特集

HMG CoA還元酵素活性調節機構とスタチン

Ryuichiro Sato

佐藤 隆一郎

東京大学大学院農学生命科学研究科・応用生命化学専攻

Published: 2018-02-20

コレステロール合成はアセチルCoAを出発基質として,およそ30段階の酵素反応を介して行われる.こうして炭素数2の化合物から炭素数27の複雑な構造を有する化合物がヒト肝臓で1日1g程度合成されると推定されている.したがって,この合成経路を遮断することは体内コレステロール量を減少させるのに有効であり,そのような考えに基づき,合成経路の律速酵素HMG CoA還元酵素の阻害剤であるコンパクチンが遠藤らにより開発された.コレステロール合成は,最終産物であるコレステロールによるネガティブフィードバック制御による精緻な調節機構のもとに進行している.その一つの機構として,HMG CoA還元酵素をはじめとする合成に関与するすべての酵素の遺伝子発現はコレステロール量の増加に伴い,転写レベルで減少する.同時にHMG CoA還元酵素タンパク質は細胞内コレステロール量が増加すると,速やかに分解される.合成経路の律速酵素であるHMG CoA還元酵素はこの2つの制御を受ける唯一の酵素である.このように細胞内でコレステロール量を制御するシステムとして,HMG CoA還元酵素活性は精妙にコントロールされており,その制御機構の細胞生物学的解明にスタチンは極めて重要な役割を担ってきた.

HMG CoA還元酵素遺伝子の発現調節機構

コレステロール合成に関与するほとんどすべての酵素の遺伝子発現は転写レベルで制御されている(図1図1■コレステロール生合成経路).つまり,細胞内のコレステロールが少なくなると合成が上昇し,一方,過剰状況下では合成は抑制される.この時,各酵素遺伝子のmRNA量がそのタンパク質の発現量,酵素活性を決めている.培養細胞をスタチン添加培地で培養すると細胞内コレステロール量は低下し,やがて合成酵素遺伝子群の発現が上昇する.この転写制御に関与する新たな転写因子としてSREBP(sterol regulatory element-binding protein)が1985年ノーベル生理学・医学賞受賞者のGoldstein/Brown両博士のグループによって発見された(1, 2)1) C. Yokoyama, X. Wang, M. R. Briggs, A. Admon, J. Wu, X. Hua, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Cell, 7, 187 (1993).2) X. Hua, C. Yokoyama, J. Wu, M. R. Briggs, M. S. Brown, J. L. Goldstein & X. Wang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 11603 (1993)..筆者はこのグループの一員として,この転写因子がそれまで例のないことに膜タンパク質として合成されたのちに,N末端側の活性型部位が切断されて,核へと移行し,転写因子活性を示すことを明らかにした(3, 4)3) R. Sato, J. Yang, X. Wang, M. J. Evans, Y. K. Ho, J. L. Goldstein & M. S. Brown: J. Biol. Chem., 269, 17267 (1994).4) X. Wang, R. Sato, M. S. Brown, X. Hua & J. L. Goldstein: Cell, 77, 53 (1994)..その後,この過程にはSREBP結合タンパク質であるSCAP(SREBP cleavage-activating protein)が小胞体膜上でSREBP/SCAP複合体を形成することが必須であり(5)5) M. S. Brown & J. L. Goldstein: Cell, 89, 331 (1997).,細胞内コレステロール量が低下したときに,複合体はゴルジ装置へと輸送され,そこでSREBPは切断を受ける機構が明らかにされた(図2図2■SREBPの活性化経路とHMG CoA還元酵素遺伝子発現制御).培養細胞をコレステロールリッチな培地で培養すると,小胞体の膜コレステロール量が増加し,これをSCAPが感知し,膜貫通領域で構造変化が生じたSCAPに,第3の膜タンパク質であるINSIG(insulin inducing gene)が結合し,SREBP/SCAP/INSIG三量体が形成され,その結果,三量体は小胞体膜上に滞留し,SREBPは転写因子として核内で機能しないことになる.一方,スタチンを培地に添加し,細胞内コレステロール量を低下させると,上述の三量体からINSIGが解離し,その結果,SREBP/SCAP複合体はゴルジ装置へと輸送され,続いて,SREBPの活性型部位が切断されることで,SREBP応答遺伝子発現は亢進する(6)6) H. Shimano & R. Sato: Nat. Rev. Endocrinol., 13, 710 (2017)..このようにSCAPの膜貫通領域は小胞体膜コレステロールを感知する機能を有していると推測されるが,同じくHMG CoA還元酵素の膜貫通領域も同様の機能をもち,これら膜貫通領域に共有される領域としてSSD(sterol-sensing domain)が明らかにされた.SSDを有する膜タンパク質としては,リソソームからコレステロールの細胞内輸送を担うNPC1,コレステロール修飾される分泌タンパク質ヘッジホッグの受容体Patched,小腸でのコレステロール輸送体であるNPC1L1が挙げられる.

