解説

植物の通道細胞進化を転写因子から読み解く道管要素と師部要素の分化を制御するマスター転写因子の研究から

Evolution of Conducting Cells in Plants; a Perspective from Key Transcription Factors of Conducting Cell Differentiation: From Recent Studies on Master Regulatory Transcription Factors for the Differentiation of Tracheary Elements and Sieve Element

Nobuhiro Akiyoshi

秋吉 信宏

奈良先端科学技術大学院大学

Taku Demura

出村

奈良先端科学技術大学院大学

理化学研究所環境資源科学研究センター

Misato Ohtani

大谷 美沙都

奈良先端科学技術大学院大学

理化学研究所環境資源科学研究センター

Published: 2018-04-20

現在陸上で見られる生存圏の確立と繁栄は,古生代中期にあたる4億8千万年前から3億6千万年前の間に起こった,初期の植物による陸上進出に端を発する.陸上化の直後に起こったと考えられる形態と細胞機能の多様化を経て,陸上植物は水や栄養を効率的に運び,全身へと送り届けるための長距離輸送システムとして通導組織を発達させた.一般的に,通導組織の構成要素は,土壌中の水や無機塩類を運ぶ水輸送細胞(water-conducting cell)と,植物自身が作り出した炭水化物やアミノ酸を輸送する栄養輸送細胞(food-conducting cell)である(1~4)1) R. Ligrone, J. G. Duckett & K. S. Renzaglia: Ann. Bot. (Lond.), 109, 851 (2012).2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).3) J. A. Raven: Plant Cell Environ., 26, 73 (2003).4) A. J. E. van Bel: Plant Cell Environ., 26, 125 (2003)..水輸送細胞と栄養輸送細胞の輸送効率は,植物の生育や生産能力に直接的に影響を与える重要な要素であり,植物はその進化の過程でさまざまなタイプの通道細胞を作り出してきた.なかでも,最も成功した陸上植物の輸送システムが,現存する維管束植物がもつ,木部と師部から構成される維管束組織である.木部は管状要素,木部繊維,そして柔細胞を含む複合組織であり,水は管状要素が連なってできる仮道管あるいは道管によって輸送される(5~7)5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).6) M. Schuetz, R. Smith & B. Ellis: J. Exp. Bot., 64, 11 (2013).7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003)..師部組織もまた,師部要素,伴細胞,師部繊維,および柔細胞からなる複合的な組織である.師部要素は連結して師管を形成し,有機栄養素の輸送を担っている(2, 4)2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).4) A. J. E. van Bel: Plant Cell Environ., 26, 125 (2003)..近年のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)を中心とした分子遺伝学的研究の進展によって,維管束幹細胞から管状要素と師部要素への分化を制御する転写ネットワークが明らかになりつつある(8~10)8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013).9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).10) B. De Rybel, A. P. Mähönen, Y. Helariutta & D. Weijers: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 17, 30 (2016)..本稿では,管状要素と師部要素の分化制御機構について主に転写因子の視点から最新知見を概説し,植物の通道細胞の進化についてマスター制御転写因子を中心とした視点で論じたい.

維管束植物の通道組織

被子植物の水輸送細胞は管状要素と呼ばれ,特殊な肥厚パターンをもつ厚みをもった二次細胞壁(二次壁)によって特徴づけられる.管状要素の二次壁はフェノール性ポリマーであるリグニンが沈着しており,このため,木化(=リグニン化)細胞とも呼ばれている.管状要素の一種である仮道管要素は,維管束植物(シダ植物と種子植物)に広く見られ,細長く両端がとがった細胞である(5, 7)5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003).図1A図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).仮道管同士は壁孔と呼ばれる二次壁に空いた孔を通じてつながっており,これによって水が仮道管をまたいで輸送される.また,最も進化が進んだ植物グループと考えられている被子植物では,道管要素とよばれるタイプの管状要素が優先的である(5, 7)5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003).図1A図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).道管要素は仮道管と比較して細胞が太く短くなっている.道管要素は細胞の末端に形成される穿孔によってつながり,連続したパイプのような構造をとる.このため,道管の水輸送効率は,細胞間をまたいで水が輸送される仮道管に比べて非常に高い(5, 7)5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003).図1A図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).

図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子

(A, B)管状要素(A)および師部要素(B)の細胞学的特徴.詳細は本文を参照.(C, D)シロイヌナズナにおける道管要素分化の転写制御(C)および師部要素の転写制御(D).道管要素分化のマスター制御因子VNDは,二次細胞壁形成およびプログラム細胞死関連遺伝子を直接的あるいは間接的に活性化する.VNDの下流には,二次細胞壁形成の鍵転写因子MYBが存在している(C).師部要素分化のマスター制御因子APLは,転写因子NAC45/86を発現上昇を介して,エキソヌクレアーゼドメインタンパク質NAC45/86 DEPENDENT EXONUCLEASE-DOMAIN PROTEIN1(NEN1)の発現を誘導し,核崩壊を活性化する(D).

維管束植物の栄養輸送細胞は師部要素であり,細胞形態としては細長く,師部要素同士が師板と呼ばれる末端の有孔壁を通して連なり,師管を形成している(図1B図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).有機栄養は師板にある大きな孔(師孔と呼ばれる)を通して輸送される(2, 4)2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).4) A. J. E. van Bel: Plant Cell Environ., 26, 125 (2003)..師部要素はその分化過程において,自らの核(被子植物の場合に限る)や液胞などのほとんどの細胞内小器官を分解し,最終的には細胞膜に固定された小胞体,ミトコンドリア,色素体のみを残した細胞となる.師部要素は核と多くの細胞小器官を欠くため,師部母細胞から師部要素と同時に生み出される伴細胞の助けなしでは生きることができない.師部要素と伴細胞は原形質連絡を通して連絡しており,積極的に分子をやりとりしていることがわかっている(2)2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).

現存する陸上植物の通道細胞のバリエーション

現存の陸上植物には,さまざまなタイプの水輸送細胞と栄養輸送細胞を見いだすことができる.図2図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーションには,そのうちの代表的なものとして,コケ植物の一部がもつハイドロイド(図2A図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーション)と維管束植物(シダ,裸子,および被子植物)の維管束組織(図2B-E図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーション)の例を示している.化石記録からは,初期の陸上植物と思われる基部陸上植物の化石種は,現存のコケ植物のハイドロイドと類似した凹凸のない細胞壁と孔をもつシンプルな水輸送細胞をもっていたであろうことが示唆されている(1, 2, 11)1) R. Ligrone, J. G. Duckett & K. S. Renzaglia: Ann. Bot. (Lond.), 109, 851 (2012).2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).11) R. Ligrone, J. G. Ducket & K. S. Renzaglia: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 355, 795 (2000)..コケ植物のハイドロイドは,一般に後生的細胞壁修飾を受けた細長い死細胞であり,茎や葉脈の中心部に位置することが多い.図2AおよびF図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーションは,モデルコケ植物の一種であるヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の茎のハイドロイドを示しているが,ヒメツリガネゴケのハイドロイドは二次的に肥厚した細胞壁をもたず,孔も持たないことがわかっている(11, 12)11) R. Ligrone, J. G. Ducket & K. S. Renzaglia: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 355, 795 (2000).12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014)..これに対して,数種類の苔類は孔をもつ有孔ハイドロイドを有することが知られており,コケ植物内でのハイドロイドの細胞学的・形態的な多様性が明らかとなっている(11)11) R. Ligrone, J. G. Ducket & K. S. Renzaglia: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 355, 795 (2000)..また,一部のコケ植物(スギゴケ目)は,ハイドロイドに加え,レプトイドと呼ばれる原生師部要素に類似した細胞をもっている(13)13) R. J. Thomas, E. M. Schiele & D. C. Scheirer: Am. J. Bot., 75, 275 (1988)..レプトイドは細胞質の偏り,巨大な液胞の欠如,および細胞端での原形質連絡の頻出などの特徴をもっており,有機栄養が優先的にレプトイドを通して輸送されていることが示唆される(11)11) R. Ligrone, J. G. Ducket & K. S. Renzaglia: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 355, 795 (2000).

