特集

強心配糖体ウアバインのアグリコン「ウアバゲニン」の新規生理活性

Satoru Tamura

田村

岩手医科大学

Maiko Okada

岡田 麻衣子

東京工科大学

Minoru Ueda

上田

東北大学

Published: 2018-02-20

植物配糖体のアグリコンは,従来,不活性な生合成前駆体であると認識されてきた.今回,われわれは,哺乳類において強心配糖体アグリコン“ウアバゲニン”の生理活性を初めて見いだした.すなわち,ウアバゲニンはオキシステロール受容体LXR (Liver X Receptor) のリガンドとして,腎臓での上皮性ナトリウムチャネルの発現を抑制した.多様なLXR生理作用を選択的に制御するリガンドは,有用な創薬シーズとして期待される.このため,ウアバゲニンが重篤な副作用の脂肪肝を惹起せず,選択性の高いLXRリガンドであったことは,新たな医薬シーズの可能性を提示している.以上,本研究では,新規生理活性物質の探索における配糖体アグリコンの有用性について紹介する.

配糖体とアグリコン

これまで多くの研究者により多数の化合物の単離・構造が決定され,生理活性が明らかとなってきた.これらの発見は,医薬品開発候補となる化合物や生命現象の解明に役立つケミカルツールに多大な貢献をもたらしている.化合物探索の代表的な戦略として,膨大な化合物ライブラリーから鍵穴となるタンパク質を探索する網羅的な方法と,標的タンパク質の立体構造に基づき化合物を開発する方法とが挙げられる.しかしながら,同様のコンセプトだけでは,新規生理活性物質を見いだすことが年々難しくなっており,新しい切り口による資源の探索が課題となっている.このような観点から,われわれは新たな資源として,分子内に糖部を有する配糖体と呼ばれる化合物に着目した.配糖体は生理活性を有するアグリコンが配糖化された構造をとり,天然物の世界において数多く存在するものの,排泄あるいは貯蔵を担う不活化された化合物と考えられていた.しかし,特異な多官能基性分子であるそのアグリコンのもつ生物活性を,活性試験からスクリーニングする試みはあまり行われていない.そこでわれわれが着目したのが,強心配糖体として知られている“ウアバイン”とそのアグリコンである“ウアバゲニン”である.

ウアバインはキョウチクトウ科植物などに含まれているステロイド配糖体であり,植物においてはほかの配糖体と同様に貯蔵・排泄が主な役割と考えられている.一方,哺乳動物においては,ウアバインは心筋収縮作用を発揮することが知られており,古くより鬱血性心不全や不整脈の治療などに用いられてきた(1, 2)1) S. V. Pierre & Z. Xie: Cell Biochem. Biophys., 46, 303 (2006).2) Z. Xie & T. Cai: Mol. Interv., 3, 157 (2003)..長年,この作用機序は不明であったが,ウアバインの標的がナトリウム–カリウムポンプであるNa/K-ATPaseであることが明らかとなった.X結晶構造解析より,ウアバインの3位水酸基上の糖部(ラムノース)がその親和性獲得に重要な役割を果たしていることが示されている.興味深いことに,ウアバインをはじめととする強心配糖体はヒトを含めた哺乳動物の体内からも微量成分として見いだされており,“内因性ジキタリス様物質”と呼称されている.実際,ウアバインは,副腎組織から初めて同定された内因性ジキタリス様物質であり,現在では血圧調節に関与する内因性リガンドであると考えられている(3, 4)3) M. P. Blaustein, J. Zhang, L. Chen, H. Song, H. Raina, S. P. Kinsey, M. Izuka, T. Iwamoto, M. I. Kotlikoff, J. B. Lingrel et al.: Hypertension, 53, 291 (2009).4) M. P. Blaustein: Am. J. Physiol., 232, C165 (1977).

