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GLUT4の細胞内動態を可視化する化学アプローチで明らかとなった糖鎖の役割

Yuichiro Hori

雄一郎

大阪大学大学院工学研究科

大阪大学免疫学フロンティア研究センター

Kazuya Kikuchi

菊地 和也

大阪大学大学院工学研究科

大阪大学免疫学フロンティア研究センター

Published: 2017-09-20

グルコース輸送体の一種であるGLUT4は,主に筋肉組織や脂肪組織に発現する12回膜貫通型タンパク質であり,インスリン刺激に応じて血中のグルコースを細胞内に取り込み血糖値を下げる役割を担っている(1)1) D. Leto & A. R. Saltiel: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 383 (2012)..GLUT4は,通常は細胞内に存在するが,インスリンが分泌されると細胞膜へ移行しグルコースを細胞内に取り込む.この制御機構が正常に機能しなくなり,グルコースを細胞内に取り込めなくなることは,2型糖尿病の発症の原因となる.このため,GLUT4の細胞内動態の制御機構を明らかにすることは,生命科学や医学の観点から重要な課題である.近年,GLUT4の細胞膜外ループのAsnに付加される糖鎖(N-結合型糖鎖)が,GLUT4の細胞内動態の制御に関与していると報告された(2)2) Y. Haga, K. Ishii & T. Suzuki: J. Biol. Chem., 286, 31320 (2011)..これに対し,N-結合型糖鎖は,GLUT4の細胞内動態には影響を与えないという研究結果も発表されており(3)3) N. Zaarour, M. Berenguer, Y. Le Marchand-Brustel & R. Govers: Biochem. J., 445, 265 (2012).,その役割の有無に注目が集まっていた.本研究では,新たに高精度なタンパク質イメージング技術を開発することで,GLUT4の動態を解析しN-結合型糖鎖の役割を調べることを目的とした.

筆者らは,紅色硫黄細菌由来の小タンパク質(125アミノ酸)であるPYP(Photoactive yellow protein)をタグタンパク質として標的タンパク質につなぎ,合成蛍光プローブによって特異的にPYPタグをラベル化することによって,標的タンパク質を蛍光イメージングする手法を開発してきた(4)4) Y. Hori & K. Kikuchi: Curr. Opin. Chem. Biol., 17, 644 (2013)..この技術のポイントは,プローブが遊離状態では非蛍光性で,タンパク質をラベル化すると蛍光性となる「発蛍光プローブ」を用いることである.通常のプローブは,常に蛍光を発するため,細胞に発現しているタンパク質をイメージングするには,洗浄操作により遊離のプローブを除く必要がある.これに対し,発蛍光プローブは,洗浄操作を行うことなく迅速かつ高いコントラストでタンパク質をイメージングできる.本研究で,GLUT4の細胞内動態を詳細に解析するために,PYPタグをラベル化する複数の新たな発蛍光プローブを開発した.開発したプローブのうち,AT-DNB2と名づけたものは,細胞膜非透過性でPYPタグをラベル化すると遠赤色の蛍光を発する.このプローブをGLUT4の動態解析に用いる利点は,GLUT4の細胞膜外ドメインにPYPタグをつないだとき,細胞内のGLUT4をラベル化することなく,選択的に細胞膜移行したGLUT4をラベル化できることである.さらに,AT-DNB2は発蛍光プローブであるため,洗浄操作なしでインスリン存在下のGLUT4の動態をイメージングできることである.洗浄操作を行うとインスリンも除去されるため,GLUT4の動態に影響するが,AT-DNB2を用いることでこの悪影響を回避できる.実際に,PYPをGLUT4の細胞膜外ループに挿入したPYP-GLUT4を細胞に発現させ,AT-DNB2を添加したところ,インスリンに応答したPYP-GLUT4の細胞膜移行が洗浄操作なしで観察できた.

次に,N-結合型糖鎖の役割を調べるために,糖鎖形成阻害剤や糖鎖欠失変異体を用い,糖鎖の異常がPYP-GLUT4の動態に与える影響についてイメージング実験により検討した.驚いたことに,インスリン存在下では,AT-DNB2が細胞膜非透過性であるのにもかかわらず,その蛍光は細胞内から観測された.この結果は,糖鎖に異常のあるPYP-GLUT4は,インスリン刺激により一過性に細胞膜移行してAT-DNB2によりラベル化され,その後迅速に細胞内にエンドサイトーシスすることを示唆した.そこで,エンドサイトーシスを阻害したところ,AT-DNB2由来の蛍光が細胞膜上から観測されたことから,糖鎖異常のあるPYP-GLUT4は一過性に細胞膜移行することが証明された.以上の結果から,糖鎖は,GLUT4の細胞膜への局在を維持させる役割を果たしていると考えられた(5)5) S. Hirayama, Y. Hori, Z. Benedek, T. Suzuki & K. Kikuchi: Nat. Chem. Biol., 12, 853 (2016).図1図1■PYPタグラベル化技術を用いたGLUT4の細胞内動態の可視化と糖鎖の機能解析).

図1■PYPタグラベル化技術を用いたGLUT4の細胞内動態の可視化と糖鎖の機能解析

(A)インスリン存在下における正常糖鎖をもつGLUT4の細胞内動態(右は実際のイメージング画像で,スケールバーは10 µmを示す).PYPタグは,細胞膜外ループに挿入されており,膜非透過性プローブを用いると細胞内のPYP-GLUT4はラベル化されず,細胞膜移行したPYP-GLUT4のみラベル化される.また,用いたプローブは,遊離状態では非蛍光性でラベル化されると蛍光強度が上昇する.このため,遊離プローブを洗浄操作により除去することなくイメージング実験ができる.(B)インスリン存在下における糖鎖欠損GLUT4の細胞内動態(右は実際のイメージング画像で,スケールバーは10 µmを示す).GLUT4の糖鎖欠損変異体を用いてイメージングを行うと,インスリン刺激によりPYP-GLUT4変異体は細胞膜移行し,プローブによりラベル化され細胞膜にとどまることなくエンドサイトーシスする.

GLUT4の膜局在の維持にかかわるしくみの破綻は,血糖値の上昇を引き起こし,2型糖尿病の発症の原因となる可能性がある.本研究の結果は,GLUT4の膜局在化機構の解明に加え,糖尿病の発症機構の解明と治療薬の開発につながることが期待される.

Reference

1) D. Leto & A. R. Saltiel: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 383 (2012).

2) Y. Haga, K. Ishii & T. Suzuki: J. Biol. Chem., 286, 31320 (2011).

3) N. Zaarour, M. Berenguer, Y. Le Marchand-Brustel & R. Govers: Biochem. J., 445, 265 (2012).

4) Y. Hori & K. Kikuchi: Curr. Opin. Chem. Biol., 17, 644 (2013).

5) S. Hirayama, Y. Hori, Z. Benedek, T. Suzuki & K. Kikuchi: Nat. Chem. Biol., 12, 853 (2016).