解説

微生物細胞や酵素のちからを借りた有用物質合成微生物の探索から酵素機能の改良まで,新たなバイオプロセス構築を目指した多彩な研究アプローチをご紹介

Production of Useful Materials by Microbial Cells and Enzymes: Various Approaches to Establish Novel Bioprocess: From Screening of Microorganisms to Improvement of Enzyme Functions

Miwa Yamada

山田 美和

岩手大学農学部応用生物化学科

Published: 2018-03-20

2017年3月京都において,幸運にも第1回農芸化学若手女性研究者賞を受賞したことから,今回の執筆についてご依頼をいただいた.本受賞は,これまでの研究業績についてご評価いただいたものであり,本稿では筆者らが行ってきた微生物細胞や酵素による有用物質合成について紹介する.筆者は,これまで,微生物によるバイオプラスチック合成と微生物由来有用酵素に関する研究に携わってきた.ターゲットとした有用物質をバイオの力で合成するために,どんな手法やアイディアを用い,ブレイクスルーにつながっていったのかについて述べたい.

新規組成のバイオプラスチックを微生物細胞で創る

1. 微生物が生合成するバイオプラスチック,ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)

石油資源の枯渇やプラスチック廃棄物による環境汚染問題は,持続可能な社会構築を目指すわれわれにとって,早急に対処しなければならない課題の一つである.バイオプラスチックは,植物由来の原料から合成されるため,原料として石油を必要としない点や生分解性を有するものが多いことから,諸問題を解決できる材料であると注目を集めてきた.ポリ乳酸(PLA)をはじめとし,多くのバイオプラスチック合成では,植物由来の糖を原料として微生物発酵により乳酸などのモノマーを供給するが,得られたモノマーをプラスチックであるポリマーへと重合する際,化学重合のステップが必要となる(3ステップ合成)(図1図1■バイオプラスチックの合成プロセス).化学重合のステップでは,有機溶媒を用いた高温高圧の反応条件や,重金属触媒を必要とするため,環境への負荷が懸念される.一方で,ある種の微生物が窒素源枯渇条件になると細胞内にエネルギー源として貯蔵する,ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)もバイオプラスチックとして利用することができる(1)1) Y. Doi: “Microbial polyesters”, VCH Publishers, 1990..PHAの合成プロセスは,植物由来の糖や植物油を原料とした微生物細胞内におけるモノマー供給と,供給されたモノマーの重合というPHA合成に必要なすべての反応を,細胞内において生体触媒である酵素が行うため,常温常圧の温和な条件で反応が進み,かつ有機溶媒や重金属触媒を必要としない環境低負荷な合成プロセスである.また,合成に必要なステップ数がほかのバイオプラスチック合成法と比較して削減されるため(2ステップ合成),生産コスト削減の可能性も期待できる.しかし,PHAの材料としての性質(物性)は,ほかのバイオプラスチックと比較して優れているとは言い難い.そこで,本研究では,オールバイオプロセスで合成されるバイオプラスチックPHAの物性改良を目指し,新たな化学構造のモノマーユニットから構成されるPHAの微生物合成に挑戦してきた.

図1■バイオプラスチックの合成プロセス

2. 乳酸(LA)モノマーを有する新規PHAの微生物合成

PHAの物性は,PHAを構成するモノマーユニットの化学構造と,その組成比によって大きく影響を受ける.これまでに,PHAを構成するモノマーユニットの化学構造は150種類以上報告されているが(図2図2■PHAを構成するビルディングブロックの多様性(一部)),側鎖構造のバラエティは豊富なものの,主鎖構造の多様性は少なかった(2)2) 山田美和,松本謙一郎,田口精一:繊維学会誌,64, 365 (2008).そこで,筆者らは,主鎖構造が新規なモノマーユニットから構成されるPHAを微生物合成しようと目論んだ.最初のターゲットとして,最も典型的なPHAの構成ユニットである3-ヒドロキシブタン酸(3HB)ユニットよりも,主鎖の炭素数が一つ少ない乳酸(LA)ユニットに注目した.LAユニットのみから構成されるPLAは,市場で最も流通しているバイオプラスチックの代表格であり,ポリマーの安定性に寄与するガラス転移温度(Tg)が室温よりも高く,透明性も高い.これらの性質は既存のPHAにはない優れた性質である.よって,LAユニットが導入された新規PHAが合成できれば,応用範囲が拡大できると期待した.

