解説

植物におけるオーキシンの生合成とその調節機構オーキシンは植物のさまざまな器官でつくられる

Auxin Biosynthesis and Its Regulation Mechanism in Plants: Auxin is Synthesized in Various Plant Organs

笠原 博幸

Hiroyuki Kasahara

東京農工大学グローバルイノベーション研究院

Published: 2017-06-20

オーキシンは植物の形態形成や環境応答を制御する非常に重要な植物ホルモンである.近年,代表的なオーキシンであるインドール-3-酢酸の主要な生合成経路がシロイヌナズナにおいて解明され,さらに蘚苔類を含む広範な陸上植物にもこの経路が保存されていることが明らかになった.これまでオーキシンは茎頂周辺の若い組織で作られて葉や根に移動すると考えられてきたが,実際には葉や根などのさまざまな器官・組織でも合成されていることがわかってきた.本稿では,オーキシンの濃度調節機構に関する最近の研究動向について解説する.

はじめに:オーキシンとその生理機能

オーキシンは進化論で有名なダーウィンらが行った植物の光屈性に関する生理学的研究を端緒に発見された(1)1) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4..オーキシンの活性本体として最初に同定されたインドール-3-酢酸(IAA)は,濃度依存的に植物の細胞伸長や細胞分化,細胞分裂を制御する重要な役割をもつ.また,IAAは細胞間を極性移動(決まった方向に移動)して植物組織内に濃度勾配を形成する特徴がある.オーキシンの生理機能に関する多くの研究により,IAAは胚発生や維管束形成,器官形成,屈性,頂芽優勢(茎の先端にある頂芽の成長が側芽の成長より優先される現象),避陰反応(植物がほかの植物の葉陰を避けようとする反応)など,植物のさまざまな形態形成や環境応答の制御に関与することが明らかにされている(1, 2)1) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4.2) G. Morelli & I. Ruberti: Plant Physiol., 122, 621 (2000).

長年,生物検定試験(アベナ屈曲試験など)においてIAAと似た生理活性を示す化合物がオーキシンと総称され,フェニル酢酸(PAA)やマメ科植物が生成する4-クロロインドール-3-酢酸(4-Cl-IAA)も植物に存在する天然オーキシンとして認知されてきた(図1図1■植物が合成するオーキシン).2005年にオーキシンの受容体がシロイヌナズナで発見された後は,この受容体との結合活性を測定することにより,PAAを含む多くの化合物のオーキシン活性が再評価された(1)1) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4.

図1■植物が合成するオーキシン

IAAと4-Cl-IAAは,PAAよりもシロイヌナズナのオーキシン受容体と強く結合する.

植物におけるオーキシンの作用は,生合成,不活化,輸送,シグナル伝達の4段階で調節されている(3)3) H. Kasahara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 34 (2016)..これまでIAAを中心にオーキシンの極性輸送やシグナル伝達,不活化にかかわるさまざまな分子が解明されてきた(オーキシンの極性輸送,不活化,シグナル伝達の分子機構については最新のテキストを参照していただきたい)(1)1) 浅見忠男,柿本辰男編:“新しい植物ホルモンの科学 第3版”,講談社,2016, p. 4..そして,IAA生合成の機構解明についても最近の10年間で著しい進展があった.

