セミナー室

機能性弁当のヒト介入試験による機能性評価と機能性農産物開発の課題健康維持に有効なお弁当とは

Mari Maeda-Yamamoto

山本(前田) 万里

農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門

Published: 2017-09-20

はじめに

日本では近年,人口減少と超高齢化が急速に加速するとともに,生活習慣病罹患者やその予備軍が増加し,医療費は41.5兆円(2015年度)まで増大している.これら疾患については,食生活の乱れや運動不足などに起因するとして,食を巡る健康への問題が大きくクローズアップされている.医食同源という言葉があるように,食品は健康の維持増進や疾病予防に大きな役割を果たしている.農産物や食品の機能性研究においては,機能性成分の探索,同定,分析,エビデンス獲得,作用メカニズムの解析や機能性成分を多く含む農産物開発などを経て機能性食品が生み出されてきた.機能性をもつ食品成分としては,食物繊維,ポリフェノール類,カロテノイド類などがあり,食品が健康に寄与しているかどうかを調べるためには,ヒト試験(コホート研究などの観察研究,介入試験)による検証が必須である.

世界にはいろいろなコホート研究があり,フラミンガム心臓病コホート(USA; 1948年~)(1)1) Franmigham heart study: https://www.framinghamheartstudy.org/participants/original.phpでは,野菜と果物の継続的摂取が脳卒中発症リスクを減少させる,7カ国コホート(1957年~)(2)2) Seven countries study: http://www.sevencountriesstudy.com/では,地中海食(一価不飽和脂肪酸(オリーブオイル)と野菜(トマト))の継続的摂取が心血管疾患発症のリスクを減少させる,大崎コホート(日本;2007年~)では,大豆製品・魚・海藻・野菜・果物・緑茶(3)3) S. Kuriyama, T. Shimazu, K. Ohmori, N. Kikuchi, N. Nakaya, Y. Nishino, Y. Tsubono & I. Tsuji: JAMA, 296, 1255 (2006).の食事パターンで心血管疾患のリスクが低下する,緑茶の継続的摂取で高齢者の認知症発症リスクが低下する(4)4) Y. Tomata, K. Sugiyama, Y. Kaiho, K. Honkura, T. Watanabe, S. Zhang, Y. Sugawara & I. Tsuji: Am. J. Geriatr. Psychiatry, 24, 881 (2016).,といった食と健康との関係が明らかにされて,各国の健康ガイドラインに活かされてきた.農研機構では,農作物に含有される特定の機能性成分が有する生体調節作用に関して,機能性成分の分析,その作用メカニズムの解析とヒトレベルでの有効性の検証や農産物の栽培法の確立などを行う研究プロジェクトを実施した(機能性農林水産物・食品開発プロジェクト(以下,機能性食品開発プロジェクトと略))ので,そのなかで行われた機能性弁当のヒト介入試験の成果や機能性農産物を開発するための今後の課題について紹介する.

機能性食品開発プロジェクト

前項で海外の観察研究の事例を紹介したが,農研機構でも2003年度から浜松市(旧三ヶ日町と合同で行ってきた栄養疫学調査(「三ヶ日町研究」)で,ウンシュウミカンなどの果物や野菜に含まれるカロテノイド類と健康状態との関連を経時的に調査した.そのなかで,ウンシュウミカンをよく食べ,血中のβ-クリプトキサンチン濃度の高い人では,閉経女性での骨粗鬆症のリスク(5)5) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: PLOS ONE, 7, e52643 (2012).,2型糖尿病の発症リスク(6)6) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: BMJ Open Diabetes Res. Care, 3, e000147 (2015).,動脈硬化のリスク(7)7) M. Nakamura, M. Sugiura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis., 26, 808 (2016).が低いことを明らかにした例がある.また,農産物のヒト介入試験では,アレルギー鼻炎症状有症者にメチル化カテキンを多く含有する「べにふうき」緑茶とメチル化カテキンを含まないやぶきた緑茶を飲用させて,「べにふうき」緑茶で有意に目や鼻の症状の悪化が抑制された(8, 9)8) 安江正明,大竹康之,永井 寛,佐藤克彦,光田博充,山本(前田)万里,坂本朱子,薮根光晴,梶本佳孝,梶本修身,田村 学:日本食品新素材研究会誌,8, 65 (2005).9) S. Masuda, M. Maeda-Yamamoto, S. Usui & T. Fujisawa: Allergol. Int., 63, 211 (2014).試験例がある.