図2■PHAを構成するビルディングブロックの多様性(一部)

では,どのようにLAユニットを有する新規なPHAを微生物合成するかであるが,自然界から合成微生物を探索する,既存のPHA合成微生物から目的の微生物を育種していくなど,さまざまなアプローチが考えられるであろう.筆者らは,天然のPHA合成微生物の代謝経路を参照し,3HBモノマーである3-hydroxybutyryl-CoA(3HB-CoA)供給酵素(PhaAおよびPhaB),LAモノマーであるlactyl-CoA(LA-CoA)供給酵素,およびモノマー重合酵素遺伝子を組換え大腸菌に導入することによって,微生物細胞内で新規PHAを合成させるアプローチを選択した(図3図3■組換え大腸菌に構築したP(LA-co-3HB)の生合成経路).細胞内でのLA-CoA供給に関しては,プロピオニルCoA転移酵素(PCT)が,LAを基質として認識可能という報告があったことから,pct遺伝子を導入した組換え大腸菌を作製し,LA-CoAの合成を確認できた.しかし,LAモノマー供給をクリアした後に立ちはだかったのが,LAモノマーを重合可能な酵素(LA重合酵素)が存在するかどうかという難問であった.LA重合酵素に関する報告が全くない状況で,筆者らは,基質特異性が異なる天然のPHA重合酵素および重合酵素変異体を対象として,モノマーを供給したインビトロでの重合活性能力試験を行い,LA重合酵素を探索した.結果,研究室で長年蓄積されてきた,重合活性が向上し,基質特異性が変化するPHA重合酵素変異体ライブラリーから,Pseudomonas sp. 61-3由来PhaC1Ps(Ser325Thr/Gln481Lys)変異体をLA重合酵素として見つけ出すことに成功した.この発見は,当時,共同研究関係にあった上階の研究室の先生方(田島健次先生,佐藤康治先生)のご協力の賜物であるが,指導教官の田口精一先生と新たなPHAの生合成がいよいよ現実のものとなってきたと大喜びしたことを今でも鮮明に覚えている.ブレイクスルーの現場とは,こんなにもエキサイティングなのかと身をもって体験することができた.ここで,本題と少しずれてしまうが,興味深いポイントがある.さまざまな天然由来PHA重合酵素がLAモノマーを重合できなかったにもかかわらず,なぜたった一つの変異酵素だけがLAモノマーを重合できたのかということである.先に述べたように,LA重合酵素として見つかってきた変異酵素は,3HBモノマーに対する活性向上や,モノマーの側鎖長の基質特異性認識が改変された変異体として研究室でストックされてきたものであるが,主鎖長の異なるモノマーの認識改変を目的に作成した変異体ではない.この疑問を解決するためには,LA重合酵素の立体構造を明らかとする必要があるが,PHA重合酵素の結晶化はほとんど成功した例がなく(筆者も試みたが,結晶化条件を見いだすことがかなわなかった),立体構造やPHAの重合メカニズムについてはいまだブラックボックスの部分が多く,研究の進展が求められている.

図3■組換え大腸菌に構築したP(LA-co-3HB)の生合成経路

話は戻るが,得られたLA重合酵素遺伝子と,pctおよびphaAB遺伝子を組換え大腸菌で共発現させ,LAユニットを6 mol%有するpoly(lactate-co-3-hydroxybutyrate)[P(LA-co-3HB)]の生合成に初めて成功した(3)3) S. Taguchi, M. Yamada, K. Matsumoto, K. Tajima, Y. Satoh, M. Munekata, K. Ohno, K. Kohda, T. Shimamura, H. Kambe et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17323 (2008).図3図3■組換え大腸菌に構築したP(LA-co-3HB)の生合成経路).この際,新たに合成されたポリマーの化学構造に確信がもてるまで,同研究室の松本謙一郎先生にご指導いただきながら,2次元NMRのデータ解釈にかなりの時間を費やした.さらに,LA重合酵素に新たな変異(Phe392Ser)を導入し,LAモノマー取り込み能力を向上させた新LA重合酵素変異体の創製や,細胞内でのLA供給量が向上する嫌気培養を利用したポリマー合成により,6~67 mol%と多様なLA分率を有するP(LA-co-3HB)の微生物合成に成功した(4, 5)4) M. Yamada, K. Matsumoto, T. Nakai & S. Taguchi: Biomacromolecules, 10, 677 (2009).5) M. Yamada, K. Matsumoto, K. Shimizu, S. Uramoto, T. Nakai & S. Taguchi: Biomacromolecules, 11, 815 (2010)..得られた多様なLA分率のP(LA-co-3HB)の性質を調べたところ,ポリマー中のLA分率の向上は,当初の期待どおり,透明性およびTgを上昇させると示すことができた(5, 6)5) M. Yamada, K. Matsumoto, K. Shimizu, S. Uramoto, T. Nakai & S. Taguchi: Biomacromolecules, 11, 815 (2010).6) M. Yamada, K. Matsumoto, S. Uramoto, R. Motohashi, H. Abe & S. Taguchi: J. Biotechnol., 154, 255 (2011)..また,P(LA-co-3HB)は,PLAよりも柔軟性が高いポリマーであることも明らかとなった(6)6) M. Yamada, K. Matsumoto, S. Uramoto, R. Motohashi, H. Abe & S. Taguchi: J. Biotechnol., 154, 255 (2011)..さらに,興味深いことに,合成されたP(LA-co-3HB)中のLAはすべてD体であり,化学合成では合成することが極めて難しい高光学純度のポリマーであることも示された.

