Kagaku to Seibutsu 55(8): 559-565 (2017)
解説
犯罪捜査におけるDNA鑑定によるヒトの異同識別微生物群集構造プロファイリングによる新たな法科学的手法の可能性
Discrimination among Individuals with Analysis of DNA Profiles: Application of New Forensic Science Technologies Using Microbiota Profiling
Published: 2017-07-20
現在の犯罪捜査において,ヒトDNA型鑑定は多くの事件に活用され,犯人の特定や犯罪事実の証明に欠かせないものとなっている.しかし,いまだに解決できないさまざまな問題があり,昨今のあらゆる種類の犯罪に対応できていない.しかしながら,人体に存在する微生物叢を網羅的に解析するヒトマイクロバイオーム解析の発展に伴い,微生物を法科学分野にも利用する動きが見られるようになった.このヒトDNA型鑑定とは異なるアプローチによって,現在の法科学分野のさまざまな問題点を克服できる可能性がある.つまり,従来の一般の鑑定手法では有効な情報を得ることができなかった資料について,そこに存在する細菌叢を利用して個人の異同識別が可能であることがわかってきた.
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刑事事件における法科学鑑定の主要な目的の一つは,犯罪現場に残された資料が誰(犯人や被害者など)に由来するものかを明白にすることである.現在,各都道府県警察で行われている法科学鑑定手法のなかでそれが可能であるのは,指紋鑑定とヒトDNA型鑑定の2つがある.指紋は「万人不同」かつ「終生不変」と言われ(1)1) 福島弘文:“法医学”,南山堂,2002, p. 195.,1911年に警視庁が指紋法を個人識別に導入して現在に至る.一方,ヒトDNA型鑑定は1990年代以降の比較的新しい手法で,現在の犯罪捜査での主な活用事件とその目的は,殺人や傷害事件などでは凶器および犯罪現場の特定,強盗や窃盗事件では遺留品からの犯人の特定,性犯罪事件では衣類などに付着する体液からの犯人の特定,ひき逃げ事件では容疑車両に付着する血痕からの逃走車両の特定,また変死事件では発見された白骨と該当者と思われる親族間での身元確認などに利用されている(図1図1■DNA型鑑定の主な活用事件とその目的).
しかし,最近の刑事事件の捜査を巡る環境は,2009年5月に開始された裁判員制度,そして2010年4月に施行された重要凶悪事件の公訴時効を廃止・延長する刑法の改正など,警察捜査のあり方そのものが変革を迫られている.さらに,否認事件の割合も増加傾向にあり,事件の真相究明には客観的証拠の収集・鑑定が必要である.本稿では,現在に至るまでの個人の異同識別検査法の歴史を振り返りながら,ヒトDNA型鑑定の問題点を指摘する.また,過去の細菌と法科学鑑定のかかわりを見ながら,細菌を利用したさまざまな鑑定法について述べる.特に,われわれが報告した証拠資料から検出した細菌叢プロファイリングの比較を行い,容疑者を絞り込む手法について紹介し,その利点と今後取り組むべき課題を取り上げた.
最も古くから実施されてきた法科学分野の異同識別鑑定に,1901年に発見されたABO式血液型検査法があり,犯罪捜査のみならず,輸血や臓器移植などの医療面でも重要な役割を果たしてきた.ちなみに,日本人における各血液型の出現頻度については,A型が37.33%,O型が31.51%,B型が22.05%,そしてAB型が9.09%である(2)2) 岸紘一郎,滝澤久夫,山本 茂:“法医血清学的検査法マニュアル”,金原出版株式会社,1990, p. 79..当然,この程度の識別能力では不十分なため,新たな個人の異同識別法が検討されてきたが,大きく進展してきたのは1980年代に入り,いわゆる分子生物学的検査手法の開発が行われるようになってからである.最も大きなインパクトを与えたのは,イギリスで起こった連続少女強姦殺人事件に適用され,犯人の特定・逮捕につながったDNAフィンガープリント法の登場である(3)3) 勝又義直:“最新DNA鑑定”,名古屋大学出版会,2014, pp. 6–8..ヒトの設計図であるDNAの個人差を個人識別に応用するという当時極めて画期的な方法だったが,再現性が低いこと,鑑定資料が多量に必要なため,微量・陳旧資料に使えないことなどから,法科学分野の検査として広く普及するまでには至らなかった(4)4) H. Sato: Jpn. J. Tech. Iden., 2, 1 (1997)..しかし,Taqポリメラーゼを用いたPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅法が報告されて以来,PCR増幅法を用いたDNA型検査法が法科学分野の主流となり,微量な資料からのDNA分析への道が開かれることとなった(4)4) H. Sato: Jpn. J. Tech. Iden., 2, 1 (1997)..
