解説

腸管IgA抗体による腸内細菌制御のメカニズムIgA抗体は腸管内でなにをしている?

Control Mechanism of the Intestinal Bacteria by IgA Antibody

Fumihito Usui

臼井 文人

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科応用免疫学

Reiko Shinkura

新藏 礼子

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科応用免疫学

Published: 2017-08-20

腸管内には多種多様な細菌が常に生息し,通常,宿主と平和的な共生関係を築いている.しかし,この共生関係が崩れると,炎症性腸疾患や肥満,糖尿病をはじめとする生活習慣病,大腸がんなど各種疾患の発症につながるため,腸内環境を恒常的に維持することは健康維持に重要である.一方,腸管内に分泌されるIgA抗体は粘膜面の病原菌防御だけでなく腸内常在細菌の制御にも重要であり,それらの共生関係の維持にも極めて重要であると考えられる.しかし,具体的にIgA抗体が腸内細菌をどのように認識し制御するかは明らかになってはいなかった.そこで今回,私たちはマウスの腸管由来モノクローナルIgA抗体を単離して,腸管IgA抗体による腸内細菌制御のメカニズムの一部を明らかにした.

はじめに

生体にとって腸管粘膜面は,常に多種多様な腸内常在細菌やウイルス,各種化学物質,また食物などの腸管内異物にさらされている.腸内常在細菌は,腸内で細菌叢を形成し,腸上皮細胞などから粘膜面を介して,生体に対してさまざまな機能を果たしていることが明らかになってきている.また,腸内細菌が存在しないと腸管免疫系が正常に発達しないことも明らかになってきた(1~3)1) C. N. Bensussan & G. V. Routhian: Nat. Rev. Immunol., 10, 735 (2010).2) L. V. Hooper & A. J. Macpherson: Nat. Rev. Immunol., 10, 159 (2010).3) J. L. Round & S. K. Mazmanian: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 12204 (2010)..腸管粘膜組織表面は,腸内常在細菌はもとより,病原性微生物やアレルゲンなどの抗原の生体内への侵入経路の一つであるが,これらの抗原に対する認識と応答を担っているのが,腸管免疫系である.腸内細菌叢と宿主は共生関係を築いており,この共生関係が崩れると,腸管免疫系が過剰に刺激されることにより炎症性腸疾患や大腸がん,アレルギー,喘息,肥満などといった多くの疾患が誘発される(4, 5)4) A. G. Jack et al.: Nature, 535, 94 (2016).5) M. V. Kumar et al.: Science, 328, 228 (2010)..つまり,腸管免疫系は病原体などを排除するだけではなく,腸内環境の維持に重要な役割を担っていると言える.その腸管免疫系の中で主要な要素の一つであるIgA抗体がこの2つの機能を担っている(6)6) P. Brandtzaeg: Front. Immunol., 4, 222 (2013)..腸管粘膜固有層から腸管腔に分泌されたIgA抗体は,腸管腔内で病原菌やその毒素と結合し中和したり,あるいは,粘膜固有層内に侵入した病原体と結合することで体外に排出する.そのIgA抗体の機能で特徴的なことは,全身免疫系の抗体反応とは異なり,敵を殺すための炎症反応を起こさずに静かに敵を排除して防御を行うことである(7~9)7) M. I. Fernandez, T. Pedron, R. Tournebize, J. C. Olivo-Marin, P. J. Sansonetti & A. Phalipon: Immunity, 18, 739 (2003).8) C. Martinoli, A. Chiavelli & M. Rescigno: Immunity, 27, 975 (2007).9) S. Boullier, M. Tanguy, K. A. Kadaoui, C. Caubet, P. Sansonetti, B. Corthésy & A. Phalipon: J. Immunol., 183, 5879 (2009)..さらに,腸管由来のIgA抗体は病原菌だけではなく腸内常在細菌も認識してそれらと結合し,腸内常在細菌と宿主との共生関係を維持している.このように,IgA抗体は,単に腸管腔内に分泌されるだけではなく,腸管粘膜上皮細胞上のムチン層内でも維持され,腸内常在細菌の腸管粘膜上皮細胞への接触や侵入を防いで,腸管免疫系が過剰に刺激されないように調節しているとも考えられている(10~12)10) A. Phalopon et al.: Immunity, 17, 107 (2002).11) A. J. Macpherson & T. Uhr: Science, 303, 1662 (2004).12) N. W. Palm, M. R. de Zoete, T. W. Cullen, N. A. Barry, J. Stefanowski, L. Hao, P. H. Degnan, J. Hu, I. Peter, W. Zhang et al.: Cell, 158, 1000 (2014).