シロイヌナズナのIAA生合成経路

植物分子遺伝学や質量分析技術の発展により,シロイヌナズナからTRYPTOPHAN AMINOTRANSFERASE OF ARABIDOPSIS 1TAA1)とYUCCAYUC)という重要な酵素遺伝子が同定され,これらの遺伝子産物によりトリプトファン(Trp)からインドール-3-ピルビン酸(IPA)を経由してIAAが合成されることが証明された(3, 4)3) H. Kasahara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 34 (2016).4) K. Mashiguchi, K. Tanaka, T. Sakai, S. Sugawara, H. Kawaide, M. Natsume, A. Hanada, T. Yaeno, K. Shirasu, H. Yao et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 18512 (2011).図2図2■植物に存在することが遺伝学的・生化学的に証明されたIAA生合成経路).このIPA経路に含まれる遺伝子の多重欠損変異体ではIAA量が著しく減少し,重篤な発達異常が観察されることから,本経路は遺伝学的・生化学的にもシロイヌナズナの主要なIAA合成経路だと考えられるようになった(図3図3■シロイヌナズナのIAA生合成欠損変異体).さらに,TAAYUCの相同遺伝子がコケ植物を含む広範な陸上植物に存在し,それらの欠損変異体もシロイヌナズナと同様に重篤な形態異常を示すことから,IPA経路が陸上植物に共通したIAA生合成の主経路であると広く認められるようになった.YUC遺伝子を高発現させると,さまざまな植物でIAA量が増加し,胚軸伸長や側根形成の促進,頂芽優勢などオーキシンを過剰蓄積した表現型が見られることから,YUCはIAA合成の律速酵素と考えられている(3)3) H. Kasahara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 34 (2016).

図2■植物に存在することが遺伝学的・生化学的に証明されたIAA生合成経路

枠内は植物に共通したIPA経路,IAOx経路はアブラナ科固有の補助的な経路と考えられている.点線は予想経路.IAN::インドール-3-アセトニトリル.

図3■シロイヌナズナのIAA生合成欠損変異体

(上)発芽後7週目および(下)4週目の表現型.WT: 野生型,wei8-1 tar2-1: TAA1とその相同遺伝子TAR2の二重欠損変異体.白線:3 cm.

シロイヌナズナからはシトクロームP450モノオキシゲナーゼをコードするCYP79B2遺伝子も同定され,これがIPA経路とは独立してIAAの合成にかかわることが示された(3, 5)3) H. Kasahara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 34 (2016).5) S. Sugawara, S. Hishiyama, Y. Jikumaru, A. Hanada, T. Nishimura, T. Koshiba, Y. Zhao, Y. Kamiya & H. Kasahara: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 5430 (2009).図2図2■植物に存在することが遺伝学的・生化学的に証明されたIAA生合成経路).CYP79B2はTrpからインドール-3-アセトアルドキシム(IAOx)を生成する酵素活性をもち,アブラナ科の生体防御物質であるインドールグルコシノレートの合成にかかわる.しかしながら,CYP79B2遺伝子を高発現させると,IAAの内生量が増加し,オーキシンを過剰蓄積した表現型が見られる.さらに,CYP79B2とその相同遺伝子CYP79B3の二重欠損変異体は野生型に比べてやや矮性を示すことから,CYP79BがIAAの合成にも関与することが明らかになった(図3図3■シロイヌナズナのIAA生合成欠損変異体).植物界におけるCYP79B相同遺伝子の分布から,IAOx経路はアブラナ科固有の補助的なIAA合成経路と考えられている.最近,アブラナ科以外でもIAOxからIAAが合成される可能性が示されたが,まだその経路の生理的な重要性は明らかになっていない(6)6) S. Irmisch, P. Zeltner, V. Handrick, J. Gershenzon & T. G. Köllner: BMC Plant Biol., 15, 128 (2015).

上記の2つの経路以外については,トリプトファン非依存経路が存在する可能性がシロイヌナズナで示されたが(7)7) B. Wang, J. Chu, T. Yu, Q. Xu, X. Sun, J. Yuan, G. Xiong, G. Wang, Y. Wang & J. Li: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 112, 4821 (2015).,それを否定する論文も発表され(8)8) H. M. Nonhebel: Plant Physiol., 169, 1001 (2015).,今後さらに検証が必要である.また,トリプタミン(TAM)やインドール-3-アセトアミド(IAM)を鍵中間体とする経路が存在する可能性も提唱されているが,まだ遺伝学的な証拠が示されていない(3)3) H. Kasahara: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 34 (2016).

