プロダクトイノベーション

腸内フローラ解析システムYakult Intestinal Flora-SCAN(YIF-SCAN)の開発と応用定量的観点から見たヒト腸内フローラ

Hirokazu Tsuji

浩和

(株)ヤクルト本社中央研究所基盤研究所

Published: 2018-04-20

はじめに

ヒトの大腸内には約1,000種にも及ぶ細菌が糞便1g当たり1011個レベルで棲息し,極めて複雑な微生物生態系を形成している.この生態系は,腸内細菌叢や腸内フローラと呼ばれ,栄養学的,免疫学的,臨床微生物学的な意義はもちろんのこと,脳腸関連などヒトの健康の全般にわたってとても重要な役割を果たしている(1)1) V. Tremaroli & F. Bäckhed: Nature, 489, 242 (2012)..したがって,腸内細菌叢を正確に把握することは,ヒトの生涯にわたる健康を維持・増進するうえで非常に重要と考えられる.

腸内細菌叢の解析には,長きにわたって培養法が用いられてきたが,この方法には,多大な労力と時間を必要とする,培養できない菌株が存在する,生物・生化学性状を指標とした同定は,現在の16S ribosomal RNA(rRNA)遺伝子配列を指標とした分類体系とは必ずしも一致しない,といった問題が存在した.この問題を克服するため,近年,さまざまな分子生物学的方法による腸内細菌叢の解析手法が開発され,特に最近では次世代シークエンサー(NGS)による腸内細菌解析技術の進展が目覚ましい.この手法はNGSを用いた16S rRNA遺伝子アンプリコン解析とも呼ばれ,未培養な細菌を含む腸内細菌叢の構成を網羅的に調べるうえで,今や必須な技術となっている.このNGSを用いた解析は,腸内に生息する細菌の存在比を大まかに把握するのに適しているが,一方で定量的な観点に乏しく,定量的な意味で“多い, 少ない”や“増えた, 減った”と言うことはできない.また,対象とする細菌は最優勢に存在するものに限られ,低菌数だが宿主の健康に重要な意味をもつ細菌群,たとえば乳酸桿菌(Lactobacillus),大腸菌群(Enterobacteriaseae),腸球菌(Enterococcus),ブドウ球菌(Staphylococcus),ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)など,をその検出感度の低さから正確に解析することは困難である.そこで,われわれは,迅速かつ操作がシンプルで定量性に優れ,再現性の高い方法である定量的PCR法の発展形として,より高感度な定量的RT(Reverse Transcription)PCR法を原理としたYakult Intestinal Flora-SCAN(YIF-SCAN:イフスキャン)を開発した(2, 3)2) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, K. Matsumoto, T. Takada & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 75, 1961 (2009).3) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, Y. Kado & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 73, 32 (2007)..本稿では,このYIF-SCANの原理について解説するとともに,この方法によって得られる定量的観点から見たヒト腸内細菌叢,そしてYIF-SCANの臨床応用の可能性について述べたい.