しかし,腸管IgA抗体が腸内細菌の何を認識し,また腸内細菌に結合することでどのような作用を及ぼすのかは明らかではなかった.そこで私たちは,マウスの小腸由来IgA産生細胞からハイブリドーマを作製し,一つひとつのIgA抗体がどのような腸内細菌に結合するのか,また腸内細菌のどのような分子を認識するのかを明らかにすることで,腸管IgA抗体による腸内細菌制御のメカニズムを理解できると考えた.

多種多様な腸内細菌に対して高親和性であるIgA抗体の重要性

さまざまな抗原から生体を守るために,私たちの免疫細胞の抗体遺伝子では体細胞突然変異とクラススイッチが起きている.体細胞突然変異は,抗体遺伝子の抗原結合部位に変異を入れることにより結合部位の微調整を行い,抗原に対して高親和性,つまり,より強く結合する抗体を産生するための機構である.クラススイッチは,抗体の抗原認識能力は変化させずに抗体分子の定常領域の構造を変化させ,IgM抗体からIgG抗体,IgA抗体,IgE抗体に変化させる機構で,抗体の攻撃力を変化させる.これら2つの機構が組み合わさることにより,多様な抗原結合部位を有する多くの種類の抗体が産生され,私たちの体は病原菌などから守られている.この体細胞突然変異とクラススイッチが起こるには,共にActivation-induced cytidine deaminase(AID)タンパク質が必要であり,AIDタンパク質のN末端側が体細胞突然変異に関与し,C末端側がクラススイッチに関与していることが知られている(13, 14)13) R. Shinkura, S. Ito, N. A. Begum, H. Nagaoka, M. Muramatsu, K. Kinoshita, Y. Sakakibara, H. Hijikata & T. Honjo: Nat. Immunol., 5, 707 (2004).14) V. T. Ta, H. Nagaoka, N. Catalan, A. Durandy, A. Fischer, K. Imai, S. Nonoyama, J. Tashiro, M. Ikegawa, S. Ito et al.: Nat. Immunol., 4, 843 (2003).

私たちは,腸管に存在するIgA抗体の体細胞突然変異の有無が腸内細菌の認識にどのような影響を及ぼすかを調べるために,G23SマウスとAIDノックアウトマウスを使用した.G23Sマウスは,AIDタンパク質のN末端から23番目のアミノ酸であるグリシンをセリンに変化させた変異AIDタンパク質をもつマウスである.この変異により,抗体のクラススイッチは正常に起きるが体細胞突然変異だけが障害される.したがって,G23Sマウスは腸管内にIgA抗体を十分量産生するが,体細胞突然変異が起きていないIgA抗体,つまり結合力の弱いIgA抗体が腸管内に存在するということになる.一方,AIDノックアウトマウスはAIDをもたないために腸管内にIgA抗体が分泌されず,腸管内に体細胞突然変異が起きていないIgM抗体がごく少量しか存在していない状況になる.そこで,まずG23SマウスとAIDノックアウトマウスの小腸を観察したところ,小腸のパイエル板胚中心の肥大化が見られた.パイエル板とは小腸に存在するリンパ組織で,腸内への異物の侵入を感知すると,T細胞やB細胞に異物の排除を指令する器官である.パイエル板にある胚中心B細胞が抗原刺激を受けた後に,抗体にクラススイッチと体細胞突然変異が起きる場である.以前の研究では,抗生剤経口投与により腸内常在細菌を減少させると,G23SマウスとAIDノックアウトマウスの小腸のパイエル板胚中心B細胞数が減少した(15, 16)15) M. Wei, R. Shinkura, Y. Doi, M. Maruya, S. Fagarasan & T. Honjo: Nat. Immunol., 12, 264 (2011).16) S. Fagarasan, M. Muramatsu, K. Suzuki, H. Nagaoka, H. Hiai & T. Honjo: Science, 298, 1424 (2002)..したがって,小腸のパイエル板胚中心の肥大化は腸内細菌による宿主免疫系への過剰刺激が原因であると考えられた.IgA抗体を産生するG23Sマウスでも胚中心B細胞数の減少が見られたことから,腸内常在細菌による免疫系への過剰刺激を抑えるには,ただ腸管内にIgA抗体が存在していれば良いのではなく,結合力の高いIgA抗体が重要であることが示された.また,コレラ毒素に暴露されていないマウスにコレラ毒素を経口投与した実験では,体細胞突然変異が起こらずIgA抗体も存在しないAIDノックアウトマウスはコレラ毒素に対する致死率が非常に高かった.つまり,IgA抗体はコレラ毒素の防御に極めて重要であると思われる.しかし,IgA抗体を十分量産生するG23Sマウスと野生型マウスを比較するとコレラ毒素に対する致死率がG23Sマウスで有意に高かったことから,G23Sマウスは体細胞突然変異が起こらず高親和性の抗体が存在しないことがその原因であると考えられる.また,野生型マウスのIgA抗体の中には突然変異が起きることで複数の細菌を認識することができて,さらに強く結合するIgA抗体が存在しておりコレラ毒素の中和に役立ったのではないかと示唆された(15)15) M. Wei, R. Shinkura, Y. Doi, M. Maruya, S. Fagarasan & T. Honjo: Nat. Immunol., 12, 264 (2011).

