解説

果実の香気分析GCにおいかぎ分析と官能評価

Volatile Constituents of Fruits: GC-Olfactometry and Sensory Evaluation

Yukiko Tokitomo

時友 裕紀子

山梨大学大学院教育学研究科

Published: 2017-10-20

果実のおいしさは,適度な甘味とさわやかな酸味,多汁によるみずみずしさに依るところが大きく,さらに,多くの果実はその特徴的な香りが重要である.香気分析は機器分析により得られる化学特性に,ヒトによる感覚特性を組み合わせて行うことが求められる.生鮮パイナップルを例に,AEDA法を用いたGCにおいかぎ分析と定量および官能評価を併用した果実の香気寄与成分の解明について紹介する.なお,本稿で果実とは,日本食品標準成分表(1)に収載されている果実類を指すこととする.

果実のフレーバー

果実の成分の大部分は水分であり,果実のみずみずしさに影響する重要な成分である.多くの果実の水分含量は80~90%である.果実のおいしさの一つは甘味であるが,それは主にブドウ糖,果糖,ショ糖の3種の糖類によるもので,ほかに糖アルコールのソルビトールを含む果実がある.酸味も果実の爽快なフレーバーに重要で,クエン酸,リンゴ酸が多く,酒石酸,キナ酸はそれぞれぶどうとキウイフルーツに特徴的に多く存在している有機酸である.

果実の完熟状態は,デンプンの分解による糖類の増加によって甘味が増し,酸味の減少,苦味や渋み成分の不活性化,色素成分の変化など多くの成分の変化が起こるとともに,組織が軟らかくなる状態である.あわせて,低分子の揮発性物質である香気成分が生成し,果実の成熟を認知させる.

果実の香気成分

果実のおいしさに重要な香気成分は,ほかの食品と同様に多数の成分から構成されている.果実の種類が異なっても,香気成分は共通することが多く,その量比が異なることにより,それぞれの果実の香りとなる.たとえば,柑橘類ではテルペン炭化水素やテルペンアルコールの種類や量が多く,りんご,いちご,バナナ,メロンなどはエステル類,ももはラクトン類が特徴的な香気成分であるが,これらの香気成分はほかの果実にも存在していることが多い.

いちごとパイナップルの香気成分は共通のものが多く,その組成比が異なるだけであることがわかっている(2, 3)2) P. Schieberle & T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 45, 227 (1997).3) Y. Tokitomo, M. Steinhaus, A. Büttner & P. Schieberle: Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 1323 (2005).表1表1■いちごとパイナップルの香気寄与成分のように両者の香気寄与成分は,果実香を有する2-メチルプロピオン酸およびブタン酸のエステルと,カラメル様,パイナップル様の4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノン(フラネオール)が共通している.それらにヘキセナールやメチルブタノエート,2,3-ブタンジオンが加わることによりいちごの香りが形成され,パイナップルの場合は,ウンデカトリエンのような特徴香成分やダマセノンが加わることによりパイナップル香気が形成される.

表1■いちごとパイナップルの香気寄与成分
香気成分香気の性質濃度μg/kgOAV*
いちご2)2) P. Schieberle & T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 45, 227 (1997).
4-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanoneカラメル様16,2391,624
Z)-3-Hexenalグリーン,リーフ様3331,332
Methyl butanoate果実様4,957991
2,3-Butanedioneバター様1,292431
Ethyl 2-methylpropanoate果実様43430
Ethyl butanoate果実様410410
Methyl 2- and 3-methylbutanoates果実様48150
Ethyl 2- and 3-methylbutanoates果実様742
パイナップル3)3) Y. Tokitomo, M. Steinhaus, A. Büttner & P. Schieberle: Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 1323 (2005).
4-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone甘い,パイナップル様26,8002,680
Ethyl 2-methylpropanoate果実様,甘い48.02,400
Ethyl 2-methylbutanoate果実様1571,050
Methyl 2-methylbutanoate果実様,りんご様1,190595
1-(E,Z)-3,5-Undecatriene新鮮な,パイナップル様8.89445
β-Damascenone果実様,甘い0.083111
Ethyl butanoate果実様75.275.2
同じマークは同じ香気成分を示す.*OAV: 濃度/水中閾値.

