バイオサイエンススコープ

絶滅危惧種タガメの生態彼らは何を食べ,どのように暮らしているか

Shin-ya Ohba

大庭 伸也

長崎大学教育学部生物学教室

Published: 2018-03-20

タガメの生活史

タガメは日本最大のカメムシ目(Heteroptera)・コオイムシ科(Belostomatidae)に属する昆虫で,池や沼,水田ときには河川にも生息する.稲作が多い日本ではかつて,水田でよく見かけられたことから,“田亀”という和名がついたとされる.タガメの寿命は約1年で,成虫で冬を越すと,5~7月の昼が長い季節(長日条件)かつ湿度の高い梅雨に繁殖期を迎える.雌雄が出会うと水面上の植物や棒などに70卵ほどの卵塊をメスが産み,オスが卵と孵化直後の幼虫を保護する(図1図1■稲に産卵された卵塊を保護するタガメのオス).気温に大きく依存するが10日から2週間で卵が孵化し,水面へ落下すると幼虫は徐々に分散して単独生活が始まる.タガメは蛹にならない不完全変態で,幼虫は5回の脱皮を経て成虫になる.野外では7月後半から9月にかけて新成虫が出現し,10月ころから徐々に水辺からいなくなり林床の落ち葉の下などの陸上で冬を越す.春になると再び水辺へと戻り,摂食を繰り返して性成熟を迎える.

図1■稲に産卵された卵塊を保護するタガメのオス

採餌

タガメは捕獲に適した前脚でカエルや小魚,水生昆虫を捕まえて捕食する(図2図2■トノサマガエルを捕食するタガメ).針のような口(口吻)を捕獲した餌動物に挿入し,タンパク質分解酵素を含む消化液を注入して餌の動きを止め,消化物を吸収・摂食する.同様の方法で小型のカメやヘビを捕食することもあるが,稀である.捕らえた餌がタガメよりも大きい場合や激しく暴れる場合は,前脚のみならず中脚や後脚で抑え込み,しがみついて離されないようにしてから口吻を挿入する.このような6本脚での捕食はタガメが属するコオイムシ科に特有の行動であり,同じような形態をしているタイコウチLaccotrephes japonensisやミズカマキリRanatra chinensisが属するタイコウチ科では見られない.タイコウチ科は前脚のみで餌を捕食するため,捕獲可能な餌のサイズはコオイムシ科に比べて限定される(1)1) 大庭伸也,立田晴記:昆虫と自然,52, 18 (2017).

図2■トノサマガエルを捕食するタガメ

タガメがこの6本脚捕食をもっとも行うのがその幼虫,特に若齢幼虫のときである.幼虫が野外で何を食べているのかを調べたところ,最も多いのがオタマジャクシで,次いでカエル類や魚類(メダカやドジョウ)がそれに続いた.卵から孵化した幼虫の体長は約11 mmであるが,野外では1齢幼虫のときから体長30 mm程度のオタマジャクシを頻繁に捕食している(図3図3■タガメの幼虫サイズと餌のサイズの関係).自身の約3倍もある巨大な餌を捕食するのであるが,3齢か4齢幼虫までもっぱらオタマジャクシを捕食している(2)2) S. Ohba, H. Miyasaka & F. Nakasuji: Popul. Ecol., 50, 9 (2008)..通常,水域に住む捕食者と被食者の関係は,大きい生物が小さい生物を捕食し,その関係は捕食者の体サイズの増加(つまり成長)に比例するとされるが,タガメではそのようなことはない.タガメの1~5齢幼虫が野外で捕食している餌のサイズ(体長)の中央値を齢間で比較すると,有意な違いがなく,常に一定である(図3図3■タガメの幼虫サイズと餌のサイズの関係).捕食行動を観察すると,1~3齢幼虫は6本脚捕食で自身より大きな餌を,4~5齢幼虫になると前脚のみで餌を捕食することが多くなる.つまり,オタマジャクシを主に捕食する幼虫は自身の体サイズによらずオタマジャクシを捕らえられるように,その採餌行動を可塑的に変化させている.なお,捕獲脚である前脚先端には爪があり,その湾曲度合いは若齢幼虫ほど大きい.この爪は餌を捕らえる際に餌生物の体に最初にコンタクトする部分で,自分よりも大きな餌を捕食する頻度が高い若齢期はこの湾曲した爪をひっかけてから6本脚捕食を成し遂げる.逆に老齢幼虫になると自分よりも相対的に大きな餌が環境中に居なくなるため,6本脚捕食の頻度が減少する.それに呼応するかのように爪の湾曲度が小さくなるのが興味深い(3)3) S. Ohba & H. Tatsuta: Biol. J. Linn. Soc. Lond., 117, 601 (2016).

