Kagaku to Seibutsu 56(3): 171-183 (2018)
特集
微生物が生産する脂質代謝制御剤の研究に魅せられて
Published: 2018-02-20
CeruleninやML-236B(compactin)の発見とその大きな成果に触発され,微生物資源から脂質代謝を阻害する機能分子の発見に注力してきた.中でも中性脂質(コレステリルエステルやトリグリセリド)の代謝を制御する新規機能分子として,いずれも真菌(カビ)の代謝産物中より発見したbeauveriolide類,pyripyropene類そしてdinapinone類について,その発見の経緯,ケミカルバイオロジー研究,さらに創薬への可能性を総括する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
微生物は多様な構造を有する化合物を生産する能力をもっていることは皆の認めるところである.私が初めて研究に携わった1977年ころ,脂質代謝に影響する化合物としてcerulenin(1)1) S. Omura: Bacteriol. Rev., 40, 681 (1976).とML-236B(compactin)(2)2) A. Endo, M. Kuroda & Y. Tsujita: J. Antibiot., 29, 1336 (1976).を思い出すことができる.いずれも真菌が生産する化合物であり,前者は北里研究所の秦藤樹・大村智先生が発見され,脂肪酸合成酵素を阻害することが明らかとなり,また後者は当時三共におられた遠藤章先生がコレステロール生合成を標的としたスクリーニングから発見された阻害剤として注目されていた.私自身,大村先生との共同研究として,ceruleninの脂肪酸合成酵素に対する阻害機構とceruleninを生産する真菌のceruleninに対する自己耐性機構の研究に携わっていた.脂質代謝,なかでも長鎖脂肪酸は生体内で生合成されグリセロールと結合しトリアシルグリセロール(トリグリセリド,TG)として,またコレステロールは長鎖脂肪酸と結合しコレステリルエステル(CE)として蓄積するが,TG/CEの過度な蓄積は脂質異常症への元凶となるばかりでなく,他のさまざまな疾患の重篤化とも深くかかわっている.このような背景から北里研究所に入所以降,脂質代謝を制御する微生物由来の低分子機能物質に興味をもち,新たな機能分子の発見とそれを利用した細胞や生体の機能解析を進めてきた.その結果,これまで27種類(100成分)以上の脂質代謝を制御する新規機能分子を発見してきた(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..今回,遠藤章先生のガードナー賞をお祝いしての本記念号に執筆する機会を与えいただき,この領域の最近の自分の研究を総括するいい機会となった.
表1表1■これまで構築した脂質代謝に関する評価系と微生物由来阻害剤に,これら機能分子がどのような評価系(スクリーニング系)によって発見されたかをまとめた(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..評価系は大きく2つに大別され,動物細胞や微生物を用いて,試料によって引き起こされる表現型の変化を観察するスクリーニング(phenotype-based screening,本項では表現型スクリーニングと呼ぶ)と標的とする酵素やタンパク質の試料により引き起こされる活性の変化を観察する直接的なスクリーニング(target-based screening,標的スクリーニング)である.表現型スクリーニングではあるが,その標的が容易に解析できる工夫をこらした標的指向型表現型スクリーニングも考案してきた(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..表現型スクリーニングで発見された化合物についてはそのターゲットが何であるのか,また標的スクリーニングで発見された化合物については細胞レベルでもその作用を検証できるのか,そして標的が明確になった機能分子を利用して,新たな細胞機能の解析へと応用するなどのケミカルバイオロジー研究を実施してきた.図1図1■これまでに発見した脂質代謝阻害剤の動物細胞における標的酵素(部位)には表1表1■これまで構築した脂質代謝に関する評価系と微生物由来阻害剤であげた化合物の細胞内での標的タンパク質を示すが,依然として不明なものも少なくない(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..現在これら機能分子の中には,それをリードとして誘導体合成研究を展開し,生体レベルでの有用性を証明し,創薬への挑戦をし続けているものもある.
評価系 | 由来 | 標的分子 | |
---|---|---|---|
1)表現型スクリーニング | |||
抗カビ活性 | Cerulenin | 真菌 | Fatty acid synthase |
抗嫌気性活性 | Thiotetromycin | 放線菌 | Fatty acid synthase (type II) |
マウス腹腔マクロファージを用いた脂肪滴蓄積評価 | Beauveriolide | 真菌 | SOAT1 |
Phenochalasin | 真菌 | ? (Actin?) | |
K97-0239 | 放線菌 | ? | |
Quinadoline | 真菌 | ? | |
Isobisvertinol | 真菌 | ? | |
Sespendole | 真菌 | ? | |
Spylidone | 真菌 | SOAT1/SOAT2 | |
動物細胞(CHO細胞)を用いた脂肪滴蓄積評価 | Dinapinone | 真菌 | ? (Inducer of autophagy) |
Isochaetochromin | 真菌 | ? | |
Bafilomycin L | 放線菌 | V-ATPase | |
2)標的スクリーニング | |||
DGAT(ジアシルグリセロールアシル転移酵素) | Amidepsine | 真菌 | DGAT1/DGAT2 |
Xanthohumol | 植物 | DGAT1/DGAT2 | |
Roselipin | 真菌 | DGAT2 | |
SOAT(ステロールO-アシル転移酵素) | Purpactin | 真菌 | SOAT1/SOAT2 |
Glisoprenin | 真菌 | SOAT1/SOAT2 | |
Eninatin | 真菌 | SOAT1/SOAT2 | |
Pyripyropene | 真菌 | SOAT2 | |
Terpendole | 真菌 | SOAT1/SOAT2 | |
CETP(コレステリルエステル転送タンパク質) | Erabulenol | 真菌 | CETP |
Ferroverdin | 放線菌 | CETP | |
スフィンゴミエリナーゼ | Chlorogentisylquinone | 真菌 | Sphingomyelinase |
3)標的指向型表現型スクリーニング | |||
変異酵母Candida lipolytica (mutants L-7 and A-1) | Triacsin | 放線菌 | Acyl-CoA synthetase |
Vero細胞(±メバロン酸) | Hymeglusin | 真菌 | HMG-CoA synthase |
SOAT1/SOAT2を選択発現させたCHO細胞 | 7-Chlorofolipastatin | 真菌 | SOAT1/SOAT2 |
KM2-16-A | 放線菌 | SOAT1/SOAT2 | |
Clonoamide | 真菌 | SOAT1/SOAT2 | |
Pentacecilide | 真菌 | SOAT1/SOAT2 |
本稿では,これら微生物由来の脂質代謝阻害剤の中から,pyripyropene類,beauveriolide類とdinapinone類を中心に述べる.
