解説

真核生物におけるリボソームの品質管理と分解機構リボソームの分解を誘導するシグナルと解体のメカニズム

Quality Control and Degradation of Eukaryotic Ribosomes

Makoto Kitabatake

北畠

京都大学ウイルス・再生医科学研究所

Published: 2017-07-20

真核生物のリボソームは4本のrRNAと約80個のリボソームタンパク質からなる巨大複合体である.栄養豊富な条件下ではリボソームは非常に安定であることが知られている.しかし近年になって,このようなリボソームを必要に応じて迅速に分解する機構が細胞内に備わっていることが明らかになってきた.本稿では筆者らの研究している機能不全リボソームの選択的分解経路を紹介すると同時に,ほかの分解経路についても研究の進展をまとめ,細胞内でのリボソームのダイナミクスが次第に明らかになっている現況を解説したい.

はじめに

リボソームの合成には,非常に多くのエネルギーが必要である.そのため,細胞は完成されたリボソームを非常に長い時間にわたり使用する.増殖中の酵母では,あまりに安定性が高いため,実験的にはほとんどリボソームの分解を観察することができないことが知られている.

このように安定なリボソームも,「必要な場合」には極めて効率的に分解されるということが明らかになってきている.一つの例としては,合成時のエラーや成熟化後の損傷などにより,リボソームが機能を失い,役割を果たせなくなった場合である.このような分子がmRNA上に停滞すると必要な翻訳ができなくなるだけでなく,ほかのリボソームの進行を妨げたり,場合によっては有害な封入体を形成する可能性がある.こうした問題を防止するしくみとして,異常リボソームを選択的に分解する「品質管理機構」が細胞に備わっていることがわかってきた.

異常のないリボソームも分解される場合がある.代表的な例は栄養飢餓の場合である.栄養源が払底しそうな場合,細胞はリボソームの量を減らして余分なタンパク質合成を抑制すると同時に,分解したリボソームから栄養素を抽出し,生存に最低限必要な分子の合成に転用しているらしい.飢餓以外の条件,たとえば酸化ストレスやERストレスの場合にもリボソームの分解が観察される.これらも基本的にはタンパク質合成を抑制するために行われると考えられている.

本稿ではまず,「リボソームの品質管理」についてこれまでにわかってきたことを解説し,残りのスペースを使って,栄養飢餓の場合を含むさまざまなリボソームの分解について近年の研究を紹介する.

機能不全リボソームの分解

1. Nonfunctional rRNA decay(NRD)の発見(1)

2006年にLaRiviereらは出芽酵母を用いて,機能不全になったリボソームが細胞内で選択的に分解されるという現象を報告した(2)2) F. J. LaRiviere, S. E. Cole, D. J. Ferullo & M. J. Moore: Mol. Cell, 24, 619 (2006)..上述のとおり,正常な機能をもつ野生型の18S rRNAと25S rRNAは,それぞれ40Sと60Sの成熟粒子に正常に取り込まれ,細胞内で極めて安定に存在する.しかし18S rRNAの重要塩基(mRNAのコドンとtRNAのアンチコドンの正確な対合を認識する場であるdecoding centerに含まれる塩基)に点変異を導入した機能不全18S rRNAを発現させて追跡したところ,40Sには正常に取り込まれたものの,その後迅速に細胞内から消えていくということが明らかになった.同様に,ペプチド結合形成が行われるpeptidyl-transferase center中の重要塩基に点変異を導入した25S rRNAは60Sには取り込まれたが,その後短い時間で消失していった.

これらの重要塩基の近傍の塩基を置換した場合でも,その置換がリボソームの機能を障害しない場合にはRNAの分解は誘導されない.機能不全となる変異の場合には,塩基置換の種類にかかわらず分解された.これらの結果からLaRiviereらは「細胞には機能不全リボソームを分解する品質管理機構が存在する」と結論し,この現象をnonfunctional rRNA decay(NRD)と名づけた(2)2) F. J. LaRiviere, S. E. Cole, D. J. Ferullo & M. J. Moore: Mol. Cell, 24, 619 (2006).

2. 18S NRDとmRNA品質管理機構のクロストーク

細胞はどのようにして機能不全リボソームを検出しているのであろうか.18SのNRDについては,最初の報告から数年後,説得力をもったモデルが同じ研究グループから提示されている.

