解説

新たな糖輸送体SWEETとその多様な機能植物がもつ‘スウィーツ’の話

SWEET; A Novel Sugar Transporter Having Diverse Roles: A Story of ‘SWEETs’ in Plants

青木 直大

Naohiro Aoki

東京大学

葊瀬 竜郎

Tatsuro Hirose

東京大学

農研機構中央農業研究センター

Published: 2017-12-20

SWEET(Sugars Will Eventually be Exported Transporter)は2010年にシロイヌナズナではじめて報告された全く新しい糖輸送体で,そのホモログは陸上植物,ヒト,線虫など真核生物に広く存在する.その機能として,維管束植物のソース葉からのショ糖転流で長年の謎であった葉肉組織から師部周辺のアポプラストへのショ糖放出を担う,輸送体であることが判明したのは画期的であった.また,SWEETは種子や花粉の成熟,蜜の分泌,さらには耐病性といった非常にさまざまな場面で重要な役割を果たすことがわかってきた.本稿では,1)SWEETの発見とその構造および分子進化,2)ショ糖転流における機能,3)病害抵抗性やそのほかの糖輸送関連の生理機能,を中心にSWEET研究の現状を紹介する.

はじめに

陸上植物において普遍的な光合成産物であるショ糖(suc)は,葉肉細胞から維管束の師部を介して輸送され,茎,根,花,子実,果実などの各器官において生育のためのエネルギー源として使われるほか,一部はsucのまま,もしくはデンプンなどに変換された後,貯蔵器官に蓄積される(1)1) N. Aoki, T. Hirose & R. T. Furbank: “Photosynthesis: Plastid Biology, Energy Conversion and Carbon Assimilation”, Springer Science+Business Media, 2011, p. 703..したがって,各器官内または器官間におけるsucの輸送は,植物の成長に必要不可欠な生理過程である.sucおよびその分解産物であるブドウ糖(glc)や果糖(fru)が器官内を移動する際の経路は,細胞間の原形質連絡を介するシンプラスティック経路と,細胞外空間を介するアポプラスティック経路が考えられる(図1図1■維管束植物におけるソース器官からシンク器官への糖輸送の概要).このうち後者の経路では,sucなどの糖が細胞から排出される過程と,それに続いて細胞へ取り込まれる過程が必要であり,したがって原形質膜を(少なくとも)2回透過することになる.植物細胞においてsucおよびglcやfruなどの単糖(hex)の取り込みに関与する膜タンパク質として,sucやhexとHを共輸送するsuc transporter (SUT) やhex transporter (HXT) が,1980年代後半から2000年代にかけてさまざまな植物種で単離・同定された(1, 2)1) N. Aoki, T. Hirose & R. T. Furbank: “Photosynthesis: Plastid Biology, Energy Conversion and Carbon Assimilation”, Springer Science+Business Media, 2011, p. 703.2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015)..その一方で,細胞からの糖の排出に関与する輸送体タンパク質については近年まで長らく不明であった.

図1■維管束植物におけるソース器官からシンク器官への糖輸送の概要

2000年代までの知見に基づいて作図した(Aoki et al. 2012を改変).成熟葉(ソース器官)において,葉緑体(C)で同化された炭素は,細胞質でショ糖(suc)に変換される.光合成の産物であるショ糖は,維管束師部の師管を介してシンク器官に運ばれる.また,sucはアポプラスト,細胞質,液胞で分解され,単糖(hex)を生じる.sucおよびhexが細胞間を移動する際には,ソース,シンクいずれの器官においても,原形質連絡を通る経路と,アポプラストを通る経路が考えられる.アポプラスティック経路において,ショ糖や単糖を細胞に取り込む輸送体タンパク質としてsuc/Hsymporter(SUT)やhex/Hsymporter(HXT)が同定されていたが,これら糖のアポプラストへの放出の分子機構は,2010年にSWEETが発見されるまで長らく不明であった.また,ショ糖や単糖は,器官を問わず液胞(V)に蓄積することがあるが,液胞膜に存在するsuc/hex輸送体についても2010年代になるまで未同定であった.