遠藤先生が発見されたML-236Bをリードとして,これまで多くのスタチン系医薬品が発見され,臨床的にも血中コレステロール低下薬(脂質異常症予防治療薬)あるいは動脈硬化予防治療薬として使用され,人類の福祉に大きく貢献してきたことは今更言うまでもない(6)6) A. Endo: Proc. Japan Acad. B-Phys., 86, 484 (2010)..しかしその一方で,スタチン系医薬品では十分な効果が得られない患者(ホモ型家族性高脂血症FHなど)がいることも明らかとなってきた(7)7) H. Mabuchi: J. Atheroscler. Thromb., 24, 189 (2017)..生体内の脂質代謝は複雑かつ複合的であり,患者の病因や病態を考慮したテーラーメード薬物治療の必要性などから,スタチン系医薬品に続く薬剤の開発が続けられている(8)8) P. Libby: J. Am. Coll. Cardiol., 46, 1225 (2005)..その標的分子の一つとして,ステロールO-アシル転移酵素(SOAT,以前はアシルCoA:コレステロールアシル転移酵素ACA Tと呼ばれた)がある(5)5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..SOATは,コレステロールと長鎖アシル-CoAを基質としてコレステロールの3位水酸基にアシル基を転移しCEを生成する.本酵素は生体内でのコレステロール代謝に重要な役割を果たし,小腸での食餌性コレステロールの吸収,肝臓でのリポタンパク質(VLDL)の分泌,そして動脈硬化巣でのマクロファージや平滑筋細胞の泡沫化に関与し,長年理想的なポストスタチンの薬剤標的と考えられてきた.実際,1980年代から多くの製薬企業で合成阻害剤の開発研究が行われ,アミド系,ウレア系およびイミダゾール系の合成剤を中心に活発な開発が進められた.しかし,これらすべての合成剤は,副腎毒性や下痢などの副作用の問題などで開発が中止された(5)5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..
そのような中,われわれは,1990年頃より合成剤とは異なる骨格を求めて,微生物資源を対象に,ラット肝ミクロソームをSOAT酵素源とした標的スクリーニングを構築し,機能分子の探索を行った.表1表1■これまで構築した脂質代謝に関する評価系と微生物由来阻害剤に示したようにpurpactin類,glisoprenin類,enniatin類,terpendole類およびpyripyropene類など新規阻害剤を報告した(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011)..真菌Aspergillus fumigatus FO-1289の培養液から発見したpyripyropene類(PPP,図2図2■真菌由来pyripyropeneの構造とその多様性)は,ピリジン環,α-ピロン環とテルペンから構成された基本骨格を示すユニークな構造を有する(9~13)9) S. Omura, H. Tomoda, Y. K. Kim & H. Nishida: J. Antibiot., 46, 1168 (1993).10) H. Tomoda, Y. K. Kim, H. Nishida, R. Masuma & S. Omura: J. Antibiot., 47, 148 (1994).11) Y. K. Kim, H. Tomoda, H. Nishida, T. Sunazuka, R. Obata & S. Omura: J. Antibiot., 47, 154 (1994).12) H. Tomoda, N. Tabata, D. J. Yang, H. Takayanagi, S. Nishida, H. Omura & T. Kaneko: J. Antibiot., 48, 495 (1995).13) H. Tomoda, N. Tabata, D. J. Yang, I. Namatame, H. Tanaka, S. Omura & T. Kaneko: J. Antibiot., 49, 292 (1996)..このユニークな基本構造については,生産真菌培養液に[13C]酢酸,[13C]メバロン酸,[14C]ニコチン酸などの標識前駆体を添加し,生産されたpyripyropene A(PPPA)のNMR解析より生合成過程を明らかにした.すなわち,ニコチン酸をアシルプライマーとして2分子のマロン酸と縮合したトリケチドとセスキテルペンとが連結してその基本骨格が生合成される(14)14) H. Tomoda, N. Tabata, Y. Nakata, H. Nishida, T. Kaneko, R. Obata, T. Suanzuka & S. Omura: J. Org. Chem., 61, 882 (1995)..海老塚らはこの生合成遺伝子をクローニングし,われわれの推定した生合成経路が正しかったことを証明した(15)15) T. Itoh, K. Tokunaga, Y. Matsud, I. Fujii, I. Abe, Y. Ebizuka & T. Kushiro: Nat. Chem., 2, 858 (2010)..実際に単離した18種のPPP類のうち,特にPPPAとPPPCは強力なSOAT阻害活性を示し,IC50値はそれぞれ0.058と0.053 μMと測定され,天然由来SOAT阻害剤の中で最も強力な活性を示した.さらに天然由来と1, 7, 11位のO-acetyl基を他のアシル基へと変換した半合成誘導体研究から,1, 11位の水酸基にはアセチル基が,7位はC5~6のアシル基が強いSOAT阻害活性を示すことを明らかにした(16~21)16) R. Obata, T. Sunazuka, Z. Li, H. Tomoda & S. Omura: J. Antibiot., 48, 749 (1995).17) R. Obata, T. Sunazuka, H. Tomoda, Y. Harigaya & S. Omura: Bioorg. Med. Chem. Lett., 5, 2683 (1995).18) R. Obata, T. Sunazuka, Z. Li, Z. Tian, Y. Harigaya, N. Tabata, H. Tomoda & S. Omura: J. Antibiot., 49, 1133 (1996).19) R. Obata, T. Sunazuka, Y. Kato, H. Tomoda, Y. Harigaya & S. Omura: J. Antibiot., 49, 1149 (1996).20) R. Obata, T. Sunazuka, Z. Tian, H. Tomoda, Y. Harigaya & S. Omura: J. Antibiot., 50, 229 (1997).21) R. Obata, T. Sunazuka, Z. Tian, H. Tomoda, Y. Harigaya, S. Omura & A. B. Smith III: Chem. Lett., 9, 935 (1997)..次にPPPAのSOAT阻害効果を細胞レベルで確認する手段としてマクロファージ細胞内に中性脂質(CEとTG)を脂肪滴として蓄積されるマクロファージ泡沫化を観察する細胞評価系で中性脂質生成阻害活性を確認したところ,PPPAは全く効果が認められなかった.当時,これはPPPの細胞膜透過性が悪いことに由来するものであろうと判断し,酵素を用いた標的スクリーニングから細胞を用いた表現型スクリーニングへと転換することとした.
PPPAがマクロファージの泡沫化を観察する表現型スクリーニングで活性を示さなかったことから,大量のサンプル数を評価するには適さないかもしれないが,この細胞評価系をスクリーニング系として利用することとした.マクロファージの泡沫化は生体内において動脈硬化進展の初期に観察される過程(22~24)22) J. L. Goldstein, Y. K. Ho, S. K. Basu & M. S. Brown: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 333 (1979).23) M. S. Brown, J. L. Goldstein, M. Krieger, Y. K. Ho & R. G. W. Anderson: J. Cell Biol., 82, 597 (1979).24) R. G. Gerrity: Am. J. Pathol., 103, 181 (1981).であることから創薬につながる評価系である.この評価系は当時,東大・薬におられた井上圭三教授と新井洋由博士(現,教授)によって確立されたものであり(25)25) K. Nishikawa, H. Arai & K. Inoue: J. Biol. Chem., 265, 5226 (1990).,共同研究としてスクリーニング系を構築した(26)26) I. Namatame, H. Tomoda, H. Arai, K. Inoue & S. Omura: J. Biochem., 125, 319 (1999)..変性LDLの代わりに酸性リン脂質を含むリポソームを用いるとマウス腹腔マクロファージに取り込まれ,細胞内に脂肪滴(CEとTGとして蓄積)を形成する.これをオイルレッドOで染色し,顕微鏡で観察する方法である.スクリーニングでは微生物の培養液をこの系に加え,脂肪滴が退縮あるいは消失するものを選択する.細胞に対する毒性も同時に観察できる.また,リポソーム添加と同時に[14C]オレイン酸([14C]Ole)を加えることにより,脂肪滴を構成する[14C]CEと[14C]TGを定量することもできる.このスクリーニング方法により,微生物資源からbeauveriolide類,phenochalasin類,K97-0239類,quinadoline類,isovisvertinol, sespendoleおよびspylidoneなど多くの機能分子を発見できた(3~5)3) H. Tomoda, I. Namatame & S. Omura: Proc. Japan Acad. B-Phys., 78, 217 (2002).4) H. Tomoda & S. Omura: Pharmacol. Ther., 115, 375 (2007).5) T. Ohshiro & H. Tomoda: Future Med. Chem., 3, 2039 (2011).(表1表1■これまで構築した脂質代謝に関する評価系と微生物由来阻害剤).これら化合物の多くは,その標的分子は未知であり,ケミカルバイオロジー研究への展開が必要である.