Coleらは,Dom34やHbs1の欠損株では18S NRDの顕著な低下が起こることを見いだした(3)3) S. E. Cole, F. J. LaRiviere, C. N. Merrikh & M. J. Moore: Mol. Cell, 34, 440 (2009)..これらはmRNAの品質管理機構であるno-go decay(NGD)に必要な因子であった.NGDは,RNAの高次構造などが原因でORFの途中でリボソームが翻訳を停止してしまう場合に,そのmRNAを分解・除去する品質管理機構である(4)4) J. Lykke-Andersen & E. J. Bennett: J. Cell Biol., 204, 467 (2014).図1図1■18S NRDとRQCは停滞したリボソームを標的にするに示したように,翻訳が停止したリボソームには空のA-siteが生じているが,これを標的にDom34–Hbs1の複合体(それぞれ,翻訳終結因子eRF1とeRF3に相同性をもつ)が結合し,細胞内での代表的なRNA分解複合体であるエキソソームをリクルートすると考えられている.mRNA上でのリボソームの停滞がmRNAの高次構造のみならず18S rRNAの異常によっても生じうることを考えれば,同じ因子が分解に関与しているのは合理的である(1)1) D. L. J. Lafontaine: Trends Biochem. Sci., 35, 267 (2010).

図1■18S NRDとRQCは停滞したリボソームを標的にする

近年になって,mRNA上に停滞したリボソームに多くの因子が結合し,途中までで合成を停止した新生ペプチド鎖を分解する「Ribosome quality control(RQC)」と呼ばれる経路が存在することがわかり,精力的に研究されている(5)5) O. Brandman & R. S. Hegde: Nat. Struct. Mol. Biol., 23, 7 (2016)..しかし現在においてもなお,停滞したリボソームの分解について明快に説明するモデルは存在しないようである.停止したリボソームを検出した後,細胞はmRNAとリボソームのどちらに異常があるかを見分けて,異常のあるものだけを分解することができるのだろうか.RQCとNRDの関係を明確にすることは,今後の研究の重要な課題の一つである.

3. 25S NRDの分子機構の解明(6, 7)

筆者らはLaRiviereらの研究とは独立に,ペプチジル基転移中心に変異をもつ25S rRNAの細胞内での運命について研究を行ってきた.現在までに15個を超える因子が25S NRDにかかわっていることを見つけ出している(未発表の因子を含む).

初期のスクリーニングから,ユビキチンE3リガーゼ複合体の構成因子の一つであるMms1が25S NRDに必須な因子であることがわかった.同じE3複合体に含まれるRtt101も25S NRDに必要であった.一方で18S NRDにはこれらの因子は不要であった.詳しく調べてみると,25S NRDにおいては基質となるリボソームのユビキチン化が起こることが明らかになった.同じ細胞から正常なリボソームと機能不全25S rRNAを含むリボソームをそれぞれ分離したところ,後者にだけユビキチン化のシグナルをもつリボソームが検出されたのである.ユビキチン化はMms1に依存していた(6)6) K. Fujii, M. Kitabatake, T. Sakata, A. Miyata & H. Ohno: Genes Dev., 23, 963 (2009).

さらに関連因子の検討を行い,この経路にCdc48–Ufd1–Npl4複合体とプロテアソームが必要であることも明らかになってきた(7)7) K. Fujii, M. Kitabatake, T. Sakata & M. Ohno: EMBO J., 31, 2579 (2012)..Cdc48複合体はユビキチン化された基質に結合し,プロテアソームにリクルートするために使われるATPaseである.Cdc48複合体を阻害すると機能不全25S rRNAは安定化して,80Sの大きさの粒子に蓄積することがわかった.プロテアソームを阻害した実験でもrRNAは安定化し,この場合には60S粒子に蓄積した.

以上から明らかになった経路をまとめたのが図2図2■25S NRDにはリボソームのユビキチン化がかかわるである.機能不全となる変異をもつ25S rRNAはおそらく正常に成熟化し,mRNA上で80Sを形成する.ペプチド結合を形成できないので,おそらく開始コドン上でいつまでも停滞しているだろう.Mms1を含むE3リガーゼがこの状態のリボソームを認識し,ユビキチン化を行う.ユビキチンに誘引されたCdc48–Ufd1–Npl4複合体は80Sに結合して,おそらくはATPaseの活性を利用して40Sを解離しつつ,残された60Sにプロテアソームを結合させる.プロテアソームによりタンパク質の除かれたリボソームには,RNaseがアクセス可能となり,変異25S rRNAの分解が開始されるのだろう.