図3■タガメの幼虫サイズと餌のサイズの関係

右下の図は前脚先端の爪を示し,1齢幼虫が最も曲がっていることがわかる.

タガメの幼虫期はその体のわりに短く,温度や餌条件が良ければ1カ月程度で成虫になる.オタマジャクシを与えるグループとトンボ幼虫のヤゴを与えるグループに分けて幼虫の飼育実験をすると,オタマジャクシを食べた幼虫の方が,明らかに成長が早い(2)2) S. Ohba, H. Miyasaka & F. Nakasuji: Popul. Ecol., 50, 9 (2008)..その成長速度の増加は1~4齢幼虫で確認される(5齢幼虫では餌による変化がない).つまり,タガメが若齢幼虫のときにオタマジャクシという質の良い(=栄養価が高い)餌を摂食することは早く成長をするうえで欠かせないのだろう.前述のようにタガメは日本最大の水生昆虫で,鳥類や大形魚類を除くと水中に捕食者はいない.ところが,体が小さな幼虫のときには他種の水生昆虫にもよく捕食されており,筆者が調査した限りでは1齢幼虫の時にタイコウチに最もよく捕食されていた(4)4) S. Ohba: Hydrobiologia, 583, 377 (2007)..タガメ幼虫が一日でも早く成長するうえで幼虫期間の短縮化は天敵から捕食されにくい成虫へと成長するうえでも重要なのかもしれない.成虫になれば羽があるので,もし住んでいる水域が日照り続きで水がなくなってしまった場合でも飛翔によりその場を離れて移動することができる.水田のような一時的に水がたまった環境で成長するうえででも,幼虫期の短縮化は重要だと思われる.

繁殖行動

越冬後,夏至をピークとして5月下旬から7月にかけて繁殖行動が見られる.繁殖の開始は春の温度上昇,終了は夏の短日化がカギとなるため,暖かい年では5月の連休直後くらいから繁殖が開始されるときもある.昼間は物陰でじっとしていた成虫たちは日が沈むと活動をはじめ,オスが中脚と後脚で屈伸をして波を起こし,メスに対して自分の位置を知らせる.その波を感知したメスはオスの元(=波の発生源)へと泳いでいき,雌雄が出会うと交尾に至る.この波を起こす行動はポンピング行動(Push-up display)と呼ばれるコオイムシ科昆虫特有の求愛行動で,種によってそのリズムが異なる.タガメの場合,オスが1秒に3回の波を起こしてメスを呼ぶ.棒切れなどで人工的にこのリズムで波を起こしてもメスが近寄ってくる.同じ水域内(たとえば同じ池や水田)にメスがいる場合はポンピングだけでメスを引き寄せられるが,そうではない場合,オスは中脚の付け根あたりからバナナ臭やパイナップル臭と呼ばれる芳香を出し,メスを呼ぶと考えられている.この芳香はカルボン酸エステルの一種trans-2-hexyenyl acetateが主要成分である(5)5) 橋爪秀博:昆虫と自然,46, 31 (2011)..東南アジアでは同じタガメの仲間であるタイワンタガメLethocerus indicusが食材として販売されているが,香りの強いオスが現地民に好まれるという.

雌雄が出会うと交尾が始まる.交尾中に数回の中断を挟みつつ,移動しながら産卵する場所を雌雄で探す.タガメが昇っても折れ曲がらない茎の堅い植物があればそこに産卵するが,ない場合は意外なものにも産卵する.筆者がこれまでに観察した限りでは,水田の畔草,イネの置き苗(余ったものを固めて置いている苗),木の棒,コンクリートの壁などさまざまな基質に産卵する.産卵する場所が決まるとメスが水面上に上がって産卵が始まるが,ここでも途中でオスがメスの産卵を中断して交尾を繰り返す.産卵を終えるとメスはその場を去り,自分の卵がある場所へ戻ることはない.その場に取り残されたオスが,卵と卵から孵化したばかりの幼虫の保護をする(6)6) S. Ohba, K. Hidaka & M. Sasaki: Entomol. Sci., 9, 1 (2006).

