セミナー室

茎頂メリステムをターゲットとした汎用性のあるゲノム編集技術の開発作物品種の壁を越える新規育種技術の開発

Haruyasu Hamada

濱田 晴康

株式会社カネカHealth Care Solutions Research Instituteバイオテクノロジー開発研究所

Yozo Nagira

柳楽 洋三

株式会社カネカHealth Care Solutions Research Instituteバイオテクノロジー開発研究所

Ryozo Imai

今井 亮三

農研機構生物機能利用研究部門

Published: 2018-03-20

はじめに

ゲノム編集は,生命の設計図であるDNAを思いどおりに改変することができる技術である.具体的には,人工制限酵素を使って,標的とするDNA配列をピンポイントに切断し,修復過程で起こるエラーを利用して配列を改変する.近年報告されたCRISPR /Cas9は,その効率や利便性の高さから,研究者の間に瞬く間に広まり,植物のゲノム編集研究を強烈に後押しした(1)1) V. Kumar & M. Jain: J. Exp. Bot., 66, 47 (2015)..理論上あらゆる遺伝子について改変が可能になるため,新しい品種改良技術として注目されている.ゲノム編集技術により改変された作物は,遺伝子組換え(GM)作物とは異なり,外来遺伝子を取り除くこともできる.GM作物に課される各種規制の対象から除外される可能性もあり,ゲノム編集技術による品種開発が一気に加速する展開も考えられる.

このように魅力的なゲノム編集技術だが,この技術を利用して作物の新しい品種を開発するためには,解決すべき課題がある.それは,組織培養に起因する品種依存性の問題である.植物に人工制限酵素等の外来遺伝子を導入し,形質転換体を取得する際には,カルスと呼ばれる細胞隗(後述)の培養が必要である(図1図1■植物における遺伝子改変技術の概要).しかし,このプロセスはすべての作物品種で可能というわけではなく,カルスへの脱分化・植物体への再分化を効率よく誘導することのできる品種に限定される.特に,主要穀物であるコムギやトウモロコシなどでは,その傾向が顕著であり,形質転換やゲノム編集が可能な品種は僅かである.

図1■植物における遺伝子改変技術の概要

ゲノム編集植物または遺伝子組換え植物を作製するために,遺伝子導入方法やその導入物を選択していく.いずれの場合でも,形質転換技術がこれら遺伝子改変のベースとなる.in planta形質転換法(点線)と比べ,再現性の優れた組織培養法(実線)が主流である.

このような組織培養に起因する問題を解決する方策として,in planta形質転換法がある.これは,上記の組織培養操作を経ずに,植物が生長していく過程で,生殖系列細胞に直接遺伝子導入を行う技術である.ここでは,作物の品種開発の観点から,現状の形質転換技術について整理するとともに,筆者らが長年取り組んできたコムギのin planta形質転換法の開発とそのゲノム編集への応用についても紹介する.

形質転換技術(遺伝子組換え体の作製方法)

遺伝子組換え体を作製するためには,植物体を構成するすべての細胞に外来遺伝子が導入されなければならない.その技術として現在用いられているものは,大きく分けて2通りある(図1図1■植物における遺伝子改変技術の概要).一つは,培養過程の組織片またはカルスに遺伝子導入を行い,得られた形質転換細胞から植物体を再生(再分化)させる方法である.現在のところ,遺伝子組換え体を作製するためには,多くの作物においてこの組織培養が不可欠である.もう一つが,植物が生長していく過程で,生殖細胞に直接遺伝子導入を行い,次世代において遺伝子組換え体を取得するin planta形質転換法である.技術的なハードルが高く,これまでに汎用されているのは,胚珠にアグロバクテリウムを感染させるシロイヌナズナのfloral dip法のみである(2)2) S. J. Clough & A. F. Bent: Plant J., 16, 735 (1998).

