解説

「デカフェ」と「飲料としての品質」は両立できるのか?食品製造における選択的カフェイン除去技術の開発

Is It Possible for Both “Decaffeination” and “Beverage Quality” to Coexist?: Development of Selective Decaffeination Technology in Industrial Food Production

Takashi Shiono

塩野 貴史

キリン株式会社R&D本部酒類技術研究所

Published: 2018-05-20

緑茶や紅茶,コーヒーなどの嗜好飲料は日常の食生活に密着した飲みものとして広く飲用されている.しかし,これらの飲料には覚醒や利尿などの作用を示すカフェインが含まれており,体質やシーンによっては飲用を控えなければならない制約があった.従来の原料からの溶出処理によるカフェイン除去技術では,カフェイン除去とおいしさや外観といった飲料品質の両立は難しいとされてきた.われわれは,天然吸着剤であるモンモリロナイトを用いて茶抽出液から選択的にカフェインを吸着・除去する技術を開発した.その特徴と汎用性,今後の展望について解説する.

はじめに

カフェインはメチルキサンチン類に分類されるプリンアルカロイドであり,茶葉やコーヒー豆,カカオ豆などの天然植物に含まれる食品成分である.特に茶やコーヒーなどの飲料,チョコレートなどの菓子類から世界中で日常的に摂取されている.最近では,コーヒー豆などの植物原料から抽出したカフェインを添加した炭酸飲料やエナジードリンクなども広く普及している.カフェインは経口摂取後に速やかに大部分が吸収され血中へ移行し,吸収されたカフェインは血液–脳関門,胎盤関門,血液–睾丸関門,乳腺関門を容易に通過する(1)1) 栗原 久:東京福祉大学・大学院紀要,6, 109 (2016)..カフェインの主な作用としては,アデノシン受容体の遮断による中枢神経系における興奮作用が知られており,個人差はあるものの,カフェイン含有飲料は眠気の解消や疲労感の軽減などの効果を示すと考えられている(2)2) 栗原 久:“カフェインの科学”,学会出版センター,2004, p. 63.

一方で,カフェインには過剰摂取による懸念として,中枢刺激作用による不眠や循環器系機能に対する作用による血圧上昇や利尿作用などが考えられる(1)1) 栗原 久:東京福祉大学・大学院紀要,6, 109 (2016)..そのため,近年におけるカフェイン製剤やエナジードリンクなどの普及に伴い,妊婦や子どものカフェイン摂取量について欧州食品安全機関(EFSA)やカナダ保健省など一部の海外公的機関が摂取量の目安を示しており,日本国内でも厚生労働省が「健康づくりのための睡眠指針2014」の中で就寝前のカフェイン摂取を控えることを推奨している.さらに,2017年には農林水産省,厚生労働省,消費者庁および全国清涼飲料工業会から相次いで「カフェインの過剰摂取に対する注意」が発信されるなど,飲用シーンや体質・体調に応じてカフェイン摂取量を調節することが求められている.

このような社会的ニーズに対して「デカフェ(DECAF=decaffeinatedの略)」と呼ばれるカフェインを除去した飲料が選択肢として提供されてきた.本解説では,茶におけるカフェイン除去技術を中心に解説するとともに,カフェイン除去と嗜好飲料に求められる「おいしさ」と「外観」という品質をいかに両立させるか,を課題として取り上げた.また,茶やコーヒーなどのカフェイン含有飲料における幅広い展開を可能にするうえで,「汎用性」についても広く検証する必要があると考えられる.

