セミナー室

国産カンキツ類に多いβ-クリプトキサンチンと機能性食品の開発生鮮物で初めての機能性表示食品

Minoru Sugiura

杉浦

農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門

Published: 2017-07-20

はじめに

β-クリプトキサンチンは日本のウンシュウミカン(以下,ミカン)に特徴的に多く含まれているカロテノイド色素である.近年の欧米人を対象にした疫学研究から,β-クリプトキサンチンはカロテノイドのなかでも特に肺がんリスクの低減効果が認められたとする報告が相次ぐなど,β-クリプトキサンチンに際立った新たな生体調節機能がいくつか報告されるようになってきた.当研究部門では,ミカンの摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするために,国内有数のミカン産地である静岡県三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から行ってきた.本稿では,β-クリプトキサンチンの生活習慣病予防効果に関する三ヶ日町研究の知見と機能性表示食品としてのミカンの有用性について紹介する.

カンキツに含まれる機能性成分

カンキツ類は生薬の原料として用いられることからわかるように,生体調節機能を有する成分に富む果実と云える.これまでさまざまな物質がカンキツ類から単離同定され,種々の機能性評価が行われてきた(図1図1■カンキツ類に含まれる主要な機能性成分).カンキツ類に由来する化合物類には,①事実上,カンキツ類にしか見いだされない化合物群があること,②その化合物群はカンキツ類に特有ではないがカンキツ類に特有で特殊な化学構造を有していること,③カンキツ類を特徴づける化合物群があること,などの特徴がある.

図1■カンキツ類に含まれる主要な機能性成分

1. フラボノイド

カンキツ類には,①ルチン・ケルセチンのような一般的なフラボノイド,②ヘスペリジン・ナリンギンのようなカンキツ特有のフラバノン,③ほかの野菜や果実には見られないタンゲレチン・ノビレチンのようなポリメトキシフラボノイドがある.②のグループに分類されるヘスペリジンの毛細血管強化作用や抗酸化作用,がん細胞の増殖阻害作用,循環器系疾患予防作用,抗炎症・抗アレルギー作用が報告されている.また近年の研究から,③のグループに分類されるポリメトキシフラボノイドにはがん細胞の浸潤・転移を抑制する作用,がん細胞のアポトーシスを誘導する作用が明らかとなっている.

2. カロテノイド

カンキツ類は,β-カロテン,β-クリプトキサンチン,ゼアキサンチン,ビオラキサンチンをはじめ多種類のカロテノイドを含んでいる.特にβ-クリプトキサンチンはミカンに圧倒的に多く含まれ,最近ではEBV活性化抑制試験による発がんプロモーションの抑制効果がカロテノイドの中ではトップクラスで,β-カロテンよりも強い活性が認められている.さらに動物実験では,皮膚・大腸・肺などでの発ガン抑制作用が認められている.

3. クマリン

カンキツクマリン類は野菜・果実類に多く含まれ,これまで解毒酵素の誘導作用と原発がん物質との拮抗作用による代謝活性化抑制作用により発がんのイニシエーション段階を抑制することが明らかとなっている.一方,カンキツ特有のクマリン類はこれまでに検討されてきたクマリン類に比べて多様な構造を有しており,特にオーラプテンが解毒酵素の誘導作用と活性酸素産生系の抑制作用の複合的な作用により発がんが抑制されることが明らかになっている.

4. テルペン

カンキツ類にはリモネンをはじめとする多くのモノテルペンを含み,カンキツ特有の芳香はこれらのテルペン類によるものである.リモネンなどによるカンキツ系の香りはアロマテラピーの面から注目され,鎮静化作用やストレスの軽減効果などが明らかにされている.リモネンの発がん抑制効果についても多くの検討が行われている.

5. リモノイド

カンキツ中には配糖体として存在しており,果汁飲料の苦味成分としてのみ認識されてきたが,近年では発がん抑制効果が明らかになり注目を集めている.DMBA/TPAによる発がん誘発系を用いた検討から,肺・胃・口腔内での腫瘍形成を顕著に抑制し,その作用機序として解毒酵素の誘導促進作用が明らかになっている.

これらカンキツ類に含有される機能性成分のなかでも,近年,β-クリプトキサンチンの生体調節機能に関する研究が進展している.β-クリプトキサンチンは日本のミカンに特徴的に含まれるカロテノイド色素であり(図2図2■カンキツ果実中のβ-クリプトキサンチン含有量),近年の欧米人を対象にした疫学研究から,肺がんや糖尿病に対する予防効果など新たな生体調節機能が数多く報告されるようになってきた.しかしながらミカンを食べる習慣を有さない欧米人のβ-クリプトキサンチン摂取量は日本人に比べて極めて微量である.本稿では,農研機構果樹茶業研究部門がミカン産地の住民を対象にして現在取り組んでいる栄養疫学調査(三ヶ日町研究)で得られた,血中β-クリプトキサンチンレベルと疾患リスクとの関連についての知見を紹介する.