日本の警察組織においては,1992年から全国の科学捜査研究所でヒトDNA型鑑定法が順次導入されたが,当初は第1染色体上に存在するD1S80型と,市販の検査キットを利用した第6染色体上に存在するHLADQα型の2種類の検査法が行われていた.1996年からは,より陳旧化・分解の進んだ試料からもDNA型の検出が可能となるよう,増幅サイズが小さく,多型性の高いSTR(Short Tandem Repeat)型の一つである第11染色体上に存在するTH01型と市販のPM検査キットについて導入が進められた(4)4) H. Sato: Jpn. J. Tech. Iden., 2, 1 (1997)..英国や米国では複数のSTR座位を同時に分析し,犯罪者のDNAデータベースの構築が始まったことを受け(5)5) J. M. Butler: “DNA鑑定とタイピング”,福島弘文ほか監訳,共立出版,2009, pp. 375–387.,検査手法がSTR型を主とするヒトDNA型鑑定法の時代へと変遷していくことになった.それにあわせて日本でも,2003年からはシーケンサーを使用した自動機器分析へと移行した(6)6) Y. Fujita: Acta Crim. Japon, 77, 131 (2011)..当初は9座位種類のSTR型および性別判定用のアメロゲニン型分析が鑑定に使用され,個人識別能力は最低でも約1,100万人に一人にまで向上し,さらに,未知資料の性別判定も可能となった.その後,2006年に現在と同じ15座位種類のSTR型分析が可能となり,個人識別能力が約4兆7千億人に一人にまで飛躍的に向上した(6)6) Y. Fujita: Acta Crim. Japon, 77, 131 (2011)..このようにヒトDNA型鑑定はその高い個人識別能力,再現性,微量,陳旧あるいは汚染資料からも検査が可能ということ,さらにデータベースを活用した捜査が可能となるなど,著しく発展している(図2図2■個人識別の歴史).
ヒトDNA型鑑定の個人識別能力が飛躍的に向上した一方で,従来では鑑定嘱託されなかった資料の鑑定が急増した.たとえば,実際の犯罪現場で犯人の接触が弱い,あるいは一瞬触れただけといった,いわゆる「タッチサンプル」と呼ばれる潜在的資料である.この「タッチサンプル」は,犯人が無意識のうちに触れたものに残されるため,肉眼で指掌紋と確認はできないものの多くの現場に残されている(7)7) G. Meakin & A. Jamieson: Forensic Sci. Int. Genet., 4, 434 (2013)..このような明確な指掌紋とは判定しにくい痕跡から得られたDNAは,DNA量が100 pgにも満たない「Trace DNA」とも呼ばれ,ヒトDNA型の検出は困難な場合が多い.
また,毛髪資料も犯罪現場から採取される機会が多く,法科学検査では重要な資料の一つである.ヒトの毛髪は1日に約50~150本脱落すると言われており,犯人が無意識のうちに,犯罪現場に遺留する可能性がある(8)8) E. A. M. Graham: Forensic Sci. Med. Pathol., 3, 133 (2007)..しかしヒト頭毛には毛周期があり,犯罪現場に遺留される毛髪のほとんどが休止期(Telogen)のものが抜け落ちた自然脱落毛と呼ばれるものである.そのため,警察における犯罪捜査において利用される毛根からのDNA型検査では,核DNAがほとんど残存していないため,困難な場合が多い(9)9) 佐藤 元:“混入毛髪鑑別法”,株式会社サイエンスフォーラム,2000, p. 93..つまり指掌紋や毛髪資料の多くは,犯罪を立証する客観的証拠としての利用価値が低く,犯罪捜査に有効活用できていない.そこで,この活用の余地がない資料をいかに有効活用するかが,法科学分野での大きな課題の一つである.