デカフェの歴史

カフェインは1819年にドイツの化学者F. F. ルンゲによってコーヒー豆から単離された(3)3) B. A. ワインバーグ,B. K. ビーラー:“カフェイン大全”,八坂書房,2006, p. 22..1827年にイギリスのM. ウードリーによって茶からも単離され「テイン」と命名されたが,G. J. ムルデルやC. ジョブスによってカフェインと同一物質と同定されて以来,カフェインとデカフェの歴史は主にコーヒーを中心に議論されてきた.その後,L. ロゼリウスによって1900年にベンゼンを利用した最初のカフェイン除去プロセスが提案され,1912年に商業ベースで初のデカフェコーヒーが米国で発売された(4)4) S. N. Kats: “Decaffeination of Coffee: COFFEE, Vol. 2 Technology,” ed. by R. J. Clarke & R. Macrae, Elsevier, 1987, p. 59..1970年代まではクロロホルムやジクロロメタン,酢酸エチルなどを利用した有機溶剤法が主流であったが,香味の損失や有機溶剤の残留などの懸念もあり,コーヒー生豆からカフェインを除去する水処理法(ウォータープロセス)や超臨界二酸化炭素抽出法に切り替わっていった.水処理法は1938年にスイスで開発され,1979年に米国で紹介されて広まった手法であり,原料であるコーヒー生豆から水でカフェインを溶出させ,活性炭などの吸着剤でカフェイン除去後に浸出水を生豆に戻すという工程でデカフェコーヒー生豆が製造される(5)5) K. Ramalakshmi & B. Raghavan: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 39, 441 (1999)..超臨界二酸化炭素抽出法は1970年代にドイツのK. ゾーゼルによって開発され,超臨界状態の二酸化炭素でコーヒー生豆からカフェインを溶出させる手法であり,生豆由来の香気は抽出されるが,焙煎による香気付与に不可欠な炭水化物やタンパク質などには影響しないという特徴がある(5)5) K. Ramalakshmi & B. Raghavan: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 39, 441 (1999)..超臨界二酸化炭素抽出法は水処理法に比べて選択的なカフェイン除去が可能だが,高価な設備を要するという特徴がある.

茶におけるカフェイン除去技術

低カフェイン茶の製造技術として,原料処理工程において茶葉からカフェインを除去する方法が一般的である.従来技術として,摘採したチャの葉から茶葉へ加工する製茶工程において熱湯を用いる方法や,製茶した茶葉に対して超臨界二酸化炭素や有機溶剤などを用いる方法が知られている(図1図1■茶におけるカフェイン除去技術とその課題).緑茶などの不発酵茶では,前者の湯を用いる方法が使われることが多く,酵素失活工程(殺青と呼ぶ)と兼ねて熱湯散水もしくは熱湯浸漬によって茶葉からカフェインを溶出させることでカフェイン除去が行われる(6)6) 渕之上康元,渕之上弘子:“日本茶全書”,農文協,1999, p. 164..熱湯によるカフェイン除去技術では,カフェイン除去率は50~70%程度にとどまる.紅茶などの発酵茶では,萎凋・発酵工程があるため,後者の超臨界二酸化炭素を用いて製茶後の茶葉からカフェインを溶出させる方法が一般的であり,日本では禁止されているが有機溶媒による溶出処理によるカフェイン除去も報告されている.これらの茶葉からのカフェイン溶出によるカフェイン除去技術では,カフェインだけでなく香気や呈味成分も溶出してしまうため,おいしさが損なわれると考えられている.さらに,処理時の加熱によって褐変が進行し,特に緑茶において抽出液の液色が悪化するという課題を有している.

図1■茶におけるカフェイン除去技術とその課題

新たなカフェイン除去技術として,飲料製造工程において茶抽出液からカフェインを除去する方法も検討されている.茶抽出液からのカフェイン除去には吸着剤が用いられ,活性炭や高分子樹脂などを利用してカフェインを吸着・除去する技術が報告されている(7, 8)7) J. H. Ye, Y. R. Liang, J. Jin, H. L. Liang, Y. Y. Du, J. L. Lu, Q. Ye & C. Lin: J. Agric. Food Chem., 55, 3498 (2007).8) D. M. Sevillano, L. A. M. Van Der Wielen, N. Hooshyar & M. Ottens: Food Bioprod. Process., 92, 192 (2014)..吸着剤による茶抽出液中のカフェイン除去では,カフェインだけでなく香気やカテキン類などの呈味に重要な化合物も吸着することがあるため,選択的なカフェイン除去が重要である.