植物における遺伝子導入法

一般的に,植物に外来遺伝子を導入するためには,2つの手法が用いられている(3)3) 田部井豊編:“形質転換プロトコール”,化学同人,2012, xii.図1図1■植物における遺伝子改変技術の概要).一つは,アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens; Rhizobium radiobacterの異名)という植物病原性細菌を利用する方法である.導入される遺伝子が低コピーであり,遺伝子発現が安定する.また,遺伝的分離や固定がしやすいという利点がある.そのため,GM作物の開発には好んで用いられている.しかし,植物種・品種によっては感染効率が低く,利用が困難なものもある.もう一つは,パーティクルボンバードメント(particle bombardment)法という,外来遺伝子をコーティングした微粒子を,対象組織に物理的に撃ち込む方法である.アグロバクテリウムに感染しにくい植物種・品種にも利用できるが,遺伝子がマルチコピーで導入されやすく,サイレンシングなどによる遺伝子発現の低下が問題となる.ゲノム編集技術を植物に適用する場合は,いずれかの方法を選択して,人工制限酵素を植物細胞へ導入することとなる.

組織培養を用いた形質転換法

植物組織の一部(外植片)を,適当な植物ホルモン存在下で培養すると,カルスと呼ばれる細胞隗が形成される.これは,外植片を構成する細胞が脱分化,増殖したもので,一つひとつの細胞が未分化な状態にある.そのため,遺伝子導入処理が施されたカルスから形質転換細胞のみを選抜し,そこから再度完全な植物個体を再生することが可能である(図2図2■組織培養を用いた形質転換法).

図2■組織培養を用いた形質転換法

コムギを例に,組織培養を用いた形質転換の流れを示した.旺盛な未熟胚への遺伝子導入後に,植物ホルモンを添加した培地を用いて,カルス(脱分化)誘導と再分化誘導を行う.品種間で組織培養における再分化能は大きく異なり,コムギ国産栽培品種についての形質転換の成功例は極めて少ない.

組織培養における植物の再分化能は,供試する外植片に依存しており,その選択が重要である(3)3) 田部井豊編:“形質転換プロトコール”,化学同人,2012, xii..双子葉植物では胚軸・葉片が用いられることが多いが,単子葉植物,特にイネの形質転換においては,種子胚および胚盤がよく用いられている.一方,トウモロコシ・コムギ・オオムギ・ソルガムといった作物では,登熟初期の未熟胚が用いられる.未熟胚は培養特性に優れるが,旺盛な増殖活性を得るためには,未熟胚取得までの栽培条件が重要で,十分な注意を払う必要がある.また,品種間で組織培養における再分化能は大きく異なる.イネは,「コシヒカリ」「ひとめぼれ」のような基幹品種においてもアグロバクテリウムを介した形質転換系が確立されている.一方,コムギの場合は,「Fielder」や「Bobwhite」といった培養特性に優れた海外特定品種を使って,形質転換手法が開発されているが(4)4) Y. Ishida, M. Tsunashima, Y. Hiei & T. Komari: Methods Mol. Biol., 1223, 189 (2015).,国産栽培品種については,形質転換の成功例は極めて少ない.このようなケースでは,対象品種ごとに培養条件を細かく設定していく必要があり,労力,根気と運が必要である.組織培養は多くの手順を踏む必要があり,植物種によっては,複雑かつ繊細な操作を必要とする.そのため,供試する材料以外にも,実験者の習熟度によって再分化効率・形質転換効率は大きく変わる.また,培養が長期に及べば,再分化個体の形態異常や稔性低下を招く培養変異が入る可能性も危惧される(5)5) P. J. Larkin & W. R. Scowcroft: Theor. Appl. Genet., 60, 197 (1981).

組織培養を使わないin planta形質転換法

形質転換体の作製にあたり,組織培養で生ずるさまざまな問題点を克服する手段としてin planta形質転換法が考案されている.in planta法は文字どおり,植物個体を直接形質転換させる方法である.この場合,次世代で形質転換体を取得するためには,将来種子になる生殖系列細胞に,アグロバクテリウム法,パーティクルボンバードメント法などを用いて遺伝子を導入しなければならない.これまでは,専らアグロバクテリウム法が用いられてきた.