図2■カンキツ果実中のβ-クリプトキサンチン含有量

日本人の血中β-クリプトキサンチンレベル

カロテノイドは果物・野菜に多く含まれている天然色素成分で,これまでにおよそ750種類が単離同定されている.ヒトは普段の食生活においてさまざまな食品からカロテノイドを摂取しているが,血中に存在する主要なカロテノイドには,リコペン・α-カロテン・β-カロテン・ルテイン・ゼアキサンチン・β-クリプトキサンチンの6種がある.このうち体内でビタミンAに変換されるのはα-カロテン・β-カロテン・β-クリプトキサンチンの3つでる.

ヒト血中に存在する主要なカロテノイド6種のうちβ-クリプトキサンチンの生体調節機能に関する研究についてはβ-カロテンやリコペンなどに比較して著しく遅れている.β-クリプトキサンチンは日本のミカンに高濃度で含まれるが,わが国のようにミカンを日常的に食す習慣がない諸外国では血中や母乳中のβ-クリプトキサンチン濃度が低く,ほかのカロテノイドほど重要視されなかったのではないだろうか.わが国ではミカンが最も消費量の多い国産果樹であるが,β-クリプトキサンチンの摂取量や血中濃度の高い人が諸外国とは比較にならないほど多いと考えられる.そのため,β-クリプトキサンチンが日本人の健康維持・増進に大きく貢献してきたのではないかと推察される.

われわれはミカン産地の住民を対象にした調査から,血中β-クリプトキサンチンレベルがミカンの摂取頻度に依存して著しく上昇することを報告した(1)1) M. Sugiura, M. Kato, H. Matsumoto, A. Nagao & M. Yano: J. Health Sci., 48, 350 (2002)..β-クリプトキサンチンはミカンに特徴的に多く含まれているが,オレンジにはミカンの10分の1程度以下しか含まれていないため,ミカン産地住民の血中レベルは欧米での報告に比べて極めて高い(図3図3■ミカンの摂取量と血中β-クリプトキサンチン濃度-ミカン産地住民と他の地域との比較).さらにわれわれは血中β-クリプトキサンチン濃度の年内季節変化と食生活習慣との関連について1年間にわたり調査したところ,血中β-クリプトキサンチン濃度に影響する要因は食品ではミカンのみであること,またミカンの摂取量以外の要因では,年齢・性・喫煙習慣・飲酒習慣・肥満度が影響していることを明らかにした(2)2) M. Sugiura, M. Hikaru, M. Kato, Y. Ikoma, M. Yano & A. Nagao: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 50, 196 (2004)..また2カ月前のミカン摂取量も有意に影響していることから,β-クリプトキサンチンの体内における半減期が極めて長いことが推察された.

図3■ミカンの摂取量と血中β-クリプトキサンチン濃度-ミカン産地住民と他の地域との比較

三ヶ日町研究からの知見

三ヶ日町研究は2003年に開始した第1次調査と2005年から開始した第2次調査からなるコホートで,総計1,073名の協力者からなる.これまでの調査開始時に収集したベースラインデータを用いた横断解析の結果から,ミカンをよく食べ血中β-クリプトキサンチンレベルが高い人では,①飲酒による肝機能障害のリスク(3)3) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: J. Epidemiol., 15, 180 (2005).,②高血糖による肝機能障害リスク(4)4) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: Diabetes Res. Clin. Pract., 71, 82 (2006).,③動脈硬化のリスク(5)5) M. Nakamura, M. Sugiura & N. Aoki: Atherosclerosis, 184, 363 (2006).,④インスリン抵抗性(インスリンの働きが悪くなる状態)のリスク(6)6) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: J. Epidemiol., 16, 71 (2006).,⑤閉経女性での骨粗しょう症のリスク(7, 8)7) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, F. Ando & M. Yano: Osteoporos. Int., 19, 211 (2008).8) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, F. Ando, H. Shimokata & M. Yano: Osteoporos. Int., 22, 143 (2011).,⑥メタボリックシンドロームのリスク(9)9) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, H. Matsumoto, F. Ando, H. Shimokata & M. Yano: Br. J. Nutr., 100, 1297 (2008).,⑦喫煙・飲酒による酸化ストレスのリスク(10)10) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, H. Matsumoto, F. Ando, H. Shimokata & M. Yano: Br. J. Nutr., 102, 1211 (2009).などが有意に低いことが明らかになっている.これらの研究は,結果(病気の有無)と原因(ミカンや血中β-クリプトキサンチン)を同時に調査解析しているので,結果が先なのか原因が先なのかは不明であり,ただ相関が確認されたに過ぎない(横断研究の限界).そのため,β-クリプトキサンチンが病気を予防したのかを明らかにするためには,次に縦断研究により検討する必要がある.つまり健康な人だけを選び出し,その後何年間も追跡調査を行い,その人たちの病気の発症率がミカンをよく食べていた人とそうでない人とでどのような差がでるかを比較検証する必要がある.三ヶ日町研究では開始当初から10年間の追跡調査を目標にして,ベースライン調査以降も協力者の健康状態の変化を毎年調べるという作業を繰り返し取り組んできた.そして10年間の追跡調査から数々の新たな知見が得られた.

