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シロイヌナズナのSWEETタンパク質は植物ホルモン・ジベレリンを輸送する糖輸送体が植物ホルモンを輸送する

Mitsunori Seo

瀬尾 光範

理化学研究所環境資源化学研究センター

Published: 2018-05-20

植物ホルモンは,生体内に非常に低濃度で存在し,生活環の多様な場面で重要な生理応答を引き起こす化合物である.近年では,ペプチド性の因子やタンパク質がホルモンとして機能することが明らかになっているが,ここでは古くから知られている低分子性のホルモンについて述べる.動物の場合と同様に,植物においても多くのホルモンが生体内を移動しうることが知られているが,その生理的な意味や積極的な輸送制御機構の有無については未解明な部分が多い.これまでに,ホルモンの代謝(生合成および不活性化)や受容・情報伝達に関与する多くの遺伝子・タンパク質が,さまざまなアプローチによる研究で明らかにされてきた.しかしながらこれらは,ホルモンの輸送を制御する因子,すなわち輸送体(トランスポーター)を同定するには十分に有効ではなかった.そのため筆者らは,ホルモン輸送体として機能するタンパク質の候補を,機能的にスクリーニングする新たな実験方法を考案した(1, 2)1) Y. Kanno, A. Hanada, Y. Chiba, T. Ichikawa, M. Nakazawa, M. Matsui, T. Koshiba, Y. Kamiya & M. Seo: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 9653 (2012).2) Y. Chiba, T. Shimizu, S. Miyakawa, Y. Kanno, T. Koshiba, Y. Kamiya & M. Seo: J. Plant Res., 128, 679 (2015)..実験の仕組みについては後で解説するが,このアプローチによって,それまでに低親和性硝酸イオン輸送体(NRT1)もしくはペプチド(主にジペプチド・トリペプチド)輸送体(PTR)として知られていたファミリー(NPF:NRT1/PTR FAMILY)に属するタンパク質の一つが,植物ホルモンとして知られるアブシシン酸の輸送体として機能することを明らかにした(1)1) Y. Kanno, A. Hanada, Y. Chiba, T. Ichikawa, M. Nakazawa, M. Matsui, T. Koshiba, Y. Kamiya & M. Seo: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 9653 (2012)..興味深いことに,この研究と前後して,複数のNPFタンパク質が,オーキシン(インドール酢酸),ジベレリン(GA),ジャスモン酸などの植物ホルモンや,アブラナ科の辛味成分としても知られる二次代謝産物・グルコシノレートなどを輸送することが,複数の研究グループから報告されている(3, 4)3) S. Léran, K. Varala, J.-C. Boyer, M. Chiurazzi, N. Crawford, F. Daniel-Vedele, L. David, L. Dickstein, E. Fernandez, B. Forde et al.: Trends Plant Sci., 19, 5 (2014).4) C. Corratge-Faillie & B. Lacombe: J. Exp. Bot., 68, 3107 (2017)..このことからNPFは,それまでに考えられていた硝酸イオンやペプチドのみでなく,多様な化合物を基質とする輸送体ファミリーであると考えられる.