図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーション

ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)(A, F),カタヒバ(Selaginella involvens)(B, G),テーダマツ(Pinus taeda)(C, H),アスパラガス(Asparagus officinalis)(D, I),およびベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)(E, J)の横断切片.(F–J)は(A–E)の黒枠部分を拡大図.(A, F)はトルイジンブルーOを,(B–E, G–J)はアストラブルー(木化していない細胞を青く染める染色剤),サフラニン(木化した細胞を赤く染める染色剤)を用いて染色してある.h: ハイドロイド,x: 木部,p: 師部.スケール:100 µm (A, G–J), 200 µm (B–E), 50 µm (F).

コケ植物のハイドロイドに見られる細胞学的多様性に対して,維管束植物の水輸送細胞である管状要素では,木化した二次壁が沈着するという共通した特徴が観察される(図2B–E, G–J図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーション;リグニンを特異的に染色するサフラニンの赤色呈色).リグニンは,水輸送細胞の細胞壁を機械的に補強するとともに耐水性を付与することで,通水能力を向上させていると考えられている.さらにリグニンによる細胞壁の機械的強度の飛躍的向上によって,植物は垂直方向への大きな体支持力を獲得し,進化の過程で維管束植物の巨大化と生育地の拡大を可能にしたと考えられる(1, 2)1) R. Ligrone, J. G. Duckett & K. S. Renzaglia: Ann. Bot. (Lond.), 109, 851 (2012).2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).

維管束組織中の木部と師部の配置は植物種ごとに異なっているが(図2B–E図2■現存植物種で見られる通道組織のバリエーション),木部と師部は基本的に一組の維管束構造として発生することが知られている.換言すると,水輸送細胞と栄養輸送細胞がその発生プログラムを一部共有していることを意味している(8~10)8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013).9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).10) B. De Rybel, A. P. Mähönen, Y. Helariutta & D. Weijers: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 17, 30 (2016)..代表的な維管束の発生過程では,木部と師部の間に存在している形成層細胞(あるいは前形成層細胞)が木部と師部の前駆細胞を供給することから,維管束組織におけるいわゆる幹細胞(多様な細胞種に分化することが可能である娘細胞を生み出し,自己複製する細胞)であるとみなすことができる(8)8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013)..すなわち,水輸送細胞と栄養輸送細胞の進化の理解のためには,第一には維管束細胞分化の分子基盤について情報を得る必要がある.

シロイヌナズナ研究から見えてきた転写ネットワークを起点とした維管束細胞分化機構

近年のシロイヌナズナの分子遺伝学の進歩によって,維管束細胞の分化にかかわる多くの因子が明らかにされつつあり,特に,維管束細胞形成に機能する多くの転写因子が報告されている(2, 8~10)2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013).9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).10) B. De Rybel, A. P. Mähönen, Y. Helariutta & D. Weijers: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 17, 30 (2016)..維管束細胞は,前述のとおり維管束幹細胞から生み出されるが,維管束細胞形成は,その形成にとって重要な植物ホルモンであるオーキシンと,オーキシンシグナリングを制御する転写因子であるAUXIN/INDOLEACETIC ACID(Aux/IAA)群,およびAUXIN RESPONSE FACTOR(ARF)群によって制御されることがわかっている.(前)形成層領域でのオーキシンシグナリングは,クラスIII HOMEODOMAIN LEUCINE-ZIPPER(HD-ZIP III)転写因子をコードするAtHB8の発現により活性化される(14)14) S. Baima, M. Possenti, A. Matteucci, E. Wisman, M. M. Altamura, I. Ruberti & G. Morelli: Plant Physiol., 126, 643 (2001)..(前)形成層細胞の増殖はWUSCHEL-RELATED HOMEOBOX4(WOX4)とWOX14により制御されており,WOX4とWOX14は幹細胞数の維持に必須である(15, 16)15) Y. Hirakawa, Y. Kondo & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 2618 (2010).16) J. P. Etchells, C. M. Provost, L. Mishra & S. R. Turner: Development, 140, 2224 (2013)..さらに(前)形成層細胞の増殖はシグナルペプチドを介した細胞間コミュニケーションによっても制御されている(17, 18)17) Y. Hirakawa, H. Shinohara, Y. Kondo, A. Inoue, I. Nakanomyo, M. Ogawa, S. Sawa, K. Ohashi-Ito, Y. Matsubayashi & H. Fukuda: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 15208 (2008).18) J. P. Etchells & S. R. Turner: Development, 137, 767 (2010)..これらに加えて,維管束領域のサイズを決定する並層細胞分裂は,basic helix-loop-helix(bHLH)転写因子であるTARGETS OF MONOPTEROS5(TMO5)/bHLH32とLONSOME HIGHWAY(LHW)/bHLH156のヘテロダイマーによって制御されていることも明らかとなっている(19, 20)19) K. Ohashi-Ito & D. C. Bergmann: Development, 134, 2959 (2007).20) B. De Rybel, B. Möller, S. Yoshida, I. Grabowicz, P. Barbier de Reuille, S. Boeren, R. S. Smith, J. W. Borst & D. Weijers: Dev. Cell, 24, 426 (2013)..最近,bHLH転写因子SAC51-LIKE(SACL)がTMO5と相互作用することでLHWの機能を拮抗的に阻害し,TMO5-LHWヘテロダイマーの形成を阻害することが示された.さらにSACLはサーモスペルミンによって活性化されるが,木部では,木部特異的サーモスペルミン合成酵素ACAULIS5によってサーモスペルミンの積極的な合成が行われていることがわかっている(21, 22)21) H. Katayama, K. Iwamoto, Y. Kariya, T. Asakawa, T. Kan, H. Fukuda & K. Ohashi-Ito: Curr. Biol., 25, 3144 (2015).22) F. Vera-Sirera, B. De Rybel, C. Úrbez, E. Kouklas, M. Pesquera, J. C. Álvarez-Mahecha, E. G. Minguet, H. Tuominen, J. Carbonell, J. W. Borst et al.: Dev. Cell, 35, 432 (2015)..このことから,bHLHのフィードバックループによって維管束領域が制御されている可能性が示唆されている(21, 22)21) H. Katayama, K. Iwamoto, Y. Kariya, T. Asakawa, T. Kan, H. Fukuda & K. Ohashi-Ito: Curr. Biol., 25, 3144 (2015).22) F. Vera-Sirera, B. De Rybel, C. Úrbez, E. Kouklas, M. Pesquera, J. C. Álvarez-Mahecha, E. G. Minguet, H. Tuominen, J. Carbonell, J. W. Borst et al.: Dev. Cell, 35, 432 (2015).