しかし,これまでの研究ではいくつかの事例はあるものの,ヒトでのエビデンス獲得を含む総合的な検証が不十分であった.このため,農作物や食品に含有される特定の機能性成分が有する生体調節作用に関して,機能性成分の分析,その作用メカニズムの解析とヒトレベルでの有効性の検証や農産物の栽培法の確立などを行う研究プロジェクト(機能性食品開発プロジェクト,2012~2015年度,総額20億円)(10)10) 農研機構:機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト,http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/index.htmlが実施された.本プロジェクトでは,国立・公立研究機関,大学,民間企業などが連携して,健康上のリスク低減などに効果が期待される農産物やその加工品の開発およびそれらの生産・流通技術の確立を行うとともに,医療機関との連携により,農産物やその加工品について,疾病リスク低減への影響をヒト介入試験にて評価し,栄養・機能性,安全性,特性情報などを盛り込んだ農林水産物データベースを構築して,個人の健康状態に応じたテーラーメイドな提供システム・栄養指導システムの開発を行うことを目的とした.

本プロジェクトで,ヒト介入試験を行って健康上のリスク低減などに効果が期待される効果についての検証を行った農林水産物は,急激な血糖値上昇を抑制する高アミロース米,高β-グルカン大麦,小麦全粒粉,玄米,高テルペノイドゴーヤ,脂質代謝を改善する高リコピン人参,高タンパク質大豆,高ルチンダッタンそば,高メチル化カテキン緑茶,肝機能を改善する高β-クリプトキサンチンカンキツ,認知機能を改善する高ケルセチンたまねぎ,睡眠機能を改善する亜鉛・アスタキサンチン高含有牡蠣・鮭である.表1表1■機能性食品開発プロジェクトで得られたヒト介入試験結果概要11)11) 農研機構:機能性食品開発プロジェクト研究成果集,http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/files/results_collection.pdfにその結果の概要をまとめた(11)11) 農研機構:機能性食品開発プロジェクト研究成果集,http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/files/results_collection.pdf

表1■機能性食品開発プロジェクトで得られたヒト介入試験結果概要11)
品目(品種名)プラセボ機能性成分/1日結果
大麦(キラリモチ)大麦(bgl)β-グルカン2 g12週間摂取後,スタート時の内臓脂肪面積が100 cm2以上の被験者集団で,内臓脂肪面積変化量がプラセボに比べ有意に低下
ダッタンソバ(満天きらり)ソバルチン320 mg12週間摂取して,体脂肪率変化量が4週目,体重変化量が8週目にプラセボに比べ有意に低下
大豆(ななほまれ)大豆(なごみまる)β-コングリシニン5.8 g12週間摂取して,空腹時血中中性脂肪変化量がプラセボに比べ有意に低下
たまねぎ(クエルゴールド)たまねぎ(真白)ケルセチン50 mg24週間摂取後,認知機能検査の変化量が,72歳未満の被験者で,プラセボに比べ有意に低下
ゴーヤトリテルペノイド類を含まない被験品トリテルペノイド類12週間摂取後,血中GLP-1濃度が,プラセボに比べ有意に上昇
緑茶(べにふうき)麦茶カテキン600 mg,メチル化カテキン34 mg12週間摂取後,血中ApoB含有LOX-1リガンド(LAB)変化量,LDLコレステロール値が,プラセボに比べて有意に低下

また,健康に寄与する農林水産物データベース(機能性・食事診断バランスデータベース)を構築し,Web上で公開した.このデータベースには,①「献立ナビ」: 「日本食品標準成分表」掲載データ,喫食頻度の高い料理(約200種)を用いて,「日本人の食事摂取基準」に基づく,望ましい献立の設計を支援するための情報,②「機能性成分含有情報の提供」:利用頻度の高い農産物(約200品目)の分析可能な機能性成分約70成分について,実測データに基づいて機能性成分含有量,機能性食材を用いたメニューのレシピなどの情報,③「機能性のシステマティックレビュー結果の提供」:主として当プロジェクトで扱った食品・機能性成分9件に関するヒト介入試験論文に基づくシステマティックレビュー評価結果(12)12) 農研機構:農産物9品目の研究レビュー(届け出様式作成例),http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/2016/063236.html,⑤「食事バランス診断」:個人の健康状態に対応した栄養指導を実践する栄養ケアステーション用に開発された「食事バランスガイド」に基づく食生活診断機能,⑥調理・加工工程におけるビタミン含量(水溶性,脂溶性)の変動情報などの情報が収載されている.