オーキシンは植物のさまざまな器官で合成される

これまでオーキシンは茎頂付近の若い組織で合成され,それが維管束周辺の柔組織を経由して根の先端へ輸送された後,根の先端で方向を変えて根の皮層と表皮細胞を経由して根の基部に向けて移動すると考えられてきた(9, 10)9) 小柴共一,神谷勇治,勝見允行編:“植物ホルモンの分子細胞生物学”,講談社サイエンティフィク,2006, p. 1.10) L. Taiz & E. Zeiger: “Plant Physiology 5th Ed.,” Sinauer Assoc., Inc., 2010, p. 546.図4A図4■これまでのIAAの極性輸送を中心に提唱されたオーキシン濃度調節モデル).また,シロイヌナズナの若い葉においては,茎頂付近の幼葉原基(托葉)で生産されたIAAが葉の発達に伴って葉の先端に移動し,さらに展開した葉の排水組織(水孔)を中心とする葉の周辺領域に蓄積された後,維管束の方向へ移動して茎頂分裂組織や根などほかの場所に運ばれると予想されていた(9)9) 小柴共一,神谷勇治,勝見允行編:“植物ホルモンの分子細胞生物学”,講談社サイエンティフィク,2006, p. 1.図4B図4■これまでのIAAの極性輸送を中心に提唱されたオーキシン濃度調節モデル).このようなダイナミックなオーキシンの濃度調節モデルは,主にオーキシンを輸送する膜タンパク質(PINファミリー)が発現する組織やそれらの細胞膜局在性を元に提唱されてきた(9, 10)9) 小柴共一,神谷勇治,勝見允行編:“植物ホルモンの分子細胞生物学”,講談社サイエンティフィク,2006, p. 1.10) L. Taiz & E. Zeiger: “Plant Physiology 5th Ed.,” Sinauer Assoc., Inc., 2010, p. 546.図4C図4■これまでのIAAの極性輸送を中心に提唱されたオーキシン濃度調節モデル).しかし,IAA生合成遺伝子のプロモーター::リポーター遺伝子(pTAA1::GUSpYUC::GUS)による解析では,茎頂付近の若い組織だけでなく,葉や根などのさまざまな組織でもTAA1YUCが発現していることが示された(11~15)11) Y. Cheng, X. Dai & Y. Zhao: Genes Dev., 20, 1790 (2006).12) Y. Cheng, X. Dai & Y. Zhao: Plant Cell, 19, 2430 (2007).13) Y. Tao, J. L. Ferrer, K. Ljung, F. Pojer, F. Hong, J. A. Long, L. Li, J. E. Moreno, M. E. Bowman, L. J. Ivans et al.: Cell, 133, 164 (2008).14) A. N. Stepanova, J. Robertson-Hoyt, J. Yun, L. M. Benavente, D. Xie, K. Dolezal, A. Schlereth, G. Jürgens & J. M. Alonso: Cell, 133, 177 (2008).15) M. Yamada, K. Greenham, M. J. Prigge, P. J. Jensen & M. Estelle: Plant Physiol., 151, 168 (2014).図5図5■シロイヌナズナにおけるIAA生合成遺伝子の発現部位).これらの結果から,IAAは茎頂だけでなく植物のさまざまな器官で合成されていることが明らかになった.さらに,シロイヌナズナの発達に伴い11種のYUC遺伝子が多様な発現パターンを示すことから,IAAの合成は時間的・空間的に精緻な制御を受けていることがわかった(11, 12)11) Y. Cheng, X. Dai & Y. Zhao: Genes Dev., 20, 1790 (2006).12) Y. Cheng, X. Dai & Y. Zhao: Plant Cell, 19, 2430 (2007).図5図5■シロイヌナズナにおけるIAA生合成遺伝子の発現部位).また,根において発現が高い5種のYUC遺伝子を欠損した多重変異体では,シュート(地上部)でIAAが合成されているにもかかわらず,根部のみで重篤な形態異常が現れる(16)16) Q. Chen, X. Dai, H. De-Paoli, Y. Cheng, Y. Takebayashi, H. Kasahara, Y. Kamiya & Y. Zhao: Plant Cell Physiol., 55, 1072 (2014)..この結果は,根で局所的に合成されたIAAが根部形成に必要であることを示している.これまでの研究から,植物の形態形成におけるIAA極性輸送の重要性は明らかであるが,さまざまな組織で合成されるIAAもまた重要な役割を果たしていることがわかってきた.