これらのことより,多種類の腸内常在細菌を制御するためには特定の病原菌に特異的に強く結合するIgA抗体だけではなく,多種類の細菌に対して反応性を示しかつ強い結合力を示すIgA抗体が必要であると考えられた.

W27 IgA抗体は善玉菌と悪玉菌を識別

私たちは,腸管由来のモノクローナルIgA抗体を作製することで腸管IgA抗体の特異性を調べることができると考えた.免疫を行っていない野生型マウスであっても,常に免疫系は腸内常在細菌により刺激を受けており,腸内常在細菌に対する腸管IgA抗体が存在していると考えられる.そこで,野生型マウスの小腸粘膜固有層の腸管IgA産生細胞から多くのハイブリドーマを作製し,そのなかで,16種類のハイブリドーマIgA抗体を選び,培養可能な腸内常在細菌14種類に対しての結合性を調べた.その結果,多くのモノクローナルIgA抗体が多種類の細菌に対して結合することがわかった(17)17) S. Okai, F. Usui, S. Yokota, Y. Hori-I, M. Hasegawa, T. Nakamura, M. Kurosawa, S. Okada, K. Yamamoto, E. Nishiyama et al.: Nat. Microbiol., 1, 16103 (2016).が,それらのなかで,高産生される抗体の4クローンを選び,Escherichia coliLactobacillus caseiに対する結合力を比較した(図1図1■マウス腸管由来W27 IgA抗体の腸内細菌に対する結合力).その結果,W27 IgAと命名した抗体はほかのIgA抗体と比較して,E. coliに対して,最も強い結合力を示した.また,E. coli以外にもPseudomonas fulvaStaphylococcus lentus, Prevotella melaninogenica,偽膜性大腸炎の原因菌であるClostridium difficileに対しても強い結合力を示した.さらに最も興味深いことに,W27 IgA抗体は一般的に善玉菌として知られているLactobacillus caseiBifidobacterium bifidumに対しては強い結合性を示さなかった.つまり,W27 IgA抗体は腸内細菌をランダムに認識しているのではなく,善玉菌と悪玉菌を識別することができる抗体であると考えた.

図1■マウス腸管由来W27 IgA抗体の腸内細菌に対する結合力

ELISA法によるEscherichia coliLactobacillus caseiに対する各モノクローナルIgA抗体(W2, W27, W34そしてW43の4種類)の結合力比較.