機能性弁当のヒト介入試験

内臓肥満に起因するさまざまな代謝異常はメタボリックシンドロームと呼ばれ,内臓脂肪面積はメタボリックシンドロームの診断基準となる.大麦,緑茶,大豆など機能性農産物は内臓脂肪を減少させることが報告されており,そのことがさまざまなメタボリックシンドローム予防に寄与していると考えられている.機能性食品開発プロジェクトでは,複合食品の機能性検証として,科学的エビデンスの検証を行った農産物などを組み合わせて,機能性弁当のレシピを構成し,その健康維持増進への効果に関するヒト介入試験を実施した.内臓脂肪面積が100 cm2以上の被験者159名による,機能性農産物を使用した弁当のメタボリックシンドローム改善の有効性を検証した.デザインは,ランダム化プラセボ対照比較試験,比較対照は,機能性農産物を使用しない「おかず」,「茶」(麦茶)および「米飯」(白米)の対照食品(プラセボ),被験食品は,機能性農産物を使用した「おかず」(機能性農産物(機能性成分)として,人参(リコピン,β-カロテン),トマト(リコピン),かぼちゃ(β-カロテン),ほうれん草(ルテイン),たまねぎ(ケルセチン),ケール(ルテイン),パプリカ(カプサンチン),ナス(アントシアニン),さつまいも(アントシアニン),こんにゃく(グリコシルセラミド),大豆(β-コングリシニン),鶏胸肉(イミダソールジペプチド),鮭(アスタキサンチン),イサダ(アスタキサンチン),牡蠣(亜鉛),卵(アスタキサンチン)を食材としたもの),「茶」(カテキン高含有べにふうき緑茶)および「米飯」(50%大麦「キラリモチ」および玄米)であり(被験食の例:図1図1■被験食例(機能性弁当)),3因子の多因子要因1/2実施デザインを採用し,以下の4群に無作為に割り付け,3カ月間平日の昼食時のみ摂取してもらった.すべての弁当のエネルギーは約700 kcal,タンパク質は約28 g,脂質は19 g,炭水化物は約100 gであった.

図1■被験食例(機能性弁当)

(1)表面加工玄米(機能性農林水産物:玄米).(2)牡蠣と鮭のマヨネーズ焼き(高アスタキサンチン鮭,高ミネラル牡蠣).(3)簡単ラタトゥユ(高ケルセチンたまねぎ,高リコピン人参,高アントシアニンナス).(4)かぼちゃとにんじんの甘煮(高β-カロテンかぼちゃ,高リコピン人参).(5)べにふうき緑茶(高メチル化カテキン緑茶).

群1:茶のみ機能性農産物,米飯は白米,おかずは機能性農産物でないものを使用(ポリフェノール0.8 g,食物繊維8.6 g,カロテノイド10 mg)

群2:おかずのみ機能性農産物,茶は麦茶,米飯は白米(ポリフェノール0.2 g,食物繊維8.4 g,カロテノイド15 mg)

群3:米飯のみ機能性農産物,茶は麦茶,おかずは機能性農産物ではないものを使用(ポリフェノール0.2 g,食物繊維10.4 g,カロテノイド10 mg)

群4:3種類いずれも機能性農産物(ポリフェノール0.9 g,食物繊維10.5 g,カロテノイド14 mg)

全期間の80%以上の日で弁当の配布を受けたPPS(Pre Protocol Set;試験プロトコールから逸脱した被験者を除外した集団)解析対象者は137名であった.この介入試験に参加することによる内臓脂肪面積への効果は,PPSで−8.98 cm2となり,臨床的にも統計的にも有意であった(p=0.017)).主要評価項目である内臓脂肪面積への効果のサブグループ解析の結果,試験開始時の内臓脂肪面積が中央値127 cm2より低い被験者に限定すると,被験米飯(玄米および50%大麦混合白飯)の効果はPPSで平均−7.9 cm2であり,p値は0.053とほぼ有意であった.被験米飯については特に女性で有意な(平均値−14.9 cm2p=0.012)減少効果が観察された.副次評価項目では,糖代謝マーカーである1,5-アンヒドログルシトールに関して機能性緑茶(べにふうき緑茶)の飲用群で有意な減少が認められた.このことから,食生活全体の変化と機能性農産物を使用した機能性弁当の連続摂取により,内臓脂肪面積の低減効果などが期待された(13)13) 山本(前田)万里,廣澤孝保,三原洋一,倉貫早智,中村丁次,川本伸一,大谷敏郎,田中俊一,大橋靖雄:日本食品科学工学会誌,64, 23 (2017).

