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植物免疫における活性酸素生成誘導のしくみ植物はいかにして病原菌から身を護るのか?

Hiroaki Adachi

安達 広明

名古屋大学大学院生命農学研究科

Hirofumi Yoshioka

吉岡 博文

名古屋大学大学院生命農学研究科

Published: 2017-08-20

植物免疫において,スーパーオキシドアニオン(O2),過酸化水素(H2O2)などの活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)は,標的タンパク質を酸化することで機能を調節する重要なシグナル分子として知られる.植物は,病原菌の基本的な構成成分の分子パターンや,病原菌が免疫応答を抑制するために分泌するエフェクター分子を認識し,それぞれPTI(pattern-triggered immunity)やETI(effector-triggered immunity)と総称される2段階の免疫応答を誘導する.一般に,PTIは一過的で強度の弱い抵抗反応であるのに対し,ETIは過敏感反応(hypersensitive response; HR)細胞死を伴う持続的で強固な抵抗反応ある.両応答においてROS生産は誘導されるが,その生産パターンは特徴的で,病原菌感染直後に一過的に誘導される“PTI-ROSバースト”と,感染数時間後に持続的に誘導される“ETI-ROSバースト”の2種類に分けられる.さらに,ETI-ROSバーストは,細胞死に先行して誘導されることが知られている.それでは,それらROS生産のタイミングやパターンはどのように制御されているのだろうか.現在までに,免疫応答時のROSは,細胞膜局在型NADPHオキシダーゼであるRBOH(respiratory burst oxidase homolog)により産生されることがわかっている.本稿では,RBOHの制御機構について最新の知見も含めて紹介する.

RBOHの制御には転写制御と翻訳後修飾の2つのしくみが知られている(1)1) H. Adachi & H. Yoshioka: Brief. Funct. Genomics, 14, 253 (2015).RBOHの転写制御の例として,ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)のNbRBOHBは,ジャガイモ疫病菌のエリシタータンパク質であるINF1に応答し,発現が強く誘導される(2)2) H. Yoshioka, N. Numata, K. Nakajima, S. Katou, K. Kawakita, O. Rowland, J. D. G. Jones & N. Doke: Plant Cell, 15, 706 (2003)..INF1はPTI-ROSバーストを誘導するのみならずETI-ROSバーストも誘導することが知られており,NbRBOHBをノックダウンするとその両方が抑制されることから,NbRBOHBはPTIとETIの両方のROS生産に必要であることがわかる(2, 3)2) H. Yoshioka, N. Numata, K. Nakajima, S. Katou, K. Kawakita, O. Rowland, J. D. G. Jones & N. Doke: Plant Cell, 15, 706 (2003).3) S. Asai, K. Ohta & H. Yoshioka: Plant Cell, 20, 1390 (2008)..PTIおよびETIにおけるNbRBOHBの発現パターンが詳細に調査され,PTIではNbRBOHBの発現は低く保たれる一方で,ETIでは顕著な発現量の上昇が見られることが示された(4)4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015)..それでは,ETIにおいてNbRBOHBの転写レベルが増加することの生物学的意義は何であろうか.前述のとおり,ETI-ROSバーストとは持続的なROS生産であり,それを可能にするにはRBOHタンパク質の新規供給が必要であると考えられる.実際に,RNAポリメラーゼIIの阻害剤であるα-アマニチンで処理すると,PTI-ROSバーストは抑制されない一方で,INF1による持続的なROSバーストは顕著に抑制される(4)4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015)..この実験結果は,RBOHの転写制御がROS生産のパターンを決定づける一つの要因であることを支持している.

NbRBOHBの転写制御機構を解析するためには,そのプロモーターの活性を調節する転写因子を同定することが必要不可欠である.これまでに,病害応答性MAPKをノックダウンした植物ではINF1によるNbRBOHBの発現誘導が抑制されること,上流MAPKキナーゼの恒常活性型変異体を導入した植物ではNbRBOHBの発現およびROSバーストが誘導されることが報告されている(3)3) S. Asai, K. Ohta & H. Yoshioka: Plant Cell, 20, 1390 (2008)..MAPKカスケードによってNbRBOHBの発現が制御されることに注目し,NbRBOHBプロモーターの活性を調節する転写因子のスクリーニングが行われた.病害応答性MAPKの下流では,WRKY型転写因子が防御関連遺伝子群の発現を正に制御することが知られている.近年,病害応答性MAPKによるWRKY型転写因子のリン酸化が分子レベルで明らかにされ,リン酸化モチーフ(SPクラスター)が見いだされている(5)5) N. Ishihama, R. Yamada, M. Yoshioka, S. Katou & H. Yoshioka: Plant Cell, 23, 1153 (2011)..SPクラスターは,グループI型のWRKYサブファミリーに高度に保存されており,それらはMAPKの基質となることが推測された(6)6) N. Ishihama & H. Yoshioka: Curr. Opin. Plant Biol., 15, 431 (2012)..SPクラスターを指標としたin silicoスクリーニングによって,変異体解析で得られない機能重複が予想される因子を単離することができると考えられた.実際に,複数のWRKY遺伝子が免疫応答に重要な転写因子として得られた.アグロバクテリウムを介した一過的発現系により,得られたWRKYの機能を評価したところ,NbRBOHBの発現を促進する4つのWRKYが同定された(4)4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015)..また,NbRBOHBプロモーターには,WRKYが特異的に結合するW-boxが保存されており,プロモーター解析によってそれら4つのWRKYが直接NbRBOHBプロモーターに結合し,転写制御することが明らかにされた(4)4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015)..さらに,それらのWRKY遺伝子を同時にノックダウンすると,PTI-ROSバーストは抑制されない一方で,ETIシグナル依存的なNbRBOHBの発現,ROS生産は抑制された(4)4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015)..以上の結果は,ETIにおける持続的なROSバーストには,MAPK-WRKY経路を介したNbRBOHBの転写誘導が必要であることを示している(図1図1■免疫応答時のROS生産機構).最近になって,シロイヌナズナにおいても,NbRBOHBのオルソログであるAtRBOHDのプロモーター解析が行われ,プロモーターを調節する転写因子は不明であるものの,制御シス配列としてW-boxが推測されている(7)7) J. Morales, Y. Kadota, C. Zipfel, A. Molina & M. A. Torres: J. Exp. Bot., 67, 1663 (2016)..したがって,免疫応答におけるRBOHの転写制御機構は,植物種間で広く保存されている可能性が高い.

