解説

脂肪滴の大きさを調節する脂肪滴膜タンパク質と膜脂質脂肪滴の“表面”が脂肪滴のサイズを決める

Lipid Droplet Membrane Protein and Monolayer Lipid Membranes Are Regulators of the Lipid Droplet Size: The Characterizations of Lipid Droplet Surface Decide the Size of Lipid Droplet

Kotoko Arisawa

有澤 琴子

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科

Ikuyo Ichi

育代

お茶の水女子大学基幹研究院

Published: 2018-03-20

脂肪滴は全身の細胞に存在するオルガネラであり,単なるエネルギーの貯蔵庫ではなくエネルギー代謝や生体の恒常性維持において重要な役割をもつことが示唆されている.プロテオーム研究より明らかになった種々の脂肪滴膜タンパク質は脂肪滴膜上で中性脂肪を合成したり,脂肪分解から脂肪滴を保護することで脂肪滴サイズの調節にかかわっている.さらに最近,脂肪滴表面を囲むリン脂質膜は,膜表面の物理的性質を調節することで脂肪滴のサイズを制御していることが明らかになってきた.本稿ではこれまで蓄積されてきた知見に加え,われわれが最近明らかにした脂肪滴サイズの制御における脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸鎖の役割についても紹介する.

はじめに

生体内の余剰なエネルギーは細胞内の脂肪滴(lipid droplet)と呼ばれるオルガネラに蓄積されており,細菌からヒトまで保存されている.脂肪滴の存在は1674年にvan Leeuwenhoekによって提唱されていたが(1)1) E. A. Kernohan & E. Lepherd: J. Dairy Res., 36, 177 (1969).,当時の技術ではその存在を明らかにできなかった.脂肪滴は顕微鏡技術の進歩とともに19世紀頃にその存在が認められ,細胞内で過剰になった脂質を蓄積するための不活性な構造体と考えられてきた.そして1990年代以降,プロテオミクスの発展より,構造タンパク質,脂質代謝酵素,膜輸送タンパク質,細胞シグナリングタンパク質など多数の脂肪滴関連タンパク質が存在することが明らかになった(2)2) Y. Ding, L. Yang, S. Zhang, Y. Wang, Y. Du, J. Pu, G. Peng, Y. Chen, H. Zhang, J. Yu et al.: J. Lipid Res., 53, 399 (2012)..これを皮切りに,脂肪滴は代謝的に活発で動的な機能をもつオルガネラであると認識が変化してきた.

小胞体やゴルジ体などのオルガネラはリン脂質の二重膜に覆われているが,脂肪滴は疎水性の高いトリアシルグリセロール(TAG)やコレステロールエステルなどの中性脂質がリン脂質の一重膜に囲まれた構造をしている(図1図1■脂肪滴の構造).脂肪滴のリン脂質は疎水部の脂肪酸鎖が中性脂質に接し,親水部の極性基が細胞質側に配列することで中性脂質を細胞内で安定的に存在させることができる.過剰な遊離脂肪酸は細胞機能に悪影響を及ぼすが,TAGとなり脂肪滴に組み込まれると,比較的不活性で安定し,無害である.

図1■脂肪滴の構造

脂肪滴はTAGやコレステロールエステルで構成される疎水性の核をリン脂質一重膜が取り囲んだ構造をしている.一方,細胞膜やゴルジ体,小胞体などの多くの細胞小器官はリン脂質の疎水部が向かい合った二重膜構造を取る.

脂肪滴の形態や機能には多様性があり(3)3) T. C. Walther & R. V. Farese Jr.: Annu. Rev. Biochem., 81, 687 (2012).,白色脂肪細胞では脂肪滴はそのサイズが大きく変化する.脂肪滴は形成初期には小型であるが,脂肪の蓄積や脂肪滴同士の融合を介して直径100 nmから直径100 µm以上にも及ぶ単房性の大型脂肪滴が形成される.白色脂肪細胞は比較的多くの中性脂質を貯蔵できるが,肥満などで貯蔵能力を超えたときや脂肪萎縮症などで脂肪蓄積に障害があるときは,過剰な中性脂質は肝臓や心臓,骨格筋,膵臓のβ細胞などに異所性脂肪として蓄積する.そして肝臓や骨格筋,膵臓のβ細胞などで過剰な脂肪が蓄積すると,糖尿病や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症や進展を促進することが指摘されている.つまり,白色脂肪細胞の脂肪滴における中性脂質の蓄積は,ほかの細胞において脂肪毒性を有する脂質の蓄積を防ぐ役割を担っている.

