今日の話題

プロバイオティクスの健康機能を媒介する循環血中のエクソソーム腸内細菌叢と宿主の新たなクロストークシステムか?

Kei Sonoyama

園山

北海道大学大学院農学研究院

Ayako Aoki-Yoshida

青木(吉田) 綾子

東京大学大学院農学生命科学研究科

Takeshi Tsuruta

鶴田 剛司

岡山大学大学院環境生命科学研究科

Published: 2017-12-20

プロバイオティクスは,「十分な量を投与すれば宿主の健康に利益をもたらす生きた微生物」(1)1) C. Hill, F. Guarner, G. Reid, G. R. Gibson, D. J. Merenstein, B. Pot, L. Morelli, R. B. Canani, H. J. Flint, S. Salminen et al.: Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 11, 506 (2014).であり,便通改善,感染予防,アレルギー症状改善などの効果に加え,肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善の効果も期待されているが,その作用機序については不明な部分が多い.摂取したプロバイオティクスは宿主にとって体外である消化管腔内を通過するので,ある効果は体外において発揮されるかもしれないし,またある効果は何らかのシグナルが体外から体内に伝達されることによって発揮されるかもしれない.筆者らは後者について細胞外小胞の一種であるエクソソームがかかわっているのではないかと予想し,研究を行っている.エクソソームは,脂質二重膜を有する細胞外小胞で,さまざまな細胞が放出する一方で,さまざまな細胞がエンドサイトーシスによってそれを受容する(2)2) 落谷孝広(監修):“パラダイムシフトをもたらすエクソソーム機能研究最前線—シグナル伝達からがん,免疫,神経疾患との関わり,創薬利用まで”,NTS, 2017, p. 282..エクソソームはタンパク質,メッセンジャーRNA,マイクロRNAなどを内包しているので,これらをカーゴとして細胞間コミュニケーションに役割を担っているのではないかと考えられている.つまり筆者らは,消化管に存在するいずれかの細胞がプロバイオティクスの何らかの情報を認識してエクソソームを体液中に放出し,それらが宿主体内のさまざまな組織の受容細胞における機能に影響する結果,健康機能が発揮されるのではないかと予想している.

筆者らはこれまでに,植物性発酵食品の製造に用いられる乳酸菌株の一種であるLactobacillus plantarum No. 14株がマウスの肥満やメタボリックシンドロームを抑えることを観察してきた.C57BL/6J系マウスに高脂肪食を摂取させることによって誘導する肥満モデルでは,No. 14株を毎日経口投与することによって白色脂肪細胞の増大が抑制された(3)3) N. Takemura, T. Okubo & K. Sonoyama: Exp. Biol. Med., 235, 849 (2010)..また,2型糖尿病モデルであるKK/Taマウスにおいては,白色脂肪組織重量や血中レプチン濃度の増加を抑制するとともに,インシュリン抵抗性指標も抑えた(4)4) T. Okubo, N. Takemura, A. Yoshida & K. Sonoyama: Biosci. Microbiota Food Health, 32, 93 (2013)..メタボリックシンドロームの基盤にあるインシュリン抵抗性の発現には白色脂肪組織の炎症がかかわっているので,KK/Taマウスの白色脂肪組織における炎症性サイトカインおよびケモカインの遺伝子発現を調べたところ,No. 14株の投与によって低下していた(4)4) T. Okubo, N. Takemura, A. Yoshida & K. Sonoyama: Biosci. Microbiota Food Health, 32, 93 (2013)..そこで,このようなNo. 14株の効果にエクソソームが関与する可能性について次に述べるような解析を行った.

まず,マウスから分離した腹腔滲出細胞(マクロファージが大部分を占める)におけるリポ多糖刺激による炎症性サイトカイン産生をex vivoの炎症モデルとして用いた.マウスにNo. 14株を7日間経口投与することにより,腹腔滲出細胞におけるTNF-αおよびIL-6の産生が抑えられたので,このモデルにおいてもNo. 14株は抗炎症作用を発揮することが示された(5)5) A. Aoki-Yoshida, S. Saito, T. Tsuruta, A. Ohsumi, H. Tsunoda & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 489, 248 (2017)..そこで,No. 14株を7日間経口投与したマウスの血清からエクソソームを分離し,別のマウスから分離した腹腔滲出細胞の培地に添加したところ,やはりTNF-αの産生が抑えられた(図1図1■プロバイオティクスを投与したマウスの血清エクソソームは腹腔滲出細胞のTNF-α産生を抑制).このようなエクソソームの添加効果はマクロファージ細胞株RAW264.7に対しても同様にみられた.また,L. plantarum基準株を投与したマウスのエクソソームにはこのような効果はみられなかったのに対し,最も良く知られているプロバイオティクスの一つであって先行研究により抗炎症作用が報告されているL. rhamnosus GG株においてはNo. 14株と同様の効果が認められた(5)5) A. Aoki-Yoshida, S. Saito, T. Tsuruta, A. Ohsumi, H. Tsunoda & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 489, 248 (2017)..これらのことから,経口投与したNo. 14株やGG株が発揮する抗炎症作用の少なくとも一部は循環血中のエクソソームが媒介すると推察することができる.