真菌Beauveria sp. FO-6979の培養液から8成分のbeauveriolide類(Beau)を単離した(27~29)27) I. Namatame, H. Tomoda, S. Si, Y. Yamaguchi, R. Masuma & S. Omura: J. Antibiot., 52, 1 (1999).28) I. Namatame, H. Tomoda, N. Tabata, S. Si & S. Omura: S. Sci. & S. Omura: J. Antibiot., 52, 7 (1999).29) D. Matsuda, I. Namatame, H. Tomoda, S. Kobayashi, R. Zocher, H. Kleinkauf & S. Omura: J. Antibiot., 57, 1 (2004)..そのうちbeauveriolide I(BeauI)は,山村らにより弱い殺虫活性を示す化合物として報告されていた.(30)30) K. Mochizuki, K. Ohmori, H. Tamura, Y. Shizuri, S. Nishiyama, E. Miyoshi & S. Yamamura: Bull. Chem. Soc. Jpn., 66, 3041 (1993). Beauveriolide III(BeauIII)は,アミノ酸分析よりL-Phe, L-AlaおよびD-allo-Ileを有すること,ヒドロキシ酸3-hydroxy-4-methyloctanoic acid(HMA)の立体については,予想される4種のHMA立体異性体を合成し,赤坂らにより開発された不斉を有するアントラセン蛍光標識体(31)31) K. Akasaka, H. Ohrui, H. Meguro & T. Umestu: Anal. Sci., 13 (Suppl), 461 (1997).で誘導化後HPLCにより分析し,BeauIII由来のHMAと比較することにより(3S, 4S)HMAと決定した(32)32) T. Ohshiro, I. Namatame, K. Nagai, T. Sekiguchi, T. Doi, T. Takahashi, K. Akasaka, L. L. Rudel, H. Tomoda & S. Omura: J. Org. Chem., 71, 7643 (2006)..最終的にBeauIIIはBeauIと類似の13員環デプシペプチド構造でありBeauIのD-Leu部位がD-allo-Ileに置き代わっていた(図3図3■真菌由来beauveriolide IとIIIの構造).
BeauIとBeauIIIの構造を比較すると1アミノ酸部位(D-LeuとD-allo-Ile)のみの相違のため,その物性が類似し培養液からの分離が難しく,また生産量も両成分とも多くなかった(5~6 μg/mL).そこで,Beauを構成するアミノ酸に着目し,生産培養液中へのアミノ酸添加によるBeauの生産量の向上を試みた(33)33) I. Namatame, D. Matsuda, H. Tomoda, Y. Yamaguchi, R. Masuma, S. Kobayashi & S. Omura: J. Antibiot., 55, 1048 (2002)..その結果,BeauIとBeauIIIを構成する共通のアミノ酸(L-PheとL-Ala)の添加では生産量はわずかしか上がらなかったが,それぞれのD体アミノ酸に対応するL-LeuあるいはL-Ileを0.2%添加する(D体そのものでは変化なし)ことにより,それぞれの成分の生産量が選択的にかつ飛躍的に向上することを見いだした(図4図4■アミノ酸添加によるbeauveriolideの選択生産とHMA部分の立体の活性発現に対する重要性).すなわち,0.2% L-Leu/0.2% L-Ileの添加により,BeauIの生産量は142/3.9 μg/mL,一方,BeauIIIは18/189 μg/mLの生産量となり菌体抽出物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーのみの精製により選択的に高収率でBeauIとBeauIIIを得ることができた.このような知見はKleinkaufらによりenniatin類の生合成で1990年代に報告されているが(34~36)34) H. Kleinkauf & H. von Dohren: Acta Biochim. Pol., 44, 839 (1997).36) H. Kleinkauf & H. von Dohren: Prog. Drug Res., 48, 27 (1997).,近年のゲノム解析からも,その生合成酵素が基質としてD体アミノ酸を用いるのではなくL体アミノ酸を取り込み,それをエピマー化して縮合することが明らかとなっている.
マクロファージ泡沫化阻害活性を示したBeauIとBeauIIIの標的分子を検討した.両化合物は[14C]Oleから[14C]TGや[14C]リン脂質の生成に全く影響を与えず,[14C]CE生成を選択的に強く阻害した(BeauIとBeauIIIそれぞれのIC50値は0.78と0.41 μM).さらに,細胞内でのコレステロール輸送に対するBeauの作用点を解析したところ,リソソームから小胞体へのコレステロール輸送以降の段階であることが明らかとなり,小胞体膜酵素であるSOATが標的である可能性が考えられた.そこで,マクロファージより調製したミクロソーム画分を用いBeauIとBeauIIIのSOAT活性に対する影響を調べたところ,その活性を阻害し,IC50値はそれぞれ6.0と5.5 μMであった.したがって,Beauの標的分子はSOATであると結論づけた(37)37) I. Namatame, H. Tomoda, S. Ishibashi & S. Omura: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 737 (2004)..このようにBeauIIIは細胞レベルでも毒性を示すことなくSOAT活性を強くしたことから,動物レベルで動脈硬化進展を抑えるかどうかに興味がもたれた.そこで石橋俊博士(当時は東大・医,現自治医大教授)の協力を得て,動脈硬化発症モデルマウス(アポリポタンパク質欠損マウスとLDL受容体欠損マウス)を用いてBeauIIIの薬理効果を調べた.2カ月間高脂肪食を与える条件下,BeauIII(25および50 mg/kg/day)を2カ月間経口投与した結果,毒性を示すことなく,動脈硬化病巣の進展を約30~50%有意に抑制した(37)37) I. Namatame, H. Tomoda, S. Ishibashi & S. Omura: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 737 (2004)..この動物実験から,BeauIIIは新しい動脈硬化予防治療薬のリードとして期待され,Chemical & Engineering News(2004年1月19日号)にも取り上げられた.