アグロバクテリウムを開花前の花芽に浸潤させ,主に受精前の胚珠を遺伝子導入の標的とする方法として,floral dip法が有名である.1990年代にモデル植物のシロイヌナズナにおいて確立され,簡便で再現性も高いことから,汎用されている.その後,イネやトウモロコシ,コムギといった作物においても,floral dip法またはこれに類似する方法により,形質転換体作製の成功例が報告されている(6~8)6) G. Mu, N. Chang, K. Xiang, Y. Sheng, Z. Zhang & G. Pan: Biotechnology, 11, 178 (2009).7) W. Rod-in, K. Sujipuli & K. Ratanasut: J. Agric. Technol., 10, 467 (2014).8) J. M. Zale, S. Agarwal, S. Loar & C. M. Steber: Plant Cell Rep., 28, 903 (2009).図3図3■in planta形質転換法上段).しかし,形質転換体の取得効率が低く,再現性が見られないなどの問題があり,これらの作物については技術確立には至っていない.

図3■in planta形質転換法

コムギを例に,floral dip法(上段)および種子胚中の茎頂分裂組織を用いた方法(下段)を示した.

発芽した種子にアグロバクテリウムを感染させ,生殖器官を含めさまざまな組織に分化する茎頂分裂組織(以下,茎頂)に遺伝子導入する方法も報告されている(図3図3■in planta形質転換法下段).ただし,通常茎頂は,すでに分化している鞘葉や葉,茎に覆われているため,感染液を茎頂まで到達させる工夫が必要となる.ダイコンやナスでは,超音波処理時間や界面活性剤処理濃度を最適化することで,形質転換体が取得されている(9, 10)9) K. Subramanyam, M. Rajesh, B. Jaganath, A. Vasuki, J. Theboral, D. Elayaraja, S. Karthik, M. Manickavasagam & A. Ganapathi: Appl. Biochem. Biotechnol., 171, 450 (2013).10) B. J. Park, Z. Liu, A. Kanno & T. Kameya: Plant Cell Rep., 24, 494 (2005)..イネやコムギにおいても,発芽した種子胚を針の先端で突き,傷を付けたうえで感染液を浸潤させる手法が報告されている(11, 12)11) P. Supartana, T. Shimizu, H. Shioiri, M. Nogawa, M. Nozue & M. Kojima: J. Biosci. Bioeng., 100, 391 (2005).12) P. Supartana, T. Shimizu, H. Nogawa, M. Shioiri, T. Nakajima, N. Haramoto, M. Nozue & M. Kojima: J. Biosci. Bioeng., 102, 162 (2006)..しかしながら,これらの方法についても形質転換体の取得効率が低く,汎用的な技術とはなっていない.

双子葉植物に比べ,単子葉植物ではアグロバクテリウムの感染効率が低く,植物体に直接感染させることは困難である.われわれもコムギを用いて,アグロバクテリウムを用いたin planta形質転換法を検討したが,感染効率が非常に低く,技術確立には至らなかった.そこでわれわれは,パーティクルボンバードメントを用いたin planta形質転換法を着想した.ターゲット組織は種子胚茎頂である.茎頂にはL2層と呼ばれる細胞層があり,そこには将来生殖細胞に分化する予定の未分化細胞(本稿では生殖系列細胞と呼ぶことにする)が存在する.パーティクルボンバードメントによりDNAをL2層に導入できれば,次世代に遺伝する安定的な形質転換体が取得できる.物理的に遺伝子導入する方法のため,植物種・品種への依存性は低いと考えられる.以下では,この技術(in planta Particle Bombardment(iPB)法)について,開発過程で見いだしたtipsを含めて紹介する(13)13) H. Hamada, Q. Linghu, Y. Nagira, R. Miki, N. Taoka & R. Imai: Sci. Rep., 282, 34013 (2017).

in planta Particle Bombardment(iPB)法

1. 茎頂の調製

コムギを含めた多くの単子葉植物において,茎頂は,すでに分化した葉や茎に隠れており,単離するのは非常に困難である.しかし,生育の初期段階,たとえば発芽直後の種子茎頂を用いると,実体顕微鏡下の操作で数枚の葉を除くことで,茎頂の露出は可能である.茎頂を露出させた胚は胚盤から分離させ,シャーレ上に約1 cmの円周上に30~40個程度並べる.これにより1回の射撃で多数の茎頂を処理することができる.