図1■免疫応答時のROS生産機構

RBOHの活性は,N末端領域のリン酸化や,カルシウムイオンおよび相互作用因子の結合など,翻訳後修飾によって制御されると多数報告されている.RBOH遺伝子を過剰発現させても恒常的なROS生産は認められないことから,RBOHは転写制御の後に翻訳後修飾を受けることで,活性化のタイミングを適切に制御されているといえる.特にPTI-ROSバーストを誘導する際は,受容体コンプレックスの構成因子であるRLCK(receptor-like cytoplasmic kinase)がRBOHを直接リン酸化するなど,迅速な活性化システムが構築されている(8)8) Y. Kadota, J. Sklenar, P. Derbyshire, L. Stransfeld, S. Asai, V. Ntoukakis, J. D. G. Jones, K. Shirasu, F. Menke, A. Jones et al.: Mol. Cell, 54, 43 (2014)..また,RLCK以外にも,CDPK(calcium-dependent protein kinase)やCBL(calcineurin B-like protein)/CIPK(calcineurin B-like interacting protein kinase)はPTI, ETIに共通してRBOHのリン酸化に寄与することが知られている(9, 10)9) M. Kobayashi, I. Ohura, K. Kawakita, N. Yokota, M. Fujiwara, K. Shimamoto, N. Doke & H. Yoshioka: Plant Cell, 19, 1065 (2007).10) F. de la Torre, E. Gutiérrez-Beltrán, Y. Pareja-Jaime, S. Chakravarthy, G. B. Martin & O. del Pozo: Plant Cell, 25, 2748 (2013)..ETIにおけるRBOHの活性化機構は依然として不明な点が多く,今後さらにリン酸化酵素群のPTI, ETIにおける機能を解析することで,植物の巧妙なRBOH制御機構の全貌が明らかになるであろう.

Acknowledgments

本稿で紹介した筆者らの研究の一部は,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構生物系特定産業技術研究支援センター)によって実施されました.

Reference

1) H. Adachi & H. Yoshioka: Brief. Funct. Genomics, 14, 253 (2015).

2) H. Yoshioka, N. Numata, K. Nakajima, S. Katou, K. Kawakita, O. Rowland, J. D. G. Jones & N. Doke: Plant Cell, 15, 706 (2003).

3) S. Asai, K. Ohta & H. Yoshioka: Plant Cell, 20, 1390 (2008).

4) H. Adachi, T. Nakano, N. Miyagawa, N. Ishihama, M. Yoshioka, Y. Katou, T. Yaeno, K. Shirasu & H. Yoshioka: Plant Cell, 27, 2645 (2015).

5) N. Ishihama, R. Yamada, M. Yoshioka, S. Katou & H. Yoshioka: Plant Cell, 23, 1153 (2011).

6) N. Ishihama & H. Yoshioka: Curr. Opin. Plant Biol., 15, 431 (2012).

7) J. Morales, Y. Kadota, C. Zipfel, A. Molina & M. A. Torres: J. Exp. Bot., 67, 1663 (2016).

8) Y. Kadota, J. Sklenar, P. Derbyshire, L. Stransfeld, S. Asai, V. Ntoukakis, J. D. G. Jones, K. Shirasu, F. Menke, A. Jones et al.: Mol. Cell, 54, 43 (2014).

9) M. Kobayashi, I. Ohura, K. Kawakita, N. Yokota, M. Fujiwara, K. Shimamoto, N. Doke & H. Yoshioka: Plant Cell, 19, 1065 (2007).

10) F. de la Torre, E. Gutiérrez-Beltrán, Y. Pareja-Jaime, S. Chakravarthy, G. B. Martin & O. del Pozo: Plant Cell, 25, 2748 (2013).