機能性弁当で用いたべにふうき緑茶は,本プロジェクト内の別のヒト介入試験(BMI 25 kg/m2以上,LDLコレステロール120 mg/dL以上の149名の成人男女を対象とした,プラセボ摂取群(麦茶群),やぶきた茶摂取群(やぶきた群),べにふうき茶摂取群(べにふうき群)の12週間の無作為割り付け群間比較試験)で,メチル化カテキンを含む「べにふうき」緑茶(1日当たりメチル化カテキン34 mg,総カテキン600 mg)が,麦茶と比較して有意に血清ApoB含有LOX-1リガンド(変性LDLの指標,LOX-1 ligand containing ApoB(LAB))濃度を低下させた.また,日常的に緑茶を飲む習慣のない群において,麦茶と比較して有意に総コレステロール値およびLDLコレステロール値が低下した.「べにふうき」緑茶は,これらの機序を介して心血管病のリスク低減に寄与する可能性が示唆された.メチル化カテキンを含まないやぶきた緑茶群と麦茶群の間には有意な差は認められなかった(14)14) H. Imbe, H. Sano, M. Miyawaki, R. Fujisawa, M. Miyasato, F. Nakatsuji, F. Haseda, K. Tanimoto, J. Terasaki, M. Maeda-Yamamoto et al.: J. Funct. Foods, 25, 25 (2015).

機能性表示制度と農林水産物の表示での課題

従来,健康や栄養の表示が可能な食品は,特定保健用食品(トクホ),栄養機能食品,特別用途食品であった.トクホは製品ごとに食品の有効性や安全性について審査を受け,表示について国の許可を受ける必要がある.疾病リスク低減表示(規格基準型)では,カルシウム(骨粗鬆症予防),葉酸(障害をもつ子どもが生まれるリスクの低減)が認められている.栄養機能食品は,栄養成分(ビタミン・ミネラル)の補給のために利用される食品で,一日当たりの摂取目安量に含まれる当該栄養成分量を定められた上・下限値の範囲内におさめて注意喚起を行ったうえで栄養成分の機能を表示できる.特別用途食品は,乳児,幼児,妊産婦,病者などの発育または健康の保持もしくは回復の用に供することが適当な旨を医学的,栄養学的表現で記載し,かつ用途を限定したものをいい,許可されたものには許可証票がつけられている.海外では,規格基準型や個別認可型の栄養機能食品,構造・機能食品,疾病リスク低減食品が制度化されており,届出型の機能性表示食品(サプリメントのみ)はアメリカで唯一認められた制度だった.2013年1月から発足した規制改革会議の中で,トクホについては食品ごとに安全性や有効性にかかわるヒト介入試験が必須であり,許可手続に時間と費用がかかるため中小企業にとってハードルが高いことなどの課題が指摘された.そこで,規制改革実施計画(2013年6月14日閣議決定)で,「食の有する健康増進機能の活用」として,いわゆる健康食品などの加工食品および農林水産物に関し,企業などの責任において科学的根拠をもとに機能性を表示できる新たな方策について,2013年度中に検討を開始し,2014年度中に結論を得たうえで実施すると記載された.それを受けて,2015年4月1日から機能性表示食品制度が,食品表示基準の中で施行された(15)15) 機能性表示食品に関する情報(消費者庁):http://www.caa.go.jp/foods/index23.html

機能性表示食品は2017年5月12日現在で902品目が受理されたが,生鮮食品および単一の農林水産物のみが原材料である加工食品は,20品目に満たない.農研機構がかかわって届出・受理された機能性農産物は,三ヶ日みかん(届出番号:A79, A105),べにふうき緑茶(A67, A69)である.機能性食品開発プロジェクトでは,11品目についてヒト介入試験を実施したが,丸ごと食品であるという特性上,薬のような著効は得られなかった.前述のように,農産物の届出が少しでも増加するよう,農産物の研究レビュー(システマティックレビュー:表2表2■農産物の研究レビュー(届出様式作成例)12)12) 農研機構:農産物9品目の研究レビュー(届け出様式作成例),http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/2016/063236.html)を事業者が機能性の根拠として自由に使用できるようにWeb上で公開している.