図4■これまでのIAAの極性輸送を中心に提唱されたオーキシン濃度調節モデル

(A)IAAは茎頂付近の組織で合成され,根の先端へと輸送される.根の先端に達すると表皮細胞を経由して根の基部方向へと輸送される.(B)シロイヌナズナの若い葉では,IAAが幼葉原基で合成され,葉の発達に従って葉の先端に移動する.展開した葉では周辺領域に蓄積していたIAAが,維管束に向けて移動する.(C)IAAの極性輸送が活発な細胞では,PINタンパク質が細胞膜に局在し,細胞内から決まった方向へIAAを排出する.赤丸:IAAの合成部位.赤四角:葉のIAA蓄積部位.IAA=IAAカルボキシラートイオン.矢印:IAAの輸送方向.文献9, 10を参照.

図5■シロイヌナズナにおけるIAA生合成遺伝子の発現部位

緑色の濃い部分でTAA1YUC遺伝子の発現が高い.点線はシュートと根部の境界を表す.文献11~15を参照.

避陰反応における協働的なオーキシン濃度調節

植物がほかの個体の葉陰に入ると,茎や葉柄を伸長したり,葉の展開を抑制したりして,光合成に不利な環境から逃れようとする(2)2) G. Morelli & I. Ruberti: Plant Physiol., 122, 621 (2000)..避陰反応と呼ばれるこの生理現象は,日光が葉を透過することで赤色光が吸収され,遠赤色光の光強度比が高くなった光を植物が受けることにより引き起こされる(図6図6■避陰反応における協働的なオーキシン濃度調節機構).最近,TAA1遺伝子の欠損変異体(shade avoidance 3)の解析により,シロイヌナズナの実生を人工的な葉陰環境に移すと,子葉でのIAA合成量の増加と,子葉から胚軸へのIAA輸送量の増加によって胚軸伸長が促進されることが明らかになった(13)13) Y. Tao, J. L. Ferrer, K. Ljung, F. Pojer, F. Hong, J. A. Long, L. Li, J. E. Moreno, M. E. Bowman, L. J. Ivans et al.: Cell, 133, 164 (2008)..また,この葉陰環境では胚軸のIAA不活化を抑制して活発にIAA量を増加させ,胚軸伸長を促進していることがVAS2/GH3.17(IAA–グルタミン酸結合体合成酵素)の遺伝子欠損変異体の解析で明らかになった(17)17) Z. Zheng, Y. Guo, O. Novák, W. Chen, K. Ljung, J. P. Noel & J. Chory: Nat. Plants, 2, 16025 (2016)..これらの研究から,植物が環境応答においてオーキシンの生合成,輸送,不活化を協働的に制御していることが示された(図6図6■避陰反応における協働的なオーキシン濃度調節機構).今後,避陰反応だけでなく,さまざまな形態形成や環境応答においても協働的なIAAの濃度調節機構が明らかになる可能性がある.

図6■避陰反応における協働的なオーキシン濃度調節機構

シロイヌナズナを葉陰の光環境に移すと,IAAの生合成,極性輸送,不活化の協働的な制御によって胚軸のIAA量が増加し,胚軸伸長が促進される.赤色領域:IAA量が増加する部位,赤矢印:IAAの極性輸送,青色領域:IAAの不活化が抑制される部位.点線はシュートと根部の境界を表す.

