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タンパク質を鋳型にして薬剤を創る低分子の標的誘導型自己組織化によるタンパク質間相互作用の調節

Junko Ohkanda

大神田 淳子

信州大学学術研究院農学系

Published: 2017-10-20

ポストゲノム創薬において,細胞内タンパク質間相互作用(protein–protein interactions; PPIs)を制御する合成分子の創出が重要な課題となっている(1)1) D. E. Scott, A. R. Bayly, C. Abell & J. Skidmore: Nat. Rev. Drug Discov., 15, 533 (2016)..低分子標的の枯渇が指摘されている中,未開拓の創薬標的として期待されているPPIsだが,その作用面が広く浅いだけでなく動的でもあり,低分子阻害剤の開発が難しい.こうした状況から,従来の創薬では排除されてきた分子量600~10,000程度の中分子が期待されているが,煩雑な有機合成プロセスと細胞デリバリの問題が常に存在する.一方,人工低分子の自己組織化により生じる集積体には生体高分子の特異的分子認識能と生物活性を示すものが知られており,医薬・化学生物学研究への応用の観点から興味がもたれている.本稿では,筆者らが行った標的タンパク質を鋳型とする速度論支配的人工リガンド合成(kinetically controlled target-guided synthesis; KTGS)による細胞内中分子合成とPPI制御に関する研究について,背景とともに紹介したい.

標的タンパク質を鋳型として低分子を化学反応で連結する研究については,平衡反応を用いる熱力学的支配的な系と不可逆反応を用いる速度論的支配的な系が知られており,後者(KTGS)は2003年にSharplessとFinnらによって提唱された.彼らはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)存在下,種々のアルキンとアジド誘導体のライブラリ間でクリック反応を行うことによりAChEの活性サイトに最も高い親和性をもつ付加体を探索し,フェムトモルレベルのAChE阻害剤を見いだすことに成功した(図1図1■In vitro KTGSによる阻害剤探索とin-cell KTGSによるPPI阻害剤合成左上)(2)2) W. G. Lewis, L. G. Green, F. Grynszpan, Z. Radic, P. R. Carlier, P. Taylor, M. G. Finn & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 41, 1053 (2003)..この概念はその後,構造が既知の酵素を対象としたライブラリ基盤の酵素阻害剤の探索法として,HIVプロテアーゼ,キチナーゼ,HDAC8などの酵素阻害剤開発に応用されてきた(3)3) E. Queis, C. Sabot & P.-Y. Renard: Chem. Commun. (Camb.), 51, 12158 (2015)..2009年にはHeathらが,構造情報がないAkt2のC末端オリゴペプチド配列に対してペプチドプールを用いたKTGSを適用し,新規阻害剤を得ることに成功している(4)4) A. Nag, S. Das, M. B. Yu, K. M. Deyle, S. W. Millward & J. R. Heath: Angew. Chem. Int. Ed., 48, 13975 (2013)..KTGSで用いられる反応としてはクリック反応が一般的だが,Manetschらはチオ酸誘導体とスルホニルアジド誘導体間のスルホニルアミド生成反応を用い,Bcl-XL阻害剤の合成を達成している(図1図1■In vitro KTGSによる阻害剤探索とin-cell KTGSによるPPI阻害剤合成右上)(5)5) X. Hu, J. Sun, H.-G. Wang & H. R. Manetsch: J. Am. Chem. Soc., 130, 13820 (2008)..このように,化合物ライブラリを基盤とするin vitro KTGSは,タンパク質を多点認識する人工リガンドの探索に有用であり,多くの新規酵素阻害剤の発見に寄与してきた.筆者らは,細胞内標的タンパク質が誘導するKTGSが可能になれば,中分子薬の細胞透過性の課題を解決する糸口となり得ると考え,細胞内リン酸化信号系の制御タンパク質を標的とするin-cell KTGSならびにin situで発生させた人工リガンドによるPPIsの制御を計画した(図1図1■In vitro KTGSによる阻害剤探索とin-cell KTGSによるPPI阻害剤合成下).

図1■In vitro KTGSによる阻害剤探索とin-cell KTGSによるPPI阻害剤合成

(上)遺伝子組換え標的タンパク質を鋳型に用い相補的な反応基をもつ低分子ライブラリ間のクリック反応(左)とスルホクリック反応(右)による阻害剤探索(下)14-3-3タンパク質と安定な3者会合体を形成する天然物フシコクシン(FC)とペプチドリガンドを基盤としてアルデヒド含有FC誘導体とアミノオキシ含有ペプチド誘導体を合理設計した.両者は膜を透過し細胞内で対応する連結体に変換され,14-3-3PPIを阻害した.