(前)形成層細胞の娘細胞は,木部あるいは師部の前駆細胞へと分化するが,娘細胞が木部系列に分化するのか,師部系列に分化するのか,その運命決定に関する分子機構はよくわかっていない.いくつかの研究結果からは,娘細胞の運命決定は木部前駆細胞と師部前駆細胞の間の拮抗的作用によって調節されている可能性が示唆されている.たとえば,機能的なMYB-coiled coil(CC)タイプ転写因子であるALTERED PHLOEM DEVELOPMENT(APL)を欠損したaltered phloem developmentapl)変異体では,師部要素と伴細胞が形成されないことから,APLは師部分化のマスター制御因子であると考えられているが(図1D図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子),このapl変異体では,通常は師部細胞が発生する領域に道管様細胞が形成される(23)23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003)..すなわち,APLは師部細胞分化の正の制御に加えて,木部細胞分化の抑制に機能していると考えられる(8, 9, 23)8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013).9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003).

木部と師部のどちらの細胞系列になるのか,その運命決定が行われた後,さらに複数のステップを経て,輸送細胞分化が始まる.NAC転写因子VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN1(VND1)~VND7は,シロイヌナズナにおける道管要素分化のマスター転写制御因子群として単離・同定された転写因子ファミリーである(図1C図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子(24~26)24) M. Kubo, M. Udagawa, N. Nishikubo, G. Horiguchi, M. Yamaguchi, J. Ito, T. Mimura, H. Fukuda & T. Demura: Genes Dev., 19, 1855 (2005).25) M. Yamaguchi, M. Kubo, H. Fukuda & T. Demura: Plant J., 55, 652 (2008).26) H. Endo, M. Yamaguchi, T. Tamura, Y. Nakano, N. Nishikubo, A. Yoneda, K. Kato, M. Kubo, S. Kajita, Y. Katayama et al.: Plant Cell Physiol., 56, 242 (2015).VND遺伝子の過剰発現によって,二次壁沈着とプログラム細胞死を特徴とする道管要素分化が異所的に誘導されることから,VNDタンパク質は水輸送細胞分化に必要な分化プログラムの誘導活性をもっていることが示された(24, 26~28)24) M. Kubo, M. Udagawa, N. Nishikubo, G. Horiguchi, M. Yamaguchi, J. Ito, T. Mimura, H. Fukuda & T. Demura: Genes Dev., 19, 1855 (2005).26) H. Endo, M. Yamaguchi, T. Tamura, Y. Nakano, N. Nishikubo, A. Yoneda, K. Kato, M. Kubo, S. Kajita, Y. Katayama et al.: Plant Cell Physiol., 56, 242 (2015).27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015).28) J. Zhou, R. Zhong & Z. H. Ye: PLOS ONE, 9, e105726 (2014)..さらに,VNDタンパク質の直接制御標的遺伝子として,二次壁形成およびプログラム細胞死に関連した遺伝子群が多く同定された(29~31)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011)..この中には,二次壁生合成の鍵制御因子であるMYB46とMYB83を含むMYB転写因子が含まれていた(27, 32~35)27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015).32) R. Zhong, E. A. Richardson & Z. H. Ye: Plant Cell, 19, 2776 (2007).33) J. H. Ko, W. C. Kim & K. H. Han: Plant J., 60, 649 (2009).34) R. L. McCarthy, R. Zhong & Z. H. Ye: Plant Cell Physiol., 50, 1950 (2009).35) J. Grima-Pettenati, M. Soler, E. Camargom & H. Wang: Advances in botanical research, Vol. 61, Burlington: Academic Press, 2012, pp. 173–218..近年の比較植物ゲノム学と分子生物学的研究は,水輸送細胞形成の核であるNAC–MYBを起点とした転写ネットワークの大枠が,陸上植物の中で進化的に保存されてきたことを強く示唆している(12, 27)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015)..シロイヌナズナでは,VNDファミリーの姉妹群としてNAC SECONDARY WALL THICKENING PROMOTING FACTOR1(NST1),NST2, NST3/SECONDARY WALL-ASSOCIATED NAC DOMAIN PROTEIN 1(SND1)/ARABIDOPSIS NAC DOMAIN CONTAING PROTEIN012(ANAC012)(36~38)36) N. Mitsuda, M. Seki, K. Shinozaki & M. Ohme-Takagi: Plant Cell, 17, 2993 (2005).37) N. Mitsuda, A. Iwase, H. Yamamoto, M. Yoshida, M. Seki, K. Shinozaki & M. Ohme-Takagi: Plant Cell, 19, 270 (2007).38) R. Zhong, T. Demura & Z. H. Ye: Plant Cell, 18, 3158 (2006).,SOMBRERO(SMB),BERSKIN1(BRN1),およびBRN2(39, 40)39) V. Willemsen, M. Bauch, T. Bennett, A. Campilho, H. Wolkenfelt, J. Xu, J. Haseloff & B. Scheres: Dev. Cell, 15, 913 (2008).40) T. Bennett, A. van den Toorn, G. F. Sanchez-Perez, A. Campilho, V. Willemsen, B. Snel & B. Scheres: Plant Cell, 22, 640 (2010).が存在しているが,いずれも過剰発現によって道管様細胞を異所的に誘導しうることから,これらは類似の転写因子活性をもっていると考えられている.これらを含むNAC転写因子サブファミリーは,総称してVNS(VND, NST/SND, SMB-related protein)ファミリーと呼ばれており,その起源が基部陸上植物まで遡れることがわかっている(12, 27, 41)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015).41) M. Ohtani, N. Nishikubo, B. Xu, M. Yamaguchi, N. Mitsuda, N. Goué, F. Shi, M. Ohme-Takagi & T. Demura: Plant J., 67, 499 (2011).

道管要素分化では,最終的にプログラム細胞死が起こることから,異所的な道管分化に伴う異所的なプログラム細胞死を避けるため,生体内でVNSの発現や活性は厳密に制御されているはずである.これまでに,シロイヌナズナにおいて,VND遺伝子の発現を調節している転写因子が報告されている.その中には,クラスIII HD-Zipタンパク質のメンバーであるREV(26, 42~44)26) H. Endo, M. Yamaguchi, T. Tamura, Y. Nakano, N. Nishikubo, A. Yoneda, K. Kato, M. Kubo, S. Kajita, Y. Katayama et al.: Plant Cell Physiol., 56, 242 (2015).42) P. B. Talbert, H. T. Adler, D. W. Parks & L. Comai: Development, 121, 2723 (1995).43) A. Carlsbecker, J. Y. Lee, C. J. Roberts, J. Dettmer, S. Lehesranta, J. Zhou, O. Lindgren, M. A. Moreno-Risueno, A. Vatén, S. Thitamadee et al.: Nature, 465, 316 (2010).44) S. Miyashima, S. Koi, T. Hashimoto & K. Nakajima: Development, 138, 2303 (2011).,GAT A5やGAT A12といったGAT Aファミリーメンバー,そしてANAC075やSND2といったほかのNACタンパク質などが含まれている(26)26) H. Endo, M. Yamaguchi, T. Tamura, Y. Nakano, N. Nishikubo, A. Yoneda, K. Kato, M. Kubo, S. Kajita, Y. Katayama et al.: Plant Cell Physiol., 56, 242 (2015)..こうした上流因子としてLBD18/ASL20およびLBD30/ASL19があるが,その過剰発現はVND6およびVND7の発現上昇を引き起こして異所的二次壁形成を誘導する(45)45) T. Soyano, S. Thitamadee, Y. Machida & N. H. Chua: Plant Cell, 20, 3359 (2008).LBD18/ASL20およびLBD30/ASL19は,オーキシンに加えて,VND6およびVND7によって発現が誘導されることもわかっている(45)45) T. Soyano, S. Thitamadee, Y. Machida & N. H. Chua: Plant Cell, 20, 3359 (2008)..また,LBD30/ASL19とその関連遺伝子LBD15/ASL11は,VND6・VND7の直接制御標的遺伝子である(29~31)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011)..以上から,前駆細胞がひとたび道管要素分化プログラムを開始すると,LBD/ASL転写因子群とオーキシンを介した正のフィードバックループによって,VND活性が効率的に増幅・誘導されるというモデルが提唱されている.