図1■コレステロール生合成経路

図2■SREBPの活性化経路とHMG CoA還元酵素遺伝子発現制御

スタチンとHMG CoA還元酵素

哺乳類HMG CoA還元酵素は,887あるいは888アミノ酸残基からなる(7)7) J. L. Goldstein & M. S. Brown: Nature, 343, 425 (1990)..本酵素は8回膜貫通領域をもつ小胞体膜タンパク質で,C末端側を細胞質に突き出し,この領域に酵素活性領域をもつ(図3図3■小胞体膜上のHMG CoA還元酵素).細胞質でHMG CoAをメバロン酸へと変換する酵素であり,この酵素活性にとって8回の膜貫通領域は必要ではない.しかし,上述したように,この領域はSSDを有し,細胞内のコレステロール量を感知して,酵素タンパク質の分解速度を変化させ,酵素活性を調節する役割を担っている.

図3■小胞体膜上のHMG CoA還元酵素

1980年代後半に細胞内のAMP濃度上昇により活性化される新たなキナーゼとしてAMP kinaseが発見された.AMP kinaseの基質として列挙された数少ないタンパク質にHMG CoA還元酵素が挙げられる.ハムスターのHMG CoA還元酵素では871番目のSer残基がAMP kinaseによりリン酸化されると,不活性型となる.コレステロールの多少に応じてHMG CoA還元酵素タンパク質の分解が調節される機構と,AMP kinaseによるリン酸化を介した不活性化機構は互いに独立した経路か否かについて検討したところ,この2つのシステムは互いに独立した経路であることを筆者らは明らかにした(8)8) R. Sato, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 9261 (1993)..すなわち,AMP kinaseが活性化されるエネルギー枯渇条件下では,コレステロール量の変動に先駆けてエネルギー浪費を避けるためにもHMG CoA還元酵素活性を低下させ,コレステロール合成を抑制するシステムが働いていることが明らかになった.

CHO細胞をコンパクチンを含む培地で培養し,生存する細胞を選択することでUT1細胞が樹立された.この細胞ではHMG COA還元酵素タンパク質発現が通常細胞の100から1,000倍程度にまで上昇していた(9)9) J. R. Faust, K. L. Luskey, D. J. Chin, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 5205 (1982)..つまり,スタチンによるコレステロール合成阻害を回避するために過剰量のHMG CoA還元酵素が産生され,耐性細胞株が樹立された.スタチン投与患者でも程度の差はあるものの,HMG CoA還元酵素量は多くなる傾向があり,スタチンの効果が次第に減弱すると考えられている.