一方,貯蔵した脂質を積極的にエネルギー源とする褐色脂肪細胞の脂肪滴は,白色脂肪細胞とは異なり小型かつ多房性であり,多房性の小型脂肪滴を保つために脂肪滴同士の融合を防ぐようなメカニズムが存在している.このような小型かつ多房性の脂肪滴は大型で単房性の脂肪滴と比較して表面積が大きいため,脂肪分解を担うリパーゼが作用しやすく,小型で多房性であるとも考えられている.

脂肪滴の形成と脂肪滴サイズの制御

真核生物における脂肪滴の新規形成は中性脂質が合成される小胞体によって行われるとされており,脂肪滴が小胞体のリン脂質二重膜から派生して形成されるモデルが提唱されている(4)4) H. Robenek, O. Hofnagel, I. Buers, M. J. Robenek, D. Troyer & N. J. Severs: J. Cell Sci., 119, 4215 (2006)..代表的なものに,小胞体で合成された中性脂質が疎水性の高い二重膜内に蓄積し,そこから派生して脂肪滴が形成されるモデルがある.二重膜内において非常に可動性の高い中性脂質は,膜内で蓄積すると自発的に凝集し,その結果,中性脂質の局所的な濃度が閾値に達し,凝集した中性脂質相のレンズが形成される.そのレンズにさらに中性脂質が蓄積すると,二重膜が変形し,脂肪滴が細胞質側に形成されると考えられている.そのほかにも脂肪滴の形成を促進または調節するタンパク質の存在が報告されているが(4)4) H. Robenek, O. Hofnagel, I. Buers, M. J. Robenek, D. Troyer & N. J. Severs: J. Cell Sci., 119, 4215 (2006).,脂肪滴の新規形成に関してはいまだ明確に支持するデータはない.

脂肪滴は形成初期は細胞のサイズに比べて非常に小型であるが,多くの脂肪細胞には大型の脂肪滴が存在する.脂肪滴の大型化は脂肪滴自身の拡張と脂肪滴同士の融合によって引き起こされる.そして,脂肪滴の小型化はTAGの分解によって生じる(5)5) R. Zechner, R. Zimmermann, T. O. Eichmann, S. D. Kohlwein, G. Haemmerle, A. Lass & F. Madeo: Cell Metab., 15, 279 (2012)..脂肪細胞や多くの細胞では,TAGはAdipose trigriceride lipase(ATGL)によってジアシルグリセロールと脂肪酸に加水分解され,ジアシルグリセロールはHormone sensitive lipase(HSL)によってモノアシルグリセロールと脂肪酸に分解される.さらにモノアシルグリセロールは脂肪酸とグリセロールに分解される.また,脂肪滴もほかのオルガネラと同様に,オートファジーによる代謝回転(ターンオーバー)が行われている.リソソームと融合した脂肪滴はオートファゴソームに取り込まれ,リソソーム由来の加水分解酵素Lysosomal acid lipase(LAL)によって脂肪滴のTAGが加水分解される.ただし,TAGの分解においてこれら2つの経路がどのように制御されているかは未だ不明である.