前述の指掌紋や毛髪資料から抽出されたTrace DNAを用いてSTR型のPCR増幅を行うと,(1)ヘテロピークの不均衡(ヘテロ接合体のピークバランスが崩れる現象),(2)高スタターピークの出現(メインピークの4 bp前に高ピークの反応副産物が現れる現象),(3)アレルドロップアウトの発生(ヘテロピークの一方が増幅されない現象)および(4)アレルドロップインの発生(非特異的なピークが出現する現象)などが起こりやすい(図3図3■微量DNAを用いた場合の鑑定の問題点).このようなTrace DNAからのDNA型検出率を向上させるためにさまざまな報告があり,最も簡便な方法として,PCRサイクル数を増やす方法が多い.また,PCR増幅効率を上げるため,PCR増幅サイズが短くなるように,プライマーをSTR繰り返し領域に非常に隣接して再設定したMini-STR法の報告がある.ほかにも,PCR感度を向上させるため,PCR反応液量を減らす方法(2)2) 岸紘一郎,滝澤久夫,山本 茂:“法医血清学的検査法マニュアル”,金原出版株式会社,1990, p. 79.やPCR反応液にベタイン等を付加させる方法,Nested PCR法や,サンプルを直接PCR反応液に入れてDNA抽出時のロスをなくすダイレクトPCR法などが検討されている.
しかし,PCRサイクル数の増加は,ヘテロ接合体のピークバランスの不均衡やスタターピークの増加,ローカス間のバランスの悪化など,負の影響が現れることが多い.また一般に,Mini-STR法は検出ローカス数が少ないため得られる情報が少ないばかりか,新しいプライマー結合部位に変異が生じた場合,現在使用する検査キットで検出したSTR型と不一致が生じ,DNA型データベースによる検索時に見落とす可能性がある(10)10) N. Mizuno, T. Kitayama, K. Fujii, H. Nakahara & K. Sekiguchi: Jpn. J. Technol. Iden., 16, 125 (2011)..いずれの改良法も,PCR感度を上げる方法であるため,サンプルに含まれるアレルシグナルが増加するものの,STR型のアーティファクトやバックグラウンドノイズも増加するばかりか,アレルドロップインの発生などの危険性を増強させる恐れがあることも覚えておく必要がある(11)11) A. A. Westen, K. J. Van der Gaag, P. de Knijff & T. Sijen: Int. J. Legal Med., 127, 741 (2013)..
一方で,現場から採取される資料は,屋内や屋外にかかわらず,さまざまな微生物による影響を受け,法医学的検査に影響を及ぼすことが多数報告されている.われわれも過去に,細菌による腐敗・汚染が考えられる資料について鑑定に影響を及ぼした事例について報告した(12, 13)12) E. Nishi, Y. Yamada, T. Ono, Y. Tomisaka, K. Sakai & M. Moriguchi: Jpn. J. Technol. Iden., 11, 9 (2006).13) E. Nishi, K. Sakai & M. Moriguchi: Res. Prac. Forens. Med., 45, 27 (2002)..一つは,殺害後の被害者を夏場の湿土中に約1カ月間遺棄した殺人・死体遺棄事件で,腐敗・屍ろう化した死体が着用していた多量の血痕が付着するTシャツ資料である.ヒトヘモグロビンを指標とした人血検査が陰性になったため,何らかの腐敗細菌の影響が考えられた.血痕から細菌の分離を行ったところ,Bacillus属細菌が分離され,ヒト血液を鑑定するためのタンパク質をターゲットとする人血検査に影響を及ぼすことが確認できた.
また,別の殺人・死体遺棄事件では,犯人の着衣に付着する血痕を鑑定した.血痕の付着状況から汚染や腐敗の影響は考えにくかったが,ABO式血液型検査の結果から,被害者のB型血痕のみが検出されるはずだが,AB型が検出された.そこで細菌汚染を疑い,血痕から細菌を分離したところ,Acinetobacter lwoffiiが分離された.この細菌からはABO式血液型のA型物質が検出され,ヒトB型血痕にA型物質をもつAcinetobacter lwoffiiが付着し,AB型と誤判定されそうになったことが明らかになった(図4図4■細菌叢の法科学鑑定への影響・利用).