1. 閉経女性での骨粗しょう症の発症リスクとβ-クリプトキサンチンの関係

三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプトキサンチンレベルが高い閉経女性では有意に骨密度が高いことがすでに判明している(7, 8)7) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, F. Ando & M. Yano: Osteoporos. Int., 19, 211 (2008).8) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma, F. Ando, H. Shimokata & M. Yano: Osteoporos. Int., 22, 143 (2011)..そこでベースライン調査の時点で骨粗しょう症を有さない人だけを対象に追跡調査を行ったところ,血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは,低濃度のグループを1.0とした場合0.08となり,統計的に有意に低い結果であった(図4図4■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た4年間での骨粗しょう症発症リスク).またこの関連は,ビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意であった.同様にβ-カロテンにおいても血中濃度が高いグループほど発症リスクが低くなる傾向が認められたが,有意な結果ではなかった(11)11) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: PLOS ONE, 7, e52643 (2012)..またβ-クリプトキサンチンによる骨粗しょう症の発症リスク低下にはビタミンC摂取量の関与も大きいことが判明した(12)12) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: J. Nutr. Sci. Vitaminol. (Tokyo), 62, 185 (2016).

図4■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た4年間での骨粗しょう症発症リスク

2. 2型糖尿病の発症リスクとβ-クリプトキサンチンの関係

インスリン抵抗性はインスリン分泌低下とともに,糖尿病の発症や状態に大きくかかわっており,特にインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)患者で重要な病態である.現在糖尿病でなくてもインスリン抵抗性が高い人ではそうでない人に比べて糖尿病に罹る率が高くなることが近年の疫学研究から明らかとなっており,またインスリンの過剰な分泌は血圧の上昇や脂質代謝の異常も引き起こし,動脈硬化を引き起こす原因にもなる.これまで三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者ではインスリン抵抗性のリスクが有意に低いことが明らかになっている(6)6) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: J. Epidemiol., 16, 71 (2006)..そこで調査開始時にすでに糖尿病(空腹時血糖値が126 mg/dL以上)であった被験者を除き,調査開始時の血中β-クリプトキサンチン値と2型糖尿病の発症リスクとの関連について調べたところ,血中β-クリプトキサンチン濃度が高かったグループでは低かったグループに比べて2型糖尿病の発症リスクが約57%低くなることがわかった(13)13) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: BMJ Open Diabetes Res. Care, 3, e000147 (2015).図5図5■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た2型糖尿病の発症リスク).

図5■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た2型糖尿病の発症リスク

果物はその甘さゆえに高糖・高カロリーと誤解されることが多く,糖尿病には良くないと捉えられることが多いが,実際には大半が水分であり,むしろ低カロリー食品と言える.β-クリプトキサンチンの豊富なミカンを積極的に食べることで糖尿病の予防につながるかもしれないたいへん貴重な知見と言える.

3. 肝機能異常症の発症リスクとβ-クリプトキサンチンの関係

これまで三ヶ日町研究の横断研究から,血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者では,飲酒が原因による血中γ-GTP高値のリスク(3)3) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: J. Epidemiol., 15, 180 (2005).,および高血糖者での血中ALT値高値のリスク(4)4) M. Sugiura, M. Nakamura, Y. Ikoma, M. Yano, K. Ogawa, H. Matsumoto, M. Kato, M. Oshima & A. Nagao: Diabetes Res. Clin. Pract., 71, 82 (2006).が有意に低いことがこれまでに明らかになっている.そこでベースライン調査の時点で肝機能が正常な被験者を対象にその後10年間にわたり追跡調査を行った.その結果,ベースライン時の血中β-クリプトキサンチンレベルが高かったグループでは,肝機能異常症(血中高ALT値)の発症リスクが約49%低下することが判明した(14)14) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Br. J. Nutr., 115, 1462 (2016).図6図6■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た肝機能異常症の発症リスク).

