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フラボノイドによるビフィズス菌の機能向上フラボノイドが引き出すビフィズス菌の潜在能力

Kyuichi Kawabata

川畑 球一

神戸学院大学栄養学部

Published: 2017-09-20

ビフィズス菌は腸内フローラの主要な構成菌種であり,有機酸やビタミン,タンパク質の合成などわれわれ宿主の健康維持に重要な働きをしていることから,プロバイオティクスとしても利用されている(1)1) 大野博司,服部正平:実験医学増刊,32, 14 (2014)..腸内環境を整えるとされる食物繊維やオリゴ糖などのプレバイオティクスは主にビフィズス菌の増殖を促進する.これらを資化したビフィズス菌は,酢酸と乳酸を産生して大腸内pHを低下させることで有害菌の増殖を抑制するとともに,周囲のほかの細菌による代謝を介して短鎖脂肪酸(プロピオン酸と酪酸)を増やし,腸管の機能を高めると考えられている(2)2) P. Louis, G. L. Hold & H. J. Flint: Nat. Rev. Microbiol., 12, 661 (2014)..また,新生児における腸内フローラでは,母乳に含まれるオリゴ糖によりビフィズス菌が最優勢となり新生児の生育を助けることから(3)3) 片山高嶺:化学と生物,50, 2 (2012).,ヒトとビフィズス菌の共生関係の強さがうかがえる.

食物繊維が豊富な野菜や果物を摂取すると,同時にフラボノイドも摂取することになる.植物体内のフラボノイドはグルコースなどの糖が結合した配糖体として存在しており,小腸上皮細胞が発現している糖輸送担体や代謝酵素の作用により体内に吸収されて全身を巡る.そして,脳や血管,筋肉など臓器に到達して各種フラボノイドに特徴的な生体調節機能を発揮すると考えられている(4)4) K. Kawabata, R. Mukai & A. Ishisaka: Food Funct., 6, 1399 (2015)..一方,約90%のフラボノイド配糖体はそのまま大腸へ移行すると言われており(5)5) A. M. Aura: Phytochem. Rev., 7, 407 (2008).,大腸に到達した配糖体は腸内フローラの代謝酵素により糖とアグリコンに変換される.フラボノイドの抗菌作用による病原性細菌の除去が期待される一方で,大半のフラボノイドアグリコンは腸内フローラによって低分子のフェノール化合物へと分解される(5)5) A. M. Aura: Phytochem. Rev., 7, 407 (2008)..プロアントシアニジンなどの高分子化合物は単量体に切断されたのち分解を受けると考えられている.主な分解様式はC環での開裂であり,A環とB環由来の低分子化合物が生成される.そのため,親化合物のフラボノイドに見られた機能性は失っているが,腸管内や体内での抗酸化活性は十分に期待できるであろう(5)5) A. M. Aura: Phytochem. Rev., 7, 407 (2008)..一方,イソフラボンのダイゼインは,フラボノイドの基本骨格を維持したまま,より高活性なエクオールに変換される.このような代謝変換は何千種類とあるフラボノイドの中でいまだダイゼインでしか見いだされていない.クルクミンやレスベラトロールにおいても,構造が一部修飾された代謝変換体は報告されていることから,フラボノイドにもまだ「お宝」が眠っている可能性は十分に考えられる.フラボノイドの代謝には,腸内フローラの最優勢菌種であるBacteroides属やEubacterium属細菌が多く報告されているが,同じく最優勢のビフィズス菌についてはほとんど知見がない.一方,腸内フローラにおいてビフィズス菌の1/1,000ほどしかいない乳酸菌にはエクオール産生菌として働くものが知られている.これは,偏成嫌気性であるビフィズス菌の生育環境が動物の腸管に限定的であるのに対し,通性嫌気性の乳酸菌は自然界に広く生育でき,フラボノイドに接触する機会が比較的多いことに関係しているのかもしれない.

腸内フローラによるフラボノイドの代謝に関する研究は広く進められているが,機能的な変化については十分に解明されていない.そこでわれわれは,腸内有用細菌に注目してフラボノイドとの機能的相互作用を解析するため,試験管内でビフィズス菌もしくは乳酸菌をフラボノイドとともに嫌気条件下で培養し,その培養上清の抗炎症活性を細胞実験で検討した.その結果,ビフィズス菌の一種であるBifidobacterium adolescentisとケルセチンを組み合わせることで,それぞれ単独の場合よりも顕著に抗炎症活性が上昇することを見いだした(6)6) K. Kawabata, Y. Sugiyama, T. Sakano & H. Ohigashi: Biofactors, 39, 422 (2013)..これは,「お宝」(ケルセチン由来の高機能な新規代謝物)の発見が期待されたが,解析を進めた結果,ケルセチンがB. adolescentisの抗炎症活性を増強していることが明らかとなった(図1図1■腸内フローラとフラボノイドの機能的相互作用).同様の効果を示すポリフェノールとして,ガランギンやフィセチン,エピガロカテキンガレート(EGCG),フロレチン,タキシフォリンを見いだしている(7)7) K. Kawabata, Y. Kato, T. Sakano, N. Baba, K. Hagiwara, A. Tamura, S. Baba, M. Natsume & H. Ohigashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 799 (2015)..また,EGCG,フロレチンおよびタキシフォリンに関しては,B. adolescentisによる酢酸と乳酸の産生を有意に促進することも明らかにしている(7)7) K. Kawabata, Y. Kato, T. Sakano, N. Baba, K. Hagiwara, A. Tamura, S. Baba, M. Natsume & H. Ohigashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 799 (2015)..なお,これまでにもビフィズス菌の抗炎症活性についていくつか報告されているが,活性成分はいまだ十分に解明されていない.われわれも活性成分の同定を進めており,酢酸と乳酸は上述の培養上清における抗炎症活性成分ではないことを確認している.

図1■腸内フローラとフラボノイドの機能的相互作用

これまでにこのようなフラボノイド応答性が確認できたビフィズス菌はB. adolescentisのみであるが,B. adolescentisは健康成人によく見られる菌種であり,日常的にこのような現象が腸管内で生じている可能性が期待できる.また,フラボノイドの健康効果として捉えられていた生体調節機能の一部が共生細菌を介したものである可能性を示唆していることも非常に興味深く,フラボノイドの生理機能発現における新しいメカニズムとしてさらなる究明に努めている.フラボノイドとビフィズス菌の組み合わせは膨大であり,抗炎症活性以外にもビフィズス菌を高機能化できる可能性が十分に考えられる.今後は腸内フローラやヒトを対象とした検証が必要であるが,こうした知見が基礎研究のみならず,食育や機能性食品の開発など将来的にさまざまな分野で活用されることを期待している.

Reference

1) 大野博司,服部正平:実験医学増刊,32, 14 (2014).

2) P. Louis, G. L. Hold & H. J. Flint: Nat. Rev. Microbiol., 12, 661 (2014).

3) 片山高嶺:化学と生物,50, 2 (2012).

4) K. Kawabata, R. Mukai & A. Ishisaka: Food Funct., 6, 1399 (2015).

5) A. M. Aura: Phytochem. Rev., 7, 407 (2008).

6) K. Kawabata, Y. Sugiyama, T. Sakano & H. Ohigashi: Biofactors, 39, 422 (2013).

7) K. Kawabata, Y. Kato, T. Sakano, N. Baba, K. Hagiwara, A. Tamura, S. Baba, M. Natsume & H. Ohigashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 799 (2015).