一方,師部要素では,MYB–CC転写因子APLが細胞分化開始の鍵制御因子として機能している(23)23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003).図1D図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).師部要素分化の過程では,細胞壁修飾,液胞や核を含む細胞内小器官の分解が起こる(2, 9, 46)2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014)..残念ながら,師部要素分化のこれら詳細な分子機構の情報はいまだ限定的であり,たとえばAPLの下流因子であるNAC転写因子AtNAC45およびAtNAC86は,エクソヌクレアーゼドメインタンパク質NAC45/86 DEPENDENT EXONUCLEASE-DOMAIN PROTEIN1の発現上昇を介して,核の分解を制御していることがわかっている(46)46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014).ものの,そのほかの関連因子については実験的証拠に乏しいのが現状である.トランスクリプトーム解析によって,apl変異体では多くの転写因子の発現が異常になっていることが示されたが(23)23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003).図3B図3■シロイヌナズナにおけるVNS (VND, NST, and SMB-related).(A)およびAPL(B)の下流制御標的遺伝子群に対するGene Ontology (GO) term解析),師部細胞分化の転写ネットワークの理解のためには,今後のさらなる研究が必要である.

図3■シロイヌナズナにおけるVNS (VND, NST, and SMB-related).(A)およびAPL(B)の下流制御標的遺伝子群に対するGene Ontology (GO) term解析

VNS下流制御標的遺伝子リスト29–31)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011).およびAPL下流制御標的遺伝子リスト(野生型とapl変異体のマイクロアレイデータ46)46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014).)を用いてGO term解析による遺伝子機能分類を行った.図で示した六角形の大きさは,各GO termに分類された遺伝子数を,赤色の程度は濃縮率に関する統計的数値を反映しており,赤色が濃いほどその遺伝子機能が下流制御標的遺伝子群に有意に含まれていることを示している.

通道細胞分化の2つの鍵プロセス:細胞壁修飾とプログラム細胞死

植物組織内では,水溶性の分子は,アポプラスト経路あるいはシンプラスト経路を介した水輸送経路を用いて植物細胞間を移動する.アポプラスト輸送とは,細胞壁を含む細胞外領域(アポプラスト領域)を介した輸送であり,シンプラスト輸送とは,原形質連絡によってつながれた細胞質領域を介した細胞間輸送である.アポプラスト輸送は受動的で速い水輸送である一方,シンプラスト輸送の輸送速度は比較的遅いものの,能動的な水輸送である.コケ植物のような比較的小さく単純な体制をもつ植物種では,アポプラスト輸送のみで,植物体全体の細胞活動を支えるための水と栄養の輸送を十分にまかなうことが可能である(7)7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003)..しかしながら,陸上進化の過程で起こった植物体のサイズと複雑さの増大に伴って,効率良く水や栄養を輸送するためのシンプラスト輸送システムとして,水輸送細胞と栄養輸送細胞が獲得され,進化してきたと考えられる.

水と栄養のシンプラスト輸送に特化した細胞の出現は,通道細胞に共通した2つの細胞学的特徴,すなわち細胞壁修飾およびプログラム細胞死を達成する,分子的発生プログラムの獲得と発達であるとみなすことができる.隣接細胞との間に孔を形成する細胞壁修飾は,連続したシンプラスト領域を形成するために必須であり(3~5)3) J. A. Raven: Plant Cell Environ., 26, 73 (2003).4) A. J. E. van Bel: Plant Cell Environ., 26, 125 (2003).5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).,プログラム細胞死により細胞内容物を一掃することは細胞の輸送能力を大幅に上昇させる(7)7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003)..上述のとおり,道管要素分化と師管要素分化のマスター制御転写因子VNDおよびAPLは,それぞれの細胞分化過程に必要な各種遺伝子の発現を誘導制御することで,細胞分化を引き起こすと考えられている(23, 24)23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003).24) M. Kubo, M. Udagawa, N. Nishikubo, G. Horiguchi, M. Yamaguchi, J. Ito, T. Mimura, H. Fukuda & T. Demura: Genes Dev., 19, 1855 (2005).図1C図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).そこで,道管要素分化と師管要素分化に共通している分子基盤について検討するため,VNS(VND, NST/SND, SMB-related protein; VNDとその姉妹群であるNSTおよびSMBファミリーを含む,よりワイドなタンパク質ファミリー)の下流制御標的遺伝子リスト(図3A図3■シロイヌナズナにおけるVNS (VND, NST, and SMB-related).(A)およびAPL(B)の下流制御標的遺伝子群に対するGene Ontology (GO) term解析,遺伝子リストは文献(29~31)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011).データを統合して作成)(29~31)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011).とAPLの予測下流制御標的遺伝子リスト(図3B図3■シロイヌナズナにおけるVNS (VND, NST, and SMB-related).(A)およびAPL(B)の下流制御標的遺伝子群に対するGene Ontology (GO) term解析,遺伝子リストは文献(46)46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014).に報告されているトランスクリプトームデータから取得)(46)46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014).に対して,Gene Ontology(GO)term解析(47, 48)47) M. Ashburner, C. A. Ball, J. A. Blake, D. Botstein, H. Butler, J. M. Cherry, A. P. Davis, K. Dolinski, S. S. Dwight, J. T. Eppig et al.; The Gene Ontology Consortium: Nat. Genet., 25, 25 (2000).48) Gene Ontology Consortium: Nucleic Acids Res., 43(D1), D1049 (2015).を行った.GO term解析からは,解析対象遺伝子リストにどういった機能の遺伝子群が多く含まれているのかを知ることができる.その結果,VNS下流遺伝子リストとAPL下流遺伝子リストの両方において,細胞壁代謝に関連した遺伝子が多く含まれていることがわかった.具体的には,「cell component」カテゴリーとしては「external encapsulating structure」, 「cell wall」,および「membrane」といったカテゴリーが,「molecular function」カテゴリーとしては「catalytic activity」,および「transferase activity」といったカテゴリーが,「biological process」カテゴリーとしては「carbohydrate metabolic process」が,それぞれ有意に多く含まれていた.今回のGO term解析では,細胞死関連遺伝子の有意な濃縮は見いだされなかった(図3図3■シロイヌナズナにおけるVNS (VND, NST, and SMB-related).(A)およびAPL(B)の下流制御標的遺伝子群に対するGene Ontology (GO) term解析)が,既に実験的にプログラム細胞死(および,関連のイベントである核崩壊)に重要な酵素をコードする遺伝子が,木部ではVNSによって,師部ではAPLにより制御されるAtNAC45およびAtNAC86によって,それぞれ直接的に発現誘導されることが報告されている(29~31, 46)29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011).46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014)..すなわち,以上の一連の結果から,道管要素分化と師管要素分化では,「マスター制御転写因子による細胞壁修飾とプログラム細胞死に関連する遺伝子の転写活性化」という共通の分子機構が存在していると考えられる.