より優れた活性を示すBeau誘導体合成が実施された.東工大の高橋孝志教授(現,横浜薬科大・教授)と土井隆行博士(現,東北大・薬・教授)らは,Beauの環状デプシペプチド構造に着目し,一挙に多数の誘導体合成ができるコンビナトリアルケミストリーの手法を導入した(38, 39)38) K. Nagai, T. Doi, T. Sekiguchi, I. Namatame, T. Sunazuka, H. Tomoda, S. Omura & T. Takahashi: J. Comb. Chem., 8, 103 (2006).39) K. Nagai, T. Doi, T. Ohshiro, T. Sunazuka, H. Tomoda, T. Takahashi & S. Omura: Bioorg. Med. Chem. Lett., 18, 4397 (2008)..すなわち,固相上で目的の鎖状デプシペプチドを合成し,リンカーから切り出し後,最終的に液相で環化させ,300種以上のBeau誘導体ライブラリを構築した.これら誘導体についてはマクロファージ泡沫化阻害活性を評価した.天然物より10倍以上CE生成を強く阻害する誘導体(L-Phe部位をdiphenyl-L-Alaやp-chloro-L-Pheに置換した誘導体)や溶解性が向上した誘導体(L-Ala部位をD-Alaに置換した誘導体)を見いだしている(38~42)38) K. Nagai, T. Doi, T. Sekiguchi, I. Namatame, T. Sunazuka, H. Tomoda, S. Omura & T. Takahashi: J. Comb. Chem., 8, 103 (2006).42) H. Tomoda & T. Doi: Acc. Chem. Res., 41, 32 (2008)..そのいくつかについては動物レベルでの評価を行っている.またこの合成過程で,環化される前の鎖状デプシペプチドタイプは,全く阻害活性を示さなかったことから,環状デプシペプチド構造がSOAT阻害には必須であることが明らかとなった(38)38) K. Nagai, T. Doi, T. Sekiguchi, I. Namatame, T. Sunazuka, H. Tomoda, S. Omura & T. Takahashi: J. Comb. Chem., 8, 103 (2006)..また,BeauIIIのHMA部分のみの立体が異なる4種の誘導体((3S, 4S),(3S, 4R),(3R, 3R)および(3R, 4S)BeauIII)も合成され検討した結果, 3S体のみがマクロファージ泡沫化阻害活性を示し,3R体は阻害活性を示さなかった(32)32) T. Ohshiro, I. Namatame, K. Nagai, T. Sekiguchi, T. Doi, T. Takahashi, K. Akasaka, L. L. Rudel, H. Tomoda & S. Omura: J. Org. Chem., 71, 7643 (2006).(図4図4■アミノ酸添加によるbeauveriolideの選択生産とHMA部分の立体の活性発現に対する重要性).また,天然物と同じ立体を示す(3S, 4S)BeauIIIはCE生成を選択的に阻害したのに対し,(3S, 4R)BeauIIIはCE生成のみならずTG生成も阻害したことから,(3S, 4R)体の場合SOAT以外にTG生成に関与するタンパク質も標的としている可能性が示された.これらの研究を通して,機能分子の立体と生物活性発現の精密さを改めて知ることができた.
SOATは小胞体膜タンパク質であり,その単離も報告がなく,立体構造も不明なまま,今日まで阻害剤の開発が進められてきた.このようにSOATタンパク質自体の情報が不十分であるにもかかわらず,1990年代に入り最初のSOAT遺伝子(後にSOAT1遺伝子と命名)がヒトマクロファージからクローニングされ(43)43) C. C. Chang, H. Y. Huh, K. M. Cadigan & T. Y. Chang: J. Biol. Chem., 268, 20747 (1993).,その後,続いて小腸や肝臓由来の細胞からSOAT2遺伝子がクローニングされた(44~46)44) R. A. Anderson, C. Joyce, M. Davis, J. W. Reagan, M. Clark, G. S. Shelness & L. L. Rudel: J. Biol. Chem., 273, 26747 (1998).45) S. Cases, S. Novak, Y. W. Zheng, H. M. Myers, S. R. Lear, E. Sande, C. B. Welch, A. J. Lusis, T. A. Spencer, B. R. Krause et al.: J. Biol. Chem., 273, 26755 (1998).46) P. Oelkers, A. Behari, D. Cromley, J. T. Billheimer & S. L. Sturley: J. Biol. Chem., 273, 26765 (1998)..その後の研究から,SOAT1はマクロファージや副腎などのすべての組織や細胞で広く発現しているのに対して,SOAT2は小腸と肝臓にのみ特異的に発現していることが明らかにされた(47)47) P. Parini, M. Davis, A. T. Lada, S. K. Erickson, T. L. Wright, U. Gustafsson, S. Sahlin, C. Einarsson, M. Eriksson, B. Angelin et al.: Circulation, 110, 2017 (2004)..さらに,SOAT1欠損マウスの解析から,脱毛やドライアイといった副作用と思われる表現型が観察され,動脈硬化病巣がむしろ悪化するという報告もなされた(48~50)48) H. Yagyu, T. Kitamine, J. Osuga, R. Tozawa, Z. Chen, Y. Kaji, T. Oka, S. Perrey, Y. Tamura, K. Ohashi et al.: J. Biol. Chem., 275, 21324 (2000).49) M. Accad, S. J. Smith, D. L. Newland, D. A. Sanan, L. E. King Jr., M. F. Linton, S. Fazio & R. V. Farese Jr.: J. Clin. Invest., 105, 711 (2000).50) S. Fazio, A. S. Major, L. L. Swift, L. A. Gleaves, M. Accad, M. F. Linton & R. V. Farese Jr.: J. Clin. Invest., 107, 163 (2001)..一方,SOAT2欠損マウスの解析では,重篤な副作用とみられる表現型は観察されず,小腸からのコレステロール吸収抑制と肝臓からのリポタンパク質分泌抑制により,動脈硬化病巣の進展を抑制することが報告された(51, 52)51) K. K. Buhman, M. Accad, S. Novak, R. S. Choi, J. S. Wong, R. L. Hamilton, S. Turley & R. V. Farese Jr.: Nat. Med., 6, 1341 (2000).52) E. L. Willner, B. Tow, K. K. Buhman, M. Wilson, D. A. Sanan, L. L. Rudel & R. V. Farese Jr.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 1262 (2003)..このようにSOATは生体内に2種のアイソザイムを有しており,その機能が異なっていることが明らかとなってきた.しかし,これまで開発を試みられてきた阻害剤の多くはSOATアイソザイムに対する選択性も不明なまま中断したと思われる.