将来的に期待される技術としては,カフェインを含まないチャやコーヒー品種の育種が挙げられる.加藤らによってチャのカフェイン合成酵素遺伝子配列が決定しており,メチル化酵素に関連する遺伝子の発現制御によってカフェインフリーの植物ができると考えられている(9, 10)9) M. Kato, K. Mizuno, A. Crozier, T. Fujiwara & H. Ashihara: Nature, 406, 956 (2000).10) 芦原 坦:化学と生物,39, 74 (2001)..これまでにチャ(Camellia sinensis)の近縁種(C. taliensis)などでカフェインのない品種は確認されているが,メチル基の一つ少ないテオブロミン高含有であることが報告されている(11)11) A. Ogino, J. Tanaka, F. Taniguchi, M. P. Yamamoto & K. Yamada: Breed. Sci., 59, 277 (2009)..テオブロミンやテオフィリンといったジメチルキサンチン類は,カフェインと類似した生理作用と示すことから,メチルキサンチン類を含まないチャやコーヒーの育種が望まれている.

カフェイン選択的吸着剤の探索

カフェイン除去とおいしさの両立に向けて,カフェインは除去しながらほかの成分は損失しないという「選択的なカフェイン除去」が重要である.われわれは吸着剤による茶抽出液からのカフェイン除去に着目し,高い安全性と食品適性が求められる食品製造の領域における実用性という観点で,食品添加物として認可されている吸着剤を広くスクリーニングし,茶抽出液中のカフェインを選択的に吸着するものを選抜しようと考えた.100種類以上の吸着剤の中から,カフェイン吸着能を示すものを選抜し,その中で天然吸着剤である活性炭とモンモリロナイトについて茶抽出液中のカフェイン吸着特性を詳細に比較した.用いた活性炭はヤシ殻を原料として賦活したもので,細孔容積が大きいという特徴を有しており,浄水器や食品の精製,医療用途で用いられている.モンモリロナイトはスメクタイトに属する粘土鉱物で,ケイ素やアルミニウムを主な構成元素とした層状の構造とイオン交換能を有し,食用油の精製やろ過助剤,医療用途で用いられている.

吸着特性の比較はカフェイン除去と茶における呈味の重要な成分であるカテキン類の残存を指標とした.活性炭処理ではカフェインの除去率が増大するのに伴ってカテキン類も減少したが,モンモリロナイト処理ではカテキン類はほとんど減少せず,茶抽出液中のカフェインが選択的に吸着・除去されることがわかった(12)12) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto, J. Kawai, N. Imada, J. Hioki, H. Naganuma, T. Eguchi, M. Kurihara, A. Yoshida et al.: J. Food Eng., 200, 13 (2017).図2図2■茶抽出液中のカフェイン吸着における選択性).活性炭とモンモリロナイトのカフェイン吸着能について,カフェイン溶液と緑茶抽出液でのカフェイン吸着量を比較したところ,活性炭では緑茶抽出液中におけるカフェイン吸着量が顕著に低下したのに対し,モンモリロナイトではカフェイン溶液でも緑茶抽出液でも同等のカフェイン吸着量であった.したがって,モンモリロナイトは活性炭よりも茶抽出液中のカフェイン吸着における選択性が高いと考えられる.同様の傾向はコーヒーにおいても確認されており,活性炭はコーヒー中のクロロゲン酸類も吸着するのに対し,モンモリロナイトはクロロゲン酸類をほとんど吸着せず,コーヒー中のカフェインを選択的に吸着する(13)13) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto & A. Yoshida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 1591 (2017).

図2■茶抽出液中のカフェイン吸着における選択性

モンモリロナイトの接触条件が飲料品質に及ぼす影響

国内の飲料市場では,「おいしさ」とともに「外観」についても高度な品質を求められることから,カフェイン除去工程が飲料の外観に及ぼす影響について把握しておく必要がある.茶飲料においては,PETボトルのような透明容器で販売されることが多いため,液色や劣化に伴う褐変,継時的な沈殿の発生などに注意が必要である.緑茶や紅茶,烏龍茶などの茶飲料にはカテキン類に代表されるポリフェノール類が含まれるため,茶飲料中の鉄イオン濃度が高くなるとポリフェノール類と結合し液色が悪化することが知られている.モンモリロナイトは天然の粘土鉱物であるため,接触条件によってはミネラル類の溶出が懸念される.われわれがモンモリロナイトと茶抽出液の接触条件が茶飲料の外観に及ぼす影響を調べたところ,接触時間が長いほど茶抽出液中の鉄イオン濃度が上昇し,それに起因して液色の明度が下がることがわかった(12)12) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto, J. Kawai, N. Imada, J. Hioki, H. Naganuma, T. Eguchi, M. Kurihara, A. Yoshida et al.: J. Food Eng., 200, 13 (2017)..また,接触pHが低く,接触温度が高いほど茶抽出液中の鉄イオン濃度が上昇し,茶飲料の外観品質を低下させることもわかった(図3図3■接触条件の違いが茶飲料品質に及ぼす影響).モンモリロナイトのような天然の鉱物を利用する際には,接触時のミネラル溶出についても注意が必要と考えられる.