通道細胞分化のマスター制御転写因子の分子進化

上に述べたとおり,シロイヌナズナ分子生物学的研究の進展によって,通道細胞分化の転写ネットワークが解明されつつある.では,陸上植物間で広くこうした制御ネットワークは保存されているのだろうか?複数植物種の比較トランスクリプトーム解析からは,木部トランスクリプトームは植物体全体のトランスクリプトームと比べて,より保存性が高いことが報告された(49)49) X. Li, H. X. Wu & S. G. Southerton: BMC Evol. Biol., 10, 190 (2010)..つまり,少なくとも維管束植物系統においては,共通祖先型の木部トランスクリプトームが存在しており,その進化によって,現在見られるような木部のバリエーションが生み出されてきたという流れを想定できる.この想定からは,2つのさらなる疑問が導かれる.一つには,植物通道細胞の進化的変遷は転写ネットワークの変遷として説明できるのかという問題である.さらに,2つ目として,水輸送細胞と栄養輸送細胞の獲得は,管状要素と師部要素のマスター制御転写因子,すなわちVNSおよびAPLの祖先型遺伝子の誕生に端を発しているのか,という点も重要な問いである.

VNSタンパク質はNACドメイン転写因子ファミリーに属している.このファミリーではタンパク質のN末端にNACドメインと呼ばれる領域が高度に保存されているが,このNACドメインは核局在,DNA結合,ダイマー形成に関与していることが知られている(50)50) A. N. Olsen, H. A. Ernst, L. L. Leggio & K. Skriver: Trends Plant Sci., 10, 79 (2005)..NAC転写因子は,シロイヌナズナ(51)51) H. Ooka, K. Satoh, K. Doi, T. Nagata, Y. Otomo, K. Murakami, K. Matsubara, N. Osato, J. Kawai, P. Carninci et al.: DNA Res., 10, 239 (2003).,イネ(Oryza sativa(51, 52)51) H. Ooka, K. Satoh, K. Doi, T. Nagata, Y. Otomo, K. Murakami, K. Matsubara, N. Osato, J. Kawai, P. Carninci et al.: DNA Res., 10, 239 (2003).52) M. Nuruzzaman, R. Manimekalai, A. M. Sharoni, K. Satoh, H. Kondoh, H. Ooka & S. Kikuchi: Gene, 465, 30 (2010).,ポプラ(Poplus trichocarpha(53)53) R. Hu, G. Qi, Y. Kong, D. Kong, Q. Gao & G. Zhou: BMC Plant Biol., 10, 145 (2010).,およびユーカリ(Eucalyptus grandis(54)54) S. G. Hussey, M. N. Saïdi, C. A. Hefer, A. A. Myburg & J. Grima-Pettenati: New Phytol., 206, 1337 (2015).において,それぞれ100以上の巨大な遺伝子ファミリーを形成している遺伝子群である.かつてはNAC転写因子は陸上植物特異的ファミリーであると考えられていたが,近年充実してきた藻類のゲノムおよびトランスクリプトームデータの解析によって,車軸藻類にもNACタンパク質が存在することが示され(図4図4■代表的な植物種におけるNACドメインタンパク質とMYB-CCタンパク質の推定個数比較),NACタンパク質の起源は,今のところ多細胞水生植物種にまでさかのぼれることがわかっている.私たちが行ったNACタンパク質の分子系統解析でも,VNSグループはゼニゴケ(Marchantia polymorpha),ヒメツリガネゴケ,イヌカタヒバ(Selaginella moellendorffii),オウシュウトウヒ(Picea abies),アンボレラ(Amborella trichopoda),およびシロイヌナズナなどの陸上植物だけでなく,車軸藻類の緑藻コレオケーテ(Coleochaete orbicularis)にも存在していることがわかった(55)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).図5図5■NACタンパク質の分子系統樹の簡略図).こうした結果から,VNSグループの出現は,おそらく初期陸上植物種が進化する直前か,あるいはほぼ同時に起きたイベントであったと考えられる.また,NACタンパク質の分子系統解析からは,CUC, ATAF, LOV1およびFEZの3つのサブグループの確立は陸上植物の出現に関連して起こったであろうこと,その一方で,NAC2とVNSサブグループは植物の陸上進出の前から存在していたであろうことが示唆されている(55)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).図5図5■NACタンパク質の分子系統樹の簡略図).

図4■代表的な植物種におけるNACドメインタンパク質とMYB-CCタンパク質の推定個数比較

アスタリスクがついた植物種(Nitella mirabilisおよびMesostigma viride71)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Spirogyra pratensisおよびColeochaete orbicularis72)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).)はトランスクリプトームデータを,アスタリスクがついていない植物種(Arabidopsis thaliana66)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Amborella trichopoda67)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Picea abies68)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Selaginella moellendorffii69)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Physcomitrella patens70)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Marchantia polymorpha55)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Klebsormidium flaccidum73)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Chlamydomonas reinhardtii76)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Ostreococcus lucimarinus74)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).; Ostreococcus tauri75)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).)はゲノム配列情報を,それぞれ参照して遺伝子数を算出している.

図5■NACタンパク質の分子系統樹の簡略図

スケール(0.2)は系統樹に作成した配列のうち,20%に変化があることを示している.系統樹解析の結果,名前を記した6つのNACサブグループについてはゼニゴケ(Marchantia polymorpha)のゲノムにも遺伝子が見つかり,さらに2つのサブグループ(NAC2とVNS)は藻類にも遺伝子が見つかった.この結果は,NAC2とVNSは起源が古いNACサブグループであり,その獲得が植物の陸上化前に遡れる可能性を示唆している.

師部要素のマスター制御因子であるAPLとその姉妹遺伝子の進化については,いまだはっきりしていない.APLタンパク質は緑色植物に特異的であると考えられているMYB-CC転写因子ファミリーに属している(56, 57)56) N. Baranowskij, C. Frohberg, S. Prat & L. Willmitzer: EMBO J., 13, 5383 (1994).57) A. Rose, I. Meier & U. Wienand: Plant J., 20, 641 (1999)..MYB-CC転写因子遺伝子は緑藻でも見つかっている(図4図4■代表的な植物種におけるNACドメインタンパク質とMYB-CCタンパク質の推定個数比較(58)58) V. Rubio, F. Linhares, R. Solano, A. C. Martin, J. Iglesias & A. Leyva: Genes Dev., 15, 2122 (2001).ため,この遺伝子ファミリーの出現はNAC遺伝子ファミリーの出現に先んじていると考えられる.しかし,NACファミリーとは異なり,MYB–CCファミリーは植物進化の過程で遺伝子数を大きく増やすことはなかった.今回,MYB–CCタンパク質の系統樹作成を試みたが,ファミリー間に保存されたアミノ酸配列の短さに起因する技術的問題から,解像度の高い系統樹を作成することができなかった.Rubio et al.(58)58) V. Rubio, F. Linhares, R. Solano, A. C. Martin, J. Iglesias & A. Leyva: Genes Dev., 15, 2122 (2001).によると,シロイヌナズナから5種,タバコ(Nicotiana tabacum)から1種,アイスプラント(Mesembryanthemum crystallinum)から1種,およびクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)から1種,合計18種のMYB–CCタンパク質を用いたシンプルな系統樹解析を行った結果,APLはシロイヌナズナMYB-CCタンパク質のみが含まれるグループIIに属することが示された.これは,APLは陸上植物の系統分岐がかなり進んだ後に出現したことを示唆する(9)9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a)..グループIに属するクラミドモナスのCrPSR1とシロイヌナズナのAtPHR1は,リン酸飢餓のシグナリングにおいて機能することが知られており(57)57) A. Rose, I. Meier & U. Wienand: Plant J., 20, 641 (1999).,また,グループIIに属するMYB-RELATED PROTEIN 1MYR1)およびMYR2は,植物ホルモンであるジベレリン酸のレベル調節を通して,光強度の減少による花成と組織伸長の抑制を制御する(59)59) C. Zhao, A. Hanada, S. Yamaguchi, Y. Kamiya & E. P. Beers: Plant J., 66, 502 (2011)..APLとその近縁祖先の進化を考える上で,今後,ほかの植物種におけるMYB–CCタンパク質の分子機能,特にAPLとよく似たMYB–CCタンパク質の機能解析が期待される.