2種類のSOATアイソザイムの存在が明らかとなり,その機能や局在が大きく異なることから,これまでわれわれが関与してきた阻害剤がどのような特性を示すのかに興味を持った(53)53) L. L. Rudel, R. G. Lee & T. L. Cockman: Curr. Opin. Lipidol., 12, 121 (2001)..そこで,L. L. Rudel教授(Wake Forest Univ., USA)らが作製したアフリカミドリザル由来のSOAT1とSOAT2遺伝子を選択発現させたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(54)54) A. T. Lada, M. Davis, C. Kent, J. Chapman, H. Tomoda, S. Omura & L. L. Rudel: J. Lipid Res., 45, 378 (2004).(それぞれSOAT1-CHO細胞とSOAT2-CHO細胞と略)を分与していただき,阻害剤のアイソザイムに対する選択性を細胞レベルで評価した(55)55) T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura & H. Tomoda: J. Antibiot., 60, 43 (2007)..表2表2■SOAT阻害剤のSOAT1とSOAT2に対する選択性の比較(細胞レベルでの評価)に示しているように,われわれが発見した微生物由来の阻害剤の多くはSOAT1とSOAT2を同程度阻害するdual-typeの阻害剤であった(selectivity index(SI)が−1.00から+1.00の場合をdual-typeと定義).また過去に開発が中止された合成剤CL-283,546は強力なdual-typeであり(55)55) T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura & H. Tomoda: J. Antibiot., 60, 43 (2007).,Wu-V-23は強力なSOAT1選択的阻害剤であった(54)54) A. T. Lada, M. Davis, C. Kent, J. Chapman, H. Tomoda, S. Omura & L. L. Rudel: J. Lipid Res., 45, 378 (2004)..少し奇妙に感じた点として,2000年以降に臨床試験が中止されたavasimibeとpactimibeは,弱いdual-typeの阻害特性を示したことである(56, 57)56) M. Ikenoya, Y. Yoshinaka, H. Kobayashi, K. Kawamine, K. Shibuya, F. Sato, K. Sawanobori, T. Watanabe & A. Miyazaki: Atherosclerosis, 191, 290 (2007).57) K. Kitayama, T. Tanimoto, T. Koga, N. Terasaka, T. Fujioka & T. Inaba: Eur. J. Pharmacol., 540, 121 (2006)..最も興味を引いた点は,われわれが発見したpyripyropene類が唯一SOAT2を選択的に阻害し,中でもPPPAが最も高いSOAT2選択性(SI, >+3.00)を示した.この結果は,PPPAがSOAT1を発現するマクロファージの泡沫化を全く阻害しなかったという疑問点を説明するものであり,と同時にこれまでSOAT2選択的阻害剤からの創薬研究は全く手つかずの領域であると考えられた.
化合物 | IC50 (µM) | SI* | 分類** | ||
---|---|---|---|---|---|
Macrophage | SOAT1 | SOAT2 | |||
微生物由来 | |||||
Pyripyropene A | >80 | >80 | 0.070 | >+3.00 | SOAT2 |
Pyripyropene B | 38 | 48 | 2.0 | +1.38 | SOAT2 |
Pyripyropene C | 40 | 32 | 0.36 | +1.95 | SOAT2 |
Pyripyropene D | 35 | 38 | 1.5 | +1.40 | SOAT2 |
Purpactin A | 4.5 | 2.5 | 1.5 | +0.23 | Dual |
Glisoprenin A | 12 | 4.3 | 10 | −0.37 | Dual |
Terpendole C | 2.5 | 10 | 10 | 0 | Dual |
Beauveriolide I | 0.78 | 0.60 | 20 | −1.52 | SOAT1 |
Beauveriolide III | 0.41 | 0.90 | >20 | <−1.35 | SOAT1 |
Beauvericin | 0.13 | 2.0 | 0.7 | +0.46 | Dual |
Spylidone | 42 | 25 | 5.0 | +0.70 | Dual |
7-Chlorofolipastatin | — | 3.2 | 4.5 | −0.15 | Dual |
KM2-16-A | — | >57 | 21 | >+0.43 | Dual |
Clonoamide | 16 | 39 | 110 | −0.45 | Dual |
Pentacecilide | 3.7 | 1.1 | 0.69 | 0.20 | Dual |
合成品 | |||||
CL-283, 546 | 0.035 | 0.10 | 0.09 | +0.05 | Dual |
Wu-V-2354) | — | 0.01 | 1.5 | −2.18 | SOAT1 |
Avasimibe56) | — | 18.7 | 19.1 | 0 | Dual |
Pactimibe57) | — | 8.3 | 5.9 | +0.15 | Dual |
K-60456) | — | 0.45 | 102 | −2.36 | SOAT1 |
* Selectivity index (SI): log IC50 SOAT1 / IC50 SOAT2. ** Dual typeは−1.00≦SI≦+1.00, SOAT1選択的阻害はSI<−1.00, SOAT2選択的阻害は+1.00<SIと定義する.「—」は未評価 |
これまで膜タンパク質であるSOAT1とSOAT2の単離は成功しておらず,その3次元構造についても未知である.生化学的なアプローチからSOATの活性中心についてさまざまな見解が報告されている.Rudelらは両アイソザイムとも5回膜貫通モデルを提唱している(58)58) C. W. Joyce, G. S. Shelness, M. A. Davis, R. G. Lee, K. Skinner, R. A. Anderson & L. L. Rudel: Mol. Biol. Cell, 11, 3675 (2000)..そこで,SOAT2選択的阻害剤PPPAを用いて,SOAT2酵素のどの領域がPPPAの選択的阻害活性発現に重要かを検討した(59)59) A. Das, M. A. Davis, H. Tomoda, S. Omura & L. L. Rudel: J. Biol. Chem., 283, 10453 (2008)..SOAT1とSOAT2のそれぞれの対応するドメイン領域を入れ替えてもSOAT活性は保持されるという特性を生かして,さまざまなキメラSOAT2を作成し,PPPAに対する阻害活性が保持されるかどうかを検討した.その結果,SOAT2の5番目の膜貫通領域(480Lから504R)をSOAT1のもの(502Mから526Q)と入れ替えると,PPPAの阻害活性は完全に消失した.さらに,SOAT2のこの領域のアミノ酸を,一つずつ対応するSOAT1のアミノ酸と交換したところ,492Qと493VをそれぞれL, 494SをCに入れ替えたキメラSOAT2に対して,PPPAの阻害活性は減弱した.他の部位を入れ替えたキメラSOAT2ではPPPAに対する阻害活性は保持されたままであったことから,PPPAはSOAT2の5番目の膜貫通領域のQVS部位に非共有的に特異的に結合し,その選択的な阻害活性を発揮していると結論した(59)59) A. Das, M. A. Davis, H. Tomoda, S. Omura & L. L. Rudel: J. Biol. Chem., 283, 10453 (2008)..また,PPPAのこの特性を利用して,ヒト肝臓のSOAT2は肝実質細胞に発現・機能していること,また,その活性には個人差があること,さらに,この個人差が動脈硬化発症と関連している可能性を報告した(47, 60)47) P. Parini, M. Davis, A. T. Lada, S. K. Erickson, T. L. Wright, U. Gustafsson, S. Sahlin, C. Einarsson, M. Eriksson, B. Angelin et al.: Circulation, 110, 2017 (2004).60) P. Parini, U. Gustafsson, M. A. Davis, L. Larsson, C. Einarsson, M. Wilson, M. Rudling, H. Tomoda, S. Omura, S. Sahlin et al.: Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 28, 1200 (2008)..