一方,ウアバインのアグリコンであるウアバゲニンについてはほとんど研究例がない.ウアバインと比較して,ウアバゲニンはNa/K-ATPaseへの親和性が著しく低く(5, 6)5) H. Ogawa, T. Shinoda, F. Cornelius & C. Toyoshima: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 13742 (2009).6) S. Paula, M. R. Tabet & W. J. Ball Jr.: Biochemistry, 44, 498 (2005).,単にウアバインの不活性な生合成前駆体であるとみなされていた.このように,従来,哺乳動物におけるウアバゲニンの標的や生理活性については全くの未知であった.そこで,われわれは,ウアバゲニンが生体内において新たな生理活性を有する可能性に着目した.このような可能性を推測するうえで重要な鍵となったのが,ウアバゲニンの分子構造である.ウアバゲニンはステロイド骨格に6個の水酸基が結合した構造をとっており,高度に酸化されたオキシステロールと捉えることが可能である.オキシステロール類については,近年,次々と多様な生理活性が明らかにされてきており,炎症の誘発(7)7) S.-M. Kim, B.-Y. Kim, Y. Son, Y.-S. Jung, S.-K. Eo, Y. C. Park & K. Kim: Biochem. Biophys. Res. Commun., 467, 879 (2015).,ミトコンドリア傷害の助長(8, 9)8) F. Bellanti, D. Mitarotonda, R. Tamborra, M. Blonda, G. Iannelli, A. Petrella, V. Sanginario, L. Iuliano, G. Vendemiale & G. Serviddio: Free Radic. Biol. Med., 75(Suppl. 1), S16 (2014).9) G. Serviddio, F. Bellanti & G. Vendexmiale: Free Radic. Biol. Med., 75(Suppl. 1), S6 (2014).,脂肪肝の誘導(10)10) T. Y. Na, T. Y. Na, Y. H. Han, N. L. Ka, H. S. Park, Y. P. Kang, S. W. Kwon, B. H. Lee & M. O. Lee: J. Pathol., 235, 710 (2015).などはその一例である.そこで,われわれはウアバゲニンにも同様に生理活性が存在するのではないかと考え,その標的分子探索に着手した.

核内受容体リガンドとしてのウアバゲニン

標的分子の探索においては,まずウアバゲニンがステロイド骨格を有することに着目した.哺乳動物においてステロイド骨格を有する低分子化合物は,内分泌ホルモンとして生体内の恒常性維持を司ることが知られている.たとえば,性ホルモンであるエストロゲンやアンドロゲンは代表的なステロイドホルモンの一つである.これらの低分子化合物の生理活性はヒトでは48種類存在するリガンド依存性転写因子群,核内受容体スーパーファミリーにより仲介され,リガンドの生理作用は核内受容体の標的遺伝子産物により発揮される(11)11) O’Malley: Mol. Endocrinol., 4, 363 (1990).

核内受容体の構造は,転写活性化領域A/B, DNA結合領域C,ヒンジ領域D,リガンド依存性転写活性化領域E/Fの6つの機能ドメインから構成され,E/F領域に存在する疎水性のリガンドポケットで各受容体に応じた低分子化合物をリガンドとして受容する.興味深いことに,一つの核内受容体に対して複数のリガンドを受容できることが知られており,各々のリガンドの構造で異なるアロステリックな構造変換を起こすため,リガンド種に応じた標的遺伝子発現制御が可能となっている(12~15)12) H. Gronemeyer, J. A. Gustafsson & V. Laudet: Nat. Rev. Drug Discov., 3, 950 (2004).13) P. Huang, V. Chandra & F. Rastinejad: Annu. Rev. Physiol., 72, 247 (2010).14) C. Y. Lin & J. A. Gustafsson: Nat. Rev. Cancer, 15, 216 (2015).15) E. Viennois, K. Mouzat, J. Dufour, L. Morel, J.-M. Lobaccaro & S. Baron: Mol. Cell. Endocrinol., 351, 129 (2012).

このような観点から,われわれはウアバゲニンが核内受容体を標的とした,新たなリガンドとして生理活性を発揮する可能性を検討した.特に,一般的なステロイドホルモン類がtranstranstrans縮環の平面的な構造であるのに対し,ウアバゲニンは,A-B-C-D環がcistranscisで縮環した全体的に折れ曲がった特徴的な構造を有している(図1図1■ウアバインの化学構造と縮環による全体構造の相違).上述のように,核内受容体はリガンド種に応じた生理作用を発揮するため,ウアバゲニンは,既知のリガンドとは全く異なる新たなリガンド作用を発揮する可能性が期待された.

