Kagaku to Seibutsu 56(6): 402-407 (2018)
解説
有用タンパク質と微生物の産業利用探索からものづくりまで
Microbial Productions and Industrial Applications of Proteins: From Screening to Application
Published: 2018-05-20
微生物とそれらが生産するタンパク質は,研究のみならず食品・医薬・化成品産業と切っても切り離せない関係であるが,持続可能な環境調和社会と健康維持社会の実現に向け,その社会的重要度・期待度はますます高まっている.ゲノム情報が自由に手に入るようになった昨今でも,機能未知のタンパク質が多く存在し,有用タンパク質の探索・微生物生産に関する研究は盛んに行われている(図1図1■有用タンパク質の探索・評価から産業利用までの流れ).特に,いかに利用しやすいものを見つけ出し,最適化するかは産業上最も重要な課題の一つである.本稿では,主に食品産業分野での微生物・タンパク質の利用や,それらにまつわる最近の技術について,筆者の研究を交えながら解説する.
© 2018 Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
© 2018 公益社団法人日本農芸化学会
特定の化学反応を触媒する酵素,分子を見分けて結合する抗体,受容体に結合し細胞のシグナル伝達にかかわるペプチドホルモンなど,あらゆるタンパク質はそれぞれの機能を有している.われわれ人類は,そのような有用タンパク質を探し,作り,利用することで,バイオ産業を発展させるとともに生活を豊かなものにしてきた.優れた耐熱性や触媒活性を有する微生物由来の酵素は食品・医薬・化成品産業に必須であり,たとえばBacillus属由来のα-アミラーゼは高熱でデンプンを分解し液状化する際に古くから使用されている.また,本来異物から身を守るために脊椎動物体内で作られている抗体は,特定分子の存在量を調べるための検査や診断のほか,分子標的薬(医薬品)としての利用が拡大し,2020年の市場規模は125億USドルになるとも言われている(1)1) D. M. Ecker, S. D. Jones & H. L. Levine: MAbs, 7, 9 (2015)..血糖値下降作用のある唯一のホルモンであるインスリンは,1921年に膵臓からの単離に成功してから製剤化への研究が進められ,1980年代には微生物(大腸菌や酵母)による組換え大量生産が可能となった.以降,遺伝子工学的手法による変異導入や化学修飾により,即効性,持続性および溶解性などの改良が重ねられ,糖尿病治療に利用されている(2)2) 栗田卓也:“インスリン製剤の変遷をたどる”,メディカルジャーナル,2013, p. 1..そのほか,DNA増幅に使用されるDNAポリメラーゼ,ホタル由来の発光タンパク質であるルシフェラーゼ,クラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein; GFP),西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ(Horse Radish Peroxidase; HRP)などは,ライフサイエンス研究に欠かせないタンパク質の一例である.
このように,われわれの身近で利用されている有用タンパク質の例を挙げるときりがないのだが,まだまだ人類に見つけられていない(あるいは創られていない)タンパク質の産業利用に対する期待は高く,より扱いやすく高機能なタンパク質を創り,利用するための研究開発が盛んである.
では,有用タンパク質はどのように探し手に入れるのだろうか.ここでは,酵素を例に考えてみたい.とある反応を高温で触媒する酵素が欲しい,という目的をもった場合,所望の機能を有する酵素を理論的にゼロからデザインすることは,究極の理想であるものの,現在の科学水準では不可能である.
したがって,まずは手軽に培養できる微生物を対象に,自然界からスクリーニングする(探す)ところから始めるのが一般的である(3)3) 山口庄太郎:化学と生物,54, 61 (2016)..つまり,土壌,河川水,または海水などをサンプリングし,適当な培地で培養して微生物を単離する.その菌体破砕物や培養上清などを粗酵素液として,目的反応を触媒しうるかを確認していく.ここでは,目的酵素の生産量と活性(質)の両方が伴ったときに初めて当たりとして釣り上げられ,次のステージ(育種,変異導入,培養条件検討など)へ進むこととなる.つまり,探索源の微生物が非常に優れた質の酵素を保有していても,スクリーニング工程で生産性や活性が低い場合は,簡単に見逃してしまう.したがって,産業界では,独自のスクリーニング技術が製品開発の肝とも言え,工夫を続けながら社内ノウハウとして保持することが競争力を発揮するために重要であると考えられる.そのためか,スクリーニング技術に関する詳細な情報は入手しにくい.