SWEETの発見とその特徴および分子進化

W. B. Frommerの研究グループは,2010年に,シロイヌナズナのゲノム中に存在する未同定の膜タンパク質から,hexやsucの輸送活性をもつ新規糖輸送体を発見し,SWEET(Sugars Will Eventually be Exported Transporter)と名づけた(3)3) L. Q. Chen, B. H. Hou, S. Lalonde, H. Takanaga, M. L. Hartung, X. Q. Qu, W. J. Guo, J. G. Kim, W. Underwood, B. Chaudhuri et al.: Nature, 468, 527 (2010)..彼らは,‘カメレオン’カルシウム・ナノセンサー(4)4) 宮脇淳史:生物物理,40, 83 (2000).で知られていたFRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)の原理を応用してglc-またはsuc-ナノセンサーを開発し,これらを導入したヒト胎児腎(HEK293T)細胞に輸送体“候補”遺伝子を発現させ,glc/suc輸送活性をもつ膜タンパク質を同定した(図2A図2■SWEETの同定,構造,およびショ糖排出輸送体としての生理機能の一例).さらに,それらをアフリカツメガエル卵母細胞や酵母で発現させ,glc/suc輸送活性を詳しく解析し,細胞内外の濃度勾配に従ってglc/sucを輸送する促進拡散型輸送体であることを明らかにした(3)3) L. Q. Chen, B. H. Hou, S. Lalonde, H. Takanaga, M. L. Hartung, X. Q. Qu, W. J. Guo, J. G. Kim, W. Underwood, B. Chaudhuri et al.: Nature, 468, 527 (2010)..また,シロイヌナズナのみならずイネ,線虫,ヒトでもSWEET遺伝子のホモログを同定し,一部の遺伝子については発現の細胞内局在性を調べ,原形質膜に存在することを明らかにした.

図2■SWEETの同定,構造,およびショ糖排出輸送体としての生理機能の一例

(A) FRET-糖センサーを用いた,糖輸送活性を有する膜タンパク質(□)の同定.糖センサー(S)は細菌由来のSugar-binding proteinで,ショ糖(suc)またはブドウ糖(glc)特異的に結合するように点変異が導入されている.導入した膜タンパク質によって細胞内に糖(▼)が運び込まれるとセンサー分子の立体構造が変化し,蛍光タンパク質Bからの蛍光が検出される.FRET-ナノセンサーの詳細については宮脇(2000)4)などを参照されたい.(B)SWEETとSUT/HXTの構造.SWEETは7個,SUT/HXTは12個の膜貫通ドメイン(白いバー)をもつ.Nはタンパク質のアミノ末端を,Cはカルボキシル末端を示す.(C) SWEETとSUTを介したアポプラスティック・ローディング経路.sucおよびHの文字の大きさはそれぞれの部位における濃度の大小を表す.すなわち,sucは葉肉細胞から師部アポプラストにかけては濃度勾配に従って移動(拡散)する.一方,伴細胞/師管内では,H-ATPaseの働きによってアポプラスト中のpHは5~5.5(細胞質のpHは7付近)になっており,この原形質内外のH濃度勾配を駆動力としてsucの能動輸送が起こる.

SWEETは,約250~300個のアミノ酸からなる7回膜貫通型の膜タンパク質である(図2B図2■SWEETの同定,構造,およびショ糖排出輸送体としての生理機能の一例).SWEETは,SUTやHXT(いずれも12回膜貫通型)を含めた多くの糖輸送体が属するMSF(Major facilitator superfamily)をはじめ,ABC(ATP-binding cassette)transporterやPTS(Phosphotransferase system)など,既知の糖輸送体タンパク質ファミリーには分類されないことから,全く新しいタイプの糖輸送体であると言える(2)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015).

