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AGEsの精密分析と食品化学,医学への応用AGEsの精密分析により新しい事実が明らかに

Yuzuru Otsuka

大塚

戸板女子短期大学食物栄養科

Etsuko Ueta

上田 悦子

鳥取大学医学部保健学科

Yuri Nomi

能見 祐理

新潟薬科大学応用生命科学部応用生命科学科

Published: 2018-03-20

食品中の糖とアミノ酸やタンパク質との化学反応であるメイラード反応は食品の風味に大きく寄与するばかりではなく,生体内で起きると糖尿病合併症の原因物質の生成に関与していることが示唆されるデータも多い.しかしながらその反応の全容はいまだ解明が進んでいない.糖のアルデヒド基とアミノ酸やタンパク質のアミノ基が化学反応するとシッフ塩基を経て,アマドリ転位生成物,たとえばフルクトシルリジンが生じる.このアマドリ転位生成物はその後酸化や脱水などのさまざまな化学反応を受け,各種の後期糖化生成物(AGE)を生成する.AGEと呼ばれる物質は20数種類あるが,なかでもcarboxymethyllysine(CML)やcarboxyethyllysine(CEL),methylglyoxal-derived hydroimidazolone(MG-H1),pyrraline, pentosidineなどが有名である.(図1図1■LC-MS/MSによるCML, CEL, MG-H1の定量分析

図1■LC-MS/MSによるCML, CEL, MG-H1の定量分析

インタクト社のIntrada Amino Acidカラムを用いて標準品のCML, CEL, MG-H1をABSCIEX社の5500 LC-MS/MSで分析した4)4) Y. Nomi, H. Annaka, S. Sato, E. Ueta, T. Ohkura, K. Yamamoto, S. Homma, E. Suzuki & Y. Otsuka: J. Agric. Food Chem., 64, 8397 (2016).

CMLは最初に発見されたAGEで(1)1) M. U. Ahmed, S. R. Thorpe & J. W. Baynes: J. Biol. Chem., 261, 4889 (1986).,アマドリ転位生成物であるフルクトシルリジンが酸化分解されて生じるが,窒素置換した脱酸素状態では生じないことが知られている.一方,MG-H1はアルギニンとメチルグリオキサールの脱水反応により生じることが知られている.

動物実験において,過剰AGEに暴露するとミトコンドリアのスーパーオキシド生成によりインスリン分泌を阻害するβ細胞障害の経路が活性化することが示されている.またヒトの研究では,健康なヒトの耐糖能試験中にAGEと急性インスリン分泌との間に関連性が見られたという報告もあり,これらの結果はAGEがインスリン分泌およびインスリン抵抗性に影響を与えうることを示唆している.

AGEの分析法には大きく分けて抗体を用いるELISA法とLC-MS/MSを用いる方法がある(2)2) J. M. Silvan, J. van de Lagemaat, A. Olano & M. D. Del Castillo: J. Pharm. Biomed. Anal., 41, 1543 (2006)..抗体にはウサギ抗CML-IgG抗体や6D12抗体などが用いられているが,これらの抗体がどのような分子と反応するのかは正確には分析されておらず,CMLとCELが区別して定量できているのかも明らかではない(3)3) N. J. Kellow & M. T. Coughlan: Nutr. Rev., 73, 737 (2015)..また抗原抗体反応時に非特異的反応を抑えるためにブロッキングするが,よく用いられるカゼインはすでにメイラード反応が進行しており,バックグラウンドを高くする.

LC-MS/MS法は抗体を用いる方法に比べ,分子種ごとに測定でき精密な濃度測定ができる.しかしながらAGEは一般的に高極性であるためにLCではカラムに保持されないので誘導体化して分析する手法がとられてきた.しかしながら手間が煩雑ですべての分子種が同一の効率で誘導体化されるかなどの欠点があり,高極性物質を保持できるLC用のカラムが待たれていた.われわれはさまざまなカラムを試し,インタクト社がアミノ酸分析用に開発したIntrada Amino Acidカラムが誘導体化することなしにAGE類を保持できることを見つけた(4)4) Y. Nomi, H. Annaka, S. Sato, E. Ueta, T. Ohkura, K. Yamamoto, S. Homma, E. Suzuki & Y. Otsuka: J. Agric. Food Chem., 64, 8397 (2016)..このカラムは比較的短時間に7種類のAGE類をきれいに分離でき,MS/MSと組み合わせMRM法により精密に定量することが可能になった(図1図1■LC-MS/MSによるCML, CEL, MG-H1の定量分析).

各種の市販ビールや醤油の遊離型AGEを分析したところCML, CEL, MG-H1が主要なAGEであることが明らかとなった.また,加熱温度の違いによって形成するAGEに差が見られたことから,品質評価に応用できる可能性が示された.

一方,2型糖尿病患者と非糖尿病患者の血清中の遊離AGEの測定を行うと同時にグルコースクランプ法によりインスリン抵抗性を測定した.人の血清中の遊離のAGEではCML, CEL, MG-H1の含有量が多く,CMLとCELは糖尿病患者で有意に高かった.血清遊離CML濃度は糖尿病患者でインスリン分泌等と負の相関が認められ,インスリン感受性とは正の相関が認められた(5)5) T. Okura, E. Ueta, R. Nakamura, Y. Fujioka, K. Sumi, K. Matsumoto, K. Shoji, K. Matsuzawa & S. Izawa: Yuri Nomi, et al. J. Diabetes Res., ArticleID 5139750 (2017).

遊離型のAGEの分析に比べタンパク質やペプチド等に結合しているAGEの分析は,結合型を遊離型に変換する方法が難しく確立されていない.CMLの前駆体のフルクトシルリジンが塩酸加水分解でCMLを生成するため,6N塩酸加水分解では過剰に見積もっている可能性がある.そこで還元してから加水分解をする方法が開発されているが不十分である.一方で酵素を組み合わせる方法をソナリーらは用いているが完全に消化されているか疑問が残る.今後最適な結合型の分析方法の確立が望まれる.

われわれは現在この方法を用いて,各種の食品の分析や加工方法による生成物の変化などを調べており,興味深い結果を得ている.またヒトの食事中のAGEと摂取後の血中AGEの変化についても新たな知見を得つつある.今後この精密分析により食品や生体中のAGEの生成とその意義が明らかにできるものと期待している.

Reference

1) M. U. Ahmed, S. R. Thorpe & J. W. Baynes: J. Biol. Chem., 261, 4889 (1986).

2) J. M. Silvan, J. van de Lagemaat, A. Olano & M. D. Del Castillo: J. Pharm. Biomed. Anal., 41, 1543 (2006).

3) N. J. Kellow & M. T. Coughlan: Nutr. Rev., 73, 737 (2015).

4) Y. Nomi, H. Annaka, S. Sato, E. Ueta, T. Ohkura, K. Yamamoto, S. Homma, E. Suzuki & Y. Otsuka: J. Agric. Food Chem., 64, 8397 (2016).

5) T. Okura, E. Ueta, R. Nakamura, Y. Fujioka, K. Sumi, K. Matsumoto, K. Shoji, K. Matsuzawa & S. Izawa: Yuri Nomi, et al. J. Diabetes Res., ArticleID 5139750 (2017).