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Cas9ニッカーゼを用いたオフターゲットのない新しいゲノム編集法(CRISPR Nickaseシステム)の開発ゲノムのほぼ全域にわたる正確な編集

Kouichi Kuroda

黒田 浩一

京都大学大学院農学研究科

Mitsuyoshi Ueda

植田 充美

京都大学大学院農学研究科

Published: 2018-04-20

任意の塩基配列を改変するゲノム編集技術が開発され,バイオサイエンスの基礎研究から医薬研究,農林水産開発などの応用まで,さまざまな分野でその利用が急速に広がりつつある.初期段階ではZFNs(zinc finger nucleases)やTALENs(transcription activator-like effector nucleases)などの人工切断酵素が利用されてきたが,これらの作製には煩雑な操作を必要とするため個人での作製は困難であった.化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9(CRISPR-associated protein 9),およびそれと複合体を形成するsgRNA(single guide RNA)からなるCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)-Cas9が開発されると,作製が簡便なこともあり,ゲノム編集技術の中心を担うようになった(1)1) J. D. Sander & J. K. Joung: Nat. Biotechnol., 32, 347 (2014)..sgRNAはPAM(proto-spacer adaptor motif; 5′-NGG-3′, Nは任意の塩基)配列とそれに続く20塩基を認識してCas9が標的DNAに効率良く二本鎖切断を引き起こす.二本鎖切断はドナーDNAが存在する場合には相同組換え(HDR: homology-directed repair)によって修復され遺伝子ノックインが可能となり,存在しない場合には非相同末端結合(NHEJ: non-homologous end joining)を介して修復されるが,数塩基の挿入・欠損を伴った結果,遺伝子ノックアウトを可能とする.

しかし,CRISPR-Cas9システムにおいてsgRNAの認識配列の5′末端付近のミスマッチが許容的であるため,本来予想していないゲノム領域に2本鎖切断が誘導され,NHEJにより挿入・欠失変異が生じるオフターゲット作用が大きな問題である(2)2) K. A. Schaefer, W. H. Wu, D. F. Colgan, S. H. Tsang, A. G. Bassuk & V. B. Mahajan: Nat. Methods, 14, 547 (2017)..このオフターゲット作用を回避する方策として,Cas9のD10AおよびH840Aの変異によってヌクレアーゼ活性をなくしたdCas9に脱アミノ化酵素(cytidine deaminase)を融合し,2本鎖切断を伴わずに点変異を導入する方法も開発されているが(3, 4)3) A. C. Komor, Y. B. Kim, M. S. Packer, J. A. Zuris & D. R. Liu: Nature, 533, 420 (2016).4) K. Nishida, T. Arazoe, N. Yachie, S. Banno, M. Kakimoto, M. Tabata, M. Mochizuki, A. Miyabe, M. Araki, K. Y. Hara et al.: Science, 353, aaf8729 (2016).,C→Tへの塩基置換に限定され,遺伝子ノックインには適用できない.さらにCRISPR-Cas9システムによりsgRNA認識配列とPAM配列以外の塩基を編集する場合,相同組換え後もsgRNA認識配列がそのまま存在するため,Cas9/sgRNA複合体による再認識と切断および修復が繰り返され,最終的にはNHEJによって望まない塩基の挿入・欠失が生じてしまうという点も解決すべき大きな課題である(図1A図1■(A)CRISPR-Cas9システムと(B)CRISPR Nickaseシステムによるゲノム編集).そのため,CRISPR-Cas9システムが正確に編集できる領域はCas9/sgRNA複合体が認識できるPAM配列とそれに続く20塩基のみであり,酵母Saccharomyces cerevisiaeの場合,ゲノム中の68.4%に限定されることになる(5)5) K. A. Schaefer, W. H. Wu, D. F. Colgan, S. H. Tsang, A. G. Bassuk & V. B. Mahajan: Nat. Methods, 14, 547 (2017)..実際に,遺伝病にかかわる多種多様な一塩基多型(SNPs: single nucleotide polymorphisms)の存在も明らかになってきており,これらのSNPsをゲノム全域にわたって正確かつ自在に編集できるゲノム編集技術が望まれる.

