セミナー室

リンゴ由来プロシアニジン類の機能評価と機能性表示食品の開発腸内環境に着目したリンゴの機能性研究

Toshihiko Shoji

庄司 俊彦

農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門生産・流通研究領域

Published: 2017-08-20

はじめに

霊長類140種類以上の主食を調査したところ,果物を食べる霊長類は,葉を主食とする霊長類よりも約25%大きな脳をもっているという興味深い研究が報告された(1)1) A. R. DeCasien, S. A. Williams & J. P. Higham: Ecol. Evol., 1, 0112 (2017)..果実のほうが,葉などよりも栄養成分が豊富であることから果実を摂取することでエネルギーを多く得ることができるだけでなく,果実が実る植物の種類や生育している場所,道具を使う食べ方などを記憶する必要があることから,果実を摂取する霊長類の脳は大型化し,進化するのに役立ったと考えられている.一方,欧米諸国をはじめとする先進国では,豊富な食糧を得て糖尿病,心疾患などの生活習慣病が増加し,大きな社会問題になっている.果実の摂取が糖尿病,虚血性心疾患など生活習慣病の予防と関係していることが疫学研究によって示された(2~5)2) K. He, F. B. Hu, G. A. Colditz, J. E. Manson, W. C. Willett & S. Liu: Int. J. Obes. Relat. Metab. Disord., 28, 1569 (2004).3) H. C. Hung, K. J. Joshipura, R. Jiang, F. B. Hu, D. Hunter, S. A. Smith-Warner, G. A. Colditz, B. Rosner, D. Spiegelman & W. C. Willett: J. Natl. Cancer Inst., 3, 1577 (2004).4) S. Liu, J. E. Manson, I. M. Lee, S. R. Cole, C. H. Hennekens, W. C. Willett & J. E. Buring: Am. J. Clin. Nutr., 72, 922 (2000).5) I. Muraki, F. Imamura, J. E. Manson, F. B. Hu, W. C. Willett, R. M. van Dam & Q. Sun: BMJ, 347, f5001 (2013)..果実に含まれるポリフェノール類やカロテノイド類などのファイトケミカルが抗酸化作用や糖・脂質代謝などのさまざまな生体調節機能をもつことが報告され,われわれの健康維持や生体調節に深く関与していると考えられている.摂取したポリフェノール類が生体の臓器や組織で抗酸化作用や生体調節機能を発揮するためには,適切な量を摂取し腸管から体内へ吸収され,肝臓や脂肪組織などで作用することが必要である.そのため,ポリフェノール類の生体調節機能の作用メカニズムの一つとして生体利用性が研究されている.食品には,さまざまなタイプのポリフェノール類が含まれているが,お茶のカテキンやダイズのイソフラボンなど,多くのポリフェノール類が腸管から吸収されることが報告されている(6)6) C. Manach, A. Scalbert, C. Morand, C. Remesy & L. Jimenez: Am. J. Clin. Nutr., 79, 727 (2004)..一方,リンゴなどの果実に含まれているプロシアニジン類は比較的分子量が大きく,ほかのポリフェノール類と比較して生体利用性が低いことが報告されているが(7)7) T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake & Y. Goda: J. Agric. Food Chem., 8, 884 (2006).,糖・脂質代謝調節機能,肥満予防などさまざまな生体調節機能が報告されており(図1図1■リンゴ由来プロシアニジンの主な生体調節機能),作用メカニズムには不明な点が残されていた.本稿では,リンゴ由来プロシアニジン類の生体調節機能について紹介するとともに,近年プロシアニジン類の生体利用性に着目することで明らかになった腸内細菌などの腸内環境への変化や脂質代謝に与える影響について解説する.また,リンゴ由来プロシアニジン類を関与成分とする「機能性表示食品」の開発について解説する.

図1■リンゴ由来プロシアニジンの主な生体調節機能

リンゴ由来プロシアニジン類

プロシアニジン類はカテキンまたはその異性体であるエピカテキンが複数結合したフラボノイド類の一種で,結合位置や結合数,カテキン類の組合せによって多くの異性体が報告されている(8)8) T. Shoji, M. Mutsuga, T. Nakamura, T. Kanda, H. Akiyama & Y. Goda: J. Agric. Food Chem., 18, 3806 (2003)..果実では,リンゴのほかに,ブドウやクランベリーなどの落葉果実全般に含まれている.果実によって,プロシアニジン類の重合度やカテキン類の種類が異なるが,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/MS)による分析では,リンゴには15量体のプロシアニジン類まで存在していることが示されている(9)9) M. Ohnishi-Kameyama, A. Yanagida, T. Kanda & T. Nagata: Rapid Commun. Mass Spectrom., 11, 31 (1997).