YIF-SCANの原理

YIF-SCANは,定量的PCR法に比べて100~1,000倍,1検体あたり数万リードを解読する16S rRNA遺伝子アンプリコン解析に比べると1,000~10,000倍の感度(便1 g当たり102–3個の微生物を検出可能)を有し,生きた菌の菌数を反映した定量値を得ることができる.この感度は,最適な選択培地を用いた際に得られる培養法の感度に匹敵する.一般にrRNA遺伝子は数~十数コピーが細菌ゲノムにコードされる.定量的PCRやNGSを用いた16S rRNA遺伝子アンプリコン解析などのDNAを標的とする手法では,この遺伝子を標的としたプライマーを用いて遺伝子を増幅するが,YIF-SCANでは,まずrRNA遺伝子の転写産物であるrRNA分子から細菌グループに特異的プライマーと逆転写酵素によりcDNAを合成し,引き続き,同じ特異的プライマーを用いて定量的PCR法を行う(図1図1■YIF-SCANの定量原理).rRNA分子は1細胞内に数万分子存在するため,通常のDNAを標的とする手法と比べて1細胞当たりの鋳型量が単純に1,000倍以上多くなり,高い検出感度で標的微生物の定量が可能となるのである.細菌に含有されるrRNAをコードする遺伝子とその転写産物であるRNA分子のコピー数の差は,定量的PCRおよびYIF-SCANによる定量解析の検出感度の差に反映され,両方法間での測定感度は,理論上1,000倍は異なる.したがって,定量的PCRの検出感度が糞便1 g当たり105 cellsなのに対し,YIF-SCANでは原理的に102 cellsの細菌の検出が可能となる.さらに,YIF-SCANで用いるプライマーは,対象とする細菌グループに属する細菌種に対して,ほとんど同等の増幅効率となるように設計・検証されており,また,適切に設定された標準菌株から抽出したRNAを用いて反応プレートごとに標準曲線を作成して定量されることから,16S rRNA遺伝子アンプリコン解析で認められるようなプライマー増幅効率のバイアスはほとんどないと考えて良い.生きた微生物の定量という観点からも,DNAを標的とする手法では生菌のみならず死菌をも測定するのに比べて,rRNA自体がより生菌状態を反映していることから,YIF-SCANが腸内の生菌を定量するために適した手法であると言える.実際に,YIF-SCANではin vitro培養における細菌の死滅過程を培養法と同様に捉えることができた(3~5)3) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, Y. Kado & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 73, 32 (2007).5) T. Kurakawa, H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Asahara, T. Takahashi, T. Ramamurthy, T. Hamabata, E. Takahashi, S. Miyoshi et al.: Microbiol. Immunol., 56, 10 (2012)..このように優れた点が多いYIF-SCANだが,上述したとおり,対象細菌グループごとに特異的なプライマーと標準菌株から抽出したRNAを要するため,単離されていない細菌を対象にできないという欠点を有する.現在,約80菌群/属/種に対するプライマーがYIF-SCANに対応しているが,全腸内細菌の約70%のカバー率と見積もられている.今後,新たに腸内細菌の分離が進むことで,この欠点は解消されていくだろう.

図1■YIF-SCANの定量原理

日本人健常者の腸内細菌叢の解析

YIF-SCANは,2007年に発表されて以来,多くの臨床研究において腸内細菌叢の解析に用いられてきた.われわれは,YIF-SCANにより実施された複数の臨床試験における約1,500人に及ぶ健常日本人の腸内細菌叢データを統合し,腸内フローラデータベースを作成した(6)6) 野本康二,辻 浩和,松田一乗:腸内細菌学雑誌,29, 9 (2015).このデータベースには,生後1日目から102歳までの約1,500人の健常日本人についての主要なヒト腸内細菌群/属/種の定量値が収載されている.これまで,培養法あるいは分子生物学的方法により腸内細菌叢と年齢の関係について多くの研究が報告されていたが,報告ごとに解析方法が異なるため,それぞれの研究結果をまとめた大きな母集団について,ヒトの年代による腸内細菌叢の推移について解析することは不可能であった.YIF-SCANでは,ヒト腸内細菌を再現性高く測定できるため,独立した臨床研究で得られたデータを統合したうえで,年齢と腸内細菌叢の関連を詳細に調べることが可能となったのである.

その結果,生後直後から3歳まで腸内細菌叢の構造は大きく変化するが3歳以降では,比較的安定に見えた(図2図2■健常日本人における主要な腸内細菌の加齢変化).しかし,その菌数の変化を詳細に観察すると,PrevotellaやEnterobacteriaceae, Enterococcusの菌数は3歳以降に安定化されることから,準優勢な菌群では腸内細菌叢構成は推移の過程にあると考えられた.高齢者では,Bifidobacteriumが減少し,LactobacillusやEnterobacteriaceaeが増加することが確認された.さらに,腸内におけるほとんどの腸内細菌群において,それぞれの菌数分布はおおむね対数正規分布することが明らかとなっている(図3図3■健常日本人成人における主要な腸内細菌の菌数分布).このことは,健常日本人の標準範囲を設定できることを示唆しており,この基準値をもって個人の疾病のリスクを予測してより早期の疾病予防に貢献することも期待される.