2. 遺伝子導入条件の検討

遺伝子導入の標的とする組織によって,細胞の強度や大きさが異なるため,いかに最適な撃ち込み条件を設定できるかが,効率的な遺伝子導入の鍵となる.しかし,植物の種子胚由来の茎頂に対して,パーティクルボンバードメントの詳細な条件検討が行われた先行研究は,ほとんどない.そこで,GFP遺伝子を指標として,微小なコムギ茎頂に対する最適な撃ち込み条件を検討した.品種「Fielder」の茎頂に対して,3種類の粒子径(0.6, 1.0, 1.6 µm)と2種類のヘリウム圧(1,100 psi, 1,350 psi)を組み合わせた計6種類の撃ち込み条件を検討した.茎頂表層において5スポット以上のGFP蛍光が見られた個体の割合は,ヘリウム圧1,100 psiの場合では,いずれの粒径を用いたときでも10~20%であった.興味深いことに,ヘリウム圧1,350 psiの場合では,粒径を小さくしていくにつれ,その割合が増加していき,金粒子径0.6 µmを用いたときでは約70%と,飛躍的に向上することがわかった.この条件の組み合わせにより,細胞へのダメージを軽減しつつ,茎頂の細胞表層を貫通できるのに十分なエネルギーを金粒子に付与できたと考えられる.

茎頂における一過的なGFP発現効率は,あくまで,GFP遺伝子がどれほど茎頂中の「細胞核内」に導入されたかの指標に過ぎない.核内で“漂っている”GFP遺伝子がコムギのゲノムに挿入されることで,初めて,形質転換体が取得できる.そこで,一過的なGFPの発現効率と,ゲノムへのGFP遺伝子の挿入効率が,実際に相関しているのかを解析した.上述の6種類の撃ち込み条件で処理した各コムギ種子胚をそのまま生育させた後,第5葉から抽出したゲノムDNAを鋳型にPCRを行い(ゲノミックPCR),ゲノムへ挿入されたGFP遺伝子を検出した.その結果,予想どおりヘリウム圧1,350 psiと金粒子径0.6 µmを組み合わせた条件下で,ゲノムへのGFP遺伝子の挿入効率が最大となった.以上の結果から,コムギ種子胚茎頂を標的とした形質転換には,0.6 µm径の金粒子にDNAをコートし,1,350 psiのヘリウム圧で撃ち込む条件が最適であると判断した.

3. 次世代(T1世代)での形質転換体の取得

茎頂は,最も外側の細胞からなるL1層,その内側の細胞からなるL2層,そのさらに内側の細胞全体からなるL3層と3つの細胞層から構成される.これら3層は独立して分裂を繰り返し,葉や花といった地上部組織が作られていく.植物の生殖細胞である花粉や卵細胞は,茎頂のL2細胞に由来することが知られている(14, 15)14) J. C. Fletcher: “Meristematic Tissues in Plant Growth and Development,” ed. by M. T. McManus & B. E. Veit, 2002.15) P. D. Jenik & V. F. Irish: Development, 127, 1267 (2000)..そのため,金粒子がL2層へ到達しているか否かが重要なポイントとなる(図4図4■iPB法によるDNA・RNA・タンパク質導入のコンセプト).すなわち,外来遺伝子が効率良く細胞に導入されたとしても,それが生殖系列細胞でなければ,次世代における形質転換体を取得することはできない.また,形質転換当代においては,形質転換細胞と非形質転換細胞が同一個体で混在する「キメラ」となるが,これについては次世代で解消される.

図4■iPB法によるDNA・RNA・タンパク質導入のコンセプト

植物の茎頂は,表層からL1層,L2層,L3層により構成される.L2層には,将来生殖細胞に分化する予定の未分化細胞が存在すると考えられている.そこで,微粒子がL2層に到達するように,パーティクルボンバードメントの条件を最適化し,次世代の形質転換体やゲノム編集個体を取得する.