微生物の入手源としてカルチャーコレクションも利用可能であり,日本においては2002年にNational BioResource Projectが発足し,微生物を含めさまざまな生物資源の提供環境が整ってきている.DSMZ(ドイツ),ATC C(アメリカ)などから菌株を入手することも可能である.ただし,無料ではないことと利用制限がある場合があるため,産業利用においては注意が必要である.
一方で,上記のようないわゆる伝統的な培養・育種による有用タンパク質の開発とは別に,DNAシーケンス技術とバイオインフォマティクスの発展に伴い,培養できない微生物由来の遺伝子資源を直接的に取り出すメタゲノム技術を利用できるようになり(4)4) P. Lorenz & J. Eck: Nature, 3, 510 (2005).,実際にさまざまな有用酵素が見つかっている(5)5) L. M. Coughlan, P. D. Cotter, C. Hill & A. Alvarez-Ordóñez: Front. Microbiol., 6, 672 (2015)..ヒト腸内メタゲノム解析でtrans-4-hydroxy-L-prolineを代謝しうる新規酵素が報告されるなど(6)6) B. J. Levin, Y. Y. Huang, S. C. Peck, Y. Wei, A. Martínez-Del Campo, J. A. Marks, E. A. Franzosa, C. Huttenhower & E. P. Balskus: Science, 355, eaai8386 (2017).,本技術では,全く新しい触媒機能を有する酵素の発見も期待できることが魅力である.一方で,機能評価時に使用するタンパク質発現系や酵素反応の基質種類によっては,評価困難な場合も多いことが課題として指摘されている(7)7) T. Uchiyama & K. Miyazaki: Curr. Opin. Biotechnol., 20, 616 (2009)..
さらに,最近は,ゲノムデータベースと人工遺伝子合成技術が発達し,環境中から微生物や遺伝子を増幅しなくとも,好きな遺伝子を合成し,好きな宿主ベクター系で発現させ評価できるようになってきた.微生物菌株のゲノム解析や上述のようなメタゲノム解析で得られた配列は,National Center for Biotechnology Information(NCBI)のようなデータベースを通し自由に知ることができるため,気になる遺伝子があれば,数万円で,ベクターに組み込まれた状態で入手することができる.ここで重要なことは,データベース上の遺伝子は,既知のタンパク質配列情報を基に自動的にアノテーションされているだけのことが大多数であり,実験的に性質決定されているものはごく僅かである点である(8)8) K. Bastard, A. A. Smith, C. Vergne-Vaxelaire, A. Perret, A. Zaparucha, R. De Melo-Minardi, A. Mariage, M. Boutard, A. Debard, C. Lechaplais et al.: Nat. Chem. Biol., 10, 42 (2014)..事実,メタゲノム解析で報告される遺伝子数と実験的に性質決定されるタンパク質数には大きなギャップがあり,その比率は漸近的に0%に近づいているという(9)9) M. Ferrer, M. Martínez-Martínez, R. Bargiela, W. R. Streit, O. V. Golyshina & P. N. Golyshin: Microb. Biotechnol., 9, 22 (2016)..したがって,どのような機能を有し,どういった温度やpHで働くタンパク質なのかは,実際に調べてみないとわからない.
筆者らは,N-Acylglucosamine 2-epimerase(AGE)という酵素名で登録されていた複数の遺伝子が,実は異なる反応を触媒するCellobiose 2-epimerase(CE)であることを明らかにした(10)10) T. Ojima, W. Saburi, T. Yamamoto, H. Mori & H. Matsui: Biosci. Biotechnol. Biochem., 77, 189 (2013)..そのなかでも,海洋性微生物Rhodothermus marinus由来CEは,80°C以上の高温でも高い活性を示し,プレバイオティクス効果やミネラル吸収促進効果が報告されているエピラクトース(ラクトース中のガラクトースがマンノースに異性化した希少糖)の工業製造に適していた(11)11) T. Ojima, W. Saburi, H. Sato, T. Yamamoto, H. Mori & H. Matsui: Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 2162 (2011)..