図1■(A)CRISPR-Cas9システムと(B)CRISPR Nickaseシステムによるゲノム編集

Cas9は独立した2つのヌクレアーゼドメインを有し,DNA二本鎖を別々に切断するが,ヌクレアーゼドメインの一つに変異を導入して不活性化したものは片方のDNA鎖を切断するニッカーゼ活性を示す(Cas9ニッカーゼ).Cas9ニッカーゼの使い方としては,2種類のsgRNAをゲノムDNAの近接領域の両方のDNA鎖を認識するように設計し,近接する位置で別々の鎖にニックが入ったときに2本鎖切断を生じるダブルニッキング法が知られている(6, 7)6) P. Mali, J. Aach, P. B. Stranges, K. M. Esvelt, M. Moosburner, S. Kosuri, L. Yang & G. M. Church: Nat. Biotechnol., 31, 833 (2013).7) F. A. Ran, P. D. Hsu, C. Y. Lin, J. S. Gootenberg, S. Konermann, A. E. Trevino, S. A. Scott, A. Inoue, S. Matoba, Y. Zhang et al.: Cell, 154, 1380 (2013)..標的配列が2種類のsgRNAに認識されないと2本鎖切断が起こらないため特異性が向上し,オフターゲット作用を低減することが可能であるが,正確に編集できる領域はCRISPR-Cas9システムと同様に限定される.Cas9ニッカーゼにより生じるニックはHDRを誘導でき,さらにCRISPR-Cas9システムで見られるNHEJを介さずにほぼ正確に修復される.筆者らはこれらの特徴に着目し,Cas9ニッカーゼと1種類のsgRNAを用いたゲノム編集により,オフターゲット作用や正確に編集できる領域の制限といった問題を回避できるのではないかと考えた(CRISPR Nickaseシステム,図1B図1■(A)CRISPR-Cas9システムと(B)CRISPR Nickaseシステムによるゲノム編集(8)8) A. Satomura, R. Nishioka, H. Mori, K. Sato, K. Kuroda & M. Ueda: Sci. Rep., 7, 2095 (2017)..酵母S. cerevisiaeにおいてsgRNA認識配列およびPAM配列以外に変異を導入するドナーDNAとCas9ニッカーゼを用いてゲノム編集を行ったところ,ニックから50塩基離れた領域でもオフターゲット作用は見られず正確に編集することができた.ニックから50塩基以内を編集可能領域として計算すると,酵母のゲノムの97.2%をカバーでき,CRISPR-Cas9システムと比べて理論上約30%広範なゲノム領域を編集できることになる.また,CRISPR NickaseシステムはsgRNA認識配列と相同な配列がゲノム中に存在しても,ドナーDNAを介して標的配列のみを正確に編集することができた.ニック修復の正確性やニックによるHDR誘導効率は生物種によって異なるものの,CRISPR Nickaseシステムは酵母においてCRISPR-Cas9システムの欠点を補う有用なゲノム編集法として機能することがわかった.今後,酵母以外の生物種においても展開することで,さまざまな生物においてゲノム上のほぼすべてのSNPsを修復編集することや,逆に目的のSNPsを導入することも可能になると考えられ,ゲノム科学の発展に貢献していくことが期待される.

Reference

1) J. D. Sander & J. K. Joung: Nat. Biotechnol., 32, 347 (2014).

2) K. A. Schaefer, W. H. Wu, D. F. Colgan, S. H. Tsang, A. G. Bassuk & V. B. Mahajan: Nat. Methods, 14, 547 (2017).

3) A. C. Komor, Y. B. Kim, M. S. Packer, J. A. Zuris & D. R. Liu: Nature, 533, 420 (2016).

4) K. Nishida, T. Arazoe, N. Yachie, S. Banno, M. Kakimoto, M. Tabata, M. Mochizuki, A. Miyabe, M. Araki, K. Y. Hara et al.: Science, 353, aaf8729 (2016).

5) K. A. Schaefer, W. H. Wu, D. F. Colgan, S. H. Tsang, A. G. Bassuk & V. B. Mahajan: Nat. Methods, 14, 547 (2017).

6) P. Mali, J. Aach, P. B. Stranges, K. M. Esvelt, M. Moosburner, S. Kosuri, L. Yang & G. M. Church: Nat. Biotechnol., 31, 833 (2013).

7) F. A. Ran, P. D. Hsu, C. Y. Lin, J. S. Gootenberg, S. Konermann, A. E. Trevino, S. A. Scott, A. Inoue, S. Matoba, Y. Zhang et al.: Cell, 154, 1380 (2013).

8) A. Satomura, R. Nishioka, H. Mori, K. Sato, K. Kuroda & M. Ueda: Sci. Rep., 7, 2095 (2017).