図6■血中β-クリプトキサンチンレベル別に見た肝機能異常症の発症リスク

4. その他の知見

上記以外にも,ベースライン時に血中β-クリプトキサンチンレベルが高かった者では,上腕–下肢動脈間の脈波速度で評価した動脈硬化の発症リスク,また脂質代謝異常症の発症リスク等が有意に低下することが明らかになった(15, 16)15) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Br. J. Nutr., 114, 1674 (2015).16) M. Nakamura, M. Sugiura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis., 26, 808 (2016)..β-クリプトキサンチンの豊富なミカンの摂取は,これら生活習慣病の発症リスク低下に有効である可能性が示唆された.

機能性表示食品としてのミカン

平成27年4月より,消費者庁において「新たな食品の機能性表示制度」が開始された.本制度ではミカンなどの生鮮物にもその科学的根拠を示せれば事業者の責任で機能表示が可能になり,今後,生鮮物の消費拡大のための大きな起爆剤になることが期待されている.

本制度のガイドライン(機能性表示食品の届出等に関するガイドライン平成27年3月30日制定(消食表第141号)平成28年3月31日改正(消食表第234号))では(17)17) 消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン,平成27年3月30日制定(消食表第141号)平成28年3月31日改正(消食表第234号).,「サプリメント形状の加工食品を販売しようとする場合は,摂取量を踏まえた臨床試験で肯定的な結果が得られていること,また,その他加工食品及び生鮮食品を販売しようとする場合は,摂取量を踏まえた臨床試験又は観察研究で肯定的な結果が得られている必要がある.ただし,観察研究については原則として縦断研究(前向きコホート研究や症例対照研究等)のみを対象とする.観察研究のうち,横断研究については因果の逆転が生じやすいため,横断研究を用いる場合は原則として,機能性関与成分による臨床試験との組み合わせ等により機能性を実証することが求められる.」とされている.つまり果物・野菜などの生鮮物では疫学研究で肯定的な結果が得られていれば,機能性表示食品として販売できることになる.生鮮物としてのミカン,あるいは100%果汁などの一次加工品については,これまで蓄積されてきた数多くの科学的知見により,本制度への申請が可能になる.今回の表示制度では当初からミカンが最も可能性の高い生鮮食品と期待されており,静岡県浜松市のJAみっかびでは早くから,「骨の健康維持に役立つ」というヘルスクレームでの申請に向けて準備が行われた.

1. ミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量

興津早生および青島温州ミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量について,特秀・秀・優・良の4等級を分析した結果,いずれもβ-クリプトキサンチン含有量は正規分布を示した.等級の高いミカン程糖度は高く,またβ-クリプトキサンチン含有量も有意に高いことがわかった(表1表1■興津早生のβ-クリプトキサンチン含有量).糖度とβ-クリプトキサンチン含有量の相関分析を行ったところ,有意な正相関を示した(図7図7■β-クリプトキサンチン含有量と糖度との関係: r=0.687, p<0.001).現在,多くのミカン産地では光センサー非破壊選果機が導入されているが,光センサーによる糖度選別はβ-クリプトキサンチン含有量を全数検査することにほぼ等しいと考えられ,光センサー選果機による選果がβ-クリプトキサンチン含有量の保証に有効であることが判明した.

表1■興津早生のβ-クリプトキサンチン含有量
等級含有量(mg/100 g)糖度(Brix)
特秀平均1.8012.5
標準偏差0.150.5
平均1.6811.4
標準偏差0.160.4
平均1.5410.9
標準偏差0.220.6
平均1.299.8
標準偏差0.140.4

図7■β-クリプトキサンチン含有量と糖度との関係

現在,全国の主要な産地におけるミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量について調査を行っているが,ミカンであれば品種にかかわらずどの産地のミカンでも一定量以上のβ-クリプトキサンチンが含まれること,またその重量当たりの含有量(mg/100 g)は糖度と高い相関関係にあり(相関係数r=0.7242, p<0.001),果実の大きさとは有意に関連しないことも明らかになった.そのため,糖度が一定基準より低いミカンを規格外として除外することにより,機能性表示の対象となる商品のβ-クリプトキサンチン含有量を担保することが可能になる.