データベースへの登録は登録者側の任意であり,われわれが活用できる情報はほんの一部である(=偏っている)可能性や,ミスアノテーションといった不正確な情報も多い(12)12) A. M. Schnoes, S. D. Brown, I. Dodevski & P. C. Babbitt: PLOS Comput. Biol., 5, e1000605 (2009).,という点に注意し,増え続ける情報量のどこに目を付けて利用するかが大きなポイントであると考えられる.
所望の酵素を有する微生物を自然界から単離した場合,まずはその微生物が何者なのかを同定する必要がある.それは,バイオセーフティの観点と,見つけた酵素が新規かどうかを判断するために重要である.
微生物同定法としては,16S rRNA(原核)や18S rRNA(真核)の遺伝子をPCRで増幅し,その塩基配列を解析する手法がよく用いられている.しかし,1)迅速性に欠ける,2)人手と技術が必要,3)菌種によっては属・種レベル以上の詳しい同定ができない場合がある,といった課題があった.
そんななか,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF MS)を用いた微生物同定法は,新たな迅速分析法として2000年代以降台頭してきた(13)13) A. E. Clark, E. J. Kaleta, A. Arora & D. M. Wolk: Clin. Microbiol. Rev., 26, 547 (2013)..本手法の最大の魅力は,ハイスループット性とランニングコストの低さであろう.基本的には,シングルコロニー程度の菌体試料とごく少量のマトリックス溶液(イオン化補助剤)と混合し測定するのみで,1検体あたり1分以内に同定結果が得られる(図2図2■MALDI-TOF MSによる微生物同定法).MALDI-TOF MSによる微生物同定法は,臨床微生物検査分野を中心に急速に拡大し,米国では2013年にFDAに認可された.
MALDI-TOF MSによる微生物同定の仕組みは,分析によって得られるタンパク質(主にリボソームタンパク質サブユニットやハウスキーピングタンパク質)の質量スペクトル(質量電荷比m/z 2,000~20,000程度)を,あらかじめデータベースに収載された各菌種のスペクトル情報と照合するフィンガープリント法というものであり,AXIMA微生物同定システム(島津製作所)やBruker BioTyperなどに装備されている.しかし,従来のフィンガープリント法では,亜種,血清型,あるいは一部の種について,識別ができない場合がある.
一方で,MALDI-TOF MSで得られたデータを用いより詳細な識別を可能とするプロテオタイピング法としてS10-GERMS(S10-spc-alpha operon Gene Encoded Ribosomal protein Mass Spectrum)法が開発された(14)14) Y. Hotta, J. Sato, H. Sato, A. Hosoda & H. Tamura: J. Agric. Food Chem., 59, 5222 (2011)..本法では,近縁微生物の出現質量ピーク(=バイオマーカー)の質量値をDNA配列と実測値から理論的に裏づけしデータベース化するため,一アミノ酸の変異がもたらす微小な質量差をも見分けることができる.筆者らは,知の拠点あいち「食の安全・安心技術開発プロジェクト」において,本法が腸管出血性大腸菌,リステリア菌およびサルモネラ菌などの血清型レベルでの識別に有用であることを明らかとした(15~17)15) T. Ojima-Kato, N. Yamamoto, Y. Iijima & H. Tamura: J. Microbiol. Methods, 119, 233 (2015).17) T. Ojima-Kato, N. Yamamoto, S. Nagai, K. Shima, Y. Akiyama, J. Ota & H. Tamura: Appl. Microbiol. Biotechnol., 101, 8557 (2017)..本法に準じたソフトウェアStrain Solution Ver. 2が(株)島津製作所より販売されており,MALDI-TOF MSによる迅速かつ高精度な微生物識別法は,臨床や食中毒菌に限らず,微生物スクリーニングや保存菌株の管理(コンタミネーションチェック)などでの活用が期待される.
これもまた,直接的なタンパク質の利用ではないが,微生物同定・識別のためにタンパク質の質量情報に着目し活用している一つの例といえる.
ここまでは主に酵素のスクリーニングについて述べてきたが,実際にどういった微生物由来酵素が産業で利用されており,開発されているのかを筆者の糖質関連酵素を例に紹介してみたい.