図2■健常日本人における主要な腸内細菌の加齢変化

被験者数1,507名(0~102歳).

図3■健常日本人成人における主要な腸内細菌の菌数分布

被験者数251名(20~59歳).

病態における腸内菌叢の解析

YIF-SCANにより,大腸がん患者では健常者に比べて総腸内菌数および最優勢嫌気性菌群(Clostridium coccoides group, Clostridium leptum subgroup, Bacteroides fragilis group, Bifidobacterium, Atopobium cluster)の菌数が有意に少なく,腸内細菌叢が異常な状態(dysbiosis)であることが報告されている(7)7) S. Ohigashi, K. Sudo, D. Kobayashi, O. Takahashi, T. Takahashi, T. Asahara, K. Nomoto & H. Onodera: Dig. Dis. Sci., 58, 1717 (2013)..また,2型糖尿病患者においても最優勢嫌気性菌群の一つであるC. coccoides groupやAtopobium clusterの菌数低下などのdysbiosisが観察されている(8)8) J. Sato, A. Kanazawa, F. Ikeda, T. Yoshihara, H. Goto, H. Abe, K. Komiya, M. Kawaguchi, T. Shimizu, T. Ogihara et al.: Diabetes Care, 37, 2343 (2014)..近年,腸内細菌叢と脳機能との関連を示唆する研究が報告されている.大うつ病患者と健常対照者について,その腸内細菌叢をYIF-SCANにより解析したところ,大うつ病患者群では健常者群と比較してBifidobacteriumが有意に少なく,Lactobacillusの菌数も低い傾向が認められた(9)9) E. Aizawa, H. Tsuji, T. Asahara, T. Takahashi, T. Teraishi, S. Yoshida, M. Ota, N. Koga, K. Hattori & H. Kunugi: J. Affect. Disord., 202, 254 (2016)..さらに,先進国を中心に急増している神経性食欲不振症における腸内細菌叢がYIF-SCANにより解析され,患者群の総腸内細菌数および複数の最優勢嫌気性菌群の菌数は,健常群と比較して有意に低値であることが明らかにされた(10)10) C. Morita, H. Tsuji, T. Hata, M. Gondo, S. Takakura, K. Kawai, K. Yoshihara, K. Ogata, K. Nomoto, K. Miyazaki et al.: PLoS One, 10, e0145274 (2015)..神経疾患の一種であるパーキンソン病患者およびその健常な同居者の腸内細菌叢がYIF-SCANにより比較解析され,パーキンソン病患者では糞便中の総腸内菌数ならびにC. coccoides group, C. leptum subgroup, B. fragilis groupなどの最優勢嫌気性菌が健常同居者と比較して少ないという結果が報告されている(11)11) S. Hasegawa, S. Goto, H. Tsuji, T. Okuno, T. Asahara, K. Nomoto, A. Shibata, Y. Fujisawa, T. Minato, A. Okamoto et al.: PLoS One, 10, e0142164 (2015)..