リンゴ由来プロシアニジン類の血糖値の上昇抑制作用

リンゴ由来プロシアニジン類は抗アレルギー作用(10)10) H. Akiyama, Y. Sato, T. Watanabe, M. H. Nagaoka, Y. Yoshioka, T. Shoji, T. Kanda, K. Yamada, M. Totsuka, R. Teshima et al.: FEBS Lett., 15, 4485 (2005).,抗腫瘍活性(11)11) T. Miura, M. Chiba, K. Kasai, H. Nozaka, T. Nakamura, T. Shoji, T. Kanda, Y. Ohtake & T. Sato: Carcinogenesis, 29, 585 (2008).,抗加齢作用(12)12) T. Sunagawa, T. Shimizu, T. Kanda, M. Tagashira, M. Sami & T. Shirasawa: Planta Med., 77, 122 (2010).など多くの研究が行われ,さまざまな生体調節機能が報告されている.また,肥満糖尿病モデルマウスob/obマウスを使った研究では,4週間リンゴ由来プロシアニジン[0.5%(w/v)]を前投与した後,経口糖負荷試験(OGTT; 1 gグルコース/kg体重)を行い,血糖値の変化を測定した.その結果,リンゴ由来プロシアニジンを摂取していたマウスでは,コントロールに比べて血糖値上昇が抑制されていた(13)13) K. Ogura, M. Ogura, T. Shoji, Y. Sato, Y. Tahara, G. Yamano, H. Sato, K. Sugizaki, N. Fujita, H. Tatsuoka et al.: J. Agric. Food Chem., 28, 8857 (2016)..しかし,単回投与による経口糖負荷試験での血糖値への影響は見られなかった.また,インスリン負荷試験(2Uインスリン/kg体重)を行い,血糖値の変化を評価したところ,リンゴ由来プロシアニジン投与群で有意な血糖値の低下が観られた.さらに,インスリン抵抗性の指標であるインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)値も有意に低下したことから,リンゴ由来プロシアニジンの摂取によって,インスリン抵抗性が改善していると考えられた.その作用メカニズムとしては,インスリン刺激による肝臓でのプロテインキナーゼB(Akt)のリン酸化が対照群に比べ,リンゴ由来プロシアニジン投与群で亢進していることが認められたことから,糖新生が促進されている可能性が示された.また,肝臓では腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor-alpha; TNF-α)やインターロイキン-6(IL-6)など炎症性サイトカインのmRNA発現が有意に抑制されていたことから,肝臓への脂肪の蓄積による炎症が抑制され,インスリン抵抗性を緩和している可能性が考えられた.

2型糖尿病はがんや認知症などさまざまな疾病の危険因子と考えられている.The Diabetes Epidemiology Collaborative Analysis of Diagnostic Criteria in Europe(DECODE)では,耐糖能異常や空腹時血糖異常が虚血性心疾患による死因のリスクを上げることや,OGTT後2時間での耐糖能異常値が虚血性心疾患のマーカーとなることを報告している(14)14) Glucose tolerance and mortality: comparison of WHO and American Diabetes Association diagnostic criteria. The DECODE study group. European Diabetes Epidemiology Group. Diabetes Epidemiology: Collaborative analysis of diagnostic criteria in Europe. Lancet, 21, 617 (1999)..また,久山町研究や舟形町研究など日本で行われた疫学研究では,空腹時血糖値が正常高値(100~109 mg/dL)の場合であっても,将来,<100 mg/dLの正常値の方に比べ高確率で糖尿病を発症していることが示されている(15, 16)15) M. Tominaga, H. Eguchi, H. Manaka, K. Igarashi, T. Kato & A. Sekikawa: Diabetes Care, 22, 920 (1999).16) T. Ohara, Y. Doi, T. Ninomiya, Y. Hirakawa, J. Hata, T. Iwaki, S. Kanba & Y. Kiyohara: Neurology, 20, 1126 (2011)..また,OGTTを行えば,正常高値の約25~40%が境界型や糖尿病であると診断されることから糖尿病の予防には,食後血糖値の管理が重要であると考えられている.