糖質というと,グルコースがαまたはβ結合でオリゴマー化あるいはポリマー化したマルトオリゴ糖,デキストリン,デンプン,セルロースなどが一般的であるが,糖質とそうでないもの(アグリコン)が結合した「配糖体」と呼ばれるものがある.配糖化により,アグリコン分子の水溶性や安定性を向上させることができ,工業的には化粧品素材のアルブチン(江崎グリコ)やグルコシル化ビタミンC(林原)などが有名である.これらはいずれもα配糖体であり,デンプン分解物を糖供与体,アグリコンを受容体とし,Cycrodextrin Glucanotransferase(CGTase)と呼ばれる酵素によるアノマー保持型の糖転移反応で作製されている.
グルコースとグリセロールがα結合した配糖体α-glucosylglycerol(glycerylglucosideやgluco-glycerolとも呼ばれる)は,自然界では高塩濃度ストレスや乾燥に適応するための浸透圧調節物質として,藻類やバクテリアでその存在が報告されているほか,日本酒のような発酵食品にも含まれている(18)18) F. Takenaka, H. Uchiyama & T. Imamura: Biosci. Biotechnol. Biochem., 64, 378 (2000)..保湿以外にもさまざまな生理機能が報告されており,日本の辰馬本家およびドイツBitop社が,それぞれαGGおよびGlycoinとして製造している.本物質の工業生産には,上記とは別の糖転移酵素であるα-グルコシダーゼ(AG)を利用することができる.AGは,マルトオリゴ糖の加水分解および糖転移活性を触媒する酵素であり,食品産業においては主に糸状菌Aspergillus oryzae由来酵素が使用されている.また,Sucrose phosphorylaseの糖転移活性を利用し,スクロース(砂糖)とグリセロールを原料として作ることもできる(19)19) C. Luley-Goedl & B. Nidetzky: Carbohydr. Res., 345, 1492 (2010)..このように,一言で糖転移酵素といっても,個々の酵素の基質特異性や糖転移活性は異なるため,アグリコンにうまく糖転移できるものを使い分けている.
そこで筆者らは,糖転移活性が高く,かつ副産物が少ないAGによる配糖体合成法の確立を目指し,海洋微生物よりAGを探索した.通常,酵素の初期スクリーニングでは寒天培地のハロアッセイや薄層クロマトグラフィなどで多検体処理し,大まかにふるい分けするという手法が一般的であるが,上述したように,酵素の質が目的に即していても生産性や活性が低い場合は見逃してしまう可能性がある.そこで,筆者らのスクリーニング系では一次スクリーニングから高速液体クロマトグラフィを用い,ごく少ない反応産物でも定量的に評価できる系を組み,見逃しを低減させることとした.その結果,サンゴより単離した好塩性細菌でHalomonas aquamarina, H. meridiana,およびH. axialensisに近縁のHalomonas sp. H11株より,新規AG(HaG)を見いだした(20)20) T. Ojima, W. Saburi, T. Yamamoto & T. Kudo: Appl. Environ. Microbiol., 78, 1836 (2012)..HaGはマルトースを糖供与体,グリセロール,エタノールなどのアルコール性OH基を有する物質を糖受容体としたときに配糖体を高効率で合成可能であり,三糖以上の副産物をほとんど生成しないという狙いどおりの性質を有していた.一般的なAGやCGTaseなどの糖転移酵素では,糖供与体である糖側にも糖転移が起こるため,目的配糖体の収量が低くその後の分離精製が困難な場合があるが,HaGでは副産物が生成されないため,目的配糖体の高純度化が容易であった.また,HaGは,K+, Rb+. NH4+, Cs+のようなイオン半径約1.4 Åの一価カチオンに活性化される興味深い特性を有していた.
また,HaGは他起源糖転移酵素では配糖化が困難であったショウガ成分6-ジンゲロールに対する糖転移活性も高く,約60%の変換効率でジンゲロール配糖体を合成できることがわかった(21)21) T. Ojima, K. Aizawa, W. Saburi & T. Yamamoto: Carbohydr. Res., 354, 59 (2012).(図3図3■Halomonas sp. H11由来α-glucosidaseによる配糖体の合成).本配糖体は水に可溶で熱に安定であることから,食品・化成品素材として有用と考えられた.