図1■プロバイオティクスを投与したマウスの血清エクソソームは腹腔滲出細胞のTNF-α産生を抑制

C57BL/6NマウスにLactobacillus plantarum基準株,L. plantarum No. 14株,L. rhamnosus GG株(それぞれ108 cfu)あるいは溶媒(生理食塩水)を7日間投与した後,血清からエクソソームを分離し,別のマウスから分離した腹腔滲出細胞に添加した.
グラフの白棒はリポ多糖添加なし,黒棒は添加あり.*,p<0.05 vs. 溶媒.§p<0.05 vs. L. plantarum基準株.文献5より作製.

次に筆者らは,エクソソームを放出する細胞としてマクロファージに着目した.マウスの骨髄由来マクロファージが培地中に放出するエクソソームを,脂肪細胞への分化を誘導した3T3-L1細胞株の培地に添加し,細胞内脂肪蓄積を定量した結果,No. 14株をマクロファージの培地に添加することによって脂肪蓄積が抑えられた(投稿中).またこのとき,3T3-L1細胞において脂肪蓄積に寄与する遺伝子群の発現も抑えられていた.これらの結果は,マウスで観察されたNo. 14株の脂肪蓄積抑制作用の少なくとも一部はマクロファージが放出するエクソソームが媒介することを示唆している.

エクソソームがNo. 14株の抗炎症作用や脂肪蓄積抑制作用を媒介するとすれば,それはどのような分子機序によるのだろうか.筆者らは,マウスの血清から分離したエクソソームがマクロファージに取り込まれること(5)5) A. Aoki-Yoshida, S. Saito, T. Tsuruta, A. Ohsumi, H. Tsunoda & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 489, 248 (2017).,ならびにマウス骨髄由来マクロファージの培地から分離したエクソソームが3T3-L1脂肪細胞に取り込まれること(投稿中)を確認している.また,マウスの血清エクソソームに含まれるマイクロRNAのプロファイルを解析し,腸内細菌叢がそれに影響するという予備的な知見を得ている.消化管に存在するマクロファージのような細胞におけるマイクロRNAの発現にNo. 14株が影響を及ぼし,そのようなマイクロRNAを内包するエクソソームが循環血を経て免疫細胞や白色脂肪細胞に受容され,マイクロRNAはそこでの遺伝子発現を制御するかもしれない.マウスやヒトの腸上皮細胞は管腔内にエクソソームを放出し,それらに含まれるマイクロRNAが腸内細菌の遺伝子発現および増殖を調節することが報告されているので(6)6) S. Liu, A. P. da Cunha, R. M. Rezende, R. Cialic, Z. Wei, L. Bry, L. E. Comstock, R. Gandhi & H. L. Weiner: Cell Host Microbe, 19, 32 (2016).,エクソソームとそこに含まれるマイクロRNAは腸内細菌叢と宿主の新しいクロストークシステムとして明らかにされていくかもしれない.

Reference

1) C. Hill, F. Guarner, G. Reid, G. R. Gibson, D. J. Merenstein, B. Pot, L. Morelli, R. B. Canani, H. J. Flint, S. Salminen et al.: Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol., 11, 506 (2014).

2) 落谷孝広(監修):“パラダイムシフトをもたらすエクソソーム機能研究最前線—シグナル伝達からがん,免疫,神経疾患との関わり,創薬利用まで”,NTS, 2017, p. 282.

3) N. Takemura, T. Okubo & K. Sonoyama: Exp. Biol. Med., 235, 849 (2010).

4) T. Okubo, N. Takemura, A. Yoshida & K. Sonoyama: Biosci. Microbiota Food Health, 32, 93 (2013).

5) A. Aoki-Yoshida, S. Saito, T. Tsuruta, A. Ohsumi, H. Tsunoda & K. Sonoyama: Biochem. Biophys. Res. Commun., 489, 248 (2017).

6) S. Liu, A. P. da Cunha, R. M. Rezende, R. Cialic, Z. Wei, L. Bry, L. E. Comstock, R. Gandhi & H. L. Weiner: Cell Host Microbe, 19, 32 (2016).