図2■25S NRDにはリボソームのユビキチン化がかかわる

25S NRDにおいて残された課題は,「Mms1を含むE3リガーゼがどのようにして機能不全リボソームを検出できるのか」ということである.上記のモデルでは「開始コドン上で停滞している」ことがシグナルの一つであるような説明を加えたが,これは状況証拠からの推定であって具体的な物証はない.今後詳しい検証が必要である.最近になって筆者らのグループでは,機能不全リボソームに選択的に結合する因子の同定に成功している.これらの因子を研究することで,細胞がリボソームの機能を監視して分解すべきリボソームを選ぶメカニズムを理解することができるようになるものと期待している.

正常なリボソームが分解される経路

1. 窒素源枯渇:リボファジーの発見(8)

オートファジーは,細胞質のさまざまな分子を膜で取り囲み,液胞へと運んで分解する,細胞内の生体材料リサイクルの経路である.はじめは細胞質の分子をランダムに取り囲んで分解すると考えられていたが,研究が進むにつれて,分解の対象には選択性がある場合があることがわかってきた.そのような流れのなか,Kraftらは窒素源飢餓に置かれた出芽酵母の中でリボソームが優先的に分解される選択的オートファジー経路があることを報告し,リボソームのオートファジー,リボファジー(Ribophagy)という名称を提案した.

彼らの報告(8)8) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 402 (2008).では,2つの方法によりリボファジーが観察されている.まず一つは,リボソームタンパク質Rpl25のC末端にGFPを融合したタンパク質を発現させ,GFPの局在を蛍光顕微鏡観察する方法である.通常の増殖条件ではGFPシグナルは細胞質全体に存在するが,窒素源のない培地に交換して培養を続けると,GFPのシグナルは液胞の中に濃縮された.オートファジーの起こらないAtg7欠損株ではこのような濃縮は起こらない.このことから,窒素源飢餓によりリボソームがオートファジーの標的になり,液胞に運ばれたことが確認された.

もう一つの観察方法は,同じRpl25-GFPをウエスタンブロッティングで検出する方法である.液胞に運ばれたリボソームは高いプロテアーゼ活性のために分解されるが,この際にGFPは難消化性であり,融合タンパク質のうちRpl25の部分が消化された後も遊離のGFPとして液胞内にとどまる.抗体で遊離のGFPを検出することで,窒素飢餓誘導後4時間くらいから液胞でリボソームの分解が始まっていることが示された.

彼らはこれらの方法でリボファジーに関与する因子についても調査を行い,Ubp3とBre5という,互いに複合体を形成して働く脱ユビキチン化酵素がかかわっていることを示した(8)8) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 402 (2008)..これらのどちらかが欠損した酵母では,顕微鏡観察でもウエスタンブロッティングでも,リボファジーのシグナルが(完全に消えはしないが)低下したり,遅延したりしていた.重要なことに,これらの変異株においても,遊離GFPの検出から判断する限り,GFP-Atg8やRps2-GFPの切断は正常のタイミングで進行していた.つまりこれらの因子は60Sサブユニットの分解にだけ選択的に働く因子であることがわかった.

リボソームは多くのタンパク質成分とRNA成分を含む栄養価の高い構造体である.飢餓の場合,新規タンパク質合成を抑制する意味でも,栄養物をリサイクルする意味でも,細胞の生存にとって魅力的な分解対象である.このような観点から,リボソームを選択的に分解するリボファジーは非常に合理的なシステムだと考えられ,その発見は多くの研究者に受け入れられることとなった.

2. リボファジー以外のオートファジーによる分解

Huangらは2015年の報告(9)9) H. Huang, T. Kawamata, T. Horie, H. Tsugawa, Y. Nakayama, Y. Ohsumi & E. Fukusaki: EMBO J., 34, 154 (2015).の中で,出芽酵母をさまざまな栄養飢餓の状態に置き,細胞内のRNA分解を代謝産物の側から,つまり生産された遊離のヌクレオチドやヌクレオシドを測定することによってモニターする実験を行った.その結果,窒素飢餓開始後1時間程度で,オートファジー経路依存的に,RNA分解に由来するヌクレオチドの一過的上昇が観測されることがわかった.ヌクレオチドはさらに分解され,ヌクレオシドや塩基の形で細胞外へ漏出していることも明らかにされた(分解の過程で窒素原子の一部はリサイクルされる).

興味深いことに,液胞に存在するRNaseであるRny1の欠損株では,遊離のヌクレオチドの上昇は起こらない.その代わりに液胞内部にRNA鎖が強く濃縮するのである.Rny1と同時にオートファジーに必要な遺伝子を欠損するとこのようなRNAの濃縮は起こらない.以上の結果から彼らは,窒素源飢餓においてリボソームはオートファジー経路によって液胞へと運ばれ,Rny1によりrRNAが切断されて代謝される,という結論を導いている.