W27 IgA抗体のターゲット分子はSHMT

W27 IgA抗体は腸内細菌を識別したが,腸内細菌のどのような分子を認識して識別しているかは明らかでなかった.そこで私たちは,各種腸内細菌のタンパク質を抽出し,W27 IgA抗体によるウエスタンブロットを行い,ターゲット分子を探索した.その結果,W27 IgA抗体は,DH5α株(E. coli K12株)と私たちが野生型マウスの糞便から単離したE. coliPseudomonas fulvaの約50 kDaの分子を特異的に認識した.2次元電気泳動によりDH5α株のターゲット分子を単離し質量分析を行った結果,この分子はE.coliのSerine hydroxylmethyltransferase(SHMT)であることがわかった.SHMTは,L-セリンをグリシンに可逆的に変換し,同時にテトラヒドロ葉酸から5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸への変換を触媒し,葉酸やアミノ酸代謝に重要な酵素であり,DNAの生合成にもかかわっている.また,SHMTは多種類の細菌からヒトに至るまでその構造が非常によく保存されたタンパク質である.そこで,次にW27 IgA抗体が認識するSHMTのエピトープ解析を行った.SHMTのN末側とC末側での各種の欠失変異体を作製した結果,N末側の25~28番目のアミノ酸残基がW27 IgA抗体の認識に重要であることが明らかになった.そして,各種生物のSHMTのアミノ酸配列を比較すると,E. coliのSHMTのN末側27~30番目のアミノ酸領域を囲むアミノ酸配列(RQ-XXXX-ELIASEN)は,多くの異なる種間で非常によく保存されていることがわかった.このモチーフに囲まれた4アミノ酸の配列(XXXX)は各種細菌で異なっている(図2図2■W27 IgA抗体が認識するSHMTのエピトープ).上記のウエスタンブロット解析でW27 IgA抗体が認識したE.coliPseudomonas fulvaでは,それらのSHMTのXXXX配列はEEHIであった.しかし,善玉菌として知られているLactobacillus caseiのXXXX配列はEHNIであることから,この4アミノ酸残基の配列の違いが,エピトープとしての認識に重要であると考えられた.そこで,E. coliがもつSHMTの4アミノ酸配列EEHIを,Lactobacillus caseiの4アミノ酸配列EHNIに変換したE. coli-SHMT変異体,また逆にLactobacillus caseiのEHNI配列を,E. coliのEEHI配列に変換したL. casei-SHMT変異体を作製し,これらをヒト細胞株である293T細胞に発現させ,W27 IgA抗体の認識をウエスタンブロット解析で確認した.すると予想どおりに,W27 IgA抗体はSHMTのN末側の4アミノ酸がEEHIであるときだけ認識し,EHNIである変異体に対しては認識しなかった.この結果より,W27 IgA抗体が認識するエピトープはSHMTのN末側領域に保存されたモチーフ内に存在するEEHI配列であり,W27 IgA抗体はこの4アミノ酸の違いを識別して細菌を見分けていると考えられた(図3図3■W27 IgA抗体は共通のアミノ酸配列だけを認識する).そこで,改めてSHMTのエピトープ部位にEEHI配列をもつ細菌種を調べたところ,Haemophilus influenzaeKlebsiella pneumoniae, Salmonella paratyphi Aなどの病原菌が多く,Proteobacteria門に属している細菌であることがわかった(図4図4■SHMTのN末モチーフ内に,EEHI配列をもつ細菌種).そして,多くの病原菌がEEHI配列をもっていることから,宿主が病原菌を排除するために,SHMTのEEHI配列をエピトープとして認識するW27 IgA抗体が体内で選択されてきたのではないかと考えられる.私たちが腸管IgA抗体を分離したマウスは病原菌が存在しない環境で飼育されており,生まれてから一度も病原菌にはさらされたことがない.それにもかかわらず,多くの病原菌を認識できる抗体が体内で産生されていることは非常に興味深いことである.さらにW27 IgA抗体以外にも,バックグラウンドの違いやOvalbumin免疫マウス(C57BL/6)やGerm freeマウス(BALB/c)など飼育環境下の異なる複数のマウスから腸管由来IgA抗体産生ハイブリドーマを作製したところ,IgA抗体の96%のクローンがすべてE. coliのSHMT分子の同じエピトープを認識した(17)17) S. Okai, F. Usui, S. Yokota, Y. Hori-I, M. Hasegawa, T. Nakamura, M. Kurosawa, S. Okada, K. Yamamoto, E. Nishiyama et al.: Nat. Microbiol., 1, 16103 (2016)..また,SHMTは細胞質内に存在する酵素であるが,ぺリプラズムにも存在していることが報告されていることから(18~20)18) J. P. Lasserre, E. Beyne, S. Pyndiah, D. Lapaillerie, S. Claverol & M. Bonneu: Electrophoresis, 27, 3306 (2006).19) A. J. Link, K. Robison & G. M. Church: Electrophoresis, 18, 1259 (1997).20) J. H. Weiner & L. Li: Biochim. Biophys. Acta, 1778, 1698 (2008).,IgA抗体が細胞表面上に露出したSHMTのエピトープ部位を認識しているのではないかと考えている.これらのことから,SHMTはIgA抗体が腸内細菌を制御するための鍵となる分子であることが予想された.