ヘリウム圧1,350 psiと金粒子径0.6 µmの条件下で,577個の茎頂に対し,形質転換処理を行った.茎頂においてGFP蛍光が観察された個体をそのまま生育させ,当代(T0)の止葉を用いたゲノミックPCRを行った結果,8個体のGFP遺伝子導入個体が得られた.そのすべての個体から次世代の種子(T1種子)を収穫し,ゲノミックPCRおよびサザンブロットにより,T1世代植物を解析した結果,5個体においてGFP遺伝子の染色体への組み込みが確認された.導入されたGFP遺伝子の発現は,T1世代の芽生えや鞘葉等でGFPの蛍光として観察された(図5図5■野生型株および形質転換株のGFP蛍光画像(文献13より一部改変)).これらの結果から,このin planta形質転換条件を用いることで,導入遺伝子が次世代に遺伝することがわかった.われわれが期待したように,茎頂中の生殖系列細胞が形質転換されたと考えられる.

図5■野生型株および形質転換株のGFP蛍光画像(文献13より一部改変)

4. 実用品種の形質転換は可能か?

iPB法はカルス培養を必要としないため,原理的には難培養性の国産品種にも適用可能である.そこで,国産基幹品種である「春よ恋」を用いて,iPB法を用いた形質転換を検証した.撃ち込みを行った茎頂569個体から生育させた植物体のうち,13個体で遺伝子導入が確認され,4個体で次世代への遺伝が示された.T1形質転換体の取得効率は0.70%(4個体/全569個体)となり,「Fielder」の場合の0.87%(5個体/全577個体)とほぼ同等の効率であった.これらの結果から,「春よ恋」に対しても,iPB法が問題無く適用できることがわかった.その後の検討により,秋播き品種「ゆめちから」に対しても,iPB法を適用できることが示された.適用可能な品種の検討は今後も必要なものの,茎頂をターゲットとしたことで,広範なコムギ品種に適用できる初めての形質転換技術になると期待される.

ゲノム編集技術への応用―in plantaゲノム編集

冒頭で触れたように,組織培養の品種依存性のため,多くの作物において,ゲノム編集技術を実用品種へ直接適用することは困難である.特に品種依存性の高いコムギは,その傾向が顕著である.そこで筆者らは,iPB法を用いて実用品種のゲノム編集に取り組んだ.上述の遺伝子導入条件を用いて,ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9遺伝子を茎頂に導入し,標的遺伝子に変異が導入されたゲノム編集個体の作製を試みた.なお,変異の標的として千粒重にかかわるTaGASR7遺伝子(a member of Snakin/GASA gene family)を選択した(16)16) Y. Zhang, Z. Liang, Y. Zong, Y. Wang, J. Liu, K. Chen, J. Qiu & C. Gao: Nat. Commun., 7, 12617 (2016).

iPB法により,Cas9発現用プラスミド,gRNA発現用プラスミド,およびGFP発現用プラスミドの3種のプラスミドをコーティングさせた金粒子を,コムギ(品種「Bobwhite」)の茎頂へ導入した.その後,形質転換体取得の際と同じ要領で,茎頂においてGFP蛍光が見られた胚を選抜し,そのまま生育させた.その結果,上記プラスミドを撃ち込んだ210個のうち,生育させたT0世代11個体(5.2%)において,標的遺伝子の変異が検出された.

形質転換と同様,変異についてもT0世代はキメラとなる.上記の11個体の種子を収穫し,T1世代植物体を解析した結果,3個体(1.4%)の後代において標的変異を確認することができた.そのうち1個体では,A, B, Dゲノム上のすべてのTaGASR7遺伝子に変異が導入されていた.また,興味深いことに,このホモ変異体を含めた多くのT1世代植物において,CRISPR/Cas9の発現カセットが検出されなかった.これまでの手法では,世代を進め,遺伝的な分離を利用してゲノムに挿入されたCRISPR/Cas9の発現カセットを除去する作業が必要である.一方,iPB法を用いることで,発現カセットをゲノムへ挿入させることなく,その一過的発現により変異導入が可能であることが明らかとなった.

このように,iPB法をゲノム編集技術と組み合わせることで,茎頂中の生殖細胞に標的変異を導入でき,その結果,ゲノム編集された次世代植物が得られることがわかった.われわれはiPB法を用いることで,実用品種「春よ恋」「ゆめちから」のゲノム編集にも成功しており,コムギにおいて品種の壁を越えた「in plantaゲノム編集法」が確立されたと言えよう.