シロイヌナズナのゲノムには17種類のSWEET遺伝子(AtSWEET)が,イネでは21種類のSWEET遺伝子(OsSWEET)が存在する(表1表1■シロイヌナズナおよびイネのSWEET遺伝子).ほかにも多くの維管束植物でゲノム中に15~25種類のSWEET遺伝子をもつことがわかっており,これら維管束植物のSWEETタンパク質は,その推定アミノ酸配列から4つのクレード(Clade I~IV)に大別される(5)5) J. S. Eom, L. Q. Chen, D. Sosso, B. T. Julius, I. W. Lin, X. Q. Qu, D. M. Braun & W. B. Frommer: Curr. Opin. Plant Biol., 25, 53 (2015)..これまでの研究から,クレードごとに輸送基質の特異性に特徴があることが示唆されており,Clade I, II, IVは主にhexを輸送基質とするのに対して,Clade IIIはsuc特異的な輸送活性をもつようである(2)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015).表1表1■シロイヌナズナおよびイネのSWEET遺伝子).筆者らの研究グループは,AtSWEET915およびOsSWEET1315(いずれもClade III)の過剰発現体は,野生型のシロイヌナズナやイネに比べて,葉のアポプラスト中のsuc濃度が著しく高くなることを見いだしている(6)6) 大音 徳,米倉円佳,青木直大,大杉 立,葊瀬竜郎:WO 2015/099042 (2015)..この実験結果は,これまでHEK293T細胞やアフリカツメガエル卵母細胞など異種発現系で得られたClade III型SWEETの基質特異性に関する知見と一致しており,同種発現系(植物体内)でもClade III型SWEETがsuc輸送活性をもつことを強く示唆している.また,SWEETによっては(原形質膜ではなく)液胞膜に局在するものもある(2, 5)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015).5) J. S. Eom, L. Q. Chen, D. Sosso, B. T. Julius, I. W. Lin, X. Q. Qu, D. M. Braun & W. B. Frommer: Curr. Opin. Plant Biol., 25, 53 (2015).表1表1■シロイヌナズナおよびイネのSWEET遺伝子).以上のようにSWEETは,基質特異性や細胞内局在性を異にすることによって,植物体内のさまざまな糖輸送過程に関与していると考えられている(後述).

表1■シロイヌナズナおよびイネのSWEET遺伝子
CladeAtSWEETGene ID局在性輸送基質OsSWEETGene ID
I1At1g21460細胞膜glc1aOs01g0881300
2At3g14770液胞膜glc1bOs05g0426000
3At5g531902aOs01g0541800
2bOs01g0700100
2c
3aOs05g0214300
3bOs01g0220700
II4At3g28007細胞膜glc4Os02g0301100
5At5g62850細胞膜glc5Os05g0588500
6At1g667706aOs01g0606000
7At4g10850glc6bOs01g0605700
8At5g40260細胞膜glc7aOs09g0254600
7bOs09g0258700
7cOs12g0178500
7dOs09g0259200
7eOs09g0256650
III9At2g39060細胞膜suc, (glc)11Os08g0535200
10At5g50790suc12Os03g0347500
11At3g48740細胞膜suc13Os12g0476200
12At5g23660細胞膜suc14Os11g0508600
13At5g50800suc, glc, GA15Os02g0513100
14At4g25010suc, GA
15At5g13170細胞膜suc
IV16At3g16690液胞膜glc, fru, suc16Os03g0341300
17At4g15920液胞膜fru
局在性および輸送基質はAtSWEETに関してのみ記載した.

陸上植物のほかに藻類,菌類,また線虫やヒト以外の動物でもSWEETホモログが同定されており,SWEETは真核生物界に広く存在する(2)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015)..また,大腸菌などの原核生物のゲノムにはSemiSWEETと呼ばれる約100個のアミノ酸からなる3回膜貫通型の膜タンパク質が存在する(7)7) L. Feng & W. B. Frommer: Trends Biochem. Sci., 40, 480 (2015)..原核生物のSemiSWEETは真核生物のSWEETと同じMtN3/salivaタンパク質ファミリーに分類されることや,SWEETがモノマーで糖輸送活性を有するのに対してSemiSWEETはダイマーで機能を示すことから,SWEETはSemiSWEETから進化したと考えられている(2)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015).