JAみっかび産の興津早生および青島温州を機能性表示食品として消費者庁に申請するため,1日当たりどれくらいの量のミカンを摂取すれば骨代謝への効果が期待できる3 mgのβ-クリプトキサンチンを摂取できるかについて検討したところ,最もβ-クリプトキサンチン含有量の低い興津早生の良品でも可食部として270 g(中心階級のMサイズをおよそ3個)摂取すれば3 mgのβ-クリプトキサンチンを摂取できることがわかった(表2表2■興津早生ミカン270 g当たりのβ-クリプトキサンチン含有量と95%下限値).興津早生の良品よりも糖度の高い等級(優・秀・特秀),および青島温州(すべての等級)にはいずれもより多くのβ-クリプトキサンチンを含有していることから,JAみっかび産のすべてのミカン(興津早生および青島温州のすべての等級)を機能性表示食品として申請可能であることがわかった.

表2■興津早生ミカン270 g当たりのβ-クリプトキサンチン含有量と95%下限値
特選品秀品優品良品
平均値4.854.544.173.49
標準偏差0.190.190.250.16
95%下限値4.574.223.753.22

通常,生鮮農産物中の機能性成分含有量はその栽培条件や収穫時期,産地で異なり,また貯蔵・流通段階でも変動することが予想され,その含有量を保証することは極めて難しいことが予想される.ミカン中のβ-クリプトキサンチンのように,機能性関与成分の含有量が非破壊センサーなどで推定できる指標と相関する場合は含有量の保証も比較的容易であるが,そうでない場合であっても一定量のサンプリング検査を実施することで統計学的にその含有量を保証することは可能である.農林水産省のホームページ上で,農林水産物の機能性表示に向けた技術的対応として,サンプリング検査の方法について詳細な解説が公開されているので参照されたい(18)18) 農林水産省技術会議:農林水産物の機能性表示に向けた技術的対応について,http://www.s.affrc.go.jp/docs/kinousei_pro/reference.htm

2. 生鮮物では初めての機能性表示食品として受理

JAみっかびから申請した「三ヶ日みかん」が,2015年9月8日に生鮮物では初めて機能性表示食品として消費者庁に登録された(受付番号A79).2015年の早生ミカンから,段ボールなどの包装資材に「本品にはβ-クリプトキサンチンが含まれています.β-クリプトキサンチンは骨代謝の働きを助けることにより骨の健康に役立つことが報告されています」と表記して販売が開始している.また加工品についても(株)えひめが開発したβ-クリプトキサンチン高含有ミカン果汁「POMアシタノカラダ」も機能性表示食品として登録された(受付番号A105).その後,各産地での取り組みも広がり,2017年6月の時点で,生鮮物のミカンではJAみっかび以外にもJAとぴあ浜松,JA清水,JA南駿が受理登録されている.また100%果汁飲料で2件,サプリメント形状の加工食品では2件が受理登録されている.本表示制度を活用することで,今後さらに,機能性を有する生鮮農作物の消費拡大につながることが期待される.

おわりに

現在,各産地におけるミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量について調査を行っているが,産地間および品種間において多少の差は認められるものの,早生および晩生品種であればミカン3個程度で十分な量のβ-クリプトキサンチンを摂取できることが明らかとなり,いずれも機能性表示食品として申請できることがわかってきた.糖度が低い極早生品種については優品などの等級の高いミカンに限り申請が可能と考えられる.光センサー選果機による選別を行うことでβ-クリプトキサンチン含有量を保証することが可能であり,光センサー選果機が導入されている産地のミカンであれば機能性表示食品として申請が可能であると考えられる.また光センサー選果機が導入されていない産地でも,一定量のサンプリング試験を行えば機能性表示食品としての申請は十分に可能と考えられる.また三ヶ日町研究の10年後調査から,骨粗しょう症以外にも糖尿病や肝機能異常症,脂質代謝異常症,動脈硬化症などについてもリスク低下が明らかになっており,今後さらに幅広いヘルスクレームが可能になると期待される.本表示制度を積極的に活用することで,今後さらにミカンの消費拡大につながることを期待したい.

Reference

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16) M. Nakamura, M. Sugiura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis., 26, 808 (2016).

17) 消費者庁:機能性表示食品の届出等に関するガイドライン,平成27年3月30日制定(消食表第141号)平成28年3月31日改正(消食表第234号).

18) 農林水産省技術会議:農林水産物の機能性表示に向けた技術的対応について,http://www.s.affrc.go.jp/docs/kinousei_pro/reference.htm