APLとは対照的に,VNSタンパク質の分子機能に関しては,多角的な調査が行われてきた(27)27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015)..その結果,二次壁合成とプログラム細胞死に関連した遺伝子を誘導する能力は,幅広い維管束植物のVNSタンパク質において保存されていることが示された(ポプラ(41, 60)41) M. Ohtani, N. Nishikubo, B. Xu, M. Yamaguchi, N. Mitsuda, N. Goué, F. Shi, M. Ohme-Takagi & T. Demura: Plant J., 67, 499 (2011).60) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Plant Physiol., 152, 1044 (2010b).,単子葉植物(61~63)61) R. Zhong, C. Lee, R. L. McCarthy, C. K. Reeves, E. G. Jones & Z. H. Ye: Plant Cell Physiol., 52, 1856 (2011).62) E. R. Valdivia, M. T. Herrera, C. Gianzo, J. Fidalgo, G. Revilla, I. Zarra & J. Sampedro: J. Exp. Bot., 64, 1333 (2013).63) K. Yoshida, S. Sakamoto, T. Kawai, Y. Kobayashi, K. Sato, Y. Ichinose, K. Yaoi, M. Akiyoshi-Endo, H. Sato, T. Takamizo et al.: Front. Plant Sci., 4, 383 (2013).(41, 60~63)41) M. Ohtani, N. Nishikubo, B. Xu, M. Yamaguchi, N. Mitsuda, N. Goué, F. Shi, M. Ohme-Takagi & T. Demura: Plant J., 67, 499 (2011).60) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Plant Physiol., 152, 1044 (2010b).61) R. Zhong, C. Lee, R. L. McCarthy, C. K. Reeves, E. G. Jones & Z. H. Ye: Plant Cell Physiol., 52, 1856 (2011).62) E. R. Valdivia, M. T. Herrera, C. Gianzo, J. Fidalgo, G. Revilla, I. Zarra & J. Sampedro: J. Exp. Bot., 64, 1333 (2013).63) K. Yoshida, S. Sakamoto, T. Kawai, Y. Kobayashi, K. Sato, Y. Ichinose, K. Yaoi, M. Akiyoshi-Endo, H. Sato, T. Takamizo et al.: Front. Plant Sci., 4, 383 (2013)..また,筆者らは,VNSを起点とした転写制御がハイドロイドの形成過程でも機能していることを明らかにしている(12)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).図1図1■維管束植物の管状要素と師部要素とその制御転写因子).ヒメツリガネゴケには8個のVNS遺伝子が保存されているが,これらPpVNS遺伝子の変異体はハイドロイド形成に異常を示す.たとえば,ヒメツリガネゴケppvns4の変異体では茎のハイドロイド形成が起こらず,ppvns1 ppvns6 ppvns7の三重変異体では葉のハイドロイド形成が阻害される(12)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).PpVNS7遺伝子のヒメツリガネゴケ過剰発現体のトランスクリプトーム解析からは,PpVNS7がシロイヌナズナVNSの直接標的遺伝子である,MYB46, MYB83, MYB103といった転写因子のホモログ遺伝子や,セルロース生合成酵素遺伝子CesA,および細胞死関連ペプチダーゼ遺伝子XCPのホモログ遺伝子の発現を誘導することが示された(12)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014)..したがって,少なくともコケ植物と維管束植物の間の最も新しい共通祖先,つまり基部陸上植物は,水輸送細胞分化におけるVNS–MYBを起点としたコア転写制御スキームをすでに備えていたと考えられる.

以上の研究成果は,初期陸上植物において,祖先型の通道細胞の獲得が植物特異的な転写因子(NACやMYB–CC転写因子)の出現と結びついている可能性を示唆している.私たちは最近,裸子植物テーダマツ(Pinus taeda)を用いた研究から,裸子植物でもVNS転写ネットワーク制御が保存されていることを示す結果を得つつある.つまり,陸上植物はその進化の過程で,植物特異的転写因子を基盤とした転写ネットワークを変化・発展させることで水輸送細胞と栄養輸送細胞の多様性を生み出し,陸上環境への適応をなし遂げてきたと考えるのは妥当であろう.通道細胞分化を制御する転写ネットワークがどのような分子的変遷を経てきたのか,今後の詳細な解析が待たれる.

まとめと展望

ここ10年ほどの間に,維管束細胞形成の分子メカニズムに関する興味深い新知見が多く得られてきた.しかしながら,本稿で紹介できた知見はほんの一部であり,いまだ同定できていない維管束細胞形成の鍵因子も数多く存在すると考えられる.特に,師部発生の調節因子についてはさらなる探索が必要である.これまでの研究によって,APLは細胞分化プログラムの上流で機能し,その下流の転写因子が師管細胞分化の実際のさまざまな過程を制御していることが示唆されている(9, 21)9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).21) H. Katayama, K. Iwamoto, Y. Kariya, T. Asakawa, T. Kan, H. Fukuda & K. Ohashi-Ito: Curr. Biol., 25, 3144 (2015)..近年,シロイヌナズナの葉の細胞を維管束細胞に分化転換させるin vitro実験系が開発され,Vascular Cell Induction Culture System Using Arabidopsis Leaves(63)63) K. Yoshida, S. Sakamoto, T. Kawai, Y. Kobayashi, K. Sato, Y. Ichinose, K. Yaoi, M. Akiyoshi-Endo, H. Sato, T. Takamizo et al.: Front. Plant Sci., 4, 383 (2013).(VISUAL)と名づけられた.このVISUALを用いて,APLの上流で機能する制御因子の候補としてANAC020が同定されている(64)64) Y. Kondo, A. M. Nurani, C. Saito, Y. Ichihashi, M. Saito, K. Yamazaki, N. Mitsuda, M. Ohme-Takagi & H. Fukuda: Plant Cell, 28, 1250 (2016)..今後,ANAC020の機能解析や新規関連転写因子の同定が進めば,栄養輸送細胞形成におけるAPLを基軸とした転写制御ネットワークの解明が進むだろう.