また,BeauのSOAT阻害活性から奇妙な矛盾点を見いだしていた(55)55) T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura & H. Tomoda: J. Antibiot., 60, 43 (2007)..すなわち,BeauIとBeauIIIは,マウスマクロファージやマウス肝臓から調製したミクロソームを酵素源としたSOAT活性評価ではSOAT1と2の両活性を同程度阻害したが,SOAT1-/SOAT2-CHO細胞を用いた細胞評価系ではSOAT1を選択的に阻害する(表2表2■SOAT阻害剤のSOAT1とSOAT2に対する選択性の比較(細胞レベルでの評価))という点である.他の多くのSOAT阻害剤の場合,アイソザイムに対する選択性は酵素レベルと細胞レベルで良い一致を示すが,BeauIとBeauIIIだけ一致しなかった.そこで,このBeauの酵素レベルと細胞レベルでのアイソザイムに対する選択性の差について検討した(61)61) T. Ohshiro, K. Kobayashi, M. Ohba, D. Matsuda, L. L. Rudel, T. Takahashi, T. Doi & H. Tomoda: Sci. Rep., 7, 4163 (2017)..まず,超音波処理によるSOAT1-/SOAT2-CHO細胞からのミクロソーム調製方法について検討した.細胞を3分間(30秒を3回)超音波処理して調製したミクロソームではBeauのSOAT1に対する選択性は保持されているのに対して,処理時間を5分,10分と長くしていくとSOAT2に対する阻害活性が認められるようになりSOAT1選択性は失われた.次に,SOAT1/SOAT2-CHO細胞をdigitoninで処理し細胞膜のみの透過性を向上させた細胞ではBeauのSOAT1に対する選択性は保持されたが,saponinで処理し細胞膜と小胞体膜の両方の膜透過性を向上させた細胞ではその阻害の選択性は失われた.さらに,3分間超音波処理したSOAT1-/SOAT2-CHO細胞から密度勾配遠心法により精製したインタクトな小胞体を酵素源とした場合,BeauのSOAT1に対する阻害の選択性は保持されていた.これらの結果は,小胞体膜におけるSOAT1とSOAT2の活性中心の配向性が異なっていることを示唆するものである.すなわち,BeauのSOAT活性に影響を与える領域(活性中心)は,SOAT1では小胞体の細胞質側に,SOAT2では小胞体の内腔側に存在していると推定される.また,Beauは細胞膜を通過できる(トランスポーター介在か?)が,小胞体膜は通過できないと考えられる.このようにSOATに対する機能分子(BeauやPPPA)を利用することにより,3次元構造未知のSOATタンパク質の生体内/細胞内機能の一部を解析することができた.
これまで報告されたSOAT阻害剤のアイソザイムに対する検討(表2表2■SOAT阻害剤のSOAT1とSOAT2に対する選択性の比較(細胞レベルでの評価))から,PPPAはSOAT2を選択的に阻害する唯一の機能分子と考えられた.したがって,SOAT2選択的阻害剤が動脈硬化症や脂質異常症へ有効なのかどうかはまだ試みられてはいない.そこで,動脈硬化発症モデルマウスを用いて,PPPA(10, 25および 50 mg/kg/day)を3カ月間経口投与した(62)62) T. Ohshiro, D. Matsuda, K. Sakai, C. Degirolamo, H. Yagyu, L. L. Rudel, S. Omura, S. Ishibashi & H. Tomoda: Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 31, 1108 (2011)..その結果,用量依存的に血中コレステロールが23~31%と有意に低下した.さらに興味深いことに,投与開始2週間目には血中コレステロールは低下し,リポタンパク質の中でも悪玉コレステロールと言われるVLDLとLDLが有意に低下していた.また,肝臓中のSOAT2により生成し血中リポタンパク質中に導入されるコレステリルオレート(CO)値も,PPPA投与により有意に減少していた.この結果は,PPPAが生体内でもSOAT2を選択的に阻害していることを示している.投与開始3カ月後に大動脈を摘出し,スダンIV染色により動脈硬化病巣を評価したところ,50 mg/kg/day投与で動脈硬化病巣が約50%に減少した.このように,PPPAを用いてSOAT2を選択的に阻害することにより,血中コレステロール低下作用と動脈硬化の進展抑制作用を示すことを初めて証明した(62)62) T. Ohshiro, D. Matsuda, K. Sakai, C. Degirolamo, H. Yagyu, L. L. Rudel, S. Omura, S. Ishibashi & H. Tomoda: Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 31, 1108 (2011)..
PPPAはその構造中に3箇所のO-acetyl基を有しており,これらはSOAT2阻害活性発現には必須であることから,生体内ではエステラーゼにより加水分解され薬理効果が減弱する可能性が懸念された.そこで,ヒトを含む各種動物由来の肝ミクロソーム中でのPPPAの代謝実験を行ったところ,加水分解は1位に続いて11位で起こること,7位のO-acetyl基は分解されにくいことが明らかとなった(63)63) D. Matsuda, T. Ohshiro, M. Ohtawa, H. Yamazaki, T. Nagamitsu & H. Tomoda: J. Antibiot., 68, 27 (2015)..この結果を踏まえ長光亨教授(北里大薬)らは,これら3カ所のO-acetyl基にさまざまな官能基を導入し,半合成的に新たなPPPA誘導体(PRD)を約200種創製した(64~66)64) M. Ohtawa, H. Yamazaki, S. Ohte, D. Matsuda, T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura, H. Tomoda & T. Nagamitsu: Bioorg. Med. Chem. Lett., 23, 1285 (2013).65) M. Ohtawa, H. Yamazaki, D. Matsuda, T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura, H. Tomoda & T. Nagamitsu: Bioorg. Med. Chem. Lett., 23, 2659 (2013).66) M. Ohtawa, H. Yamazaki, S. Ohte, D. Matsuda, T. Ohshiro, L. L. Rudel, S. Omura, H. Tomoda & T. Nagamitsu: Bioorg. Med. Chem. Lett., 23, 3798 (2013)..それらには7位にbenzoyl基を,加水分解されやすい1位と11位にはbenzylidene基で架橋したPRDも含まれる.その結果,PPPAよりさらにSOAT2阻害活性が強く選択性も向上したPRDを創製することに成功した.細胞でのSOAT2に対する阻害活性と選択性の結果(図5図5■PPPA誘導体のSOATアイソザイムに対する選択性)から10種のPRDを選別し,これらについてはさらにモデルマウスで2週間経口投与による血中コレステロール低下作用を測定し,創薬候補として3種のPRDを絞り込んでいる.これらPRDは,動脈硬化発症モデルマウスにおいてPPPAより10~50倍の強い脂質低下作用と抗動脈硬化作用を示した(67)67) T. Ohshiro, M. Ohtawa, T. Nagamitsu, D. Matsuda, H. Yagyu, M. A. Davis, L. L. Rudel, S. Ishibashi & H. Tomoda: J. Pharmacol. Exp. Ther., 355, 299 (2015)..さらに最近,S. D. Turley教授(University of Texas Southwestern Medical Center, USA)らは,細胞内の酸性リパーゼ(LAL)の欠損が原因となり重篤な脂肪肝を引き起こし,若くして死に至る難治性遺伝病ウォルマン病(WD)やCE蓄積症(CESD)のモデルマウス(LAL欠損マウス)を用いて,PRD125がその発症の進展を抑制することを報告した(68)68) A. M. Lopez, J. C. Chuang, K. S. Posey, T. Ohshiro, H. Tomoda, L. L. Rudel & S. D. Turley: J. Pharmacol. Exp. Ther., 355, 159 (2015)..このように,SOAT2選択的阻害剤PRDは,脂質異常症予防治療薬や動脈硬化予防治療薬としてのみならず,WDやCESDに対するオーファンドラッグ,さらに脂肪肝や脂肪肝炎などの脂肪性肝疾患の予防治療薬としても実用化されることを期待している.スタチンに続く微生物資源から脂質代謝領域の医薬品としての発展を願っている.