一方で,すべてのホルモンの輸送がNPFの機能で説明できるとは考えられない.たとえば,GAの輸送に関与するNPFとして,NPF2.10およびNPF3.1が同定されているが(5, 6)5) H. Saito, T. Oikawa, S. Hashimoto, Y. Ishimaru, M. Kanamori-Sato, Y. Sassaki-Sekimoto, T. Utsumi, J. Chen, Y. Kanno, S. Masuda et al.: Nat. Commun., 6, 6095 (2015).6) I. Tal, Y. Zhang, M. E. Jorgensen, O. Pisanty, I. C. Barbosa, M. Zourelidou, T. Regnault, C. Crocoll, C. Erik Olsen, R. Weinstain et al.: Nat. Commun., 7, 11486 (2016).,これらの機能を失った変異体の表現型は,GAの生合成や情報伝達に重篤な欠陥をもつ変異体のそれと比べて軽微である.このことは,GAの輸送が高度に重複した機構で制御されている可能性を示唆している.そのため筆者らは,新たなGA輸送体候補を得るために,上記と同様のスクリーニングを進めた.GAの受容体GID1は可溶性タンパク質であり,GAを認識するとDELLAと呼ばれる制御タンパク質と相互作用する.GID1と結合していない状態のDELLAは,下流のGA関連の情報伝達系を負に制御する因子として機能するが,細胞内のGA濃度が高まることでGID1/GA/DELLAの複合体が形成され,これを引き金としてDELLAが26Sプロテアソームによって分解される.結果として,DELLAによる抑制が解除され,GA応答が引き起こされる(7)7) K. Hirano, M. Ueguchi-Tanaka & M. Matsuoka: Trends Plant Sci., 13, 192 (2008)..このGA依存的なGID1とDELLAの相互作用は,酵母two-hybrid系を用いて検出することが可能である.筆者らは,この性質を利用して,培地中のGA濃度が低濃度の場合にも酵母細胞内でのGID1とDELLAの相互作用を誘導する因子(すなわちGAの酵母細胞内へ取り込みを促進する因子=輸送体)のスクリーニングをおこなった(図1図1■酵母two-hybrid法を利用したジベレリン輸送体のスクリーニング).その結果,新たな糖輸送体ファミリーとして2010年に報告されたシロイヌナズナのSWEETタンパク質(8)8) L. Q. Chen, B. H. Hou, S. Lalonde, H. Takanaga, M. L. Hartung, X. Q. Qu, W. J. Guo, J. G. Kim, W. Underwood, B. Chaudhuri et al.: Nature, 468, 7323 (2010).の一部が,GA輸送活性をもつことを明らかにした(9)9) Y. Kanno, T. Oikawa, Y. Chiba, Y. Ishimaru, T. Shimizu, N. Sano, T. Koshiba, Y. Kamiya, M. Ueda & M. Seo: Nat. Commun., 7, 13245 (2016)..酵母においては,17種のシロイヌナズナSWEETのうちSWEET14がGAに対して比較的高い輸送活性を示した.これに加えて,SWEET14と相同性の高いSWEET13もGA輸送活性をもち,さらにこれらをコードする遺伝子の発現パターンが類似していることから,両者に着目した.植物細胞において,蛍光タンパク質と融合させたSWEET13およびSWEET14が細胞膜に局在することから,これらは細胞内へGAを取り込む輸送体であると考えられる.SWEET13およびSWEET14の遺伝子発現量は葯において高く,両者の機能を失った二重変異体(sweet13 sweet14)においては,野生型に比べて葯の開裂のタイミングが遅く,それに伴う稔性の低下か観察された.GAの生合成に欠陥をもつ変異体においても葯の開裂異常が見られること,またsweet13 sweet14の葯の開裂遅延は外生的なGA処理で野生型と同程度に相補されることから,SWEET13およびSWEET14は葯におけるGAの作用を正に制御する因子であると考えられる.一方で,sweet13 sweet14の種子および芽生えは,GA内生量が低下した変異体とは逆に,野生型と比べて大きかった.さらにsweet13 sweet14種子は,発芽時にGAと拮抗的な作用をもつABAの存在下,およびGAの生合成阻害剤として知られるパクロブトラゾールの存在下において,野生型に比べて高い発芽能を示した.このことから,SWEET13およびSWEET14は,種子発達から発芽後の初期成長の間,GAの作用を負に制御する因子であることが考えられる.

図1■酵母two-hybrid法を利用したジベレリン輸送体のスクリーニング

以上のように筆者らは,新たなホルモン輸送体を同定するのみでなく,既知の輸送体ファミリーに新たな機能(輸送基質)を見いだした.NPFの場合と同様に,SWEETが糖やGA以外の化合物を基質とするのかについて興味がもたれる.また,発現する時期や植物体内での部位により,ホルモンの作用を正にも負にも制御できる点は,輸送体機能として重要な特徴であろう.もちろん,生体内での機能については単なる輸送活性の有無のみでなく,基質特異性(親和性,選択性)を含めて慎重な解釈が必要であることを付け加えておく.

Reference

1) Y. Kanno, A. Hanada, Y. Chiba, T. Ichikawa, M. Nakazawa, M. Matsui, T. Koshiba, Y. Kamiya & M. Seo: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 109, 9653 (2012).

2) Y. Chiba, T. Shimizu, S. Miyakawa, Y. Kanno, T. Koshiba, Y. Kamiya & M. Seo: J. Plant Res., 128, 679 (2015).

3) S. Léran, K. Varala, J.-C. Boyer, M. Chiurazzi, N. Crawford, F. Daniel-Vedele, L. David, L. Dickstein, E. Fernandez, B. Forde et al.: Trends Plant Sci., 19, 5 (2014).

4) C. Corratge-Faillie & B. Lacombe: J. Exp. Bot., 68, 3107 (2017).

5) H. Saito, T. Oikawa, S. Hashimoto, Y. Ishimaru, M. Kanamori-Sato, Y. Sassaki-Sekimoto, T. Utsumi, J. Chen, Y. Kanno, S. Masuda et al.: Nat. Commun., 6, 6095 (2015).

6) I. Tal, Y. Zhang, M. E. Jorgensen, O. Pisanty, I. C. Barbosa, M. Zourelidou, T. Regnault, C. Crocoll, C. Erik Olsen, R. Weinstain et al.: Nat. Commun., 7, 11486 (2016).

7) K. Hirano, M. Ueguchi-Tanaka & M. Matsuoka: Trends Plant Sci., 13, 192 (2008).

8) L. Q. Chen, B. H. Hou, S. Lalonde, H. Takanaga, M. L. Hartung, X. Q. Qu, W. J. Guo, J. G. Kim, W. Underwood, B. Chaudhuri et al.: Nature, 468, 7323 (2010).

9) Y. Kanno, T. Oikawa, Y. Chiba, Y. Ishimaru, T. Shimizu, N. Sano, T. Koshiba, Y. Kamiya, M. Ueda & M. Seo: Nat. Commun., 7, 13245 (2016).