通道細胞進化における未解明な疑問の一つは,通道細胞といった特殊化した細胞の発生を制御する分子プログラムの起源である.ヒメツリガネゴケにおいて,PpVNS7の異所的な過剰発現は第一義的にプログラム細胞死を誘導する(12)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014)..この現象は初期の陸上植物におけるVNSの主要な機能がプログラム細胞死の誘導であったことを示唆する(12)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014)..基部陸上植物苔類のモデル植物であるゼニゴケの全ゲノム情報から,ゼニゴケのゲノム中に存在するVNSホモログは一つのみであることが示された(55)55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017)..これは,同じコケ植物に属するが,8つのVNSホモログをもち, VNS間で茎と葉のハイドロイド形成という機能分化があるヒメツリガネゴケ(12, 27)12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015).とは対照的である(図4, 5図4■代表的な植物種におけるNACドメインタンパク質とMYB-CCタンパク質の推定個数比較図5■NACタンパク質の分子系統樹の簡略図).ゼニゴケVNSホモログの数の少なさは,ゼニゴケがハイドロイドもレプトイドももたないシンプルな体制であることと関連があるのかもしれない.今後,VNSによる水輸送細胞分化制御の起源を明らかにするためには,ゼニゴケのVNSタンパク質の分子機能についてのさらなる解析が必要である.さらに,陸上植物進化の過程でおきた木部と師部からなる維管束システムの確立は,水,栄養素,代謝産物,およびシグナル低分子を効率よく,協調的に,かつ選択的に輸送することを可能にし,大きく複雑な体制をもつ植物体の出現をもたらしたと考えられる.この複雑な維管束システムの確立は,各要素細胞の分化を制御する因子群が,どのように一つのプログラムとして組み込まれてきたことによるのか? 今後の系統的分岐点にあたる複数の植物種を用いた比較ゲノム学と進化発生生物学の研究成果によって,こうした重要な疑問への回答への手掛かりが得られることを期待している(65)65) M. Ohtani, N. Akiyoshi, Y. Takenaka, R. Sano & T. Demura: J. Exp. Bot., 68, 17 (2017).

Reference

1) R. Ligrone, J. G. Duckett & K. S. Renzaglia: Ann. Bot. (Lond.), 109, 851 (2012).

2) W. J. Lucas, A. Groover, R. Lichtenberger, K. Furuta, S. R. Yadav, Y. Helariutta, X. Q. He, H. Fukuda, J. Kang, S. M. Brady et al.: J. Integr. Plant Biol., 55, 294 (2013).

3) J. A. Raven: Plant Cell Environ., 26, 73 (2003).

4) A. J. E. van Bel: Plant Cell Environ., 26, 125 (2003).

5) Myburg AA, Sederoff RR: eLS (2001).

6) M. Schuetz, R. Smith & B. Ellis: J. Exp. Bot., 64, 11 (2013).

7) J. S. Sperry: Int. J. Plant Sci., 164(S3), S115 (2003).

8) S. Miyashima, J. Sebastian, J. Y. Lee & Y. Helariutta: EMBO J., 32, 178 (2013).

9) K. M. Furuta, E. Hellmann & Y. Helariutta: Annu. Rev. Plant Biol., 65, 607 (2014a).

10) B. De Rybel, A. P. Mähönen, Y. Helariutta & D. Weijers: Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 17, 30 (2016).

11) R. Ligrone, J. G. Ducket & K. S. Renzaglia: Philos. Trans. R. Soc. Lond. B Biol. Sci., 355, 795 (2000).

12) B. Xu, M. Ohtani, M. Yamaguchi, K. Toyooka, M. Wakazaki, M. Sato, M. Kubo, Y. Nakano, R. Sano, Y. Hiwatashi et al.: Science, 343, 1505 (2014).

13) R. J. Thomas, E. M. Schiele & D. C. Scheirer: Am. J. Bot., 75, 275 (1988).

14) S. Baima, M. Possenti, A. Matteucci, E. Wisman, M. M. Altamura, I. Ruberti & G. Morelli: Plant Physiol., 126, 643 (2001).

15) Y. Hirakawa, Y. Kondo & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 2618 (2010).

16) J. P. Etchells, C. M. Provost, L. Mishra & S. R. Turner: Development, 140, 2224 (2013).

17) Y. Hirakawa, H. Shinohara, Y. Kondo, A. Inoue, I. Nakanomyo, M. Ogawa, S. Sawa, K. Ohashi-Ito, Y. Matsubayashi & H. Fukuda: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 15208 (2008).

18) J. P. Etchells & S. R. Turner: Development, 137, 767 (2010).

19) K. Ohashi-Ito & D. C. Bergmann: Development, 134, 2959 (2007).

20) B. De Rybel, B. Möller, S. Yoshida, I. Grabowicz, P. Barbier de Reuille, S. Boeren, R. S. Smith, J. W. Borst & D. Weijers: Dev. Cell, 24, 426 (2013).

21) H. Katayama, K. Iwamoto, Y. Kariya, T. Asakawa, T. Kan, H. Fukuda & K. Ohashi-Ito: Curr. Biol., 25, 3144 (2015).

22) F. Vera-Sirera, B. De Rybel, C. Úrbez, E. Kouklas, M. Pesquera, J. C. Álvarez-Mahecha, E. G. Minguet, H. Tuominen, J. Carbonell, J. W. Borst et al.: Dev. Cell, 35, 432 (2015).

23) M. Bonke, S. Thitamadee, A. P. Mähönen, M. T. Hauser & Y. Helariutta: Nature, 426, 181 (2003).

24) M. Kubo, M. Udagawa, N. Nishikubo, G. Horiguchi, M. Yamaguchi, J. Ito, T. Mimura, H. Fukuda & T. Demura: Genes Dev., 19, 1855 (2005).

25) M. Yamaguchi, M. Kubo, H. Fukuda & T. Demura: Plant J., 55, 652 (2008).

26) H. Endo, M. Yamaguchi, T. Tamura, Y. Nakano, N. Nishikubo, A. Yoneda, K. Kato, M. Kubo, S. Kajita, Y. Katayama et al.: Plant Cell Physiol., 56, 242 (2015).

27) Y. Nakano, M. Yamaguchi, H. Endo, N. A. Rejab & M. Ohtani: Front. Plant Sci., 6, 288 (2015).

28) J. Zhou, R. Zhong & Z. H. Ye: PLOS ONE, 9, e105726 (2014).

29) K. Ohashi-Ito, Y. Oda & H. Fukuda: Plant Cell, 22, 3461 (2010).

30) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Mol. Plant, 3, 1087 (2010).

31) M. Yamaguchi, N. Mitsuda, M. Ohtani, M. Ohme-Takagi, K. Kato & T. Demura: Plant J., 66, 579 (2011).

32) R. Zhong, E. A. Richardson & Z. H. Ye: Plant Cell, 19, 2776 (2007).

33) J. H. Ko, W. C. Kim & K. H. Han: Plant J., 60, 649 (2009).

34) R. L. McCarthy, R. Zhong & Z. H. Ye: Plant Cell Physiol., 50, 1950 (2009).

35) J. Grima-Pettenati, M. Soler, E. Camargom & H. Wang: Advances in botanical research, Vol. 61, Burlington: Academic Press, 2012, pp. 173–218.

36) N. Mitsuda, M. Seki, K. Shinozaki & M. Ohme-Takagi: Plant Cell, 17, 2993 (2005).

37) N. Mitsuda, A. Iwase, H. Yamamoto, M. Yoshida, M. Seki, K. Shinozaki & M. Ohme-Takagi: Plant Cell, 19, 270 (2007).