図1■ウアバインの化学構造と縮環による全体構造の相違

そこでわれわれは,まず,デュアルルシフェラーゼレポーターシステム(10)10) T. Y. Na, T. Y. Na, Y. H. Han, N. L. Ka, H. S. Park, Y. P. Kang, S. W. Kwon, B. H. Lee & M. O. Lee: J. Pathol., 235, 710 (2015).を用いて,核内受容体群の転写活性化能を指標にスクリーニングを行い,ウアバゲニンが核内受容体のリガンドとなる可能性について検討した(図2図2■デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ).各種核内受容体遺伝子をコードするプラスミド,核内受容体プロモーター領域とホタルルシフェラーゼ遺伝子を融合させたレポータープラスミド,およびコントロールとしてCMVプロモーター領域とウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたレポータープラスミドをヒト胎児腎臓由来293T細胞に導入後,ウアバゲニンをこの細胞系に供して,各ルシフェラーゼの活性を測定した.その結果,ウアバゲニンは肝X受容体(LXR)群に作用し,既知LXR合成リガンドT0901317と同等のアゴニスト活性を発揮することが示された.一方で,ウアバゲニンはほかの核内受容体群(ファルネソイドX受容体(FXR),ビタミンD受容体(VDR)および5種のステロイドホルモン受容体)に対しては作用しなかったことから,ある程度LXRに選択性の高いリガンドである可能性が確認された.実際に,LXRとT0901317の共結晶構造(16, 17)16) M. Farnegardh, T. Bonn, S. Sun, J. Ljunggren, H. Ahola, A. Wilhelmsson, J. A. Gustafsson & M. Carlquist: J. Biol. Chem., 278, 38821 (2003).17) S. Svensson, T. Ostberg, M. Jacobsson, C. Norstorm, K. Stefansson, D. Hallen, I. C. Johansson, K. Zachrisson, D. Ogg & L. Jendeberg: EMBO J., 22, 4625 (2003).を用いて,ウアバゲニンをLXRとのin silicoドッキングシミュレーションに供すると,ウアバゲニンはLXRαおよびβのいずれにおいても,T0901317と同様にLXRのリガンドポケットに収まることが示唆された.また,その際のウアバゲニンの安定化エネルギーも種々の既知LXRリガンドT0901317, GW3965, 24(S),25-epoxycholesterolに近い値を示すことが確認された(図3図3■In silicoドッキングスタディによるウアバゲニンとLXRの安定配座).一方で,ほかの核内受容体(AR, GR, MR, VDR, FXR)では,安定化エネルギーは各々の既知リガンドと比較して大幅に低下した.特に,LXRと類似性が高いといわれているVDR, FXRに親和性を示さなかったことは,ウアバゲニンの特徴的な核内受容体選択性を支持する結果となった.