筆者の卒業後も本研究の進展は目覚ましく,LAユニットが99 mol%以上とほぼPLAの微生物合成が達成されている(7)7) K. Matsumoto, K. Tobitani, S. Aoki, Y. Song, T. Ooi & S. Taguchi: AMB Express, 4, 83 (2014)..さらに,新規モノマーユニットとしてグリコール酸ユニットが導入されたPHAも微生物合成可能との報告もある(8)8) K. Matsumoto, T. Shiba, Y. Hiraide & S. Taguchi: ACS Biomater. Sci. Eng., in press..また,つい最近,LAと3HBからなるオリゴマーを組換え大腸菌で合成すると,一部菌体外に分泌されているという非常に興味深い現象も確認されており(9)9) C. Utsunomia, K. Matsumoto & S. Taguchi: ACS Sustain. Chem.& Eng., 5, 2360 (2017).,今後のさらなる展開が期待される.

3. 長主鎖モノマーを有する新規PHAの微生物合成

LAユニットを有する新規PHAの微生物合成研究で博士号を取得した後,筆者は,理化学研究所で博士研究員として働く機会を得た.その際,博士課程時代と同様に新規PHAの微生物合成を研究テーマとして仰せつかった.そこで,筆者が次のターゲットとして選んだのは,主鎖の炭素数が多い長主鎖モノマーユニットを有するPHAであった.これまでの研究において,主鎖の炭素数が,基本的な3HBユニットよりも一つ多い4-hydroxybutyrate(4HB)ユニットを有するPHA, poly(3-hydroxybutyrate-co-4-hydroxybutyrate)[P(3HB-co-4HB)]の微生物合成については,よく研究されており,P(3HB-co-4HB)は,弾性を示し,生体適合性が高いという報告があった(10)10) Y. Saito & Y. Doi: Int. J. Biol. Macromol., 16, 99 (1994)..また,P(3HB-co-4HB)中の4HB分率の向上にともなって,リパーゼなどによる酵素分解性が向上すると知られており,主鎖構造が長くなると,酵素がアタックしやすくなることが主な原因ではないかと予想されていた.そこで,筆者らは,4HBよりも長い長主鎖モノマーユニットを有するPHAを微生物合成することで,生体内酵素で分解されやすく,生体材料としての利用に特化したPHAを品ぞろえすることができないかと考えたのである.

培地に4-ヒドロキシブタン酸やγ-ブチロラクトンを炭素源として添加し,天然の微生物合成菌であるRalstonia eutropha H16株を培養した際にP(3HB-co-4HB)を合成できるという報告があったことから,試しにさらに炭素数の多いα-ヒドロキシアルカン酸やラクトン環構造を有する化合物を炭素源として培地に添加し,R. eutropha H16株を培養してみたところ,5-ヒドロキシ吉草酸もしくはω-ペンタデカラクトンを炭素源として培養した際,驚いたことに1 mol%と僅かではあるが5-hydroxyvalerate(5HV)ユニットを有する新規組成の三元共重合体PHA, poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxypropionate-co-5-hydroxyvalerate)[P(3HB-co-3HP-co-5HV)]が合成されていた(図4図4■Ralstonia eutrophaにおいて予想されるP(3HB-co-3HP-co-5HV)生合成経路).本結果より,R. eutropha H16株には,5HVモノマーを供給できる代謝経路が存在しており,PHA重合酵素は5HVモノマーの重合能力を有していると考えた.培地に添加する炭素源の濃度の検討や,PHA重合酵素遺伝子を欠失させたR. eutropha変異株へ,基質特異性が異なる他菌株由来のPHA重合酵素遺伝子導入を試みた結果,5~32 mol%の5HVユニットを有するP(3HB-co-3HP-co-5HV)を合成した.さらに,5HV分率が14 mol%のPHAでは,リパーゼ分解性および高い生体適合性が示された(11)11) J.-A. Chuah, M. Yamada, S. Taguchi, K. Sudesh, Y. Doi & K. Numata: Polym. Degrad. Stabil., 98, 331 (2013)..しかしながら,5HV分率の向上に伴い,PHAの分子量と菌体中のPHA蓄積率が低下する傾向が見られ,高い5HV分率を有するPHAの物性について研究できる量を合成するのは困難であった.今後,合成量を向上させるため,本研究においても,重合酵素やモノマー供給代謝の改良は重要であると考えている.