前述のCHO細胞を利用したスクリーニングは,[14C]Ole添加により[14C]CEの生成だけでなく[14C]TGの生成も評価できるハイコンテントな評価系である.このような点にも注目し,[14C]TGの生成を阻害するような微生物培養液も探索している.この過程で,真菌Talaromyces pinophilus(旧名Penicillium pinophilum)FKI-3864株の培養抽出液が,細胞毒性を示すことなくTGおよびCEの両者の生成を阻害する(TG生成の方が強く阻害される)という表現型を示した.この細胞を用いたスクリーニング系では,このような表現型は非常に珍しいことから選択した.活性を指標に活性物質を単離精製したところ,dinapinone A(DPA)を発見した(69, 70)69) S. Ohte, D. Matsuda, R. Uchida, K. Nonaka, R. Masuma, S. Omura & H. Tomoda: J. Antibiot., 64, 489 (2011).70) R. Uchida, S. Ohte, K. Kawamoto, H. Yamazaki, M. Kawaguchi & H. Tomoda: J. Antibiot., 65, 419 (2012).(図6図6■DP類の構造).DPAを逆相系のODS C18カラムを用いた分取HPLCにより精製した当初は単一の化合物であると考えていたが,各種機器分析の結果,2成分が混合している状態である可能性が示唆された.そこで,DPAをさらに逆相系のC30カラムを用いて精製したところ,予想どおり2成分(存在比として約2 : 3)に分離し,それぞれ軸異性体の関係にあるdinapinone A1(DPA1)(M体)およびdinapinone A2(DPA2)(P体)を取得した.さらにT. pinophilus FKI-3864株の培養液中から,DPAと同一のUV吸収スペクトルを有する類縁体を探索し,最終的にDPABからDPAEまでの4種8成分を新たに取得した(71)71) M. Kawaguchi, R. Uchida, S. Ohte, N. Miyachi, K. Kobayashi, N. Sato, K. Nonaka, R. Masuma, T. Fukuda, T. Yasuhara et al.: J. Antibiot., 66, 179 (2013).(図6図6■DP類の構造).
野生株CHO-K1細胞を用いて[14C]Oleから中性脂質[14C]TGと[14C]CEの生成を測定する評価系を用いてDPAの影響を評価した.当初単一の化合物と考えていたDPA(DPA1 : DPA2の約2 : 3の混合物)を評価したところ,[14C]TGと[14C]CEの両生成を強く阻害し,そのIC50値はそれぞれ0.097および0.31 μMと測定された.TG阻害のほうがやや強く現れる特色があった.一方で,リン脂質(PL)の生成には影響を与えなかった(図7図7■DPAの中性脂質生成阻害活性).しかし,DPAは軸異性体の混合物であったことから,いずれの軸異性体が活性の本体かを明らかとするために,DPA1およびDPA2をそれぞれ単独で評価した.すると驚くべきことに,DPA1単独では12 μMでもTGおよびCEの生成を全く阻害せず,DPA2単独ではTG(IC50値0.65 μM)とCE生成(IC50値5.2 μM)を阻害したものの,混合状態と比べるとその活性は減弱した(図7図7■DPAの中性脂質生成阻害活性).そこで単離したDPA1とDPA2をさまざまな比率で再度混合したところ,阻害活性が回復し,DPA1とDPA2の混合比が1 : 1のとき(DPAmixと略)に最も強い阻害活性が認められた(表3表3■軸異性体混合比の違いによるDPAが示す中性脂質生成阻害活性の変化).このような軸異性体の混合による活性増強は,ヒト子宮頸がん由来HeLa S3細胞やヒト肝がん由来細胞HepG2細胞でも観察された.また,CHO細胞においてDPAと同様の効果を,DPACを除いて,その他のDP類も示した(表4表4■DP類の軸異性体による中性脂質生成阻害活性の変化).
Ratio (A1 : A2) | IC50 (μM) | |
---|---|---|
TG | CE | |
1 : 0 (A1) | >12 | >12 |
5 : 1 | >1.2 | >1.2 |
4 : 1 | >1.2 | >1.2 |
3 : 1 | >1.2 | >1.2 |
2 : 1 | >1.2 | >1.2 |
1 : 1 | 0.054 | 0.18 |
1 : 2 | 0.073 | 0.19 |
1 : 3 | 0.16 | 0.18 |
1 : 4 | 0.25 | 0.71 |
1 : 5 | 0.24 | 0.51 |
0 : 1 (A2) | 0.65 | 5.2 |
まずDPAmixの阻害部位として,TGとCEの生合成に関与する酵素を想定した.TGの生合成経路にはグリセロール3リン酸(G3P)経路とモノアシルグリセロール(MG)経路が知られているが(72)72) R. A. Coleman & D. P. Lee: Prog. Lipid Res., 43, 134 (2004).,MG経路は主に小腸における脂質の吸収過程に限定されることから,CHO-K1細胞ではG3P経路によりTGが生成されると考えられた.G3P経路の4つの酵素,グリセロール3リン酸アシル転移酵素(GPAT),アシルグリセロール3リン酸アシル転移酵素(AGPAT),ホフファチジン酸ホスファターゼ(PAP)およびジアシルグリセロールアシル転移酵素(DGAT)に対するDPAmixの阻害活性を評価したが,12 μMの濃度でも顕著な阻害活性は認められなかった.一方,CE生成酵素であるSOATに対しても,DPAmixにより顕著な阻害活性は認められなかった.またアシルCoA合成酵素にも阻害活性は示さなかった.CHO-K1細胞を用いた評価では,[14C]Oleを加え6時間というかなり長い作用時間で[14C]TGと[14C]CEの生成を測定している.しかし,この作用時間を30分~1時間と短くするとDPAmixの阻害活性は非常に弱くなってしまう.これは上記のように[14C]Oleから[14C]TGと[14C]CEへの生成過程を阻害していない結果をよく説明している.したがって,次のDPAmixの標的として,中性脂質の分解を促進している可能性を想定した.そこで,次のような細胞評価系を構築しDPAmixの影響を調べることとした.すなわち,CHO-K1細胞を[14C]Ole存在下で24時間培養することで,あらかじめ[14C]脂質を細胞内に蓄積させておく.その後,培地交換により未利用の[14C]Oleを除去し,その後DPAmixを含有した新しい培地で細胞を培養した.この培地交換の時点を0時間目とし,継時的に細胞内および培養上清の[14C]脂質を回収し定量した(図8図8■DPAmixが示す中性脂質分解促進活性の生化学的解析).0時間目の細胞内の[14C]TGもしくは[14C]CE蓄積量を100%とした際,コントロールでも時間経過とともに徐々に蓄積量は減少していくが,それと比較してDPAmixを1.2 μM以上作用させることにより,細胞内[14C]TGもしくは[14C]CEのさらなる減少が確認された(図8a図8■DPAmixが示す中性脂質分解促進活性の生化学的解析).0時間目の[14C]脂質量の半減期(LT50)は,コントロールでは[14C]TGおよび[14C]CEともに12 時間以上であったのに対し,DPAmix 12 μM存在下では[14C]TGは約2.5時間,[14C]CEは約4時間と算出され,用量依存的に中性脂質の分解が促進していることが示された.また,分解された細胞内[14C]TGと[14C]CEの量に対応した[14C]Oleが培養上清から回収された(図8b図8■DPAmixが示す中性脂質分解促進活性の生化学的解析).このDPAmixによる中性脂質分解促進効果は細胞内に蓄積した脂肪滴のオイルレッドO染色による観察でも確認できた(図9図9■DPAmixが示す脂肪滴分解促進活性の形態学的解析).