図3■接触条件の違いが茶飲料品質に及ぼす影響

一方,茶抽出液中でのモンモリロナイトに対するカフェイン吸着は速やかに進行し,接触pHが4~8の範囲,接触温度が5~35°Cの範囲では,接触条件によらずカフェイン吸着能は一定であった.これらのカフェイン吸着とミネラル溶出の特性の違いを利用し,中性付近かつ低温・短時間でモンモリロナイトと茶抽出液を接触させることで,カフェインを除去しつつ鉄イオンの溶出を抑制し,茶飲料の外観への影響を最小化できると考えられる.つまり,食品製造で実施可能な範囲での接触条件の調整によってカフェイン除去と茶飲料の外観品質維持は両立可能であり,モンモリロナイトは実用的な飲料製造工程において活用できる吸着剤であるといえる.

モンモリロナイトによる茶飲料のカフェイン除去技術の汎用性

飲料製造技術としての実用性を考えたときに,汎用性という観点は非常に重要である.茶飲料といっても,緑茶を原料にしたものでも煎茶以外にかぶせ茶や玉露のような被覆栽培したものを使ったものや焙煎して焙じ茶としたもの,炒った米と合わせた玄米茶などがあり,さらに烏龍茶や紅茶のような発酵茶,プーアル茶のような微生物発酵茶なども含めると多岐にわたる.いずれの茶飲料もカフェインを含むことから,カフェイン除去技術を開発する際には茶種の違いが及ぼす影響を把握し,茶飲料における汎用性を有しているかを確認する必要があると考えられる.そこで,われわれは緑茶,烏龍茶および紅茶を用いて,茶種の違いがモンモリロナイトのカフェイン吸着特性に及ぼす影響を評価した.産地の異なる烏龍茶や紅茶について茶抽出液中のカフェイン吸着特性を調べたところ,産地や茶種によらずモンモリロナイトのカフェイン吸着特性は緑茶と同様の傾向を示した(12)12) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto, J. Kawai, N. Imada, J. Hioki, H. Naganuma, T. Eguchi, M. Kurihara, A. Yoshida et al.: J. Food Eng., 200, 13 (2017).図4図4■茶種の違いがカフェイン吸着特性に及ぼす影響).したがって,茶の発酵度や産地,品種などに起因する成分の違いはモンモリロナイトのカフェイン吸着特性には影響を及ぼさないと考えられる.

図4■茶種の違いがカフェイン吸着特性に及ぼす影響

茶抽出液中のモンモリロナイトのカフェイン吸着等温線は,いずれの茶種においてもLangmuirの吸着等温式(式1)で近似できる.

Qe:平衡吸着量,Qm:最大吸着量,Ce:平衡濃度,KL:平衡定数

すなわち,モンモリロナイトによるカフェイン吸着は特定の吸着サイトによる単層吸着であると推察される.これは茶抽出液のカフェイン濃度と処理後のカフェイン濃度を設定すれば,必要な吸着剤の添加量を導くことができることを意味している.つまり,モンモリロナイトによるカフェイン除去技術は飲料製造技術における高い実用性を有しており,なおかつ幅広い茶飲料に活用できる汎用性があるといえる.