図4■Ralstonia eutrophaにおいて予想されるP(3HB-co-3HP-co-5HV)生合成経路

自然界から微生物が産生する有用な新規オキシダーゼを見いだす

1. 微生物酵素を利用したグリオキシル酸合成

2年弱の博士研究員生活後に,岩手大学で助教として働けることになり,新たな研究テーマに携わる機会を得た.筆者が所属した応用微生物学研究室では,安価なエチレングリコールを出発原料とし,医薬品や香料等の基幹物質として有用なグリオキシル酸の合成を目指して,グリコールアルデヒド,グリオキサール,もしくはグリコール酸を経由した3段階の微生物酵素の酸化反応によるグリオキシル酸合成を提案していた(図5図5■エチレングリコールを原料とした酵素によるグリオキシル酸合成経路).グリオキシル酸は,現在,主にグリオキサールを原料として,硝酸酸化することによって合成されている.酵素による合成が可能となれば,原料としてグリオキサールよりも安価なエチレングリコールが利用でき,硝酸の処理が不必要となる.さらに,基質特異性の高い酵素を上手く利用すれば,従来の化学合成法で問題となっていた副反応生成物の合成が克服され,生産効率の向上が期待できる.グリオキサールを経由したグリオキシル酸合成経路にかかわる微生物酵素は,すでにいくつか研究室で見いだされていたが(12)12) K. Isobe, S. Watabe & M. Yamada: J. Mol. Catal., B Enzym., 83, 94 (2012).,グリコール酸を経由する合成系については,本系に適した性質を有するグリコールアルデヒドを酸化する酵素(図5図5■エチレングリコールを原料とした酵素によるグリオキシル酸合成経路点線矢印)と,グリコール酸を酸化する酵素(図5図5■エチレングリコールを原料とした酵素によるグリオキシル酸合成経路薄色矢印)がまだ見いだされていなかった.そこで,筆者らは新たに上記2つの酵素の探索を試みた.