表2■農産物の研究レビュー(届出様式作成例)12)
品目機能性関与成分機能性表示
ウンシュウミカンβ-クリプトキサンチン本品には,β-クリプトキサンチンが含まれています.β-クリプトキサンチンは骨代謝のはたらきを助けることにより,骨の健康に役立つことが報告されています.
緑茶メチル化カテキン本品にはメチル化カテキン(エピガロカテキン-3-O-(3-O-メチル)ガレート)が含まれます.メチル化カテキンは,ハウスダストやほこりなどによる目や鼻の不快感を軽減することが報告されています.
緑茶エピガロカテキンガレート(EGCG)本品には緑茶EGCGが含まれています.緑茶EGCGには,LDLコレステロール値が高めの方のLDLコレステロール値を下げる機能のあることが報告されています.
ホウレンソウルテイン本品にはルテインが含まれています.ルテインには,光による刺激から目を保護するとされる網膜(黄斑部)の色素量を増加させることが報告されています.
大麦β-グルカン本品には大麦由来β-グルカンが含まれています.大麦由来β-グルカンには,LDLコレステロール値が高めの方のLDLコレステロール値を下げる機能のあることが報告されています.
EPA/DHA本品には魚のEPA・DHAが含まれています.魚のEPA・DHAには,血中中性脂肪が高めの方の血中中性脂肪を下げる機能のあることが報告されています.
大豆β-コングリシニン本品には大豆β-コングリシニンが含まれています.大豆β-コングリシニンには,内臓脂肪が気になる方の内臓脂肪を減少させる機能のあることが報告されています.
リンゴプロシアニジン本品にはりんご由来プロシアニジンが含まれています.りんご由来プロシアニジンには,LDLコレステロール値が高めの方のLDLコレステロール値を下げる機能のあることが報告されています.

今後,さらに機能性農産物の活用を進めるためにはいくつかの課題がある.研究レビューにより機能性表示を行う場合は,機能性関与成分のばらつきを少なくする管理技術開発が必須である.野菜や果実などの生鮮食品は,品種,産地(圃場),栽培時期,栽培方法などで機能性関与成分量が異なり,小売店での販売期間中にも減少する可能性があるため,機能性関与成分のばらつきをいかに小さくするか,全数検査できない場合にはどういったサンプリングを行うかということが課題となる.農林水産省では,その考え方を「機能性表示に向けた技術的対応」としてまとめ,2015年8月24日にWEB上で公開した(16)16) 農林水産省:農林水産物の機能性表示に向けた技術的対応について,http://www.s.affrc.go.jp/docs/kinousei_pro/reference.htm.機能性関与成分表示値を設定するための計算用エクセルファイルも用意されている.また,どうしても表示値を下回る可能性がある場合は,「○○(機能性関与成分)の含有量が一定の範囲内に収まるよう,栽培・出荷などの管理を実施しています.しかし,△△は生鮮食品ですので,◇◇(ばらつきの要因)などによって,○○(機能性関与成分)の含有量が表示されている量を下回る場合があります.」といった注意書きを付すことができると機能性表示のガイドライン(消費者庁)に記載されている.今後は,生鮮食品や単一の農林水産物のみが原材料である加工食品に含まれる機能性関与成分を「非破壊で全数測定」できるような高精度オンライン計測機の開発を進めていくことが必要であり,それが消費者の機能性表示生鮮食品への受容性を高めることにもなる.

今までの研究例が少なく研究レビューの実施が困難な農産物も多々ある.その場合は,最終製品(農産物そのもの)で臨床試験を行う必要があるが,臨床試験では,2つの農産物を一定期間摂取して,両群間の農産物の場合は,対照となるプラセボ(機能性関与成分が含まれていない見掛けなどが同様の被験食)を選定,製造するのが困難な場合が多い.農産物の場合は,多くの場合,品種を変えて機能性関与成分含有量の差異を出すのだが,機能性関与成分が全く含まれていない同種の農産物を見つけることが難しく,プラセボにも機能性関与成分が含まれていて効果を検証したいアクティブ農産物との差があまりない場合は,効果の差も検出しにくい.今後は,農産物など丸ごと食品の有効性を評価するヒト介入試験のプロトコールを別途定めていくことも大切であるし,ある程度機能性関与成分の機能性を固定して一日摂取目安量を定め,栄養成分のようにいくつかの農産物からその量を摂取していくことも考えていく必要があるであろう.また,一日摂取目安量が多くなって食事バランスを崩さないためにも,機能性関与成分を通常の品種より多く含む農産物品種の開発や機能性農産物の組み合わせによる複合効果の検証なども必要となる.