スクリーニングで有用タンパク質を探し当てることに成功したら,いかに低コストで大量製造できるかが実用化のための一つのカギとなる.現在,新規タンパク質の発見から産業利用プロセスを確立する期間は約7年といわれており,発現系の最適化とスケールアップが最大の律速となっている(9)9) M. Ferrer, M. Martínez-Martínez, R. Bargiela, W. R. Streit, O. V. Golyshina & P. N. Golyshin: Microb. Biotechnol., 9, 22 (2016)..非組換え系の場合,見つけた微生物がはじめから目的タンパク質を大量生産していることは,ごくまれなことであるため,一般的には,薬剤や紫外線などのストレスをかけることで微生物内での突然変異を促進し,産業利用に適した変異株の選択を繰り返す育種という手法がとられる.そのほか,培地(炭素,窒素源,リン酸,ミネラル,ビタミンなど),培養条件(溶存酸素,温度,培養時間など),スケールアップへの適合性,などのさまざまな因子を最適化していく.
一方で,世界的には組換え生産されたタンパク質の産業利用が広がっている.日本の食品産業においてはGMO酵素使用に対して拒否感が強かったものの,その性能およびコスト面でのメリットが大きいことから,利用拡大の流れであり,現在31品目が厚生労働省の安全性審査を通過し使用されている(22)22) 厚生労働省ホームページ:安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品および添加物一覧,http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/shinsazumigm.pdf, 2018..
このように,組換えタンパク質生産は,生産性向上や自由な変異導入による性能改変が容易であるため,今や研究・産業に欠かせない技術であることは言うまでもない.しかし目的遺伝子によっては,全く生産されない難発現である場合があり,タンパク質の機能評価および利用において大きな課題となっている.難発現の原因として,コドンバイアスやmRNAの二次構造の影響など,さまざまな説があるがいまだ明確にはわかっていない(23)23) D. B. Goodman, G. M. Church & S. Kosuri: Science, 342, 475 (2013)..そのため,目的タンパク質の発現量が少ない場合は,コドン最適化,ほかのタンパク質と融合発現,発現系や培地の変更,シャペロン因子との共発現などの時間と手間のかかる条件検討を要する(24)24) 東端啓貴;生物工学,91, 96 (2013)..
そんななか,筆者らは,目的タンパク質のN末端にSer-Lys-Ile-Lys(SKIK)をコードするDNA配列を挿入するのみで,難発現タンパク質の発現量を増大できることを見いだした(25)25) T. Ojima-Kato, S. Nagai & H. Nakano: J. Biosci. Bioeng., 123, 540 (2017).(図4図4■N末端SKIKペプチドタグによる難発現タンパク質の発現量増大).このN末端SKIKペプチドタグは,大腸菌による組換え発現において,2番目のコドン配列が発現量に影響を及ぼすとの報告から着想を得て設計したものであるが(26)26) L. Bivona, Z. Zou, N. Stutzman & P. D. Sun: Protein Expr. Purif., 74, 248 (2010).,大腸菌のみならず酵母においても効果があることを明らかとした.SKIKペプチドタグは非常に短いため,構築済のタンパク質発現用プラスミドに12塩基を挿入するのみで非常に簡単に実施可能であり,タンパク質本体に与える影響が低いと考えられる.このことから,一般的に微生物で難発現である場合の多い動物や植物由来のタンパク質生産において,発現量を増大させるための一つのツールとして活用されることを期待している.一方で,大腸菌生細胞発現系においては不溶性の割合が増加する傾向にあることが課題である.これは,SKIKタグ付加でmRNAコピー数あたりの翻訳効率(速度)が向上するため(25)25) T. Ojima-Kato, S. Nagai & H. Nakano: J. Biosci. Bioeng., 123, 540 (2017).,フォールディングが律速段階となっていることが一つの原因と考えられる.今後,これらのメカニズムを解明することにより,難発現タンパク質を可溶性として自由自在に高発現できる技術開発に取り組みたいと考えている.
タンパク質は,あらゆる生物の有する転写・翻訳という普遍的な機構を利用することで持続可能に生産できるため,産業利用に対する期待はますます高まっている.探索・評価・生産にまつわるさまざまな技術的発展とともに,タンパク質を自然界から探し最適化する現在の方法を懐かしいと思える未来は,いつ頃訪れるだろうか.
Reference
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