図5■エチレングリコールを原料とした酵素によるグリオキシル酸合成経路

2. 新規なアルデヒドオキシダーゼとアルコールオキシダーゼの発見

これまでに目的の反応を触媒し,基質特異性が厳密な酵素の報告はなかったため,本研究では,まず,グリコールアルデヒドまたはグリコール酸酸化能を有する酵素を産生できる微生物の探索をそれぞれ行った.目的の微生物を見いだせるかどうかは,スクリーニングの戦略にかかっているが,本研究の場合は,目的酵素の基質となるグリコールアルデヒドまたはグリコール酸と化学構造が類似する2-methoxyethanolもしくはpropylene glycolを単一炭素源として集積培養を行い,基質と類似した化学構造の化合物を資化できる微生物を選抜した.続いて,集積培養後の菌液から,プレート培地において菌株を単離し,各コロニーへ基質とオキシダーゼ活性測定用発色液の混合液を滴下して,赤呈したコロニーを候補菌として選抜するという,多検体を簡便に処理できるアッセイ系を用いた(図6図6■オキシダーゼ産生微生物スクリーニングの概要).このように,幾千の微生物から目的微生物を見いだす際に必要な知恵と忍耐を,当時研究室の教授であった礒部公安先生からご教授いただいた.結果,グリコールアルデヒド酸化能を有する酵素を産生する微生物としてBurkholderia sp. AIU 129を,グリコール酸酸化能を有する酵素を産生する微生物として,Ochrobactrum sp. AIU 033を新規に見いだした(13~15)13) M. Yamada, K. Adachi, N. Ogawa, S. Kishino, J. Ogawa, M. Kataoka, S. Shimizu & K. Isobe: J. Biosci. Bioeng., 119, 410 (2015).14) M. Yamada & K. Isobe: Ferment. Technol., 4, 1 (2015).15) M. Yamada, T. Higashiyama, S. Kishino, M. Kataoka, J. Ogawa, S. Shimizu & K. Isobe: J. Mol. Catal., B Enzym., 105, 41 (2014)..得られた各菌株より目的酵素の精製を行い,諸性質を明らかとした.筆者はこれまで組換え菌で発現したHisタグ付きタンパクなどのアフィニティー精製しか行った経験がなく,天然の菌株からタグがない目的酵素を高収率に精製するため必要となる技術的な知識に加え,酵素学的な視点など多くを学ぶことができた.各酵素の諸性質解明の結果,Burkholderia sp. AIU 129由来アルデヒドオキシダーゼは,グリコールアルデヒドに対して活性を示すが,グリコール酸およびグリオキシル酸には活性を示さなかった.よって,本研究で目指しているグリオキシル酸合成において副反応生成物を合成せず,有効であることがわかった.また,本酵素のようにヘテロ三量体構造を有するアルデヒドオキシダーゼが,グリコールアルデヒドに活性を示す報告はなく,本酵素は新規酵素であると推定された.Ochrobactrum sp. AIU 033由来グリコール酸酸化能を有する酵素については,グリコール酸,乳酸,およびC2-C10の炭素鎖を有する第一級アルコールに作用したが,グリオキシル酸には作用せず,本酵素もまた,グリオキシル酸合成系に適した基質特異性を有すると確認できた.また,本酵素のグリコール酸に対するKm値は,第一級アルコールに対するKm値よりも著しく高いことから,本酵素は当初考えていたグリコール酸オキシダーゼではなく,アルコールオキシダーゼに分類されると推定された.本結果は,精製酵素のN末端アミノ酸配列情報からも支持されるものであった.さらに,本酵素のサブユニット構造や補因子の種類(フラビン,鉄)は,既知のアルコールオキシダーゼおよびグリコール酸オキシダーゼと異なっており,本酵素についても,目的の物質生産に有用であるのみでなく,新規酵素であると示唆された.現在は,得られた新規酵素の遺伝子クローニングを進めており,筆者がこれまで行ってきたように,一つの微生物細胞で共発現し,高生産な合成経路の構築を目指している.また,本経路で合成されるグリコール酸やグリオキシル酸は,バイオプラスチックや抗生物質などさまざまな有用物質の基幹物質であるため,将来的には,それらの有用物質も1ステップで合成可能な,新たな微生物細胞合成プロセスへの展開が期待できると考えている.

図6■オキシダーゼ産生微生物スクリーニングの概要

Reference

1) Y. Doi: “Microbial polyesters”, VCH Publishers, 1990.

2) 山田美和,松本謙一郎,田口精一:繊維学会誌,64, 365 (2008)

3) S. Taguchi, M. Yamada, K. Matsumoto, K. Tajima, Y. Satoh, M. Munekata, K. Ohno, K. Kohda, T. Shimamura, H. Kambe et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 17323 (2008).

4) M. Yamada, K. Matsumoto, T. Nakai & S. Taguchi: Biomacromolecules, 10, 677 (2009).

5) M. Yamada, K. Matsumoto, K. Shimizu, S. Uramoto, T. Nakai & S. Taguchi: Biomacromolecules, 11, 815 (2010).

6) M. Yamada, K. Matsumoto, S. Uramoto, R. Motohashi, H. Abe & S. Taguchi: J. Biotechnol., 154, 255 (2011).

7) K. Matsumoto, K. Tobitani, S. Aoki, Y. Song, T. Ooi & S. Taguchi: AMB Express, 4, 83 (2014).

8) K. Matsumoto, T. Shiba, Y. Hiraide & S. Taguchi: ACS Biomater. Sci. Eng., in press.

9) C. Utsunomia, K. Matsumoto & S. Taguchi: ACS Sustain. Chem.& Eng., 5, 2360 (2017).

10) Y. Saito & Y. Doi: Int. J. Biol. Macromol., 16, 99 (1994).

11) J.-A. Chuah, M. Yamada, S. Taguchi, K. Sudesh, Y. Doi & K. Numata: Polym. Degrad. Stabil., 98, 331 (2013).

12) K. Isobe, S. Watabe & M. Yamada: J. Mol. Catal., B Enzym., 83, 94 (2012).

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14) M. Yamada & K. Isobe: Ferment. Technol., 4, 1 (2015).

15) M. Yamada, T. Higashiyama, S. Kishino, M. Kataoka, J. Ogawa, S. Shimizu & K. Isobe: J. Mol. Catal., B Enzym., 105, 41 (2014).