脂肪滴のサイズを制御する脂肪滴膜タンパク質

近年の脂肪滴のプロテオーム研究により数多くの脂肪滴タンパク質の存在が明らかになってきた(2)2) Y. Ding, L. Yang, S. Zhang, Y. Wang, Y. Du, J. Pu, G. Peng, Y. Chen, H. Zhang, J. Yu et al.: J. Lipid Res., 53, 399 (2012)..脂肪滴に局在するタンパク質の多くは表層に存在すると考えられており,脂肪滴を構成する脂質の合成や分解,輸送などにかかわるタンパク質が数多く報告されている(6)6) D. L. Brasaemle, G. Dolios, L. Shapiro & R. Wang: J. Biol. Chem., 279, 46835 (2004)..脂肪滴は小胞体膜上で合成されたTAGおよびリン脂質を材料に形成されるが,小胞体から分離した後も脂肪滴上のタンパク質を介して中性脂質が蓄積し,脂肪滴は大型化し成熟する.Perilipin familyと称される脂肪滴膜上のタンパク質はTAG分解を制御しているタンパク質で(7)7) A. S. Greenberg, J. J. Egan, S. A. Wek, N. B. Garty, E. J. Blanchette-Mackie & C. Londos: J. Biol. Chem., 266, 17 (1991).,5つのメンバーが存在する.Perilipin1とPerilipin4は脂肪組織やステロイド産生細胞に,Perilipin2と3はユビキタスに発現しており,Perilipin5は心臓や骨格筋に高発現している(8)8) T. Yamaguchi, S. Matsushita, K. Motojima, F. Hirose & T. Osumi: J. Biol. Chem., 281, 20 (2006)..そして,Perilipin familyタンパク質は脂肪滴のサイズに応じて局在が異なることが知られている.たとえば,Perilipin3や4は形成初期の小型の脂肪滴に局在するが,脂肪滴の成熟に伴い脂肪滴膜への局在はPerilipin2が多くなり,さらに大型化した脂肪滴ではPerilipin1の局在が多くなることが報告されている(9)9) N. E. Wolins, B. K. Quaynor, J. R. Skinner, M. J. Schoenfish, A. Tzekov & P. E. Bickel: J. Biol. Chem., 280, 19 (2005).

脂肪滴の融合はFat specific protein 27(FSP27)とPerilipin1の結合を介して行われ,2つの脂肪滴間にFSP27とPerilipin1のチャネル様結合が形成されることで,小型脂肪滴から大型脂肪滴への中性脂質の輸送が行われる(10)10) J. Gong, Z. Sun, L. Wu, W. Xu, N. Schieber, D. Xu, G. Shui, H. Yang, R. G. Parton & P. Li: J. Cell Biol., 195, 953 (2011)..さらに,ras関連タンパク質Rab-8a(Rab-8a)がこのプロセスを刺激することも報告されている(11)11) L. Wu, D. Xu, L. Zhou, B. Xie, L. Yu, H. Yang, L. Huang, J. Ye, H. Deng, Y. A. Yuan et al.: Dev. Cell, 30, 378 (2014)..FSP27は白色脂肪組織や褐色脂肪組織,脂肪肝において発現が高く,正常な肝臓ではほとんど発現していない.このようにFSP27は脂肪滴同士の融合を介した大型脂肪滴の形成において必須の役割を果たしている.

脂肪滴サイズの制御にかかわる膜リン脂質

脂肪滴の一重膜を構成するリン脂質は,100以上の分子種が同定されている.哺乳動物細胞や酵母の脂肪滴膜のリン脂質は,ホスファチジルコリン(PC)が最も豊富で,全リン脂質の60%程度を占めている.次いでホスファチジルエタノールアミン(PE)(24%),ホスファチジルイノシトール(PI)(8%)である(12)12) K. Tauchi-Sato, S. Ozeki, T. Houjou, R. Taguchi & T. Fujimoto: J. Biol. Chem., 277, 44507 (2002)..この組成は小胞体膜と類似しており,脂肪滴は小胞体の特殊なドメインであることが示唆される.

