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プロテインキナーゼD(PKD)の未熟T細胞分化における役割CD4 T細胞分化に必須のセリン/スレオニンキナーゼ,プロテインキナーゼD (PKD)

Eri Ishikawa

石川 絵里

大阪大学微生物病研究所

大阪大学免疫学フロンティア研究センター

Sho Yamasaki

山崎

大阪大学微生物病研究所

大阪大学免疫学フロンティア研究センター

九州大学生体防御医学研究所

Published: 2018-04-20

獲得免疫応答に重要な役割を果たすT細胞は,胸腺で緻密な選択過程を経て分化する(1)1) R. N. Germain: Nat. Rev. Immunol., 2, 309 (2002)..未熟T細胞では,T細胞受容体(TCR)α鎖とTCRβ鎖の遺伝子再構成が起き,これらα鎖とβ鎖の組み合わせにより膨大な種類のTCRレパトアが形成される.しかし,その大部分は胸腺での選択過程においてクローン除去される(負の選択).MHC-自己抗原複合体を認識して適度なシグナルを誘導できるTCRをもつCD4CD8ダブルポジィティブ(DP)細胞だけが,生存シグナルとCD4/CD8への系列決定を受け,CD4シングルポジティブ(CD4 SP)細胞あるいはCD8シングルポジィティブ(CD8 SP)細胞へと分化し(正の選択),末梢に移出して,それぞれヘルパーT細胞,キラーT細胞として働く.各系列決定には,マスターレギュレーターと呼ばれる特定の転写因子が重要な働きをすることがわかってきたが(2)2) I. Taniuchi: Immunol. Rev., 271, 98 (2016).,TCRを介したシグナルとこれらの転写因子をつなぐ分子機構の理解は遅れている.

TCRがMHC–抗原複合体を認識すると,TCR下流シグナル分子のチロシンリン酸化カスケードが誘導される.この過程に寄与するZAP70, Lckなどのチロシンキナーゼが未熟T細胞分化に重要な役割を果たすことはよく知られているが(1)1) R. N. Germain: Nat. Rev. Immunol., 2, 309 (2002).,セリン/スレオニン(Ser/Thr)キナーゼの役割に関してはいまだ不明な点が多い.

最近われわれは,Ser/Thrキナーゼの一つであるプロテインキナーゼD(PKD)が未熟T細胞の,とりわけCD4T細胞への分化において重要な役割を果たすことを見いだした(3)3) E. Ishikawa, H. Kosako, T. Yasuda, M. Ohmuraya, K. Araki, T. Kurosaki, T. Saito & S. Yamasaki: Nat. Commun., 7, 12756 (2016)..PKDには異なる遺伝子によりコードされ,構造が非常によく似た3つのアイソフォーム(PKD1, PKD2, PKD3)が存在し,従来T細胞においてはPKD2のみが発現すると考えられていた.しかしわれわれは,mRNAコピー数の測定による詳細な解析により,未熟T細胞において主にPKD2が発現しているがPKD3も僅かに発現しており,PKD1は全く発現していないことを明らかにした.また,未熟T細胞をTCR刺激するとPKDのリン酸化が見られたことから,PKDの未熟T細胞分化への寄与が推察された.そこで,T細胞におけるPKDの役割を調べるためにT細胞特異的PKD2/PKD3二重欠損マウスを作製したところ,CD4 SP細胞が激減することが判明した.さらには正の選択を受けた直後の細胞において,CD4系列決定に必須の転写因子ThPOKの発現低下が認められた.このCD4 SP細胞の減少は抗アポトーシス分子Bcl-2をトランスジーンで導入しても戻らなかったことから,単なる生存の異常では説明できず,分化プログラムの障害であることが示唆された.また,TCRトランスジェニックマウスとの交配によりTCRを1種類に固定し,正の選択への影響を観察したところ,CD8系列に比べCD4系列への正の選択が顕著に障害された.これらの結果から,PKDはTCR下流で働き,正の選択およびCD4系列決定に重要な役割を果たす分子であることが強く示唆された.二重欠損マウスで見られる顕著な表現型は,PKD2あるいはPKD3の単独欠損マウスでは見られないことから,未熟T細胞分化においてPKD2とPKD3は冗長的に働いていると考えられる.ヘルパーT細胞とも呼ばれるCD4T細胞は,免疫応答において重要な役割を果たすが,その異常な活性化は自己免疫疾患を引き起こすことも知られている.PKDの働きを阻害することで,疾患に寄与するCD4T細胞を減少させることが可能であれば,治療への発展も考えられる.

次にわれわれは,PKDがかかわるシグナル経路を明らかにするため,リン酸化プロテオミクスによりPKDの基質分子の同定を試みた.蛍光二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)を用い,TCR刺激とPKDに依存的なリン酸化タンパク質を探索したところ,顕著なスポットの一つとして,チロシンフォスファターゼSHP-1が同定された(3)3) E. Ishikawa, H. Kosako, T. Yasuda, M. Ohmuraya, K. Araki, T. Kurosaki, T. Saito & S. Yamasaki: Nat. Commun., 7, 12756 (2016)..われわれはさらに,PKDによるリン酸化部位がC末端に位置するSer557であることを見いだした.そこでこのSer557をAlaに置換したノックインマウスを作製してT細胞を調べたところ,やはりCD4 SP細胞分化の減弱が認められた.この結果から,PKDによるSHP-1のSer557のリン酸化は,TCRシグナルを正に制御し,未熟T細胞分化を促進すると考えられる(図1図1■PKDの未熟T細胞分化における役割).SHP-1はこれまで,TCR下流シグナル分子のリン酸化チロシンを脱リン酸化し,TCRシグナルを負に制御する分子と考えられていた(4)4) U. Lorenz: Immunol. Rev., 228, 342 (2009)..PKDによるSHP-1のリン酸化が,SHP-1による負の機能を解除しているのか,あるいは全く新たな機構でTCRシグナルの誘導に働いているかは,今後明らかにしなければならない課題である.

図1■PKDの未熟T細胞分化における役割

未熟T細胞において,T細胞受容体下流で活性化されたPKD2/3は,SHP-1をリン酸化することで,CD4 T細胞分化の誘導に働いている.

Ser/Thrキナーゼには,われわれが明らかにしたPKDのように,構造的によく似たアイソフォームをもつものが多く,単独欠損マウスでは表現型の変化が認められず,未熟T細胞分化における役割が不明のままのものが多かった.近年,多重欠損マウスの樹立によりその役割が明らかとなってきたが(5)5) D. Finlay & D. Cantrell: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 3, a002261 (2011).,これらキナーゼの基質についてはまだよくわかっていない.今後,遺伝子欠損マウスと最新のプロテオミクスの技術を組み合わせ,未熟T細胞分化におけるTCRシグナル下流のSer/Thrリン酸化ネットワークの全貌が明らかとなれば,複雑で緻密な未熟T細胞分化の分子メカニズム解明に向けた大きな一歩となるであろう.

Reference

1) R. N. Germain: Nat. Rev. Immunol., 2, 309 (2002).

2) I. Taniuchi: Immunol. Rev., 271, 98 (2016).

3) E. Ishikawa, H. Kosako, T. Yasuda, M. Ohmuraya, K. Araki, T. Kurosaki, T. Saito & S. Yamasaki: Nat. Commun., 7, 12756 (2016).

4) U. Lorenz: Immunol. Rev., 228, 342 (2009).

5) D. Finlay & D. Cantrell: Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 3, a002261 (2011).