38) R. Zhong, T. Demura & Z. H. Ye: Plant Cell, 18, 3158 (2006).

39) V. Willemsen, M. Bauch, T. Bennett, A. Campilho, H. Wolkenfelt, J. Xu, J. Haseloff & B. Scheres: Dev. Cell, 15, 913 (2008).

40) T. Bennett, A. van den Toorn, G. F. Sanchez-Perez, A. Campilho, V. Willemsen, B. Snel & B. Scheres: Plant Cell, 22, 640 (2010).

41) M. Ohtani, N. Nishikubo, B. Xu, M. Yamaguchi, N. Mitsuda, N. Goué, F. Shi, M. Ohme-Takagi & T. Demura: Plant J., 67, 499 (2011).

42) P. B. Talbert, H. T. Adler, D. W. Parks & L. Comai: Development, 121, 2723 (1995).

43) A. Carlsbecker, J. Y. Lee, C. J. Roberts, J. Dettmer, S. Lehesranta, J. Zhou, O. Lindgren, M. A. Moreno-Risueno, A. Vatén, S. Thitamadee et al.: Nature, 465, 316 (2010).

44) S. Miyashima, S. Koi, T. Hashimoto & K. Nakajima: Development, 138, 2303 (2011).

45) T. Soyano, S. Thitamadee, Y. Machida & N. H. Chua: Plant Cell, 20, 3359 (2008).

46) K. M. Furuta, S. R. Yadav, S. Lehesranta, I. Belevich, S. Miyashima, J. O. Heo, A. Vatén, O. Lindgren, B. De Rybel, G. Van Isterdael et al.: Science, 345, 933 (2014).

47) M. Ashburner, C. A. Ball, J. A. Blake, D. Botstein, H. Butler, J. M. Cherry, A. P. Davis, K. Dolinski, S. S. Dwight, J. T. Eppig et al.; The Gene Ontology Consortium: Nat. Genet., 25, 25 (2000).

48) Gene Ontology Consortium: Nucleic Acids Res., 43(D1), D1049 (2015).

49) X. Li, H. X. Wu & S. G. Southerton: BMC Evol. Biol., 10, 190 (2010).

50) A. N. Olsen, H. A. Ernst, L. L. Leggio & K. Skriver: Trends Plant Sci., 10, 79 (2005).

51) H. Ooka, K. Satoh, K. Doi, T. Nagata, Y. Otomo, K. Murakami, K. Matsubara, N. Osato, J. Kawai, P. Carninci et al.: DNA Res., 10, 239 (2003).

52) M. Nuruzzaman, R. Manimekalai, A. M. Sharoni, K. Satoh, H. Kondoh, H. Ooka & S. Kikuchi: Gene, 465, 30 (2010).

53) R. Hu, G. Qi, Y. Kong, D. Kong, Q. Gao & G. Zhou: BMC Plant Biol., 10, 145 (2010).

54) S. G. Hussey, M. N. Saïdi, C. A. Hefer, A. A. Myburg & J. Grima-Pettenati: New Phytol., 206, 1337 (2015).

55) J. L. Bowman, T. Kohchi, K. T. Yamato, J. Jenkins, S. Shu, K. Ishizaki, S. Yamaoka, R. Nishihama, Y. Nakamura, F. Berger et al.: Cell, 171, 287 (2017).

56) N. Baranowskij, C. Frohberg, S. Prat & L. Willmitzer: EMBO J., 13, 5383 (1994).

57) A. Rose, I. Meier & U. Wienand: Plant J., 20, 641 (1999).

58) V. Rubio, F. Linhares, R. Solano, A. C. Martin, J. Iglesias & A. Leyva: Genes Dev., 15, 2122 (2001).

59) C. Zhao, A. Hanada, S. Yamaguchi, Y. Kamiya & E. P. Beers: Plant J., 66, 502 (2011).

60) R. Zhong, C. Lee & Z. H. Ye: Plant Physiol., 152, 1044 (2010b).

61) R. Zhong, C. Lee, R. L. McCarthy, C. K. Reeves, E. G. Jones & Z. H. Ye: Plant Cell Physiol., 52, 1856 (2011).

62) E. R. Valdivia, M. T. Herrera, C. Gianzo, J. Fidalgo, G. Revilla, I. Zarra & J. Sampedro: J. Exp. Bot., 64, 1333 (2013).

63) K. Yoshida, S. Sakamoto, T. Kawai, Y. Kobayashi, K. Sato, Y. Ichinose, K. Yaoi, M. Akiyoshi-Endo, H. Sato, T. Takamizo et al.: Front. Plant Sci., 4, 383 (2013).

64) Y. Kondo, A. M. Nurani, C. Saito, Y. Ichihashi, M. Saito, K. Yamazaki, N. Mitsuda, M. Ohme-Takagi & H. Fukuda: Plant Cell, 28, 1250 (2016).

65) M. Ohtani, N. Akiyoshi, Y. Takenaka, R. Sano & T. Demura: J. Exp. Bot., 68, 17 (2017).

66) P. Lamesch, T. Z. Berardini, D. Li, D. Swarbreck, C. Wilks, R. Sasidharan, R. Muller, K. Dreher, D. L. Alexander, M. Garcia-Hernandez et al.: Nucleic Acids Res., 40(D1), D1202 (2012).

67) Amborella Genome Project: Science, 342, 1241089 (2013).

68) B. Nystedt, N. R. Street, A. Wetterbom, A. Zuccolo, Y. C. Lin, D. G. Scofield, F. Vezzi, N. Delhomme, S. Giacomello, A. Alexeyenko et al.: Nature, 497, 579 (2013).

69) J. A. Banks, T. Nishiyama, M. Hasebe, J. L. Bowman, M. Gribskov, C. dePamphilis, V. A. Albert, N. Aono, T. Aoyama, B. A. Ambrose et al.: Science, 332, 960 (2011).

70) S. A. Rensing, D. Lang, A. D. Zimmer, A. Terry, A. Salamov, H. Shapiro, T. Nishiyama, P. F. Perroud, E. A. Lindquist, Y. Kamisugi et al.: Science, 319, 64 (2008).

71) C. Ju, B. Van de Poel, E. D. Cooper, J. H. Thierer, T. R. Gibbons, C. F. Delwiche & C. Chang: Nat. Plants, 1, 14004 (2015).

72) R. E. Timme & C. F. Delwiche: BMC Plant Biol., 10, 96 (2010).

73) K. Hori, F. Maruyama, T. Fujisawa, T. Togashi, N. Yamamoto, M. Seo, S. Sato, T. Yamada, H. Mori, N. Tajima et al.: Nat. Commun., 5, 3978 (2014).

74) B. Palenik, J. Grimwood, A. Aerts, P. Rouzé, A. Salamov, N. Putnam, C. Dupont, R. Jorgensen, E. Derelle, S. Rombauts et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 104, 7705 (2007).

75) E. Derelle, C. Ferraz, S. Rombauts, P. Rouzé, A. Z. Worden, S. Robbens, F. Partensky, S. Degroeve, S. Echeynié, R. Cooke et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 11647 (2006).

76) S. S. Merchant, S. E. Prochnik, O. Vallon, E. H. Harris, S. J. Karpowicz, G. B. Witman, A. Terry, A. Salamov, L. K. Fritz-Laylin, L. Maréchal-Drouard et al.: Science, 318, 245 (2007).