ショ糖転流とSWEET

維管束植物の葉において葉肉細胞から師管への光合成産物(suc)の輸送は,ローディング(‘積み荷をする’の意)と呼ばれる重要な生理過程である.これにかかわる主要なタンパク質として,維管束師部内のアポプラスト中のsucをHとの共輸送により師管に能動輸送するSUTが知られるが,それに先立つsucのアポプラストへの放出がどうやって行われているかは長らく謎だった(1, 2)1) N. Aoki, T. Hirose & R. T. Furbank: “Photosynthesis: Plastid Biology, Energy Conversion and Carbon Assimilation”, Springer Science+Business Media, 2011, p. 703.2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015)..FrommerらはSWEETの発見に続いて,シロイヌナズナのAtSWEET11および12(いずれもClade III)が師部の柔細胞の原形質膜に局在し,suc輸送活性をもち,また,2つの遺伝子の欠損変異体(二重欠損株)が,葉におけるデンプンの過剰蓄積や生育阻害といった,光合成産物の転流が阻害された際にみられる典型的な表現型を示したことから,この2つのAtSWEETが葉内suc輸送のアポプラスティック経路において重要な役割を果たすことを明らかにした(8)8) L. Q. Chen, X. Q. Qu, B. H. Hou, D. Sosso, S. Osorio, A. R. Fernie & W. B. Frommer: Science, 335, 207 (2012)..この発見により,sucのアポプラスティック・ローディング経路が完成し,積年の問題が解決した(図2C図2■SWEETの同定,構造,およびショ糖排出輸送体としての生理機能の一例).

植物病原菌とSWEET

SWEETが注目される理由はショ糖転流における役割だけでなく,その植物病原菌との関係にもある.イネの主要病害の一つであるイネ白葉枯病の原因菌Xanthomonas oryzae pv. oryzae(以下Xoo)は,その感染時にTALE(Transcription Activator-Like Effector)と呼ばれるタンパク質を宿主細胞に送り込んで自らの増殖に必要な宿主遺伝子の転写を誘導する.そして,そのようなTALEによって発現誘導される遺伝子の一つがOsSWEET11であることがわかった(2)2) L. Q. Chen, L. S. Cheung, L. Feng, W. Tanner & W. B. Frommer: Annu. Rev. Biochem., 84, 865 (2015).OsSWEET11はSWEETの発見以前にイネ白葉枯病抵抗性遺伝子Xa13としてクローニングされており,その時点では機能未知の膜タンパク質として報告されていた(9)9) B. Yang, A. Sugio & F. F. White: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 10503 (2006).Xa13は潜性(recessive)の抵抗性遺伝子(潜性ホモ個体のみが抵抗性となる)として知られ,解析の結果,プロモーター部位の変異によって上記のTALEによる発現誘導がかからなくなると抵抗性を示すことがわかった.また,これと同様の抵抗性メカニズムが別のレースに対する抵抗性遺伝子Xa25でも確認され,それがOsSWEET13であることがわかった(10)10) J. Zhou, Z. Peng, J. Long, D. Sosso, B. Liu, J. S. Eom, S. Huang, S. Liu, C. V. Cruz, W. B. Frommer et al.: Plant J., 82, 632 (2015)..こうしたことから,Xooは宿主細胞のSWEET遺伝子の発現を亢進させて細胞外への糖の放出を促し,自らの増殖のための栄養源にすると考えられている(図3図3■イネ縞葉枯病抵抗性とSWEETとの関係を示す模式図).逆に,宿主側にこのメカニズムが働かないような変異があれば,結果としてXooの増殖が阻害されて抵抗性になると理解できる.なお,その後OsSWEET14Xooのターゲットとなることが明らかになり(11)11) G. Antony, J. Zhou, S. Huang, T. Li, B. Liu, F. White & B. Yang: Plant Cell, 22, 3864 (2010).,さらにイネばかりでなくキャッサバおよびワタの白葉枯病菌もClade IIIのSWEET遺伝子を発現誘導することがわかった(12, 13)12) M. Cohn, R. S. Bart, M. Shybut, D. Dahlbeck, M. Gomez, R. Morbitzer, B. H. Hou, W. B. Frommer, T. Lahaye & B. J. Staskawicz: Mol. Plant Microbe Interact., 27, 1186 (2014).13) K. L. Cox, F. Meng, K. E. Wilkins, F. Li, P. Wang, N. J. Booher, S. C. D. Carpenter, L. Q. Chen, H. Zheng, X. Gao et al.: Nat. Commun., 8, 15588 (2017)..これらがいずれもsuc輸送を行うと推測されるClade IIIに属することは興味深い.一方,ブドウの灰色カビ病菌(Botrytis cinerea)は感染時にglc輸送活性をもつVvSWEET4(Clade II)を誘導するほか(14)14) J. Chong, M. C. Piron, S. Meyer, D. Merdinoglu, C. Bertsch & P. Mestre: J. Exp. Bot., 65, 6589 (2014).,病原菌ではないがミヤコグサでは根粒形成時にClade IのLjSWEET13の発現が高まることが報告されている(15)15) A. Sugiyama, Y. Saida, M. Yoshimizu, K. Takanashi, D. Sosso, W. B. Frommer & K. Yazaki: Plant Cell Physiol., 58, 298 (2017).