コーヒーへの応用

2016年における国内の茶消費量は約10.6万トン(14)14) 全国茶生産団体連合会:茶の生産と流通,茶の需給,茶類の国内消費量の推移,http://www.zennoh.or.jp/bu/nousan/tea/seisan01b.htmであるのに対し,コーヒー消費量は約47.3万トン(15)15) 全日本コーヒー協会:統計資料,日本のコーヒー受給表,http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2018/03/data01b_2018/03.pdfと4~5倍程度多い.また,国内のデカフェコーヒー輸入量は約3千トン程度(16)16) 全日本コーヒー協会:統計資料,デカフェコーヒーの輸入推移,http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2018/03/data01e_2017_180322.pdfと全体の0.6%程度にとどまっているが,2011年からの5年で2.3倍に増加している.世界におけるコーヒー市場の約10%がデカフェコーヒーといわれており(17)17) M. B. Silvarolla, P. Mazzafera & L. C. Fazuoli: Nature, 429, 826 (2004).,国内のデカフェコーヒー市場も今後10%程度まで拡大する可能性があると考えられる.

モンモリロナイトによるカフェイン除去技術は,先述のとおりコーヒー中においても選択的にカフェインを吸着することから,茶飲料だけでなくコーヒーにおいても広く応用できる可能性があるかを確認する必要があると考え,コーヒー豆の違いがモンモリロナイトのカフェイン吸着特性に及ぼす影響を評価した.コーヒー豆の焙煎によってカフェインはほとんど減少しないが,クロロゲン酸類は焙煎によって大きく減少することが知られている(18, 19)18) J. K. Moon, H. S. Yoo & T. Shibamoto: J. Agric. Food Chem., 57, 5365 (2009).19) I. A. Ludwig, P. Mena, L. Calani, C. Cid, D. D. Rio, M. E. J. Lean & A. Crozier: Food Funct., 5, 1718 (2014)..また,焙煎によって香気の生成やメイラード反応の進行など多くの反応が起きており,コーヒー豆によって成分比率は多種多様になっていると考えられる.われわれが焙煎度の異なるコーヒー豆についてコーヒー抽出液中のカフェイン吸着特性を調べたところ,焙煎度に依らずモンモリロナイトのカフェイン吸着特性は同様の傾向を示した(13)13) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto & A. Yoshida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 1591 (2017).図5図5■コーヒー抽出液におけるカフェイン吸着特性).さらに解析を進めたところ,カフェイン含量の多いロブスタ種(Coffea canephora cv. Robusta)ではアラビカ種(C. Arabica cv. Bourbon)に比べて僅かにカフェイン吸着量が多くなる傾向はあったものの,産地の違いはモンモリロナイトのカフェイン吸着特性には影響を及ぼさないことがわかった.したがって,モンモリロナイトによるカフェイン除去技術は茶飲料だけでなく,多様なコーヒーにおけるカフェイン除去技術としても活用できる汎用性を有しているといえる.

図5■コーヒー抽出液におけるカフェイン吸着特性

おわりに

長年困難と考えられてきた飲料中のカフェイン除去と飲料としての品質の両立という課題に対し,われわれは食品製造における加工助剤として利用可能な天然吸着剤の中から,飲料中のカフェイン吸着における高い選択性と汎用性を兼ね備えたモンモリロナイトを活用することを提案した.安全性と高い品質を求められる食品製造の分野において,香味や外観といった品質に影響を与えない高い選択性と幅広い液種に適用できる汎用性が重要であるという考え方が,多くの方々が取り組んでおられる「実用的な食品製造技術の開発」に参考になれば幸いである.

そういった観点では,モンモリロナイトにこだわる必要はなく,より選択的で汎用性が高いカフェイン吸着能と食品における製造適性を有する吸着剤の開発が期待される.われわれも吸着剤の改質に向けた研究を継続しており,モンモリロナイトにおけるカフェイン吸着メカニズムの解明に向けてシリカ構造の寄与を明らかにし(20)20) K. Yamamoto, T. Shiono, Y. Matsui & M. Yoneda: Particul. Sci. Technol., in press (2018).,モンモリロナイトの有機修飾やイオン置換処理によるカフェイン吸着能や茶飲料品質のさらなる向上が可能であることを示している(21, 22)21) T. Okada, J. Oguchi, K. Yamamoto, T. Shiono, T. Fujita & T. Iiyama: Langmuir, 31, 180 (2015).22) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto & A. Yoshida: Food Sci. Technol. Res., 24, 215 (2018)..そのほか,既存のカフェイン除去技術である溶出法を品質,コスト面で凌駕するような新規の原料処理技術の開発や香味がよく産業上の栽培適性を有するメチルキサンチンレスなチャおよびコーヒー品種の開発などが期待される.