ステロールによるHMG CoA還元酵素分解機構

HMG CoA還元酵素は膜貫通領域にSSDを有し,細胞内のコレステロール量を感知していると考えられている.しかし,実際にはコレステロール合成経路の上流に位置するラノステロールならびにその代謝産物24,25-ジヒドロラノステロールが蓄積すると,速やかなHMG CoA還元酵素の分解が観察される(10)10) A. D. Nguyen, J. G. McDonald, R. K. Buick & R. A. DeBose-Boyd: J. Biol. Chem., 282, 27436 (2007)..HMG CoA還元酵素のユビキチン–プロテアソーム分解系での分解には,同じく小胞体膜タンパク質のINSIGが関与する.INSIGは先に述べたようにSREBP/SCAP複合体の小胞体からゴルジ装置への輸送を足止めする役割を担うタンパク質である.INSIGには構造の酷似したINSIG-1とINSIG-2が存在し,いずれも酸化コレステロールを結合して安定化する.細胞内酸化コレステロールは,27-ヒドロキシコレステロールもしくは25-ヒドロキシコレステロールが主たる分子種であり,いずれも細胞内コレステロール量の増加に伴い産生も増加すると考えられている.こうして細胞内のコレステロール量が増加傾向にあると,小胞体膜上でHMG CoA還元酵素-INSIG-1/-2複合体が形成される(11)11) B. L. Song, N. B. Javitt & R. A. DeBose-Boyd: Cell Metab., 1, 179 (2005)..この際にINSIG-1と-2のいずれが優先的に関与するかについては不明な点が多い.また,コレステロール過剰条件下では,SREBP/SCAP複合体にINSIGが結合するので,この時INSIG-1/-2はSCAPとHMG CoA還元酵素のいずれかと結合することとなる(図4図4■INSIGとSREBP/SCAP複合体,HMG CoA還元酵素との結合).SCAPのSSD中の配列を詳細に調べた研究結果によると,膜貫通領域に存在するTyr-Ile-Tyr-Pheという配列を介してSCAPとINSIGが結合する.HMG CoA還元酵素のSSDにも同一の配列が存在し,ここにINSIGは結合する.したがって,INSIG結合に関して,SCAPとHMG CoA還元酵素は競合状態にあると言える.

図4■INSIGとSREBP/SCAP複合体,HMG CoA還元酵素との結合

HMG CoA還元酵素と結合したINSIG-1/-2は,ユビキチン化の最終段階を触媒するE3 ligaseであるgp78もしくはTRC8をリクルートして,複合体を形成する.正確には,INSIG-1はgp78, TRC8のいずれかを結合でき,INSIG-2はTRC8とのみ複合体を形成できると示されている(12)12) Y. Jo, P. C. Lee, P. V. Sguigna & R. A. DeBose-Boyd: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 20503 (2011)..これらのE3 ligaseの作用によりHMG CoA還元酵素の89番目と248番目のLys残基にユビキチンが複数付加され,プロテアソームによる分解のシグナルとなる(図3図3■小胞体膜上のHMG CoA還元酵素参照).このようなユビキチン化に並行してINSIG複合体はさらにVCP(valosin-containing protein)/p97を含む複数の因子をリクルートし,小胞体膜を8回貫通する領域を膜から引き離し,細胞質へと導く作業を行う.こうして細胞質へ出たHMG CoA還元酵素はプロテアソームによる分解を受ける.

非ステロールによるHMG CoA還元酵素の分解

HMG CoA還元酵素の分解はラノステロールや酸化コレステロールなどのステロール類に加えて,炭素数20からなる非ステロール化合物であるゲラニルゲラニノールを培地に添加するとさらに早まることが知られている.ゲラニルゲラニノールは細胞内でゲラニルゲラニル2リン酸へと変換することから,HMG CoA還元酵素タンパク質分解はコレステロール合成の中間体と最終産物のステロールの両方の作用により,制御されていると考えられてきた.長い間不明であったコレステロール合成中間体による制御に関して,HMG CoA還元酵素の膜貫通領域と結合する因子の詳細な解析の結果,新たな因子としてUBIAD1(UBiA prenyltransferase domain-containing protein-1)が見いだされた(13)13) M. M. Schumacher, R. Elsabrouty, J. Seemann, Y. Jo & R. A. DeBose-Boyd: eLife, 4, e05560 (2015).