細菌叢情報は土砂の異同識別にも応用され,土壌細菌叢のDNAプロファイリングを利用するという全く新しい試みが2002年にHorswellら(14)14) J. Horswell, S. J. Cordiner, E. W. Maas, T. M. Martin, K. B. W. Sutherland, T. W. Speir, B. Nogales & M. Osborn: J. Forensic Sci., 47, 350 (2002).によって初めて報告された.これは靴底や被害者の着衣に残る土砂の痕跡といった,ごく微量の土砂細菌叢を指標として異同識別を行い,犯人と犯罪現場を結びつけるものであった.この手法は,法医学分野におけるヒトDNAプロファイリングの手法に近いため,法科学分野への細菌叢利用の可能性が注目された.
Fiererら(15)15) N. Fierer, C. L. Lauber, N. Zhou, D. McDonald, E. K. Costello & R. Knight: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 6477 (2010).は,細菌叢を用いた個人の異同識別を法医学分野に応用することに取り組んだが,その結果は注目に値するものであった.すなわち,皮膚の細菌叢は時間経過に対して比較的安定しており,パソコンのマウスやキーボードのような日常触れるものから細菌DNAを抽出することができ,さらに使用者との個人の異同識別が可能であることを報告し,法科学分野への細菌情報の新しい応用の可能性を示した.またGoga(16)16) H. Goga: Int. J. Legal Med., 126, 815 (2012).は,事件現場に遺留されることが多い靴の内部とその所有者の異同識別を試みた.すなわち,靴内部から検出した細菌叢を,靴所有者自身の足裏の細菌叢との比較を行った.その結果,靴細菌叢は靴ごとにユニークで,多くの靴細菌叢は所有者の足裏細菌叢と有意に類似していたというものであった.さらにTridicoら(17)17) S. R. Tridico, D. C. Murray, J. Addison, K. P. Kirkbride & M. Bunce: Investig. Genet., 5, 16 (2014).は,頭毛および陰毛資料からのヒトマイクロバイオームの研究結果より,異なる身体の部位間だけでなく,個人間でも細菌叢に重大な違いがあることを示し,特に,陰毛の法科学分野の応用可能性を示した(図4図4■細菌叢の法科学鑑定への影響・利用).
われわれは,鑑定を行う機会が多いものの,必ずしも有効利用されてこなかった指掌紋斑痕と毛髪に着目した.現在のヒトDNA型鑑定では,これらの資料から個人の異同識別が可能なヒトDNAを検出,STR型判定を行うことは困難である.そこで指掌紋および毛髪からの細菌叢プロファイリングによる個人の異同識別を,一般の法科学分野の研究室に広く普及しているキャピラリー電気泳動装置を活用して,主に微生物の16S rRNA遺伝子多型を検出する方法であるT-RFLP(Terminal-Restriction Fragment Length Polymorphism)法で行った(18)18) 中村和憲,関口勇地:“微生物相解析技術”,米田出版,2009, pp. 23–29..
われわれは被験者12名の手掌部を拭き取った綿棒から細菌DNAを抽出・検討を行ったところ(19)19) E. Nishi, Y. Tashiro & K. Sakai: Int. J. Legal Med., 129, 425 (2015).,各被験者から十分量の細菌DNAが得られ,各個人がさまざまな細菌叢プロファイルをもち,個人間より個人内において有意に高い類似性が認められた.また手洗いの有無,左手と右手,朝と夕の採取時間帯および6カ月間の時間経過という,さまざまな異なる採取条件であっても,ほとんどの被験者の細菌叢に変化は見られず,事件後一定期間経過した場合にも利用できる可能性が示された.また,模擬的にガラス板に作成した指掌紋斑痕24例について検証したところ,2例のみが識別困難であったが,そのほかは該当被験者と類似する少人数グループへの帰属が可能であり,鑑定実務にも十分に適用可能であると考えられた(図4図4■細菌叢の法科学鑑定への影響・利用, 図5).