14-3-3は真核細胞に普遍的に発現する制御タンパク質で,作用タンパク質のリン酸化セリン・トレオニンを含む共通配列を認識して結合し,リン酸化信号伝達系のPPIsを制御する.一方,ジテルペン配糖体フシコクシン-A(FC)は,植物14-3-3とH-ATPaseのC末端14-3-3結合モチーフQSYpTVペプチド(pT:リン酸化トレオニン)と安定な3者会合体を形成することが知られている.われわれは,適切な反応点を導入したFCとQSYpTVフラグメントを用いれば,細胞内でのライゲーション反応を経て,14-3-3の結合溝を1分子で完全に覆う中分子阻害剤を発生させ,リン酸化信号系を制御できるだろうと考えた.試行錯誤の結果,FCの12位水酸基にo-ホルミルベンジル基を,QSYpTVペプチドのC末端カルボキシル基とpT残基をそれぞれアミノオキシ基とD残基に変換した化合物によるオキシムライゲーションの設計にたどり着いた.ドッキング計算から,3者会合体形成時にFCのアルデヒド酸素とペプチドのアミノオキシ基の間に水素結合(2.03 Å)の形成が示唆され,2つの反応点の間の近接効果が期待された.

両者のオキシム生成反応に与える14-3-3の効果を評価したところ,14-3-3がない場合には緩やかに進行したが,等量の14-3-3の添加で反応が顕著に加速し,24時間後の縮合体の収率は90%に達した.またHEK293細胞を用いた実験から本反応は細胞内でも進行し,縮合体がおよそ45%程度の収率で生成することが明らかになった.なお等温滴定カロリメトリーによる滴定実験により,縮合体は14-3-3と1 : 1複合体を形成することを確認した.

FCとペプチド誘導体が膜を透過し,14-3-3に解離定数0.37μMの親和性をもつ人工リガンドが生じることがわかったので,続いて細胞増殖阻害活性を検証した.FCとペプチド誘導体を単剤で用いた場合,顕著な細胞毒性は見られなかった.化学合成した縮合体は高濃度においても不活性であり,細胞透過性の欠如が示唆された.一方,細胞をFCおよびペプチド誘導体の等量混合物で処理した場合には顕著な阻害活性が観察され,FCのアルデヒドを除去した対照化合物を用いると活性がキャンセルされたことから,細胞増殖阻害活性が細胞内で発生した縮合体に起因することが明らかになった.さらに,FLAG-14-3-3安定発現株を用いた共免疫沈降実験を実施し,縮合体が14-3-3のPPIsを顕著に抑制すること,同様の条件下でFCあるいはペプチド誘導体は全く影響を及ぼさないことを明らかにした.以上の結果から,FCおよびペプチド誘導体は,細胞内に取り込まれてオキシム誘導体を与え,生じた誘導体が14-3-3PPIs阻害剤として作用し,顕著な細胞増殖阻害を誘導したと結論した(6)6) P. Parvatkar, N. Kato, M. Uesugi, S. Sato & J. Ohkanda: J. Am. Chem. Soc., 137, 15624 (2015).

低分子の自己組織化を医薬品開発へ活用するには選択性やデリバリの問題などいくつものハードルを乗り越える必要があり,決して易しい道ではないが,新しい薬剤設計の考え方やPPIプロドラッグ法の提案につながる可能性を秘めていると考えている.ほかの細胞内標的への適用を含め,方法論としての妥当性を検証していきたい.

Reference

1) D. E. Scott, A. R. Bayly, C. Abell & J. Skidmore: Nat. Rev. Drug Discov., 15, 533 (2016).

2) W. G. Lewis, L. G. Green, F. Grynszpan, Z. Radic, P. R. Carlier, P. Taylor, M. G. Finn & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 41, 1053 (2003).

3) E. Queis, C. Sabot & P.-Y. Renard: Chem. Commun. (Camb.), 51, 12158 (2015).

4) A. Nag, S. Das, M. B. Yu, K. M. Deyle, S. W. Millward & J. R. Heath: Angew. Chem. Int. Ed., 48, 13975 (2013).

5) X. Hu, J. Sun, H.-G. Wang & H. R. Manetsch: J. Am. Chem. Soc., 130, 13820 (2008).

6) P. Parvatkar, N. Kato, M. Uesugi, S. Sato & J. Ohkanda: J. Am. Chem. Soc., 137, 15624 (2015).