UBIAD1はプレニル基転移酵素のUBiAファミリーの一つで,極めてまれな常染色体優性遺伝病のシュナイダー角膜ジストロフィーの原因遺伝子として知られている.本疾患は両眼性角膜混濁を特徴として,角膜に過剰の非エステル態の遊離コレステロールが蓄積する.本酵素はメナジオン(ビタミンK3)にゲラニルゲラニル2リン酸を転移してメナキノン-4(ビタミンK2)の生成に関与する(図1図1■コレステロール生合成経路参照).UBIAD1は338アミノ酸残基からなり,膜貫通領域を8つもつ膜タンパク質と推定されている.UBIAD1は膜タンパク質として小胞体膜に存在し,酸化コレステロール存在下でHMG CoA還元酵素-INSIG-1/-2複合体に結合する(図5図5■UBIAD1を介したHMG CoA還元酵素分解の概要).この状況下でUBIAD1に基質であるゲラニルゲラニル2リン酸が結合すると,UBIAD1はHMG CoA還元酵素-INSIG-1/-2複合体から解離し,ゴルジ装置へと輸送される.UBIAD1の小胞体からゴルジ装置への輸送は,細胞にスタチンを作用させゲラニルゲラニル2リン酸産生を低下させると,抑制される.また,UBIAD1の小胞体膜上からの消失によりHMG CoA還元酵素の細胞質への掃き出しが進行し,やがてプロテアソームによる分解へとつながる.一方,十分にゲラニルゲラニル2リン酸が供給されないと,UBIAD1はHMG CoA還元酵素-INSIG-1/-2複合体と結合し,HMG CoA還元酵素の分解は進行しないこととなる.UBIAD1分子の分解機構の中での詳細な役割については,十分に解明が進んでいないが,ステロールと非ステロールの協調的作業による分解機構は徐々に明らかにされつつあると言える.

図5■UBIAD1を介したHMG CoA還元酵素分解の概要

まとめ

高コレステロール血症の治療薬として開発されたスタチンは臨床薬として,人類の健康・福祉に多大な貢献をした.同時に細胞内でのコレステロール代謝調節機構の解明に有効なツールとして多用され,多くの研究成果を導いた.小胞体膜上は,コレステロール代謝調節に関与する数多くの制御因子の局在する部位であり,この膜上で繰り広げられる精緻な生命現象の解明はまだ完結していない.遠藤先生の開発されたスタチンの活躍する機会は,細胞生物学領域においては当分減りそうにもない.

Reference

1) C. Yokoyama, X. Wang, M. R. Briggs, A. Admon, J. Wu, X. Hua, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Cell, 7, 187 (1993).

2) X. Hua, C. Yokoyama, J. Wu, M. R. Briggs, M. S. Brown, J. L. Goldstein & X. Wang: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 11603 (1993).

3) R. Sato, J. Yang, X. Wang, M. J. Evans, Y. K. Ho, J. L. Goldstein & M. S. Brown: J. Biol. Chem., 269, 17267 (1994).

4) X. Wang, R. Sato, M. S. Brown, X. Hua & J. L. Goldstein: Cell, 77, 53 (1994).

5) M. S. Brown & J. L. Goldstein: Cell, 89, 331 (1997).

6) H. Shimano & R. Sato: Nat. Rev. Endocrinol., 13, 710 (2017).

7) J. L. Goldstein & M. S. Brown: Nature, 343, 425 (1990).

8) R. Sato, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 9261 (1993).

9) J. R. Faust, K. L. Luskey, D. J. Chin, J. L. Goldstein & M. S. Brown: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 5205 (1982).

10) A. D. Nguyen, J. G. McDonald, R. K. Buick & R. A. DeBose-Boyd: J. Biol. Chem., 282, 27436 (2007).

11) B. L. Song, N. B. Javitt & R. A. DeBose-Boyd: Cell Metab., 1, 179 (2005).

12) Y. Jo, P. C. Lee, P. V. Sguigna & R. A. DeBose-Boyd: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 20503 (2011).

13) M. M. Schumacher, R. Elsabrouty, J. Seemann, Y. Jo & R. A. DeBose-Boyd: eLife, 4, e05560 (2015).