図2■デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイ

図3■In silicoドッキングスタディによるウアバゲニンとLXRの安定配座

ウアバゲニンは脂肪肝を誘導しないLXRリガンドである

LXRはコレステロール代謝産物のオキシステロールを内因性リガンドとする核内受容体であり,コレステロール排泄,脂質代謝,グルコース代謝,免疫応答など多様な生理作用を担い,生体内の恒常性維持を担うことが知られている(18~24)18) J. J. Repa, G. Liang, J. Ou, Y. Bashmakov, J. M. Lobaccaro, I. Shimomura, B. Shan, M. S. Brown, J. L. Goldstein & D. J. Mandelsdorf: Genes Dev., 14, 2819 (2000).19) C. Hong & P. Tontonoz: Nat. Rev. Drug Discov., 13, 433 (2014).20) A. C. Calkin & P. Tontonoz: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 13, 213 (2012).21) M. Baranowski: J. Physiol. Pharmacol., 59(Suppl. 7), 31 (2008).22) G. Cao, Y. Liang, C. L. Broderick, B. A. Oldham, T. P. Beyer, R. J. Schmidt, Y. Zhang, K. R. Stayrook, C. Suen, K. A. Otto et al.: J. Biol. Chem., 278, 1131 (2003).23) D. J. Peet, S. D. Turley, W. Ma, B. A. Janowski, J.-M. A. Lobaccaro, R. E. Hammer & D. J. Mangelsdorf: Cell, 93, 693 (1998).24) T. Yoshikawa, H. Shimno, M. Amemiya-Kudo, N. Yahagi, A. H. Hasty, T. Matsuzaka, H. Okazaki, Y. Tamura, Y. Iizuka, K. Ohashi et al.: Mol. Cell. Biol., 21, 2991 (2001)..また,近年ではLXRのアゴニストの抗がん作用や降圧作用が明らかとなりつつある(25~30)25) N. Pencheva, C. G. Buss, J. Posada, T. Merghoub & S. F. Tavazoie: Cell, 156, 986 (2014).26) K. A. Houck, K. M. Borchert, C. D. Hepler, J. S. Thomas, K. S. Bramlett, L. F. Michael & T. P. Burris: Mol. Genet. Metab., 83, 184 (2004).27) L. L. Vedin, J. A. Gustafsson & K. R. Steffensen: Mol. Carcinog., 52, 835 (2013).28) I. Kuipers, P. van der Harst, F. Kuipers, L. van Genne, M. Goris, J. Y. Lehtonen, D. J. van Veldhuisen, W. H. van Gilst & R. A. de Boer: Lab. Invest., 90, 630 (2010).29) C. E. Leik, N. L. Carson, J. K. Hennan, M. D. Basso, Q.-Y. Liu, D. L. Crandall & P. Nambi: Br. J. Pharmacol., 151, 450 (2007).30) S. Soodvilai, Z. Jia, S. Fongsupa, V. Chatsudthipong & T. Yang: Am. J. Physiol. Renal Physiol., 303, F1610 (2012)..このため,新たなLXRリガンドの発見は動脈硬化や糖尿病,がんなど,現代社会で罹患率の高い疾患の有用な分子標的薬開発の基盤となることが期待されている.一方で,既存のLXR合成リガンドは重篤な副作用として脂肪肝を惹起することが知られており,創薬開発の大きな障壁となっている(18, 31, 32)18) J. J. Repa, G. Liang, J. Ou, Y. Bashmakov, J. M. Lobaccaro, I. Shimomura, B. Shan, M. S. Brown, J. L. Goldstein & D. J. Mandelsdorf: Genes Dev., 14, 2819 (2000).31) J. W. Chisholm, J. Hong, S. A. Mills & R. M. Lawn: J. Lipid Res., 44, 2039 (2003).32) S. B. Joseph, B. A. Laffitte, P. H. Patel, M. A. Watson, K. E. Matsukuma, R. Walczak, J. L. Collins, T. F. Osborne & P. Tontonoz: J. Biol. Chem., 277, 11019 (2002)..LXRにはLXRαとLXRβの2つのサブタイプが存在するが,LXRβがユビキタスに発現する一方で,LXRαの発現は主に肝臓や小腸,脂肪組織など組織特異性を示し,合成リガンドによる脂質代謝遺伝子群(SREBP1c, ABCA1, FASなど)の誘導が脂肪肝の主要因となることが知られている.したがって,サブタイプ特異的に制御可能なLXRリガンドの発見は,創薬開発のブレイクスルーとなることが期待される.

興味深いことに,われわれがLXRリガンドとして同定したウアバゲニンは,脂肪肝を惹起しないことを見いだした.マウス肝がん由来Hepa1-6細胞株ではT0901317と異なり,ウアバゲニンによる脂質代謝制御遺伝子群の誘導は認められなかった.さらに,マウス個体を用いたin vivo解析においても,このようなウアバゲニンの遺伝子発現制御の特性が確認された.特筆すべきは,従来,LXR合成リガンドの課題であった脂肪肝をウワバゲニンは誘導しないことである.合成リガンドあるいはウアバゲニンを10 mg/kg/dayで5日間連続投与すると,従来の報告どおり,T0901317投与群では肝臓が肥大しており肝臓重量比も有意に増加したが(33)33) J. R. Schultz, H. Tu, A. Luk, J. J. Repa, J. C. Medina, L. Li, S. Schwendner, S. Wang, M. Thoolen, D. J. Mangelsdorf et al.: Genes Dev., 14, 2831 (2000).,ウアバゲニン投与群ではほぼコントロール群と同等であった.また,T0901317では亢進した肝トリグセリド量についても,ウアバゲニンでは顕著な変化は認められなかった.

