巻頭言

食(=農芸化学)ブームの再来に乗ってさらなる発展を

Michio Komai

駒井 三千夫

東北大学大学院農学研究科(栄養学分野)

Published: 2017-12-20

農芸化学は,われわれが大学に入学した1970年代は高度成長期後半で工学系の陰に隠れて一見古めかしい言葉として聞こえた時代だった.しかし,今はこの「農芸化学」が復活しつつある状況にあると言っても過言ではない.昨今,一時は消えた旧国立大学で使われていた農芸化学科も復活しつつあるし,大学受験生の農学部希望者が増えているのは全国的な傾向であろうと思われる.大震災やそれに伴う原発事故があり,環境問題がクローズアップされたことや,食と健康の問題が重要であると,多くの国民が認識し直したことなどによるものであろう.こうした環境・食料・健康の課題は,まさに農学部が扱う研究領域にある.最近88歳を過ぎた恩師にうかがったところ,大戦直後の1950年頃の食糧難時代には「食」のブームがあり,多くの優秀な受験生が農学部を受験したそうである.「食」が人類の生存に最も大切であることを,当時の国民全体が認識した時代だったからであろう.

昨今,わが国は超高齢化時代に入り,国民の病気を治療するのに要する経費が多過ぎて,医療費が国の負担になっているという.医療費を削減するには,病気にならないような食生活をしなければならないという国の施策もあり,厚生労働省の受託研究・委託研究なども,食品による疾病予防などの公募項目が増えてきたと言って良い.「食」ブームの再来と言えよう.しかし,厚労省の採択課題と配分先を見ると,非臨床試験でも医歯薬学系の研究者に偏っている傾向があるように見受けられる.食品や栄養を専ら研究してきた農芸化学領域の研究者が少ないのでは,役立つ研究も少なくなるのではないかと危惧される.一方で,農水省関係の受託研究・委託研究公募では,医歯理薬学系の先生方の応募が多く見られるようになった.いずれにしても国民の健康を第一に考えるのであれば,異分野連携の取組が必要であろう.その観点から,最近以下のようなパブリックコメント意見を厚労省宛に提出した.ご批判をいただければ幸いである.

すなわち,「平成30年度厚生労働科学研究に対する意見募集について」の「生活習慣病・難治性疾患克服総合研究事業,および食品医薬品等リスク分析研究事業」に対して,以下のような意見を厚労省大臣官房厚生科学課宛に提出した:「これまでの厚労省研究事業の採択者を見ると医歯薬学系の方々が中心です.縦割り行政に依存している採択となっていますが,これからの医療費削減が必須の時代では,医療や薬だけに頼らない対策が必要であります.すなわち,食品や農畜水産物の科学を得意とする領域の研究者の協力が必須です.ビタミンの発見者も結局は農芸化学者であった史実もありますので,この領域からも多くの協力者が必要だと思っております.異分野連携と産学官等連携によって,良いアイディアが生まれて,ようやく国民の健康を守っていくことができましょう.具体的な提案としましては,以下のような食関連の学会に依頼して,研究チーム体制を作ってもらい,懸案の事業について対応してもらう枠を一部設けていただきたい.具体的には,日本農芸化学会,日本ビタミン学会,日本栄養・食糧学会,日本微量元素学会,などの学会に事業を委託するシステムです.ぜひご配慮ください.」というものです.

今は,医療系の研究費の配分が「AMED」(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)にまとめられたと聴く.多くの農芸化学領域の研究者がこの公募研究に応募して,資金を獲得して欲しいと思う.しかし,審査する側が医歯薬学系に偏っていれば問題であるが,国民が期待する研究を行ううえではこうした状況を改善していただく必要があろう.