図2■W27 IgA抗体が認識するSHMTのエピトープ

各種細菌のSHMTのN末には非常によく保存されたモチーフ(RQ-XXXX-ELIASEN)が存在する.また,モチーフに囲まれた4アミノ酸の配列が各細菌で異なる.W27 IgA抗体はEEHI配列を認識する.

図3■W27 IgA抗体は共通のアミノ酸配列だけを認識する

W27 IgA抗体はSHMTのN末モチーフに囲まれた4アミノ酸の配列(EEHI)を特異的に認識している.

図4■SHMTのN末モチーフ内に,EEHI配列をもつ細菌種

EEHI配列をもつ細菌種はほとんどがProteobacteria門に属し,多くの病原菌を含む.

W27 IgA抗体はSHMTをターゲットとして細菌の増殖を抑制

SHMTは葉酸やアミノ酸代謝に重要であり,SHMTを欠損させたE. coli株は,増殖が遅くなることが報告されている(21)21) R. J. Nichols, S. Sen, Y. J. Choo, P. Beltrao, M. Zietek, R. Chaba, S. Lee, K. M. Kazmierczak, K. J. Lee, A. Wong et al.: Cell, 144, 143 (2011)..そこで,W27 IgA抗体がE. coliのSHMTを認識し結合することで,細胞の増殖が抑制されるかどうかを調べるために,マウスの腸管IgA抗体の多くが強い認識を示すE. coli,そして,ほとんど認識を示さないLactobacillus caseiとを,W27 IgA抗体を加えた共培養にて比較した.その結果,E. coliの増殖は添加するW27 IgA抗体の濃度依存的に抑制されたが,善玉菌であるLactobacillus caseiの増殖は抑制されなかった(17)17) S. Okai, F. Usui, S. Yokota, Y. Hori-I, M. Hasegawa, T. Nakamura, M. Kurosawa, S. Okada, K. Yamamoto, E. Nishiyama et al.: Nat. Microbiol., 1, 16103 (2016).図5図5■各種細菌に対するW27 IgA抗体の増殖抑制効果).この結果は,E. coliのSHMTをW27 IgA抗体が認識し結合することで,この酵素の活性が阻害され増殖が抑制されたと推察された.また,野生型E. coli株とSHMT欠損E. coli株に対するW27 IgA抗体の増殖抑制効果を比較したところ,野生型E. coli株の増殖は抑制された一方で,SHMT欠損株では,W27 IgA抗体は菌体に結合するにもかかわらず増殖抑制効果は確認できなかった(17)17) S. Okai, F. Usui, S. Yokota, Y. Hori-I, M. Hasegawa, T. Nakamura, M. Kurosawa, S. Okada, K. Yamamoto, E. Nishiyama et al.: Nat. Microbiol., 1, 16103 (2016).図5図5■各種細菌に対するW27 IgA抗体の増殖抑制効果).これらの細菌増殖抑制試験の結果から,W27 IgA抗体は非特異的に細菌に結合するだけではなく,細菌のSHMTを特異的に認識し結合することが増殖抑制効果を起こすためには重要であると考えられた.

図5■各種細菌に対するW27 IgA抗体の増殖抑制効果

W27 IgA抗体と各種細菌を共培養をした際の増殖抑制効果の有無と各種細菌に対するW27 IgA抗体の結合の有無を示す.