おわりに

規制改革会議の言うところの「新たな機能性表示」は,「農林水産物の機能性表示」という点に言及しているところが,今後の機能性農作物開発に大きく影響すると考えられる.このように,活気づいてきた食品機能性分野であるが,食品機能性に関係する者が実施しなければいけないのは,科学的根拠が明らかで健康維持増進に役立ち,美味しくて安全な食品を国民に届けるための信頼性のある研究を行い,その情報を正しく伝えていくことである.生活習慣病の予防効果を明らかにして,栄養成分や機能性成分を多く含む農林水産物を使ったレシピやエビデンスに関する情報を消費者に届け,国民の健康の維持増進に寄与することを目指していく必要がある.機能性としては,生活習慣病予防だけではなく,超高齢化のなかで健康寿命延伸に大きく寄与すると考えられるロコモティブシンドローム予防,脳機能改善(認知機能改善,ストレス軽減など),老化制御作用などの解明が期待されている.また,健康な人がその健康を維持し,活力ある超高齢者になるための,健康な人のための食生活提案に資する研究も必要となる.これらの研究成果は,日本に続いて超高齢化していく外国への有益な情報となると考えられる.日本の農林水産物の付加価値を向上させるためにも,機能性農林水産物を活用し,機能性が表示された製品が多く上市されることが期待される.国民の健康維持増進に寄与できる機能性農産物が手軽に手に入るような環境を作るため,都道府県や意欲ある事業者と連携しながら,機能性表示農産物開発を加速していきたい.

Reference

1) Franmigham heart study: https://www.framinghamheartstudy.org/participants/original.php

2) Seven countries study: http://www.sevencountriesstudy.com/

3) S. Kuriyama, T. Shimazu, K. Ohmori, N. Kikuchi, N. Nakaya, Y. Nishino, Y. Tsubono & I. Tsuji: JAMA, 296, 1255 (2006).

4) Y. Tomata, K. Sugiyama, Y. Kaiho, K. Honkura, T. Watanabe, S. Zhang, Y. Sugawara & I. Tsuji: Am. J. Geriatr. Psychiatry, 24, 881 (2016).

5) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: PLOS ONE, 7, e52643 (2012).

6) M. Sugiura, M. Nakamura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: BMJ Open Diabetes Res. Care, 3, e000147 (2015).

7) M. Nakamura, M. Sugiura, K. Ogawa, Y. Ikoma & M. Yano: Nutr. Metab. Cardiovasc. Dis., 26, 808 (2016).

8) 安江正明,大竹康之,永井 寛,佐藤克彦,光田博充,山本(前田)万里,坂本朱子,薮根光晴,梶本佳孝,梶本修身,田村 学:日本食品新素材研究会誌,8, 65 (2005).

9) S. Masuda, M. Maeda-Yamamoto, S. Usui & T. Fujisawa: Allergol. Int., 63, 211 (2014).

10) 農研機構:機能性をもつ農林水産物・食品開発プロジェクト,http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/index.html

11) 農研機構:機能性食品開発プロジェクト研究成果集,http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/files/results_collection.pdf

12) 農研機構:農産物9品目の研究レビュー(届け出様式作成例),http://www.naro.affrc.go.jp/project/f_foodpro/2016/063236.html

13) 山本(前田)万里,廣澤孝保,三原洋一,倉貫早智,中村丁次,川本伸一,大谷敏郎,田中俊一,大橋靖雄:日本食品科学工学会誌,64, 23 (2017).

14) H. Imbe, H. Sano, M. Miyawaki, R. Fujisawa, M. Miyasato, F. Nakatsuji, F. Haseda, K. Tanimoto, J. Terasaki, M. Maeda-Yamamoto et al.: J. Funct. Foods, 25, 25 (2015).

15) 機能性表示食品に関する情報(消費者庁):http://www.caa.go.jp/foods/index23.html

16) 農林水産省:農林水産物の機能性表示に向けた技術的対応について,http://www.s.affrc.go.jp/docs/kinousei_pro/reference.htm