果実の生鮮香気を得る

香気成分の抽出方法は多様であり,対象とする食品や目的によって使い分ける.加熱操作による香気抽出には,水蒸気蒸留法が以前から採用されている.連続水蒸気蒸留抽出法(Simultaneous distillation and extraction; SDE法)(4)4) G. B. Nickerson & S. T. Likens: J. Chromatogr. A, 21, 1 (1966).は蒸留と抽出が同時にでき,抽出溶媒の量も少なく効率的に香気濃縮物を得ることができる.この方法は茶など熱水抽出が適したものや食品を煮熟した際のにおいを得るのに適している.

一方,果実の生鮮香気を抽出する場合は熱の影響をなるべく避けなければならない.果実から揮発する成分(ヘッドスペースガス成分)を吸着させて濃縮する方法はヘッドスペース法と言われ,動的ヘッドスペース法(DHS法)と静的ヘッドスペース法(SHS法)がある.最近では後者の方法の一つであるSPME(Solid Phase Micro Extraction)を用いた報告が多く見られる.詳細については,香りの科学全般について書かれた初学者にもわかりやすい書(5)5) 長谷川香料株式会社:“香料の科学”,講談社,2013.を参考にされたい.

研究機関で多く採用されている方法例:SAFE

Engelらが考案したSAFE(Solvent-Assisted Flavor Evaporation)装置(6)6) W. Engel, W. Bahr & P. Schieberle: Eur. Food Res. Technol., 209, 237 (1999).は加熱の影響を受けずに香気成分を効率良く得ることができ,現在ではわが国でも多くの香気研究者が用いている.装置内を10−3 Pa以下の減圧状態にし,トラップ部分を液体窒素で冷却することにより,揮発性成分をトラップすることができる.

図1図1■SAFE装置の概要のaの部分に溶媒抽出物や,果汁などの水溶液を入れ,徐々に装置内に注ぐことによりcの丸底フラスコに揮発性成分と溶媒または水がトラップされる.溶媒抽出物に比べて,コーヒーや茶など水溶液の場合は冷却用の液体窒素量が多く必要で,時間もかかる.トラップされた香気成分は,溶媒抽出物の場合は,別途,蒸留装置を用いて溶媒を留去し,水溶液の場合は溶媒抽出を行って,香気濃縮物を得る.脂肪や色素成分など不揮発性成分は,装置内のbの丸底フラスコにとどまることで取り除くことができ,ガスクロマトグラフ(GC)注入口で高温にさらされることで起こる成分の熱分解やGCカラムの汚染を避けることができる.

図1■SAFE装置の概要

香気成分の機器分析

香気分析ではGCを用いて,成分の分離を行う.また,ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)を用いて構造に関する情報を得,標準物質や文献データによるGC保持時間の一致により化合物の同定を行う.現在は各成分のにおい(香り)を評価しながら分析するガスクロマトグラフ-オルファクトメトリー分析(GCにおいかぎ分析,GC-Olfactometry; GC/O)を行うことが主流である.オルファクトメトリーとは,嗅覚を意味するolfactoryと計測法を意味するギリシャ語の-metryからなる言葉である.においの性質は同定のための重要な情報となる.

AEDA法

AEDA法(Aroma Extract Dilution Analysis)はGCのカラムから溶出する香気成分を人間の鼻でかぎ分けて(Sniffing)検出する,GC/Oの一方法である.GCによる機器分析と官能評価により各香気成分の強度を数値化するもので,Groschらにより提唱された(7, 8)7) F. Ullrich & W. Grosch: Z. Lebensm. Unters. Forsch., 184, 277 (1987).8) P. Schieberle & W. Grosch: Z. Lebensm. Unters. Forsch., 185, 111 (1987)..食品などの香気における各成分の寄与度を推定することができ,香気寄与成分分析に用いられている(9)9) P. Schieberle: “New Developments in Methods for Analysis of Volatile Flavor Compounds and Their Precursors, in Characterization of Food: Emerging Methods,” ed. by A. G. Gaonkar, Elsevier Science B.V., 1995, p. 403.