このようなウアバゲニンの特性を説明する理由として,まず,肝臓における薬物代謝との関連が推測された.一般に,ステロール類は肝臓において代謝を受け分解されるため,肝臓におけるウアバゲニンと既存リガンドとの薬物代謝の違いが,今回のようなリガンド特性の差異を規定する可能性を検討した.そこで,肝臓以外の組織として腎臓に着目し,マウス腎集合管由来M-1細胞において同様の検討を行った.その結果,T0901317では脂質代謝制御遺伝子群の有意な亢進が認められたものの,ウアバゲニンでは肝臓由来細胞と同様にこれらの遺伝子群について発現変動は確認されなかった.

以上より,ウアバゲニンは肝臓の薬物代謝とは異なる機構で,LXRの生理作用にある程度の特異性をもつ希有なリガンドであることが示唆された.また,このような脂質代謝に対する既存リガンドとウアバゲニンの作用の違いは,ヒト肝がん由来HepG2細胞株においても認められ,種間で保存された重要なリガンド応答の違いであると言える.

既存の合成LXRリガンドとは異なる応答を示すウアバゲニン

ウアバゲニンが脂肪肝を誘導しないことは,既存の合成LXRリガンドとの最も明瞭で有用な違いであると言えるが,ほかにもいくつかの違いが明らかとなっている.まず第一に,ウアバゲニンの受容体特異性の高さが挙げられる.T0901317は,LXRのみならずFXRとも結合して転写活性化能を発揮するため,FXRを介してアポリポタンパクの発現(34)34) C. Zhu, D. Di, X. Zhang, G. Luo, Z. Wang, J. Wei, Y. Shi, M. Berggren-Soderlund, P. Nilsson-Ehle & N. Xu: Lipids Health Dis., 10, 199 (2011).や脂肪酸代謝(26)26) K. A. Houck, K. M. Borchert, C. D. Hepler, J. S. Thomas, K. S. Bramlett, L. F. Michael & T. P. Burris: Mol. Genet. Metab., 83, 184 (2004).に影響を与えることが知られている.一方で,ウアバゲニンはFXRをはじめとするほかの受容体には作用しないことが,先のレポーターアッセイにおいて確認されており,ウアバゲニンはT0901317よりも選択性の高いLXRリガンドといえる.第二に,細胞毒性の低さである.M-1細胞に対してT0901317とGW3965がそれぞれIC50値12 μM, 3.2 μMの生育阻害活性を示したのに対して,ウアバゲニンは0.1 mMの濃度でもほとんど阻害活性を示さなかった.第三に,生理作用の特異性の高さが挙げられる.LXR合成リガンドの作用として,脂肪肝の誘導のほか,GW3965はヒト結腸腺がん由来HCT116細胞株において細胞周期のG1期に停滞を引き起こすことが知られている(27)27) L. L. Vedin, J. A. Gustafsson & K. R. Steffensen: Mol. Carcinog., 52, 835 (2013)..一方で,ウアバゲニンではGW3965と同濃度で作用させてもG1期停滞を含めた細胞周期への影響は認められなかった.以上から,ウアバゲニンは既知合成リガンドより毒性が低く,選択性の高いLXRリガンドである可能性が示された.

ウアバゲニンのENaC発現抑制作用

前項では既存の合成LXRリガンドの副作用に対するウアバゲニンの差異について紹介してきたが,最後に,ウアバゲニンによる選択的なLXRの生物活性およびその制御機構について紹介する.