図3■イネ縞葉枯病抵抗性とSWEETとの関係を示す模式図

イネ縞葉枯病菌(Xoo)は感染すると宿主であるイネの細胞内にOsSWEET11の発現を誘導するTALEを送り込む.その結果,罹病性遺伝子型(Xa13)の個体では,細胞からのショ糖(suc)放出が亢進し,それを栄養源にXooが増殖して発病する.一方,抵抗性遺伝子型(xa13)ではこのTALEが認識するプロモーター部位に変異がって発現誘導ができない.そのため,細胞外へのsuc放出が起こらず,結果としてXooに抵抗性を示す.

その他の糖輸送とSWEET

これまで述べたほかにも,高等植物ではいくつかの生理過程で細胞外への糖の放出が必須である.たとえば,花粉は原形質的に葯壁とは切り離されていて,その形成・成熟に必要な養分は葯室内を満たす葯液から吸収する.そのため,葯壁から葯室内への糖の放出が必要である.シロイヌナズナのタペート層(葯壁の一部)で発現するAtSWEET8/RPG1(Ruptured Pollen Grain1)はglc輸送活性をもち,その遺伝子破壊系統は雄性不稔となる(16)16) Y. F. Guan, X. Y. Huang, J. Zhu, J. F. Gao, H. X. Zhang & Z. N. Yang: Plant Physiol., 147, 852 (2008)..また,前述のイネOsSWEET11をRNAiで発現抑制すると花粉の成熟が強く阻害される(9)9) B. Yang, A. Sugio & F. F. White: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 10503 (2006)..これらはいずれも,花粉への糖の供給にSWEETが関与していることを示唆している.また,花粉と同様に種子(子側組織)もそれを実らせる親側組織とは原形質的に切り離されている.シロイヌナズナのAtSWEET11, 12および15の三重欠損株では種子の成熟が阻害されるほか(17)17) L. Q. Chen, I. W. Lin, X. Q. Qu, D. Sosso, H. E. McFarlane, A. Londono, A. L. Samuels & W. B. Frommer: Plant Cell, 27, 607 (2015).,イネのOsSWEET11およびOsSWEET14のそれぞれの機能欠損株では種子が小粒化することが報告されており,親側組織からの糖供給への関与を示唆している(18, 11)18) L. Ma, D. Zhang, Q. Miao, J. Yang, Y. Xuan & Y. Hu: Plant Cell Physiol., 58, 863 (2017).11) G. Antony, J. Zhou, S. Huang, T. Li, B. Liu, F. White & B. Yang: Plant Cell, 22, 3864 (2010)..また,トウモロコシおよびイネの成熟途中の種子では,ともにCladeIIに属しglc輸送能をもつZmSWEET4cとOsSWEET4が子側組織で発現し,種子成熟に関与することが報告されている(19)19) D. Sosso, D. Luo, Q. B. Li, J. Sasse, J. Yang, G. Gendrot, M. Suzuki, K. E. Koch, D. R. McCarty, P. S. Chourey et al.: Nat. Genet., 47, 1489 (2015)..