AEDA法は香気濃縮物を一定の倍率で希釈し常に同量,同条件でGC注入する.GC分離後,TCD検出器を通過させるか,またはカラム出口で検出器側とにおいかぎ口に分岐させることにより,溶出された成分のにおいを鼻でかぎ,においの特徴を記録する(図2図2■GCにおいかぎ分析(GC/O)).すべてのピークににおいが感じられるわけではなく,また,ガスクロマトグラム上に記録されないような微量な成分に強いにおいを感じることも多い.閾値の低い香気成分の検出に有効な方法である.

同じ方法ですべてのにおいが感じられなくなるまで分析を繰り返し,においが感知できる各香気成分の希釈倍率(最低濃度)をFD factor(Flavor Dilution factor)として表す.各成分の保持時間(保持指標)を横軸,FD factorを縦軸にとったグラフをアロマグラムと呼ぶ(図3図3■AEDA法).

図2■GCにおいかぎ分析(GC/O)

図3■AEDA法

定量分析

微量成分である香気成分の定量は難しいが,一般に定量にはGCで得られたピーク面積を使用する.内部標準法では,各物質の検出器に対する感度が異なるため,レスポンスファクターを算出して定量する.GC-MSでの定量にはトータルイオン強度(TIC)を用いる方法や,マスクロマトグラム,シングルイオンクロマトグラムを利用しての定量,および内部標準物質を添加しての定量も行われている.安定同位体希釈法(Stable Isotope Dilution Assay; SIDA)(9)9) P. Schieberle: “New Developments in Methods for Analysis of Volatile Flavor Compounds and Their Precursors, in Characterization of Food: Emerging Methods,” ed. by A. G. Gaonkar, Elsevier Science B.V., 1995, p. 403.は,香気成分の構造の一部を重水素またはC13でラベルした物質を合成し,これを内部標準物質として香気成分の抽出段階から添加し,GC-MS分析をすることでより正確な定量が可能な方法である.

官能評価

官能とは「感覚器官の働き」を意味する.視覚,聴覚,味覚,嗅覚,触覚を使って,モノを検査したり,評価したりすることを官能検査(評価)と言う(10)10) 古川秀子:“おいしさを測る食品官能評価の実際”,幸書房,2007, p. 1..食品の官能評価においては,味,におい,テクスチャー,咀嚼の音などすべての感覚を総合した広義の「フレーバー」が評価の対象となるが,個々の因子についてのみ評価することも多い.官能評価の手法については成書(10)10) 古川秀子:“おいしさを測る食品官能評価の実際”,幸書房,2007, p. 1.を参考にされたい.

最近の香気研究で用いられている方法の一つにQDA法がある.訓練を受けたパネルにより,試料となる食品のにおいの特性を表現した用語を決定し,その特性表現用語について,対象とする試料の評価を行うものである.結果はレーダーチャートによるプロファイルで示されることが多い.

パイナップルの香気寄与成分の特定

以上の分析方法の具体例として,筆者らが行ったパイナップル果実の香気寄与成分の特定に関する研究(3)3) Y. Tokitomo, M. Steinhaus, A. Büttner & P. Schieberle: Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 1323 (2005).を解説する.また,この研究方法を応用して行った香気特性と保存温度の関連(11)11) 時友裕紀子,戸栗彩花,小宮山幸子:山梨大学教育人間科学部紀要,15, 185 (2013).についても述べる.

1. においかぎ分析

パイナップルの果肉をジクロロメタン抽出後SAFE装置にて精製して得た香気濃縮物および果肉のヘッドスペースガスの各々の香気寄与成分をAEDA法により選抜し,さらにSIDAを行い,生鮮パイナップルの香気寄与成分の特定を試みた.

香気濃縮物をAEDA法で分析した結果からFDファクターの大きい成分を選び,SIDAによりGC-MSを用いて定量した結果が表2表2■パイナップル中の香気寄与成分のFDファクター,閾値,濃度とOdor Activity Values (OAVs)である.得られた定量値(パイナップル中の濃度)を閾値(文献値)で除した値がOAV(Odor Activitiy Value)であり,この値が大きいと香気への寄与が大きいと考える(9)9) P. Schieberle: “New Developments in Methods for Analysis of Volatile Flavor Compounds and Their Precursors, in Characterization of Food: Emerging Methods,” ed. by A. G. Gaonkar, Elsevier Science B.V., 1995, p. 403.