最近,リン脂質の量や分子種の違いがタンパク質を介さず,リン脂質の生物物理的性質が脂肪滴のサイズ調節に影響を及ぼすことが明らかになっている.たとえば,脂肪滴の大型化をもたらす要因の一つとして脂肪滴を構成しているPCとTAGの割合が重要であることが示唆されており,PC/TAG比が減少するほど脂肪滴は融合し肥大化しやすくなるという性質をもつことが報告されている(13)13) J. Gong, Z. Sun, L. Wu, W. Xu, N. Schieber, D. Xu, G. Shui, H. Yang, R. G. Parton & P. Li: J. Cell Biol., 195, 953 (2011)..PC/TAG比が低くTAGが溶媒に露出した状態では,脂肪滴は表面張力が高く不安定な状態で融合しやすい状態にあるが,リン脂質がTAGを覆うことで表面張力は数十分の一まで低下し,安定である.リン脂質の中でも特にPCは円柱型で平面の膜構造を作りやすいため,PCがTAGを覆うことで表面積の広い脂肪滴を安定に保つことができると考えられている.また,PEやPA(ホスファチジン酸)などはリン脂質頭部の分子サイズが小さいため円錐型を取り,膜に負の曲率を生じさせる(図2図2■リン脂質の形状と膜の曲率).脂肪滴融合の際には界面で単層の強い曲がりが生じるが,そのような曲げはPEのような円錐状の脂質で促進しやすいことから,脂肪滴におけるPEは脂肪滴の膜同士の融合を誘導させることで,脂肪滴の大型化に関与することが示唆されている.

図2■リン脂質の形状と膜の曲率

リン脂質分子の頭部が小さく尾部のかさが大きいほど円錐型の形状をとり,膜上で集まると負の曲率が生じやすい.リゾリン脂質(lyso-PC [LPC], lyso-PE [LPE], lyso-PA[LPA])などは尾部に結合する脂肪酸が一分子であるため頭部のほうが大きく,正の曲率を生じさせやすい.また,不飽和脂肪酸をもつリン脂質は尾部のかさが大きい円錐型に近い形状を取り,負の曲率を生じさせる.

生体膜リン脂質における脂肪酸の物理的性質

多くの生体膜はリン脂質の疎水基(脂肪酸鎖)同士が向かい合い,親水性の極性基が表面に露出した二重膜構造を基本としている.この脂質二重膜内部の脂肪酸鎖は温度変化に応じて結晶状態(ゲル相,Lo相)から運動性の高い液晶状態(液晶相,Ld相)に転移する.液晶相の二重膜では脂質分子は膜内を側方拡散することができ,膜に流動性をもたらすため,膜に埋め込まれたタンパク質は膜内を動き回ることができる.この流動性は膜タンパク質が局在,機能するうえで必要不可欠なものである(14)14) A. A. Spector & M. A. Yorek: J. Lipid Res., 26, 9 (1985)..そして,リン脂質における脂肪酸の不飽和度は膜の流動性を規定する主要な因子であり,リン脂質の脂肪酸は鎖長が短く,不飽和度が高いほど融点が低く,分子の自由運動が活発な状態である.また,リン脂質における不飽和脂肪酸は二重結合の部分で折れ曲がり構造を取ることから(図2図2■リン脂質の形状と膜の曲率),分子間の接触表面積は小さくなり,ファンデルワールス力が弱まることで,膜の流動性を維持することができると考えられている(15)15) L. L. Holte, S. A. Peter, T. M. Sinnwell & K. Gawrisch: Biophys. J., 68, 2396 (1995).

また,リン脂質における脂肪酸鎖は極性基と同様にリン脂質分子の形状に影響し,膜の曲率を変化させることが示唆されている.例として,一価不飽和脂肪酸のオレイン酸(C18 : 1n-9)が二分子結合したdioleoylphosphatidylcholine(DOPC)と,飽和脂肪酸のパルミチン酸(C16 : 0)が二分子結合したdipalmitoylphosphatidylcholine(DPPC)を比較すると,不飽和脂肪酸のDOPCは疎水基のかさが親水基よりも大きいために円錐型の形状を取り,飽和脂肪酸のDPPCと比べて負の曲率をもつ凹面を形成しやすいことが報告されている(16)16) J. N. Israelachvili: “Intermolecular and surface forces.” Academic Press, 2011..この曲面は膜表面のエネルギーを高め,膜融合の促進にかかわっていると考えられている.さらに,膜の一部の曲面を認識して結合するタンパク質も存在することから,生体膜リン脂質の脂肪酸による曲率の違いは膜タンパク質の局在にも影響を及ぼしている.

