2012).

35) Z. S. Zeng, Q. Q. He, Y. H. Liang, X. Q. Feng, F. E. Chen, E. De Clercq, J. Balzarini & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 18, 5039 (2010).

36) T. Q. Mao, Q. Q. He, Z. Y. Wan, W. X. Chen, F. E. Chen, G. F. Tang, E. De Clercq, D. Daelemans & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 23, 3860 (2015).

37) Z. Y. Wan, Y. Tao, Y. F. Wang, T. Q. Mao, H. Yin, F. E. Chen, H. R. Piao, E. De Clercq, D. Daelemans & C. Pannecouque: Bioorg. Med. Chem., 23, 4248 (2015).

38) M. N. Aminake, A. Mahajan, V. Kumar, R. Hans, L. Wiesner, D. Taylor, C. de Kock, A. Grobler, P. J. Smith, M. Kirschner et al.: Bioorg. Med. Chem., 20, 5277 (2012).

39) R. P. Modh, E. De Clercq, C. Pannecouque & K. H. Chikhalia: J. Enzyme Inhib. Med. Chem., 29, 100 (2014).

40) A. T. T. Dang, C. T. Pham, T. A. Le, H. H. Truong, H. T. T. Vu, A. T. Soldatenkov & T. V. Nguyen: Mendeleev Commun., 25, 96 (2015).

41) O. Dechy-Cabaret, F. Benoit-Vical, A. Robert & B. Meunier: ChemBioChem, 1, 281 (2000).

42) F. Coslédan, L. Fraisse, A. Pellet, F. Guillou, B. Mordmüller, P. G. Kremsner, A. Moreno, D. Mazier, J.-P. Maffrand & B. Meunier: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17579 (2008).

43) J. J. Walsh, D. Coughlan, N. Heneghan, C. Gaynor & A. Bell: Bioorg. Med. Chem. Lett., 17, 3599 (2007).

44) S. J. Burgess, A. Selzer, J. X. Kelly, M. J. Smilkstein, M. K. Riscoe & D. H. Peyton: J. Med. Chem., 49, 5623 (2006).