W27 IgA抗体の経口投与による腸内細菌叢の改変

マウスの腸内には多種多様の細菌が存在するので,W27 IgA抗体とAIDノックアウトマウスの糞便中の腸内細菌を反応させて,W27 IgA抗体が結合する腸内細菌と非結合細菌を分離し,次世代シークエンサーで網羅的にそれらの細菌種を解析した.その結果,IgA抗体が結合する細菌としてはLactobacillaceaePrevotellaceaeなどがあった.これらの細菌種は,腸炎を引き起こす細菌と考えられている(12, 22)12) N. W. Palm, M. R. de Zoete, T. W. Cullen, N. A. Barry, J. Stefanowski, L. Hao, P. H. Degnan, J. Hu, I. Peter, W. Zhang et al.: Cell, 158, 1000 (2014).22) D. Gevers, S. Kugathasan, L. A. Denson, Y. Vázquez-Baeza, W. Van Treuren, B. Ren, E. Schwager, D. Knights, S. J. Song, M. Yassour et al.: Cell Host Microbe, 15, 382 (2014)..また,IgA抗体に非結合細菌はRuminococcaceaeLachnospiraceaeなどで,これらの細菌種は免疫系の過剰活性化を抑制している抑制性T細胞を誘導する細菌であると考えられている(23)23) K. Atarashi, T. Tanoue, K. Oshima, W. Suda, Y. Nagano, H. Nishikawa, S. Fukuda, T. Saito, S. Narushima, K. Hase et al.: Nature, 500, 232 (2013)..そこで,G23SマウスにW27 IgA抗体を経口投与したところ,糞便中の腸内細菌叢が抗体投与前後で変化した.W27 IgA抗体を投与後,IgA抗体結合性の細菌であるLactobacillaceaePrevotellaceaeの割合が減少し,IgA抗体非結合性の細菌であるRuminococcaceaeLachnospiraceaeの割合は増加していた(17)17) S. Okai, F. Usui, S. Yokota, Y. Hori-I, M. Hasegawa, T. Nakamura, M. Kurosawa, S. Okada, K. Yamamoto, E. Nishiyama et al.: Nat. Microbiol., 1, 16103 (2016)..つまりW27 IgA抗体を経口投与することで腸内細菌叢が改善されたと考えられた.

次に,小腸のパイエル板胚中心の肥大化が見られるG23SマウスにW27 IgA抗体を経口投与すると,野生型マウスと同程度までにパイエル板胚中心B細胞数が減少することがわかった.同様にAIDノックアウトマウスへの抗体投与実験でも,経口投与したマウスのパイエル板胚中心B細胞数が著しく減少した.これらのことから,W27 IgA抗体を経口投与することで,腸内細菌叢が改善され,免疫系への過剰刺激がなくなった結果ではないかと考えている.

まとめ

腸管でのIgA抗体による細菌認識機構について,モノクローナル抗体を用いた詳細研究は今までなかった.今回,私たちが野生型マウスの腸管IgA産生細胞からクローニングしたモノクローナルIgA抗体(W27)は多種類の腸内細菌に結合することがわかった.W27 IgA抗体はE. coliなどには強く結合するが,善玉菌として知られているL. caseiB. bifidumに対しては強い反応を示さなかった.これは宿主がIgA抗体を使って,単に侵入者として,すべての腸内細菌を排除するのではなく,自己を利する細菌を能動的に選択している可能性が考えられる.またW27 IgA抗体は葉酸などの代謝酵素であるSHMTのN末側に存在する4アミノ酸配列“EEHI”を特異的に認識していた.W27 IgA抗体が,悪玉菌のSHMTを特異的に認識することで,宿主にとって増えると有害な腸内細菌の増殖を抑制することも明らかとなった.また,私たちは,腸内常在細菌の異常増殖が起こりリンパ増殖性疾患を発症しているG23SマウスにW27 IgA抗体を経口投与することで,腸内細菌叢の改善やパイエル板胚中心B細胞数が著しく減少するなどの良い効果も得た.

今回の私たちの結果はIgA抗体による腸内細菌の制御メカニズムの一部を明らかにしただけであるが,今後もモノクローナルIgA抗体による腸内環境の制御機構について研究を続けていくことで,腸内細菌叢のバランスの崩れにより起こる多くの病気の予防や治療につながる研究が進むことを望んでいる.

Reference

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