脂肪滴の大型化に伴う脂肪滴膜リン脂質脂肪酸の変化

生体二重膜のリン脂質の脂肪酸鎖が膜の流動性や曲率を左右することは知られているが,脂肪滴一重膜におけるリン脂質の脂肪酸鎖の生物学的意義は不明である.脂肪細胞では中性脂質の蓄積に伴い大型の脂肪滴が形成されるが,大型の脂肪滴において脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成が変化し得るかは知られていない.白色脂肪細胞のモデル細胞であるマウス3T3-L1細胞はインスリンなどで分化誘導すると,分化当初は小型の脂肪滴が観察されるが,TAGの蓄積とともに脂肪滴同士が融合した単房性の大型脂肪滴へと成熟していく.そこでわれわれは,3T3-L1脂肪細胞において小型脂肪滴を多く有する分化4日目の細胞と大型脂肪滴を多く有する分化12日目の細胞から,それぞれ脂肪滴を分画し,脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸解析を行った(17)17) K. Arisawa, I. Ichi, Y. Yasukawa, Y. Sone & Y. Fujiwara: J. Biochem., 154, 281 (2013)..脂肪滴膜の主要なリン脂質であるPCにおいて4日目と比較し12日目では飽和脂肪酸の減少と,不飽和脂肪酸の増加が見られ,脂肪滴膜における脂肪酸鎖の顕著な変化が確認された(図3図3■白色脂肪モデル細胞における脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸の変化).また,二重層の膜を有する細胞小器官(細胞膜,ゴルジ体,小胞体を含む)のリン脂質の脂肪酸組成を測定したところ,二重膜のPCでは脂肪滴膜ほどの変化は見られなかった.これらの結果より,脂肪細胞において脂肪滴が成熟し大型化する過程に伴って,脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成は二重膜とは異なる特徴的な変化をすることが示唆された.

図3■白色脂肪モデル細胞における脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸の変化

白色脂肪モデル細胞の3T3-L1脂肪細胞は分化に伴い,中性脂質が蓄積し,大型の脂肪滴が形成される.小型脂肪滴の多い4日目と大型脂肪滴の多い12日目の細胞から脂肪滴を分画し,脂肪滴膜リン脂質(ホスファチジルコリン)の脂肪酸を比較した.

脂肪滴様エマルションを用いた膜リン脂質脂肪酸の物理的性質

脂肪細胞において脂肪滴膜の脂質はリン脂質の極性部だけでなく疎水部の脂肪酸鎖も変化するが,脂肪酸鎖の変化が脂肪滴サイズに物理的な影響を与えるかについては不明である.脂肪滴膜の物理的性質の評価は,水中に油滴が分散しているoil-in-water(O/W)型エマルションを用いて行うことができる.そこでわれわれは,脂肪酸の不飽和度の異なる合成リン脂質を用いて,脂肪酸鎖の不飽和度の違いがエマルションサイズに与える影響を調べた(18)18) K. Arisawa, H. Mitsudome, K. Yoshida, S. Sugimoto, T. Ishikawa, Y. Fujiwara & I. Ichi: Biochem. Biophys. Res. Commun., 480, 641 (2016)..飽和脂肪酸であるステアリン酸(C18 : 0)が2分子結合したDSPC(distearoylphosphatidylcholine),または不飽和脂肪酸であるオレイン酸(C18 : 1n-9)が結合したDOPCとTAGを用いて脂肪滴様エマルションを作製した.その結果,不飽和脂肪酸のDOPCに比較して飽和脂肪酸のDSPCを用いた際に顕著に大型のエマルションが観察された(図4A図4■脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度によるエマルションサイズの違い).また,蛍光分子であるLaurdan(6-dodecanoyl-2-dimethyl-aminonaphthalene)を用いて膜密度の測定を行ったところ,飽和脂肪酸のDSPCを用いて形成させたエマルションは不飽和脂肪酸のDOPCよりも高い膜密度をもつことがわかった.飽和脂肪酸のDSPCのように,リン脂質の膜密度が高い場合はリン脂質の側方移動は制限されるため,脂肪滴のTAGが多いときには脂肪滴内部のTAGが部分的に露出し,エマルションの安定性が低く融合しやすい状態にあると考えられる(図4B図4■脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度によるエマルションサイズの違い).一方,不飽和脂肪酸モデルのDOPCのようにリン脂質の膜密度が低い場合は流動性も高く,TAGが露出しにくい安定な状態でエマルションを保つ可能性が考えられる.したがって,飽和脂肪酸を多く含むリン脂質を用いたエマルションの大型化は,不安定な小型エマルションどうしが融合することで表面積を減らし安定化しようとする作用に起因する可能性が示唆された.