そこで,リンゴ由来プロシアニジンの摂取が血糖値上昇に及ぼす効果を検討することを目的に二重盲検ヒト介入試験を行った(17)17) T. Shoji, M. Yamada, T. Miura, K. Nagashima, K. Ogura, N. Inagaki & M. Maeda-Yamamoto: Diabetes Res. Clin. Pract., in press..被験者は静岡県掛川市在住の健康診断で空腹時血糖値が正常高値および境界型(110~125 mg/dL)の30歳以上60歳未満の男女を募集し,試験参加条件に適合した88名をリンゴ由来プロシアニジン摂取群とプラセボ群の2群に無作為に割り付けた.リンゴ由来プロシアニジンはリンゴ果汁から調製し,錠剤として1日1回,リンゴポリフェノールとして600 mgを12週間被験者に摂取させた.空腹時血糖値およびOGTT後30分,2時間の血糖値を測定し,血糖値上昇に与えるリンゴ由来プロシアニジンの影響を検討したところ,プラセボ群と比較してリンゴ由来プロシアニジン摂取群ではOGTT後30分の血糖値が有意に低値を示し,血糖値上昇を抑制していた.さらに,糖尿病の診断基準にしたがって,試験開始時に測定した空腹時血糖値とOGTT後2時間の血糖値を用いて被験者を正常値と,正常高値および境界型に分け層別解析を行った.正常値の被験者では,プラセボ群とリンゴ由来プロシアニジン摂取群のいずれにおいてもOGTT後の血糖値上昇に違いは見られなかった.一方,正常高値と境界型の被験者では,リンゴ由来プロシアニジンを摂取することで血糖値の上昇が有意に抑制されていた.残念ながら,リンゴ由来プロシアニジン摂取によって,アディポネクチンやTNF-α, IL-6などのサイトカインの有意な変動を確認することはできなかったが,動物モデルにおけるリンゴ由来プロシアニジンの試験結果と同様に,長期摂取によって経口糖負荷試験後の血糖値の上昇を抑制することが示された.ヒト介入試験でリンゴ由来プロシアニジンの長期摂取がインスリン抵抗性の改善や血糖値の上昇抑制効果を示すことが初めて確認された.今後,被験者の選定方法や試験期間を改善し,より詳細な験証が必要であると思われる.

高分子プロシアニジン類の脂質代謝への影響

リンゴ由来プロシアニジン類は,これまでに膵リパーゼ阻害による脂質吸収の抑制やモデル動物の脂肪組織における脂肪分解関連遺伝子の発現増加などが報告されていた.また,リンゴ由来プロシアニジン類の生体利用性研究では,HPLC-ESI/MSによってプロシアニジン類の4量体までは血中で検出されたが,5量体以上の高分子プロシアニジンは血中で検出されなかったことから高分子プロシアニジンの生体調節機能については不明であった(7)7) T. Shoji, S. Masumoto, N. Moriichi, H. Akiyama, T. Kanda, Y. Ohtake & Y. Goda: J. Agric. Food Chem., 8, 884 (2006)..そこで,われわれは順相クロマトグラフィーを用いてリンゴ由来プロシアニジン類を体内への吸収が確認された4量体までの低分子プロシアニジン画分(OP)と,吸収が認められなかった5量体以上の高分子プロシアニジン画分(PP)とに分け,生体利用性の違いによる動物モデルにおける脂質代謝への影響を検討することにした.