IAA以外の天然オーキシンに関する研究

PAAはアベナ屈曲試験ではIAAよりも生理活性が弱いが,エンドウの側根形成作用においてはPAAのほうが生理活性の強いことが報告されている(18, 19)18) A. J. Haagen Smit & F. W. Went: Proc. R. Acad. Amsterdam, 38, 852 (1935).19) E. A. Schneider, C. W. Kazakoff & F. Wightman: Planta, 165, 232 (1985)..興味深いことに,IAAとは異なり,放射性同位体標識化したPAAを植物組織に投与しても極性輸送されないことが示されているが,その作用機構や生理的役割などについては解明されていなかった(20)20) S. Sugawara, K. Mashiguchi, K. Tanaka, S. Hishiyama, T. Sakai, K. Hanada, K. Kinoshita-Tsujimura, H. Yu, X. Dai, Y. Takebayashi et al.: Plant Cell Physiol., 56, 1641 (2015)..最近,PAAはコケ植物を含む陸上植物に広く存在し,IAAと同じシグナル伝達経路で作用するオーキシンであるが,IAAと異なり重力刺激を受けても濃度勾配を形成しないユニークな移動特性をもつことが明らかになった(20)20) S. Sugawara, K. Mashiguchi, K. Tanaka, S. Hishiyama, T. Sakai, K. Hanada, K. Kinoshita-Tsujimura, H. Yu, X. Dai, Y. Takebayashi et al.: Plant Cell Physiol., 56, 1641 (2015)..PAAの生合成については,その化学構造がIAAと似ていることからTAAとYUCの関与が予想されたが,決定的な証拠はまだ示されておらず,他経路で合成されている可能性もある.陸上植物にIAAとPAAという移動特性の異なる2つのオーキシンが広く存在することから,今後PAAの生合成経路と生理的役割の解明が待たれる.

エンドウや数種のマメ科植物は4-Cl-IAAを合成することが古くから知られていたが,最近,エンドウのTAA1相同遺伝子であるPsTAR1PsTAR2の遺伝子産物が4-クロロトリプトファン(4-Cl-Trp)から4-クロロインドール-3-ピルビン酸(4-Cl-IPA)を合成することが示された(21)21) N. D. Tivendale, S. E. Davidson, N. W. Davies, J. A. Smith, M. Dalmais, A. I. Bendahmane, L. J. Quittenden, L. Sutton, R. K. Bala, C. Le Signor et al.: Plant Physiol., 159, 1055 (2012)..さらに,PsTAR1とPsTAR2によりIAAと4-Cl-IAAが並行して合成されていることも明らかにされた.また,pstar2欠損変異体の解析から,主にPsTAR2がエンドウの種子の発生後期の4-Cl-IAA合成に関与していることが示されている.

IAA, PAA, 4-Cl-IAAの3種類以外に,cis-ケイ皮酸(c-CA)もオーキシン作用を示すことが1930年代から知られている(18)18) A. J. Haagen Smit & F. W. Went: Proc. R. Acad. Amsterdam, 38, 852 (1935)..興味深いことに,c-CAはオーキシンの活性本体ではなく,オーキシン極性輸送を阻害することによりIAAを蓄積させて側根形成を促進することが最近示された(22)22) W. Steenackers, P. Klíma, M. Quareshy, I. Cesarino, R. P. Kumpf, S. Corneillie, P. Araújo, T. Viaene, G. Goeminne, M. K. Nowack et al.: Plant Physiol., 173, 552 (2017).c-CAは植物に微量に存在すると報告されているが,紫外線によってtrans-ケイ皮酸(t-CA)の異性化反応で容易に生成するため,実際に植物で合成されているかどうかは判断が難しい.c-CAの生合成遺伝子が同定され,その欠損変異体の解析が可能になれば,オーキシン制御機構における重要性が示されるものと考えられる.

今後の展望

近年,分子遺伝学的手法や質量分析技術の進歩により,植物の形態形成や環境応答におけるIAAの生合成や不活化の重要性が急速に明らかになってきた.今後,オーキシンの極性輸送,生合成,不活化の協働的な制御に関する解明が進み,これまでの極性輸送を中心としたオーキシン濃度調節モデルは大きく変貌すると予想される.また,IAAと異なる移動特性をもつPAAやマメ科固有の4-Cl-IAAの研究が進むと,さらに複雑かつ多様なオーキシン濃度調節機構が明らかになる可能性がある.これからもオーキシンの研究から目が離せない状況が続きそうである.

Acknowledgments

本稿の執筆にあたり,貴重なご意見をいただきました岡山理科大学の林 謙一郎教授,東北大学の増口 潔博士,理研・環境資源科学研究センターの菅原聡子氏に感謝いたします.

Reference

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