最後に,カフェインは必ずしも悪者ではないことを強調しておく.嗜好飲料として茶やコーヒーは長年にわたって広く飲用されており,本解説はそういった嗜好飲料の飲用やその効能を否定するものではない.大切なのはカフェインを正しく理解して,自身の体質やシーンに合わせてカフェイン摂取量を調節することである.「おいしいデカフェ」という新たな選択肢ができることで,多くの方々が年齢や体質・体調,時間帯を問わず安心して茶やコーヒーの飲用を楽しめる日常が広がることを願っている.

Acknowledgments

本研究の多くはキリン株式会社飲料技術研究所およびキリンビバレッジ株式会社をはじめとするキリングループ各社の多くの関係者の尽力によるものであり,関係の皆様に感謝いたします.また,研究の推進にあたり,ご助言・ご指導を賜りました京都大学の米田稔教授,松井康人准教授ならびに信州大学の岡田友彦准教授,飯山拓准教授に厚く御礼申し上げます.

Reference

1) 栗原 久:東京福祉大学・大学院紀要,6, 109 (2016).

2) 栗原 久:“カフェインの科学”,学会出版センター,2004, p. 63.

3) B. A. ワインバーグ,B. K. ビーラー:“カフェイン大全”,八坂書房,2006, p. 22.

4) S. N. Kats: “Decaffeination of Coffee: COFFEE, Vol. 2 Technology,” ed. by R. J. Clarke & R. Macrae, Elsevier, 1987, p. 59.

5) K. Ramalakshmi & B. Raghavan: Crit. Rev. Food Sci. Nutr., 39, 441 (1999).

6) 渕之上康元,渕之上弘子:“日本茶全書”,農文協,1999, p. 164.

7) J. H. Ye, Y. R. Liang, J. Jin, H. L. Liang, Y. Y. Du, J. L. Lu, Q. Ye & C. Lin: J. Agric. Food Chem., 55, 3498 (2007).

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10) 芦原 坦:化学と生物,39, 74 (2001).

11) A. Ogino, J. Tanaka, F. Taniguchi, M. P. Yamamoto & K. Yamada: Breed. Sci., 59, 277 (2009).

12) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto, J. Kawai, N. Imada, J. Hioki, H. Naganuma, T. Eguchi, M. Kurihara, A. Yoshida et al.: J. Food Eng., 200, 13 (2017).

13) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto & A. Yoshida: Biosci. Biotechnol. Biochem., 81, 1591 (2017).

14) 全国茶生産団体連合会:茶の生産と流通,茶の需給,茶類の国内消費量の推移,http://www.zennoh.or.jp/bu/nousan/tea/seisan01b.htm

15) 全日本コーヒー協会:統計資料,日本のコーヒー受給表,http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2018/03/data01b_2018/03.pdf

16) 全日本コーヒー協会:統計資料,デカフェコーヒーの輸入推移,http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2018/03/data01e_2017_180322.pdf

17) M. B. Silvarolla, P. Mazzafera & L. C. Fazuoli: Nature, 429, 826 (2004).

18) J. K. Moon, H. S. Yoo & T. Shibamoto: J. Agric. Food Chem., 57, 5365 (2009).

19) I. A. Ludwig, P. Mena, L. Calani, C. Cid, D. D. Rio, M. E. J. Lean & A. Crozier: Food Funct., 5, 1718 (2014).

20) K. Yamamoto, T. Shiono, Y. Matsui & M. Yoneda: Particul. Sci. Technol., in press (2018).

21) T. Okada, J. Oguchi, K. Yamamoto, T. Shiono, T. Fujita & T. Iiyama: Langmuir, 31, 180 (2015).

22) T. Shiono, K. Yamamoto, Y. Yotsumoto & A. Yoshida: Food Sci. Technol. Res., 24, 215 (2018).