1. 父親による卵・孵化幼虫の保護

卵の保護におけるオスの主な役割は卵への給水,同種他個体や捕食者から卵を防衛することである.オスを除去しても人工的に給水をすれば卵を孵化させることができる(7)7) 市川憲平:インセクタリゥム,25, 162 (1991)..同種他個体からの防衛とは,卵壊し(子殺し)に来たメスからの防衛のことである.産卵準備が可能なメスは,交尾相手かつ卵の保育者となるオスが見つからない場合,すでに卵保護をしているオスを奪おうとするのである(7)7) 市川憲平:インセクタリゥム,25, 162 (1991)..どういうことかというと,メスがすでに卵を守っているオスの卵を破壊・摂食してしまい,そこに新たな卵塊を産みつけるのである.当然,卵保護中のオスはメスに対して激しく抵抗をするが,体サイズが一回り大きいメスには敵わず卵が壊されてしまう方が多い.オスはメスへの抵抗を途中であきらめて,新たなメスと交尾をし,そのメスが産卵した卵塊の世話を始める.これまで守っていた卵塊を壊した新しいメスと番うことは,人間の感情的に考えると抵抗があるかもしれないが,限られた繁殖期の間に,より多くの子孫を残すオスの立場からすると,そのメスとすぐに交尾・産卵してもらうことは合理的なのかもしれない.ほかのメスを探す時間をかけることになく,産卵準備ができたメスとすぐに交尾できるからである.

そして,捕食者からの防衛に関して最近明らかになったことがアリに対する防御行動である(8)8) S. Ohba & A. Maeda: Ecol. Entomol., 42, 402 (2017)..水田やため池で調査をすると,孵化するより前に卵から保護オスがいなくなってしまうことがしばしば観察されるが,そのような卵はアリに襲われやすい.特に,岸辺の植物や水田の畔草に産卵された場合,つまり地面と接している場所では,アリからの襲撃が頻発しやすい.保護オスがいるとアリがやって来ないようなので,保護オスがアリの襲撃から卵を守っているのかもしれないと考え,室内で「タガメの保護オスとアリの有無」を組み合わせて実験を行った.その結果,保護オスがいるときに比べて,保護オスがいない場合は,卵や孵化したての幼虫がアリに食べられやすい(孵化率が低くなる)ことがわかった(図4図4■トビイロシワアリの襲撃を受けるタガメの孵化幼虫).また,保護オスがいると,実験的に保護オスを除去したときに比べて,アリが卵に近づく頻度が低いことがわかった.さらに,保護オスがいるときでも卵に覆いかぶさっているときに比べて,保護オスが採餌や給水のために水中に戻った際(オスにとっては数時間の休息)にアリが卵に近づきやすい.これらの結果から,保護オスの存在がアリの接近に対して負の影響を与えていると言えよう.

図4■トビイロシワアリの襲撃を受けるタガメの孵化幼虫

保護オスがいるとアリは寄り付きにくい.

保護オスはどのようにアリを追い払うのだろうか.観察の結果,アリが卵へ近づいてくると,脚でアリを追い払うことに加えて,どうにもならないくらいアリの集団に卵塊が襲われると,保護オスが強いバナナのような臭いを発することが確認された.この臭いは上で紹介したバナナ臭やパイナップル臭と同じ芳香であった.実はタガメと同じく親が卵の保護をする陸生のカメムシ類では,アリなどの天敵の接近時に“カメムシ臭”で追い払うことが知られている.今回の観察の中でアリの接近がない処理では,保護オスはこの臭いを出さなかった.これらの観察結果から,陸生カメムシの臭い防御と同じく,タガメの保護オスは「アリを撃退するために臭いを出す」という仮説が立てられた.同じ成分の臭いがある餌場と臭いがない餌場のどちらにアリがやってくるかを実験してみると,臭いがある餌場に数時間はアリが近づかないこと,臭い成分の濃度が高いほど長時間にわたりアリが近づきにくいこともわかった.ゆえに,この臭いにはアリを寄せ付けない効果があるといえよう.