彼らはまた,リボファジーとの関連性を調べるためにUbp3とBre5についても欠損株を作製して実験している.意外なことに,彼らの指標においてはこれら2つの因子のRNA分解(最も多いRNAはrRNAであり,計算上彼らの見ている分解はrRNAの分解である)への影響はほとんど見られなかった.これらの結果は,決してリボファジーの最初の報告を否定するものではない.しかし多くのrRNAがUbp3やBre5に依存せずに分解されるという事実が明らかになったことで,それと比較して少数の「選択的なリボソームの分解」が起こることの意義について,新たな説明が必要になったように思われる.

なおリボファジーの分子機構についてはRpl25-GFPを指標にその後も研究が続いており,E3リガーゼLtn1によるRpl25のユビキチン化がリボソームをオートファジーから保護していること,Ubp3とBre5はこのユビキチン化を除去することでリボファジーを誘導すること,などが明らかになっている(10)10) B. Ossareh-Nazari, C. A. Nino, M. H. Bengtson, J.-W. Lee, C. A. P. Joazeiro & C. Dargemont: J. Cell Biol., 204, 909 (2014)..25S NRDに関与しているCdc48がリボファジーにも関与しているという報告があるが,この場合のCdc48複合体はNRDの場合と異なり,Cdc48–Ufd1–Npl4ではなくCdc48–Ufd3複合体として働いているようである(11)11) B. Ossareh-Nazari, M. Bonizec, M. Cohen, S. Dokudovskaya, F. Delalande, C. Schaeffer, A. Van Dorsselaer & C. Dargemont: EMBO Rep., 11, 548 (2010).

3. ラパマイシン処理

ラパマイシンはTORを阻害することで栄養飢餓シグナルを発動し,翻訳開始の阻害やオートファジーの誘導,リボソーム合成の停止などを導く薬剤である.リボファジーの研究でもラパマイシンが使われるケースがあり,Rpl25-GFPの切断も誘導されることがわかっている.

Pestovらは,ラパマイシンを投与された出芽酵母においてrRNAの急激な分解(投与後4時間で全リボソームの半数が分解されている)が起こることを報告している(12)12) D. G. Pestov & N. Shcherbik: Mol. Cell. Biol., 32, 2135 (2012)..彼らはこの現象をさまざまな変異株で確認しているが,驚いたことにこの分解にはオートファジーは関与していないらしい.Ubp3やBre5の欠損株でも急激なrRNAの分解は再現されるし,Atg7欠損株でも分解速度は低下しない.NRDにかかわるHbs1やMms1の欠損株でも同じであった.彼らが調べた中で唯一この分解への寄与が認められたのは,エキソソームとその関連因子Ski複合体だけである.これらの因子は協力して細胞質でのRNAの分解を行う.これらの欠損株の場合に限り,25S rRNAの分解が阻害され,分解中間体となるRNAが蓄積された.

エキソソームの阻害によって見られる中間体のバンドは,酵母株の液体培養でのオーバーグロース(48時間カルチャーを継続する)によっても蓄積した.つまりこの分解経路はラパマイシン投与に対して起こる特別な分解ではなく,実際の栄養飢餓を契機としても起こる分解のようである.栄養飢餓条件でも,あるいはラパマイシン投与後でも,細胞では活発にオートファジーが誘導されているはずである.そこではリボソーム粒子が旺盛に分解されているはずにもかかわらず,それらの影響がほとんど無視できるほどの急激なrRNAの分解が細胞質のエキソソームに依存的に起こっていることになる.

4. そのほかの分解経路

酵母に過酸化水素を投与するとrRNAの切断が誘導されることが知られている.この切断に,前述のRNaseであるRny1がかかわっているという報告がある(13)13) D. M. Thompson & R. Parker: J. Cell Biol., 185(1), 43 (2009)..報告によればRny1は酸化ストレス下においては液胞を脱出して細胞質に移動し,各種のtRNAやrRNAを切断する.Rny1による切断はオートファジーが欠損した株でも起こり,過酸化水素処理だけでなく,液体培養2日以上のオーバーグロースでも観察される,とのことである.Rny1はさまざまな局面でrRNAを切断する役割を果たすようだ.今後この酵素の局在変化や活性化の条件などを詳しく明らかにする必要があるだろう.