指掌紋斑痕と同様,毛髪資料についてもヒトDNAではなく,そこに付着する細菌叢に注目した(20)20) E. Nishi, K. Watanabe, Y. Tashiro & K. Sakai: Leg. Med., 25, 75 (2017)..そこで,毛髪の細菌叢について,指掌紋斑痕で検討したT-RFLP法を毛髪資料に応用,改変したところ,従来の毛髪検査手法を損ねることなく,ヒトDNA型鑑定とは異なるアプローチで個人の異同識別が可能であることが判明した.すなわち,ヒトDNA型鑑定に必要な毛根部位を除く毛髪1本からでも細菌DNAが抽出され,細菌叢プロファイリングの比較が可能であった.検証した被験者16名の毛髪細菌叢について,各個人内および個人間の類似度の比較を,実験開始直後および6カ月後について検討を行ったところ,14名の被験者に大きな細菌叢の変化は見られず,実際の犯罪捜査のように,犯人逮捕までしばらく時間が経過したような場合であっても個人の異同識別に応用できる可能性が示された.また毛髪細菌叢による個人の異同識別検査の鑑定実務への導入例として,1カ月間未清掃であったわれわれの実験室から採取した模擬現場毛髪22本とその該当者を毛髪細菌叢により比較した.その結果,約72.7%の毛髪は該当被験者と類似する少人数グループへの帰属が可能であり,複数人からの容疑者絞り込みなどに利用できる可能性が示された(図4, 図5図4■細菌叢の法科学鑑定への影響・利用図5■ヒト細菌群集情報を利用した鑑定手法フローチャート).
以上われわれの研究は,ヒトDNA型の判定が困難な資料から細菌叢を利用した個人の異同識別の可能性を示した.細菌叢プロファイリング法は,ヒトDNA型鑑定を妨げず,従来の個人の異同識別法の知見では得ることができなかった新たな科学的証拠を提供するものと考えられる.しかし,指掌紋および毛髪細菌叢のいずれもほとんどの被験者は個人の異同識別が可能であったが,僅かに比較や対照が困難であった被験者も存在した.その詳細な理由は不明であるが,細菌叢の変化は温度,湿度や空気および光の暴露といった環境因子のほかに,潜在的要因として,たとえば抗生物質や抗菌洗剤の使用の有無や石鹸およびシャンプーなどの各種衛生商品の使用における生活習慣の影響が考えられる.あるいは性別や職業,衣類の選別などが影響を与えた可能性もある.これらの例外がランダムに生じるのか,もしくは潜在する生物学的な違いによるものなのかは不明である.これらの点については,細菌叢データベースの拡充,さらにマイクロバイオーム解析による細菌叢構造の正確な分析が可能となれば,明らかにされるかもしれない.またMeadowら(21)21) J. F. Meadow, A. E. Altrichter, A. C. Bateman, J. Stenson, G. Z. Brown, J. L. Green & B. J. M. Bohannan: Peer J., 3, e1258 (2015).は,われわれ人体から空気中に放出された微生物の集合体「微生物雲」には個人特有のパターンあることを報告し,犯罪捜査への新たな鑑定手法を提案している.さらには,現在のヒトSTR型鑑定では識別が困難な一卵性双生児などについても,ヒトマイクロバイオーム解析を利用すれば個人の異同識別の可能性が考えられた.
細菌叢プロファイリング法は,究極の個人識別能力を持つ指紋鑑定と,非常に高い個人識別能力をもつ現在のヒトDNA型鑑定が対処できない問題に対して,有効利用できる可能性を示している.現段階では,現在のヒトDNA型鑑定のような個人の異同識別は行えないが,ヒトマイクロバイオームの研究がさらに進み,かつ次世代シーケンサーによる高解像度の解析が今以上に簡便かつ低価格での実施が可能となれば,T-RFLP法以上の個人の絞り込みが実施可能になると期待される.近い将来,ヒトDNA型鑑定のように,細菌叢プロファイリングを用いた鑑定手法が犯罪捜査の客観的証拠に採用されるとともに,治安の維持・向上につながり,地域住民が安心して暮らせる毎日に貢献できることを期待する.
Reference
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11) A. A. Westen, K. J. Van der Gaag, P. de Knijff & T. Sijen: Int. J. Legal Med., 127, 741 (2013).
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