さらに,シロイヌナズナのAtSWEET9(Clade III)は蜜腺からの蜜の分泌に必須であることが知られている(20)20) I. W. Lin, D. Sosso, L. Q. Chen, K. Gase, S. G. Kim, D. Kessler, P. M. Klinkenberg, M. K. Gorder, B. H. Hou, X. Q. Qu et al.: Nature, 508, 546 (2014)..またこれに先立って,ペチュニアの蜜腺で高発現し,蜜腺機能との関連が示唆されていた遺伝子Nec1が単離されていたが,これはCladeIIIのSWEETをコードすることがわかった(21)21) Y. X. Ge, G. C. Angenent, P. E. Wittich, J. Peters, J. Franken, M. Busscher, L. M. Zhang, E. Dahlhaus, M. M. Kater, G. J. Wullems et al.: Plant J., 24, 725 (2000).

SWEETには原形質膜に局在するもののほかに液胞膜に存在するものある.シロイヌナズナのClade IVに属するAtSWEET16および17はともに液胞膜に局在し,特に後者は葉中のfru含量と関係している(22)22) F. Chardon, M. Bedu, F. Calenge, P. A. W. Klemens, L. Spinner, G. Clement, G. Chietera, S. Leran, M. Ferrand, B. Lacombe et al.: Curr. Biol., 23, 697 (2013)..また,Clade IIのAtSWEET2も液胞膜に存在して根からの糖分泌を制御しているらしい(23)23) H. Y. Chen, J. H. Huh, Y. C. Yu, L. H. Ho, L. Q. Chen, D. Tholl, W. B. Frommer & W. J. Guo: Plant J., 83, 1046 (2015)..しかし,いずれの液胞膜型SWEETについても当該形質を制御するメカニズムは不明である.

おわりに

ここまでSWEETと糖輸送との関係について主な事例を紹介した.SWEETの発見は,sucのアポプラスティック・ローディングで長年の謎を解明した点でまさに画期的であった.一方で,いままで明らかになった範囲では,いずれの植物種も比較的多くのSWEET遺伝子をもっているが,生理機能が判明しているものは一部にすぎず,しかもその大半はClade IIIに属する.とはいえ,ごく最近のSWEET研究の進展は著しく,高等植物におけるSWEETの役割の全体像が見えてくる日も遠くはないだろう.ところで,最近になってシロイヌナズナのAtSWEET13および14がジベレリン(GA)の輸送活性をもつことが報告された(24)24) Y. Kanno, T. Oikawa, Y. Chiba, Y. Ishimaru, T. Shimizu, N. Sano, T. Koshiba, Y. Kamiya, M. Ueda & M. Seo: Nat. Commun., 7, 13245 (2016).表1表1■シロイヌナズナおよびイネのSWEET遺伝子).SWEETの生理機能が糖輸送ばかりではない可能性が示されたことは,今後の研究方向を考えるうえで非常に意義深い(詳細については別項を参照されたい).おそらくは今後もSWEETの新たな輸送基質が見いだされ,それとともに思いもよらないような形質や生理機能と結びついていくのであろう.

Reference

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