それらの患者を2年間追跡したところ,2年後に総腸内細菌数,Bifidobacterium, Atopobium cluster, Prevotella, Enterococcusの菌数の有意な低下が見られたばかりでなく,UPDRS 1(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale 1:パーキンソン病の臨床症状評価指標の一つ)のスコアの悪化と2年前の総腸内細菌数,Bifidobacterium, B. fragilis groupの菌数に有意な負の相関が観察された(12)12) T. Minato, T. Maeda, Y. Fujisawa, H. Tsuji, K. Nomoto, K. Ohno & M. Hirayama: PLoS One, 12, e0187307 (2017)..すなわち,腸内細菌がパーキンソン病の臨床症状を規定している可能性が示されたのである.上述の疾患では共通して最優勢嫌気性菌のいくつかの菌群や総腸内細菌数の低下が観察されている.これらの疾患以外にも,炎症性腸疾患患者などにおいても最優勢嫌気性菌の低下を伴う腸内細菌叢のdysbiosisが報告されている(13)13) K. Takeshita, S. Mizuno, Y. Mikami, T. Sujino, K. Saigusa, K. Matsuoka, M. Naganuma, T. Sato, T. Takada, H. Tsuji et al.: Inflamm. Bowel Dis., 22, 2802 (2016)..総腸内細菌数や最優性嫌気性菌の低下は,多くの生理活性を有する有機酸の濃度低下につながることが容易に想像される.実際に上述の研究のいくつかでは,疾患において糞便中の総有機酸濃度の低下が観察されている(7, 8, 10)7) S. Ohigashi, K. Sudo, D. Kobayashi, O. Takahashi, T. Takahashi, T. Asahara, K. Nomoto & H. Onodera: Dig. Dis. Sci., 58, 1717 (2013).8) J. Sato, A. Kanazawa, F. Ikeda, T. Yoshihara, H. Goto, H. Abe, K. Komiya, M. Kawaguchi, T. Shimizu, T. Ogihara et al.: Diabetes Care, 37, 2343 (2014).10) C. Morita, H. Tsuji, T. Hata, M. Gondo, S. Takakura, K. Kawai, K. Yoshihara, K. Ogata, K. Nomoto, K. Miyazaki et al.: PLoS One, 10, e0145274 (2015)..したがって,総腸内細菌数や最優性嫌気性菌群の菌数は,宿主の生理状態を表す指標の一つとして重要であると考えられる.極めて最近,Nature誌に,NGSによる腸内細菌叢の解析結果はあくまでも相対的なものであり,宿主–微生物相互作用の真の特徴づけを可能にするためには定量的な観点での腸内細菌叢の解析が必要である,との論文が掲載された(14)14) D. Vandeputte, G. Kathagen, K. D’hoe, S. Vieira-Silva, M. Valles-Colomer, J. Sabino, J. Wang, R. Y. Tito, L. De Commer, Y. Darzi et al.: Nature, 551, 507 (2017)..今後,さらに多くの種類の疾患について定量的な視点から解析が進むことで,この“dysbiosis”の共通性や特異性が明確になるだろう.