高脂肪・高ショ糖(HFHS)食を20週間連続摂取させた肥満マウス(C57BL/6Jマウス)にOPとPPをそれぞれ摂取させ,体重の増加や脂質代謝に与える影響を検討した(18)18) S. Masumoto, A. Terao, Y. Yamamoto, T. Mukai, T. Miura & T. Shoji: Sci. Rep., 6, 31208 (2016)..HFHS食のみを摂取していたマウスでは,飼育期間とともに体重が大きく増加するが,OPを摂取させたマウスでは有意に体重の増加が抑制されていた.非常に興味深いことに,PP摂取群においても体重増加が有意に抑制されていた.同様に,肝臓や脂肪組織重量の増加も有意に抑制されており,PPを摂取したマウスでは,従来の生体利用性に基づいた作用メカニズムとは異なる脂質代謝制御があると考えられた.そこで,マウスの盲腸内容物を採取し,16S rRNAを抽出し,次世代シーケンサーによる腸内細菌叢の解析を行った.HFHS食を摂取したマウスでは,Firmicutes門/Bacteroidetes門(F/B)比が普通食群と比べ有意に増加していたが,PP摂取群では,F/B比の増加が有意に抑制されていた.面白いことに,この現象はOP摂取群では認められなかった(図2図2■リンゴ由来プロシアニジン摂取による腸内フローラへの影響).近年,腸内フローラの変化が宿主のエネルギー代謝や栄養摂取,免疫機能などに影響し,肥満や糖尿病などの代謝異常と密接に関係していることが示されている.Gordonらは,肥満者の腸内細菌を移植した無菌マウスと,痩せた人の腸内細菌を移植した無菌マウスを調整し,普通食を摂取させたところ,肥満者の腸内細菌を移植したマウスは痩せた人の腸内細菌を移植したマウスよりも体重が増加することを報告した(19)19) P. J. Turnbaugh, R. E. Ley, M. A. Mahowald, V. Magrini, E. R. Mardis & J. I. Gordon: Nature, 21, 1027 (2006)..また,肥満者の腸内フローラはFirmicutes門が増加し,Bacteroidetes門が減少していることを報告し,F/B比を制御することが重要であると考えられている.さらに,属レベルでの解析結果からPP摂取群では,HFHS食を摂取したマウスに比べAkkermansia菌が有意に増加し,特徴的な変化を示していた.Akkermansia菌は日和見菌の一種で腸管バリア機能を向上させることが知られている.そこで,腸管上皮組織のアルシアンブルー染色を行い上皮性粘液(ムチン)を染色したところ,PPを摂取したマウスではアルシアンブルーに青く染まる部分が増加していた.さらに,腸管上皮のタイトジャンクション関連因子(Occludin, ZO-1)の遺伝子発現が増加しており,PP摂取によって腸管バリア機能が向上していると考えられた.肥満などによって脂質代謝異常が亢進すると,腸管バリア機能が低下し,代謝性エンドトキシンの原因物質であるリポ多糖(LPS)の体内への流入が増加することが知られている.LPSは肝臓での脂質代謝を抑制することや,脂肪組織での慢性炎症の亢進に関与している.PP摂取群では,血中のLPS値が有意に減少し,脂肪組織から放出される炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-6)の増加を抑制していた.このことから,PPを摂取することによって,Akkermansia菌を介した腸管バリア機能が向上し,LPSの流入や慢性炎症が抑制され脂質代謝異常が改善しているものと推定された.PP摂取による腸内環境への影響については,現在,ほかの腸内フローラへの影響について詳細に検討している.

図2■リンゴ由来プロシアニジン摂取による腸内フローラへの影響

吸収されなかったOPの一部は,腸内細菌によって分解され,分解物の一部には抗酸化作用や抗炎症作用が認められるとの報告があるが(20, 21)20) N. Beloborodova, I. Bairamov, A. Olenin, V. Shubina, V. Teplova & N. Fedotcheva: J. Biomed. Sci., 19, 89 (2012).21) M. Monagas, N. Khan, C. Andres-Lacueva, M. Urpi-Sarda, M. Vazquez-Agell, R. M. Lamuela-Raventos & R. Estruch: Br. J. Nutr., 102, 201 (2009).,生体調節機能にどのように関与しているかはいまだ不明な点が多い.一方,われわれが行った研究では,PPは腸内細菌による分解や低分子化は受けていないことを確認した.また,高速液体クロマトグラフフィー-飛行時間型質量分析計(HPLC-QTOF/MS)によって尿中の代謝物を解析したところ,PPを摂取したマウスでは,いくつかのアミノ酸代謝物が変動していた.腸内におけるトリプトファンやチロシンなどのアミノ酸代謝物が生体恒常性に関与していることが報告されている(22)22) J. M. Yano, K. Yu, G. P. Donaldson, G. G. Shastri, P. Ann, L. Ma, C. R. Nagler, R. F. Ismagilov, S. K. Mazmanian & E. Y. Hsiao: Cell, 9, 264 (2015)..腸内フローラの変動と内在性の代謝物との関係を解析する必要があると考えている.