2. 化学防御の進化に関する考察

タガメは陸生のカメムシの一種が水中生活に進出してきた昆虫であり,その祖先が陸上生活をしていた時代には,アリの攻撃を頻繁に受けていたに違いない.集団で攻撃をするアリは多くの昆虫にとって驚異的な捕食者である.カメムシ臭はアルコールの一種・trans-2-hexenalを主要成分とする化学物質で,アリが巣仲間に対して危険を知らせるときに出す警報フェロモンと化学構造が似ているとされる(9)9) J. Aldrich: Annu. Rev. Entomol., 33, 211 (1988)..タガメが出す果実のような芳香もおそらく同様の役割があり,アリを寄せ付けないものと推察される.

タガメのほかに,アメンボ,タイコウチ,ミズカマキリ,コオイムシ,マツモムシなど水生カメムシの仲間はもともと陸上生活をしていたカメムシの仲間から派生していると考えられるが,それぞれが水中あるいは水面生活に適応して現在のニッチを獲得している.水中生活をしている水生カメムシの多くは陸上のカメムシほど強い臭いを放つことはなく,臭いによる防御は退化しているのかもしれない.しかし,アメンボは指でつかむと独特の甘い臭い(個人的には麺つゆの香りだと感じる)を放つし,タガメは上で紹介した果実臭を放つ.それ以外の水生カメムシは,飛翔移動をするときと越冬時に陸上へ上がる(タイコウチやコオイムシ)とき以外はほとんど陸上へ上がることなく,水中でその生活を全うする.ここに水生カメムシになっても臭いを出し続けるか否かのヒントがあると筆者は考えている.現在の水生カメムシは陸上へ上がる機会があるタガメ(卵保護時)やアメンボ(岸辺の水草で休息する)はアリと接触する可能性が高いが,ほかの水生カメムシは陸に上がることが少ないためアリと接触することはほとんどないだろう.タイコウチやコオイムシが越冬時に陸上へ上がるとしても,すでにアリは活動をしない時期となるため,アリと遭遇するとは考えにくい.ゆえに,温かい季節,つまりアリが活動する時期に陸上へ上がる機会があるタガメやアメンボは臭いを出す機能を失っていないのかもしれない.

タガメはアルコールではなく,カルボン酸エステルとして臭いを出しているが,これはアルコールとカルボン酸という物質を反応させて(エステル化)作成する.エステルの特徴は,水にはあまり溶けず,揮発性が高い果物のような芳香をもつとされ,この特徴は水生カメムシであるタガメには重要な性質であるに違いない.陸生カメムシのカメムシ臭はtrans-2-hexenalが主要成分である(10)10) 北村実彬:植物防疫,34, 215 (1980)..カメムシの種ごとに臭いは異なる(臭いだけでカメムシの種名を当てることができる研究者もいる)ので,trans-2-hexenal(アルコール)をベーシックなものとするが,進化しながらそれぞれの種ごとに臭い物質の構成が変わっていったのではないだろうか.タガメの場合,遠い昔は陸生カメムシと同様にtrans-2-hexenal(アルコール)を臭い防御に使っていたと考えられるが,アルコールのままだと水に溶けやすいため,臭いの効果が消失しやすい可能性がある.そこで水中生活に適応進化するのと関連して,どのように獲得したのかは不明だが,酢酸と,もともともっていたアルコールとを反応させることでtrans-2-hexenyl acetate(カルボン酸エステル)を作り,水には溶けにくいように化学構造を変化させているのではないだろうか.また,タガメの繁殖期は雨の多い梅雨であり,卵保護もこの時期に限定される.アルコールを水に溶けにくいカルボン酸エステルに“カスタマイズ”することはタガメにとって重要なポイントであろう.

実はバナナ臭の機能には謎の面が多く,性フェロモン説(11)11) 橋爪秀博:“タガメのすべて”,トンボ出版,1994, p. 32.や,メスよりもオスの方が,臭腺が大きいため,卵保護をする場所に臭いつけをし,自分の卵を見失わないようにしているという“道しるべフェロモン説”(12)12) R. L. Smith: “The evolution of social behavior in insects and arachnids,” ed. by J. C. Choe & B. J. Crespi, Cambridge University Press, 1997.もある.加えて,オスが保護している卵塊をアリから守る化学的防御説が筆者らの研究で明らかとなった.今後も新たな機能が見つかるかもしれない.