図4■脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度によるエマルションサイズの違い

(A)O/W型の脂肪滴様エマルションをNile Redで染色(B)リン脂質の不飽和度の違いがエマルションの膜表面に及ぼす影響.

一重膜膜リン脂質の脂肪酸による脂肪滴膜タンパク質の局在調節

脂肪滴に局在するタンパク質の同定は近年進んできたものの,脂肪滴膜タンパク質がどのようなメカニズムで特定の脂肪滴を認識して局在しているかは明確にはされていない.脂肪滴膜タンパク質の局在と膜リン脂質の脂肪酸と相互作用に関して,脂肪滴膜タンパク質のPerilipin2や3が膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度で局在が変化する可能性が示されている(19, 20)19) A. Sletten, A. Seline, A. Rudd, M. Logsdon & L. L. Listenberger: Biochem. Biophys. Res. Commun., 452, 422 (2014).20) M. Mirheydari, S. S. Rathnayake, H. Frederick, T. Arhar, E. K. Mann, S. Cocklin & E. E. Kooijman: J. Lipid Res., 57, 1465 (2016)..そして,脂肪滴膜タンパク質のPerilipin1は小型の脂肪滴よりも成熟した大型脂肪滴に多く局在することが報告されていることから,われわれは脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸鎖の違いがPerilipin1の局在に影響を与える可能性を検討した.飽和脂肪酸モデルのDSPCと不飽和脂肪酸モデルのDOPCを用いて,脂肪滴と同様の構造物であるO/W型エマルションを作製し,Periliripin1のエマルションへの結合能を評価した.すると,Perilipin1は不飽和脂肪酸モデルのDOPCを用いたエマルションに多く結合することがわかった(未発表データ).リン脂質脂肪酸の不飽和度が高い膜ではリン脂質分子間の距離が広く,密度が低いloose packingという状態で脂肪酸鎖が露出した状態にあり(lipid packing defect),タンパク質の疎水性部がこのlipid packing defectに局在しやすい性質をもつと考えられている(図5図5■リン脂質脂肪酸の不飽和度と脂肪滴膜タンパク質局在の関連性).一方,飽和脂肪酸が多い膜はリン脂質同士の密度が高く,膜タンパク質が入り込みにくい.したがって,脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成の違いによる膜環境の変化は,一重膜においてもタンパク質の局在を調節している可能性が示唆された.

図5■リン脂質脂肪酸の不飽和度と脂肪滴膜タンパク質局在の関連性

飽和脂肪酸が多く結合したリン脂質膜では膜密度が高い(dense packing)一方,不飽和脂肪酸が結合したリン脂質が多い膜環境ではリン脂質密度が低いため(loose packing),生じる間隙部(lipid packing defect)に脂肪滴膜タンパク質の疎水性部が入り込みやすいと考えられる.

おわりに

近年,脂肪滴の形成メカニズムや脂肪蓄積の制御に対する関心が深まるとともに,脂肪滴の脂質組成そのものが脂肪滴の成熟や安定化において重要であるという知見が蓄積されつつある.また本稿で紹介したわれわれの最近の研究成果より,脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成も脂肪滴サイズの調節に密接に関与していることが示唆された.最近の研究から,脂肪滴は生体内において広い役割を担っていることが明らかとなっており,生物学の領域においてさらなる役割が発見される可能性がある.今後,脂肪滴の中身を構成する中性脂質の量的・質的制御だけでなく,脂肪滴表面を覆う膜脂質にも注目が集まることで,脂肪滴における脂肪蓄積の制御機構の新たなターゲットとなりうることが期待できる.

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