LXRリガンドの生理作用にはコレステロールや糖代謝に加え,腎臓における血圧調整作用を有する可能性が指摘されている(28, 29)28) I. Kuipers, P. van der Harst, F. Kuipers, L. van Genne, M. Goris, J. Y. Lehtonen, D. J. van Veldhuisen, W. H. van Gilst & R. A. de Boer: Lab. Invest., 90, 630 (2010).29) C. E. Leik, N. L. Carson, J. K. Hennan, M. D. Basso, Q.-Y. Liu, D. L. Crandall & P. Nambi: Br. J. Pharmacol., 151, 450 (2007)..さらに2012年には,LXRリガンドが集合尿細管細胞上の上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)の発現を抑制することが報告されている(30)30) S. Soodvilai, Z. Jia, S. Fongsupa, V. Chatsudthipong & T. Yang: Am. J. Physiol. Renal Physiol., 303, F1610 (2012)..尿細管細胞においてENaCは原尿からのナトリウムイオン取り込みを担っており,体内水分や塩分の恒常性維持ひいては血圧の安定に欠かせない機能を有している(35, 36)35) B. C. Rossier: Curr. Opin. Pharmacol., 15, 33 (2014).36) D. G. Warnock, K. Kusche-Vihorg, A. Tarjus, S. Sheng, H. Oberleithner, T. R. Kleyman & F. Jaisser: Nat. Rev. Nephrol., 10, 146 (2014)..本チャネルの発現量低下はナトリウムの再吸収抑制につながり,体内の水分貯留を低減させることから,血圧低下を促すことが考えられる.実際に,ENaC阻害剤であるトリアムテレンやアミロライドは利尿降圧作用を示すことが知られている.したがって,LXRリガンドも作用機序は依然として未知ではあるものの,同様の降圧作用が期待される.そこで,われわれは選択性の高いLXRリガンドであるウアバゲニンがこのようなLXR生理作用に寄与するかを検討し,その作用機序の解明を試みた.

マウスENaCはα, β, γの3種のサブユニットから構成されており,このうちのいずれかが欠如してもナトリウムチャネルとしての機能が大きく損なわれると言われている(37~40)37) J. Loffing & L. Schild: J. Am. Soc. Nephrol., 16, 3175 (2005).38) L. Schild, E. Schneeberger, I. Gautschi & D. Firsov: J. Gen. Physiol., 109, 15 (1997).39) C. M. Canessa, L. Schild, G. Buell, B. Thorens, I. Gautschi, J. D. Horisberger & B. C. Rossier: Nature, 367, 463 (1994).40) D. Firsov, I. Gautschi, A. M. Merillat, B. C. Rossier & L. Schild: EMBO J., 17, 344 (1998)..まず,ウアバゲニンによるこれらの遺伝子のmRNAの発現制御の可能性について,マウス腎集合管由来M-1細胞を対象にqRT-PCRに供して検討した.その結果,ウアバゲニンを含めたいずれのLXRリガンドも,Enacαについては影響しないものの,EnacβおよびEnacγの発現を抑制することが示された.さらに,siRNAを用いたノックダウン法により,これらのリガンド作用が確かにLXRを介することが確認された.先に述べたように,LXRにはαとβの2つのサブタイプが存在するため,LXRのサブタイプ特異的なノックダウン条件を確立して検討したところ,興味深いことに,LXRβを特異的にノックダウンしたときのみウアバゲニンおよび合成リガンドによるEnacsの発現抑制がキャンセルされることを見いだした.さらに,この条件下でLXRαを過剰発現させても,Enac発現抑制活性はレスキューされないことが示された.以上から,LXRリガンドのEnac発現抑制活性はLXRβにのみ依存して引き起こされており,LXRαには影響されないことが証明された(図4図4■ウアバゲニンはLXRβを介してENaCの発現を抑制する).

図4■ウアバゲニンはLXRβを介してENaCの発現を抑制する

さらに,ウアバゲニンのENaC発現抑制活性について,マウス個体を用いたin vivo実験においても検証することとした.ddyマウスに対して1 mg/kgの各リガンドを腹腔内投与して6時間後に腎臓を摘出し,EnacのmRNA発現量を評価した.その結果,驚くべきことにαサブユニットを含めたすべてのサブユニットの発現量が低下していることが明らかとなった.すなわち,ウアバゲニンには,in vivoでもマウスに対して腎臓のENaC発現を抑制する効果があることが認められた.