おわりに

デザインの簡便性やDNA切断効率の高さから,CRISPR/Cas9システムが急速に普及し,ゲノム編集技術が個々の研究室で利用される汎用ツールになりつつある.オフターゲット効果が少ないTALENや,SpCas9とは異なるPAM配列を認識するSaCas9, Cpf1(Cas9様タンパク質)など,標的とするDNA配列に合わせて最適な人工制限酵素を選択することも可能である.また,本稿で紹介したように,種子胚中の茎頂に人工制限酵素遺伝子を直接導入することにより,カルス培養を使用せずに,実用品種においてゲノム編集を行うことが可能になった.今後,コムギ以外の多様な作物の実用品種における展開が期待される.また最近,Cas9タンパク質とgRNAの複合体であるRNP(Ribonucleoprotein)を,プロトプラストや未熟胚へ導入し,ゲノム編集を行う技術も報告されている(17, 18)17) J. W. Woo, J. Kim, S. I. Kwon, C. Corvalán, S. W. Cho, H. Kim, S. G. Kim, S. T. Kim, S. Choe & J. S. Kim: Nat. Biotechnol., 33, 1162 (2015).18) S. Svitashev, C. Schwartz, B. Lenderts, J. K. Young & A. M. Cigan: Nat. Commun., 7, 13274 (2016)..筆者らも,iPB法をタンパク質導入用にアレンジし,植物の茎頂にRNPを直接導入する技術の開発に取り組んでいるところである(図4図4■iPB法によるDNA・RNA・タンパク質導入のコンセプト).品種に依存せず,かつDNAフリーな遺伝子改変を実現する可能性をもつ「in plantaゲノム編集法」が,ゲノム編集作物の社会実装に大きく貢献することを期待している.

Acknowledgments

本稿で述べた筆者らの研究の一部は,内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構生研支援センター)によって実施されました.

Reference

1) V. Kumar & M. Jain: J. Exp. Bot., 66, 47 (2015).

2) S. J. Clough & A. F. Bent: Plant J., 16, 735 (1998).

3) 田部井豊編:“形質転換プロトコール”,化学同人,2012, xii.

4) Y. Ishida, M. Tsunashima, Y. Hiei & T. Komari: Methods Mol. Biol., 1223, 189 (2015).

5) P. J. Larkin & W. R. Scowcroft: Theor. Appl. Genet., 60, 197 (1981).

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8) J. M. Zale, S. Agarwal, S. Loar & C. M. Steber: Plant Cell Rep., 28, 903 (2009).

9) K. Subramanyam, M. Rajesh, B. Jaganath, A. Vasuki, J. Theboral, D. Elayaraja, S. Karthik, M. Manickavasagam & A. Ganapathi: Appl. Biochem. Biotechnol., 171, 450 (2013).

10) B. J. Park, Z. Liu, A. Kanno & T. Kameya: Plant Cell Rep., 24, 494 (2005).

11) P. Supartana, T. Shimizu, H. Shioiri, M. Nogawa, M. Nozue & M. Kojima: J. Biosci. Bioeng., 100, 391 (2005).

12) P. Supartana, T. Shimizu, H. Nogawa, M. Shioiri, T. Nakajima, N. Haramoto, M. Nozue & M. Kojima: J. Biosci. Bioeng., 102, 162 (2006).

13) H. Hamada, Q. Linghu, Y. Nagira, R. Miki, N. Taoka & R. Imai: Sci. Rep., 282, 34013 (2017).

14) J. C. Fletcher: “Meristematic Tissues in Plant Growth and Development,” ed. by M. T. McManus & B. E. Veit, 2002.

15) P. D. Jenik & V. F. Irish: Development, 127, 1267 (2000).

16) Y. Zhang, Z. Liang, Y. Zong, Y. Wang, J. Liu, K. Chen, J. Qiu & C. Gao: Nat. Commun., 7, 12617 (2016).

17) J. W. Woo, J. Kim, S. I. Kwon, C. Corvalán, S. W. Cho, H. Kim, S. G. Kim, S. T. Kim, S. Choe & J. S. Kim: Nat. Biotechnol., 33, 1162 (2015).

18) S. Svitashev, C. Schwartz, B. Lenderts, J. K. Young & A. M. Cigan: Nat. Commun., 7, 13274 (2016).