表2■パイナップル中の香気寄与成分のFDファクター,閾値,濃度とOdor Activity Values (OAVs)
No.香気成分香気の性質FDファクターa) n (2n閾値(μg/L水中)濃度(μg/kg)OAVb)
1Methyl 2-methylpropanoate果実様,甘い36.315424.2
2Ethyl 2-methylpropanoate果実様,甘い60.0248.02400
3Methyl 2-methylbutanoate果実様,りんご様1121190595
4Ethyl butanoate果実様2175.275.2
5Ethyl 2-methylbutanoate果実様120.151571050
6Octanal柑橘様,油脂様1819.12.40
71-(E,Z)-3,5-Undecatriene新鮮な香り,パイナップル様50.028.89445
8β-Damascenone果実様,甘い30.000750.083111
9δ-Octalactoneココナッツ様640078.20.20
104-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone甘い,パイナップル様1010268002680
11δ-Decalactone甘い,ココナッツ様716032.70.20
12Vanillinバニラ様7255.990.24
a)FFAPキャピラリーカラムを用いたGC/Oによる,b)OAV: パイナップル中の濃度/水中閾値

この結果からエチル2-メチルプロパノエート,メチル2-メチルブタノエート,エチル2-メチルブタノエート,1-(E,Z)-ウンデカトリエン,β-ダマセノン,および4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンがパイナップル香気への寄与が高いと考えられた.

2. 官能評価

表2表2■パイナップル中の香気寄与成分のFDファクター,閾値,濃度とOdor Activity Values (OAVs)のパイナップル中の濃度(定量値)を用いて,標準物質を計量し,パイナップル香気再構成液を調製した.官能評価はオルソネーザル(前鼻腔性)で行ったが,パイナップ果汁と条件を近づけるため,パイナップル中に含まれるブドウ糖,果糖,ショ糖やクエン酸,リンゴ酸を添加した再構成液を調製し,官能評価に用いた.あらかじめ選抜,訓練されたパネル8名が,図4図4■パイナップル果汁と香気再構成液のオーダープロファイルにあるパイナップル香気の特性用語の決定を行い,さらに香気再構成液とパイナップル果汁における7つの香気特性について,非常に弱い~非常に強い,の7段階の評点法で判定した.

図4■パイナップル果汁と香気再構成液のオーダープロファイル

判定の結果は香気再構成液とパイナップル果汁はよく似たオーダープロファイルを示しており,調製した香気再構成液はパイナップルの生鮮果汁の香気を再現していることが認められた(図4図4■パイナップル果汁と香気再構成液のオーダープロファイル).

この結果から,香気再構成液を用いたオミッションテストによりパイナップルの香気寄与成分の特定を試みた.パイナップルの生鮮香気を再現している香気再構成液から表3表3■高いOAV香気成分のオミッションテストの物質を除いた6種類の香気再構成液を調製し,15名のパネルによる3点識別試験法で元の香気再構成液と識別が可能であるか試験した.たとえば,表2表2■パイナップル中の香気寄与成分のFDファクター,閾値,濃度とOdor Activity Values (OAVs)の12種類からなる香気再構成液(A)と,(A)からβ-ダマセノンを除いた11種類の香気再構成液の両者が識別可能であるかを試験するものであり,識別可能である場合,除かれたβ-ダマセノンはパイナップル香気において特に重要な成分と考えることができる.その結果,表3表3■高いOAV香気成分のオミッションテストのように,エチル2-メチルブタノエートを除いた再構成液と4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3(2H)-フラノンを除いた再構成液が再構成液(A)と識別され,両者がパイナップル香気にとって特に重要であることが明らかになった.

表3■高いOAV香気成分のオミッションテスト
香気再構成液より除外した成分香気再構成液とは香気が違うとしたパネルの人数(パネル15名中)
Ethyl 2-methylpropanoate8
Methyl 2-methylbutanoate4
Ethyl 2-methylbutanoate9*
1-(E,Z)-3,5-Undecatriene7
β-Damascenone5
4-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone11**
* p<0.05, ** p<0.01.

3. パイナップルの保存と香り

熱帯果実のパイナップルは7°C前後に保存することで味や香りが保たれるが,低すぎる冷蔵温度では低温障害により食味が低下し,特に香りの変化が大きい.