タガメの現状

タガメという名前を聞いたことがあるが,実物を見たことがないまたは図鑑や書籍でしか見たことがないという人が一般的ではないだろうか.今では信じられないかもしれないが,本種は1960年代くらいまでは日本全国で普通に見られた昆虫であり,ある文献によると昭和30年代頃はアゲハPapilio xuthusやモンシロチョウPieris rapaeと同程度の頻度で見かけたほど,希少価値をほとんど感じていなかったため,生息の記録データとなる標本があまり残されていないとの記述まである(13)13) 浦田明夫:こがねむし,46, 9 (1985)..そして,普通種であった本種が1980年代ころまでには各地で姿を消したものと推測される.本種が減少した要因として真っ先に挙げられるのが,水田への残留性や急性毒性の高い農薬の大量散布である.現在は低毒性の農薬に切り替えられているが,ほかにも減反政策・耕作者の高齢化に伴う水田の管理放棄による生息地そのものの減少,水田の圃場整備と乾田化により本種やその餌生物となる両生類や魚類の衰退,正の走光性をもつ本種は飛行移動中に人工照明に引き寄せられるため,開発に伴う人工照明の増加も本種の減少に対して小さくない影響を及ぼしたものと推測される.そして,今懸念されているのが残存している生息地へのアメリカザリガニProcambarus clarkiiやウシガエルLithobates catesbeiana,オオクチバスMicropterus salmoidesなどの侵略的外来種の侵入である(14)14) 西原昇吾:昆虫と自然,51, 2 (2016)..これらの外来種が増加した水域からはまず在来の水生昆虫は捕食されていなくなってしまうが,タガメも例外ではない(15)15) S. Ohba: Jpn. J. Env. Entomol. Zool., 22, 93 (2011)..さらに,水面の光の反射を利用して,水域を認識する水生昆虫にとって,近年,里山環境に増えつつあるソーラーパネルも決して無視できないと筆者は憂慮している.今後,ソーラーパネルのような“環境にやさしい”とされる屋外設置型デバイスのタガメを含む水生昆虫に対する影響について科学的な検証がなされるべきだろう.

また,溜池や水田に住む水生昆虫に共通することだが,その体のサイズに比べて成長が早いのが特徴である.そして,梅雨の前後に繁殖期を迎えるものがほとんどである.このような水生昆虫は,日本に水田ができるずっと前は梅雨の時期に河川が氾濫して出来た後背湿地のような場所で繁殖していたのであろう.河川周りの湿地はヒトの手で水田へと姿を変えており,土木的な工事を行わない限り,元の自然湿地へと戻ることはない.本種の保全はヒトの活動が大きく,今後も存続するためには新潟県・佐渡のトキNipponia nipponや兵庫県・豊岡のコウノトリCiconia boycianaのような,国を挙げての積極的な保全策を期待したい.

2017年は複数のテレビ番組でタガメが取り扱われたが,その反響の大きさ,生物としての注目度の高さを筆者自身が感じている.これらの反響・高い注目度が本種の乱獲ではなく,保全への行動や政策に結びついてほしいと切に願っている.そのためには,われわれ研究者が,その魅力を広く多くの方々に知ってもらうことに加えて,行政や一般の方々とともに保全策を真摯に考えていく必要がある.

Reference

1) 大庭伸也,立田晴記:昆虫と自然,52, 18 (2017).

2) S. Ohba, H. Miyasaka & F. Nakasuji: Popul. Ecol., 50, 9 (2008).

3) S. Ohba & H. Tatsuta: Biol. J. Linn. Soc. Lond., 117, 601 (2016).

4) S. Ohba: Hydrobiologia, 583, 377 (2007).

5) 橋爪秀博:昆虫と自然,46, 31 (2011).

6) S. Ohba, K. Hidaka & M. Sasaki: Entomol. Sci., 9, 1 (2006).

7) 市川憲平:インセクタリゥム,25, 162 (1991).

8) S. Ohba & A. Maeda: Ecol. Entomol., 42, 402 (2017).

9) J. Aldrich: Annu. Rev. Entomol., 33, 211 (1988).

10) 北村実彬:植物防疫,34, 215 (1980).

11) 橋爪秀博:“タガメのすべて”,トンボ出版,1994, p. 32.

12) R. L. Smith: “The evolution of social behavior in insects and arachnids,” ed. by J. C. Choe & B. J. Crespi, Cambridge University Press, 1997.

13) 浦田明夫:こがねむし,46, 9 (1985).

14) 西原昇吾:昆虫と自然,51, 2 (2016).

15) S. Ohba: Jpn. J. Env. Entomol. Zool., 22, 93 (2011).