YIF-SCANの臨床応用

臨床微生物診断では現在でも培養法が主流であるが,われわれは,YIF-SCANを用いることで病原微生物の診断精度が高まると考え,腸内常在菌のみならず,臨床において検出されうるさまざまな病原微生物に対するプライマーセットを開発した.たとえば,菌血症で高頻度に検出されるStreptococcus属細菌や抗生物質誘導下痢の原因菌であるディフィシル菌(Clostridium difficile),真菌症の原因として一般的なカンジダ(Candida spp.Candida albicans, Candida glabrata, Candida tropicalis, Candida parapsilosis, Candida krusei),食中毒の原因菌であるVibrio cholerae/mimicus, Vibrio parahaemolyticus/alginolyticus,そしてCampylobacter jejuni/ coliなどである(5, 15~18)5) T. Kurakawa, H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Asahara, T. Takahashi, T. Ramamurthy, T. Hamabata, E. Takahashi, S. Miyoshi et al.: Microbiol. Immunol., 56, 10 (2012).15) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, T. Takahashi, H. Kubota, S. Nagata, Y. Yamashiro & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 78, 5111 (2012).16) K. Ogata, K. Matsuda, H. Tsuji & K. Nomoto: J. Microbiol. Methods, 117, 128 (2015).17) T. Kurakawa, H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Takahashi, T. Ramamurthy, G. B. Nair, Y. Takeda & K. Nomoto: J. Microbiol. Methods, 92, 213 (2013).18) S. Sakaguchi, M. Saito, H. Tsuji, T. Asahara, O. Takata, J. Fujimura, S. Nagata, K. Nomoto & T. Shimizu: J. Clin. Microbiol., 48, 1624 (2010)..YIF-SCANが最初に菌血症の臨床診断の研究に用いられたのは,発熱性好中球減少症の小児を対象とした研究である(18)18) S. Sakaguchi, M. Saito, H. Tsuji, T. Asahara, O. Takata, J. Fujimura, S. Nagata, K. Nomoto & T. Shimizu: J. Clin. Microbiol., 48, 1624 (2010)..この研究では,23例の発熱性好中球減少症と診断された患児の末梢血から抽出されたRNAを対象にYIF-SCAN解析が実施された.この結果,患児の67%に腸内細菌を含むさまざまな種類の細菌が検出された.検出された主な細菌は,腸内に最優勢に存在する嫌気性菌ならびに通性嫌気性菌であり,その菌数は血液1 mL当たり数個から数百個のレベルであった.しかも同一患者から複数菌種が検出される場合がほとんであった.一方,同時に採取された血液の通常臨床検査における培養法では,いくつかの通性嫌気性菌が検出されたが,その検出率は17%であり,YIF-SCAN法に比べて有意に低値であった.藤森らは,敗血症の新生児39例の末梢血を調べ,通常の培養法による細菌の検出率が15%であったのに対して,YIF-SCAN法による検出率は39%と有意に高いことを報告している(19)19) M. Fujimori, K. Hisata, S. Nagata, N. Matsunaga, M. Komatsu, H. Shoji, H. Sato, Y. Yamashiro, T. Asahara, K. Nomoto et al.: BMC Pediatr., 10, 53 (2010)..培養法ではEnterobacteriaceae, Staphylococcusといった通性好気性が主な検出菌であったが,YIF-SCANではこれらに加えて腸内最優勢嫌気性菌群も検出された.これらの知見は,通性嫌気性菌や好気性菌のみならず通常の培養法では培養困難な腸由来の嫌気性菌も菌血症に関連することを示している.また,培養法による感染症起因菌の同定には少なくとも数日間を要するが,YIF-SCANでは5~6時間で結果が得られることから,より迅速な患者への対処も可能となる.特に生体防御能の減弱が認められる患者においては,敗血症の起因菌を早期に同定することは治療上大きな意義があると考えられ,YIF-SCANによる診断は的確な治療薬選択への重要な情報を提供することが期待できる.さらに,虚血性脳卒中患者においてもYIF-SCANによる解析で菌血症の存在が明らかとなっている(20)20) K. Yamashiro, R. Tanaka, T. Urabe, Y. Ueno, Y. Yamashiro, K. Nomoto, T. Takahashi, H. Tsuji, T. Asahara & N. Hattori: PLOS ONE, 12, e0171521 (2017)..こうした事実は,さまざまな疾患の発症や進展において潜在的な菌血症の関与を示唆するものである.

おわりに

YIF-SCANは,細菌のrRNAを標的することにより,既存の分子生物学的な腸内細菌叢解析技術の中で際立って高い感度と精度を有しており,極めてダイナミックレンジの広い腸内細菌叢を定量的に解析することが可能になった.われわれは,この技術的特徴により,日本人健常人の腸内細菌叢の詳細な定量的な加齢変化や,主な腸内細菌の菌数はおおむね対数正規分布することを見いだすことができた.今後,この技術を用いることで,さまざまな集団における腸内細菌叢の特徴の解明や異常の検出が期待できる.これにより,腸内細菌叢の意義のより深い理解が進むとともに,人為的な腸内細菌叢の調節によるヒトの健康増進への新しい道筋が見えてくるに違いない.

Reference

1) V. Tremaroli & F. Bäckhed: Nature, 489, 242 (2012).

2) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, K. Matsumoto, T. Takada & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 75, 1961 (2009).

3) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, Y. Kado & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 73, 32 (2007).

4) H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Kurakawa, T. Asahara & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 76, 5440 (2010).

5) T. Kurakawa, H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Asahara, T. Takahashi, T. Ramamurthy, T. Hamabata, E. Takahashi, S. Miyoshi et al.: Microbiol. Immunol., 56, 10 (2012).

6) 野本康二,辻 浩和,松田一乗:腸内細菌学雑誌,29, 9 (2015)

7) S. Ohigashi, K. Sudo, D. Kobayashi, O. Takahashi, T. Takahashi, T. Asahara, K. Nomoto & H. Onodera: Dig. Dis. Sci., 58, 1717 (2013).

8) J. Sato, A. Kanazawa, F. Ikeda, T. Yoshihara, H. Goto, H. Abe, K. Komiya, M. Kawaguchi, T. Shimizu, T. Ogihara et al.: Diabetes Care, 37, 2343 (2014).

9) E. Aizawa, H. Tsuji, T. Asahara, T. Takahashi, T. Teraishi, S. Yoshida, M. Ota, N. Koga, K. Hattori & H. Kunugi: J. Affect. Disord., 202, 254 (2016).

10) C. Morita, H. Tsuji, T. Hata, M. Gondo, S. Takakura, K. Kawai, K. Yoshihara, K. Ogata, K. Nomoto, K. Miyazaki et al.: PLoS One, 10, e0145274 (2015).

11) S. Hasegawa, S. Goto, H. Tsuji, T. Okuno, T. Asahara, K. Nomoto, A. Shibata, Y. Fujisawa, T. Minato, A. Okamoto et al.: PLoS One, 10, e0142164 (2015).

12) T. Minato, T. Maeda, Y. Fujisawa, H. Tsuji, K. Nomoto, K. Ohno & M. Hirayama: PLoS One, 12, e0187307 (2017).

13) K. Takeshita, S. Mizuno, Y. Mikami, T. Sujino, K. Saigusa, K. Matsuoka, M. Naganuma, T. Sato, T. Takada, H. Tsuji et al.: Inflamm. Bowel Dis., 22, 2802 (2016).

14) D. Vandeputte, G. Kathagen, K. D’hoe, S. Vieira-Silva, M. Valles-Colomer, J. Sabino, J. Wang, R. Y. Tito, L. De Commer, Y. Darzi et al.: Nature, 551, 507 (2017).

15) K. Matsuda, H. Tsuji, T. Asahara, T. Takahashi, H. Kubota, S. Nagata, Y. Yamashiro & K. Nomoto: Appl. Environ. Microbiol., 78, 5111 (2012).

16) K. Ogata, K. Matsuda, H. Tsuji & K. Nomoto: J. Microbiol. Methods, 117, 128 (2015).

17) T. Kurakawa, H. Kubota, H. Tsuji, K. Matsuda, T. Takahashi, T. Ramamurthy, G. B. Nair, Y. Takeda & K. Nomoto: J. Microbiol. Methods, 92, 213 (2013).

18) S. Sakaguchi, M. Saito, H. Tsuji, T. Asahara, O. Takata, J. Fujimura, S. Nagata, K. Nomoto & T. Shimizu: J. Clin. Microbiol., 48, 1624 (2010).

19) M. Fujimori, K. Hisata, S. Nagata, N. Matsunaga, M. Komatsu, H. Shoji, H. Sato, Y. Yamashiro, T. Asahara, K. Nomoto et al.: BMC Pediatr., 10, 53 (2010).

20) K. Yamashiro, R. Tanaka, T. Urabe, Y. Ueno, Y. Yamashiro, K. Nomoto, T. Takahashi, H. Tsuji, T. Asahara & N. Hattori: PLOS ONE, 12, e0171521 (2017).