腸内フローラを改善する食品成分としては,食物繊維が知られていたが,ポリフェノール類であるプロシアニジン類が腸内フローラに影響し,生体調節機能に関与している可能性が示されたことは非常に興味深い.クランベリーやブドウなど,プロシアニジン類を含む果実でも長期摂取によって血糖値の上昇を抑制し,F/B比の改善など腸内フローラが変動することが報告されている(23, 24)23) F. F. Anhe, D. Roy, G. Pilon, S. Dudonne, S. Matamoros, T. V. Varin, C. Garofalo, Q. Moine, Y. Desjardins, E. Levy et al.: Gut, 64, 872 (2015).24) D. E. Roopchand, R. N. Carmody, P. Kuhn, K. Moskal, P. Rojas-Silva, P. J. Turnbaugh & I. Raskin: Diabetes, 64, 2847 (2015)..食品には,プロシアニジン類以外にも食品の製造工程で生成する分子量が比較的大きいポリフェノール類があることが知られている.たとえば,赤ワインポリフェノールは醸造工程や貯蔵,熟成期間にプロシアニジン類などが複雑に重合し,高分子化していることが知られている.欧米人は脂質の多い食事の摂取が多く,心疾患による死亡率が高いにもかかわらず,フランスでは心疾患の死亡率が低いという「フレンチ・パラドックス」には赤ワインポリフェノールが関与していると考えられている.レスベラトロールなどのポリフェノール類が強い抗酸化力をもつことから心疾患の予防に関係しているのではないかと考えられていたが,含有量は非常に少なく機能性にどの程度関与しているか疑問である.一方,フランス国内の産地ごとにワイン中のプロシアニジン類含量と住民の心疾患との関係を調査し,プロシアニジン類の含量が高いワイン生産地域ほど心疾患のリスクが低いことが報告されている(25)25) R. Corder, W. Mullen, N. Q. Khan, S. C. Marks, E. G. Wood, M. J. Carrier & A. Crozier: Nature, 30, 566 (2006)..摂取したワインのポリフェノール類が吸収され,抗酸化作用によって心疾患が予防されていると考えられてきたが,プロシアニジン類が腸内フローラに影響し,腸内環境を改善することによって心疾患が予防されている可能性があり,今後の研究の進展が期待される.

リンゴの機能性表示食品の開発

国内のリンゴ生産量は平成2年の105.3万トンから平成26年には81.6万トンに,約23%減少している(農水省果樹出荷統計).果実の食べやすさや高い価格が消費者離れの原因の一つであると考えられている.平成27年4月に施行された「新しい機能性表示食品」制度では,農産物などの生鮮食品や加工品で健康機能性を表示することが可能となり,国産リンゴ生鮮や加工品の高付加価値化に貢献することが期待されている(図3図3■リンゴの機能性表示食品の開発).「機能性表示食品」の登録には,食品中の機能性(関与)成分量を担保する必要があることからリンゴ生鮮や加工品中のプロシアニジン量の測定法を確立し,リンゴの品種,栽培法や貯蔵期間による変化,リンゴの等級や大きさなど品質によるリンゴ由来プロシアニジン量のばらつきを検討している.一方,「機能性表示食品」では,ヒト介入試験や国内外の文献調査によるシステマティックレビューによって農産物などの食品の健康機能性について科学的エビデンスを証明する必要がある.農研機構では,リンゴの機能性成分であるプロシアニジン類に着目し,動物試験やヒト介入試験によって糖・脂質代謝の改善による血糖値の上昇抑制や肥満予防などの生活習慣病予防効果を研究してきた.また,システマティックレビューを行いリンゴ由来プロシアニジンを摂取することによる血中LDL-コレステロール値を低下作用など健康機能性の有効性を検討している.現在,リンゴ生鮮およぶ加工品の「機能性表示食品」の登録を目指している.

図3■リンゴの機能性表示食品の開発

おわりに

腸管は「第二の脳」とも言われ,免疫や代謝,炎症などの宿主の生体恒常性に関与していると考えられている.リンゴ由来プロシアニジン類の生体調節機能は,従来の抗酸化作用など生体利用性に依存した効果に加え,腸内フローラや代謝物など腸内環境への作用が関係していることが明らかになりつつある.ヒト介入試験でリンゴやポリフェノール類の健康機能性を評価している研究報告はあるが,リンゴ由来プロシアニジン類による腸内フローラや代謝物の変動がどのように健康機能性に関与しているのか評価する必要がある.また,リンゴの健康機能性に関する研究報告は増えつつあるが,ヒト試験の被検者の条件など機能性表示食品制度でのシステマティックレビューに合致する研究報告は多いとはいえない.現在,生鮮品の「機能性表示食品」は2品目しかなく,リンゴをはじめとする農産物での「機能性表示食品」を増やすためには,ヒト介入試験によって農産物の健康機能性に関する科学的エビデンスを増やしていく必要がある.

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