rRNAの分解はこのほかにも多様な原因により誘導される.動物細胞の抗ウイルス応答の場合,RNase LがrRNAを切断することが古くから知られている(14)14) D. H. Wreschner, T. C. James, R. H. Silverman & I. M. Kerr: Nucleic Acids Res., 9, 1571 (1981)..昆虫細胞にはRNase Lのホモログが存在しないが,同様の現象が報告されている(15)15) R. Hamajima, Y. Ito, H. Ichikawa, H. Mitsutake, J. Kobayashi, M. Kobayashi & M. Ikeda: J. Gen. Virol., 94, 2102 (2013)..動物細胞のERストレスの場合も,Ire1が28S rRNAを切断する(16)16) T. Iwasaki, A. Hosoda, T. Okuda, Y. Kamigori, C. Nomura-Furuwatari, Y. Kimata, A. Tsuru & K. Kohno: Nat. Cell Biol., 3, 158 (2001)..植物細胞にはRicinなどのrRNA障害性のタンパク質が貯蔵される場合があるが,ウイルスの進入などで細胞が破砕された場合,自らのrRNAを切断してタンパク質合成をシャットダウンさせ,感染の拡大を防ぐ役割があるものと考えられている.これらはすべて,細胞のタンパク質合成を低下させる目的で行われると考えられるが,rRNA切断前後のリボソームに何が起こっているかについてはほとんど明らかになっていない.

おわりに

リボソームの分解についての最近の知見を駆け足にまとめた.正常なリボソームの分解に関してはそれぞれの報告の間にいくらか齟齬があるようである.窒素源飢餓の際,あるいはラパマイシン処理の際にリボソームの急激な分解が起こるのは間違いなさそうであるが,細胞質で起こるのか,液胞で起こるのか,両方で同時に起こるのか,はっきりしない.この解説ではそれぞれの報告に使われたレポーターに少し詳しく触れたが,俯瞰して見てみると,Rpl25-GFPなどのタンパク質を使ったグループは液胞での分解を見いだしており,rRNAを調べたグループは細胞質での分解を確認しているようである.分解の全体像を正確に理解するためには今後,両者を組み合わせた定量的な研究が必要となってくるだろう.

リボソームの分解は細胞の生存戦略について極めて重要なステップであると考えられる.細胞には複数の分解経路が並列に存在していて,状況に応じてそれぞれの経路の寄与は変わってくるのかもしれない.現在の研究結果の混乱は,大きな未解明の領域がこの分野に残されていることを明確に予言していると筆者は考えている.

Reference

1) D. L. J. Lafontaine: Trends Biochem. Sci., 35, 267 (2010).

2) F. J. LaRiviere, S. E. Cole, D. J. Ferullo & M. J. Moore: Mol. Cell, 24, 619 (2006).

3) S. E. Cole, F. J. LaRiviere, C. N. Merrikh & M. J. Moore: Mol. Cell, 34, 440 (2009).

4) J. Lykke-Andersen & E. J. Bennett: J. Cell Biol., 204, 467 (2014).

5) O. Brandman & R. S. Hegde: Nat. Struct. Mol. Biol., 23, 7 (2016).

6) K. Fujii, M. Kitabatake, T. Sakata, A. Miyata & H. Ohno: Genes Dev., 23, 963 (2009).

7) K. Fujii, M. Kitabatake, T. Sakata & M. Ohno: EMBO J., 31, 2579 (2012).

8) C. Kraft, A. Deplazes, M. Sohrmann & M. Peter: Nat. Cell Biol., 10, 402 (2008).

9) H. Huang, T. Kawamata, T. Horie, H. Tsugawa, Y. Nakayama, Y. Ohsumi & E. Fukusaki: EMBO J., 34, 154 (2015).

10) B. Ossareh-Nazari, C. A. Nino, M. H. Bengtson, J.-W. Lee, C. A. P. Joazeiro & C. Dargemont: J. Cell Biol., 204, 909 (2014).

11) B. Ossareh-Nazari, M. Bonizec, M. Cohen, S. Dokudovskaya, F. Delalande, C. Schaeffer, A. Van Dorsselaer & C. Dargemont: EMBO Rep., 11, 548 (2010).

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14) D. H. Wreschner, T. C. James, R. H. Silverman & I. M. Kerr: Nucleic Acids Res., 9, 1571 (1981).

15) R. Hamajima, Y. Ito, H. Ichikawa, H. Mitsutake, J. Kobayashi, M. Kobayashi & M. Ikeda: J. Gen. Virol., 94, 2102 (2013).

16) T. Iwasaki, A. Hosoda, T. Okuda, Y. Kamigori, C. Nomura-Furuwatari, Y. Kimata, A. Tsuru & K. Kohno: Nat. Cell Biol., 3, 158 (2001).