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生物活性化合物にアジド基のみを導入したプローブを用いる標的タンパク質同定法クリック反応を用いた標的タンパク質の同定

Tomoaki Anabuki

穴吹 友亮

北海道大学大学院農学院

Kosaku Takahashi

高橋 公咲

北海道大学大学院農学研究院

Published: 2018-04-20

生物活性化合物は,生体内で受容体などのタンパク質と相互作用することでその生物活性を示す.そのため,生物活性化合物の作用機序の解明には,標的タンパク質の同定は不可欠である.光親和性標識法(図1, A図1■既存の光親和性標識法とアジドプローブを用いる新規な標的タンパク質同定法)は,生物活性化合物の標的タンパク質を検出する方法の一つであり(1)1) M. Hashimoto: “Photoaffinity Labeling for Structural Probing within Protein”, ed. by Y. Hatanaka & M. Hashimoto, Springer Japan, 2017, p. 1–11,生物活性化合物の詳細な機能解析に広く用いられてきた.光親和性標識法では,光親和性標識基(アジドベンゼン,ベンゾフェノンおよびジアジリンなど)および検出用官能基(ビオチン,蛍光官能基および放射性同位体など)が生物活性化合物に導入された光親和性標識プローブを使用する.光親和性標識基は,特定の波長の光を照射すると活性化され,その近傍にある分子と不可逆な共有結合を形成するという性質をもつ.検出用官能基は,特異的に標的タンパク質を検出する目印として利用される.光親和性標識プローブと標的タンパク質を相互作用させた後,光照射を行うことで2つの分子間に共有結合が形成される.生成した光親和性標識プローブと標的タンパク質の複合体は,検出用官能基を介して検出される.

光親和性標識法は有用性が高く,これまで多くの研究報告がある.しかし,光親和性標識基および検出用官能基の生物活性化合物への導入は,その標的タンパク質に対する親和性を低下させ,生物活性に影響を与える場合が多い.そして,光親和性標識プローブと標的タンパク質の親和性の低下は,光親和性標識法による標的タンパク質の検出感度を低下させるため,本方法の問題点の一つとなっている.

図1■既存の光親和性標識法とアジドプローブを用いる新規な標的タンパク質同定法

この問題点を解決するため,筆者らは光親和性標識基および検出用官能基を生物活性化合物に直接導入することなく,化学修飾を最小限に抑えたプローブを用いる標的タンパク質同定法を考案した(2)2) T. Anabuki, M. Tsukahara, H. Matsuura & K. Takahashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 432 (2016)..本手法では,代表的なクリック反応であるアジド基とアルキンのヒュスゲン環化付加反応に注目した.クリック反応は,温和な条件下でも高収率で特定の官能基同士を結合させる反応である(3)3) H. C. Kolb, M. G. Finn & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004 (2001)..クリック反応の利点として,溶媒を選ばず水溶液中でも進行することや,解析に支障をもたらす副生成物が生じないことが挙げられる.また,クリック反応は,多くの生体分子が存在していても,特定の官能基選択的に進む特徴がある.その中でも,アジド基とアルキンのヒュスゲン環化付加反応は,銅触媒の添加により反応速度が著しく加速することが2002年にSharplessらにより報告されて以降(4)4) V. V. Rostovtsev, L. G. Green, V. V. Fokin & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2596 (2002).,代表的なクリック反応として注目されてきた.

そこで,筆者らが考案した新規な標的タンパク質同定法では,アジド基のみを生物活性化合物に導入したプローブ(アジドプローブ)を標的タンパク質とインキュベートし複合体を形成させた後に,ヒュスゲン環化付加反応により光親和性標識基および検出用官能基を有する化合物(リンカー)をアジドプローブと標的タンパク質複合体に導入することとした(図1, B図1■既存の光親和性標識法とアジドプローブを用いる新規な標的タンパク質同定法).アジド基は,コンパクトかつ無極性な官能基であるため,生物活性化合物への導入により著しい生物活性および標的タンパク質に対する親和性の低下を引き起こす可能性が低いと予想された.

本手法の有効性を確認するため,植物ホルモンであるジャスモン酸の生合成酵素のアレンオキシドシンターゼ(AOS)(5)5) F. Schaller: J. Exp. Bot., 52, 11 (2001).とAOS阻害剤を用いて実験を行った(2)2) T. Anabuki, M. Tsukahara, H. Matsuura & K. Takahashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 432 (2016)..イミダゾール環を基本骨格とした化合物1がAOS阻害活性を有することが報告されている(6)6) K. Oh & N. Murofushi: Bioorg. Med. Chem., 10, 3707 (2002).図2図2■アジドプローブとリンカーの構造).そこで,化合物1のアルキル鎖の末端にアジド基を導入した化合物2をアジドプローブとして合成した(図2図2■アジドプローブとリンカーの構造).アジドプローブ2のAOS阻害活性を調べたところ,化合物1と同等の阻害活性が示された.アジドプローブ2を用いて標的タンパク質を特異的に検出できることを確認するため,組換えAOSタンパク質を過剰発現させた大腸菌の粗タンパク質抽出液にアジドプローブ2を添加しインキュベートした.その後,アジドプローブ2とリンカー3をヒュスゲン環化付加反応で結合させ,さらに光照射することで,アジドプローブ2,リンカー3およびAOSの複合体を形成させた.本反応液をウェスタンブロッティングに供した結果,AOSに由来するシグナルのみが検出されたため,本手法を用いて特異的に標的タンパク質を検出できることが示された.さらに,アジドプローブ2とリンカー3をあらかじめヒュスゲン環化付加反応により結合させた化合物をプローブとして用いた場合,AOSに由来するバンドは検出されなかった.これは,プローブとなる化合物に大きな修飾基を導入することによりAOSとの相互作用が著しく減少したことが原因であると予想された.したがって,本手法はこれまでの光親和性標識法と比較し,より効率的に標的タンパク質を検出できる可能性が示唆された.

図2■アジドプローブとリンカーの構造

以上,生物活性化合物にアジド基のみを導入したプローブを用いる新規な標的タンパク質同定法の有効性について概説してきた.植物の生命現象はまだまだ未解明な部分が多いため,今後は本手法を用いて生物活性化合物の標的タンパク質の同定,さらに作用機序の解明に取り組んでいきたい.

Reference

1) M. Hashimoto: “Photoaffinity Labeling for Structural Probing within Protein”, ed. by Y. Hatanaka & M. Hashimoto, Springer Japan, 2017, p. 1–11

2) T. Anabuki, M. Tsukahara, H. Matsuura & K. Takahashi: Biosci. Biotechnol. Biochem., 80, 432 (2016).

3) H. C. Kolb, M. G. Finn & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 40, 2004 (2001).

4) V. V. Rostovtsev, L. G. Green, V. V. Fokin & K. B. Sharpless: Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2596 (2002).

5) F. Schaller: J. Exp. Bot., 52, 11 (2001).

6) K. Oh & N. Murofushi: Bioorg. Med. Chem., 10, 3707 (2002).