おわりに

これまでウアバゲニンは,強心配糖体ウアバインの不活性な生合成前駆体アグリコンとして考えられてきたが,今回,選択性の高いLXRリガンドとして機能し,腎臓でのENaC発現抑制を担う生理活性が明らかとなってきた.LXRの生理作用を鑑みると,LXRリガンドはアテローム動脈硬化症(41)41) A. Calkin & P. Tontonoz: Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol., 30, 1513 (2010).や糖尿病,がんなどさまざまな疾患の分子標的薬となることが期待されるが,一方で,脂肪肝を誘導するため,創薬として諸刃の剣の性質を有してきた.脂肪肝の誘導は主としてLXRαを介して発揮されるため,LXRβに選択的なリガンドの開発が望まれてきた.しかしながら,LXRの両サブタイプのリガンドポケットは相同性が高く,両サブタイプの機能を個別に制御可能な,サブタイプ特異的なリガンドの開発には至っていない.このようなリガンドの開発は創薬のみならず,各サブタイプに依存した生理作用・病理作用の解明にも必要不可欠であると考えられる.したがって,われわれが見いだしたウアバゲニンの生理活性がLXRβに特異的であり,脂肪肝の誘導を伴わないことは,今後のLXRの基礎および創薬研究において利用価値の高い全く新しいLXRリガンドとなることが期待される.また,ルシフェラーゼ活性やドッキングシミュレーションの結果からは,ウアバゲニンはいずれのLXRサブタイプの転写活性化能も有する潜在性を秘めており,如何にして生体内においてウアバゲニンのサブタイプ特性が発揮されるかは興味深い.作用機序は未知であるが,内因性のLXRでは脂肪肝を誘導しないため,これらの機構とウアバゲニンの作用機序の共通項を見いだすことは,新たな選択的LXRリガンドの開発の手がかりとなると考えられる.また,本研究により,ウアバゲニンは培養細胞系とマウス個体の両方でENaCsを抑制することが明らかとなった.今後,ウアバゲニンによるENaCs抑制作用は,利尿降圧剤シーズとして,高血圧治療薬の選択肢を拡げることが期待される.またウアバゲニンは脂肪肝だけでなく,既存のLXRリガンドの副作用についても認められないことから,医薬品シーズとして有望であると言える(図5図5■ウアバゲニンは脂肪肝を誘導せず腎臓でのENaC発現を抑制する).

図5■ウアバゲニンは脂肪肝を誘導せず腎臓でのENaC発現を抑制する

このようなウアバゲニンの生理活性を「配糖体–アグリコン」の観点から考えると,腎臓において「配糖体」であるウアバインがNa/K-ATPaseを介して昇圧作用を発揮する可能性と,「アグリコン」であるウアバゲニンが腎臓のENaC発現を介して降圧作用を発揮する可能性が,如何にして関連していくかは非常に興味深い.哺乳動物において両化合物を変換する糖付加酵素や脱糖酵素は未知であり,現段階では両化合物の関係性は想像の範疇を超えることができない.しかしながら,これら化合物の生体内の変換が,ENaCからNa/K-ATPaseへ標的変化を引き起こし,生理活性として血圧降下から血圧上昇へと全く逆の活性へと切り替わる可能性は,極めてユニークで魅力的な仮説である.今後のさらなる解析により,「ウアバイン–ウアバゲニン」の関係が,体内の状況に応じて糖部の解離/結合を操作して血圧の安定を図る可能性も考えられる.

天然物化学においては,配糖体とアグリコンの関係は,どちらか一方が生理活性を有し,もう一方はその不活性化体であるというのが一般的な視点であった.今回,ウアバインを例として配糖体とアグリコンの双方が個別の標的タンパク質を介して,全く異なる生理活性を発揮する例を見いだすことができた.ウアバイン–ウアバゲニンが哺乳動物において内因性リガンドであることの証明や,その生合成経路を解き明かすことは,今後の重要な課題である.しかし,ウアバゲニンを例に,過去に生物活性を示さないとされた配糖体アグリコンに,予想だにしないような生物活性が潜んでいる可能性は少なくなく,天然に多く存在する配糖体分子のアグリコンが新たな生理活性分子の探索資源として有用であることを指摘できたのではないかと考えている.

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