日本ではフィリピン産のパイナップルが最も多く販売されている.フィリピンの現地で計画的に作付,栽培,収穫され,収穫後直ちに冷蔵されて5日にわたる航海の後,日本の港に到着する.港に併設した倉庫で防疫後,各地の市場に送られ,収穫7日後には店頭に並ぶ.パイナップルは追熟をさせる果実ではないので,畑で適熟と判断されたものを7°C前後の冷蔵温度を保って運搬されており,したがって入手後はなるべく早く食べるとよい.

パイナップルのフレーバーに及ぼす保存温度の影響を明らかにするため,2°C,7.2°C,13.5°Cで保存,運搬したパイナップルを試料とし,AEDA法と官能評価を用いた前述の方法による香気分析を試みた(11)11) 時友裕紀子,戸栗彩花,小宮山幸子:山梨大学教育人間科学部紀要,15, 185 (2013).

図5図5■AEDA法を用いたGC/O分析によるパイナップルの保存温度とその香気の比較のように,パイナップルの保存には高温である13.5°C保存は濃厚な香りを有し,特にエステル類のFDファクターが高く,過熟の状態であることが示された.低温障害があると考えられる2°C保存もエステル類などのFDファクターが高い傾向にあった.2°C保存と13.5°C保存ではゴム様,あるいは発酵したミカンを思わせる不快臭が特徴的であり,保存に不適である両温度に類似したにおいの特徴があることは興味深い.保存適温の7.2°Cは甘い香りが強すぎることがなく全体として調和のとれた香気組成であることが示唆された.本研究については官能評価も実施し,香気分析結果を裏づける結果を得ている.

図5■AEDA法を用いたGC/O分析によるパイナップルの保存温度とその香気の比較

写真は収穫後,表記の温度に保存し7日目のパイナップルである.1. Ethyl 2-methylpropanoate, 2. Methyl 2-methylbutanoate, 3. Ethyl 2-methylbutanoate, 4. 1-(E,Z)-3,5-Undecatriene, 5. β-Damascenone, 6. 4-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone, 7 & 8. Unknown compounds.

おわりに

以上のように,AEDA法による香気分析と官能評価を組み合わせることが香気寄与成分の探索に有効である例をパイナップルで示した.柑橘類では,AEDA法と香気の再構成試験およびオミッションテストにより,オレンジとグレープフルーツ果汁の香気寄与成分と加熱による香気変化に関与する成分が報告されている(12)12) 熊沢賢二,和田善行,増田秀樹:食科工,54, 266 (2007)..果汁に限らず茶類など加熱に伴うオフフレーバー成分はごく微量なため解明困難であり,また,僅かな成分変化が香りに大きく影響し,品質劣化の原因となる.ヒトの感覚と機器分析を組み合わせた分析手法が重要である.

Reference

1) 文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会:“日本食品標準成分表2015年版(七訂)”, 2015.

2) P. Schieberle & T. Hofmann: J. Agric. Food Chem., 45, 227 (1997).

3) Y. Tokitomo, M. Steinhaus, A. Büttner & P. Schieberle: Biosci. Biotechnol. Biochem., 69, 1323 (2005).

4) G. B. Nickerson & S. T. Likens: J. Chromatogr. A, 21, 1 (1966).

5) 長谷川香料株式会社:“香料の科学”,講談社,2013.

6) W. Engel, W. Bahr & P. Schieberle: Eur. Food Res. Technol., 209, 237 (1999).

7) F. Ullrich & W. Grosch: Z. Lebensm. Unters. Forsch., 184, 277 (1987).

8) P. Schieberle & W. Grosch: Z. Lebensm. Unters. Forsch., 185, 111 (1987).

9) P. Schieberle: “New Developments in Methods for Analysis of Volatile Flavor Compounds and Their Precursors, in Characterization of Food: Emerging Methods,” ed. by A. G. Gaonkar, Elsevier Science B.V., 1995, p. 403.

10) 古川秀子:“おいしさを測る食品官能評価の実際”,幸書房,2007, p. 1.

11) 時友裕紀子,戸栗彩花,小宮山幸子:山梨大学教育人間科学部紀要,15, 185 (2013).

12) 熊沢賢二,和田善行,増田秀樹:食科工,54, 266 (2007).