(a) DPAmix処理(0(○),0.12(▲),1.2(●),12(■) μM)による濃度依存的な[14C]TGおよび[14C]CEの分解促進活性.(b)DPAmix 12 μM処理時の細胞内および細胞外の[14C]脂質のプロファイル.
脂肪滴の分解経路として,リポリシス(73)73) G. Fruhbeck, L. Mendez-Gimenez, J. A. Fernandez-Formoso, S. Fernandez & A. Rodriguez: Nutr. Res. Rev., 27, 63 (2014).とオートファジー(74)74) R. Singh & A. M. Cuervo: Cell Metab., 13, 495 (2011).が報告されている.リポリシスは脂肪細胞で起こっており,β受容体が引き金となり進行する.CHO細胞はβ受容体を発現していないことからオートファジーに着目した.オートファジーは2016年ノーベル医学・生理学賞を受賞された大隈良典先生の研究テーマで一躍注目を浴びた細胞機能の1つである.オートファジーによる脂肪滴分解は,リポファジーとも呼ばれている(74)74) R. Singh & A. M. Cuervo: Cell Metab., 13, 495 (2011)..そこで,DPAのオートファジーへの影響を検討した.CHO-K1細胞をDPAで処理して6時間後に細胞ライセートを調製し,オートファジーのマーカータンパク質である,microtubule-associated protein light chain 3(LC3)(75)75) Y. Kabeya, N. Mizushima, T. Ueno, A. Yamamoto, T. Kirisako, T. Noda, E. Kominami, Y. Ohsumi & T. Yoshimori: EMBO J., 19, 5720 (2000).とp62(SQSTM1/sequestosome 1)(76)76) J. Bjorkoy, T. Lamark, A. Brech, H. Outzen, M. Perander, A. Overvatn, H. Stenmark & T. Johansen: J. Cell Biol., 171, 603 (2005).をウエスタンブロッティングで解析した(図10a図10■DP類が示すオートファジー促進活性).DPAmix処理した細胞では,化合物の用量依存的にLC3-II量の増加と,p62量の減少が認められ,DPAmixはオートファジーを誘導していることが示唆された.一方,DPA1およびDPA2単独処理では,LC3-II量の増加は僅かであったが,軸異性体の混合(DPAmix)により,表現型が顕著に変化する現象は,中性脂質分解促進作用と良い一致を示した.また,DPAmix 12 μMでは,LC3-II量の増加は化合物処理1時間後から顕著に観察され,一方で,p62量は化合物処理3時間後から明確にその減少が認められ6時間後にはほぼ消失していた(図10b図10■DP類が示すオートファジー促進活性).このp62の消失時間は,細胞内[14C]TGおよび[14C]CEの半減期と良い相関を示した(図8a図8■DPAmixが示す中性脂質分解促進活性の生化学的解析).以上のことより,DPAが示す中性脂質への影響とオートファジーへの影響は密接に関係しているということが示された.
そのほか,DP類についても同様にLC3-IIを指標にオートファジーへの影響を調べたところ,DPABmix, DPADmixおよびDPAEmixで濃度依存的なLC3-II量の増加が見られ,その強さはDPABmixが一番顕著であり,DPADmixおよびDPAEmixは同程度であった.一方で,DPACmixはLC3-IIの増加を示さなかった(図10c図10■DP類が示すオートファジー促進活性).このLC-II誘導の強さは,これらDP類の中性脂質蓄積阻害活性の強さと良い一致を示した(表4表4■DP類の軸異性体による中性脂質生成阻害活性の変化).この結果もDP類の中性脂質への影響とオートファジーとの関連性を強く支持した.現在はこれまでの研究結果を基盤として,DPAの標的分子を解明するべくさらなる研究を進めている.
Compound | IC50 (μM) | |
---|---|---|
TG | CE | |
DPA1 | >12 | >12 |
DPA2 | 0.65 | 5.2 |
DPAmix | 0.054 | 0.18 |
DPAB1 | >12 | >12 |
DPAB2 | 1.1 | >12 |
DPABmix | 0.030 | 0.089 |
DPAC1 | >11 | >11 |
DPAC2 | >11 | >11 |
DPACmix | >11 | >11 |
DPAD1 | >12 | >12 |
DPAD2 | 4.2 | >12 |
DPADmix | 0.20 | 4.4 |
DPAE1 | 4.8 | >11 |
DPAE2 | 4.3 | >11 |
DPAEmix | 0.13 | 6.3 |
現在,多くの企業が微生物を含め天然資源からの創薬研究から離れ,抗体医薬開発に焦点を置いている.また脂質異常症の治療薬としてスタチンだけでこの領域の治療薬は充分足りているとされ,企業は新しい医薬品開発に消極的である.しかし,LDL受容体の加水分解に関与するプロテアーゼPCSK9に対する抗体医薬が臨床で使用された.日本における微生物資源からの創薬研究は,スタチンをはじめエバーメクチンやタクロリムスなど大きな足跡を残し,世界に大きく貢献してきた実績がある.天然資源からの新しい化合物の報告は,ゲノム工学などの急速な発展とともに実は級数的に増加している.単なる新しい化合物というだけでなく,生物/生理活性というもう一つの重要なファクターを加味して,さらにこの領域の研究が進展することを期待している.そういう意味においても,アカデミアでの研究は今後その重要性が増えていくものと考える.われわれも脂質代謝領域研究においてスタチンに継ぐような創薬につながる研究を展開し続けたいと願っている.
Acknowledgments
本研究で述べた化合物の起源は,私が北里研究所そして北里大学北里生命科学研究所に在籍していたときの研究に端を発している.改めて北里大学・特別栄誉教授の大村 智先生に感謝いたします.本研究は,医薬基盤研究所(06-45),科研費基盤研究A(26253009),科研費基盤研究B(18390008)そして武田科学振興財団2016年度特定研究助成からの助成によって実施されたものである.ここに感謝申し上げます.
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